
てんかんとは
てんかんは脳神経の過剰興奮で発作を繰り返す疾患。65歳以上で発症が増える「高齢者てんかん」、発作時の対応、抗てんかん薬の服薬管理を看護師視点で解説。
この記事のポイント
てんかんとは、脳神経細胞の過剰な興奮によって発作を繰り返す慢性疾患です。子どもの病気と思われがちですが、実は高齢者の発症が増えており、65歳以上の発症率は若年成人の数倍に達します。脳卒中後の症候性てんかんが介護現場で頻繁に遭遇するタイプ。発作時の安全確保と抗てんかん薬の服薬継続が中心テーマになります。
目次
てんかんの定義と高齢者発症の特徴
てんかん(epilepsy)は、国際抗てんかん連盟(ILAE)の定義によれば「脳の慢性疾患の一つで、脳神経細胞の過剰な電気活動による発作を慢性的に繰り返す状態」を指します。日本てんかん学会によると、日本のてんかん有病率は約1%(100人に1人)で、約100万人の患者がいると推計されています。
てんかんは小児期発症のイメージが強いですが、現在では65歳以上の発症が最多であることが分かっています。日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」によれば、高齢発症てんかんの発症率は10万人対100〜180人と若年成人の数倍。原因の多くは脳血管障害(脳卒中後)で、次いで認知症(特にアルツハイマー型)、頭部外傷、脳腫瘍、代謝異常などです。
介護現場で関わる高齢者は脳卒中既往・認知症の方が多く、介護施設・在宅ともに「症候性てんかん」を発症する利用者は珍しくありません。「持病でてんかんがある」だけでなく、「脳卒中後に新たにてんかんを発症する」というパターンを理解しておくことが、介護職・看護師には重要です。
発作の種類と症状
てんかん発作はILAE 2017分類で、発症部位と意識障害の有無により分けられます。介護現場で遭遇しやすい型を中心に紹介します。
1. 焦点起始発作(部分発作)
- 意識保持発作:意識ははっきりしているが、片手のけいれん・違和感・既視感など限定的な症状
- 意識減損発作(複雑部分発作):「ボーッとする」「呼びかけに反応しない」「口をもごもご動かす」「無目的な手の動き」など。高齢者で最多のタイプ。認知症の症状と紛らわしいので注意
2. 全般起始発作
- 強直間代発作(大発作):意識消失→全身硬直(強直期)→がくがく動く(間代期)→脱力・睡眠の典型パターン。多くは1〜2分以内で自然停止
- 欠神発作:数秒〜10秒程度の意識消失。会話が突然止まる、視線が止まるなど
- ミオクロニー発作:手足や体の一部が瞬間的にピクッと動く
3. てんかん重積状態(救急要請)
発作が5分以上続く、または短い発作を繰り返して意識が戻らない状態を「てんかん重積」と呼び、緊急治療が必要です。脳に永続的な障害を残すリスクがあるため、即119番です。
発作時の対応手順(介護職・看護師の役割)
強直間代発作を目撃したときの対応は、安全確保と観察が基本です。「口に物を入れる」「体を抑えつける」は禁忌です。
1. 安全確保(最優先)
- 周囲の危険物(机の角・コップ・暖房器具など)を遠ざける
- 頭の下にクッション・座布団・上着などを敷いて頭部外傷を防ぐ
- 眼鏡・入れ歯ははずせる範囲ではずす
- 口に物を入れない:割り箸・タオル等は窒息・歯損傷の原因。舌を噛むのは発作の最初の数秒で、そのあと噛むことは少ない
- 体を抑えつけない:骨折・脱臼の原因。けいれんが収まるのを待つ
2. 観察と記録
- 発作の開始時刻と持続時間を時計で計測(5分の壁が重要)
- けいれんの始まり方(左右どちらの手・顔から始まったか)
- 意識消失の有無、眼球偏位、口唇チアノーゼ、失禁の有無
- 可能ならスマホで動画撮影(家族同意のうえで・診断に有用)
3. 発作後の対応
- けいれんが収まったら側臥位(回復体位)に。嘔吐物・唾液による誤嚥を防ぐ
- 気道確保とSpO2測定。呼吸状態を観察
- 発作後数十分は意識がもうろうとする(postictal state)。安静・見守り
4. 救急要請の判断
- 発作が5分以上続く(重積状態の可能性)
- 短時間に発作を繰り返し意識が戻らない
- 初めての発作・原因不明の発作
- 発作後の意識障害が長引く・呼吸状態が悪い
- 頭部外傷・舌の出血・誤嚥が疑われる
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抗てんかん薬の服薬管理と注意点
てんかんは「発作を起こさせない」治療が中心で、抗てんかん薬の毎日同じ時刻の服用継続が再発予防の絶対条件です。介護現場での服薬管理では次の点に留意します。
1. 主な抗てんかん薬と特徴
- レベチラセタム(イーケプラ):高齢者の第一選択。腎排泄なので腎機能に応じた減量が必要。眠気・易刺激性・うつ症状に注意
- ラモトリギン(ラミクタール):高齢者にも比較的使いやすい。皮疹(重症型は致死的)に注意。他薬との相互作用あり
- カルバマゼピン(テグレトール):古典的薬剤。眠気・ふらつき・低Na血症・薬疹に注意。高齢者では使用が減少傾向
- バルプロ酸(デパケン):振戦・体重増加・肝機能障害に注意。高齢者では認知機能低下のリスク
2. 飲み忘れ・自己中断は厳禁
抗てんかん薬の自己中断は重積状態を誘発するリスクがあります。一包化・お薬カレンダー・服薬チェック表を活用し、家族・介護職・看護師で多重チェックを行います。発作が長期間ない場合でも、医師指示なく減薬・中止しないことを本人・家族に説明します。
3. 副作用の観察
眠気・ふらつき・転倒は介護現場で重要な観察点。バイタルサインと並行して、歩行状態・覚醒度・食欲・気分の変化を日々の記録に残し、外来受診時に医師へ伝えます。
4. 自動車運転と就労制限
道路交通法では、発作のコントロールが2年以上良好でないと運転免許の更新ができません。高齢者では運転中の発作が重大事故につながるため、医師の指導に従うことを家族にも周知します。
よくある質問
Q1. 高齢者のてんかんと認知症の見分け方は?
意識減損発作は「ボーッとする」「同じ動作を繰り返す」など、認知症の症状と紛らわしいです。違いの目安は (1)発作が突然始まり数十秒〜数分で消失、(2)発作後にもうろう状態を経て意識が戻る、(3)同じパターンで繰り返す、の3点。疑わしければ脳波検査が診断の決め手です。
Q2. てんかん発作で口に物を入れるのはなぜダメ?
窒息・歯の破損・噛み砕いた物の誤嚥のリスクが高く、現在のガイドラインでは禁忌です。舌を噛むのは発作の最初の数秒で起こり、その後は噛みません。何もせず安全を確保し時間を計測することが正しい対応です。
Q3. 脳卒中後のてんかんはいつ頃発症しますか?
脳卒中急性期(発症1週間以内)に起こる「早期発作」と、1週間以降に起こる「後期発作」に分けられます。後期発作のうち繰り返すものを「脳卒中後てんかん」と診断し、抗てんかん薬による予防治療が必要になります。脳出血・皮質に及ぶ脳梗塞で発症リスクが高くなります。
Q4. デイサービスや施設でてんかん患者を受け入れる際の注意点は?
(1)発作型・服薬内容・発作頻度を主治医・家族から正確に把握、(2)発作時の対応マニュアルを職員間で共有、(3)入浴・水回りでの発作リスクを評価し見守り体制を整える、(4)家族・主治医との緊急連絡体制を構築、が基本です。発作のため受け入れを拒むのではなく、リスク評価のうえで安全に支援する視点が重要です。
Q5. てんかんは治る病気ですか?
抗てんかん薬で約7割の患者が発作を抑制でき、子ども・若年成人では数年の無発作後に減薬・中止できる場合もあります。高齢発症てんかんも薬剤への反応性は良好ですが、原因疾患(脳卒中後遺症など)が残るため、長期的な服薬継続が必要なケースが多いです。
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まとめ
てんかんは脳神経の過剰興奮で発作を繰り返す慢性疾患で、近年は高齢者の発症が最多であることが分かっています。脳卒中後の症候性てんかんが介護現場で頻繁に遭遇するタイプで、認知症の症状との見分けが難しい場合もあります。発作時は「口に物を入れない・抑えつけない・時間を計る」が3原則。抗てんかん薬の服薬継続が再発予防の要で、看護師・介護職が連携して見守る体制が利用者の安全な生活を支えます。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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