心不全とは

心不全とは

心不全は心臓のポンプ機能が低下して全身に血液を送れなくなる症候群です。ステージ分類A〜D、急性増悪のサイン、塩分・体重・服薬管理など介護現場で押さえるべきポイントを解説します。

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この記事のポイント

心不全(しんふぜん)とは、心臓のポンプ機能が低下して全身に十分な血液を送り出せなくなり、息切れ・むくみ・倦怠感などが現れる状態の総称(症候群)です。日本循環器学会・日本心不全学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」では「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と一般向けに定義されています。日本の心不全患者は約120万人と推計され、高齢化に伴い「心不全パンデミック」と呼ばれるほど増加。死因の上位を占め、再入院を繰り返しながら段階的に進行する慢性疾患として、在宅・施設での体重・血圧・服薬管理が予後を左右します。

目次

心不全の定義と分類

心不全は単一の病名ではなく、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、高血圧性心疾患、弁膜症、心筋症、不整脈(特に心房細動)など、さまざまな心疾患の終末像として現れる「症候群」です。心臓の働きが落ちることで、全身への血液供給が不足し、肺・全身に水(うっ血)がたまります。

左心不全と右心不全

  • 左心不全:肺うっ血が主体。労作時の息切れ・呼吸困難・夜間発作性呼吸困難・起座呼吸(横になると苦しい)が特徴。
  • 右心不全:体循環うっ血が主体。下腿浮腫・体重増加・腹部膨満・頸静脈怒張が特徴。
  • 慢性化すると両方が混在する「両心不全」になることが多い。

心機能による分類(EFによる)

  • HFrEF(収縮不全、EF40%未満):心臓が縮む力が弱い。心筋梗塞後・拡張型心筋症が代表。標準治療が確立。
  • HFpEF(拡張不全、EF50%以上):縮む力は保たれているが、ふくらむ力が落ちて十分な血液を取り込めない。高齢者・女性・高血圧・糖尿病・心房細動が背景。日本の高齢者心不全の主体。
  • HFmrEF(中間型、EF40〜49%):両者の中間。

EF(左室駆出率)は心エコーで測定する「1回の収縮で心臓から送り出される血液の割合」で、正常は55〜70%です。

心不全のステージ分類(A〜D)

米国心臓病学会・米国心臓協会(ACC/AHA)が定め、日本のガイドラインも採用する「ステージ分類」は、心不全を「症状が出る前」から4段階で捉え、各段階に応じた介入を行うフレームワークです。

  • ステージA(リスクあり、心疾患なし):高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・肥満など心不全の危険因子はあるが、心臓自体に異常はない段階。生活習慣改善・基礎疾患の治療が中心。
  • ステージB(器質的心疾患あり、症状なし):心筋梗塞既往・心肥大・弁膜症などがあるが、心不全症状は出ていない。ACE阻害薬・β遮断薬で進展予防。
  • ステージC(症状あり、心不全):息切れ・むくみ・倦怠感などの症状が出現または既往あり。利尿薬・心保護薬・心臓リハビリ。
  • ステージD(治療抵抗性、終末期心不全):標準治療でも症状が改善せず、頻回入院・補助人工心臓・心移植・緩和ケアが対象。

ステージは一方向(A→B→C→D)に進み、後戻りはしない概念です。ステージCに入ったら、増悪を起こすたびに心機能が階段状に低下するため「いかに増悪を起こさず日々を過ごすか」が在宅・施設ケアの目標になります。

数字で見る心不全

  • 患者数:約120万人(日本循環器学会推計、2020年)。2030年には130万人を超える見込み。
  • 新規発症:年間約35万人。高齢化に伴い増加し続けている。
  • 死因第2位の心疾患の中核(厚労省「2023年人口動態統計」)。心疾患による年間死亡数は約23万人。
  • 5年生存率:約50%(日本心不全学会データ)。一部のがんよりも予後が悪い。
  • 1年以内再入院率:約30%。心不全は入退院を繰り返す疾患の代表格。
  • 急性期入院費:1人あたり約100〜150万円(DPC統計)。再入院抑制が医療費削減の最大課題。

がんと並ぶ「予後の悪い慢性疾患」であり、診断時に医療者・本人・家族でアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)を始めることが推奨されています。

NYHA心機能分類(症状の重症度)

ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心機能分類は、症状の重症度を4段階で表す世界共通の指標です。介護記録・カンファレンスで「NYHAクラスIII」のような表現を耳にしたら、以下の意味になります。

クラス身体活動具体例主なケア
I制限なし通常活動で症状なし生活習慣・基礎疾患管理
II軽度制限階段上りで息切れ。安静時は無症状運動耐容能維持・服薬継続
III高度制限平地歩行や着替えで息切れ。安静時は無症状歩行補助・休憩確保・体重管理徹底
IV安静時にも症状横になっただけで息苦しい酸素療法・在宅医療・緩和ケア検討

ステージ分類(A〜D)は「不可逆な進行段階」を示すのに対し、NYHA分類は「今この瞬間の症状の重さ」を示し、治療によって良くなったり悪くなったりします。両者を併記して評価するのが現代の標準です。

急性増悪のサインと在宅ケアのポイント

心不全は「徐々に悪化」と「急激な増悪(急性増悪)」を繰り返しながら進行します。急性増悪は救急搬送・入院に直結し、退院後は心機能が一段下がります。介護現場での日々の観察と早期発見が、再入院抑制の最大の介入ポイントです。

急性増悪の早期サイン

  • 体重増加:3日で2kg以上 or 1週間で3kg以上は要注意。水が体にたまっている明確なサイン。
  • 下腿浮腫の悪化:靴下のゴム跡が深くなる、すねを押すと指の跡が長く残る。
  • 夜間の息苦しさ:横になると苦しい(起座呼吸)、夜中に息苦しくて目が覚める(夜間発作性呼吸困難)。
  • 労作時の息切れ悪化:これまで歩けた距離で息切れ、トイレや着替えで疲れる。
  • 倦怠感・食欲低下:「なんとなくしんどい」が増悪の最初のサインのことも。
  • 咳・ピンクの痰:肺うっ血の進行を示す。
  • SpO2低下:普段95%以上の人が93%以下になったら要受診。

介護現場・在宅での日々の管理

  • 毎日の体重測定(起床直後・排尿後・同じ条件で):心不全管理の最重要指標。記録表に残し、家族・主治医と共有。
  • 塩分制限:1日6g未満(高血圧学会基準)。減塩食・調味料の置き換え・汁物の量調整。
  • 水分管理:医師の指示量を守る(多くは1〜1.5L/日)。「飲ませすぎ」「我慢させすぎ」の両方が増悪要因。
  • 服薬の確実な継続:利尿薬(フロセミド等)・ACE阻害薬/ARB/ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬。服薬管理の徹底が再入院を防ぐ。
  • 感染予防:肺炎・インフルエンザ・新型コロナは増悪のトリガー。ワクチン接種と感染対策。
  • 毎日のバイタルサイン記録:血圧・脈拍・SpO2・呼吸数。心房細動の有無で脈の不整も確認。
  • 適度な活動:絶対安静は廃用を進める。心臓リハビリで定められた範囲で歩行・体操を継続。

心不全についてよくある質問

Q1. 心不全は治る病気ですか?

原因疾患(心筋梗塞・弁膜症・不整脈)が治療可能な場合は心機能が回復することもありますが、多くは「進行を遅らせ、増悪を起こさず日常生活の質を保つ」ことが治療目標です。慢性疾患として長く付き合う病気と理解されています。

Q2. 体重は1日何回測ればよいですか?

1日1回、起床直後・排尿後・同じ服装で測定するのが標準です。曜日ごとの記録表をつけ、3日で2kg/1週間で3kg増えたら主治医・看護師に連絡します。

Q3. 利尿薬を飲むと脱水になりませんか?

過度の利尿は脱水・電解質異常(特に低カリウム)の原因になります。一方、自己判断で飲み忘れると一気に増悪します。指示通りの服用と、口渇・血圧低下・尿量変化の観察を介護職で共有することが大切です。

Q4. 心不全の人にお風呂はOKですか?

NYHA II〜IIIまでは可能ですが、湯温は40℃以下、5〜10分程度、脱衣所と浴室の温度差を避ける(ヒートショック予防)のが原則。長湯・熱い湯は心臓に負担となり増悪要因です。NYHA IVは清拭・部分浴に切り替えます。

Q5. 介護施設で心不全の利用者を受け入れる際の注意点は?

退院サマリーから①EFと心不全の型(HFrEF / HFpEF)②NYHAクラス③乾燥体重(ドライウェイト)④服薬リスト⑤食塩・水分指示⑥緊急時連絡先を確実に把握し、毎日の体重・浮腫・SpO2を記録するルーチンを組みます。看護師がいる施設では心不全手帳の運用も推奨されます。

まとめ

心不全はさまざまな心疾患の終末像として現れる症候群で、5年生存率は約50%と一部のがんよりも予後が悪い慢性疾患です。ステージA〜Dは不可逆な進行段階、NYHA分類は今この瞬間の症状を表します。介護現場では「毎日の体重」「浮腫」「夜間呼吸困難」「SpO2」の4点観察と、塩分制限・確実な服薬・適切な水分管理が再入院抑制の鍵。心不全手帳を活用して家族・主治医・看護師・介護職でデータを共有することが、利用者の生活を守ります。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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