
低栄養とは
低栄養(PEM)とは、エネルギーとタンパク質が慢性的に不足した状態。BMI18.5未満・血清アルブミン3.5g/dL未満・6ヶ月で10%以上の体重減少が判定の目安です。MNA-SF/MUSTスクリーニングと栄養改善加算の使い方を介護現場目線で解説します。
この記事のポイント
低栄養とは、活動に必要なエネルギーと、筋肉や臓器を作るタンパク質が慢性的に不足した状態を指します。医学的にはPEM(Protein Energy Malnutrition:タンパク質・エネルギー低栄養状態)と呼ばれ、BMI18.5未満・血清アルブミン3.5g/dL未満・6ヶ月で10%以上の体重減少のいずれかに該当すると低栄養が強く疑われます。サルコペニアやフレイルの進行を招き、要介護リスクを高めるため早期発見が重要です。
目次
低栄養(PEM)の定義と高齢者で増える背景
低栄養とは、身体が必要とするエネルギー(炭水化物・脂質)とタンパク質が、摂取量・吸収量の慢性的な不足によって満たされない状態です。医学的にはPEM(Protein Energy Malnutrition)=タンパク質・エネルギー低栄養状態と表現され、エネルギー欠乏が中心の「マラスムス型」と、タンパク質欠乏が中心の「クワシオルコル型」、両者が混在する「マラスムス・クワシオルコル混合型」に分類されます。高齢者の臨床現場では多くが混合型で、見た目に痩せていなくても血清アルブミンが下がっているケースも珍しくありません。
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」によると、65歳以上で BMI20以下の「低栄養傾向」にある人は男性12.4%・女性20.7%に達し、女性は5人に1人が該当します。在宅療養高齢者を対象としたMNA-SFによる調査では、約20%が低栄養、50%以上が低栄養リスクと報告されており、施設入所者ではさらに割合が高くなる傾向があります。
高齢者で低栄養が増えるのは、加齢に伴う食欲低下・嚥下機能低下・歯科問題・服薬の影響に加え、独居・経済困窮・抑うつといった社会心理的要因が重なるためです。2020年版「日本人の食事摂取基準」では、フレイル予防の観点から65歳以上のタンパク質摂取目標量を体重1kgあたり1.0g以上に引き上げ、低栄養を「予防すべき状態」と位置付けています。
低栄養の主要な判定基準
低栄養の判定は単一の指標ではなく、複数の客観指標を組み合わせて行います。介護施設の栄養ケア計画や訪問看護のアセスメントでも以下の基準が標準的に用いられます。
| 指標 | 低栄養の目安 | 位置づけ |
|---|---|---|
| BMI(体格指数) | 18.5未満で低栄養。65歳以上は20以下で「低栄養傾向」 | 厚労省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」での参照値 |
| 血清アルブミン | 3.5g/dL未満で低栄養疑い、3.0g/dL未満で中等度〜重度 | 半減期約3週間。直近の栄養状態を反映 |
| 体重減少率(1ヶ月) | 3%以上で要注意、5%以上で有意 | 体重減少の急峻さを評価 |
| 体重減少率(3ヶ月) | 5%以上で中リスク、7.5%以上で高リスク | 慢性疾患の進行サイン |
| 体重減少率(6ヶ月) | 7.5%以上で中リスク、10%以上で高リスク | 診療報酬・介護報酬の評価でも採用 |
| 下腿周囲長(CC) | 男性30cm未満、女性29cm未満で筋肉量低下 | サルコペニア合併の参考指標 |
体重減少率の計算式は (通常体重 - 現在体重)÷ 通常体重 × 100 です。例えば通常55kgの利用者が半年で50kgになった場合、減少率は約9.1%となり中リスクに該当します。
PEMは厳密には「血清アルブミン3.5g/dL未満かつ/または BMI18.5未満」を満たす状態を指し、これに体重減少を組み合わせることで重症度を評価します。日本老年医学会のフレイル診断基準(J-CHS)でも「6ヶ月で2〜3kg以上の体重減少」が項目に含まれており、低栄養とフレイルが連続的な状態であることがわかります。
栄養スクリーニングの流れ:MNA-SFとMUSTの使い分け
低栄養は「気づいたときには進行している」ことが多いため、ルーチンのスクリーニングで早期発見することが重要です。介護現場では主に MNA-SF と MUST の2つが使われます。
1. MNA-SF(簡易栄養状態評価表 短縮版)
65歳以上の高齢者向けに開発された6項目の質問票で、所要時間は5分以内。在宅・介護施設・病院の幅広い場で標準ツールとして採用されています。評価項目は次のとおりです。
- 過去3ヶ月の食事量減少
- 過去3ヶ月の体重減少
- 歩行・自立度
- 過去3ヶ月の精神的ストレスや急性疾患
- 神経・精神的問題(認知症・抑うつ)
- BMI または下腿周囲長(CC)
合計14点満点で、0〜7点:低栄養/8〜11点:低栄養のおそれ/12〜14点:栄養状態良好と判定します。BMIが測定できない寝たきりの利用者でも、下腿周囲長で代用できるのが現場での強みです。
2. MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)
英国静脈経腸栄養学会(BAPEN)が開発した汎用ツールで、全年齢に適用可能。3項目(BMI/体重減少率/急性疾患による5日以上の絶食)を点数化して合計0〜2点以上で評価します。合計2点以上で高リスクとされ、栄養介入を直ちに開始する必要があります。在宅医療や訪問看護で短時間で判定したい場面で多用されます。
3. スクリーニング後の流れ
- 低栄養または低栄養リスクと判定 → 多職種で詳細アセスメント(食事摂取量・嚥下機能・口腔状態・服薬・検査値)
- 原因の特定 → 摂取不足型/消化吸収障害型/需要増大型(感染・術後・褥瘡)に分類
- 栄養ケア計画の作成 → 必要エネルギー量・タンパク質量・水分量・経口栄養補助食品(ONS)の活用を計画
- 定期的なモニタリング → 体重・食事摂取率・血液検査を1〜3ヶ月ごとに評価し計画を見直す
通所介護・通所リハでは、低栄養リスク者に対して栄養改善加算(200単位/回・月2回まで)を算定し、管理栄養士が3ヶ月以内の集中的な栄養改善ケアを提供できます。施設サービスでは 栄養マネジメント強化加算(11単位/日)が2021年改定で創設され、低栄養リスク者への週3回以上のモニタリングと多職種連携が要件化されました。
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現場で使える低栄養対策のポイント
低栄養は単に「食べる量を増やす」だけでは改善しません。原因が嚥下なのか食欲なのか口腔状態なのかを切り分けたうえで、多職種で介入することが鉄則です。
食事面の工夫
- 1食ではなく分食:1日3食では食べきれない場合、5〜6食に分けて少量ずつ提供する
- タンパク質を毎食20g目安:体重1kgあたり1.0〜1.2g/日を目標に、卵・魚・乳製品・大豆製品を組み合わせる
- 食形態の見直し:嚥下機能に合わせて介護食のやわらか食・きざみ食・ミキサー食を使い分ける
- 経口栄養補助食品(ONS):1パック150〜200kcal+タンパク質10g程度のドリンクを補助的に追加
環境・心理面のアプローチ
- 食事環境の改善:他者と一緒に食べる「共食」が摂取量を10〜20%向上させるとの報告あり
- 抑うつ・認知症への対応:食事拒否の背景に精神症状がある場合は精神科・心療内科と連携
- 口腔ケアの徹底:義歯不適合・口腔乾燥・カンジダ症は摂取量低下の隠れた原因
- 服薬チェック:抗うつ薬・抗精神病薬・利尿薬・PPIなどが食欲や栄養吸収を低下させていないかを確認
看護師・介護職の役割分担
看護師は採血データ(アルブミン・総タンパク・ヘモグロビン・リンパ球数)と褥瘡リスクをアセスメント、介護職は食事摂取率と体重を毎日記録、管理栄養士が献立調整、リハ職が嚥下機能訓練と座位姿勢の保持を担当──この4職種連携が低栄養改善の標準形です。介護現場で働く看護師にとって、食事摂取記録から低栄養のサインを早期に拾い上げる視点は、医療連携の起点となる重要なスキルです。
低栄養に関するよくある質問
Q1. BMIが正常範囲でも低栄養はあり得ますか?
あり得ます。高齢者では筋肉量が減って脂肪量が増える「サルコペニア肥満」が知られており、BMIが22〜25でもアルブミン値が3.5g/dL未満で低栄養と判定されるケースがあります。BMI単独ではなく血液検査・体重減少率・MNA-SFを組み合わせて評価することが重要です。
Q2. 低栄養とフレイル・サルコペニアはどう違いますか?
低栄養は栄養素の不足という「原因」、サルコペニアは筋肉量・筋力の低下という「結果」、フレイルは栄養・身体機能・認知・社会面を含む包括的な虚弱状態です。低栄養が進行するとサルコペニアを招き、サルコペニアがフレイルの中核症状となる連鎖関係にあります。
Q3. 通所介護で低栄養リスク者にどんな加算が算定できますか?
通所介護・通所リハでは栄養改善加算(200単位/回・月2回まで)を、施設サービスでは栄養マネジメント強化加算(11単位/日)を算定できます。いずれも管理栄養士の関与とMNA-SF等によるスクリーニング、栄養ケア計画の作成・モニタリングが要件です。
Q4. 経口摂取が難しい場合はどう対応しますか?
嚥下機能評価(VE/VF検査)を行ったうえで、食形態の調整・とろみ調整食品の活用・経口栄養補助食品の追加で対応します。それでも必要量が満たせない場合は、医師の判断で経腸栄養(経鼻胃管・胃瘻)や末梢静脈栄養を検討します。本人・家族の意向を尊重したACP(アドバンス・ケア・プランニング)も並行して進めることが推奨されます。
Q5. 低栄養は早期発見すれば改善しますか?
軽度〜中等度の低栄養であれば、3〜6ヶ月の集中的な栄養介入で体重・アルブミン値ともに改善することが多くの研究で示されています。ただし重度の低栄養や原疾患がコントロールされていない場合は改善が困難なため、施設入所時・退院時など早期のスクリーニングが鍵となります。
参考資料・出典
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(高齢者のフレイル予防のためのタンパク質摂取目標量を明記)
- 厚生労働省「栄養改善マニュアル(改訂版)」(低栄養予備群・低栄養状態の判定基準と栄養ケアの標準フロー)
- 厚生労働省「国民健康・栄養調査」(65歳以上の低栄養傾向者の実態データ)
- 日本老年医学会「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント」(J-CHS基準と低栄養との関連)
- 日本栄養改善学会「日本栄養改善学会公式サイト」(栄養アセスメント・スクリーニングの研究と提言)
- Nestle Nutrition Institute「簡易栄養状態評価表 MNA-SF(日本語版)」(公式評価ツールPDF)
- BAPEN(British Association for Parenteral and Enteral Nutrition)「MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)」(汎用栄養スクリーニングツール)
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まとめ
低栄養(PEM)は、エネルギーとタンパク質の慢性的な不足によって生じる状態で、BMI18.5未満・血清アルブミン3.5g/dL未満・体重減少率(半年で10%以上)が判定の柱となります。65歳以上の女性の5人に1人が該当する身近なリスクであり、放置するとサルコペニア・フレイルを経て要介護状態へと進みます。MNA-SFやMUSTを使った定期スクリーニングで早期に発見し、栄養改善加算や栄養マネジメント強化加算を活用しながら多職種で介入することが、利用者の生活機能を守る最短ルートです。看護師・介護職・管理栄養士・リハ職が日々の食事摂取記録と検査値を共有する仕組みづくりから始めてみてください。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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