
サルコペニアとは
サルコペニアとは、加齢や疾患による全身の筋肉量と筋力の低下した状態で、要介護化と死亡リスクに直結する高齢者疾患です。アジアサルコペニアワーキンググループの最新基準AWGS 2019では、握力(男性28kg・女性18kg未満)または5回椅子立ち上がり12秒以上+骨格筋量低下で診断。フレイル・廃用症候群との違い、運動・栄養・地域支援事業を組み合わせた予防策まで、用語の意味と仕組みをやさしく解説します。
この記事のポイント
サルコペニアとは、加齢や疾患によって全身の筋肉量と筋力(または身体機能)が低下した状態を指す医学用語で、ギリシャ語の「sarx(筋肉)」と「penia(減少)」を組み合わせた造語です。要介護化や死亡リスクを高める高齢者の重要な病態として位置づけられ、アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)が2019年に改訂した AWGS 2019診断基準 が日本でも標準的に用いられています。
目次
サルコペニアの定義と分類
サルコペニア(Sarcopenia)は、1989年にアメリカの研究者Rosenbergが提唱した概念で、当初は「加齢による筋肉量の減少」を指していました。その後の研究で「筋力」「身体機能」も含めた包括的な定義へと発展し、2016年にはICD-10コード(M62.84)が割り当てられ、独立した疾患として国際的に認知されています。
原因により以下の2つに分類されます。
- 原発性(一次性)サルコペニア:加齢以外に明らかな原因がないもの。
- 二次性サルコペニア:①活動量低下(廃用、無重力、無動)、②疾患(がん、心不全、慢性腎臓病、肝硬変、糖尿病、関節リウマチなど)、③低栄養(タンパク質・エネルギー不足)が原因のもの。
とくにがん患者や肝疾患患者に併存するサルコペニアは予後を著しく悪化させるため、日本肝臓学会・日本がんサポーティブケア学会など各専門学会が独自の判定基準を発表しています。
サルコペニアはフレイルの中核要素(身体的フレイル)でもあり、要介護化のスパイラルの起点となります。中年期からの予防、罹患後の運動・栄養介入が重要視されています。
AWGS 2019診断基準(日本で標準)
2019年10月に改訂されたAWGS 2019では、地域や一般診療所でも診断できるよう簡易基準を追加し、3段階の評価フローが採用されました。
ステップ1:症例同定(地域・プライマリケア向け)
- 下腿周囲長(男性34cm未満/女性33cm未満)
- SARC-Fスコア4点以上
- SARC-CalF11点以上 のいずれかでスクリーニング
ステップ2:「サルコペニア(可能性あり)」の判定(簡易基準)
- 握力低下:男性28kg未満/女性18kg未満
- 身体機能低下:5回椅子立ち上がり12秒以上
- いずれか1つで「サルコペニア(可能性あり)」と判定し、生活指導・運動介入を開始
ステップ3:確定診断(医療機関)
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 骨格筋量低下 | DXA法 男性7.0kg/m²未満 女性5.4kg/m²未満 BIA法 男性7.0kg/m²未満 女性5.7kg/m²未満 |
| 筋力低下 | 握力 男性28kg未満/女性18kg未満 |
| 身体機能低下 | 歩行速度1.0m/秒未満、5回椅子立ち上がり12秒以上、SPPB 9点以下のいずれか |
骨格筋量低下+(筋力低下または身体機能低下)で 「サルコペニア」、3項目すべてに該当すれば 「重症サルコペニア」 と診断します。
フレイル・ロコモ・廃用症候群との違い
サルコペニアと混同されやすい概念を整理します。すべて「加齢に伴う心身の衰え」に関わりますが、定義と評価軸が異なります。
| 用語 | 定義の中心 | 評価軸 |
|---|---|---|
| サルコペニア | 筋肉量と筋力・身体機能の低下 | 骨格筋量・握力・歩行速度(AWGS 2019) |
| フレイル | 加齢に伴う心身の衰え(要介護の前段階) | 身体・精神・社会的フレイル(J-CHS基準) |
| ロコモティブシンドローム | 運動器の障害により移動機能が低下 | ロコモ度テスト(立ち上がり・2ステップ・ロコモ25) |
| 廃用症候群 | 不活動による全身の二次的機能低下 | 個別の機能評価+活動歴 |
関係性としては、サルコペニアは身体的フレイルの中核であり、ロコモの主要因の1つでもあります。廃用症候群が進むとサルコペニアになる、サルコペニアがあるとフレイルが進む、というように互いに重なり合いながら悪循環を形成します。介護現場ではこれらを「別の病気」と捉えるより「加齢関連の機能低下スペクトラム」として総合的に対応することが大切です。
運動・栄養を組み合わせた予防と治療
サルコペニアには明確な治療薬はなく、運動と栄養の併用が最も有効とされています。
- 1. レジスタンス運動(筋力トレーニング):週2〜3回、大きな筋群(下肢・体幹)を中心にゆっくりした動作で。スクワット・椅子立ち上がり・かかと上げが代表的。最大筋力の50〜80%程度の強度を目安に。
- 2. 有酸素運動:週150分以上の中強度(ウォーキング・水中運動・サイクリング)。心肺機能の維持と糖尿病・心血管疾患の予防にも有効。
- 3. タンパク質摂取:高齢者は体重1kgあたり1.0〜1.5g/日を目安に。3食均等にタンパク質を分配し、毎食20〜30gを目標にする。
- 4. 必須アミノ酸(特にロイシン):筋タンパク合成を促す。鶏胸肉・大豆・乳製品・卵に多い。
- 5. ビタミンD:筋力維持・転倒予防に関連。日光浴、魚(鮭・サンマ)、きのこ、強化食品。
- 6. 禁煙・節酒:両方ともサルコペニアのリスク因子。
- 7. 基礎疾患の管理:糖尿病・慢性腎臓病・心不全・がんなど二次性サルコペニアの原因疾患の治療。
- 8. 介護予防事業の活用:地域支援事業の通いの場・体操教室、通所リハビリ・訪問リハビリでの専門指導を活用。
サルコペニアに関するよくある質問
- Q. サルコペニアは病気ですか?
- A. 国際的には独立した疾患として認知されており、ICD-10コード(M62.84)が割り当てられています。日本では介護保険の特定疾病には該当しませんが、要介護化の前駆段階として重視されています。
- Q. 自分でできるチェック方法は?
- A. 「指輪っかテスト」が簡易です。両手の親指と人差し指で輪を作り、利き足ではない方のふくらはぎ最大部を囲んだとき、輪っかの方が太ければサルコペニアの可能性が高い、と判定できます。AWGSのSARC-Fスコア(5項目の自記式質問票)も簡便です。
- Q. フレイルと違うのはどこですか?
- A. サルコペニアは「筋肉量・筋力・身体機能」の評価が中心、フレイルは「身体・精神・社会」を含む総合的な衰え。サルコペニアは身体的フレイルの中核要素であり、ほぼ重なる部分が多いものの、フレイルの方がより広い概念です。
- Q. 何科を受診すればよい?
- A. 老年科・整形外科・リハビリテーション科・かかりつけ医が窓口です。地域包括支援センターでも介護予防の相談ができます。
- Q. 一度減った筋肉は戻りますか?
- A. 戻ります。高齢者でも適切なレジスタンス運動と十分なタンパク質摂取を組み合わせれば、3〜6ヶ月で握力・歩行速度の改善が期待できます。早期介入ほど効果が高いため、サルコペニア(可能性あり)の段階での介入が推奨されています。
参考文献・出典
- 長寿科学振興財団「サルコペニア診断の変遷とAWGS 2019」https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-2-3.html
- 日本老年医学会「サルコペニア新診断基準(AWGS2019)を踏まえた高齢者診療」https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/58/2/58_58.175/_pdf
- 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診断基準の改訂(AWGS 2019発表)」https://jssf.umin.jp/pdf/revision_20191111.pdf
- 日本肝臓学会「肝疾患におけるサルコペニア判定基準」https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/sarcopenia.html
まとめ
サルコペニアは、加齢や疾患によって筋肉量と筋力・身体機能が低下した状態で、要介護化と死亡リスクに直結する重要な病態です。AWGS 2019診断基準では握力(男性28kg/女性18kg未満)・歩行速度・骨格筋量を用いて段階的に判定し、地域でのスクリーニングから医療機関での確定診断まで一貫した評価が可能になりました。フレイル・ロコモ・廃用症候群と重なり合いながら悪循環を形成するため、レジスタンス運動・タンパク質摂取・基礎疾患管理を組み合わせた早期介入が、要介護化を防ぐ最大の鍵となります。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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