
脳血管性認知症とは
脳血管性認知症(VaD)とは、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳血管障害によって脳細胞が損傷し、認知機能低下を引き起こす認知症で、三大認知症の一つです。できることとできないことの差が大きい「まだら認知症」と、脳卒中再発による「階段状進行」が特徴。原因・症状・診断・予防、介護現場での対応のポイントまで、用語の意味と仕組みをやさしく解説します。
この記事のポイント
脳血管性認知症(VaD: Vascular Dementia)とは、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など脳の血管トラブルによって脳細胞が酸欠・壊死し、認知機能低下が起こる認知症です。アルツハイマー型・レビー小体型と並ぶ三大認知症の一つで、認知症全体の約20%を占めます。脳卒中の発作後に階段状に症状が悪化し、「できること」と「できないこと」の差がはっきりする「まだら認知症」が特徴。生活習慣病管理で発症・進行を予防できる、唯一の予防可能な認知症ともいわれます。
目次
脳血管性認知症とは|脳卒中による脳細胞損傷で起こる認知症
脳血管性認知症(VaD: Vascular Dementia)は、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳血管障害(脳卒中)が原因で、脳の神経細胞に酸素や栄養が届かなくなり、損傷した部位の機能が失われることで認知機能低下が起こる認知症です。アルツハイマー型認知症(約60%)に次いで多く、認知症全体の約20%を占めるとされ、レビー小体型認知症と並ぶ三大認知症に分類されます(厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」)。
原因となる脳血管障害は大きく次の3パターンに分けられます。①大梗塞(多発梗塞性認知症):脳の主要動脈が詰まって広範囲に脳組織が壊死/②小血管病性認知症(Binswanger型・ラクナ梗塞):細い血管が詰まり大脳白質が虚血を起こす/③戦略的部位の単発梗塞:視床・海馬など認知機能の要となる部位の単発梗塞。これらが単独・複合して認知機能低下を引き起こします。
VaDはアルツハイマー型と病理が併存する「混合型認知症」の頻度も高く、高齢者では純粋なVaDより混合型のほうが多いとされています。診断はNINDS-AIREN基準やDSM-5の血管性神経認知障害の基準に基づき、画像検査(CT・MRI)で脳血管病変を確認し、認知機能低下と病変との時間的・部位的関連を評価して行います。
脳血管性認知症の主な症状|まだら認知症と階段状進行
VaDの症状は損傷した脳の部位によって大きく異なるのが特徴です。代表的な症状は次の通りです。
- まだら認知症(まだら状の認知機能障害):記憶障害は強いのに計算能力や判断力は保たれる、午前中はしっかり会話できるのに午後は混乱する、など「できること」と「できないこと」の差が顕著。アルツハイマー型のように全領域が均等に低下しないのがVaD最大の特徴です。
- 階段状進行:脳卒中再発のたびに症状が急激に悪化し、その後は安定→次の発作で再悪化、というパターン。アルツハイマー型の緩やかな直線的進行とは対照的です。
- 運動障害(神経症状):片麻痺、構音障害(呂律が回らない)、嚥下障害、歩行障害、手足の麻痺など、脳卒中後遺症としての身体症状を早期から伴うことが多い。
- 感情失禁・抑うつ:些細なきっかけで泣く・怒る・笑うを抑制できない感情失禁、意欲低下や抑うつ症状が目立つ。前頭葉機能低下による「アパシー(無気力)」も頻発。
- 遂行機能障害:段取りを立てて実行する能力が低下し、料理・服薬管理・金銭管理などが難しくなる。
- パーキンソニズム・歩行障害:小血管病性認知症では小刻み歩行・すり足が現れ、転倒リスクが高い。
- 夜間せん妄・尿失禁:早期から出現することがあり、特に小血管病性では尿意切迫・頻尿が初期症状になる場合も。
本人の自覚は比較的保たれやすく、「自分が情けない」「家族に迷惑をかけている」と落ち込みやすいため、心理面のフォローも重要です。
アルツハイマー型・レビー小体型との違い
三大認知症は原因と症状の現れ方が異なります。VaDは「脳卒中由来」「予防可能」「身体症状を早期から伴う」という3点で他と区別されます。
| 項目 | 脳血管性(VaD) | アルツハイマー型 | レビー小体型(DLB) |
|---|---|---|---|
| 原因 | 脳梗塞・脳出血など脳血管障害 | アミロイドβ・タウの蓄積 | α-シヌクレイン(レビー小体) |
| 初発症状 | 脳卒中後の認知機能低下 | 近時記憶障害 | 幻視・RBD・自律神経症状 |
| 進行パターン | 階段状(再発で急悪化) | 緩徐進行 | 変動性 |
| 認知機能の特徴 | まだら認知症(領域差大) | 全領域が均等低下 | 注意・覚醒の日内変動 |
| 身体症状 | 麻痺・構音障害が早期から | 進行期まで目立たない | パーキンソニズム頻発 |
| 感情面 | 感情失禁・抑うつ多発 | 不安・徘徊が目立つ | うつ・幻覚妄想 |
| 予防 | 生活習慣病管理で予防可能 | 確立された予防法なし | 確立された予防法なし |
| 頻度 | 約20% | 約60% | 約4-20% |
実際の高齢者ではアルツハイマー型病理とVaDが併存する「混合型認知症」の頻度が高く、診断と治療方針は両方の側面から検討されます。
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予防と介護現場での対応|再発予防が最大のケア
VaDは原因疾患(脳卒中)が予防可能なため、唯一「予防できる認知症」とも呼ばれます。発症後も再発予防が進行抑制の鍵です。
発症予防・再発予防の基本
- 高血圧管理:脳卒中最大のリスクファクター。降圧薬服用と減塩(1日6g未満)で目標血圧を維持。
- 糖尿病・脂質異常症のコントロール:HbA1c・LDLコレステロールを目標値内に。
- 禁煙・節酒・運動習慣:喫煙は脳梗塞リスクを2〜3倍に。週150分の有酸素運動が推奨。
- 心房細動の管理:心房細動は脳塞栓の主因。抗凝固薬(DOAC等)で再発予防。
- 抗血小板薬・抗凝固薬の服薬遵守:脳梗塞既往者は処方されている再発予防薬を欠かさない。
介護現場での対応ポイント
- 「できること」を活かす関わり方:まだら認知症の特性上、保たれている能力を活かせる場面を意識的に設ける。本人の自尊心を支える大きな効果。
- 感情失禁への対応:泣く・怒るは脳の制御障害によるもので意図的なものではないと家族・スタッフで共有。落ち着くまで静かに見守る。
- 身体機能のリハビリ重視:麻痺・嚥下障害・歩行障害が早期からあるため、理学療法・作業療法・言語聴覚療法を組み合わせ、廃用症候群を予防。
- 誤嚥性肺炎の予防:嚥下機能低下が早期から出現。食形態調整、口腔ケア、食事姿勢の徹底。
- 抑うつ・アパシーへの介入:意欲低下を「怠け」と捉えず、医師との連携で抗うつ薬や活動賦活を検討。
- 夜間せん妄・転倒対策:尿意切迫と運動障害でトイレ事故・転倒のリスクが高い。ポータブルトイレ、夜間センサー、歩行補助具の活用。
脳血管性認知症に関するよくある質問
Q1. 脳血管性認知症は治る病気ですか?
すでに損傷した脳細胞は元に戻りませんが、再発予防と適切なリハビリで進行を遅らせ、機能改善も期待できます。アルツハイマー型のように単一の病態がじわじわ進行するのではなく、再発を防げば長期間安定することも珍しくありません。
Q2. 介護保険サービスは利用できますか?
40〜64歳の方も「脳血管疾患」として介護保険の特定疾病に該当するため、第2号被保険者として要介護認定を受けてサービスを利用できます。65歳以上は第1号被保険者として通常通り申請可能です。
Q3. 平均寿命・予後はどのくらい?
個人差が大きいですが、診断後の平均生存期間は5〜8年程度とされます。死因は脳卒中再発、誤嚥性肺炎、心疾患が多く、再発予防と肺炎予防が予後を大きく左右します(日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン」)。
Q4. 抗認知症薬は効きますか?
VaDに対する抗認知症薬の保険適用はありませんが、アルツハイマー型病理が併存する混合型と判断された場合はコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル等)が処方されることがあります。中心となる治療は再発予防(降圧薬・抗血小板薬・抗凝固薬)と生活習慣管理です。
Q5. 脳卒中後すぐに認知症になりますか?
脳卒中の3〜6か月後に評価する「post-stroke dementia」の頻度は約20〜30%と報告されています。発症部位・サイズや本人の認知予備能(学歴・知的活動)によって差が大きく、リハビリ環境次第で機能回復するケースも多いため、早期評価と継続的な介入が重要です。
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まとめ
脳血管性認知症(VaD)は、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害が原因で起こる三大認知症の一つで、認知症全体の約20%を占めます。「まだら認知症」と「階段状進行」が特徴で、麻痺・嚥下障害・感情失禁といった身体・情動症状を早期から伴います。最大の強みは「予防可能」であること。高血圧・糖尿病・心房細動・喫煙といったリスク管理で発症と再発を抑え、発症後もリハビリと再発予防で進行を遅らせられます。介護現場では、保たれている能力を活かしながら、感情失禁を症状として受容し、身体機能リハビリと誤嚥性肺炎予防を徹底することが、本人のQOLと予後を支える鍵となります。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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