「耳の聞こえ」への対応と「足腰の機能」維持をセットで|都健康長寿の研究が示す転倒予防
介護職向け

「耳の聞こえ」への対応と「足腰の機能」維持をセットで|都健康長寿の研究が示す転倒予防

東京都健康長寿医療センター研究所の縦断研究(786名・最大8年追跡)は、加齢性難聴と歩行機能低下が重なると複数回転倒リスク2.96倍・骨折リスク2.98倍に高まると報告。介護職が現場の転倒予防に聴覚アセスメントを組み込む視点を解説します。

Quick Diagnosis

45

全6問・動画ガイド付き

性格から、合う働き方をみつける。

介護の仕事を嫌いになる前に。施設タイプや転職サービスの選び方を、6つの質問と45秒の動画で整理できます。

無料で診断を始める
ポイント

この記事のポイント

東京都健康長寿医療センター研究所が高齢者786名を最大8年追跡した縦断研究では、加齢性難聴か歩行機能低下のどちらか一方だけでは転倒事故の有意な増加は見られませんでした。しかし両方が重なった群では、複数回転倒のリスクが2.96倍、転倒による骨折のリスクが2.98倍に高まりました。介護現場の転倒予防は「足腰の運動」だけでなく「耳の聞こえ」への対応をセットで行うことが鍵になります。難聴は高齢者に身近な問題であり、足腰の状態とあわせて評価する視点が求められます。

目次

転倒予防というと、介護現場ではまず筋力トレーニングやバランス運動、手すりや段差の環境整備を思い浮かべる方が多いはずです。実際、これらは転倒予防の王道であり、効果も裏づけられています。一方で、利用者の「耳の聞こえ」を転倒リスクと結びつけてアセスメントしている現場は、まだ多くありません。視力の低下は転倒の要因として広く意識されているのに対し、聴力は見過ごされがちです。

2024年11月、東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が、加齢性難聴と転倒の関係について重要な研究成果を発表しました。ポイントは「難聴だけ」「歩行が遅いだけ」では転倒事故が大きく増えるわけではなく、その二つが重なったときに初めてリスクが跳ね上がる、という相乗効果です。難聴のある高齢者は転倒しやすいと漠然と言われてきましたが、その正体は「聞こえ」と「足腰」の組み合わせだった、というわけです。

この記事では、研究の中身(対象・方法・数値・限界)を正確に押さえたうえで、介護職が日々のケアと転倒予防アセスメントにどう活かせるかを整理します。明日からの観察やケアプランに、聴覚という新しい軸を一本加えるための実践的な視点を提供します。

背景|転倒は要介護の主要因、難聴は高齢者に身近な問題

なぜこの研究が介護現場にとって重要なのかを、前提となる数字から押さえておきます。

転倒・骨折は要介護の大きな原因

厚生労働省の2022年(令和4年)国民生活基礎調査では、介護が必要になった主な原因のうち「骨折・転倒」は上位を占めており、認知症や脳血管疾患と並ぶ要介護の大きな引き金です。ひとたび転倒して骨折すれば、入院や安静をきっかけに活動量が落ち、そのまま寝たきりや要介護度の重度化につながることも少なくありません。だからこそ、転倒を「起こってから対応する」のではなく「起こさないよう予防する」ことの価値が大きいのです。

難聴は決して特別な状態ではない

加齢性難聴は高齢者にとって非常に身近です。研究グループの解説によれば、国内の加齢性難聴者は1,500万人以上とされ、80歳以上では男性のおよそ8割、女性のおよそ7割が難聴と推測されています。一方で、日本では難聴があっても補聴器を使っていない人が欧米に比べて著しく多いことも指摘されています。つまり、介護施設や在宅で出会う高齢者の多くが、程度の差こそあれ「聞こえにくさ」を抱えている可能性があり、しかもその多くが未対応のまま、という現実があります。

転倒という要介護の大きな原因と、難聴という見過ごされがちな問題。この二つを結びつけたところに、今回の研究の意義があります。

研究の概要|都健康長寿医療センター研究所「お達者健診」786名の追跡

今回紹介する研究は、東京都健康長寿医療センター研究所の桜井良太研究員らのグループが行ったものです。国際科学雑誌「GeroScience」オンライン版(2024年11月1日付)に掲載され、研究所からは2024年11月18日にプレスリリースが出されました。

対象と方法

分析に使われたのは、2013年もしくは2014年に東京都板橋区で実施された健康調査「お達者健診」(代表:大渕修一研究部長)に参加し、1年以上追跡できた786名の高齢者のデータです。参加者の平均年齢は72.9歳でした。これらの参加者を最大8年間にわたり追跡し、1年ごとに転倒や転倒によるケガの発生状況を調べた、規模・追跡期間ともに信頼性の高い縦断研究です。

「難聴」と「低歩行速度」の定義

研究では、聴力と歩行速度をそれぞれ次のように定義しています。

  • 難聴:オージオメータ(聴力測定器)を用いた検査で25dB以上、すなわち軽度難聴以上に該当する人。
  • 低歩行速度:歩く速度が、同年代・同性の集団平均から1SD(標準偏差)ぶん遅い人。

そのうえで参加者を、(1)非難聴・非低歩行速度、(2)非難聴・低歩行速度、(3)難聴・非低歩行速度、(4)難聴・低歩行速度、の4つのグループに分けて転倒事故の起こりやすさを比較しました。「聞こえ」と「足腰(歩行)」という二つの軸を組み合わせて分析した点が、この研究の核心です。

主な結果|重なると複数回転倒2.96倍・骨折2.98倍

追跡期間中に発生した転倒関連の事故件数は、単回転倒が328件、複数回転倒が117件、転倒による骨折以外のケガが249件、転倒による骨折が55件でした。これらを4グループで比較した結果が、この研究のもっとも重要な発見です。

「セット」で起きたときにリスクが跳ね上がる

年齢や性別などの影響を統計的に調整したうえで、「非難聴・非低歩行速度」群を基準(1倍)として比較すると、「難聴・低歩行速度」群では次のようにリスクが有意に高まりました。

  • 複数回転倒(1年に2回以上転ぶ):調整後ハザード比(aHR)2.96倍(95%信頼区間 1.52〜5.78、p=0.001)
  • 転倒による骨折:調整後ハザード比(aHR)2.98倍(95%信頼区間 1.15〜7.70、p=0.024)

いずれも「約3倍」に達する大きさです。とくに複数回転倒や骨折は、要介護状態への入り口になりやすい深刻な事故であり、それが約3倍に増えるという数字の重みは小さくありません。プレスリリースの図でも、8年間の経過を追うと「難聴+低歩行速度」群だけが、複数回転倒や骨折の発生率が突出して高くなることが示されています。時間が経つほど、この群とほかの群との差は開いていきます。

「どちらか一方だけ」では有意差が出なかった

注目すべきは、難聴か低歩行速度のどちらか一方だけを満たす群((2)非難聴・低歩行速度、(3)難聴・非低歩行速度)では、各転倒事故リスクの統計的に有意な上昇が確認されなかった点です。たとえば「低歩行速度のみ」群の複数回転倒は調整後ハザード比2.09倍(95%信頼区間 0.98〜4.45、p=0.057)と、数字としては高めでも信頼区間が1をまたいでおり、統計的に「確かに増えた」とは言い切れない結果でした。あと一歩で有意、という微妙な値ですが、研究の解釈としては「単独では決定的ではない」と整理されています。

つまりこの研究は、「聞こえの問題」と「足腰の衰え」が単独では転倒事故の決定打になりにくく、二つが重なって初めて相乗的にリスクが顕在化する、という構図を数字で示したわけです。なお、これは観察研究であり、難聴や歩行低下が転倒の「原因」だと因果関係を確定したものではない点には留意が必要です。

なぜ「聞こえ」と「足腰」が重なると転ぶのか|メカニズム

難聴そのものが直接足を引っかけるわけではありません。研究グループは、その背景にある仕組みを別の実験でも検討しています。

耳からの情報は「動きを安定させる」役割を持つ

同研究所は2023年10月、若年者に疑似的な難聴環境(耳をふさぐイヤーマフ)をつくり、6.5m先の高さ15cmの障害物に近づいて跨ぎ越す動作を分析した実験結果を発表しています。この実験では、聴覚と視覚をそれぞれ制限する/しないで4条件を設定し、障害物を越えるときの足の上がり方や歩幅のばらつきを精密に計測しました。

その結果、聴覚情報が制限されると先導脚のクリアランス(障害物を越えるときの足上げの高さ)のばらつきが統計的に有意に大きくなりました。さらに、足元の視覚情報と聴覚情報の両方が制限された場合には、障害物に近づくときの歩幅のばらつき(変動係数)が有意に大きくなったのです。ここから研究グループは、「聴覚情報には運動を安定させる(動作のばらつきを抑える)働きがある」と推測しています。

普段、私たちは自分の足音や周囲の物音を無意識に手がかりとして、体の位置や動きを微調整しています。耳からの情報が乏しくなると、この微調整が効きにくくなり、障害物を避けたり跨いだりする一連の動作が不安定になります。動作のばらつきが大きいほど、わずかな段差や物につまずく確率は上がります。これが「聞こえにくさが転倒につながる」直接的な経路です。

足腰が保たれていれば「とっさの立て直し」がきく

ただし、動作が多少ばらついても、それだけで必ず転ぶわけではありません。歩行速度や下肢筋力、バランス能力が十分に保たれていれば、バランスを崩した瞬間に踏ん張ったり、素早く一歩を出し直したりして体勢を立て直せます。健康な人がつまずいても多くは転ばずに済むのは、この「とっさの立て直し」が働くからです。

逆に足腰が衰えていると、この立て直しが間に合いません。反応が遅れ、踏ん張る力も足りず、ばらついた動作がそのまま転倒に直結してしまいます。つまり、聞こえの低下で動作が乱れ(入力側の問題)、足腰の低下で立て直せない(出力側の問題)。この二つの条件が同時に揃ったときに、転倒・骨折が一気に増えるのです。これが「片方だけでは有意差が出ず、セットで起こると約3倍」という縦断研究の結果を、無理なく説明する仕組みです。

「相乗効果」という捉え方の意味

1+1が2ではなく、それ以上になる。これが相乗効果(交互作用)です。今回の研究は、難聴と歩行低下が単純に足し算でリスクを高めるのではなく、組み合わさったときに飛躍的にリスクを押し上げることを示しました。介護現場にとってこの捉え方が重要なのは、「リスク因子を一つずつ独立に見る」のではなく、「複数の因子の重なりを見る」視点を持つべきだと教えてくれるからです。

「聞こえだけ」「足腰だけ」「セット」でどう違うか

研究結果を、介護現場の感覚に翻訳して整理します。基準は「難聴も歩行低下もない」高齢者です。

状態複数回転倒・骨折のリスク現場での捉え方
聞こえ・足腰ともに保たれている基準(1倍)標準的な見守りで対応
難聴のみ(足腰は保たれている)有意な上昇は確認されず聞こえの支援は必要だが、転倒だけを見れば過度に恐れなくてよい
低歩行速度のみ(聞こえは保たれている)有意な上昇は確認されず運動機能の維持が中心。聴覚は良好
難聴+低歩行速度(セット)複数回転倒 約3倍/骨折 約3倍最重点。聞こえと足腰の両面から介入

この表が示すのは、「難聴のある利用者=即・高転倒リスク」と短絡してはいけない、ということです。本当に注意すべきは、聞こえと足腰の両方に課題を抱える人。難聴のある利用者を一律に過度な安静へ向かわせるのではなく、足腰の状態を見極めて優先順位をつけることが、限られた人手を効果的に使うことにもつながります。

逆に言えば、難聴があっても足腰がしっかりしていれば転倒リスクは抑えられ、足腰が弱っていても聞こえが保たれていればリスクは限定的、という希望のある結論でもあります。どちらか一方を改善・維持できれば、相乗効果の「片輪」を外せる可能性があるのです。完璧に両方を改善できなくても、できるところから手をつける意味がある、と前向きに捉えられます。

現場の転倒予防アセスメントに「聴覚」を組み込む|介護職への示唆

多くの転倒リスクアセスメントシートは、既往歴・服薬(ポリファーマシー)・下肢筋力・歩行・バランス・視力・認知機能・住環境などをチェック項目に並べています。一方で「聴覚」が独立した転倒リスク因子として明記されているシートは多くありません。視力の確認は定番でも、聴力は見落とされがちなのが実情です。この研究を踏まえると、現場のアセスメントに次の視点を加える意義があります。

1. 「歩行が遅い人」のリストに、聞こえの確認を重ねる

歩行速度の低下やふらつきが見られる利用者については、あわせて「聞こえにくさ」がないかを確認します。研究の構図に沿えば、足腰が弱っている人ほど、聞こえの低下が転倒リスクを押し上げる相乗効果が働きやすいからです。会話の聞き返しが多い、テレビの音量が大きい、後ろからの呼びかけに反応しにくい、複数人の会話についていけない、といった日常のサインが手がかりになります。すでに転倒歴がある利用者であれば、なおさら聞こえの状態を確認する価値があります。

2. 「聞こえにくい人」には足腰の維持を意識的に支える

すでに難聴がある、または補聴器を使っている利用者については、歩行機能を落とさないことが転倒予防の要になります。離床機会を確保し、下肢の運動や歩行訓練を継続できるようケアプランに位置づけます。聞こえの支援と運動支援を別々の課題と捉えず、転倒予防という同じ目的でつなげて考える発想が重要です。難聴があるからと活動を控えさせると、かえって足腰が弱り、相乗効果でリスクを高めてしまう恐れがある点にも注意します。

3. 「聞こえへの早期対応」を多職種連携につなげる

研究グループは、聞こえにくさが判明した場合に医療機関受診や補聴器装着を早期に勧めることの重要性を提言しています。介護職は診断や補聴器調整はできませんが、聞こえの変化に最初に気づける立場にあります。気づきを生活相談員・看護職・ケアマネジャー・耳鼻科受診へとつなぐことが、転倒予防の入口になります。日々の記録に聞こえの観察を残しておくと、変化の早期発見と多職種への共有がスムーズになります。

4. 環境調整は「聞こえやすさ」も含めて考える

騒がしい食堂や反響しやすい廊下では、聞こえにくさがさらに増幅されます。静かな環境づくりや正面からの声かけは、コミュニケーション支援であると同時に、動作を安定させて転倒を防ぐ環境調整でもある、と位置づけられます。一つの工夫が複数の目的に効く、という発想で日々のケアを見直すと、限られた人手でも質を落とさずに対応できます。

これらは研究そのものが個別の介護手技を検証したわけではなく、結果から導いた現場への応用の視点です。エビデンスの射程を超えて断定はできませんが、「転倒予防に聴覚という軸を一本加える」ことは、明日からのアセスメントに取り入れられる現実的な工夫です。

今日から現場で始められる3ステップ

研究の知見を、具体的な行動に落とし込むと次の3ステップになります。特別な道具や予算は必要ありません。

ステップ1:気づく

申し送りやケア記録に、利用者の「聞こえ」に関する観察を一言加える習慣をつけます。「呼びかけに反応が遅い」「聞き返しが増えた」「テレビの音量が大きい」といった日常のサインは、聴力検査をしなくても拾える手がかりです。歩行が不安定な利用者ほど、この観察を意識的に行います。

ステップ2:つなぐ

気づいた変化を、自分の中だけで止めず多職種で共有します。看護職やケアマネジャー、生活相談員に伝え、必要に応じて耳鼻科受診や聴力評価につなげます。補聴器を持っているのに使っていない利用者には、装着の習慣化を一緒に支援します。介護職は聞こえの変化に最初に気づける、いわば「最前線のセンサー」です。

ステップ3:支える

聞こえへの対応と並行して、足腰の機能を落とさないかかわりを続けます。離床と歩行の機会を確保し、下肢の運動をケアプランに位置づけ、無理のない範囲で活動量を保ちます。聞こえと足腰、この両輪を回すことが「セットでの転倒予防」の実践です。一方だけでも維持・改善できれば、相乗的に高まるリスクの片輪を外せる可能性があります。

補聴器で歩行が改善する可能性も|関連研究のアップデート

「では聞こえを補えば足腰にも良い影響があるのか」。この問いに踏み込んだ関連研究も、同じ研究所から報告されています。

東京都健康長寿医療センター研究所は2025年4月、加齢性難聴のある人が補聴器を装着した前後を比較した研究を発表しました(学術誌「Audiology and Neurotology」オンライン版)。同意を得た10名という小規模な検討ながら、補聴器装着の約1年後に、歩行中の1歩に要する時間が短くなり、歩行時の足の動き(足の回転)が改善する傾向が見られました。あわせて転倒に対する恐怖感が軽減し、全般的な認知機能(MoCA)や記憶、ウェルビーイング(WHO-5)の指標でも改善がうかがえたと報告されています。

対象人数が少なく、補聴器が転倒そのものを減らすと確定したわけではない点には注意が必要です。それでも「聞こえを補うことが、歩行という体の動きにも波及しうる」という方向性は、聞こえと足腰をセットで支える意義を裏づける材料といえます。現場では、補聴器を持っているのに使っていない利用者に対し、装着の習慣化を支援することも転倒予防の一手になり得ます。

よくある質問(FAQ)

Q. 難聴のある利用者は、みんな転倒リスクが高いと考えるべきですか?

いいえ。この研究では、難聴があっても歩行機能(足腰)が保たれている群では、転倒事故の有意な増加は確認されませんでした。リスクが大きく高まったのは、難聴と歩行機能低下が重なった群です。難聴イコール高リスクと短絡せず、足腰の状態とあわせて評価することが大切です。

Q. 「難聴」とはどの程度の聞こえにくさを指しますか?

この研究では、オージオメータによる聴力検査で25dB以上、つまり軽度難聴以上に該当する人を「難聴」と定義しています。重度の難聴に限った話ではなく、軽度の聞こえにくさも対象に含まれている点に注意してください。

Q. 数字の「2.96倍」「2.98倍」はどういう意味ですか?

年齢や性別などの影響を統計的に調整したうえで、聞こえも足腰も保たれている人を基準(1倍)としたとき、難聴と低歩行速度が重なった群では複数回転倒のリスクが約2.96倍、骨折のリスクが約2.98倍になった、という意味です。いずれも統計的に有意な差として報告されています。

Q. 介護職は利用者の聞こえに対して何ができますか?

診断や補聴器の調整はできませんが、聞こえの変化に気づき、記録し、看護職やケアマネジャー、耳鼻科受診へつなぐことができます。あわせて、正面からゆっくり話す、静かな環境を整える、補聴器の装着を支援する、といった日常のかかわりが、コミュニケーションと転倒予防の両面で役立ちます。

Q. この研究だけで「聴覚ケアが転倒を減らす」と言えますか?

この研究は観察研究であり、難聴・歩行低下と転倒の関連を示したものです。聴覚ケアそのものが転倒を減らすかどうかを直接証明した介入研究ではありません。補聴器と歩行の関連を示す小規模研究はありますが、過度な断定は避け、エビデンスの範囲内で現場に活かす姿勢が大切です。

参考文献・出典

まとめ|転倒予防に「聞こえ」という一本の軸を

東京都健康長寿医療センター研究所の縦断研究は、転倒予防をめぐる従来の発想に一つの視点を加えました。加齢性難聴も歩行機能の低下も、単独では転倒事故を大きく増やすとは言い切れない。しかし両方が重なると、複数回転倒のリスクは約2.96倍、骨折のリスクは約2.98倍に跳ね上がる。聞こえと足腰は、転倒予防という同じ目的でつながっているのです。

この結果には、現場にとって希望もあります。相乗効果である以上、聞こえか足腰のどちらか一方でも維持・改善できれば、リスクの「片輪」を外せる可能性があるからです。難聴があっても足腰を保てば、足腰が弱っても聞こえを補えば、転倒・骨折のリスクを抑えられるかもしれない。できることは決して少なくありません。

介護現場でできることは、特別な機器を増やすことではありません。足腰の運動を支えるだけでなく、利用者の「聞こえにくさ」に気づき、足腰の状態とあわせて評価し、必要に応じて受診や補聴器装着につなぐ。この「聴覚という一本の軸」をアセスメントに加えるだけで、これまで見落とされていた高リスクの利用者が浮かび上がってきます。聞こえへの早期対応と足腰の維持をセットで考えることが、これからの転倒予防の標準になっていくはずです。今日の申し送りから、利用者の「聞こえ」に一言、目を向けてみてください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

ご家族・ご利用者の視点

同じテーマをご家族・ご利用者の方の視点から書いた記事。視野を広げるためのヒントとして。