弾性ストッキングとは

弾性ストッキングとは

弾性ストッキングは下肢に段階的圧迫を加える医療用ストッキング。DVT予防・下肢静脈瘤・リンパ浮腫に使われ、圧迫圧は弱圧/中圧/強圧の3段階。日本静脈学会2024ガイドラインに基づき、装着手順・禁忌(PAD・急性炎症・重度心不全)・介護現場での皮膚観察ポイントを整理。

ポイント

この記事のポイント

弾性ストッキングとは、足首から大腿部に向かって段階的に圧迫圧が弱くなるように設計された医療用ストッキングです。下肢静脈の還流を促進し、深部静脈血栓症(DVT)の予防、下肢静脈瘤、リンパ浮腫の治療・症状緩和に用いられます。圧迫圧は弱圧(〜20mmHg)・中圧(20〜30mmHg)・強圧(30〜40mmHg)に大別され、医師の指示に基づき選択します(日本静脈学会「静脈疾患における圧迫療法ガイドライン2024」)。

目次

弾性ストッキングの基本

弾性ストッキング(Elastic Compression Stocking)は、編み込まれた繊維の張力で下肢全体に圧迫を加える医療用衣類です。最大の特徴は段階的圧迫(graduated compression)と呼ばれる構造で、足首部の圧迫圧が最も高く、ふくらはぎ・大腿部に向かうにつれて圧迫圧が段階的に低下します。これにより下肢の静脈血が心臓側へ押し戻されやすくなり、静脈うっ滞や血栓形成のリスクを下げる効果が期待されます。

医療機器としての日本産業規格(JIS T9221:弾性ストッキング)が定められており、生地の伸縮性・圧迫圧・耐久性などの品質基準が規定されています。下肢静脈瘤・深部静脈血栓症(DVT)の予防および治療、リンパ浮腫の保存的療法において、保険診療の枠組みで処方される医療材料の一つです。

主な使用目的

  • DVT(深部静脈血栓症)予防:術後・長期臥床・長時間フライト等で下肢の静脈うっ滞が想定される場面で、間欠的空気圧迫装置(IPC)と併用または単独で使用
  • 下肢静脈瘤の保存的治療:自覚症状の軽減と進行抑制を目的に、立位で症状が出やすい場合に日中装着
  • リンパ浮腫の維持期管理:複合的理学療法(CDT)の維持期で、用手的リンパドレナージ後に圧迫圧を保持
  • 慢性静脈不全(CVI)・うっ滞性皮膚炎:色素沈着や潰瘍のある下肢の浮腫管理

形状はハイソックス型(膝下まで)、ストッキング型(大腿まで)、パンティストッキング型(腰まで)に分かれ、症状の範囲と装着のしやすさで医師が選択します。介護現場では装着の容易さからハイソックス型が選ばれることが多く、装着補助具(スライディング型・足台型)の併用で介助者の負担を軽減します。

圧迫圧の3区分と適応

弾性ストッキングの圧迫圧は足首部の圧迫圧(mmHg)で表示され、目的・重症度により使い分けます。日本静脈学会「静脈疾患における圧迫療法ガイドライン2024」では、症状に応じた段階的な圧迫圧選択が推奨されています。

分類足首圧迫圧主な適応装着者の特徴
弱圧〜20mmHg
(軽度圧迫含む)
軽度のむくみ・エコノミークラス症候群予防・術後DVT予防の初期段階初めて装着する高齢者・装着力に乏しい家族介護者
中圧20〜30mmHg下肢静脈瘤の保存的治療・軽症の慢性静脈不全・DVT予防(標準)立位症状あり・自力装着が可能な利用者
強圧30〜40mmHg進行した下肢静脈瘤・うっ滞性皮膚炎・リンパ浮腫・静脈血栓後症候群装着補助具の使用や介助者の支援が前提

※さらに40mmHg以上の「超強圧」区分を設ける分類もあり、リンパ浮腫の急性増悪期や静脈性潰瘍に用いられることがあります。圧迫圧の選択は必ず医師の指示に従い、自己判断で強い圧迫圧を選ばないことが重要です。

サイズ計測のポイント

  • 足首周囲径:内果上2cm程度の最も細い部分を計測
  • ふくらはぎ最大周囲径:立位で最も太くなる部位を計測
  • 下腿長:膝窩から踵までの長さ
  • 朝(浮腫が引いている時間帯)に計測することが推奨される

サイズが合わないと圧迫圧が均一に伝わらず、皮膚障害や血流障害のリスクが高まります。既製サイズで合わない場合は、オーダーメイド(特注品)の選択肢もあります。

装着の基本手順と介護現場での介助

弾性ストッキングは生地の伸縮性が低く圧迫圧が高いほど装着が難しくなります。誤った装着方法は圧迫圧の偏在やシワ(食い込み)による皮膚障害を招くため、手順を守ることが重要です。

装着の基本5ステップ

  1. 朝の起床直後に装着:浮腫が引いている時間帯(臥位から起き上がる前後)に装着することで、最も均一な圧迫圧が得られる。日中の活動後では浮腫が進み装着困難になる
  2. ストッキングを裏返してかかと部まで丸める:靴下のように一気に引き上げる方式ではなく、内側を表に出してかかと部分まで折り返した状態から始める
  3. つま先・かかとを正しい位置に合わせる:ストッキングのかかとマーク(製品により形状が指定されている)と利用者のかかとを一致させる
  4. ふくらはぎ・大腿部に少しずつ広げる:折り返した部分を少しずつ伸ばし、皮膚にシワや食い込みが生じないように整える。引っ張りすぎは生地の劣化と圧迫圧の偏在を招く
  5. 仕上げにシワを伸ばす:装着後に表面をなでてシワを完全に伸ばし、ストッキングの上端が丸まっていないか確認する

介護現場での装着支援ポイント

  • 装着タイミング:朝起床直後の臥位〜端座位で装着、就寝時は外す(24時間装着は皮膚障害のリスクが高い)
  • 装着補助具の活用:スライディング型(ストッキングを滑らせる金属枠)や足台型を使うと介助者の手指の負担を大幅に軽減できる
  • 装着前の皮膚観察:発赤・水疱・潰瘍・冷感がないか必ず確認。異常があれば装着を中止し医療職へ報告
  • 足趾の露出:オープントゥ型を選ぶと爪の観察・装着確認がしやすく、足趾の血色チェックも容易
  • 洗濯と買い替え:1日装着したら手洗いまたは弱水流で洗濯。圧迫圧は徐々に低下するため、メーカー推奨で3〜6か月ごとに買い替える

弾性包帯・IPC(間欠的空気圧迫装置)との違い

下肢への圧迫療法には弾性ストッキング以外にも弾性包帯(短伸縮包帯・長伸縮包帯)と間欠的空気圧迫装置(IPC:Intermittent Pneumatic Compression)があり、それぞれ特性と適応が異なります。

項目弾性ストッキング弾性包帯IPC(フットポンプ)
圧迫の性質静的・連続的・段階的静的・連続的(巻き方で圧迫圧調整)動的・間欠的(空気で加圧→減圧を繰り返す)
主な適応DVT予防・下肢静脈瘤・リンパ浮腫維持期リンパ浮腫の集中治療期・形状不整の下肢術後DVT予防・長期臥床中の血栓予防
装着・使用朝装着、就寝時に外す(日中装着)毎回巻き直し(数時間〜1日)臥床中に装着、覚醒中の使用も可能
圧迫圧の安定性製品で規格化(mmHg表示)巻く人の技術に依存装置で精密制御
介護現場での使いやすさ装着補助具で介助負担を軽減可能巻き方の習熟が必要機器の準備とコード管理が必要
禁忌PAD・急性炎症・重度心不全同左同左、加えて急性期DVT存在時は要注意

実臨床ではこれらを併用することも多く、たとえば術後早期はIPCで間欠的圧迫を行い、離床後は弾性ストッキングに切り替える、といった使い分けが行われます。リンパ浮腫の集中治療期には弾性包帯で多層圧迫を行い、維持期に入ったら弾性ストッキングに移行するのが標準的な複合的理学療法(CDT)の流れです。

禁忌と装着後の皮膚観察ポイント

装着前に必ず確認すべき禁忌

弾性ストッキングは下肢の血流を圧迫により制限する性質を持つため、以下の状態では装着が禁忌または慎重投与となります。装着判断は医師が行いますが、介護職・家族介護者も基本的な禁忌は理解しておく必要があります。

  • 末梢動脈疾患(PAD):足関節上腕血圧比(ABI)が0.8未満の場合は原則禁忌。圧迫により末梢動脈の血流がさらに阻害され、虚血性壊死に至る事故が報告されている
  • 急性期DVT・蜂窩織炎などの急性炎症:腫脹が強い急性期は装着により症状悪化のリスク。医師の指示なしで装着しない
  • 重度心不全(NYHA III〜IV):下肢から心臓への静脈還流が急増し、循環動態を悪化させる可能性
  • 糖尿病性末梢神経障害:圧迫による皮膚障害が生じても自覚しにくく、潰瘍化のリスクが高いため慎重投与
  • 皮膚の感染・潰瘍・水疱・重度乾燥:装着部位に皮膚障害がある場合は治癒を待つ

装着後の皮膚観察チェックリスト

介護現場で日々確認すべき観察項目を整理します。異常を発見した場合は装着を中止し、看護師・医師へ速やかに報告します。

  • 足趾の血色:装着後にチアノーゼ・蒼白・冷感が出ていないか(オープントゥ型なら直接確認可能)
  • 食い込み・シワ:膝裏・足首・大腿部のシワは局所圧迫を生じ、皮膚障害の原因になる
  • 上端の丸まり:ストッキング上端が丸まると駆血帯のように下肢を強く絞扼し、深部静脈血栓症を誘発する報告がある
  • 痺れ・痛み・痒み:利用者が訴える場合は神経圧迫または皮膚アレルギーの可能性
  • 皮膚の発赤・水疱・剥離:圧迫圧過剰または素材アレルギーのサイン
  • 装着時間の遵守:就寝時は外す。介護現場では夜勤者が外し忘れないように引き継ぎを徹底

装着・脱着の介助は身体介護の一環として行われ、訪問介護では「医療職の指示に基づく日常的な医療処置」として実施されます。詳しくは関連する福祉用具の項目もあわせて参照してください。

よくある質問

Q1. 弾性ストッキングは24時間装着し続けてもよいですか?

原則として就寝時は外します。臥位では下肢の静脈圧が低下するため装着の必要性が低く、また長時間連続装着は皮膚障害や血流障害のリスクを高めます。例外として周術期のDVT予防で医師が24時間装着を指示する場合がありますが、その際も皮膚観察を頻回に行います。

Q2. 市販の着圧ソックスと医療用弾性ストッキングは何が違いますか?

市販の着圧ソックスは健康増進や疲労軽減を目的としており、圧迫圧の段階的設計や品質基準(JIS T9221)が満たされていない製品も存在します。下肢静脈瘤・リンパ浮腫・DVT予防など医療目的では、医師の処方に基づく医療用弾性ストッキングを使用してください。

Q3. 介護保険で購入できますか?

弾性ストッキング単体は介護保険の福祉用具レンタル・購入種目には含まれません。ただし、リンパ浮腫患者向けには医療保険の枠組みで「弾性着衣等の支給制度」があり、年間2回まで購入費用が療養費として支給されます。下肢静脈瘤などについては自費購入が原則です。

Q4. 装着が困難な高齢者にはどう対応すれば良いですか?

装着補助具(スライディング型・足台型)を使うと圧迫圧の高いストッキングでも装着しやすくなります。それでも困難な場合は、より圧迫圧の低い区分への変更や、ハイソックス型への切り替えを医師に相談する方法があります。家族介護では訪問看護師に装着指導を依頼するのも有効です。

Q5. 何か月で買い替えるべきですか?

メーカー推奨で3〜6か月が一般的な目安です。圧迫圧は洗濯回数に応じて低下し、生地が伸びてしまうと所定の治療効果が得られません。装着時に「以前より楽に履けるようになった」と感じたら劣化のサインです。

参考資料

まとめ

弾性ストッキングは段階的圧迫構造により下肢の静脈還流を促進する医療用ストッキングで、DVT予防・下肢静脈瘤・リンパ浮腫の維持期管理など幅広く用いられます。圧迫圧は弱圧・中圧・強圧の3段階で症状に応じて選択し、朝の起床時に装着・就寝時に外すのが原則です。介護現場では装着前後の皮膚観察と、PAD(末梢動脈疾患)・急性炎症・重度心不全といった禁忌の確認が事故防止の要となります。装着補助具の活用と看護師への報告体制を整え、安全な圧迫療法を支援していきましょう。

この用語に関連する記事

特養で働く看護師の仕事|配置基準・オンコール・給料42万円のリアル

特養で働く看護師の仕事|配置基準・オンコール・給料42万円のリアル

特別養護老人ホームで働く看護師の仕事内容を、配置基準・オンコール体制・給料相場・看取り対応まで網羅。病院から特養への転職で押さえるべき医療行為の範囲やキャリア設計を、厚労省データと現場データで解説します。

介護職から看護師になるには?准看護師経由の2段階ルートと費用・給付金を解説

介護職から看護師になるには?准看護師経由の2段階ルートと費用・給付金を解説

介護職から看護師になるルートを徹底解説。准看護師→正看護師の2段階ルート、働きながら通える定時制・通信制学校、専門実践教育訓練給付金(最大80%支給)や修学資金貸付制度、年収比較まで網羅。介護経験を活かしたキャリアチェンジを実現しましょう。

在宅酸素濃縮器のオン・オフは医行為|厚労省、介護職員の実施を改めて否認(規制改革WG)

在宅酸素濃縮器のオン・オフは医行為|厚労省、介護職員の実施を改めて否認(規制改革WG)

厚労省は2026年5月15日の規制改革推進会議ワーキング・グループで、在宅酸素濃縮器のオン・オフと流量変更は医師・看護師に限られる医行為であり、介護職員は喀痰吸引等3号研修修了者でも実施できないとの取り扱いを示した。介護現場の実務影響と利用者・家族への影響をやさしく整理する。

介護福祉士のフリーランス|業務委託・複数事業所掛け持ちの実態と収入

介護福祉士のフリーランス|業務委託・複数事業所掛け持ちの実態と収入

介護福祉士がフリーランスとして働く方法を、雇用契約と業務委託の違い・時給相場・開業手続きまで解説。介護保険サービスの制約や複数事業所掛け持ちの実態も公的データで分析します。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。