
ホスピタル・アット・ホームとは
ホスピタル・アット・ホーム(HaH)は、急性期入院が必要な患者を自宅で治療する医療モデル。米国400施設・英国Virtual Wardでの実績と日本での導入可能性を解説。
この記事のポイント
ホスピタル・アット・ホーム(Hospital at Home、HaH)は、本来であれば入院が必要な急性期患者を、病院ではなく自宅で病院同等の医療を提供して治療する医療モデルです。米国では約400施設、英国ではVirtual Wardとして全土に展開されており、医療費約30%削減・再入院率低下・院内感染やせん妄リスクの回避といった効果が報告されています。日本では2025年問題を背景に、訪問診療の発展形として注目され始めています。
目次
ホスピタル・アット・ホームとは
ホスピタル・アット・ホーム(Hospital at Home、以下HaH)は、急性期病棟と同等レベルの診療を在宅で提供する医療モデルです。肺炎・尿路感染症・心不全急性増悪など、本来であれば入院加療が必要な状態の患者を、自宅や入居施設において、医師・看護師の訪問・遠隔モニタリング・在宅での点滴投与などを組み合わせて治療します。
このモデルは1990年代に米国のジョンズ・ホプキンス大学で開発され、その後、英国NHS(国民保健サービス)の「Virtual Ward(仮想病棟)」、オーストラリアの「Hospital in the Home」など、各国で名称を変えながら発展してきました。共通する考え方は、「入院機能を病院の物理的空間から切り離し、患者の生活の場に持ち込む」という発想です。
2020年のCOVID-19パンデミックを契機に、米国ではCMS(メディケア・メディケイドサービスセンター)が暫定的に病院と同等の診療報酬を認める「Acute Hospital Care at Home」waiverを発令し、HaHは爆発的に普及しました。2020年時点で56施設だった導入病院は、2025年現在では約400施設・39州に拡大しています。
HaHは単なる「在宅医療の発展形」ではなく、急性期入院機能そのものを在宅化する取り組みであり、訪問診療や訪問看護とは目的・対象患者・医療密度の面で明確に区別される新しいカテゴリです。
HaHの対象疾患・対象患者
HaHはすべての急性期患者が対象になるわけではありません。ICU管理が必要な重症例や手術が必要な外科疾患は対象外であり、「入院加療が必要だが、状態が比較的安定しており、自宅で安全にモニタリング・治療が可能な内科系急性期疾患」が想定されています。
主な対象疾患(米国・英国の事例)
- 市中肺炎(中等症まで、酸素投与・抗菌薬点滴で管理可能なケース)
- 尿路感染症・腎盂腎炎(経口または点滴抗菌薬で対応可能)
- 蜂窩織炎(広範囲・敗血症リスクのない軽中等症)
- 心不全急性増悪(利尿薬調整・在宅酸素・連続モニタリングで対応)
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)急性増悪
- 気管支喘息発作
- 感染性胃腸炎・憩室炎(脱水・絶食管理が必要なケース)
- 術後管理(早期退院後の点滴・創部観察)
対象患者の条件
- 意思決定能力があり、本人または家族がHaH参加に同意していること
- 自宅環境が衛生的で、ベッド・電源・通信環境などの最低限のインフラが確保されていること
- 家族・介護者などのケアパートナーが常時または定期的に在宅していること
- 急変時に病院へ搬送できる距離・体制があること(一般に病院から半径30〜45分以内)
- 認知機能が著しく低下していない、もしくは家族支援で代替可能であること
これらの条件を満たす患者は、ER(救急外来)受診時または入院当日に主治医がHaH適応をスクリーニングし、本人同意のうえでHaHプログラムへ移行する流れが一般的です。
訪問診療・在宅医療との違い
HaHは日本で広く普及している在宅医療(訪問診療・訪問看護)とは、医療の密度・対象期間・目的において大きく異なります。
| 項目 | ホスピタル・アット・ホーム | 訪問診療 | 訪問看護 |
|---|---|---|---|
| 対象患者 | 本来入院が必要な急性期患者 | 通院困難な慢性期・終末期患者 | 医師の指示に基づく在宅療養者 |
| 期間 | 数日〜2週間程度(急性期治療完結まで) | 長期(数か月〜数年) | 長期 |
| 訪問頻度 | 1日複数回(医師・看護師が交代で) | 月1〜2回が基本 | 週1〜数回 |
| モニタリング | 24時間連続(バイタル機器・遠隔監視) | 訪問時のみ | 訪問時のみ |
| 提供される医療 | 点滴・酸素・心電図監視・血液検査・画像(ポータブル) | 診察・処方・看取り | 処置・服薬管理・リハビリ |
| 目的 | 急性期治療の完結(治癒・症状安定) | 慢性疾患管理・QOL維持 | 療養支援・自立支援 |
つまり、HaHは「入院機能の代替」であり、訪問診療・訪問看護は「外来通院・施設介護の代替」と整理できます。日本でHaHが普及するためには、現行の訪問診療制度に加え、急性期病院との連携・遠隔モニタリング体制・24時間対応の看護体制という独自のインフラ整備が必要になります。
日本でHaHが注目される背景
2025年に団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、入院需要のピークと病床不足が深刻化しています。厚生労働省は地域医療構想で急性期病床の削減と在宅医療の拡充を打ち出していますが、現行の在宅医療では急性増悪時に「再入院」しか選択肢がないのが実情です。
HaHは、この「急性期と在宅の谷間」を埋める仕組みとして注目されています。実証研究では以下のような効果が報告されています。
- 医療費30〜40%削減(入院食費・施設管理費の削減)
- 30日再入院率の有意な低下(自宅環境への早期適応)
- 院内感染・せん妄リスクの大幅減少(特に高齢者で顕著)
- 身体活動量の維持(病棟と異なり日常動作が継続)
- 患者・家族満足度の向上(家族と過ごす時間の確保)
一方、日本での実装には課題もあります。診療報酬上の位置づけが未整備であること、医師・看護師の24時間対応体制の確保、遠隔モニタリング機器の標準化、地域医師会・救急隊・訪問介護事業所との連携体制などが論点となっています。介護現場で働く方にとっても、HaHが普及すれば医療と介護の境界がより一層曖昧になり、医療的ケアへの理解と連携力が一層求められる時代になります。
よくある質問
Q. ホスピタル・アット・ホームは日本でも受けられますか?
A. 2026年5月現在、診療報酬上の正式な制度としての「Hospital at Home」は存在しません。一部の先進的な在宅療養支援診療所・病院が独自に類似の取り組みを行っていますが、全国的なサービスとしてはまだ確立されていません。今後の医療制度改革で導入が議論される可能性があります。
Q. 在宅医療や訪問診療と何が違うのですか?
A. 訪問診療は通院困難な慢性期患者を月1〜2回の定期訪問で支える仕組みですが、HaHは急性期入院が必要な患者を、1日複数回の医師・看護師訪問と24時間モニタリングで自宅治療するモデルです。提供される医療密度と対象期間が大きく異なります。
Q. どのような疾患が対象になりますか?
A. 米英での実績では、肺炎・尿路感染症・蜂窩織炎・心不全急性増悪・COPD急性増悪・喘息発作などの内科系急性期疾患が中心です。ICU管理が必要な重症例や手術が必要な外科疾患は対象外となります。
Q. 家族に介護や医療の知識がなくても大丈夫ですか?
A. HaHでは医師・看護師が頻回に訪問し、緊急時はオンコール対応するため、家族に医療技術は求められません。ただし、患者の状態を医療チームに伝える連絡係としての役割や、最低限の見守りは必要となります。
Q. 介護職としてHaHにどう関わる可能性がありますか?
A. 海外ではケアパートナーやヘルスケアアシスタントとして介護職がHaHチームに参加する事例があります。日本で制度化された場合、訪問介護員や介護福祉士が医療チームと連携し、生活援助・観察・記録などを担う役割が想定されます。
参考資料
- 厚生労働省「在宅医療の推進について」
- 医学書院 週刊医学界新聞「急性期医療の新たな形態、Home Hospital」第3549号(2024年)
- Hospital at Home Users Group「米国Hospital at Home公式サイト」
- NHS England「Virtual Wards(仮想病棟)プログラム」
- Levine DM, et al.「Hospital-Level Care at Home for Acutely Ill Adults: A Randomized Controlled Trial」Annals of Internal Medicine, 2020
まとめ
ホスピタル・アット・ホーム(HaH)は、急性期入院機能を病院から自宅へ移すという発想転換の医療モデルです。米国・英国を中心に普及し、医療費削減・再入院率低下・院内合併症の回避という三つの効果が実証されています。日本ではまだ正式な制度として確立されていませんが、2025年問題による病床不足と地域医療構想の進展により、訪問診療の発展形として導入論議が始まる可能性があります。介護現場で働く方にとっても、医療と介護の境界がさらに融け合う未来を見据え、医療連携への理解を深めておく価値があるテーマです。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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