
看取りとは
看取りは、回復が見込めない人生の最終段階にある方とご家族に寄り添う概念。厚労省ガイドラインに基づくACP(人生会議)、看取り期の身体変化、自宅・施設・病院での選択肢、緩和ケア・ターミナルケア・エンドオブライフケアとの違いをやさしく整理します。
この記事のポイント
看取りとは、医師が回復の見込みがないと判断した人生の最終段階で、ご本人の意思を最優先に、医療よりも「寄り添うこと」を中心に行う支援全体を指す概念です。厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を土台に、ご家族・在宅医・訪問看護・介護職などのチームが、ACP(人生会議)で繰り返し意思を確認しながら最期の時間を支えます。
目次
看取りとは|人生の最終段階を支える「概念」としての全体像
看取り(みとり)は、回復の見込みがないと医師が判断した方に対し、ご本人とご家族の希望を尊重しながら、人生の最終段階を穏やかに過ごせるよう支える「ケアの考え方」を指す言葉です。具体的な制度や加算名ではなく、医療・介護・家族の支援すべてを包む上位概念として使われます。
厚生労働省は2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定し、2018年に名称を改めた「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」として現行版を公表しています。このガイドラインは、医療行為の開始・不開始・変更・中止を、ご本人の意思を基盤に、医療・ケアチームによる合意形成のもとで進めることを原則としています。
看取りには、過剰な延命処置を避けて自然な経過を尊重する姿勢が含まれますが、これは「何もしない」ことを意味しません。痛みや苦痛を和らげる緩和的なケア、口腔ケアや体位変換などの日常的なケア、ご家族の心の支えなど、寄り添いの行為すべてが看取りの一部です。
看取りと「看取り介護」「看取り介護加算」の違い
混同されやすい言葉に「看取り介護」「看取り介護加算」がありますが、これらは別概念です。
- 看取り:人生の最終段階を支える「考え方・概念」全般
- 看取り介護:介護施設で死期の近い方に提供される具体的な「ケア実践」
- 看取り介護加算:特養などで看取り介護を提供した場合に算定できる「介護報酬の加算項目」
本記事は、もっとも広い「概念としての看取り」を扱います。施設での具体的なケアは 看取り介護、報酬制度の詳細は 看取り介護加算 をあわせてご覧ください。
看取り・終末期ケア・緩和ケア・ターミナルケア・エンドオブライフケアの違い
看取りに関連する用語は重なる部分が多く、現場でも厳密な使い分けが難しい言葉群です。WHO(世界保健機関)が国際的な定義を確立しているのは緩和ケアのみで、その他は日本国内での慣習的な使われ方が中心になります。下表で代表的な5つを整理します。
| 用語 | 主な対象 | ケアの中心 | 開始時期 |
|---|---|---|---|
| 看取り | 回復見込みのない方全般 | 寄り添い・自然な経過を尊重した支援 | 人生の最終段階(死亡前数週間〜数か月) |
| 終末期ケア | 余命が限られた方 | 医療と介護を統合した支援 | 終末期と判断された時点から |
| 緩和ケア | がん・心不全など命を脅かす病の方 | 痛み・苦痛の医学的緩和(WHO定義あり) | 診断直後から治療と並行 |
| ターミナルケア | 死が差し迫った方 | 医療を中心とした症状緩和 | 死亡前の数日〜数週間 |
| エンドオブライフケア | 年齢・疾患を問わず最期を迎える方 | その人らしい最期を包括的に支援 | 余命に関わらず人生の終盤を意識した時点から |
関係性の整理
5つの言葉はそれぞれ違う角度から「死に向き合うケア」を切り取った概念で、対立するものではなく重なり合います。看取りはこのうち、もっとも広く「ご本人と家族に寄り添う姿勢」を示す日本的な言葉です。
- 緩和ケアは治療と並行して早期から始まる「症状管理の医療技術」
- ターミナルケアは死期が迫った段階の「医療中心のケア」
- 看取りは介護・家族・地域も含む「最期を支える全体的な営み」
- エンドオブライフケアは欧米由来の概念で、看取りとほぼ同義で使われることも多い
近年は、緩和ケア・ターミナルケア・看取りを切り分けず、一体的に提供する「統合的アプローチ」が主流になっています。
看取り期に現れる身体変化と、家族が進めておきたい準備
看取り期に入ると、ご本人の身体には段階的に特徴的な変化が現れます。「何が起きているか」を事前に知っておくことで、ご家族が落ち着いて寄り添える時間が増えます。
身体に現れる主なサイン(時期の目安つき)
- 数週間前〜:食事・水分の摂取量が徐々に減る/日中の傾眠(うとうとする時間)が増える/会話が短くなる
- 数日前〜:血圧の低下や脈拍の不安定化/酸素飽和度の低下/体温の上昇・発汗
- 1〜2日前〜:四肢(手足)の冷感やチアノーゼ(皮膚の青紫色変化)/尿量の著しい減少
- 数時間前〜:呼吸のリズムの変化(チェーンストークス呼吸=深い呼吸と無呼吸を繰り返すパターン)/死前喘鳴(のどがゴロゴロ鳴る音)/下顎呼吸(あごを動かして呼吸する状態)
これらの変化は、医学的には自然な経過の一部であり、必ずしも本人の苦痛を意味しません。事前に医師や訪問看護師から説明を受けておくと、ご家族が「救急車を呼ぶべきか」と慌てる場面を減らせます。
家族が進めておきたい4つの準備
1. ACP(人生会議)で意思を共有する
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、ご本人が望むケアや治療について、家族・医療者と繰り返し話し合うプロセスです。「延命処置を望むか」「最期を過ごしたい場所はどこか」「会いたい人は誰か」など、答えが変わってもよい前提で対話を重ねます。厚生労働省はこれを「人生会議」という愛称で普及啓発しています。
2. 医療的な選択肢の事前合意
心肺停止時の蘇生処置(DNAR)、人工呼吸器、経管栄養、点滴の中止・継続など、判断が必要になる場面を主治医と事前に話し合い、家族間で合意しておきます。在宅看取りでは特に、急変時に救急車を呼ぶか・呼ばないかを在宅医と取り決めておくことが重要です(呼んでしまうと延命処置が前提となるため)。
3. 葬儀・連絡先・行政手続きの確認
葬儀社・菩提寺・親族の連絡先リスト、死亡診断書の受領方法、必要な行政手続き(死亡届・健康保険資格喪失・年金停止など)を事前にまとめておくと、最期の時間にご本人と向き合う余裕が生まれます。
4. 家族自身の心の準備とサポート体制
看取りはご家族にとっても大きな精神的負担を伴います。地域の在宅医療チーム、訪問看護師、ケアマネジャー、緩和ケア外来など、頼れる窓口を複数確保しておきましょう。看取り後のグリーフケア(遺族の悲嘆ケア)に対応している在宅医療機関や、遺族会・サポートグループも増えています。
看取りの場所と関わる職種|自宅・施設・病院それぞれの特徴
看取りの場所の選択肢と日本の現状
看取りが行われる場所は大きく4つに分かれます。厚生労働省「人口動態統計」によれば、日本で自宅で亡くなる方の割合は約20%前後で推移しており、依然として病院での死亡が最多(約65%)です。一方、特養や有料老人ホームなど介護施設での看取りは年々増加しています。
- 自宅:慣れた環境で家族と過ごせる。在宅医・訪問看護・訪問介護の連携が前提
- 介護施設(特養・有料・グループホームなど):看取り介護加算を算定する施設が増加。職員の見守りが24時間体制
- 病院(一般病棟):医療処置を受けやすい一方、面会や生活の自由度は制限される
- ホスピス・緩和ケア病棟:がん・エイズなどの方が対象。痛みのコントロールに専門特化
在宅看取りに関わる主な職種
- 在宅医(訪問診療医):定期訪問と24時間オンコールで医学的判断を担う。死亡診断書を発行する
- 訪問看護師:痛みのコントロール、医療処置、家族への説明と心のケア
- 訪問介護員(ホームヘルパー):身体介護・生活援助を通じて日常を支える
- ケアマネジャー:ケアプランの調整、各サービス間の連絡役、家族の相談窓口
- 家族・親族:もっとも長くそばにいる「ケアの中心」。専門職はこの家族を支える
緩和ケアとの統合という潮流
従来は「治療を終えてから緩和ケアへ」という流れが一般的でしたが、現在は診断初期から緩和ケアを並走させ、そのまま看取りまで切れ目なく支援する「早期緩和ケア(Early Palliative Care)」の考え方が広がっています。看取りもこの連続したケアの最終局面と位置づけられるようになりました。
看取りについてよくある質問
Q1. 看取りは「何もしないこと」と同じですか?
いいえ、違います。看取りは過剰な延命処置を避けて自然な経過を尊重する姿勢ですが、痛みや苦痛を和らげる緩和的ケア、口腔ケア、体位変換、家族への精神的支援など、寄り添う行為はむしろ手厚くなります。「治す医療」から「支える医療・ケア」へ重心を移す考え方です。
Q2. 自宅で看取りをすると、急変したときどうすればよいですか?
事前に在宅医と「急変時の対応方針」を取り決めておくことが最重要です。看取り方針に同意している場合は、救急車を呼ばずに在宅医や訪問看護ステーションへ連絡します。救急車を呼ぶと延命処置が前提となり、本人の希望と異なる結果になる可能性があるためです。在宅医療チームは24時間オンコールで対応する体制を整えています。
Q3. ACP(人生会議)はいつから始めればよいですか?
厚生労働省は「健康なうちから」始めることを推奨しています。本人の判断能力が保たれているうちに、価値観・最期の過ごし方・延命処置の希望などを家族や医療者と話し合います。ACPは一度決めたら終わりではなく、心身の状況変化に応じて何度でも見直すことが原則です。
Q4. 看取り期にあらわれる呼吸の変化(チェーンストークス呼吸など)は苦しいのですか?
多くの場合、ご本人は意識レベルが低下しており苦痛を感じていないとされます。チェーンストークス呼吸(深い呼吸と無呼吸を繰り返す)、下顎呼吸(あごで呼吸する状態)、死前喘鳴(のどがゴロゴロ鳴る音)は、自然な経過の一部です。心配な場合は遠慮なく訪問看護師や在宅医に確認してください。
Q5. 看取り後、家族の心のケア(グリーフケア)はどこで受けられますか?
在宅医療機関や訪問看護ステーションの一部では、看取り後にご家族への訪問やお電話によるグリーフケアを提供しています。地域包括支援センターや市区町村の保健センター、遺族会・サポートグループ、緩和ケア外来でも相談可能です。喪失感や罪悪感は自然な感情であり、ひとりで抱え込まないことが大切です。
参考資料・出典
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まとめ|看取りは「医療の終わり」ではなく「最期まで人生を支える営み」
看取りは、回復が見込めない人生の最終段階で、ご本人の意思を最優先に寄り添うケアの考え方です。厚生労働省ガイドラインに基づき、ACP(人生会議)で本人の希望を繰り返し確認しながら、医療・介護・家族が連携して支えていきます。緩和ケアやターミナルケアと重なり合いながらも、看取りは「日常生活の延長線上にある最期」を尊重する、日本的でやさしい概念です。
自宅・施設・病院・ホスピスのいずれの場所であっても、事前の準備と信頼できるチームがあれば、穏やかな看取りは実現できます。早すぎる準備はありません。気になった今が、ご家族と「人生会議」を始めるタイミングです。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。