MCI高齢者の運動教室、オンラインでも対面と同等の効果|長寿研の研究と介護予防への示唆
介護職向け

MCI高齢者の運動教室、オンラインでも対面と同等の効果|長寿研の研究と介護予防への示唆

国立長寿医療研究センターのJ-MINT研究解析で、MCI高齢者のオンライン運動教室が対面と同程度の運動強度・参加率を確保できることが判明。研究の数値と限界、通いの場・総合事業など介護予防現場への示唆を解説。

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国立長寿医療研究センターは2025年4月、軽度認知障害(MCI)をもつ高齢者のオンライン運動教室が、対面型と同程度の参加率と運動強度を確保できることを発表しました。認知症予防の多因子介入試験「J-MINT研究」の参加者207名を解析したもので、参加率はオンラインが対面以上(東京都92%対86%、愛知県100%対92%)。運動強度は十分な運動時間を確保できれば対面と同程度に達し、オンライン実施中の転倒事故はゼロでした。移動困難な高齢者や人手不足の介護予防現場にとって、運動教室のオンライン化が現実的な選択肢になり得ることを示すエビデンスです。

目次

「運動が認知症予防に効果がある」ことは広く知られていますが、その効果を支えるのは、運動教室にきちんと通い続ける(参加率)こと、そして心拍が十分に上がる(運動強度)ことの2つです。コロナ禍では対面の運動教室が次々と中止に追い込まれ、移動が難しい高齢者ほど運動の機会を失いました。こうした状況で「画面越しの運動でも、対面と同じ効果を出せるのか」という問いに、国立長寿医療研究センター(長寿研)が大規模な認知症予防試験のデータで答えを出しました。これは介護予防の現場が直面する「人手不足」と「通えない人の取りこぼし」という2つの課題に、直接かかわるテーマでもあります。

本記事では、この研究で実際に何がわかったのかを数値とともに正確に整理したうえで、研究の限界、そして介護職・介護予防に関わる人が押さえておきたい「現場への示唆」を解説します。通いの場や介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の担い手不足が深刻化するなか、オンライン化が現場の何を変え得るのかという視点でまとめます。

この研究の全体像|J-MINT研究とは何か

今回のエビデンスは、単独の小規模調査ではなく、認知症予防の分野で日本を代表する大規模ランダム化比較試験「J-MINT研究」の一部を解析したものです。まずこの土台となる研究の枠組みを押さえておくと、結果の意味が正確に理解できます。

J-MINT研究の基本設計

J-MINT(Japan-Multimodal Intervention Trial for Prevention of Dementia)研究は、65歳から85歳までのMCIをもつ高齢者531名を対象とした、18か月間のランダム化比較試験です。参加者は介入群(265名)と対照群(266名)にランダムに振り分けられました。多数の人を「くじ引き」のように2群に分け、介入の有無だけが違う状態をつくって効果を比べる設計で、エビデンスの信頼性が高い研究手法とされています。

介入群には、(1)生活習慣病の管理、(2)週1回・全78回の運動教室、(3)全15回の栄養相談、(4)タブレット端末を使った認知トレーニング、という4本柱の多因子介入が18か月にわたって提供されました。リストバンド型の活動量計とタブレットPCが配布されたのも特徴です。対照群には健康情報の提供と生活習慣病の管理のみが行われました。

なぜ「オンライン」の解析が生まれたのか

J-MINT研究の実施期間はちょうど新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックと重なりました。緊急事態宣言が発出された地域では対面の運動教室が実施できなくなり、研究チームは試験の途中からビデオ通話システム(Zoom)を使ったオンライン運動教室を導入しました。参加者は配布されたタブレットPCを使い、自宅から運動教室に参加したのです。

つまり今回の解析は、当初から計画されたものではなく、パンデミックという予期せぬ事態への対応として生まれた「自然実験」に近いデータを後から比較したものです。この経緯は結果を読み解くうえで重要なので、後半の「研究の限界」で改めて触れます。

なぜ「参加率」と「運動強度」が重要なのか

この研究が参加率と運動強度という2つの指標に注目したのには、明確な理由があります。運動による認知機能低下の予防効果を最大化するには、(1)運動教室に十分な回数きちんと参加すること、(2)心拍が適切に上がる強度で運動すること、の両方が欠かせないとされているからです。どちらか一方が欠けると、運動の「量」や「質」が不足し、期待される効果が得られにくくなります。

参加率(アドヒアランス)の意味

どれほど効果的なプログラムでも、参加しなければ意味がありません。運動介入では、決められた回数を継続して受けられるか(アドヒアランス)が成果を左右します。オンライン化で懸念されたのは、アプリへの接続の難しさで参加をあきらめる人が増え、参加率が落ちるのではないかという点でした。しかし結果は逆で、移動負担がない分、参加率はむしろ高まりました。

運動強度の意味

認知機能の維持・向上には、軽すぎる運動では不十分で、ある程度心拍が上がる中〜高強度の運動が有効とされています。J-MINT研究では運動強度40〜80%を目標に設計されていました。オンラインでは、タブレットの小さな画面を見ながらでは動きが小さくなり、強度が下がるのではないかと懸念されていました。本研究は、運動時間さえ確保できればこの懸念は避けられることを示しました。

研究結果の数値|参加率と運動強度を地域別に読む

研究チームは、介入群のうち最後まで研究に参加した207名を解析対象としました。緊急事態宣言の発出期間は地域で異なったため、愛知県(164名)と東京都(43名)を分けて比較しています。評価したのは「参加率」と「運動強度」の2つです。

運動強度の測り方

運動強度は、配布されたリストバンド型活動量計の心拍データから、次の式で算出されました。

運動強度(%) =〔(運動時の最大心拍数 − 安静時心拍数)÷(最大心拍数 − 安静時心拍数)〕× 100

最大心拍数は「207 − 0.7 × 年齢」で推定しています。J-MINT研究では、認知機能低下予防に有効とされる中〜高強度を狙い、運動強度が40%から80%になるようプログラムが設計されていました。この「40〜80%」という基準が、結果を評価するうえでの物差しになります。

地域別の開催状況

運動教室は両地域とも全78回。このうちオンライン実施は、愛知県が2回のみ、東京都が24回でした。東京都の方が緊急事態宣言の期間が長く、オンライン化の比重が大きかったことがわかります。

参加率の結果

参加率(出席率)の中央値は、両地域ともオンラインが対面を上回りました。

  • 東京都:対面86% / オンライン92%(P = 0.046、有意差あり)
  • 愛知県:対面92% / オンライン100%(P < 0.001、有意差あり)

移動の手間がなく自宅から参加できることが、出席率の高さにつながったと考えられます。

運動強度の結果

運動強度の中央値は地域で結果が分かれました。

  • 東京都:対面51.7% / オンライン48.8%(P = 0.279、有意差なし)
  • 愛知県:対面48.1% / オンライン32.4%(P < 0.001、オンラインが低い)

東京都では対面とオンラインで運動強度に統計的な差は認められませんでした。一方、愛知県ではオンラインの運動強度が明らかに低くなりました。研究チームはこの差について、愛知県はオンライン実施が2回と少なく、しかもその初回は接続確認や安全・手順の確認に時間を取られ、十分な運動時間を確保できなかったことが要因と説明しています。裏を返せば、運動時間さえ確保できれば、オンラインでも対面と同程度の運動強度に達し得る、というのが研究チームの結論です。

安全性

オンライン運動教室の実施中、転倒などの事故は発生しませんでした。自宅での実施は転倒リスクが懸念されますが、本研究の範囲では安全に運営できたことが確認されています。

オンライン運動教室と対面運動教室の比較

研究結果と、現場運営の観点を合わせて、オンラインと対面の運動教室を整理します。数値は本研究(J-MINT解析)の中央値です。

参加率・運動強度の比較

項目対面運動教室オンライン運動教室
参加率(東京都)86%92%
参加率(愛知県)92%100%
運動強度(東京都)51.7%48.8%(有意差なし)
運動強度(愛知県)48.1%32.4%(運動時間不足が要因)
移動の負担会場までの移動が必要不要(自宅から参加)
感染症・悪天候時中止になりやすい継続しやすい

運営面でのメリットと注意点

オンラインの強みは、移動が困難な高齢者や遠隔地に住む人も参加でき、感染症の流行時や災害・悪天候時にも運動習慣を途切れさせにくい点です。会場確保や送迎の負担も軽くなります。

一方で注意したいのは、初回の接続確認や手順説明に時間が取られると運動時間そのものが削られ、運動強度が下がるという点です。タブレットの小さな画面を見ながらの運動になるため、指導者は声かけや見本の見せ方を画面越し向けに工夫する必要があります。機器の接続支援や、操作に不慣れな高齢者へのサポート体制も欠かせません。

介護予防現場への示唆|オンライン化が変えるもの

ここからは、この研究結果を介護予防の現場でどう受け止めるべきか、当サイトの視点で考察します。研究そのものはコロナ禍の緊急対応から生まれたデータですが、その含意はパンデミック後の介護予防運営にも及びます。

1. 通いの場・総合事業の担い手不足への現実解になり得る

介護予防の現場では、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の通所型サービスや、住民運営の「通いの場」が運動機会の中心です。しかし、これらは送迎・会場運営・指導者の確保といった人的リソースに大きく依存します。少子高齢化で担い手が減り続けるなか、1人の指導者が画面越しに複数会場・複数地域の参加者へ同時に運動指導できるオンライン方式は、人手不足を補う現実的な選択肢になり得ます。本研究が「参加率はむしろオンラインが高い」と示したことは、この方向性を後押しする材料です。

2. 「通えない人」を取りこぼさない仕組みになる

従来の対面型運動教室は、会場まで来られる人しか対象にできませんでした。足腰が弱り外出が億劫になった高齢者、交通の便が悪い中山間地域の高齢者ほど、運動の機会から遠ざかるという逆説があります。MCI段階の高齢者にとって運動の中断は認知機能低下のリスクに直結します。オンラインなら「通えないから諦める」を減らせる可能性があり、介護予防のすそ野を広げる手段として注目されます。

3. 介護職に求められるスキルが変わる

運動教室のオンライン化が進めば、介護職や運動指導員に求められるのは「対面での介助技術」だけではなくなります。画面越しに正しい姿勢や強度を伝える指導力、タブレットやビデオ通話の操作サポート、接続トラブルへの対応といったICTリテラシーが新たな専門性になります。介護DXの文脈で語られる業務効率化とは別に、「ケアの届け方そのもの」がデジタル化する流れと捉えるべきでしょう。

4. 「運動時間の確保」が成否を分ける

本研究の最大の教訓は、オンラインでも運動強度を担保できるが、それには十分な運動時間が前提という点です。愛知県でオンラインの強度が低かったのは、接続確認に時間を取られたためでした。現場で導入する際は、運動開始前に接続を済ませる段取り、操作に慣れるまでの伴走支援、初回の余裕を持ったタイムスケジュールが、効果を左右する実務上の鍵になります。

現場でオンライン運動教室を導入するときの実務ポイント

研究知見を実践に落とし込むなら、以下の点が参考になります。いずれも本研究の結果と、研究チームが示した運営上の課題から導いたものです。

接続・操作の壁を最初に越える

高齢者にとって最大のハードルは運動そのものより機器の操作です。初回は運動より「接続できること」を目標にし、家族や地域サポーターの協力も得ながら、操作に慣れる時間を別枠で確保すると、その後の運動時間を圧迫せずに済みます。導入前に個別の接続テストを済ませておくと、本番の混乱を大きく減らせます。

運動時間を削らない段取り

本研究で運動強度が下がった主因は運動時間不足でした。開始時刻の前に接続を済ませる、説明は短くテンポよく、見本は大きくゆっくり見せるなど、限られた画面時間を運動に充てる工夫が効果に直結します。回を重ねて参加者が慣れれば、確認に要する時間は短縮され、運動時間を確保しやすくなります。

安全への配慮

研究では転倒事故ゼロでしたが、自宅は会場と違い環境がばらばらです。周囲に物がないスペースの確保、椅子につかまって行う種目の選択、体調確認の声かけなど、画面越しでも安全を見守る仕組みを組み込みましょう。緊急時の連絡先を参加者と共有しておくことも欠かせません。

対面とのハイブリッドも選択肢

オンラインは万能ではなく、対面ならではの直接の介助や仲間との交流の価値もあります。普段は対面、悪天候や感染症流行時はオンラインに切り替えるハイブリッド運用なら、継続率と運動の質を両立しやすくなります。参加者の状態や地域の事情に応じて使い分ける柔軟さが、長く続く運動習慣づくりの土台になります。

よくある質問(FAQ)

Q. この研究はどこが発表したものですか?

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター(認知症先進医療開発センターの杉本大貴外来研究員、櫻井孝研究所長らの研究グループ)が、東京都健康長寿医療センターとの共同研究として2025年4月24日に発表しました。原著論文はThe Journal of Aging Research & Lifestyle(2025年)に掲載されています。

Q. オンラインの方が効果が高いと言い切れますか?

言い切れません。参加率はオンラインが対面以上でしたが、運動強度は東京都では差がなく、愛知県ではオンラインが低い結果でした。研究チームの結論は「十分な運動時間を確保できれば、運動強度も対面と同程度に達し得る」というものです。条件付きで同等、というのが正確な理解です。

Q. 解析の対象は何人ですか?

J-MINT研究の介入群のうち、最後まで研究に参加した207名(愛知県164名、東京都43名)が今回の解析対象です。J-MINT研究全体の参加者は531名(介入群265名・対照群266名)です。

Q. MCIとは何ですか?

MCI(軽度認知障害)は、認知機能の低下はあるものの日常生活には大きな支障がない、認知症と健常の中間にあたる状態です。この段階で運動などの介入を行うことが、認知症予防の観点から重要とされています。

Q. 認知症の予防効果まで証明されたのですか?

いいえ。今回明らかになったのは「参加率」と「運動強度」をオンラインでも確保できるという点までです。オンライン運動教室が認知機能の維持・向上にどう寄与するかは、今後さらに詳細な検証が必要だと研究チームも述べています。

研究の限界|結果を過大評価しないために

この研究は介護予防のオンライン化を考えるうえで貴重なエビデンスですが、結果を正しく扱うために押さえておくべき限界があります。

1. 当初から計画された比較ではない

オンラインと対面の比較は、コロナ禍で対面が実施できなくなったことに対応して事後的に行われたものです。参加者を計画的にオンライン群と対面群に振り分けたわけではないため、純粋な無作為比較とは性質が異なります。

2. オンライン実施回数・対象数が限られる

特に愛知県はオンライン実施が2回のみ、東京都の解析対象は43名と少数です。サンプルが小さいと結果が偶然に左右されやすく、地域差(愛知県で運動強度が低かったこと)も実施回数の少なさが影響している可能性があります。

3. 認知機能への効果は未検証

今回示されたのは参加率と運動強度という「過程の指標」までです。オンライン運動教室が実際に認知症の予防・認知機能の維持にどれだけ寄与するかという「結果の指標」は、本解析では検証されていません。研究チーム自身が今後の課題として明記しています。

4. 機器配布が前提の環境だった

参加者にはタブレットPCと活動量計が配布されていました。一般の現場でこれと同じ環境を再現するにはコストがかかり、機器を持たない・操作できない高齢者をどう支えるかという課題は残ります。

これらを踏まえると、本研究は「オンライン運動教室は対面の代替として有望だが、効果の最終確認と運営条件の整備はこれから」という段階にあると理解するのが妥当です。

参考文献・出典

まとめ

国立長寿医療研究センターのJ-MINT研究解析は、MCIをもつ高齢者の運動教室について、オンラインでも対面と同程度の参加率・運動強度を確保できることを示しました。参加率はむしろオンラインが上回り(東京都92%対86%、愛知県100%対92%)、運動強度も十分な運動時間さえ確保できれば対面と同等に達し、実施中の転倒事故もありませんでした。

一方で、これはコロナ禍の緊急対応から生まれた事後的な比較であり、対象数も限られ、認知機能そのものへの効果はまだ検証されていません。結果を過大評価せず、「対面の有望な代替手段だが、運営条件の整備と効果の最終確認はこれから」と捉えるのが適切です。とりわけ愛知県でオンラインの運動強度が低くなった事実は、オンラインなら何でも対面の代わりになるという楽観を戒める材料でもあります。鍵を握るのは技術そのものではなく、運動時間をきちんと確保できる運営設計です。

それでも、担い手不足が深刻な通いの場や総合事業の現場にとって、運動教室のオンライン化は「通えない人を取りこぼさない」現実的な一手になり得ます。介護職や運動指導員には、画面越しに運動を正しく届ける指導力やICTサポート力という新しい専門性が求められるようになるでしょう。さらに今後、地域版J-MINTプログラムのように研究成果を実装へつなぐ動きが各地の自治体で広がれば、こうしたオンライン活用の知見が標準的な選択肢として根づいていく可能性があります。介護予防のかたちが、デジタルを取り込みながら静かに変わり始めています。本記事で紹介した数値や研究設計は、出典に挙げた一次情報で確認できますので、現場で活用を検討する際の足がかりにしてください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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