認知症の行方不明者、昨年も1万7千人超|警察庁統計が示す「3日以内」の壁と見守りの課題

認知症の行方不明者、昨年も1万7千人超|警察庁統計が示す「3日以内」の壁と見守りの課題

警察庁が公表した最新統計で、認知症またはその疑いによる行方不明者は1万7,345人と高止まり。所在確認は約95%が3日以内、死亡確認は573人。GPS機器や自治体の見守りネットワークの効果と、介護現場・家族が取るべき備えを解説する。

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警察庁が公表した最新統計で、認知症またはその疑いを原因・動機とする行方不明者は1万7,345人にのぼり、依然として高い水準で推移している。年間の届出受理数はここ数年1万7千〜1万9千人規模で高止まりし、統計を取り始めて以降おおむね増加傾向が続いてきた。所在確認された人の約95%は届出から3日以内に見つかる一方、発見までに日数がかかるほど死亡確認の割合が高まる。介護現場や家族にとっては、GPS機器や自治体の見守り・SOSネットワークを「行方不明が起きる前」に整えておくことが、命を守る備えに直結する。

目次

解説動画

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介護に関わる人にとって、認知症のある人が一人で出かけたまま戻らない「行方不明」は、けっして他人事ではない。夜間に施設を離れてしまう、通い慣れた道で帰り道が分からなくなる、旅行先で家族とはぐれる。どれも特別な事案ではなく、日常のなかで起こりうる。少し目を離した数分のあいだに、いつもと違う行動が始まることもある。

警察庁は毎年、全国で受理した行方不明者届の状況を集計し、そのなかで「認知症またはその疑い」を原因・動機とする人数を公表している。最新の集計でも、この数は1万7千人を超えて高止まりした。数字の背後には、届け出た家族の不安と、限られた時間のなかで捜索にあたる関係者の緊張がある。統計の一件一件が、どこかの家庭で実際に起きた出来事なのだと考えると、数字の重みが変わってくる。

この記事では、警察庁の公式統計をもとに、認知症の行方不明者数の推移、所在確認までにかかる日数、死亡確認された人数といった内訳を正確に整理する。そのうえで、GPS機器や自治体の見守りネットワークがどこまで効いているのかを統計から読み解き、介護現場と家族が「起きる前」にできる備えへとつなげたい。事件性を強調してあおるためではなく、防げる悲劇を一つでも減らすための現状把握として読んでほしい。

認知症の行方不明者数と近年の推移

認知症の行方不明者は1万7,345人で高止まり

警察庁の最新集計によると、原因・動機が「認知症またはその疑い」に分類された行方不明者の届出受理数は1万7,345人だった。前年からは776人減ったものの、数字そのものは依然として高い水準にある。行方不明者全体(8万486人)のなかで、疾病関係が最も多く、そのうち認知症が占める割合は21.6%にのぼる。原因・動機別に見ると、認知症は疾病関係の大半を占める中心的な要因になっている。

ここでいう「行方不明者数」は、警察に行方不明者届が出された人の延べ人数であり、届出受理時に届出人から「認知症またはその疑いにより行方不明になった」と申し出があったものを計上している。つまり実際に自宅や施設から一人歩きしてしまった件数の、あくまで届出ベースの規模である。届け出に至らずに家族や施設内で解決したケースは含まれないため、実際に「一人歩きで戻れなくなる」出来事は、この数字よりもさらに多いと考えるのが自然だ。

統計を取り始めて以降、増加を続けてきた

この数字は、単年で突出したものではない。近年の推移を追うと、平成28年に約1万5千人だった認知症の行方不明者数は年々増加し、令和4年に1万8,709人、令和5年には1万9,039人まで達した。令和6年は1万8,121人、そして最新の集計で1万7,345人と、直近2年はやや減少に転じているものの、依然として1万7千人を超える高い水準が続いている。10年前と比べれば、認知症を原因とする行方不明の届出は明確に増えた。

警察庁が別途発出した通達でも、認知症に係る行方不明者届の受理数は「年々増加し、令和5年には統計をとり始めた平成24年以降で最多」となり、「この傾向は今後も続くことが見込まれる」と明記されている。高齢化の進行と認知症のある人の増加を背景に、行方不明という事案が構造的に増えてきた流れは変わっていない。介護に関わる人にとって、この数字は「いつか自分の利用者や家族に起こりうること」として受け止めておく必要がある。

男性が6割弱、80代以上に集中

認知症の行方不明者を男女別に見ると、男性が9,715人(構成比56.0%)、女性が7,630人(構成比44.0%)で、男性の割合がやや高い傾向が続く。年齢層別では80歳以上が最も多く、次いで70歳代が多い。行方不明者全体では10歳代・20歳代が多数を占めるのとは対照的に、認知症の事案は高齢層に強く集中している。この年齢分布そのものが、認知症の行方不明が他の行方不明とは性質の異なる事案であることを物語っている。

この年齢構成は、捜索の難しさにも直結する。自力での帰宅が困難であること、体力面から屋外で長時間過ごすことが命の危険につながりやすいこと、氏名を名乗れず身元確認に時間がかかる場合があること。いずれも高齢の認知症のある人に特有の事情であり、警察が「特異行方不明者」として初期段階から最大限の捜索態勢を取る根拠になっている。届出を受けた警察は、規則に基づいて生命・身体に危険が生じるおそれがあると判断し、通常より手厚い発見活動を迅速に立ち上げる仕組みになっている。

所在確認までの日数と死亡確認の内訳

所在確認された人の約95%は3日以内に見つかっている

統計のなかで最も重要なのは、発見までの時間である。最新の集計で所在確認等がなされた認知症の行方不明者のうち、届出受理から所在確認までの期間は「受理当日」が最も多く1万1,369人、次いで「2日から3日以内」が4,487人だった。届出から3日以内に所在確認できた割合は非常に高い。行方不明者全体でも、届出受理から所在確認までの期間は受理当日が最も多く3万3,322人、次いで2日から3日以内が2万180人であり、多くの人が短期間で見つかる傾向は共通している。

警察庁のトピックス資料は、認知症の事案についてこの点を数字で示している。所在確認・死亡確認された認知症の行方不明者のうち、94.8%(1万6,729人中1万5,856人)が受理から3日以内に所在確認されている。裏を返せば、最初の3日間で見つけられるかどうかが、生死を分ける大きな分岐点になっているということだ。この「3日」というラインは、家族や介護者が捜索にどれだけ早く踏み切れるかを考えるうえでの重要な目安になる。

「3日を過ぎる」と死亡確認の割合が高まる

時間の経過は、そのまま結果の深刻さに反映される。受理から4日以降に所在確認・死亡確認された認知症の行方不明者のうち、無事に所在確認された人の割合は53.7%(559人中300人)にとどまる。さらに、受理から15日以降は死亡確認の割合の方が高くなる、と警察庁は分析している。発見が遅れるほど、生存して見つかる可能性は下がっていく。時間との勝負であるという当たり前の事実が、統計の数字としてはっきり表れている。

実際、最新の集計では認知症の行方不明者のうち死亡確認された人が573人にのぼった。所在確認された1万6,156人と比べれば一部だが、決して小さな数ではない。届出受理からの日数別に見ると、死亡確認は「2日から3日以内」が187人、「4日から7日以内」が67人と、ある程度時間が経過した段階に多く分布している。早期発見が命に直結するという冷厳な事実が、数字の上でも裏づけられている。この573人という数字を一人でも減らすことが、統計を読む目的であるべきだ。

発見の端緒は「民間通報」が約半数

では、行方不明になった人は誰によって見つかっているのか。所在確認等がなされた認知症の行方不明者(1万7,268人)の発見の端緒を見ると、「民間通報」が8,114人(47.0%)と最も高い割合を占める。次いで警察による立ち回り調査(1,021人)や職務質問(2,037人)が続く。つまり、地域の住民や事業者が「気づいて通報する」ことが、発見のおよそ半分を支えている。

この事実は、後述する見守りネットワークの意義を裏づける。警察の捜索力だけでなく、行方不明者の顔や特徴が地域に共有され、気づいた人がすぐ警察につなげる仕組みがあるかどうかが、発見率を左右する。コンビニやガソリンスタンド、公共交通機関の職員など、日常的に不特定多数と接する事業者の「気づき」も大きな役割を果たす。統計は、地域社会の「早い立ち上がり」がいかに重要かを静かに示している。

GPS・自治体ネットワークはどこまで効いているか

GPS機器を持たせていた事案は「当日発見」が約85%

ここからは、統計が示す対策の効果を読み解く。警察庁のトピックス資料は、GPS機器等(位置情報を記録・送信する機器や紛失防止タグ)を活用して所在確認・死亡確認された認知症の行方不明者について、単独で集計している。その結果、GPS機器等を活用した事案では約85%(139人中118人)が受理当日に所在確認されていた。

認知症の行方不明者全体で当日に所在確認された割合が68.0%であることと比べると、GPS機器等を持っていたケースの「当日発見率」は明確に高い。件数自体はまだ139人と限られるが、位置情報という手がかりがあれば、家族やケアマネジャーが取得した位置に基づいて短時間で駆けつけられることを、統計は具体的な事例とともに示している。自宅から約130キロメートル離れた駅で約2時間後に発見された事案、約6キロメートル離れた路上で約1時間後に保護された事案、紛失防止タグの位置情報で病院から約8キロメートル離れた場所で約3時間後に保護された事案など、いずれも位置情報が決め手になっている。130キロメートルという距離は、電車に乗ると一人歩きが想像以上に遠くまで及ぶことを示しており、位置情報なしに徒歩圏だけを捜索していては見つけられなかった可能性が高い。

自治体の情報発信と見守りネットワークが発見を早める

もう一つ、統計と事例から浮かび上がるのが、自治体の初動の速さだ。警察から情報提供を受けた自治体が、防災行政無線や公式LINEで即座に広報し、それを見た地域住民の通報で発見に至った事案が複数報告されている。捜索隊の結成やドローンを活用した発見活動で、雑木林の中から保護された事例もあり、その後に自治体からGPS機器が貸与されて再発防止につながったケースもある。発見の端緒の約半分が民間通報である以上、「行方不明の情報をいかに早く、広く地域に届けるか」が発見率を直接押し上げる。

こうした地域の仕組みは、制度としても後押しされている。厚生労働省は認知症総合戦略推進事業のなかで、都道府県による広域の見守りネットワーク構築や、市町村の見守り・SOSネットワーク事業を支援してきた。自力での帰宅が困難な認知症のある人を、警察・自治体・住民・介護事業者が役割分担しながら早期に発見・保護する体制づくりが、各地で進められている。市町村によって整備状況には差があるものの、統計が示す「3日以内の壁」を越えるための現実的な武器が、この地域連携である。介護事業者がこのネットワークの一員として登録・協力することも、地域の発見力を底上げする。

認知症基本法が「意思の尊重」という条件を課している

ただし、対策は本人の尊厳と切り離せない。令和5年に成立し令和6年1月に施行された共生社会の実現を推進するための認知症基本法は、認知症のある人の意思決定の支援と権利利益の保護を基本的施策に掲げている。警察庁の通達も、GPS機器等の周知を求める一方で、「認知症の人の意向に反してGPS等機器を装用させることがないよう配慮する」ことを明記している。安全のためであっても、本人を無断で監視することは基本法の理念に反しかねない。

つまり、見守りの技術は「本人に無断で監視する道具」ではなく、本人と家族が納得したうえで使う安全網でなければならない。令和6年12月に閣議決定された認知症施策推進基本計画も、住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる社会づくりを掲げている。行方不明対策は、行動を制限することではなく、外出の自由を保ちながら万一に備えるという発想で組み立てる必要がある。「一人歩きを止める」のではなく「一人歩きしても安全に帰ってこられる」地域をどうつくるか。統計が突きつける課題の本質は、そこにある。

介護に関わる人が、こうした制度や事例を知っておくこと自体が、地域の発見力の一部になる。家族から相談を受けたときに、GPS機器の貸与制度や見守りネットワークの登録先をすぐ案内できるかどうかで、備えの厚みは大きく変わる。

介護現場と家族が取るべき備え

介護現場が「起きる前」に備えること

統計が示す教訓を、現場の実務に落とし込みたい。まず施設・事業所で有効なのは、離設(りせつ)が起きたときに即座に動ける準備である。利用者ごとに、当日の服装・持ち物、立ち回りやすい場所、過去に一人歩きした方向などを記録し、いざというときに警察へ提供できる形で整理しておく。警察が届出人から聴取する項目とほぼ重なるため、あらかじめまとめておくだけで初動が大きく変わる。氏名を名乗れるか、自称している通称名はないか、といった情報も、発見・照会の手がかりになる。

次に、身元がすぐ分かる工夫だ。氏名を名乗れない場合に備え、着衣や靴への記名、名札、QRコードシールの活用は、警察庁も自治体への働きかけとして重視している。発見されても身元が判明しないと保護から帰宅までに時間がかかるため、この一手間が「早く家に帰す」ことに直結する。とくに認知症のある人は、保護された時点で自分の氏名や住所を伝えられないことが少なくない。持ち物一つに書かれた名前が、家族との再会を数日早めることもある。

家族が用意しておきたい安全網

在宅で認知症のある家族を介護している場合も、できる備えは多い。統計が示す通り、GPS機器や紛失防止タグは当日発見率を大きく高める。靴やカバンに入れておけるタイプ、自治体が貸与・助成しているタイプなど選択肢は広がっており、まずは地域包括支援センターやケアマネジャーに相談するのが近道だ。ただし前述の通り、本人の意思を尊重し、納得のうえで導入することが前提になる。「見張るための機械」ではなく「安心して外出するためのお守り」として位置づけると、本人の抵抗も和らぎやすい。

あわせて、住んでいる市区町村の見守り・SOSネットワークに事前登録しておくことも強く勧めたい。多くの自治体で、行方不明時に協力事業者や住民へ情報を配信する仕組みや、防災行政無線・公式LINEでの広報体制が整いつつある。登録しておけば、いざというとき地域全体が捜索の目になる。発見の端緒の約半分が民間通報であるという事実は、この事前登録の価値を物語っている。登録には本人の写真や特徴の提供が必要な自治体が多いため、落ち着いているうちに準備しておくとよい。

介護職のキャリアという視点から

行方不明対策は、介護職にとって専門性を発揮できる領域でもある。BPSD(行動・心理症状)としての一人歩きの背景を読み解き、本人が落ち着ける環境を整えることは、離設そのものを減らす予防策になる。不安や退屈、かつての生活習慣の再現など、一人歩きの背後にある理由に目を向けるケアは、認知症ケアの中核的なスキルだ。加えて、GPS機器の選定支援や自治体ネットワークへの橋渡し、家族への助言といった役割は、地域包括ケアのなかで介護職が担う価値の高い仕事だ。

認知症ケアの知識と地域連携の実務は、これからの介護現場でますます求められるスキルになる。認知症ケア専門士や認知症介護実践者研修などで専門性を高めれば、こうした場面で頼られる存在になれる。自分がどんな環境でこうした力を活かしたいのか、どの職場なら認知症ケアにじっくり取り組めるのかを見つめ直すことは、キャリアを考えるうえでも意味がある。日々の見守りの一つひとつが、統計の数字を動かす仕事だと考えれば、その専門性の重みも見えてくる。

「もしも」を想定した一言の共有から

大がかりな準備でなくても、始められることはある。家族や職場で「もし一人でいなくなったら、まず誰に連絡し、どこを探すか」を一度言葉にしておくだけでも、いざというときの初動は変わる。連絡すべき警察署の番号、地域包括支援センターの窓口、協力してくれそうな近隣の人。これらを紙一枚にまとめて共有しておけば、慌ただしい状況でも落ち着いて動ける。統計が示す「3日以内」という時間の壁は、こうした日頃の小さな準備の積み重ねで、確実に乗り越えやすくなる。

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まとめ

認知症またはその疑いによる行方不明者は、最新の警察庁統計でも1万7,345人と高止まりし、統計を取り始めて以降おおむね増加してきた流れは変わっていない。所在確認された人の約95%は届出から3日以内に見つかる一方、時間が経つほど死亡確認の割合が高まり、最新の集計では573人が亡くなった状態で見つかっている。数字は、最初の数日間の初動がいかに重要かを明確に示している。高齢化がさらに進むなかで、この課題は、今後も社会全体で向き合い続ける必要があると見込まれている。

そのなかで希望となるのが、GPS機器を持たせていた事案の当日発見率が約85%に達すること、そして発見の端緒の約半分が地域住民の通報であることだ。認知症基本法が求める「本人の意思の尊重」を前提に、GPS機器や自治体の見守り・SOSネットワークを「行方不明が起きる前」に整えておく。介護現場と家族がこの備えを共有できれば、防げる悲劇は確実に減らせる。技術と地域の力は、本人の外出の自由を奪わずに安全を守る方向に使える。認知症の行方不明は、備えによって結果を変えられる数少ない事案でもある。あなたの職場や家庭では、いざというときの連絡先と、本人の写真や特徴といった手がかりを、いま共有できているだろうか。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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