
厚労省通知Vol.1494|介護施設等災害時情報共有システムに備蓄状況報告機能を追加(特養・老健・有料老人ホーム等の入所系が対象)
2026年4月13日発出の厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1494を解説。特養・老健・有料老人ホーム等の入所・居住系を対象に、災害時情報共有システムへ平時の備蓄状況等報告機能が追加され、令和8年4月30日までの入力完了が求められています。対象施設、入力項目、実務対応を詳しく整理します。
Vol.1494の要点|備蓄状況報告機能の追加とは
2026年(令和8年)4月13日、厚生労働省老健局高齢者支援課は「介護保険最新情報Vol.1494」として、「介護施設・事業所等における災害時情報共有システムに係る平時における物資の備蓄状況等報告機能の追加について」(老高発0413第1号)を発出しました。自然災害や次なる感染症危機に備え、都道府県等が管内介護施設等の備蓄状況を平時から把握することで、救援物資の支援計画をあらかじめ組み立てられるようにすることが狙いです。
今回の通知でポイントとなるのは次の4点です。第一に、災害時情報共有システム(介護サービス情報公表システムのサブシステム)に、令和7年度末から「平時の物資の備蓄状況等報告機能」が新たに追加されたこと。第二に、報告の対象となるのは特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、認知症高齢者グループホーム、小多機・看多機など、入所・居住・泊まりを伴う12類型に整理されたこと。第三に、入力内容は「災害対策(飲料水・食料品・簡易トイレ・BCP策定状況・耐震化・非常用自家発電・立地ゾーン・福祉避難所指定等)」と「感染症対策(サージカルマスク・N95・ガウン・フェイスシールド・非滅菌手袋の備蓄量と使用量等)」の2系統で構成されること。第四に、令和8年4月30日(木)までに管内施設の入力が完了するよう、都道府県・指定都市・中核市に特段の配慮が要請されたことです。
システム自体は令和3年度から介護サービス情報公表システムのサブシステムとして運用されてきましたが、平時の備蓄データを行政が事前把握できる仕組みが全国規模で整うのは今回が初めてです。BCPの義務化と連動し、紙の台帳ではなくオンラインでの継続的な更新が前提となる点で、現場の備蓄管理や事務運用にも少なからぬ影響があります。本記事では、通知原文と関連資料をもとに、対象施設・入力項目・期限・実務上の注意点を整理し、4月末期限に向けて管理者・事務担当者が押さえるべき論点を解説します。
通知が発出された背景|令和3年通知と感染症対策ガイドラインを踏まえた制度拡張
Vol.1494の位置づけを理解するには、2021年(令和3年)4月15日付の連名通知「災害発生時における社会福祉施設等の被災状況の把握等について」(子発0415第4号、社援発0415第5号、障発0415第1号、老発0415第1号)にまで遡る必要があります。この通知は、電気・ガス・上下水道・通信などのライフライン途絶や物流ネットワーク断絶による物資供給の支障に備え、入所者および施設職員の「最低でも3日間」の生活に必要な食料・飲料水・生活必需品・燃料等の備蓄に努めるよう、社会福祉施設に要請するものでした。同時に、都道府県および市区町村側にも、災害時に必要物資を供給できる体制を民間事業者も交えて構築することを求めています。
Vol.1494はこの基本線を引き継いだうえで、「平時より予め都道府県等が管内介護施設等の備蓄状況を把握していくことは災害発生時の支援方策の検討において有効な情報となる」という考え方を明文化し、そのための情報基盤として既存の災害時情報共有システムを活用する方針を示しました。つまり、従来から個別通知で「備蓄に努めよ」と要請していた内容を、システム入力という形で見える化・一元化するフェーズに入ったといえます。
もうひとつの重要な背景が、2024年(令和6年)8月30日に内閣感染症危機管理監決裁として策定された「物資の確保に関するガイドライン」です。このガイドラインでは、「国は、社会福祉施設における個人防護具の備蓄状況やその補充のために必要な状況の把握について、災害時に活用しているシステムの利用も含め、検討を進める」とされており、新型コロナウイルス感染症の流行時に浮き彫りになった、マスクやガウンなど感染症対策物資の需給把握の難しさを踏まえた対応が国レベルで打ち出されていました。Vol.1494における感染症対策物資(サージカルマスク・N95・アイソレーションガウン・フェイスシールド・非滅菌手袋)の入力項目は、このガイドラインを制度実装したものと位置づけられます。
加えて、災害時情報共有システム自体も段階的な機能改善の途上にあります。厚生労働省が2025年度の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料で示したロードマップによれば、令和7年度には「全自治体職員による代理入力を可能化」「平時の備蓄物資入力機能の追加」が実装され、令和8年度には「DMATによる代理入力」「介護情報基盤との連携によるアクセス環境向上」「災害登録時の報告範囲を市町村単位に細分化」といった改修が予定されています。Vol.1494は、この一連の機能拡張のうち「平時の備蓄報告」について、実際の運用開始に合わせて現場への周知と入力協力を要請する位置づけの通知です。
BCP(業務継続計画)の策定義務化(2024年4月全面義務化)との関係も無視できません。災害対策のBCPや感染症BCPを策定する過程で、施設は既に飲料水・食料・燃料・衛生資材等の備蓄量や更新計画を把握しているはずです。Vol.1494では、システムへの入力項目の一部はBCPで把握している内容と重なるとされており、「ゼロから台帳を作り直す」のではなく、BCPや既存の備蓄管理簿を参照しながらシステムへ反映していく運用が想定されています。結果として、通知は単独の新規事務というより、BCP・平時の備蓄・災害時報告を一本の糸で結び直す制度設計の一部として読むのが適切です。
報告対象となる介護施設等|入所・居住・泊まりを伴う12類型が対象
Vol.1494で報告対象とされている介護施設等は、次の12類型です。いずれも、入所・居住あるいは泊まりを伴うサービスで、災害時・感染症危機時に利用者の生活を施設内で支え続ける必要があるものが中心となっています。
- 特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
- 養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム(ケアハウスを含む)
- 有料老人ホーム(住宅型・介護付・健康型)
- サービス付き高齢者向け住宅
- 老人短期入所施設(短期入所生活介護/短期入所療養介護の拠点)
- 認知症高齢者グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
- 小規模多機能型居宅介護事業所
- 看護小規模多機能型居宅介護事業所
- 生活支援ハウス(高齢者生活福祉センター)
通所介護(デイサービス)や訪問系サービス単独の事業所は、今回の「平時の備蓄報告」の対象には含まれていません。これは、平時の備蓄が利用者の生活を長時間にわたって支える局面で特に重要となるためで、災害発生時の被災状況報告そのものは、従来どおり通所・訪問系も含めた幅広い施設・事業所が対象となります。言い換えれば、Vol.1494で追加された報告機能は「入所系・居住系の平時の備蓄」に焦点を絞った拡張機能であり、災害時情報共有システム全体の対象範囲と完全に一致するわけではない点に注意が必要です。
ログイン方法と事業所ID
静岡県の案内ページなど自治体の解説資料によると、システムへのログイン方法は、(1)介護サービス情報公表制度の報告対象事業所は「情報公表ID(介護事業所番号)」、(2)介護報酬収入年額100万円以下で公表を行っている事業所も同ID、(3)介護サービス情報を未公表の事業所は「県(政令市)発行の被災確認対象事業所番号」、(4)有料老人ホーム・サ高住・軽費老人ホーム・養護老人ホーム・生活支援ハウスは「被災確認対象事業所番号」を用いる、という4区分に整理されています。特に(4)の類型は介護サービス情報公表制度の対象外となる施設が多いため、都道府県または政令市から被災確認対象事業所番号の発行を受けていない場合は、まず番号発行の手続きから着手する必要があります。
都道府県・市区町村による代理入力の活用
令和7年度の機能改善により、政令市・中核市だけでなく全ての市区町村による代理入力が可能となっています。高齢化・人員不足により自力での入力が困難な小規模事業所については、自治体側が事業所からの情報提供を受けて代理入力する運用も想定されており、Vol.1494では、都道府県等が市区町村・管内施設に対して本機能の周知徹底を図り、4月末期限までに入力が進むよう協力を依頼することが明確に求められています。
入力項目の全体像|災害対策と感染症対策の2系統で構成
Vol.1494の別紙および令和7年度改修資料によると、平時に入力する項目は「災害対策」と「感染症対策」の2系統に分かれます。それぞれ、有無の選択(★が必須)と、「あり」と回答した場合に求められる数量や詳細情報の入力がセットになっています。以下、主な項目を整理します。
災害対策の入力項目
災害対策では、まずBCPの策定状況(有無)と立地状況が入力の土台になります。立地状況は「災害レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域など)」「災害イエローゾーン(警戒区域)」「それ以外」の3区分で選択し、併せて耐震化(旧耐震基準/新耐震基準、安全確認・改修済みか等)、ブロック塀の有無、水害対策の有無、非常用自家発電設備の有無(ありの場合は発電容量、稼働可能時間、燃料容量(kl)、燃料の種類(A重油/軽油/重油/ガソリン/LPガス/都市ガス/その他)、燃料の備蓄の有無、備蓄燃料が不足した場合の対応(配送契約等))までを入力します。
次に、備蓄物品として、飲料水(備蓄量を「●リットル×●人×●日相当」で記入、次期更新予定日)、生活用水(受水槽やポリタンク等の有無、その他の設備)、食料品(備蓄量の日数、次回更新予定日)、簡易トイレ(使用可能回数)を入力します。さらに、福祉避難所の指定の有無とその内容、災害時の支援に関する特記事項、指定資料のファイルアップロード欄が用意されており、平時のハード・ソフト両面での備えを一度に可視化できる設計となっています。
感染症対策の入力項目
感染症対策では、感染症BCPの策定状況に加え、5種類の個人防護具(PPE)等について、それぞれ「平時の備蓄量」「感染拡大時の備蓄量」「直近の使用量」を入力します。対象となる物資は次のとおりです。
- 医療用(サージカル)マスク
- N95マスク(微粒子用)
- アイソレーションガウン
- フェイスシールド
- 非滅菌手袋
いずれも、平時と感染拡大時で必要量が大きく変動する物資であり、ガイドラインで国が把握を進めるとされた「個人防護具の備蓄状況」と正面から対応しています。加えて、自由記述の「その他」欄も設けられており、施設独自の感染症対策物資(消毒液、体温計、パルスオキシメータ等)についても任意で記載できる構成です。
備蓄の考え方|3日分を下限としつつ被災想定を踏まえる
備蓄量の目安は、2021年通知以来一貫して「入所者および施設職員が最低でも3日間生活できる量」が基準とされています。ただし、近年の災害(能登半島地震や各地の大雨災害)では、孤立が長期化しライフライン復旧に1週間以上を要するケースも発生しており、全国老人保健施設協会や全国老人福祉施設協議会も関与する調査研究事業では、自施設の立地リスクを踏まえて3日を下限に7日分程度までの確保を検討する運用が紹介されています。Vol.1494の入力自体は「何日分か」を明記する形式のため、単に数量を書き込むだけでなく、自施設のBCPで想定している被災シナリオと整合させる視点が不可欠です。
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入力期限と運用サイクル|令和8年4月30日までの入力完了が要請
Vol.1494では、「本追加機能については、随時の報告及び報告内容の更新が可能となっておりますが、予見不能な自然災害や次の感染症危機等に備える観点から、各都道府県等におかれてましては、令和8年4月30日(木)までに管内介護施設等の入力が完了するよう、特段の御配慮をお願いいたします」と明記されています。通知発出から期限までおよそ2週間強と極めて短いことが特徴で、都道府県・指定都市・中核市から市区町村、そして管内施設へと周知・入力依頼がリレーされる必要があります。
「完了」の意味と随時更新の関係
ここでいう「入力完了」は、いったん全項目を埋めた状態でシステムに登録することを指しますが、備蓄は時間の経過とともに変動するため、Vol.1494は「備蓄物資等の報告は、物資ごとの有効期限の確認と併せて、定期的に行うよう管内の介護施設等に指導する」ことを求めています。具体的には、食料や飲料水の更新(ローリングストックの入れ替え)、マスクやガウンの消費・補充、非常用発電機の燃料補給などに合わせて、システム上の備蓄量・次回更新予定日を更新するサイクルを回すことが想定されています。
また、厚生労働省社会・援護局福祉基盤課が別途実施する災害時情報共有システムの訓練(各都道府県で概ね年2回程度実施)の機会を活用して、報告内容の確認・更新を徹底するよう求められている点も重要です。入力は一度きりで終わらせるのではなく、「BCPレビュー→備蓄棚卸し→システム反映→訓練で確認」というPDCAに組み込むことが、通知の意図に沿った運用と言えます。
入力状況の低調さという課題
MS&ADインターリスク総研株式会社が実施した「災害時情報共有システムの利活用に関する調査研究事業」(2024年)では、全国の介護事業所におけるシステム利活用状況が整理されています。同報告書によれば、システム運用開始後も介護施設・事業所の入力状況は低調にとどまり、自治体アンケート(n=35)では事業所からの回答率が低い理由として「システムの目的・必要性が理解されていない」(約51%)、「入力作業にかけられる人員・時間がない」(約49%)、「システムの存在自体が認識されていない」といった回答が上位に並んでいます。事業所側アンケート(n=813)でも、訓練以外の機会で入力依頼を受けたことが「ない・わからない」と回答した割合が約73%に上っており、平時の運用定着には依然として大きな課題が残されていることが分かります。
Vol.1494がタイトな期限で全国一斉入力を要請した背景には、こうした低調な入力状況を一気に底上げし、次の災害・感染症危機に間に合わせたいという行政側の問題意識があります。施設としては、「まだ依頼が届いていないから様子を見る」のではなく、自治体からの依頼を待たずに、自主的にログイン・入力状況を確認しておく姿勢が求められる局面です。
施設管理者が取るべき実務対応|4月末期限に向けた6ステップ
通知発出から令和8年4月30日の入力期限までの期間は非常に限られています。ここでは、特養・老健・有料老人ホーム・サ高住・グループホーム・小多機などの管理者および事務担当者が取るべき実務対応を、6つのステップに整理します。
ステップ1:ログインID・アカウントの確認
最初に行うべきは、災害時情報共有システム(介護サービス情報公表システムのサブシステム)にログインできる状態かを確認することです。介護サービス情報公表制度の対象事業所であれば「情報公表ID(介護事業所番号)」でログインできますが、有料老人ホーム・サ高住・軽費老人ホーム・養護老人ホーム・生活支援ハウスなどは、都道府県または政令市が発行する「被災確認対象事業所番号」が必要です。番号が手元にない、ID・パスワードが不明といった場合は、管轄の高齢福祉担当課に早期に照会することが不可欠です。
ステップ2:BCPと既存備蓄台帳の突合
次に、2024年4月に全面義務化されたBCP(自然災害BCP・感染症BCP)と、日常の備蓄管理台帳を突き合わせます。Vol.1494の入力項目は、飲料水・食料・燃料・簡易トイレ・PPEなど、いずれもBCPで把握が前提となっている情報と重複しています。BCPの別表や備蓄管理表を一次情報として活用すれば、システム入力のためだけに新たな調査を行う必要は最小限に抑えられます。古いBCPしか手元にない場合は、この機会に最新化を図るとよいでしょう。
ステップ3:備蓄の棚卸しと有効期限の確認
入力作業のタイミングで、飲料水・アルファ化米・レトルト食品・サージカルマスク・N95マスク・アイソレーションガウン・フェイスシールド・非滅菌手袋・簡易トイレなどの実数と有効期限を棚卸しします。ローリングストック方式で日常消費品と兼ねている場合でも、災害用として確保している最低限の量を切り分けて把握することが重要です。Vol.1494は「物資ごとの有効期限の確認と併せて、定期的に行う」ことを求めているため、棚卸し結果は入力値の根拠資料として年度単位で保管しておくと、次回更新時の負担も下げられます。
ステップ4:災害対策関連情報の整理
施設の立地がハザードマップ上どのゾーンに該当するか(災害レッドゾーン/イエローゾーン/それ以外)、耐震化の状況(旧耐震・新耐震の別、安全確認の結果)、ブロック塀や水害対策の有無、非常用自家発電設備の発電容量・稼働時間・燃料容量・種類、福祉避難所指定の有無などを整理します。これらは、施設整備時の書類、耐震診断報告書、自治体との福祉避難所協定書などに記載されているため、事前に参照先をリストアップしておくと入力作業がスムーズです。
ステップ5:入力担当者と承認フローの明確化
システムへの入力は、事務長・施設長・防災担当・看護課長など複数職種にまたがる情報が必要になります。誰がシステムにログインし、誰が備蓄データの裏付けを確認し、誰が最終承認するかを事前に整理しておくと、二重入力や齟齬を防げます。自治体による代理入力を依頼する場合も、施設側で集約した情報を渡す担当者を決めておくことが前提です。
ステップ6:入力後の運用サイクルの設計
入力が完了した後は、BCP見直しと連動した更新スケジュールを組むことが重要です。例えば「年1回のBCP定期見直し時」「食料・飲料水の更新時」「訓練モードでの訓練実施時」などのタイミングで、システム上の数値を点検・更新する運用ルールを文書化します。Vol.1494では、災害時情報共有システムを活用した訓練の機会にも内容の確認・更新を徹底するよう求められており、訓練と備蓄管理を一体化させる設計が望まれます。
差別化ポイント:BCPの別表を「二度書き」しないための工夫
実務負担を抑える最大のコツは、BCPの別表とシステム入力を「同じ情報源」から生成することです。具体的には、BCPの備蓄一覧表をExcelで管理し、そこに「システム入力欄(飲料水リットル数、食料日数、PPEの平時・感染拡大時の数量)」を明示的に追加しておけば、毎年の棚卸し時にBCPとシステム入力の両方が同時に更新できます。単なる事務作業として処理するのではなく、BCPの運用品質を底上げする機会として位置づけ直すことが、Vol.1494対応を形骸化させないポイントです。
自治体側の役割と今後の機能拡張|代理入力・DMAT連携・市町村単位報告へ
Vol.1494は、都道府県・指定都市・中核市に宛てた通知という形式上、自治体の役割が明確に位置づけられています。通知の「記 3」では、本機能の追加により、各都道府県等・市区町村は「管内の介護施設等における平時の災害備蓄物資や感染症対策のための物資等を把握することが可能となり、事前に把握したこれらの情報も踏まえた救援物資の支援計画の検討を行うとともに、災害発生時には、救援物資の効率的かつ重点的な支援を行うことが可能となります」と記されています。
自治体による支援計画への組み込み
平時の備蓄状況を自治体が集計・分析できるようになることで、「どの地域のどの施設類型で、飲料水・食料・PPEが相対的に不足しているか」が可視化されます。これまで被災直後に個別照会で確認していた情報が、地域全体のダッシュボードとしてあらかじめ把握できるようになれば、広域応援を要する規模の災害が発生した場合でも、初動フェーズで「どこに何をどれだけ優先的に送るか」を意思決定しやすくなります。特に、レッドゾーン・イエローゾーンに立地する施設や、非常用自家発電未整備の施設を事前にマーキングしておくことで、降水予測・地震情報と組み合わせた予防的支援が可能となる点は、これまでにない運用上のメリットです。
令和8年度以降の機能拡張
厚生労働省が公表している「災害時情報共有システムの機能改善(令和7年度~)」資料によれば、令和8年度には次の改修が予定されています。
- 災害派遣医療チーム専門職(DMAT)による代理入力を可能とする
- 介護情報基盤との連携により、被災施設のシステムへのアクセス環境を向上させる
- 局地的な災害時の情報把握を的確に行うため、災害登録時の報告範囲を都道府県単位から市町村単位に細分化できるようにする
DMAT代理入力の追加は、被災直後に施設職員が対応に追われ入力が行えない局面で、現地に入ったDMAT隊員が施設の被害状況を代理登録できるようにするもので、能登半島地震での反省点を踏まえた改修といえます。介護情報基盤との連携は、2025年8月に公開された「介護情報基盤ポータル」との統合を視野に入れたもので、将来的には介護施設がバラバラのシステムに同じ情報を重複入力する負担が軽減される方向性が示されています。
現場として意識したい「支援される側」の責任
自治体がデータを活用するためには、施設側の入力が正確・最新であることが前提になります。古い備蓄量や誤った非常用発電機の情報がシステムに残っていると、実際の災害時に救援物資の配分が最適化できず、結果的に他施設への支援を遅らせかねません。Vol.1494をきっかけに、「支援される側」である施設にも、情報を正しく提供する責任が制度的に求められるようになったと理解する必要があります。
よくある質問(FAQ)|Vol.1494と備蓄状況報告機能
Q1. 通所介護(デイサービス)や訪問介護事業所も、平時の備蓄報告を入力する必要がありますか?
Vol.1494で明示されている「報告の対象となる介護施設等」には、通所介護単独の事業所や訪問介護事業所は含まれていません。対象は特養・老健・介護医療院・養護老人ホーム・軽費老人ホーム・有料老人ホーム・サ高住・老人短期入所施設・グループホーム・小多機・看多機・生活支援ハウスの12類型で、いずれも入所・居住・泊まりを伴うサービスです。ただし、災害発生時の被災状況報告については、従来どおり通所・訪問系を含めた幅広い事業所が対象となるため、別途の制度として理解しておく必要があります。
Q2. 入力期限の令和8年4月30日を過ぎてしまった場合、罰則はありますか?
Vol.1494は通知であり、4月30日期限は「特段の御配慮をお願いいたします」という形の入力完了目安として示されています。直接的な罰則規定はありませんが、期限はあくまで「次の災害・感染症危機に備えるため全国一斉に入力を済ませる目安」として設定されているため、期限を過ぎても速やかに入力・更新することが強く求められます。また、入力状況は自治体が把握しており、未入力の場合は都道府県・市区町村からの督促や、自治体職員による代理入力の打診が行われる可能性があります。
Q3. システムへの入力内容は、BCPの内容とどう違いますか?重複入力になりませんか?
入力項目の多くはBCPで把握している内容と重なります。Vol.1494でも、入力項目の一部は指定基準に基づくBCPで把握している内容と位置づけられており、BCPの別表・備蓄管理表を参照することでシステム入力の大部分を賄うことが前提になっています。重複入力を避けるためには、BCPの備蓄一覧表に「システム入力欄」をあらかじめ加え、年1回の見直し時に一度にシステムも更新する運用が現実的です。
Q4. 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅で、介護サービス情報公表制度の対象外のためIDを持っていない場合はどうすればよいですか?
この場合は、都道府県または政令市が発行する「被災確認対象事業所番号」を用いてログインします。番号の発行を受けていない場合は、管轄の高齢福祉担当課(都道府県または政令市)に連絡し、発行手続きを行ってください。Vol.1494は都道府県等に対して管内施設への周知を求めているため、自治体側でも発行相談の窓口対応が想定されています。
Q5. 備蓄量が3日分に満たない場合、入力すべきではないのでしょうか?
むしろ、現状を正直に入力することが重要です。入力値は行政が救援物資の支援計画を立てる際の重要な根拠となるため、実態より多めに記入してしまうと、いざというときに必要な支援が届かないリスクが生じます。3日分未満であっても実態を入力し、その上でBCPに基づき備蓄計画を改善していくことが、施設と自治体の双方にとって望ましい対応です。
Q6. システムに入力した備蓄情報は、どの範囲まで公開されますか?
災害時情報共有システムの情報は、施設自身と国・都道府県・政令市・中核市・市区町村が閲覧できる仕組みとなっており、一般に公開されるものではありません(介護サービス情報公表制度の公表対象情報とは異なります)。したがって、備蓄量や非常用発電の有無といったセキュリティに関わり得る情報も、行政内の災害支援計画検討の範囲内で活用される位置づけです。
まとめ|「平時の備蓄の見える化」は全国の介護施設の標準業務へ
2026年4月13日に発出された介護保険最新情報Vol.1494(老高発0413第1号)は、介護施設等災害時情報共有システムに「平時における物資の備蓄状況等報告機能」を追加し、特養・老健・介護医療院・養護老人ホーム・軽費老人ホーム・有料老人ホーム・サ高住・老人短期入所施設・グループホーム・小多機・看多機・生活支援ハウスの12類型に対して、令和8年4月30日までの入力完了を要請する通知です。入力項目は、飲料水・食料品・簡易トイレ・BCP策定状況・立地ゾーン・耐震化・非常用自家発電などの「災害対策」と、サージカルマスク・N95・アイソレーションガウン・フェイスシールド・非滅菌手袋などの「感染症対策」の2系統で構成されており、平時の備えを行政が事前把握する仕組みへと大きく踏み込んだ内容となっています。
背景には、2021年の連名通知で示された「3日分以上の備蓄に努めよ」という要請、2024年8月の「物資の確保に関するガイドライン」で国に求められたPPEの備蓄状況把握、そして2024年4月に義務化されたBCP策定があり、Vol.1494はこれら一連の制度設計を情報基盤として束ねる位置づけと整理できます。2025年度からは全自治体職員による代理入力が可能となり、2026年度にはDMAT代理入力や介護情報基盤との連携、市町村単位での報告範囲細分化が予定されているなど、災害時情報共有システム自体も継続的に進化していく見通しです。
施設側に求められるのは、「通知が出たから入力する」という受け身の姿勢ではなく、BCPと備蓄管理を同じ情報源で運用し、システム入力・BCPレビュー・訓練を一本化したPDCAに組み込むことです。特に、ID確認・BCPとの突合・棚卸し・災害対策情報の整理・入力担当者の明確化・更新サイクルの設計という6つのステップを早期に踏むことで、4月末期限に追われる入力作業を、施設の防災体制そのものを底上げする機会へと転換できます。
能登半島地震をはじめとする近年の災害対応では、入所系施設の孤立と物資不足が繰り返し課題となってきました。Vol.1494は、その教訓を踏まえ、行政と介護施設が「災害が起きてから情報を集める」体制から「平時から共有しておく」体制へ移行するための制度インフラです。施設管理者・事務担当者・介護職員・看護職員それぞれの立場で、今回の通知を自施設の備えを見直すきっかけとして活用していきましょう。
主要な参考資料(公的一次情報)
- 厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1494 介護施設・事業所等における災害時情報共有システムに係る平時における物資の備蓄状況等報告機能の追加について」(令和8年4月13日、老高発0413第1号、厚生労働省老健局高齢者支援課長通知)
https://www.mhlw.go.jp/content/001690439.pdf - 厚生労働省「災害時情報共有システムの機能改善(令和7年度~)」(全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/001690474.pdf - 厚生労働省・こども家庭庁ほか連名通知「災害発生時における社会福祉施設等の被災状況の把握等について」(令和3年4月15日付 老発0415第1号ほか)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001159667.pdf - 厚生労働省「介護保険最新情報掲載ページ」(最新情報一覧)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index_00010.html - 静岡県「介護施設等における災害時情報共有システム」(2025年10月16日更新、自治体側の運用・訓練計画)
https://www.pref.shizuoka.jp/kenkofukushi/koreifukushi/1040734/1040733/1023447.html - MS&ADインターリスク総研株式会社「災害時情報共有システムの利活用に関する調査研究事業 報告書」(厚生労働省老健局高齢者支援課オブザーバー、2024年度)
https://www.irric.co.jp/pdf/reason/research/2024_elderly_health_system.pdf
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