
食事時間が不規則な高齢者ほど老化マーカーが高い|長寿研、GDF-15と「食事の質」の関連を発表
国立長寿医療研究センターが2026年7月に公表した研究成果を解説。食事時間が不規則な高齢者ほど老化を反映する血清GDF-15が高く、その約15%を食事の質の低さが説明した。観察研究の限界を踏まえ、介護現場の食事支援・生活リズム支援に何ができるかを読み解く。
この記事のポイント
国立長寿医療研究センターは2026年7月1日、食事の時間が不規則な高齢者ほど、老化を反映する血液マーカー「GDF-15」が高い傾向にあり、その関連の約15%を「食事の質の低さ」が説明していたと発表した。地域在住高齢者を対象にした観察研究で、対象者間の因果関係を証明したものではない。ただし、生活リズムの調整が難しい人でも食事の質を高めることが老化を遅らせる一手になり得ることを示した点は、夜勤やシフト勤務が避けられない介護職、そして在宅で家族の食事を支える人にとって、日々のケアを見直すヒントになる。とくに魚介類の摂取の少なさが食事の質の低さと関連していた点は、献立や日々の食事支援を考える具体的な手がかりになる。
目次
解説動画
「決まった時間に食事をとる」。当たり前のように聞こえる生活習慣が、体の老化のスピードと関わっているかもしれない。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)のフレイル研究部・木下かほり主任研究員らのグループが2026年7月1日に公表した研究成果は、食事のタイミングが不規則な高齢者ほど、老化を反映する血液中のタンパク質が高い傾向にあることを示した。
注目したいのは、その関連の一部を「食事の質の低さ」が説明していた点だ。つまり、生活リズムそのものを整えるのが難しくても、何を食べるかを工夫する余地は残されている、という読み方ができる。これは、夜勤やシフト勤務で生活が不規則になりがちな介護職自身の健康にも、在宅で高齢の家族の食事を支える人にも、無関係ではない話だ。食事の時間と老化という、これまで結びつけて語られることの少なかった二つのテーマが、地域高齢者の実データで橋渡しされた点に、この研究のニュース性がある。
本記事では、まず研究の中身を一次資料に沿って正確に整理し、次にこの「老化マーカー」が何を意味するのかを押さえる。そのうえで、観察研究という手法の限界を踏まえながら、介護現場の食事支援・生活リズム支援に何ができるのかを考えていく。数字の大きさに一喜一憂するのではなく、現場で活かせる部分を冷静にすくい取ることを目指したい。
長寿研が示した「食事の不規則さ」と老化マーカーの関連
どんな研究だったのか
この研究は、国立長寿医療研究センターが愛知県知多郡東浦町で続ける地域高齢者の長期追跡調査「東浦研究」のデータを用いて行われた。東浦研究は、フレイル(加齢に伴い心身の活力が低下した状態)の進行や改善の仕組みを多角的に解明することを目的とした縦断研究で、地域に住む65歳以上の高齢者が参加している。研究チームは、この調査で得られた血液検査、食事記録、身体活動量などの情報を組み合わせ、食事時間の規則性と老化を反映するバイオマーカーとの関連を統計的に検討した。
用いられた指標は、血清中の「GDF-15(成長分化因子15)」というタンパク質だ。参加者は食事のタイミングの規則性によって「規則的な群」と「不規則な群」に分けられ、両群のGDF-15の値が比較された。
実年齢は若いのに、老化マーカーは高かった
結果は次の通りだった。食事時間が不規則な群のGDF-15の平均値は1161.4pg/mLで、規則的な群の1028pg/mLより高かった。ところが実年齢の平均は、不規則群が73.3歳、規則群が75.1歳と、むしろ不規則群のほうが若かった。年齢が若い集団のほうが老化マーカーは高い、という一見ちぐはぐな関係が観察されたことになる。
加齢とともにGDF-15は上昇するのが一般的であることを踏まえると、実年齢が若いのに値が高いという結果は、食事の不規則さが年齢以上の「老化の負荷」と結びついている可能性を示唆する。
関連の約15%を「食事の質の低さ」が説明した
チームがさらに解析を進めると、食事時間が不規則だとGDF-15が高くなるという関係の約15%を、「食事の質の低さ」が説明していた。とりわけ、魚介類の摂取が少ないことが食事の質の低さに関連する可能性がわかったという。
残りの約85%は食事の質以外の要因によるもので、この研究だけでは説明しきれていない。研究チームは、食事のタイミングの乱れそのものが体内時計(概日リズム)を乱し、老化を促進する経路が背景にあるとみている。規則的な時間に食事をとることは概日リズムの維持に関わり、概日リズムの維持は代謝性疾患などの発症リスクを抑えるために重要だと考えられてきた。食事の質は、その全体像のなかで「介入しやすい入り口」として位置づけられる。
掲載誌と研究の位置づけ
この成果をまとめた論文「Mealtime irregularity is associated with higher serum growth differentiation factor-15 levels in older adults: the explanatory role of dietary quality」は、欧州老年医学会の学術誌「European Geriatric Medicine」に掲載された。木下かほり主任研究員を筆頭著者に、フレイル研究部の研究者らと、時間栄養学で知られる柴田重信氏(広島大学)、荒井秀典理事長らが名を連ねる。
研究チームは、高齢労働者人口が増加するなかでシフト勤務などにより生活が不規則になるケースがあることに触れ、生活リズムの調整が難しい場合でも食事の質を高めることが老化を遅らせる手段のひとつになり得ると指摘。「いつ、何を食べるか」という時間栄養学の視点を取り入れた健康長寿対策を検討するための土台となる研究であり、今後さらなる発展が必要だとしている。
そもそも「GDF-15」とは何か|老化・死亡と結びつく血液指標
加齢とともに上がるストレスの指標
今回の研究で使われたGDF-15は、細胞がストレスを受けたときに分泌が増えるタンパク質で、TGF-βというタンパク質ファミリーの一員だ。炎症、組織の損傷、心臓・腎臓・肝臓の障害など、体に何らかの負荷がかかると血中濃度が上がる。とくにミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)の機能が落ちると分泌が増えることが知られており、加齢とともにミトコンドリア機能が徐々に低下することから、老化研究で注目されている指標だ。
実際、健康な人でも年齢とともにGDF-15は上昇する。海外の調査では、30歳未満で中央値500台pg/mLだったものが、80歳以上では2000pg/mLを超える水準まで上がると報告されている。「実年齢より高いGDF-15」は、その人の体が実年齢以上のストレスや老化の負荷を受けている可能性を示すサインと解釈できる。今回の研究で、実年齢が若い不規則群のほうが値が高かったことが注目されるのは、この背景があるからだ。
死亡リスクとの関連も報告されている
GDF-15は単なる老化の目盛りにとどまらない。東京都健康長寿医療センター研究所が地域在住高齢者約1800人の血液を解析した研究では、GDF-15濃度が最も高いグループは、最も低いグループに比べて死亡リスクが約2倍高いことが示された。この研究では、リスク上昇に腎機能の低下が一部関係している可能性も示唆されている。海外でも同様の報告があり、国や地域を問わず、寿命に関わる指標である可能性が指摘されている。
近年は、複数のタンパク質を組み合わせて加齢性疾患の発症リスクを評価しようとする研究も進んでおり、そのなかでもGDF-15は特に注目されている分子の一つとされる。血中濃度が高いほど、さまざまな加齢性疾患の発症リスクが高くなる可能性が報告されている。
単独で診断できる指標ではない
ただし、GDF-15はがんや心血管疾患、腎機能低下などさまざまな要因で上がるため、これ単独で老化度や病気を診断できるわけではない。標準化された基準値も定まっておらず、あくまで「体にかかっている負荷を映す鏡の一つ」として理解する必要がある。また、GDF-15を下げれば老化や病気を防げるのかという点も、現時点で答えは出ていない。GDF-15はミトコンドリアの機能障害など細胞内のストレスによって増えるため、その原因を突き止めることが予防につながると考えられているが、研究は途上だ。
こうした前提を踏まえると、今回の長寿研の研究は、この「鏡に映る値」が、食事のタイミングという日常の生活習慣と結びついていたことを地域高齢者の実データで示した点に新しさがある。日々の暮らしのなかで手をつけられる要因と、老化の指標とのあいだに橋を架けた研究といえる。
観察研究であることの意味|「食事リズムを整えれば若返る」ではない
関連(相関)は見えたが、因果は証明されていない
この研究成果を読むうえで、最初に押さえておきたいのが「これは観察研究である」という点だ。研究チームは、ある時点で高齢者を調べ、食事が不規則な群と規則的な群のGDF-15を比べている。両群のあいだに違いがあったことは事実だが、「食事を不規則にしたからGDF-15が上がった」という因果関係を実験で証明したわけではない。
観察研究では、測定していない別の要因(交絡因子)が結果に影響している可能性が常に残る。たとえば、もともと持病があって体調が不安定な人ほど食事のタイミングが乱れやすく、同時に持病そのものでGDF-15が上がっている、という筋道も理屈のうえでは考えられる。実年齢は不規則群のほうが若かったという結果も、単純な「食事リズム=老化」という図式では説明しきれない複雑さを示している。因果の向きを確かめるには、同じ人を長期に追いかける縦断的な検討や、食事のタイミングに介入して変化を見る研究が今後必要になる。
「食事の質」が説明したのは一部にすぎない
もう一つ冷静に受け止めたいのが、食事の質が説明したのは関連の「約15%」にとどまるという点だ。裏を返せば、8割以上は食事の質以外の要因による。したがって「魚をたくさん食べれば老化マーカーが下がる」と単純化するのは、この研究が示した範囲を超えた過剰な解釈になる。魚介類の摂取の少なさが食事の質の低さに関連する可能性が示されたとはいえ、それが老化マーカーを直接押し下げると証明されたわけではない。
それでも、この研究には現場にとって前向きな含意がある。生活リズムを整えるのは、夜勤や介護、持病などの事情で難しいことが多い。そうした「タイミングは変えにくい」人にとって、食事の中身を工夫するという、より手をつけやすい入り口が示されたからだ。研究チーム自身も、生活リズムの調整が難しい場合でも食事の質を高めることが老化を遅らせる手段の一つになり得る、と述べている。限界を踏まえたうえで、実務に活かせる部分を丁寧にすくい取る姿勢が求められる。
「食べ方」に注目する研究の流れのなかで
この研究は、いつ・何を・どれだけ食べるかを扱う「時間栄養学」という研究領域に位置づけられる。日本人の食事摂取基準では、必要な栄養量が主に1日の総量で示されており、「いつ食べるか」については十分な基準がないのが国際的な現状だ。朝・昼・夕それぞれの推奨量を定めるべきだという指摘もあるものの、研究はまだ途上にある。今回の成果は、その空白を埋めていくための一歩であり、確定した結論というより「これから検証を重ねるべき仮説」を提示したものと受け止めるのが適切だ。過度に飛びつくのでも切り捨てるのでもなく、続報を待ちながら日々のケアに緩やかに取り入れていく姿勢が望ましい。
介護現場と在宅ケアに引きつけて|食事支援・生活リズム支援でできること
施設の食事介助は「時間の規則性」というケアでもある
介護施設では、朝・昼・夕の食事が決まった時間に提供される。これは栄養を届けるためだけでなく、入居者の生活リズムを整える基盤にもなっている。今回の研究は、この「決まった時間に食べる」という日常のケアが、体内時計の維持を通じて健康長寿と結びつく可能性を、あらためて裏づける材料になる。日々の配膳や声かけ、食事時間の見守りといった業務が、栄養補給を超えた意味を持ちうるということだ。
一方で、食事のタイミングが乱れやすい場面もある。体調や覚醒レベルによって食事を抜いたり、間食に偏ったりするケースだ。研究が「魚介類の摂取の少なさ」を食事の質の低さと関連づけた点は、献立や個別対応を考えるうえで一つの視点になる。ただし高齢者では嚥下機能や嗜好、腎機能などの個別事情があり、魚を増やすことが一律に正解になるわけではない。栄養士・管理栄養士や多職種と連携し、その人に合った形で食事の質を底上げしていく発想が現実的だ。
在宅では「いつ食べたか」を見守る視点を
在宅で高齢の家族を支える人にとっては、「何を食べたか」だけでなく「いつ食べたか」に目を向けるヒントになる。日中の食事が抜けて夜に間食が増える、食事の時刻が日によってバラバラになる。こうした変化は、体調や生活リズムの乱れのサインとしても捉えられる。無理にタイミングを矯正する前に、まず食事の時間帯を緩やかに記録し、質(主菜・魚・タンパク質が摂れているか)を意識するところから始められる。
とりわけ、朝食は体内時計をリセットする役割が大きいとされる。高齢者では光による中枢時計のリセットが弱まるため、食事による末梢時計のリセットが相対的に重要になる可能性も指摘されている。朝しっかり食べる習慣を支えることは、生活リズムを整えるうえで理にかなった働きかけといえる。もっとも、これも本研究が直接証明したわけではなく、あくまで背景知識として押さえておきたい。
夜勤・シフト勤務で働く介護職自身の健康にも
この研究は、支える側である介護職自身にも通じる。夜勤や交代勤務で生活が不規則になると、体内時計が乱れやすいことは以前から指摘されてきた。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、交代勤務者はメタボリックシンドロームや心血管疾患のリスクが上がりやすいことが示されている。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関は、体内時計の乱れをともなう交代制勤務を発がん性の分類で「グループ2A(おそらく発がん性がある)」に位置づけている。
生活リズムを完全に整えるのが難しい働き方だからこそ、食事の質を意識するという「変えられる部分」に取り組む意義は大きい。夜勤中や夜勤明けに菓子類や甘い飲料に偏りやすいことも知られており、主菜やタンパク質、魚を意識的に取り入れる工夫は、無理なく始められる一歩になる。自分の身体をどう守るかという観点は、長く介護の仕事を続けていくうえでも欠かせない。支える側の健康があってこそ、質の高いケアが持続できるからだ。自分の働き方や体調と向き合ううえでも、示唆に富む研究といえる。
今日から意識できること|「時間」と「質」の両面から
まず「時間」を整えられる範囲で
体内時計を整えるうえで、最も基本になるのが起床と朝食のタイミングだ。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、規則正しい起床時刻を心がけ、朝食をしっかり摂って昼夜のメリハリをつけることが良い睡眠と健康のポイントとして挙げられている。同ガイドは、生活習慣のチェック項目に「食事時間が不規則だ」を含めており、食事のタイミングを整えることの重要性を裏づけている。介護の現場でも家庭でも、まずは朝食の時間を大きくずらさないことから始めるのが現実的だ。
次に「質」で補う
そのうえで、今回の研究が示した「食事の質」に目を向けたい。魚介類をはじめ、主菜やタンパク質をバランスよく取り入れることは、食事の質を底上げする具体的な一歩になる。ただし、高齢者では嚥下や咀嚼の状態、腎機能、薬との関係、そして本人の嗜好によって適した食事は異なる。無理に特定の食品を増やすのではなく、管理栄養士や医療職に相談しながら、その人にとって続けられる形を探すことが大切だ。
「変えられること」に力を注ぐ
この研究が現場に投げかける最大のメッセージは、生活リズムという「変えにくいもの」に縛られすぎず、食事の質という「変えられるもの」に目を向ける余地がある、という視点の転換だ。夜勤で生活が不規則にならざるを得ない介護職、認知症などで食事時間が乱れがちな高齢者を支える家族。それぞれの制約のなかで、今できる小さな工夫を積み重ねることが、健康長寿につながる可能性がある。完璧を目指すのではなく、続けられる範囲で整えていく。それが、限界を踏まえたこの研究の、最も実務的な受け止め方だといえる。
参考文献・出典
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
- [6]
まとめ
国立長寿医療研究センターの今回の研究は、食事時間が不規則な高齢者ほど老化を反映する血清GDF-15が高く、その関連の約15%を食事の質の低さ(とくに魚介類の摂取の少なさ)が説明していたことを示した。これは地域在住高齢者を対象にした観察研究であり、因果関係を証明したものではない。「食事リズムを整えれば若返る」「魚を食べれば老化マーカーが下がる」といった単純化は、研究の射程を超えている。GDF-15自体もさまざまな要因で変動するため、単独で老化度を測る指標ではないことも改めて確認しておきたい。
それでも、生活リズムを変えにくい人にとって、食事の質という手をつけやすい入り口が示された意義は小さくない。決まった時間に食べることを支える施設の食事介助、いつ・何を食べたかを見守る在宅ケア、そして夜勤やシフト勤務で働く介護職自身の食生活。いずれの場面でも、この研究は日々のケアや働き方を見直すきっかけになる。時間栄養学の研究はまだ発展途上であり、確定した結論を急ぐより、続報を追いながら、変えられる範囲の工夫を積み重ねていく姿勢が現実的だ。あなたの職場や家庭では、食事の「時間」と「質」に、どこまで目を向けられているだろうか。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。







