1日何歩で十分か|歩数と死亡・健康リスクの研究エビデンスを介護職目線で読み解く
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ポイント

歩数と健康リスクの研究でわかっていることの要点

「1日1万歩」は健康の絶対基準ではありません。世界中の大きな調査を集めて調べた研究では、亡くなる割合が下がっていく効果は、高齢者ではおよそ6,000〜8,000歩で頭打ちになり、それ以上歩いても上乗せの効果ははっきりしなくなる、という結果が繰り返し示されています。日本の高齢者が実際に歩いているのは1日平均5,400歩ほどで、厚生労働省が高齢者にすすめる目安(1日およそ6,000歩以上)にも届いていない人が約半数です。

大事なのは「もっと歩かせること」ではなく、今ほとんど動けていない人を、わずかでも動く側へ動かすことです。研究でも、いちばん歩数が少ない層から少し増えるところで、健康面の差がもっとも大きく出ています。介護現場では、寝たきりに近い人の離床、フレイル(加齢で心身が弱った状態)予防、歩行支援の「現実的な目標」を、この研究の数字を根拠に語れるようになります。

ただし、これらの多くは「歩く人ほど健康だった」という観察にもとづく研究で、「歩いたから健康になった」と言い切れるものではない点には注意が必要です(健康だからよく歩ける、という逆向きの関係=逆因果も混じります)。

目次

はじめに:1万歩は誰が決めたのか

「健康のためには1日1万歩」。介護の現場でも、利用者さんやご家族から、あるいは職員同士で、ごく自然に口にされる数字です。けれど、この1万歩がどこから来たのか、本当に高齢者にとって正しい目標なのかと問われると、答えに詰まる方が多いのではないでしょうか。

結論から言うと、「1万歩」という数字そのものに、もともと強い科学的根拠があったわけではありません。1960年代の日本で、ある歩数計の商品名として広まった目標値が、世界中で「健康の常識」として定着したものです。その後、本当に何歩で健康効果が得られるのかを、何万人もの歩数データを何年も追いかけて調べる研究が世界中で進みました。そこから見えてきたのは、「1万歩までいかなくても、特に高齢者では、もっと少ない歩数で健康面のメリットの大部分が得られる」という姿です。

この記事では、介護職・これから介護の仕事を考えている方に向けて、歩数と「亡くなるリスク・心臓や血管の病気・認知症」との関係を調べた国内外の研究を、一次情報にあたって整理します。数字をただ紹介するのではなく、「その数字をどう読めば誤解しないか」「現場のフレイル予防・離床・歩行支援にどうつなげるか」までを、介護職目線でかみくだいていきます。

「1万歩神話」はどこから来たのか

1日1万歩という目標は、1965年ごろに日本で発売された歩数計の商品名に由来するとされます。当時、健康づくりのキャッチフレーズとして広まり、覚えやすくきりのよい数字だったこともあって、やがて世界中に「1日1万歩が健康によい」というイメージが定着しました。つまり出発点は、厳密な医学研究の結論ではなく、わかりやすい目標として普及した数字だったということです。

これは「1万歩が無意味」という意味ではありません。たくさん歩ける人にとって1万歩は十分によい目標です。問題は、足腰が弱ってきた高齢者や、ほとんど外出しない人にまで「1万歩でなければ意味がない」と当てはめてしまうと、目標が高すぎて最初からあきらめてしまう、あるいは無理をして転倒・関節痛・疲労につながる、という点にあります。

そこで近年は、活動量計(歩数や運動の強さを記録する小型機器)で測った実際の歩数と、その後の健康状態を結びつけた大規模な研究が積み重なり、「では本当のところ、何歩で、どんな効果が頭打ちになるのか」が具体的な数字で語れるようになってきました。介護職にとって意味があるのは、まさにこの「現実的な落としどころ」の数字です。

世界15か国の研究:高齢者は6,000〜8,000歩で頭打ち

歩数と「亡くなるリスク」の関係を語るうえで、もっとも大きな根拠とされるのが、2022年に英国の医学誌『ランセット公衆衛生(Lancet Public Health)』に発表されたパルチ(Paluch)らの研究です。これは世界各国の15の調査(コホート研究=大勢を何年も追いかけた調査)のデータをそろえて統合し、まとめて解析した結果(メタ解析)で、歩数と死亡の関係を調べたものとしては当時最大規模とされます。

対象は合計47,471人。平均でおよそ7年間追跡し、その間に3,013人が亡くなりました。歩数の少ない順に4つのグループ(四分位)に分けて比べると、いちばん歩数が少ないグループ(1日の中央値で約3,553歩)を基準にしたとき、次のような関係が見られました。

  • 2番目のグループ(約5,801歩)…亡くなるリスクが約4割低い
  • 3番目のグループ(約7,842歩)…約4〜5割低い
  • いちばん多いグループ(約10,901歩)…約5割低い

ここで注目したいのが、リスクの下がり方が一定ではないことです。研究チームは、亡くなるリスクが下がっていく効果が、60歳以上の高齢者では1日およそ6,000〜8,000歩あたりで頭打ち(それ以上歩いても、はっきりした上乗せの効果が見えにくくなる)になり、60歳未満では8,000〜10,000歩あたりで頭打ちになる、と報告しました。つまり「1万歩まで歩かないと意味がない」のではなく、特に高齢者では、それより少ない歩数で健康面のメリットの大部分が得られていた、ということです。

もう一つ重要なのは、歩く速さ(歩くテンポ=1分あたりの歩数)の扱いです。一見すると「速く歩く人ほど長生き」に見えますが、この研究では総歩数の多さで補正すると、速さそのものの効果ははっきりしなくなる部分がありました。つまり、まず効いているのは「どれだけ歩いたか(歩数の量)」であり、速さの上乗せ効果はそれほど単純ではない、と読むのが慎重な解釈です。

認知症・心血管・がん:英国78,000人の研究

死亡だけでなく、認知症や心臓・血管の病気との関係を調べた研究もあります。2022年に医学誌『JAMA神経学(JAMA Neurology)』と『JAMA内科学(JAMA Internal Medicine)』に発表された、デル・ポソ・クルス(del Pozo Cruz)らの研究です。英国の大規模データベース「UKバイオバンク」に参加した40〜79歳の約78,000人が、手首に活動量計をつけて1週間ぶんの歩数を測り、その後およそ7年間、健康状態が追跡されました。

認知症については、追跡期間中に866人が新たに認知症と診断されました。歩数が多いほど認知症になる割合が低く、もっとも効果が大きかったのは1日およそ9,800歩(約5割低い)でした。ただし注目すべきは、1日およそ3,800歩でも、認知症のリスクが約25%低い(最大効果のおよそ半分)という関係が見られた点です。研究者自身が「これ以上歩いても意味がない、という下限のラインは見つからなかった」と述べており、少ない歩数からでも関連がうかがえます。

心臓・血管の病気(心血管疾患)とがんについては、同じUKバイオバンクのデータで、亡くなるリスク・心血管疾患・がんのいずれも、歩数が多いほど低い傾向が、おおむね1日1万歩あたりまで続いていました。研究チームは「2,000歩増えるごとに早死にのリスクが1割前後下がる」といった目安も示しています。

ただし、これらはいずれも「歩数が多い人ほど、その後の病気が少なかった」という観察にもとづく研究です。論文の著者自身が「この研究のデザインでは因果関係を結論づけることはできない」と明記しています。なぜそう慎重になるのかは、次の章で詳しく見ていきます。

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主要研究の数値を一覧で確認する

ここまで紹介した研究の数値を、表で整理します。「比べた基準」と「どれだけリスクが低かったか」をセットで読むのがコツです。リスクが「◯割低い」というのは、あくまで歩数が少ないグループと比べた相対的な差で、誰もが必ずその通りになるという保証ではありません。

研究(発表年・掲載誌)対象・人数主な数値頭打ち(プラトー)の目安
Paluch ら 2022(Lancet Public Health)15か国の調査を統合 計47,471人/平均約7年追跡/死亡3,013人最も歩数が少ない層(約3,553歩)を基準に、約7,842歩で死亡リスク約4〜5割低い、約10,901歩で約5割低い60歳以上:約6,000〜8,000歩/60歳未満:約8,000〜10,000歩
del Pozo Cruz ら 2022(JAMA Neurology)UKバイオバンク 40〜79歳 約78,000人/約7年/認知症866人認知症リスクが最も低いのは約9,800歩(約5割低い)。約3,800歩でも約25%低い明確な下限なし(少数からでも関連)
del Pozo Cruz ら 2022(JAMA Internal Medicine)UKバイオバンク 同コホート/がん死1,325人・心血管死664人死亡・心血管・がんとも歩数が多いほど低リスク。2,000歩増ごとに早死にリスクが1割前後低下おおむね約10,000歩まで
中之条研究(青栁幸利ら/継続中)群馬県中之条町 65歳以上 約5,000人/うち活動量計装着 約500人「1日8,000歩・うち中強度(速歩き)20分」が多くの生活習慣病予防の目安。約12,000歩で頭打ち約8,000歩(質=速歩きを重視)

海外の研究と日本の中之条研究で「頭打ちの歩数」に多少の幅があるのは、対象集団や測定方法、何を予防のアウトカムにするかが異なるためです。それでも「数千歩台でも効果が立ち上がり、おおむね6,000〜8,000歩台で大部分が得られる」という大枠は共通しています。1万歩という単一の数字に縛られないことが、現場で使える読み方です。

日本の中之条研究と厚労省ガイド:6,000歩という現実的な目安

日本にも、歩数と健康を長年追いかけた代表的な研究があります。東京都健康長寿医療センター研究所の青栁幸利氏らが、群馬県中之条町で2000年から続けている「中之条研究」です。65歳以上の住民約5,000人を対象に、うち約500人には活動量計を長期間つけてもらい、歩数だけでなく「中強度の活動(息がはずむ程度の速歩き)の時間」まで記録しました。

この研究から導かれた目安が「1日8,000歩、そのうち中強度(速歩き)を計20分」です。ただ漫然と1万歩を歩くより、8,000歩でも中に速歩きを取り入れるほうが、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病の予防につながる、という考え方です。一方で「歩けば歩くほどよい」わけではなく、12,000歩を超えるような過度な活動は、関節や骨への負担・疲労が増える傾向があり頭打ちになる、とも報告されています。なお中之条研究も大勢を追いかけた観察研究であり、くじ引きで運動の有無を割り付けて比べる試験(ランダム化比較試験=RCT)ではない点は、海外研究と同じく念頭に置く必要があります。

こうした国内外の知見をふまえ、厚生労働省は2024年に公表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」で、高齢者には1日およそ6,000歩以上(歩行など3メッツ以上の身体活動を1日40分以上に相当)を目安として示しています。成人は約8,000歩以上です。これは「6,000歩で十分」という意味ではなく、まずここを現実的な目標ラインとし、体力のある高齢者はさらに上を目指してよい、という考え方です。同ガイドは「6,000歩も歩けない人は、少しでも身体活動を行うことを推奨する」とも明記しており、ゼロを少しでも超えることを重視しています。

大切なのは、この6,000歩という公的な目安が、Paluchらが示した「高齢者は6,000〜8,000歩で頭打ち」という海外研究の数字と、無理なく重なることです。国の指針と国際的な研究が、おおむね同じ方向を指しているわけです。

数字を誤解しないための5つの注意点

歩数の研究は心強い数字が並びますが、現場で語るときに踏み外しやすい落とし穴があります。介護職として説明責任をもつために、次の5点を必ずセットで押さえておきましょう。

  1. 多くは「観察研究」で、因果は証明されていない。 紹介した研究のほとんどは「歩数が多い人ほど健康だった」という関連を見たもので、「歩いたから健康になった」と言い切るものではありません。RCT(くじ引きで歩く群と歩かない群を割り付けて比べる試験)ではないため、因果は断定できません。
  2. 「逆因果」が混じる。 もともと健康な人ほどよく歩ける、という逆向きの関係があります。病気が隠れている人は歩数が落ちるため、「歩数が少ない=早死に」に見えてしまう部分があります。研究者は追跡初期の死亡を除くなどの工夫をしますが、完全には取り除けません。
  3. 「◯割低い」は相対的な差。 「リスク2割減」と聞くと大きく感じますが、これは歩数が少ない人と比べた相対的な差です。もとのリスクが小さければ、実際の差(絶対的な差)は小さくなります。数字の印象だけで過大評価しないことが大切です。
  4. 測定は一時点のことが多い。 UKバイオバンクの研究では、活動量計をつけたのは原則1週間だけです。その後の何年もの生活が同じ歩数だったとは限らず、ふだんの歩き方を完全に表しているわけではありません。
  5. 歩数だけが健康を決めるわけではない。 食事・睡眠・持病・服薬・社会的なつながりなど、多くの要因が絡みます。歩数は大事な一要素ですが、「歩けばすべて解決」ではありません。特に転倒リスクの高い人では、歩数を増やすこと自体が転倒・骨折につながる危険もあり、安全と両立させる視点が欠かせません。

介護現場でどう活かすか:離床・歩行支援・目標設定

では、この歩数研究を介護の現場でどう使えばよいのでしょうか。ポイントは「1万歩を目指させること」ではなく、研究が示した『少ない歩数からの立ち上がりが大きい』という事実を、目標設定の根拠にすることです。

1. 寝たきりに近い人ほど、わずかな離床に意味がある。 研究では、歩数がほぼゼロに近い層から少し増えるところで、健康面の差がもっとも大きく出ていました。これは現場の実感とも一致します。離床して数十歩でもベッドから離れる、食堂まで歩く、トイレまで自力で行く。こうした「数百歩の積み重ね」を軽く見ないことが、エビデンスの観点からも理にかなっています。1万歩との差ではなく、「昨日より今日の一歩」を評価する視点です。

2. 目標は本人の現在地から設定する。 厚労省ガイドも「6,000歩も歩けない人は、少しでも身体活動を」と明記しています。ふだん2,000歩の利用者にいきなり6,000歩を求めるのではなく、まず3,000歩、次に4,000歩と、現在地から無理のない刻みで上げていく。認知症リスクの研究で「3,800歩でも約25%低い」という関連が見えたことは、低い目標にも意味があることを後押しします(あくまで関連であり保証ではありません)。

3. 歩数を増やすことと安全を両立させる。 転倒リスクの高い人では、歩数を増やすこと自体がリスクにもなります。歩行支援・見守り・住環境整備・履物の見直しとセットで進めること、必要に応じて理学療法士・作業療法士と連携することが前提です。「歩かせる」前に「安全に歩ける状態を整える」のが介護職の役割です。

4. 量だけでなく質(中強度)も視野に。 中之条研究は「速歩きを少し混ぜる」ことの価値を示しました。ただし高齢者・フレイルの方に無理な速歩きをさせるのは危険です。あくまで本人の体力に合わせ、可能な人には「少しだけテンポを上げる時間」を取り入れる、という慎重な使い方にとどめます。

科学的介護・キャリアへの意味:数字を語れる専門職へ

歩数のエビデンスを理解しておくことは、日々のケアだけでなく、介護職としての専門性やキャリアにも直結します。

科学的介護(LIFE)との接続。 国が進める科学的介護情報システム(LIFE)は、ケアの内容と状態の変化をデータで蓄積し、根拠にもとづくケアへつなげる仕組みです。歩数や離床・歩行の状況は、利用者の状態変化をとらえる具体的な指標になります。「なんとなく元気がない」ではなく「歩数が先月より落ちている」と数字で気づき、多職種で共有できる職員は、これからの介護でますます求められます。歩数の研究を知っていれば、その数字が何を意味するのかを根拠とともに説明できます。

アセスメントと多職種連携の共通言語。 歩数や活動量は、看護師・リハ職・ケアマネジャーとも共有しやすい客観的な指標です。「6,000歩はあくまで目安で、この方は現在地2,500歩だから、まず3,500歩を当面の目標に」といった具体的な提案ができれば、カンファレンスでの発言に重みが出ます。エビデンスを正しく引用しつつ、過大な約束(歩けば認知症を防げる、など)はしない。この節度が専門職としての信頼につながります。

ご家族への説明力。 「1万歩も歩かせないと意味がないのでは」と心配するご家族に、「研究では高齢者は6,000〜8,000歩あたりで効果の大部分が得られていて、少ない歩数からでも意味があります。まずは無理のない範囲で」と落ち着いて伝えられること。これは過度な期待や焦りを和らげ、ケアへの納得感を高めます。

介護DXの追い風。 見守りセンサーや活動量計など、歩行・活動を自動で記録するテクノロジーが現場に広がりつつあります。記録された数字を「読める」職員は、こうした介護DXの流れの中で価値を発揮します。歩数研究の知識は、その読み解きの土台になります。

現場で歩数を活かす小さなコツ

  • 「現在地」を先に測る。 目標を決める前に、まず数日ふだんの歩数を記録する。本人の出発点がわからないと、無理な目標になりやすい。
  • 歩数を「生活動作」に翻訳する。 「あと1,000歩」より「食堂まで往復をもう1回」のほうが、本人もイメージしやすく続けやすい。
  • 季節と体調で目標を変える。 中之条研究も指摘するように、歩数は季節で変動する。夏の猛暑日や雨の日は無理をさせず、年単位の平均で見る。
  • 速さより「座りすぎを減らす」を優先。 厚労省ガイドも座りっぱなしを減らすことを重視。1時間に一度立つ・少し歩くだけでも意味がある。
  • 転倒歴のある人は必ずリハ職に相談。 歩数を増やす前に、歩行の安全評価をセットにする。

よくある質問

Q. 結局、高齢者は1日何歩を目標にすればいいですか?
A. 研究と国の指針を合わせると、まずは1日およそ6,000歩が現実的な目安です。ただしこれは「全員が達成すべき基準」ではなく、現在ほとんど歩けていない人は、そこより少ない歩数からでも健康面の意味があります。本人の現在地から無理なく増やすのが基本です。
Q. 1万歩は意味がないのですか?
A. 意味がないわけではありません。たくさん歩ける人にとって1万歩はよい目標です。ただ、高齢者では6,000〜8,000歩あたりで亡くなるリスク低下の効果の大部分が得られており、「1万歩でなければ無意味」という考え方が誤りだということです。
Q. 歩けば認知症を防げるのですか?
A. 「防げる」と言い切ることはできません。歩数が多い人ほど認知症が少なかったという関連は複数の研究で示されていますが、これは観察研究であり、健康だからよく歩ける(逆因果)という可能性も含みます。リスクを下げる方向に働く可能性がある、という慎重な表現にとどめるのが正確です。
Q. 速く歩いたほうがよいのですか?
A. 中之条研究は速歩き(中強度)の価値を示しましたが、海外の大規模研究では総歩数で補正すると速さの効果がはっきりしなくなる部分もあります。まずは歩数(量)を確保し、無理のない範囲で少しテンポを上げる、という順番が安全です。高齢者やフレイルの方に無理な速歩きをさせないことが前提です。
Q. 寝たきりに近い利用者には関係ない話ですか?
A. むしろ最も関係します。研究では、ほとんど動けない層から少し動く側へ移るところで、健康面の差がもっとも大きく出ていました。離床や数十歩の歩行にも意味があると、根拠をもって言える話です。

まとめ:1万歩より「現在地からの一歩」を

「1日1万歩」は、もともと商品名から広まった目標で、絶対的な健康基準ではありませんでした。世界15か国のデータを統合した研究では、亡くなるリスク低下の効果は高齢者でおよそ6,000〜8,000歩で頭打ちになり、日本の中之条研究や厚生労働省のガイド(高齢者は約6,000歩以上)とも、無理なく重なります。認知症との関連を調べた研究では、1日3,800歩程度でもリスクが約25%低いという関連が見られ、少ない歩数からでも意味があることが示されました。

ただし、これらの多くは観察研究であり、「歩いたから健康になった」と因果を断定はできません。健康だからよく歩ける(逆因果)という向きも混じります。だからこそ介護職に求められるのは、数字を過大にも過小にも語らず、「現在地から無理なく増やす」「安全と両立させる」という現実的な使い方です。

大切なのは1万歩との差ではなく、寝たきりに近い人の離床や数十歩の歩行を含めた「現在地からの一歩」を評価することです。歩数のエビデンスを正しく理解した介護職は、科学的介護(LIFE)・多職種連携・ご家族への説明の場で、根拠をもって語れる専門職として、これからの現場で確かな強みを持つことができます。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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