
糖尿病とは
糖尿病はインスリンの作用不足で慢性的に高血糖が続く病気です。1型・2型の違い、HbA1c目標値、高齢者糖尿病の特徴、低血糖の早期発見、介護現場での服薬・食事管理を解説します。
この記事のポイント
糖尿病(とうにょうびょう)とは、膵臓から分泌されるホルモン「インスリン」の量や働きが不足して、血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高い状態が続く病気です。日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」では、空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上などが診断基準。厚労省「2019年国民健康・栄養調査」では糖尿病が強く疑われる人は約1,000万人と推計されています。介護現場で特に注意が必要なのが高齢者糖尿病。低血糖の症状が出にくく、認知機能低下・転倒・心血管疾患のリスクを高めるため、HbA1c目標値も若年者より緩めに設定(多くは7.0〜8.0%)されています。
目次
糖尿病の定義と分類
糖尿病は、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの不足、または効きにくさ(インスリン抵抗性)によって、食事で摂取したブドウ糖がうまく細胞に取り込まれず、血液中にあふれる状態です。慢性的な高血糖は全身の血管を傷つけ、神経・目(網膜症)・腎臓(腎症)・足(壊疽)などに合併症を引き起こします。
1型糖尿病と2型糖尿病
- 1型糖尿病:自己免疫などにより膵β細胞が破壊され、インスリンがほぼ分泌されなくなる。小児・若年者に多く、生涯インスリン注射が必須。日本の糖尿病患者の約5%。
- 2型糖尿病:インスリン分泌の低下と抵抗性が組み合わさるタイプ。生活習慣(食事・運動・肥満)と遺伝の関与が大きい。日本人糖尿病の約95%を占め、高齢者の糖尿病はほぼこのタイプ。
- その他:妊娠糖尿病、膵疾患・薬剤性などの二次性糖尿病。
診断基準(日本糖尿病学会2024)
以下のいずれかを満たすと「糖尿病型」、別日2回以上で確認すると糖尿病と診断されます。
- 空腹時血糖値 126 mg/dL 以上
- 75gブドウ糖負荷試験 2時間値 200 mg/dL 以上
- 随時血糖値 200 mg/dL 以上
- HbA1c 6.5% 以上(過去1〜2ヶ月の平均血糖を反映)
高齢者糖尿病の特徴
日本糖尿病学会・日本老年医学会「高齢者糖尿病診療ガイドライン2023」は、65歳以上の糖尿病に対して若年者と異なる管理方針を明示しています。
- 低血糖症状が出にくい:典型的な交感神経症状(動悸・冷や汗・手のふるえ)が現れにくく、いきなり意識障害になることがある。
- 認知症リスクが2〜4倍:糖尿病はアルツハイマー型・脳血管性ともに認知症の独立した危険因子。
- サルコペニア・フレイルとの関連:筋肉量低下が血糖管理を難しくし、転倒・フレイルを加速させる悪循環。
- 多剤併用と服薬管理の難しさ:複数の薬を飲んでおり、低血糖を起こす薬(SU薬・インスリン)の管理が課題。
- シックデイ(風邪・下痢)リスク:食事量低下・嘔吐で薬の効きすぎ→低血糖。一方で感染で血糖が急上昇することも。
- 合併症の進行:高齢になってから発症しても、糖尿病性網膜症・腎症・神経障害は数年で進行しうる。
これらを踏まえ、高齢者では「血糖を下げすぎない」ことが優先され、HbA1c目標値はカテゴリ別に7.0〜8.5%に緩和されます。
数字で見る糖尿病
- 糖尿病が強く疑われる人:約1,000万人(厚労省「2019年国民健康・栄養調査」)。20歳以上の男性19.7%、女性10.8%。
- 予備群を含めると約2,000万人。日本人成人の5人に1人が糖尿病かその予備群。
- 70歳以上の有病率:男性26.4%、女性19.6%。年齢が上がるほど増加。
- 糖尿病性腎症が透析新規導入の原因第1位(39.0%)(日本透析医学会「2022年末調査」)。
- 糖尿病による年間死亡数:約1.4万人(厚労省「2023年人口動態統計」)。心血管疾患・脳卒中の死亡を含めると影響はさらに大きい。
- 医療費:年間約1.2兆円(厚労省「2022年度国民医療費」)。
介護施設では入所者の3〜4割が糖尿病既往者と推定され、看護師・介護職にとって日常的なケア対象となる代表的な慢性疾患です。
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高齢者糖尿病のHbA1c目標値(カテゴリ別)
日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会による高齢者血糖コントロール目標は、認知機能・ADL・低血糖リスクのある薬剤使用の有無で3カテゴリに分かれます。
| カテゴリ | 状態 | 目標HbA1c(薬剤なし or 低血糖リスクなし) | 目標HbA1c(インスリン・SU薬使用時) |
|---|---|---|---|
| I | 認知機能正常/ADL自立 | 7.0%未満(65〜74歳) / 7.0%未満(75歳以上) | 7.5%未満(下限6.5%) |
| II | 軽度認知障害〜軽度認知症/IADL低下 | 7.0%未満 | 8.0%未満(下限7.0%) |
| III | 中等度以上の認知症/基本ADL低下/多疾患・機能障害 | 8.0%未満 | 8.5%未満(下限7.5%) |
カテゴリII・IIIでは下限値が設定されているのが特徴で、「下げすぎないこと」が安全上重要です。施設入所者の多くがカテゴリII〜IIIに該当し、過度な厳格管理は低血糖・転倒・QOL低下を招きます。
低血糖サインと介護現場での対応
高齢者糖尿病で最も恐れるべきは低血糖です。心血管イベント・転倒・認知症進行のトリガーとなり、いきなり意識消失することもあります。
低血糖の症状(70mg/dL未満が目安)
- 典型的な交感神経症状(若年者で出やすい):動悸・冷や汗・手のふるえ・空腹感・顔面蒼白
- 中枢神経症状(高齢者で目立ちやすい):あくび・ぼんやり・ろれつが回らない・歩行ふらつき・行動異常・意識障害・けいれん
- 非典型サイン:「いつもより元気がない」「呼びかけに反応が鈍い」「食事に時間がかかる」など、認知症と紛らわしい所見
介護現場での即時対応
- 意識あり・経口可能:ブドウ糖10g(または砂糖20g、ジュース150mL)を摂取。15分後に血糖測定し改善なければ再投与。
- 意識障害/嚥下不能:絶対に経口摂取させない(誤嚥の危険)。看護師がブドウ糖静注 or グルカゴン筋注。即119番。
- α-グルコシダーゼ阻害薬服用中の低血糖:砂糖は分解されにくいため必ずブドウ糖を使う。
予防のための日常管理
糖尿病についてよくある質問
Q1. HbA1cとは何ですか?
赤血球中のヘモグロビンとブドウ糖が結合した割合(%)で、過去1〜2ヶ月間の平均血糖を反映する指標です。日々の血糖変動に左右されないため、糖尿病コントロールの最重要マーカー。「ヘモグロビンエーワンシー」と読みます。
Q2. 介護施設で糖尿病の利用者を受け入れる際に確認することは?
①糖尿病の型(1型/2型)②現在の治療(経口薬/インスリン/食事療法)③HbA1c直近値とカテゴリ別目標④低血糖既往⑤食事・水分の指示⑥合併症(網膜症・腎症・神経障害・心血管疾患)⑦シックデイ時の連絡先――を退院サマリーや診療情報提供書から確認します。
Q3. インスリン注射は介護職ができますか?
原則として医療行為であり介護職は実施できません。本人による自己注射、家族・看護師による注射が基本です。施設では看護師が担当し、不在の時間帯は事前に主治医・施設長と運用ルールを定めます。
Q4. SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬とは?
近年急速に普及した糖尿病薬で、SGLT2阻害薬は腎臓から糖を尿に出して血糖を下げる薬、GLP-1作動薬は食欲抑制・インスリン分泌促進作用を持つ注射薬です。低血糖が起きにくい一方、SGLT2阻害薬は脱水・尿路感染、GLP-1は嘔気・食欲低下のリスクがあり、観察が必要です。
Q5. 糖尿病の利用者でもおやつは食べてよいですか?
主治医・栄養士の方針次第ですが、QOLの観点から完全禁止より「量・タイミング・種類を調整」が一般的。極端な制限は食欲低下・低栄養・うつにつながり、特に高齢者では弊害が大きい場合があります。施設の食事会議で個別に検討します。
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まとめ
糖尿病はインスリンの作用不足で慢性的に高血糖が続く病気で、日本人の5人に1人が糖尿病かその予備群です。介護現場で対応する高齢者糖尿病は、低血糖症状が出にくく認知機能低下・転倒リスクを伴うため「下げすぎないこと」が安全管理の核心。HbA1cはカテゴリ別に7.0〜8.5%の目標を持ち、SU薬・インスリン使用時は下限値も意識します。日々の食事観察・服薬時刻の管理・低血糖サインへの感度——これらを介護職と看護師の連携で支えることが、利用者の命と生活の質を守る最大の介入です。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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