
嚥下5期モデルとは
嚥下5期モデル(先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期)の定義と各期で起きる嚥下障害・評価(VF/VE/RSST/MWST/舌圧)・リハビリを介護現場目線で解説。
この記事のポイント
嚥下5期モデルとは、食べ物を「見る・認識する」段階から「胃に到達する」までの一連のプロセスを先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期の5段階に分けて捉える理論モデルです。各期で起こる嚥下障害のパターンが異なるため、どの期に問題があるかを特定することで、誤嚥予防やリハビリ介入の精度が高まります。
目次
嚥下5期モデルの全体像
嚥下5期モデル(5-stage model of swallowing)は、摂食嚥下のプロセスを先行期(認知期)→ 準備期(咀嚼期)→ 口腔期(送り込み期)→ 咽頭期 → 食道期の5段階に区切り、それぞれの機能と起こりうる障害を整理する枠組みです。日本摂食嚥下リハビリテーション学会や慶應義塾大学病院など、臨床現場で広く採用されています。
5期モデルが重要な理由は、「むせ」や「飲み込みにくさ」という同じ症状でも、原因がどの期にあるかで介入方法が大きく変わるからです。たとえば認知症で「食事に気づかない」のは先行期の問題、入れ歯が合わずに咀嚼できないのは準備期の問題、嚥下反射が遅れて誤嚥するのは咽頭期の問題で、それぞれ環境調整・歯科介入・嚥下訓練と対応が異なります。
介護現場では、看護師・言語聴覚士(ST)・歯科衛生士・管理栄養士・介護職が連携しながら、利用者がどの期に困難を抱えているかをアセスメントし、食形態の変更(嚥下調整食)、姿勢調整、口腔ケア、嚥下リハビリを組み合わせて対応します。脳卒中・認知症・パーキンソン病・サルコペニアなどの疾患では、複数の期に同時に障害が出ることも珍しくありません。
5期それぞれの機能と特徴
| 期 | 別名 | 主な機能 | 関与する器官 | 所要時間の目安 |
|---|---|---|---|---|
| ①先行期 | 認知期 | 食物を視覚・嗅覚で認識し、量・硬さ・温度を判断、口へ運ぶ | 大脳(高次脳機能)、上肢 | 数秒〜(個人差大) |
| ②準備期 | 咀嚼期 | 口腔内で咀嚼し、唾液と混合して食塊(食べ物のかたまり)を形成する | 歯・舌・頬・口唇・咀嚼筋・唾液腺 | 5〜20秒 |
| ③口腔期 | 口腔送り込み期 | 食塊を舌で口腔から咽頭へ送り込む | 舌(特に舌尖〜舌根)、軟口蓋 | 約1秒 |
| ④咽頭期 | 嚥下反射期 | 嚥下反射により食塊が咽頭から食道へ。喉頭挙上で気管入口を閉鎖し誤嚥を防ぐ | 軟口蓋・舌骨・喉頭・咽頭収縮筋 | 0.5〜1秒 |
| ⑤食道期 | — | 食道の蠕動運動で食塊を胃へ送る。上食道括約筋が逆流を防ぐ | 食道平滑筋・上下食道括約筋 | 6〜10秒 |
このうち意識的にコントロールできるのは先行期〜口腔期までで、咽頭期・食道期は反射と不随意運動で進行します。咽頭期は0.5〜1秒という短時間に複数の器官が協調する繊細な動作で、ここに障害が出ると誤嚥性肺炎のリスクが急上昇します。
各期で起きる嚥下障害と介入のポイント
①先行期の障害(食事に「気づけない・始められない」)
- 典型的な障害:失認(食べ物と認識できない)、注意散漫、食欲低下、食具の使い方を忘れる(失行)
- 原因疾患:認知症(特にアルツハイマー型・レビー小体型)、高次脳機能障害、うつ
- 介入:声かけ・指さしで注意を食事に向ける、TVを消して刺激を減らす、彩りの良い盛り付け、食前の口腔体操で覚醒を促す
②準備期の障害(咀嚼できない・食塊が作れない)
- 典型的な障害:歯の欠損・義歯不適合、咀嚼筋力低下、口唇閉鎖不全による食べこぼし、唾液分泌低下(口腔乾燥)
- 原因疾患:歯科疾患、サルコペニア、シェーグレン症候群、抗コリン薬の副作用
- 介入:歯科受診による義歯調整、食形態を軟菜やきざみ食へ変更、口腔ケアと唾液腺マッサージ、咀嚼回数を意識させる声かけ
③口腔期の障害(舌で送り込めない)
- 典型的な障害:舌運動低下(残留が増える)、軟口蓋挙上不全による鼻咽腔逆流、口腔内残渣の増加
- 原因疾患:脳卒中(特に舌下神経麻痺)、舌癌術後、パーキンソン病、ALS
- 介入:舌可動域訓練、抵抗運動、舌圧測定で最大舌圧(基準30kPa以上)をモニタリング、ペースト状やゼリー状の食形態へ変更
④咽頭期の障害(嚥下反射が遅れ、誤嚥する)
- 典型的な障害:嚥下反射遅延、喉頭挙上不全、咽頭残留、誤嚥(とくに不顕性誤嚥)
- 原因疾患:脳卒中(延髄外側症候群など)、パーキンソン病、サルコペニア、加齢
- 介入:とろみ調整、頸部前屈姿勢(あご引き嚥下)、メンデルゾーン手技、咽頭アイスマッサージ、複数回嚥下、RSSTでのスクリーニング
⑤食道期の障害(食道を通過できない・逆流する)
- 典型的な障害:食道蠕動低下、下部食道括約筋(LES)弛緩による胃食道逆流、食道アカラシア
- 原因疾患:加齢、強皮症、糖尿病性自律神経障害、食道癌術後
- 介入:食後30分〜2時間の座位保持、就寝前2時間は食事を避ける、上半身を15〜30度挙上した姿勢、少量頻回食、医師による薬物療法(PPI等)
評価方法と介護現場の観察ポイント
専門的評価(医療職)
- VF(嚥下造影検査):バリウム入り食品を嚥下しながらX線透視。5期のうちどこに異常があるか直視できるゴールドスタンダード
- VE(嚥下内視鏡検査):鼻から内視鏡を挿入し咽頭期を観察。ベッドサイドで実施可能で被ばくがない
- RSST(反復唾液嚥下テスト):30秒間に空嚥下何回できるか。3回未満で嚥下障害疑い
- MWST(改訂水飲みテスト):冷水3mLを嚥下、5段階評価。3点以下で精査推奨
- 舌圧測定:JMS舌圧測定器で最大舌圧(kPa)を計測。30kPa未満で口腔機能低下症
介護職が日常で気づくべき観察ポイント
専門評価は医療職の領域ですが、日々接する介護職こそが「変化の最初の発見者」になります。以下のサインに気づいたら看護師・STへ情報共有します。
- 食事中:むせる、咳き込む、食事時間が30分以上かかる、口の中に食物を溜め込む、食べこぼしが増えた
- 食後:声がガラガラ(湿性嗄声)になる、痰が増える、口腔内に食物残渣が残る
- 長期的:体重減少、微熱が続く、肺炎を繰り返す(誤嚥性肺炎のサイン)
- 姿勢・覚醒:食事中の傾眠、姿勢崩れ、頸部後屈(あごが上がる)
多職種連携のポイント
言語聴覚士(ST)は嚥下リハの中核を担い、評価から訓練プログラム作成までを行います。歯科衛生士は口腔ケアと義歯ケア、管理栄養士は食形態調整、看護師は誤嚥性肺炎の早期発見と全身管理を担当。介護職は観察と日々の口腔ケア・食事介助で全体を支えます。介護現場の看護師は、この多職種連携の要として動くことが多い職種です。
よくある質問
Q1. 嚥下5期モデルと「4期モデル」「プロセスモデル」の違いは?
4期モデルは先行期を除いた「準備期・口腔期・咽頭期・食道期」の4段階で、欧米で古くから使われてきました。5期モデルは日本で先行期(認知期)を加えたもので、認知症高齢者の嚥下障害を捉えるのに適しています。プロセスモデルは固形物の咀嚼時に準備期と口腔期が同時並行で進む実態を反映した新しい概念で、5期モデルを補完するものと位置づけられます。
Q2. 介護職は5期モデルをどう活かせばいいですか?
すべての期を覚える必要はありませんが、「むせ=咽頭期」「飲み込みに時間がかかる=口腔期」「食べ始めない=先行期」という大まかな結びつけができると、看護師やSTへの情報共有の質が上がります。「いつ・どんな食材で・どんなふうにむせたか」を5期の視点で記録すると、嚥下評価の精度が高まります。
Q3. 高齢者でとくに障害が出やすい期はどこですか?
加齢変化として最も顕著なのは咽頭期の嚥下反射遅延です。サルコペニアによる舌・喉頭挙上筋群の筋力低下が背景にあります。また認知症が進行すると先行期の障害も加わり、複数期の同時障害となるため、誤嚥性肺炎のリスクが急上昇します。
Q4. とろみをつけると誤嚥が減るのはなぜですか?
液体は咽頭通過速度が速く、嚥下反射が遅れた高齢者では反射前に気管へ流入しやすいためです。とろみで粘度を上げると咽頭通過がゆっくりになり、反射のタイミングに余裕が生まれます。ただし濃すぎるとろみは口腔内残留や咽頭残留の原因になるため、学会分類2021に基づき適切な濃度(薄い・中間・濃い)を選びます。
Q5. 食道期の障害は介護現場でどう対応しますか?
食道期は反射と平滑筋による不随意運動のため、リハビリでの直接介入は困難です。姿勢管理(食後の座位保持・上半身挙上)と食事内容(少量頻回・脂質や酸味を控える)が中心になります。逆流症状が続く場合は医師に相談し、PPI(プロトンポンプ阻害薬)等の薬物療法を検討します。
参考資料
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 — 学会分類2021、嚥下評価・訓練の標準化資料
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「摂食嚥下障害のリハビリテーション」 — 5期モデルとVF/VE/RSST/MWSTの臨床的位置づけ
- 日本歯科医師会 — 口腔機能低下症と摂食嚥下の指針
- 厚生労働省「高齢者の摂食嚥下障害」 — 介護保険下の口腔・栄養支援の制度的位置づけ
- 日本口腔外科学会 — 口腔機能と嚥下障害に関する診療指針
まとめ
嚥下5期モデル(先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期)は、摂食嚥下の一連の流れを段階で捉え、「どの期に問題があるか」を特定することで介入精度を高める枠組みです。介護現場では介護職が日常観察で異変を捉え、看護師・ST・歯科衛生士が評価とリハビリを担うチーム連携が誤嚥性肺炎予防の鍵になります。むせ・食事時間の延長・湿性嗄声などのサインを5期の視点で記録し、多職種で共有することが、利用者の「最期まで口から食べる」を支える第一歩です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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