厚労省、訪問介護の令和9年度改定論点を提示|現場は「基本報酬の底上げを」、財務省は同一建物の適正化迫る【2026年6月】

厚労省、訪問介護の令和9年度改定論点を提示|現場は「基本報酬の底上げを」、財務省は同一建物の適正化迫る【2026年6月】

2026年6月29日の介護給付費分科会で、厚労省が令和9年度改定に向けた訪問介護の論点を提示。現場団体は専門性評価と基本報酬の底上げを求め、財務省は同一建物減算ありの事業所の適正化を要請。収支差率9.6%の内訳と介護職への影響を読み解く。

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2026年6月29日の社会保障審議会・介護給付費分科会で、厚生労働省は令和9年度(2027年度)介護報酬改定に向けた訪問介護の論点を提示した。現場の専門職団体は「介護福祉士の専門性を評価し、基本報酬を底上げすべきだ」と訴え、一方で財務省は同一建物に集中的にサービスを提供する事業所の収益の高さを問題視し、適正化を求めている。前回の令和6年度改定で基本報酬を引き下げられた訪問介護は、賃上げ原資の確保と「適正化のターゲット化」という相反する圧力の間に立たされた。読者の介護職・訪問介護員にとっては、今後の給料と働き方を左右する重要な分岐点であり、利用者・家族にとっても在宅生活を支えるサービスが地域で維持できるかどうかに直結する。

目次

解説動画|訪問介護の2027年度改定論点

在宅介護の最前線を担う訪問介護が、来年度の制度改定議論で大きな岐路に立っている。2026年6月29日、厚生労働省は社会保障審議会・介護給付費分科会を開き、令和9年度(2027年度)介護報酬改定に向けた訪問介護の論点を正式に提示した。同じ日には訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、居宅介護支援、福祉用具・住宅改修もまとめて俎上に載せられ、在宅サービス全体の評価をどう設計し直すかが問われた。

論点提示と前後して、もう一つの強い圧力が表面化している。財務省は財政制度等審議会の建議で、介護報酬の「適正化」を改めて要請した。とりわけ、有料老人ホームなどに併設して効率的にサービスを提供する事業所の収益の高さに目を付け、評価の見直しを迫っている。前回の令和6年度改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられ、現場に強い反発が広がったことは記憶に新しい。今回もまた、賃上げのための原資確保と、財政当局からの適正化要求とが正面からぶつかる構図になっている。

本記事では、6月29日の分科会で何が論点として示されたのか、現場の専門職団体は何を主張したのかを一次情報に基づいて整理する。そのうえで、収支差率という数字の内側で何が起きているのか、訪問介護員の給料や働き方、そして利用者が受けるサービスにどう波及するのかを、転職・キャリアの視点を交えて読み解いていく。

厚労省が示した訪問介護の論点と現場の主張

厚生労働省は6月29日の分科会で、訪問介護を含む在宅サービスについて「人口減少・需要の変化に応じた提供体制をどう確保するか」「求められる役割・機能をどう発揮させるか」を共通の論点として示した。これは5月以降続く個別サービスごとの論点整理の一環で、すでに小規模多機能や認知症グループホーム、通所介護、ショートステイが順番に取り上げられてきた。訪問介護はその在宅サービス編にあたる。同日は訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、居宅介護支援、福祉用具・住宅改修もまとめて議題となり、在宅で暮らす高齢者を支える一群のサービスを横断的に点検する場となった。

現場団体「専門性が現行報酬で評価されていない」

分科会に委員として出席した公益社団法人日本介護福祉士会の今村文典会長は、訪問介護に求められる専門性の高さを強調した。訪問介護では「利用者の心身の状況や生活環境を的確にアセスメントし、自立支援や重度化防止を図るほか、認知症や医療ニーズの高い利用者、独居高齢者への対応など、高い専門性が求められる」と指摘。そのうえで、人材育成・技術継承や多職種連携といった「質を支える取り組みは、現行の報酬体系では十分に評価されていない」と問題提起した。

今村会長は、単なる頭数としての人材確保ではなく「介護福祉士をはじめとする専門職が専門性を十分に発揮し、その知識・技術を次世代へ継承できる環境を整備する視点が重要だ」と述べ、2040年を見据えた持続可能な提供体制を築くには「訪問介護の基本報酬の引き上げを含めた整理が必要だ」と訴えた。訪問介護の現場では、サービス提供責任者が新人ヘルパーに同行して技術を伝えたり、利用者の状態変化を看護師やケアマネジャーに橋渡ししたりといった「報酬の点数には表れにくい労働」が日々積み重ねられている。こうした質を支える業務に光を当てるべきだという主張である。

「基本報酬の大胆な底上げを出発点に」

こうした主張は今村会長に限らない。一連の改定議論を通じて、現場の委員からは「人手不足は極めて深刻」「事業者の倒産や廃業が地域のサービスに支障をきたしている」「制度を語る以前に経営が維持できない存立の瀬戸際にある」といった切迫した声が相次いでいる。介護職の十分な賃上げを実現するために、「まずはすべての基盤となる基本報酬の大胆な底上げを出発点にすべきだ」という意見が、サービス類型を問わず繰り返し上がっている状況だ。加算による上乗せだけでは、加算を取れる体制を持たない小規模事業所まで賃上げが行き渡らないという危機感が、その根底にある。

地域からサービスが消える懸念

今村会長はさらに、訪問介護事業所が一つも存在しない自治体が増えている現実にも触れた。事業所が撤退・廃業すれば、残った事業所は遠方まで足を運ばざるを得ず、移動時間の増加が運営を圧迫する。こうした地域では「地域の実情に応じた提供体制を維持・確保するための評価」が別途必要になると主張した。都市部の効率的な事業所と、過疎地で薄く広くサービスを支える事業所を、同じ報酬の物差しで測ってよいのかという問題提起である。実際、移動だけで30分や1時間を要する中山間地域では、同じ1回の訪問でも採算が根本的に異なり、全国一律の単価設定では支えきれない局面に近づいている。

収支差率9.6%の内訳と財務省の適正化要求

議論の土台になっているのが、訪問介護の収支差率(事業の利益率にあたる指標)だ。厚労省が令和7年度介護事業経営概況調査で公表した数字を見ると、訪問介護の収支差率は令和5年度の11.1%から令和6年度には9.6%へと1.5ポイント低下した。それでも全サービス平均の4.7%(令和6年度決算)を大きく上回り、「相対的に高い」という評価が独り歩きしやすい水準にある。定期巡回・随時対応型訪問介護看護に至っては令和5年度14.6%、令和6年度13.4%とさらに高く、在宅系サービスの収益性の高さが繰り返し指摘されている。

平均だけでは見えない大きなばらつき

ただし、この9.6%という平均値は実態を覆い隠す。分科会の資料では、訪問介護の収支差率の分布が極めて幅広いことが示された。プラス40%以上の高収益事業所が一定数ある一方で、マイナス15%以下の赤字事業所も存在する。委員からは「平均値だけを見て収支差率が高い・低いと単純に判断し、報酬水準を決めるのはよくない」「収支差率が悪くても、地域にとって必要なサービスであれば継続できるようにしなければならない」という慎重論が出た。さらに地域区分別に見ると、最も高いのは3級地の15.6%、一方で最も低い区分もあり、必ずしも都市部の1級地が一番高いわけではないなど、単純な都市・地方の構図では割り切れないばらつきも示された。

調査の精度そのものを疑問視する声もある。概況調査は実態調査より客体数が少なく、訪問介護や訪問看護などの居宅分野はとりわけ回答事業所が限られる。委員からは「調査に回答できる余裕がある事業所だけが答えている可能性がある」「もう少し精度の高い調査をお願いしたい」との指摘が出た。実際、令和8年度には介護事業経営実態調査が実施され、令和7年度決算を調べる。客体数は概況調査の約1万7000に対し実態調査は約3万3000と倍近い規模になり、この結果が令和9年度改定の最終的な判断材料となる見込みだ。

前回はマイナス改定、現場に残る痛み

現場が収支差率の扱いに神経をとがらせるのには理由がある。令和6年度改定では、それ以前の実態調査で訪問介護の収支差率が高いとされたことを背景に、訪問介護の基本報酬が引き下げられた。物価高と人件費上昇が続くなかでの基本報酬引き下げは現場に強い反発を呼び、その後に処遇改善加算の引き上げで穴埋めする形となった。「高い収支差率」を理由にしたマイナス改定が、結果として小規模事業所の経営を直撃した記憶が、今回の議論にも色濃く影を落としている。

財務省「同一建物で稼ぐ事業所を適正化せよ」

こうした現場の主張に対し、財務省は別の角度から切り込んでいる。財務省が示したのは、有料老人ホームなどに併設し、同じ建物の入居者へ集中的に訪問する「同一建物等減算」適用事業所の収益の高さだ。財務省の調べでは、同一建物減算が適用されている場合とされていない場合とで、ヘルパーの移動時間に4倍を超える差があるという。建物内を移動するだけで済む併設型は、利用者宅を一軒ずつ回る一般の事業所に比べて移動コストが圧倒的に小さく、その分だけ経営状況が良好な傾向にある。

厚労省の概況調査でも、同一建物減算ありの事業所は1回あたりの収入単価こそ低いものの、特定事業所加算(Ⅰ)の算定割合が相対的に高く、事業収入は減算なしの事業所の2.2倍に達していた。財務省はこうしたデータを根拠に、効率的に稼げる併設型サービスを「適正化すべきだ」と主張し、令和9年度改定での評価見直しを求めている。なお令和6年度改定では同一建物減算が強化され、新たに12%減算の区分が創設された経緯があり、この延長線上でさらなる踏み込みがあるかが焦点になる。

「春の建議」が突きつける適正化メニュー

財務省のこうした主張は、単発の意見ではなく一連の財政改革論の中に位置づけられている。財務省は2026年6月26日、財政制度等審議会がまとめた春の建議を公表した。これは毎年春に示される財政運営の指針で、その内容の一部が6月中に閣議決定される「骨太方針2026」に反映され、令和9年度(2027年度)改定の方向性を方向づける。直前の建議だけに、今回は介護関係者の注目度がとりわけ高い。

建議では介護分野について、「負担の公平化」「担い手の確保」「給付の効率化・適正化」の3つのテーマに沿って複数の改革の方向性が並んだ。適正化の項目には、本記事で触れた住宅型有料老人ホームに併設する事業所への評価見直しに加え、軽度者(要支援者)に対する生活援助サービスの市町村の地域支援事業への移行、利用者負担2割の対象範囲の拡大、これまで無料だったケアマネジメント(居宅介護支援)への利用者負担の導入などが含まれる。いずれも給付費の抑制につながる項目であり、訪問介護の現場が求める基本報酬の底上げとは逆向きの圧力として働く。

財務省が「利益率が高い」と主張する根拠も、改めて押さえておきたい。財務省は令和7年度介護事業経営概況調査の全サービス平均の収支差率を引き合いに、他産業の中小企業の平均的な利益率と比較して「介護は相対的に高い」と論じている。これに対し現場側からは、概況調査はあくまで簡易な参考値であり、改定率の根拠となるのは令和8年度に実施される本格的な経営実態調査だとして、概況調査の数字を先回りして適正化の論拠にすることへの強い反発が出ている。さらに、利益率の高い大手と経営が苦しい小規模事業所を一括りにした比較への違和感も根強い。物価高と賃上げ圧力のなかで介護事業者の倒産・休廃業は高止まりしており、「適正化」と「賃上げ原資の確保」をどう折り合わせるかが、令和9年度改定の最大の難所になる。

訪問介護で働く人にとっての意味

ここからは、今回の論点提示が訪問介護で働く人、そしてこれから訪問介護を選ぼうとする人にとって何を意味するのかを、キャリアの視点から読み解いていく。最大の論点は、「収支差率9.6%」という数字が一人歩きすることで、賃上げに回るはずの原資が削られかねないという構造だ。

「利益率が高い=余裕がある」ではない理由

令和6年度改定では、収支差率が高いとされた訪問介護の基本報酬が引き下げられた。今回も同じ論法が繰り返されれば、現場の賃上げ余力はさらに細る。だが、訪問介護の収支差率を押し上げているのは、本記事で見たように同一建物に併設された効率的な事業所が含まれているためだ。利用者宅を一軒ずつ車や自転車で回り、移動時間に賃金が発生しないまま走り回っている一般の事業所と、建物内で完結する併設型を、同じ平均値でひとくくりにすることには無理がある。

転職を考える介護職にとって、この区別は事業所選びの実務的なヒントになる。求人票の時給や月給だけでなく、「どんな利用者層をどの範囲で訪問するのか」「移動時間や直行直帰がどう扱われるのか」を確認することが、実際の手取りと働きやすさを大きく左右する。同じ訪問介護でも、併設型の登録ヘルパーと、広域をカバーする独立系事業所の常勤ヘルパーでは、収入構造も働き方もまったく異なるからだ。

専門性評価は介護福祉士のキャリアにどう効くか

今村会長が訴えた「専門性の評価」が報酬に反映されれば、介護福祉士の資格や経験がこれまで以上に処遇に直結する可能性がある。アセスメント力、認知症・医療ニーズへの対応、後進の育成といった「目に見えにくい質」が加算などで評価される方向に進めば、無資格・未経験のヘルパーと有資格者との待遇差が広がり、資格取得やスキルアップの投資効果が高まる。逆に基本報酬が削られて加算頼みの構造が強まれば、加算を取れる体制を持つ大規模事業所と、取れない小規模事業所の二極化がさらに進むことも考えられる。キャリアの安定を重視するなら、特定事業所加算を算定できる体制が整った事業所かどうかも、転職時の重要なチェックポイントになる。

賃上げの行方と「加算頼み」のリスク

訪問介護で働く人の手取りを直接左右するのが、基本報酬と処遇改善加算のバランスだ。令和6年度改定では基本報酬が引き下げられた一方で、処遇改善加算は引き上げられ、全体として賃上げの原資を確保する構図がとられた。ただし加算は、要件を満たす体制を整えた事業所でなければ十分に算定できない。記録や計画書の整備、キャリアパスの構築といった事務負担に人手を割けない小規模事業所では、加算率を取り切れず、結果として同じ訪問介護員でも事業所によって賃金水準に差が生じやすい。

2040年を見据えた人材確保が分科会の共通論点となるなか、現場の委員が「基本報酬の底上げを出発点に」と繰り返すのは、加算に偏った仕組みでは賃上げが全事業所に行き渡らないという危機感の表れでもある。転職を考える介護職にとっては、提示される処遇改善加算の区分(最上位を算定しているか)や、加算分が実際にどう配分されているかを面接で確認することが、額面と実態の乖離を見抜くうえで現実的なチェックポイントになる。改定論議の行方は、給料や働き方といった足元の労働条件に、そのまま跳ね返ってくることになる。事業所選びの段階から、この構図を意識しておきたい。

今後の波及と利用者・家族への影響

論点提示は議論の出発点にすぎない。厚労省は夏ごろにかけて主要な論点を一通り議論し、事業者団体などからのヒアリングを実施したうえで、秋から年末にかけて具体策を詰める。年内に大枠の方向性を固めるのが通例だ。訪問介護の評価がどう着地するかは、この半年の攻防にかかっている。

利用者・家族にとっての意味

この議論は介護職だけの問題ではない。訪問介護は、要介護高齢者が住み慣れた自宅で暮らし続けるための土台となるサービスだ。事業所が一つもない自治体が増えているという今村会長の指摘は、裏を返せば「お金を払ってもヘルパーに来てもらえない地域」が現実に生まれているということでもある。基本報酬が十分に確保されなければ、採算の取りにくい過疎地や、移動に時間のかかる利用者から先にサービスが届かなくなる恐れがある。在宅介護を続けたい家族にとって、報酬改定の行方は「いざというとき来てくれるヘルパーがいるか」という切実な問題に直結する。

適正化と底上げをどう両立させるか

今回の構図を整理すると、課題ははっきりしている。財務省が問題視する「効率的に稼ぐ併設型」への対応と、現場が求める「広域を支える事業所の基本報酬の底上げ」は、本来は矛盾しない。同一建物に集中する事業所の高すぎる収益を適正化し、その財源を移動コストの重い在宅特化型や過疎地の事業所に振り向ける、いわゆるメリハリのある配分ができれば、財政当局と現場の双方の主張を一定程度両立できる。問題は、平均値だけを見たマイナス改定でこの区別を飛ばしてしまうことだ。

令和8年度の経営実態調査で、より精度の高い収支データが出てくる。そこで同一建物減算の有無別、地域区分別、事業規模別の実態がどこまで可視化されるかが、メリハリある改定を実現できるかどうかの分かれ目になる。訪問介護を支える担い手の処遇と、在宅介護を必要とする人々のセーフティネットの両方が、この調査と年末の議論にかかっている。

参考文献・出典

まとめ

2026年6月29日の介護給付費分科会で、厚労省は令和9年度改定に向けた訪問介護の論点を提示した。日本介護福祉士会の今村文典会長をはじめ現場の委員は、アセスメントや認知症・医療対応、人材育成といった専門性が現行報酬で十分に評価されていないとして、基本報酬の大胆な底上げを求めた。一方で財務省は、同一建物に集中して効率的に稼ぐ事業所の収益の高さを問題視し、適正化を要請している。収支差率9.6%という平均値の裏には、プラス40%超の高収益事業所からマイナス15%超の赤字事業所まで大きなばらつきがあり、平均だけを見たマイナス改定は現場の実態と乖離するリスクをはらむ。

議論は秋から年末に本格化し、令和8年度の経営実態調査の結果が最終的な判断材料となる。同一建物減算の有無や地域差を踏まえた「メリハリある配分」が実現できれば、財政当局と現場の主張は両立しうる。訪問介護で働く人にとっては給料と働き方を、在宅介護を支える家族にとっては地域でサービスが維持できるかを左右する半年になる。あなたが今いる、あるいはこれから選ぼうとしている事業所は、この改定の波をどう乗り越えられる体制だろうか。自分の専門性が正当に評価される働き方を、いま一度見つめ直してみてはいかがだろうか。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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