
訪問介護で過去最高28.7%の処遇改善加算|2026年6月施行・転職市場への影響
2026年6月から訪問介護の処遇改善加算が最大28.7%に引き上げられます。新区分「Ⅰロ」の特例要件、加算率の詳細、転職者にとっての影響を厚労省告示ベースで解説します。
この記事のポイント
2026年6月の介護報酬臨時改定で、訪問介護の処遇改善加算は新区分「加算Ⅰロ」が新設され、加算率は過去最高の28.7%となります。これは現行の加算Ⅰから4.2ポイント増で、全介護サービス中で最も高い水準。フル算定で介護職員1人あたり月額最大1.9万円の賃上げ効果が見込まれます。
2026年6月臨時改定で訪問介護に何が起きるのか
2026年6月、介護報酬の「臨時改定(期中改定)」が施行されます。介護報酬の改定は本来3年に1度(次回の通常改定は2027年度)ですが、政府は深刻な人材不足と他産業との賃金格差を放置できないと判断し、3年待たずに「特例的な臨時改定」を実施することを決定しました。介護業界にとっては極めて異例の動きです。
今回の改定の最大の目玉が、介護職員等処遇改善加算の大幅な拡充です。とりわけ訪問介護については、全介護サービスの中で最も高い加算率となる「最大28.7%」が告示されました。これは現行の最上位区分(加算Ⅰ:24.5%)から実に4.2ポイントの引き上げです。
背景には、2024年度の通常改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことへの強い反発があります。基本報酬の引き下げ後、訪問介護事業所の倒産は2年連続で過去最多を更新し、登録ヘルパーの確保はますます困難になっていました。「賃金が上がらないから人が集まらず、人が集まらないからサービスが提供できない」という悪循環を断ち切るため、厚生労働省は処遇改善加算で訪問介護を集中的に支援する方針を打ち出した形です。
新たに設けられる「加算Ⅰロ」は、従来の加算Ⅰの要件に加えて令和8年度特例要件(後述)を満たした事業所のみが算定できる上乗せ区分です。事業所がDX化や生産性向上に取り組むことを条件に、より高い加算率を保証する仕組みになっています。これは単なる賃上げ施策ではなく、「介護現場の構造改革」を促す制度設計でもあるのです。
本記事では、訪問介護の28.7%加算がどのような仕組みで実現するのか、誰が対象になるのか、そして転職を考えている介護職員にとって何を意味するのかを、厚労省告示と社保審・介護給付費分科会の資料に基づいて整理します。
訪問介護の新加算率|全6区分の数字を一覧で確認
2026年6月に施行される訪問介護の介護職員等処遇改善加算の区分・加算率は以下の通りです(厚労省告示および社保審・介護給付費分科会資料より)。
| 区分 | 新加算率 | 現行との差 | 主な要件 |
|---|---|---|---|
| 加算Ⅰ「イ」 | 27.0% | +2.5pt | キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅴ+職場環境等要件 |
| 加算Ⅰ「ロ」(新) | 28.7% | +4.2pt | Ⅰイ要件+令和8年度特例要件 |
| 加算Ⅱ「イ」 | 24.9% | +2.5pt | キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅳ等 |
| 加算Ⅱ「ロ」(新) | 26.6% | +4.2pt | Ⅱイ要件+令和8年度特例要件 |
| 加算Ⅲ | 20.7% | +2.5pt | キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅲ等 |
| 加算Ⅳ | 17.0% | +2.5pt | キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ等 |
注目すべきは、最高位の「加算Ⅰロ」が他のどの介護サービスよりも高い水準であることです。たとえば訪問看護に新設された処遇改善加算は最大1.8%、特養や老健は2桁台でも訪問介護より低めの水準にとどまっており、訪問介護への偏重ぶりが鮮明です。
1人あたりの賃上げ額(試算)
厚生労働省は今回の改定で、加算をフル算定した場合に介護職員1人あたり月額最大1.9万円の賃上げが可能と説明しています。内訳は、介護職以外も含む介護従事者全体に対する月1万円相当の引き上げ、要件を満たした場合の介護職員への追加7,000円、さらに定期昇給分2,000円を加えたものです。
仮に正社員ヘルパーの月給が25万円だとすれば、フル算定で月給は26.9万円水準まで上昇し、年収換算で約23万円のアップが理論上は可能になります。ただし加算Ⅰロを取れるかどうかは事業所のDX化進捗次第であり、すべての訪問介護事業所がこの恩恵を受けられるわけではない点に注意が必要です。
過去最高水準である根拠
2024年度通常改定時の加算Ⅰは24.5%でした。今回の加算Ⅰロ(28.7%)は、わずか2年で4.2ポイントの引き上げとなり、介護職員等処遇改善加算が3区分から1本に統合された2024年6月以降では最大の上げ幅です。介護報酬全体に占める処遇改善加算の比率としても、訪問介護はサービス別で最高水準を更新しました。
なぜ訪問介護がここまで優遇されたのか|異例改定の背景
「臨時改定」自体が極めて珍しい措置ですが、その中でも訪問介護への手厚い配分は「政治判断」と評価されています。背景を整理します。
背景①:2024年改定の基本報酬引き下げの「揺り戻し」
2024年度の通常改定では、収支差率(利益率)が高いことを理由に訪問介護の基本報酬が引き下げられました。しかし結果は深刻で、2024年・2025年と訪問介護事業所の倒産が連続して過去最多を更新。中小事業所の経営難が一気に表面化しました。業界団体や国会議員からの猛反発を受け、厚労省は「処遇改善加算で訪問介護を救済する」という形で軌道修正を迫られた格好です。
背景②:登録ヘルパーの高齢化と新規参入の停滞
訪問介護を担う登録ヘルパーの平均年齢は約54歳(介護労働安定センター調査ベース)で、60代以上が約4割を占めます。「あと10年で誰がサービスを提供するのか」という危機感は現場に広く共有されており、新規参入を呼び込むには給与水準の引き上げが避けて通れない状況でした。
背景③:在宅介護シフトの加速
国は「地域包括ケアシステム」の実現を掲げ、特養・老健などの施設介護から自宅・サ高住等での在宅介護へとシフトを進めています。在宅介護の中核を担う訪問介護の崩壊は、国の介護政策そのものを揺るがしかねません。28.7%という象徴的な数字は、「在宅介護を絶対に止めない」という国のメッセージとも読み取れます。
背景④:生産性向上とのバーター
新区分「加算Ⅰロ」の特例要件は、ケアプランデータ連携システムの利用や生産性向上推進体制加算の算定など、いずれもDX化・効率化を前提としています。つまり政府は「賃上げを保証する代わりに、現場の生産性を上げてほしい」という条件付きで報酬を上積みしている構造です。手書き記録から脱却できない事業所は、上位区分を取れない可能性が高くなります。
このように28.7%という数字は単なる賃上げではなく、「業界構造改革」「政治的救済」「在宅シフト維持」という3つの目的が複合した結果です。介護業界の歴史の中でも転換点となる改定と位置づけられます。
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転職者が押さえるべき5つのポイント
28.7%という数字だけを見て訪問介護に飛び込むのは危険です。転職を検討する際にチェックすべき5つの実務ポイントを整理します。
- 応募先が「加算Ⅰロ」を取得しているか確認する
同じ訪問介護でも、加算Ⅰロ(28.7%)とⅡロ(26.6%)、加算Ⅳ(17.0%)では給与原資が大きく異なります。求人票や面接で「処遇改善加算の取得区分」を必ず確認しましょう。「加算Ⅰロ取得済(または取得予定)」と明示している事業所が望ましい選択です。 - ケアプランデータ連携システムを使っているか
加算Ⅰロの特例要件の中核がこれです。ケアマネ事業所と訪問介護事業所がデータ連携を行うシステムで、未導入の事業所は加算Ⅰロを取得できません。面接で「電子請求やケアプラン連携はどう対応していますか?」と聞けば、DX化の進度が分かります。 - 賃上げ分の配分ルールを確認する
処遇改善加算は事業所の総収入になり、その3分の2以上を賃金改善に充てるルールがあります。基本給に充てるのか、賞与・手当に充てるのか、誰にいくら配分するのかは事業所の裁量。基本給で配分する事業所のほうが、長期的には恩恵が大きくなります。 - 常勤・非常勤・登録の雇用形態で配分が異なる
事業所によっては「常勤メイン」「登録ヘルパーには手当のみ」など配分にばらつきがあります。登録ヘルパーとして応募する場合は、自分の働き方で実際にどれくらい上がるのか事前に確認することが必須です。 - 「誓約だけ」事業所のリスクも認識する
加算Ⅰロは「令和9年3月末までに対応する」と誓約すれば一旦算定可能ですが、実行できなかった場合は加算返還となります。2026年6月時点で誓約だけの事業所は、後日加算が剥がれる可能性があるため、給与の安定性に不安が残ります。
転職エージェント経由で応募する場合は、これらのポイントを担当者に確認させると効率的です。「処遇改善加算の区分と賃金配分ルールを教えてください」と一言添えるだけで、ブラック事業所をかなり避けられます。
他サービスとの加算率比較|訪問介護はなぜ突出しているのか
2026年6月の臨時改定で設定される処遇改善加算の最高区分を、主要サービスごとに比較しました(厚労省告示・社保審介護給付費分科会資料ベース)。
| サービス区分 | 最高加算率(Ⅰロ) | 備考 |
|---|---|---|
| 訪問介護 | 28.7% | 全サービス中最高。加算Ⅰロ新設 |
| 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 27.8% | 訪問介護に次ぐ高水準 |
| 小規模多機能型居宅介護 | 18.6% | 地域密着サービスとして高め |
| 特定施設入居者生活介護 | 15.9% | 有料老人ホーム等 |
| 地域密着型通所介護 | 12.7% | 小規模デイ |
| 訪問入浴介護 | 13.3% | — |
| 通所介護(デイサービス) | 12.0% | 訪問系の半分以下 |
| 通所リハビリテーション | 11.1% | — |
| 訪問看護(新規対象) | 1.8% | 2026年改定で初導入(全体率) |
| 訪問リハビリテーション(新規対象) | 1.5% | 2026年改定で初導入(全体率) |
| 居宅介護支援(ケアマネ・新規対象) | 2.1% | 2026年改定で初導入(全体率) |
※訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援は事業所全体に適用される加算率で、訪問介護等の区分制とは算定構造が異なります。
訪問介護が突出している理由
訪問介護の加算率が他サービスを大きく引き離している理由は3つあります。
- 基本報酬が低い構造:訪問介護は1回あたりの報酬単価が施設系より低く、加算率を高くしないと実額の賃上げが他サービスに追いつかない。
- 人材難が突出:登録ヘルパーの高齢化と新規参入の停滞が他サービスより深刻。
- 2024年改定の補正措置:基本報酬を下げた分を加算で補填するという「政治的バランス」が働いた。
転職市場への影響
この格差は、転職市場での「サービス間の魅力格差」を生み出します。施設系から訪問系への転職を検討する人は今後増えるでしょう。一方で、施設系には「夜勤手当」「賞与の安定性」「正社員比率の高さ」など加算率以外のメリットもあります。加算率だけで判断するのではなく、総合的な処遇を見極めることが重要です。
訪問看護・訪問リハ・ケアマネにも初めて加算が拡大
2026年6月からは、これまで対象外だった訪問看護(1.8%)、訪問リハビリテーション(1.5%)、居宅介護支援(ケアマネ事業所、2.1%)にも処遇改善加算が新設されます。加算率は訪問介護と比べると小さいものの、業界全体で「介護従事者全体の底上げ」が進む形です。介護現場で働く看護師やセラピスト、ケアマネを目指す人にとっても朗報と言えます。
よくある質問
よくある質問
Q1. 28.7%という加算率は、給料がそのまま28.7%上がるということですか?
いいえ、違います。28.7%は介護報酬の単価に上乗せされる加算率であり、給料が28.7%増えるわけではありません。事業所が受け取った加算金額の3分の2以上を職員の賃金改善に充てるルールがあり、フル算定で介護職員1人あたり月額最大1.9万円程度の賃上げに繋がる、というのが厚労省の試算です。
Q2. 加算Ⅰロを取得していない事業所に転職するとどうなりますか?
加算Ⅱロ(26.6%)以下の事業所でも、現行よりは賃上げ幅は大きくなります。ただし加算Ⅰロを取得している事業所と比べると、月額数千円〜1万円程度の差が生まれる可能性があります。差額は年収換算で10万円以上にもなり得るため、長期勤続を考えるなら加算Ⅰロ事業所が有利です。
Q3. 「令和8年度特例要件」とは具体的に何ですか?
3つの選択肢のうちいずれかを満たす必要があります。①ケアプランデータ連携システムを利用していること(訪問・通所系)、②生産性向上推進体制加算Ⅰ・Ⅱを取得していること(施設・居住系)、③社会福祉連携推進法人に所属していること、のいずれかです。訪問介護では実質的に①が中心要件となります。
Q4. 登録ヘルパーでも28.7%の恩恵を受けられますか?
受けられますが、配分は事業所裁量です。事業所によっては「常勤主体で配分」「登録は時給アップで対応」など方針が分かれます。雇用形態別の賃金改善方針を入職前に必ず確認しましょう。
Q5. パブリックコメントを経て施行されると聞きましたが、内容が変わる可能性は?
2026年3月時点で告示は確定済で、加算率の数値が変更される可能性は極めて低い状況です。ただし詳細な算定要件や事務処理ルールについては、今後のQ&A通知で補足される可能性があります。最新情報はWAM NETの「介護保険最新情報」や厚労省サイトで定期的にチェックしましょう。
Q6. 訪問介護事業所の倒産が増えていると聞きますが、加算でカバーできますか?
2025年も介護事業者の倒産は176件と過去最多を更新しました。28.7%の加算で経営改善は見込めますが、人材難・物価高・小規模事業所の体力不足は構造的な問題で、加算だけで全てが解決するわけではありません。応募時には事業所の経営規模・親会社の有無もチェックしておくと安心です。
まとめ|訪問介護への転職を考えるなら今が好機
2026年6月の臨時改定で訪問介護の処遇改善加算は過去最高の28.7%に達します。これは単なる賃上げ施策ではなく、訪問介護を中核とする在宅介護を維持するための国の強い意志の表れです。フル算定で介護職員1人あたり月額最大1.9万円の賃上げが可能となり、訪問介護は賃金面で他サービスを大きくリードする存在になります。
ただし、すべての訪問介護事業所がこの恩恵を受けられるわけではありません。新区分「加算Ⅰロ」を算定するにはケアプランデータ連携システムの導入などDX化が前提で、対応できない事業所と取得済みの事業所で給与原資に大きな差が出ます。転職を検討するなら、応募先が加算Ⅰロを取得しているか、賃金改善の配分方針はどうかを必ず確認してください。
今回の改定は、訪問介護で働くすべての人にとってチャンスであると同時に、事業所の選別が問われる転換点でもあります。2026年6月以降の求人動向は大きく変わるはずです。基本給を重視した賃上げを実施する事業所、DX化が進んでいる事業所、加算Ⅰロを誓約だけでなく実行している事業所——これらをチェックポイントに、慎重かつ前向きに次のキャリアを選んでいきましょう。
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