
滑舌(オーラルディアドコキネシス)の低下は軽度認知障害のサインか|口腔機能と認知症の最新研究
「パ・タ・カ」の発音速度を測るオーラルディアドコキネシス(ODK)。特に/ka/の低下が軽度認知障害(MCI)の独立リスクと判明。歯周病と認知症の炎症メカニズム、介護現場の口腔ケアが早期サインを捉える窓になる理由を、一次ソースで解説します。
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この記事のポイント
「パ・タ・カ」をできるだけ速く繰り返す検査を、オーラルディアドコキネシス(ODK)と呼びます。2025年の研究(Pearl study)で、3音のうち舌の奥(舌根部)を使う/ka/の発音回数の低下が、年齢などを調整しても軽度認知障害(MCI)と独立して関連することが報告されました(調整オッズ比6.93)。歯のケアや滑舌の変化を毎日観察する介護職にとって、口腔機能の変化は認知機能低下の早期サインを捉える「窓」になりえます。
目次
食事介助や口腔ケアの場面で、利用者の「滑舌が前より悪くなった」「むせやすくなった」と感じたことはないでしょうか。これまで、こうした口腔機能の変化は加齢やオーラルフレイル(口の衰え)として捉えられてきました。しかし近年、口の動きの巧みさが脳の働きと深く結びついており、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の時点ですでに変化が現れることが明らかになりつつあります。
2024年に医学誌Lancetが公表した認知症の標準的レポートでは、生活の中で対処できる修正可能なリスク因子は14項目に拡大され、これらに対処すれば認知症の発症の約45%を予防・遅延できる可能性があると推計されました。その中で「口腔の健康」も、認知症の新たな修正可能リスク因子として国内外で注目を集めています。
本記事では、日本歯周病学会会誌(2026年)の総説と、その基になった2025年の原著研究をはじめとする一次ソースをたどりながら、ODKと認知機能の関係、歯周病と認知症をつなぐ炎症のメカニズム、そして介護現場の観察がもつ意味を、介護職の視点で整理します。なお本記事は研究知見の解説であり、診断や治療を目的とするものではありません。
オーラルディアドコキネシス(ODK)とは|パ・タ・カで何がわかるか
オーラルディアドコキネシス(ODK)とは、舌や口唇の運動の速度と巧緻性(動きの巧みさ)を、発音を使って評価する検査です。「パ(/pa/)」「タ(/ta/)」「カ(/ka/)」という決まった音を、5秒間または10秒間できるだけ速くはっきりと繰り返し発音させ、1秒あたりの発音回数に換算して判定します(日本歯科医師会「オーラルフレイル対応マニュアル2019年版」)。
「パ・タ・カ」がそれぞれ評価する部位
3つの音は、口のなかの異なる場所の動きを反映しています。
- /pa/(パ):唇を閉じて開く動き。口唇の運動機能を評価します。
- /ta/(タ):舌の先を上あごにつける動き。舌の前方(舌尖)の運動機能を評価します。
- /ka/(カ):舌の奥を持ち上げて軟口蓋(上あごの奥のやわらかい部分)に当てる動き。舌の後方(舌根部・奥舌)の運動機能を評価します。
この/ka/の動きは、嚥下(飲み込み)のときに舌の奥を持ち上げる動作によく似ており、より複雑な神経の制御を必要とします。日本歯周病学会会誌の総説(石原・松下、2026年)は、3音のなかでも/ka/が「より巧緻で複雑な神経制御を要する」運動だと位置づけています。
評価の基準値
口腔機能低下症の学会見解論文(2016年度版)および日本歯科医師会のマニュアルでは、/pa//ta//ka/のいずれかが1秒あたり6回未満の場合に、舌口唇運動機能の低下があると判断するとされています。地域に住む高齢者を対象とした多くの報告では、平均値はおおむね1秒あたり5〜7回に収束し、フレイルの進行や加齢、要介護状態によって低下することが知られています。ただしこの値は、義歯の状態や測定環境、本人の理解度、慣れによっても変化するため、事前に十分に説明し、練習してから測定することが推奨されています。
従来ODKは、オーラルフレイルや口腔機能低下症を見つけるための指標として使われてきました。ところがここに、「認知機能の早期変化を映す可能性」という新しい意味が加わりつつあります。
研究で判明:ODK/ka/の低下がMCIの独立リスク因子
ODKと認知機能の関係を具体的に示したのが、国立長寿医療研究センターのもの忘れセンターと大垣女子短期大学などの研究グループによる横断研究(通称Pearl study)です。論文は2025年6月に国際誌BMC Oral Healthに掲載されました(Ishihara Y, et al. BMC Oral Health. 2025;25(1):891)。
研究の対象と方法
対象は、もの忘れ外来を受診した、日常生活の自立度が比較的高い高齢者178名(年齢の中央値79.0歳、女性49.4%)です。認知機能によって、正常25名・MCI 92名・認知症61名の3群に分けられました。研究グループは、ODK(/pa//ta//ka/)に加えて、現在歯数・咬合力(噛む力)・舌圧・反復唾液嚥下テスト(RSST)など複数の口腔機能を測定し、それぞれが認知機能とどう関連するかを多変量ロジスティック回帰分析で調べています。これは、ある時点での状態を一度に観察する横断研究です。
判明したこと:/ka/の低下とMCIの独立した関連
分析の結果、年齢やBMI(体格指数)などの交絡因子を調整した後も、ODKの/ka/の発音回数の低下が、MCIのリスクと独立して強く関連していました。報告された調整オッズ比は6.930(95%信頼区間1.284〜37.402、P=0.024)で、/ka/が低いほどMCIのリスクが高い、という関係が示されています。
注目すべきは、現在歯数・咬合力・舌圧といった他の口腔機能指標は、MCIと有意な関連を示さなかった点です。つまり、噛む力や歯の数といった従来重視されてきた指標ではなく、舌の奥の巧緻な運動を映す/ka/が、MCIと結びついていたことになります。なお反復唾液嚥下テスト(RSST)は認知症との間に関連の傾向(調整オッズ比4.171、95%信頼区間0.981〜17.736、P=0.053)がみられましたが、統計的に有意な水準には達していません。
なぜ/ka/だったのか
総説(石原・松下、2026年)は、この結果について「特に舌根部のような、より複雑な運動を制御する神経系の機能障害が、MCIの段階で表出する可能性」を示唆していると考察しています。咀嚼のような比較的単純な機能よりも、舌の奥を素早く協調的に動かす巧緻な運動のほうが、脳の機能低下の影響を受けやすい、という解釈です。口腔機能の研究の焦点が、従来の「咀嚼機能中心」から「より巧緻な運動機能」へと移りつつあることを象徴する結果といえます。
研究の限界:横断研究であること
ただし、この研究をはじめ口腔と認知機能の関連を示した報告の多くは横断研究です。横断研究は、ある一時点の状態を観察するため、「口腔機能の低下が認知機能の低下につながった」のか、それとも「認知機能の低下が口腔機能の低下を招いた」のか、因果の方向を確定できません。総説自身も、この逆向きの因果の可能性を否定できないと明記し、方向性を明らかにするには地域住民などを対象とした大規模な縦断追跡研究が不可欠だと述べています。現時点では「/ka/の低下とMCIには関連がある」という事実までが確かめられた段階であり、過度な断定は禁物です。
歯周病と認知症をつなぐ炎症メカニズム
口腔と認知症の関係は、ODKのような「機能」の側面だけではありません。総説(石原・松下、2026年)は、認知機能と口腔の健康の関連を「歯周病」と「口腔機能」の二つの側面から整理しています。ここでは、もう一方の柱である歯周病と認知症のつながりを、メカニズムの面から見ていきます。
そもそも歯周病はありふれた病気
国立長寿医療研究センターのプレスリリースによれば、30歳以上の成人の約80%が歯周病にかかっており、歯の喪失原因の第1位とされています。歯周病は、口のなかの細菌による感染がきっかけで起きる炎症性の病気で、歯ぐき(歯肉)や歯を支える骨が溶けていきます。決してまれな病気ではなく、高齢の利用者の多くが何らかの形で抱えているありふれた状態です。
歯周病が認知症につながる2つの経路
総説では、歯周病と認知症を結ぶ生物学的メカニズムとして、大きく2つの経路が解説されています。
- 直接経路(細菌の脳内侵入):歯周病の原因となる細菌やその菌体成分が、血流を介して脳内へ侵入し、直接的に神経の病的変化を引き起こす経路です。歯周病菌の一種が脳に到達しうることは、国際誌の研究(Dominy SS, et al. Sci Adv. 2019;5:eaau3333)でも報告されています。
- 間接経路(全身性の慢性炎症):炎症を起こした歯周組織からは、TNF-αやIL-1βといった炎症性サイトカイン(炎症を伝える物質)が持続的に血液中へ放出されます。これが全身に軽度で慢性的な炎症状態を引き起こし、脳にも影響を及ぼすと考えられています。
「歯と脳」は双方向に影響し合う
「口腔の健康」は認知症の修正可能リスク因子へ
こうしたメカニズムの解明を背景に、口腔の健康は認知症予防の文脈で位置づけが高まっています。2024年に医学誌Lancetが公表した認知症予防の標準的レポート(Livingston G, et al. Lancet. 2024;404(10452):572-628)は、生活の中で対処できる修正可能なリスク因子を従来の12項目から14項目へ拡大し、これらすべてに対処すれば認知症の発症の約45%を予防・遅延できる可能性があると推計しました。直接「口腔」が独立項目として挙げられているわけではありませんが、糖尿病や社会的孤立、低栄養など口腔の健康と関わりの深い因子が複数含まれており、口のケアはこれらに横断的に関わります。総説は、認知症が単一の原因ではなく、生涯にわたる複数のリスク因子が絡み合って発症する症候群であることを踏まえ、口腔管理を全身の健康とQOLを支える包括的アプローチの一環として捉えるべきだと提言しています。
さらに、この関係は一方通行ではありません。国立長寿医療研究センターは、歯周病によって認知症のリスクが高まる一方で、認知機能が低下すると歯みがきなどの口腔ケアが適切にできなくなり、歯周病のリスクが上がるという双方向の関係(歯脳相関)を示しています。歯周病はそのほか、脳梗塞・誤嚥性肺炎・心筋梗塞・心内膜炎・動脈硬化・糖尿病・低体重児出産など、全身のさまざまな疾患とも関連が指摘されています。口のケアは、口だけの問題にとどまらないということです。
歯科専門職と介護現場の役割|口腔の変化は早期サインの窓
これらの研究知見は、歯科専門職だけでなく、日々利用者の口に向き合う介護職にとっても重要な示唆を含んでいます。総説(石原・松下、2026年)は、日常の臨床における口腔状態の変化が「認知機能低下の早期サインを捉える窓」となりうると述べています。歯科医院は患者の口腔状態を定期的かつ客観的に評価できる場所であり、その変化が認知機能低下の初期サインになりうる、という考え方です。
介護現場は「窓」を毎日のぞいている
ここで考えたいのは、施設や在宅の現場では、歯科医院よりもはるかに高い頻度で利用者の口を観察しているという事実です。食事介助、口腔ケア、声かけへの返事。介護職は毎日、利用者の滑舌や飲み込み、口の動きに触れています。つまり介護現場こそ、口腔機能の小さな変化を最も早く、継続的に捉えられる「窓」をのぞいている立場にあります。これは研究知見から導かれる、介護職ならではの役割です。
たとえば、次のような変化は、口腔機能の低下や、その背後にある全身・認知機能の変化を映している可能性があります。
- 以前よりろれつが回らない、滑舌が悪くなったと感じる
- 食事中にむせる、飲み込みに時間がかかるようになった
- 歯みがきの手順がぎこちなくなった、磨き残しが増えた
- 声かけへの返事の言葉数が減った、言い間違いが増えた
もちろん、これらの変化がただちにMCIや認知症を意味するわけではありません。滑舌や飲み込みの変化は、脳血管障害やパーキンソン病などの神経疾患、義歯の不具合、低栄養など、多様な原因でも起こります。だからこそ、介護職が変化に気づき、記録し、看護師や歯科専門職、医師へ橋渡しすることに意味があります。
認知機能が下がると口腔ケアはなぜ難しくなるか
双方向の関係(歯脳相関)を踏まえると、認知機能が低下した利用者の口腔ケアには特有の難しさがあります。国立長寿医療研究センターは、認知症が進むと「トイレや道具の形をきちんと認識できない」「歯ブラシを適切に使えない」「介護者や家族に言われたことが理解できない」といった支障が生じ、歯みがきを計画・準備して実行する一連の動作につまずきやすくなると説明しています。
そのため、認知機能が低下した利用者には、視空間機能や注意の低下といった認知特性に配慮した声かけや介助の工夫が求められます。本人の自立度に合わせて手順を分解する、見える位置で道具を渡す、短い言葉で一動作ずつ促すといった対応は、口腔の健康を守ると同時に、全身の健康とQOL(生活の質)を支える包括的なケアの一部だといえます。
当サイトの視点:日々の観察が早期発見の力になる
ここまでの一次ソースを介護現場の視点から読み解くと、当サイトとして次のような示唆が見えてきます。研究そのものの結論ではなく、介護職が現場でどう活かせるかという観点からの整理です。
視点1:日々の「気づき」が、専門職では取りこぼす情報を補う
Pearl studyは、もの忘れ外来という医療の場で、専門の検査機器を使って測定された結果です。一方で、外来や歯科医院での評価は、せいぜい数か月に一度の「点」の観察にとどまります。これに対し、介護職が食事や口腔ケアで触れる滑舌や飲み込みの変化は、毎日積み重なる「線」の観察です。研究が示した「口腔機能はMCIの段階で変わりうる」という事実は、頻度の高い日常観察と組み合わせてこそ、早期発見の現実的な力になります。専門職が捉える前の小さな変化に最初に気づけるのは、現場の介護職である可能性が高いのです。
視点2:口腔ケアの記録は「機能の記録」でもある
多くの現場で口腔ケアは「実施したかどうか」のチェックにとどまりがちです。しかしODKの知見を踏まえると、滑舌・むせ・歯みがき動作のぎこちなさといった変化を、簡単な言葉でよいので経時的に記録しておくことには、独自の価値があります。後から振り返ったときに「いつ頃から変わってきたか」という時間の軸が見えるのは、点でしか評価できない外来にはない、現場ならではの強みです。記録は介護報酬上の義務であると同時に、利用者の脳と全身の変化を映すデータにもなりえます。
視点3:ただし「滑舌=認知症」と短絡しない
同時に強調したいのは、これらが横断研究中心の知見であり、因果の方向が確定していない点です。総説自身が、観察された関連は「認知機能の低下が口腔機能の低下を招いた」という逆向きの因果の可能性を否定できず、結論には大規模な縦断追跡研究が必要だと明記しています。介護職にできるのは、診断することではなく、変化に気づいて適切な専門職へつなぐことです。利用者やご家族に不安を与えないためにも、「研究でこういう関連が報告されている」という事実と、「だから認知症だ」という断定とを、はっきり分けて扱う姿勢が欠かせません。
介護現場で押さえたい5つのポイント
研究知見を現場で活かすために、介護職が押さえておきたいポイントを整理します。
- 「カ」の発音と飲み込みは関連が深い:舌の奥を持ち上げる/ka/の動きは嚥下の動作と似ています。むせや飲み込みの変化に気づいたら、滑舌の変化もあわせて見ておくと、口腔機能全体の状態を把握しやすくなります。
- 変化は「いつもと比べて」で捉える:基準値(1秒あたり6回未満)はあくまで目安です。介護職にとって大切なのは厳密な測定よりも、その利用者の普段の状態と比べてどう変わったか、という相対的な気づきです。
- 口腔ケア時こそ観察のチャンス:歯みがきの手順、道具の扱い、声かけへの理解度は、認知機能の変化が表れやすい場面です。「磨けたか」だけでなく「どう磨いていたか」に目を向けます。
- 気づいたら一人で抱えず共有する:滑舌や飲み込みの変化は多様な原因で起こります。判断は専門職に委ね、介護職は気づきを記録・共有することに徹します。多職種連携の起点になれる立場です。
- 口腔ケアは認知症予防の一部:歯周病対策や口腔機能の維持は、認知症の修正可能リスクへの働きかけの一つと位置づけられます。日々のケアが全身とQOLを支えているという視点をもちます。
口腔・嚥下・認知症ケアの専門性をキャリアに活かす
研究知見をきっかけに口腔機能への関心が高まるなか、介護職としての専門性をどう深め、キャリアにつなげるかも考えどころです。
口腔ケアや嚥下、認知症ケアの知識は、特定の資格がなくても日々の実践で磨けますが、体系的に学びたい場合は、介護福祉士の養成課程や現任研修で扱われる医療的ケア・口腔ケアの単元、認知症介護実践者研修などが入り口になります。歯科衛生士や言語聴覚士、看護師といった他職種と連携する機会の多い職場では、こうした知識が直接活きます。
また、口腔機能や認知症ケアに力を入れている施設かどうかは、研修体制や多職種連携の仕組みに表れます。「口腔ケアを実施しているか」だけでなく、「変化に気づいたとき、誰にどう共有する仕組みがあるか」を職場選びの観点に加えると、自分の気づきが活きる環境かどうかを見極めやすくなります。専門性を評価してくれる職場を探したいときは、働き方診断で自分の強みや希望条件を整理してみるのも一つの方法です。
よくある質問(FAQ)
Q. オーラルディアドコキネシス(ODK)は介護職でも測れますか?
A. 専用の自動計測器(健口くんなど)を使う方法が推奨されますが、機器がない場合は、5秒間「パ」「タ」「カ」をそれぞれ繰り返し発音させ、聞きながらカウントする方法もあります。ただし測定は本来、歯科専門職や評価を担う職種が行うものです。介護職に求められるのは正確な測定よりも、普段と比べた滑舌や飲み込みの変化への気づきです。
Q. /ka/が6回未満だと認知症ということですか?
A. いいえ。1秒あたり6回未満は「舌口唇運動機能の低下」の目安であり、認知症の診断基準ではありません。Pearl studyが示したのは「/ka/の低下とMCIに統計的な関連がある」ことであって、低い人が必ずMCIだという意味ではありません。また横断研究のため因果関係も確定していません。診断は医師が行います。
Q. MCIと認知症はどう違いますか?
A. MCI(軽度認知障害)は、認知機能の低下はあるものの日常生活には大きな支障がなく、認知症とは診断されない段階を指します。認知症の前段階と位置づけられ、適切な対応で進行を遅らせたり改善が見込めたりする場合もあるため、早期に気づくことが重要とされています。
Q. 滑舌の変化に気づいたら、現場でどう動けばよいですか?
A. まずは記録に残し、看護師やリハビリ職、歯科専門職、ケアマネジャーなどと共有します。滑舌や飲み込みの変化は脳血管障害やパーキンソン病、義歯の不具合など多様な原因で起こるため、自己判断せず専門職へつなぐことが大切です。介護職は「気づく・記録する・つなぐ」役割を担います。
Q. 口腔ケアは本当に認知症予防になるのですか?
A. 「口腔の健康」は、認知症の修正可能リスク因子の一つとして注目されており、歯周病対策や口腔機能の維持が予防的な意味をもつ可能性が研究で示唆されています。ただし口腔ケアだけで認知症を防げるわけではなく、運動・食事・社会活動など複数の要因への取り組みと合わせて捉えることが大切です。
参考文献・出典
- [1]認知機能と口腔の健康:歯周病と口腔機能の関連性に係る最新の知見と今後の展望- 日本歯周病学会会誌 2026;68(1):16-24(石原裕一・松下健二)
認知症の修正可能リスク因子としての口腔の健康を歯周病と口腔機能の二側面から概説した総説。ODK/ka/とMCIの関連、歯周病と認知症の炎症経路、歯科専門職の役割を解説
- [2]Oral diadochokinesis performance correlates with mild cognitive impairment: a cross-sectional study- BMC Oral Health 2025;25(1):891(Ishihara Y, et al. Pearl study)
もの忘れ外来受診者178名を対象にODKと認知機能の関連を調べた横断研究。ODK/ka/がMCIと独立して関連(調整オッズ比6.930、95%CI 1.284-37.402、P=0.024)
- [3]認知機能と歯周病についての研究成果を公開- 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター
歯周病と認知症の双方向の関係(歯脳相関)、30歳以上の約80%が歯周病という有病率、認知症進行時の口腔ケアの困難さを解説
- [4]高齢期における口腔機能低下:学会見解論文 2016年度版- 日本老年歯科医学会
ODK(オーラルディアドコキネシス)の測定法と評価基準(いずれかの音節が1秒あたり6回未満で舌口唇運動機能低下)を示した学会見解
- [5]
まとめ|口腔の変化に最初に気づくのは介護現場
「パ・タ・カ」の発音速度を測るオーラルディアドコキネシス(ODK)。なかでも舌の奥を使う/ka/の低下が、年齢などを調整しても軽度認知障害(MCI)と独立して関連することが、2025年の研究(Pearl study)で報告されました。歯周病と認知症をつなぐ炎症のメカニズムや、認知機能が低下すると口腔ケアが難しくなる双方向の関係も含め、「口腔の健康」は認知症の修正可能リスク因子として注目を集めています。
これらの知見が介護職に示すのは、診断の役割ではありません。歯科医院や外来が「点」でしか捉えられない口腔機能の変化を、毎日の食事介助や口腔ケアを通じて「線」で観察できる立場にあること。その気づきを記録し、専門職へつなぐこと。これこそが、研究が浮かび上がらせた介護現場ならではの価値です。
同時に、これらが横断研究中心の知見であり、因果が確定していない点も忘れてはなりません。滑舌や飲み込みの変化を「認知症のサイン」と短絡せず、事実は事実として丁寧に扱い、利用者やご家族に不安を与えない姿勢が大切です。日々の口腔ケアが、口だけでなく脳と全身、そしてQOLを支えている。その視点をもって現場に立つことが、これからの介護職に求められる専門性の一つになっていくはずです。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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