パーソンセンタードケアの実践|介護職が現場で活かす5つの心理的ニーズと悪性の社会心理
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パーソンセンタードケアの実践|介護職が現場で活かす5つの心理的ニーズと悪性の社会心理

パーソンセンタードケアを介護職が現場で実践する方法を解説。トム・キットウッドの5つの心理的ニーズ、悪性の社会心理17項目、PD→PE転換、VIPSモデル、業務中心ケアからの転換を実務手順で。

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パーソンセンタードケアの実践とは、認知症の人を「介護される対象」ではなく「一人の人」として尊重し、本人の視点からケアを組み立てることです。トム・キットウッドが示した5つの心理的ニーズ(くつろぎ・自分らしさ・結びつき・たずさわること・共にあること)を満たし、本人の価値を低める「悪性の社会心理」17項目を避けることが軸になります。業務中心の流れ作業から、本人中心の関わりへ転換する具体的な手順を、現場の行動レベルで解説します。

目次

パーソンセンタードケアという言葉は、認知症介護の研修や施設の理念で必ず登場します。しかし「その人を中心に」「その人らしさを尊重する」という説明だけでは、実際の現場で何をどう変えればよいのかが見えにくいのも事実です。忙しいフロアで、トイレ誘導も食事介助も時間内に終わらせなければならない。そのなかで理念をどう動作に落とすのか、ここで足踏みしてしまう介護職は少なくありません。

この記事は、定義の説明ではなく、現場での実践に振り切っています。提唱者トム・キットウッドが残した枠組みのうち、介護職が今日の勤務から使える4つの道具、すなわち「5つの心理的ニーズ」「悪性の社会心理(個人の価値を低める行為)」「個人の価値を高める行為への転換」「VIPSモデル」を、具体的な声かけや動作のレベルまで分解します。さらに、業務中心の流れ作業から本人中心の関わりへ切り替えるための、勤務中に試せるチェックポイントも示します。

言葉の定義そのものをおさらいしたい場合は、当サイトの用語解説も参照しながら読み進めてください。本記事はその先、つまり「理念を知っている人が、実際の関わりを変える」ための実践ガイドです。

パーソンセンタードケアとは何を変える理念か

実践に入る前に、パーソンセンタードケアが「何を変えようとしている考え方なのか」を、現場の視点で押さえておきます。これは技術論ではなく、認知症の人の見方そのものを変える理念だからです。

「その人を中心に」とは、本人の視点に立つこと

パーソンセンタードケアは、1980年代末から1990年代前半に、英国ブラッドフォード大学の心理学者トム・キットウッドが提唱した認知症ケアの理念です。中心にあるのは「パーソンフッド」という概念で、これは「周囲の人々や社会とかかわりを持ち、一人の人として認められ、尊重されていると実感できること」を指します。認知症が進んでも、その人が一人の人であることは変わらない。だからケアの目的は、症状を管理することではなく、本人がパーソンフッドを保てるよう支えることだ、という立場です。

「その人を中心に」という言葉は、職員の都合や施設のスケジュールを中心にしないという意味です。同じ「家に帰りたい」という訴えでも、その背景にある思いは人によって違います。本人がいま何を体験し、どう感じているかという視点に立って初めて、適切な関わりが見えてきます。

オールドカルチャーからニューカルチャーへ

キットウッドは、認知症を「何もわからなくなる病気」とみなし、食事・排泄・入浴の介助を効率よくこなすことを中心に置いた従来のケアを「オールドカルチャー(古い文化)」と呼びました。そこでは画一的なスケジュール管理とプログラムの提供が主になり、本人の気持ちへの配慮が後回しになりがちでした。これに対し、本人理解と人間関係を中心に置く新しいケアを「ニューカルチャー(新しい文化)」と位置づけました。

厚生労働省の資料でも、認知症ケアの転換はこの対比で説明されています。「認知症だから仕方がない」「本人より周囲が大変だ」「病気や症状ばかりに着目し、問題行動にのみ対処する」というオールドカルチャーから、「本人中心・本人理解が基本」「病気や症状ではなく認知症の『人』に着目する」というニューカルチャーへ。パーソンセンタードケアの実践とは、このカルチャーの転換を日々の関わりのなかで起こすことにほかなりません。

ケアの質が「よい状態」「よくない状態」に直結する

キットウッドは、認知症の人が示す「よい状態(well-being)」と「よくない状態(ill-being)」が、周囲の関わり方によって大きく左右されることを観察から明らかにしました。職員の関わりがよければ、本人はリラックスし、ユーモアを示し、自分から人と交流し、感情を豊かに表現します。逆に関わりが悪ければ、強い怒り、不安、恐怖、退屈、引きこもり、無関心といったサインが現れます。

重要なのは、これらの状態が認知機能の重症度とは独立しているという点です。重度の認知症の人であっても、よい関わりのなかでは「よい状態」のサインが認められる。つまり、本人の状態は病気だけで決まるのではなく、私たちのケア次第で良くも悪くもなる。この事実こそが、実践に取り組む最大の動機になります。

5つの心理的ニーズと、それを満たすケア行動

パーソンセンタードケアの実践で最初の道具になるのが、キットウッドが示した心理的ニーズです。彼は認知症の人のニーズを、中心に「愛(Love)」を置き、それを5枚の花びらが取り囲む花の絵で表現しました。中心の愛とは、あるがままに受け入れ、心から思いやり、慈しむことを意味します。5枚の花びらは互いに重なり合い、関連し合っています。これらは認知症の人だけでなくすべての人に共通するニーズですが、認知症の人は認知機能の障害のために自分では満たしにくくなっています。

本人が示す「よくない状態」や、いわゆるBPSD(行動・心理症状)は、この花のどこかのニーズが満たされていないサインと捉えられます。問題となる行動をただ抑えるのではなく、どのニーズが渇いているのかに目を向けるのが実践の出発点です。以下、5つのニーズと、それを満たす具体的なケア行動をまとめます。

くつろぎ(Comfort)

緊張がなく、安心してリラックスできている状態へのニーズです。身体に痛みや不快がなく、気持ちもゆったりしていること。実践では、急がせない、痛みや空腹・便秘・寒暑などの身体的不快を取り除く、不安なときにそばにいて落ち着けるペースに合わせる、といった関わりがこのニーズを満たします。入浴や排泄の介助でせかすことは、くつろぎを真っ向から奪います。

自分らしさ(Identity)

自分が自分であるという感覚、これまでの生き方や習慣・嗜好を保てることへのニーズです。本人が「どのような人生を送り、どうありたいか」を尊重する関わりが該当します。実践では、本人の呼ばれたい名前で呼ぶ、昔の職業や役割を会話に取り入れる、本人のこだわりや好みを日常のケアに反映する、子ども扱いやレッテル貼りをしないことが軸になります。

結びつき・愛着(Attachment)

不安なときに、親しい人との絆や信頼にすがれることへのニーズです。認知症の人は記憶の連続性が揺らぐため、慣れた人や物との結びつきが安心の支えになります。実践では、なじみの職員が継続して関わる、本人が落ち着く持ち物(写真・タオル・人形など)を取り上げない、不安が強いときに「ここにいますよ」と存在を伝えることが大切です。

たずさわること(Occupation)

自分の能力を使い、その人にとって意味のあるやり方で活動に関われることへのニーズです。「させられる活動」ではなく、本人が主体的に関われることが要点です。実践では、できる工程を見つけて任せる(野菜の皮むき、洗濯物たたみ、配膳など)、本人の元職業や得意を活かす、できない部分だけをさりげなく支える、といった関わりで満たします。能力を奪わないことが鍵です。

共にあること(Inclusion)

仲間として受け入れられ、その場の一員だと感じられることへのニーズです。実践では、会話や活動の輪に自然に加わってもらう、本人がいるのに本人抜きで話を進めない、家族への質問でも本人を会話から外さない、一緒に楽しむ時間をつくることが該当します。「いるのにいないかのように扱う」ことは、このニーズを脅かします。

悪性の社会心理(個人の価値を低める行為)17項目

5つのニーズを満たすことと表裏一体なのが、本人のパーソンフッドを損なう関わりを避けることです。キットウッドは、介護現場で認知症の人が「人格のある一人の人」として認められていないエピソードを記録・分類し、これを「悪性の社会心理(Malignant Social Psychology)」と名づけました。「悪性」というがんを連想させる強い言葉が使われていますが、ここには重要な注意があります。

キットウッド自身が述べているとおり、悪性の社会心理のほとんどは、介護者の悪意からではなく、やさしさと良心から行われています。私たちが受け継いだ文化的な習慣の延長線上にあり、日常生活の「普通の」社会心理が誇張された形だというのです。つまり「悪い職員がやること」ではなく、善意の職員が無自覚にやってしまうこと。だからこそ、17項目を知って自分の関わりを点検する価値があります。なお、認知症ケアマッピング(DCM)の第8版では、これらは「PD(個人の価値を低める行為)」と呼ばれています。

悪性の社会心理(個人の価値を低める行為)17項目

以下が、キットウッドが分類した17項目です。英語の原語と、現場で起こりがちな場面をあわせて示します。

  1. だましたり、あざむくこと(Treachery):うそやごまかしで無理に従わせる。「もうバスがないから帰れません」など。
  2. 能力を使わせないこと(Disempowerment):できることまで先回りして職員がやってしまう。
  3. 子ども扱いをすること(Infantilization):幼児に話すような口調・態度で接する。
  4. 怖がらせること(Intimidation):「そんなことしたら○○になるよ」と脅す。
  5. レッテル付けをすること(Labelling):「あの帰宅願望の人」など、好ましくない区分けで呼ぶ。
  6. 差別をすること(Stigmatization):認知症であることを理由に対象外として扱う。
  7. 急がせること(Outpacing):本人の理解や動作の速さを無視して先へ進める。
  8. わかろうとしないこと(Invalidation):本人の不安や訴えの意味を受け止めようとしない。
  9. のけ者にすること(Banishment):その場や関係から締め出す。
  10. もの扱いすること(Objectification):意思のない物のように、声もかけずに介助する。
  11. 無視すること(Ignoring):いるのにいないかのように会話や行動を進める。
  12. 強制すること(Imposition):本人の選択を認めず、無理にやらせる。
  13. 後回しにすること(Withholding):訴えや要求に応えず先延ばしにする。
  14. 非難すること(Accusation):本人にはどうにもならないことを責める。
  15. 中断させること(Disruption):本人がしていることを途中で割り込んで止める。
  16. あざけること(Mockery):本人をからかう、笑いものにする。
  17. 侮辱すること(Disparagement):本人の自尊心を傷つける言動をとる。

これらは、忙しさのなかで「効率」を優先したときに起こりやすいものばかりです。たとえば配膳をめぐって「自分でやりたい」という本人に「危ないので座っていてください」と止めれば、能力を使わせないこと(2)と中断させること(15)が同時に起きています。一つひとつの場面を、この17項目の鏡に映してみると、自分の関わりの癖が見えてきます。

個人の価値を低める行為(PD)から高める行為(PE)への転換

悪性の社会心理を知る目的は、自分を責めることではありません。同じ場面を「個人の価値を高める行為(PE:ポジティブ・パーソン・ワーク/DCM8ではPositive Event)」へ転換することが実践の本体です。キットウッドは、よい関わりとして「尊重」「話し合う(相互理解する)」「ともに行う」「楽しむ」「感覚を刺激する」「喜び合う」「リラックスすること」「共感をもって理解する」「包み込む」「能力を引き出し、できるようにするための支援」「創造的な活動を促す」「本人が人のために何かをしてあげられるようにする」といった相互交流を挙げました。

大切なのは、PD(低める行為)からPE(高める行為)へ、具体的な場面ごとに動作を置き換えていくことです。認知症介護の研修資料で示される転換例を、現場の言い回しに沿って整理します。

場面別:PDからPEへの転換例

場面PD(低める行為)PE(高める行為)
退院・退所の説明家族だけに「ご自宅で心配なことは?」と尋ね、本人を会話から外す(差別・共にあるニーズを脅かす)本人と家族の双方に向けて話し、本人にも「退院ですね、うれしいですね」と声をかける
トイレの訴え「おむつをしているので行かなくて大丈夫です」と止める(能力を使わせない・たずさわるニーズを脅かす)「一緒にトイレへ行ってみましょう」と、できる動作を活かして付き添う
「家に帰りたい」「もうバスもないので帰れません、泊まってください」とうそでなだめる(だます・あざむく)「家に帰りたいのですね」とまず受け止め、気持ちに寄り添ってから対応を一緒に考える
食事介助声もかけずに次々と口へ運ぶ(もの扱い・急がせる)「次はお味噌汁ですよ」と声をかけ、本人のペースに合わせて進める
作業の途中洗濯物をたたんでいる本人に「もう時間なので」と取り上げる(中断させる)区切りまで見守り、「きれいにたためましたね」と達成を一緒に喜ぶ

この転換のコツは、行動を止める前に一拍置いて「いまどのニーズが動いているか」を考えることです。「自分でトイレに行きたい」は、たずさわること(自分の力を使いたい)と自分らしさ(排泄は自分でという誇り)のニーズの表れです。それを止めれば悪性の社会心理になり、活かせばPEになる。同じ一場面が、わずかな言い換えと一手間で正反対の意味を持ちます。

本人を知る:パーソンセンタードモデルの5要素とライフヒストリー

5つのニーズを満たし、悪性の社会心理を避けるには、まず「その人を知る」ことが欠かせません。キットウッドは、認知症の人の行動や状態は次の5つの要素が複雑に絡み合ってつくられると考えました。これを「パーソンセンタードモデル」と呼びます。本人を理解する手がかりであり、ケアプランを考える土台になります。

  • 脳の障害(Neurological Impairment):認知症の原因疾患による記憶・判断・実行機能などの障害。
  • 健康状態と体調(Health and Physical Fitness):痛み、便秘、脱水、感染症、視力・聴力など。突発的な行動の背景に身体の不調が隠れていることが多い。
  • 生活歴(Biography):生いたち、職歴、習慣、こだわり、好き嫌い、誇りに思っていること。
  • 性格傾向(Personality):もともとの性格。社交的か内向的か、人に頼れるか、気が短いか長いか。
  • 社会心理(Social Psychology):周囲の人の認識や対応、人間関係、物理的環境。前述の悪性の社会心理もここに含まれる。

同じ「家に帰ろうとする」行動でも、5要素で読み解くと意味が変わります。脳の障害で場所の見当がつかないのか、健康状態の不快(便秘や痛み)から逃れたいのか、生活歴のなかで夕方は家事をする時間だった習慣が出ているのか、性格的にもともと自立心が強いのか、職員の対応(社会心理)が不安をあおっているのか。要素ごとに仮説を立てることで、抑え込む以外の選択肢が見えてきます。

本人の視点に立つための3ステップ:聞く・集める・見つける

認知症介護の研修では、この5要素を使ってニーズを見つけるプロセスが「聞く・集める・見つける」の3ステップで示されています。実践の手順として覚えておくと使いやすいものです。

  1. 聞く:本人の声(思い)に耳を傾ける。言葉にならないサイン(表情、口腔ケアで口を開けない、触れると手を引くなど)も「懸命な表現」として受け取る。
  2. 集める:パーソンセンタードモデルの5要素に沿って情報を集め、本人の全体像を把握する。とくに生活歴は、家族や本人との会話から丁寧に集める。
  3. 見つける:満たされていない心理的ニーズは何かを考える。「自分が同じ状況ならどう感じるか」を想像し、仮説を立て、本人に確認し、ケアプランに落とす。

生活歴(ライフヒストリー)が実践の燃料になる

5要素のなかでも、現場でとくに力を持つのが生活歴です。その人がどんな仕事をし、何を大切にし、どんな習慣やこだわりを持って生きてきたか。これがわかると、自分らしさ・たずさわること・結びつきのニーズを満たす具体策が一気に増えます。元教師なら教える役割を、元調理師なら配膳や下ごしらえを、花が好きだった人なら水やりを。生活歴の情報がないと、ケアはどうしても画一的になります。逆に、本人の人生を一行でも多く知るほど、関わりは個別的で温かいものになります。情報収集は一度きりではなく、関わりのなかで更新し続けるものです。

VIPSモデルでチームの実践をふり返る

個々の関わりを変えても、職場全体の仕組みが業務中心のままでは、実践は長続きしません。そこで役立つのが、キットウッドの後継者でウースター大学教授のドーン・ブルッカーが理論化した「VIPSモデル」です。パーソンセンタードケア=V+I+P+Sという等式で表され、組織がどこまで実践できているかをふり返る枠組みとして使われます。

VIPSの4要素

  • V:人々の価値を認めること(Valuing People):認知症の人とケアに携わる全ての人の価値を認める。組織として理念を明記し、研修や運営の仕組みで支える。
  • I:個人の独自性を尊重すること(Individualized Life):一人ひとり異なる人生・好み・生活歴・強みを理解し、チームで共有してケアに生かす。
  • P:その人の視点に立つこと(Personal Perspectives):本人がどんな体験をしているかを本人の視点から理解しようとする。対応に苦慮する行動も、本人の視点でその背景を考える。
  • S:相互に支え合う社会的環境を築くこと(Social Environment):本人が孤立せず、認められていると感じられる人間関係を提供する。物のように扱ったり無視したりしない。

VIPSフレームワークは、この4要素それぞれに6項目(Sのみ7項目)、全25項目の指標を設けています。これを使って組織の現状をふり返り、チームで討議することで、実践を向上させる具体的な手がかりが見つかります。個人の心がけだけに頼らず、「Pのこの項目が弱い」「Iの情報共有ができていない」と要素ごとに課題を可視化できるのが利点です。

現場のリーダーやユニットでまず取り組みやすいのは、PとSです。申し送りやカンファレンスで「この行動を本人の視点で言い換えると?」という問いを一つ加える(P)、家族や本人を会話の輪から外していないかを互いに点検する(S)。小さな問いをチームの習慣にすることが、業務中心から本人中心への転換を組織レベルで支えます。

業務中心ケアから本人中心ケアへ転換する手順

ここまでの道具を、忙しい勤務のなかでどう動かすか。理念と現実のギャップで最もつまずくのが、この「業務中心ケアからの転換」です。流れ作業を全部やめることは現実的ではありません。だからこそ、全部を変えるのではなく、関わりの「質」を変える小さな転換から始めます。

業務中心ケアと本人中心ケアの違い

視点業務中心ケア本人中心ケア
起点施設のスケジュールと職員の段取り本人の状態・思い・ペース
行動の見方困った「問題行動」として抑える満たされないニーズのサインとして読む
声かけ指示・確認が中心(早く、座って、ダメ)受け止め・選択肢の提示(どうしたいですか)
できないこと職員が代わりに済ませるできる部分は本人に任せ、できない所を支える
評価軸時間内に業務が終わったか本人がよい状態でいられたか

勤務中に試せる転換のチェックポイント

  1. 止める前に一拍置く:行動を制止しそうになったら「いまどのニーズが動いているか」を一瞬考える。たずさわること・自分らしさが多い。
  2. 指示を問いに変える:「座っていてください」を「どうされましたか?」に。受け止めの一言が、わかろうとしないこと(悪性の社会心理)を防ぐ。
  3. 名前と存在を確かめる:声をかけずに介助を始めない。「○○さん、次は着替えですよ」の一言が、もの扱いを避ける。
  4. 1日1人、生活歴を一つ知る:申し送りや雑談から、本人の職歴・好み・こだわりを一つ拾い、ケアに反映する。
  5. よい状態のサインを記録する:本人が笑った・くつろいだ・自分から話した場面を申し送る。何がよかったかをチームで共有できる。

転換は一度に完成するものではありません。全ての関わりを変えようとすると、忙しさのなかで挫折します。まずは一勤務に一つ、止める前の一拍を入れる。それだけで、本人の「よい状態」のサインが少しずつ増えていきます。その小さな手応えが、チームを本人中心の文化へ動かす燃料になります。

よくある質問(FAQ)

Q. パーソンセンタードケアは認知症の人以外にも使えますか?

はい。5つの心理的ニーズ(くつろぎ・自分らしさ・結びつき・たずさわること・共にあること)は、認知症の有無にかかわらず、すべての人に共通するニーズだとキットウッドは述べています。高齢者ケア全般や障害者支援、終末期ケアでも、本人の視点に立って関わるという核は同じように活きます。ただし枠組み自体は認知症ケアのために体系化されたものなので、用語や指標は認知症ケアの文脈で語られます。

Q. 忙しくて理念どおりに動けません。どこから始めればいいですか?

全てを一度に変える必要はありません。最も効果が出やすいのは「行動を止める前に一拍置く」習慣です。本人の行動を制止しそうになったとき、いったん「いまどのニーズが動いているか」を考えるだけで、悪性の社会心理の多く(急がせる・中断させる・能力を使わせない)を避けられます。まず一勤務に一つ、この一拍から始めてみてください。

Q. 悪性の社会心理をしてしまっていた自分を責めてしまいます。

キットウッド自身が、悪性の社会心理のほとんどは悪意ではなく、やさしさと良心から無自覚に行われると述べています。気づけたこと自体が転換の第一歩です。大切なのは自分を責めることではなく、同じ場面を個人の価値を高める行為(PE)へ言い換えていくことです。

Q. 「その人を中心に」と「家族の希望」がぶつかったらどうしますか?

本人の視点を中心に置きつつ、家族も社会的環境の一部として尊重するのがVIPSの考え方です。家族だけに話して本人を会話から外すこと自体が悪性の社会心理(差別・共にあるニーズを脅かす)にあたります。本人・家族の双方に向けて話し、本人の意思とサインを起点に、家族の思いとの折り合いをチームで考えていくのが実践的です。

Q. ユマニチュードやバリデーションとは何が違いますか?

パーソンセンタードケアは、本人を一人の人として尊重し本人の視点に立つという「ケアの理念・土台」です。ユマニチュード(見る・触れる・話す・立つの4つの柱)やバリデーション(感情を否定せず共有する手法)は、その理念と重なりつつ、より具体的な技法として位置づけられます。理念としてのパーソンセンタードケアの上に、各技法を載せて使うイメージが現場では分かりやすいでしょう。

参考文献・出典

まとめ:次の勤務から踏み出す一歩

パーソンセンタードケアの実践は、特別な技術を新しく覚えることではありません。認知症の人を一人の人として見る視点に立ち、目の前の関わりを少しずつ言い換えていく営みです。本記事で扱った道具を、最後に実践の順序で振り返ります。

  • 知る:パーソンセンタードモデルの5要素(脳の障害・健康状態・生活歴・性格傾向・社会心理)で本人を理解し、とくに生活歴を集める。
  • 満たす:5つの心理的ニーズ(くつろぎ・自分らしさ・結びつき・たずさわること・共にあること)を、具体的なケア行動で満たす。
  • 避ける:悪性の社会心理17項目を鏡にして自分の関わりを点検し、個人の価値を高める行為(PE)へ転換する。
  • 続ける:VIPSモデルでチーム全体の実践をふり返り、業務中心から本人中心へ、組織の文化を動かす。

これらを一度に完璧にこなす必要はありません。一勤務に一つ、行動を止める前の一拍を入れる。本人が笑った場面を一つ申し送る。生活歴を一行知る。その小さな積み重ねが、本人の「よい状態」を増やし、やがてチームの当たり前を変えていきます。理念を知っている人が、実際の関わりを変える。その一歩を、次の勤務から踏み出してみてください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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