共感疲労(コンパッション・ファティーグ)とは

共感疲労(コンパッション・ファティーグ)とは

共感疲労とは介護・看護職に起こる二次的心的外傷ストレス。バーンアウトとの違い、6つの予兆、セルフケア・組織対応を解説。

ポイント

この記事のポイント

共感疲労(Compassion Fatigue)とは、苦しみを抱えた他者にケアを提供し続けることで、ケア提供者自身が二次的な心的外傷を負い、共感する力を消耗してしまう状態です。米国の心理学者Charles Figleyが1995年に概念化し、介護・看護・救急隊・カウンセラーなど援助職に起こる職業性ストレスとして広く認識されています。バーンアウト(燃え尽き症候群)と類似しますが、原因が「他者の苦痛への共感」にある点が異なります。

目次

共感疲労の基本|援助職特有の二次的心的外傷ストレス

共感疲労(Compassion Fatigue:CF)は、トラウマや苦痛を抱えた人々にケアを提供する援助職が、その苦しみに繰り返し共感することで自身も類似の心的外傷症状を呈する状態です。1992年に看護師Joinsonが論文で「Compassion Fatigue」の語を使用し、1995年にCharles Figleyが体系化しました。

正式には「二次性心的外傷性ストレス(Secondary Traumatic Stress: STS)」と「燃え尽き(Burnout)」の2要素から構成され、両者が複合的に進行する状態と定義されます。介護・看護・救急隊・災害救援者・カウンセラー・教師・ソーシャルワーカーなど対人援助職全般に起こり得ます。

介護・看護職での発生率は高く、Van Molら(PLOS One, 2015)のシステマティックレビューではICU医療従事者の共感疲労有病率は7.3〜40%、Xieら(Int J Nurs Stud, 2021)の11カ国28,509名のメタアナリシスでも看護師の二次的心的外傷ストレス平均スコアは中等度レベルに達しています。看取りケア、認知症ケア、虐待対応、家族からのカスハラに対峙する職員は特にリスクが高いことが分かっています。

共感疲労の主要な症状(6カテゴリ)

  • 身体症状: 不眠・慢性疲労・頭痛・消化器不調・免疫低下
  • 感情症状: 過度の悲しみ・易怒性・無感覚・絶望感・不安
  • 認知症状: 集中力低下・記憶力低下・侵入思考(嫌な場面が浮かぶ)
  • 行動症状: 仕事回避・遅刻早退増加・アルコール/カフェイン依存・人間関係の回避
  • 対人症状: 利用者・家族との距離感の喪失・過度の感情移入・もしくは無関心
  • 仕事への態度: 「もうケアしたくない」という感覚・離職願望・職業選択への後悔

共感疲労とバーンアウト・PTSDの違い

項目共感疲労(CF)バーンアウトPTSD
原因他者の苦痛への共感の蓄積慢性的な仕事のストレス本人が直接体験した外傷
発症スピード急性〜慢性慢性的・徐々に外傷後数か月以内
主要症状侵入思考・感情麻痺無気力・冷淡化・達成感喪失フラッシュバック・過覚醒
回復方法短期休養+共感力の回復ワーク長期休養+環境変更専門治療(CBT・EMDR等)

共感疲労の有病率データ|国内外の調査結果

共感疲労はどの程度の援助職に起こっているのでしょうか。国内外の調査結果から、その規模感を確認します。

看護師を対象とした国際メタアナリシス

2021年に発表された11カ国28,509人の看護師を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシス(Xie W et al., International Journal of Nursing Studies)では、ProQOL(Professional Quality of Life Scale)による測定で、バーンアウト平均スコア26.64、二次的心的外傷ストレス平均スコア25.24と報告されました。アジア地域は共感満足度が最も低く、共感疲労の症状が最も高い傾向が示されています。

ICU・集中治療領域の有病率

2015年のPLOS One掲載のシステマティックレビュー(Van Mol MM et al., 1,623文献中40件・14,770人を解析)では、ICU医療従事者の共感疲労有病率は7.3〜40%、二次的心的外傷ストレスは0〜38.5%、バーンアウトは0〜70.1%と幅広く報告されました。特にSARS病棟の看護師では38.5%が二次的心的外傷症状を呈していました。

日本の介護労働者の負担感

令和6年度「介護労働実態調査」(介護労働安定センター)によれば、労働条件・仕事の負担についての悩みは「人手が足りない」49.1%、「身体的負担が大きい」24.6%が上位に並びます。直前の仕事を辞めた理由では「職場の人間関係に問題があったため」が24.7%でトップ。共感疲労の直接統計ではないものの、対人援助の負担が定着を阻む主要因であることが分かります。

共感疲労へのセルフケアと組織対応

個人レベルのセルフケア

  • 勤務後の「切り替え儀式」を持つ(着替え・入浴・好きな音楽)
  • 同僚との非公式な振り返り(デブリーフィング)を週1回
  • マインドフルネス・ヨガ・運動の習慣化
  • 自身の感情を3段階で記録する(1〜10のスコアで日記)

組織レベルの対応

  • 外部EAP(従業員支援プログラム)の導入
  • 看取り・虐待・カスハラ対応後の30分デブリーフィング義務化
  • シフト調整(高ストレス案件の連続配置を避ける)
  • 管理職向けの「共感疲労兆候の見つけ方」研修
  • 離職理由分析にCFの観点を加える

よくある質問

Q1. 共感疲労は「やる気がない」のとは違うのですか?
A. 全く違います。むしろ「他者に強く共感する真面目な人」がなりやすい職業病です。怠慢ではなく、共感資源の枯渇です。
Q2. 受診すべき目安は?
A. 不眠が2週間以上続く、利用者の顔を見るのが辛い、家族関係が悪化、自殺念慮がある場合は、産業医・精神科・心療内科への受診を検討してください。
Q3. 介護報酬での評価はありますか?
A. 直接の加算はありませんが、「処遇改善加算(職場環境等要件)」のメンタルヘルス対策項目で実質的に評価されます。EAP導入はその要件達成に寄与します。

まとめ

共感疲労は、援助職特有の職業性ストレスで、真面目で共感力の高い人ほどなりやすい状態です。バーンアウトとの違いを理解し、個人のセルフケアと組織の予防策(EAP・デブリーフィング・シフト調整)を組み合わせることで、人材定着と質の高いケアの両立につながります。

この用語に関連する記事

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。