
補足給付(特定入所者介護サービス費)とは
補足給付は、特養・老健・介護医療院・ショートステイの食費と居住費について、住民税非課税世帯の自己負担を軽減する介護保険の制度。段階別の限度額・申請手続き・預貯金要件まで、最新ルールを整理して解説。
この記事のポイント
補足給付(特定入所者介護サービス費)とは、特養・老健・介護医療院・ショートステイを利用する住民税非課税世帯の入所者を対象に、食費と居住費の自己負担を所得段階に応じて軽減する介護保険の制度です。市区町村に申請して「介護保険負担限度額認定証」の交付を受け、施設に提示することで、基準費用額と負担限度額の差額が介護保険から給付されます。
目次
補足給付の制度的位置づけ
補足給付は、正式名称を「特定入所者介護サービス費」(介護予防分は「特定入所者介護予防サービス費」)といい、介護保険法に基づき市区町村が支給する介護給付の一種です。介護保険施設等に入所・入院した低所得者の食費・居住費(滞在費)について、所得や預貯金などの資産要件を満たす場合に、本人の自己負担を一定の負担限度額までに抑え、施設の基準費用額との差額を介護保険から施設へ給付する仕組みです。
もともと介護保険施設の食費・居住費は2005年の制度改正で保険給付の対象外(全額自己負担)になりましたが、低所得者が施設利用から排除されないよう、同時に補足給付が創設されました。施設利用料の中で「自己負担になっている部分」を所得に応じて補う性格を持つため、「補足」給付と呼ばれています。
対象になる施設・サービスは次の通りです。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
- 介護老人保健施設
- 介護医療院(介護療養型医療施設からの転換施設を含む)
- 短期入所生活介護・短期入所療養介護(ショートステイ)
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、通所介護(デイサービス)の食費は対象外です。これらは保険給付の枠組みが異なるため、別の軽減制度(社会福祉法人等による利用者負担軽減制度など)を確認する必要があります。
所得段階別の負担限度額(1日あたり)
補足給付の対象者は、所得と世帯状況によって第1段階〜第3段階②の4区分に分けられ、それぞれ食費・居住費の上限額が決まっています。第4段階(住民税課税世帯)は補足給付の対象外で、施設が定める基準費用額を全額自己負担します。
食費の負担限度額(1日)
| 段階 | 施設入所 | ショートステイ |
|---|---|---|
| 第1段階 | 300円 | 300円 |
| 第2段階 | 390円 | 600円 |
| 第3段階① | 650円 | 1,000円 |
| 第3段階② | 1,360円 | 1,300円 |
居住費の負担限度額(1日)
| 居室タイプ | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階① | 第3段階② |
|---|---|---|---|---|
| ユニット型個室 | 820円 | 820円 | 1,310円 | 1,310円 |
| ユニット型個室的多床室 | 490円 | 490円 | 1,310円 | 1,310円 |
| 従来型個室(特養) | 320円 | 420円 | 820円 | 820円 |
| 従来型個室(老健・医療院) | 490円 | 490円 | 1,310円 | 1,310円 |
| 多床室(特養) | 0円 | 370円 | 370円 | 370円 |
| 多床室(老健・医療院) | 0円 | 370円 | 370円 | 370円 |
※令和6年8月以降の負担限度額。基準費用額の改定(居住費+60円/日)に合わせ、ユニット型個室・ユニット型個室的多床室・従来型個室の限度額が見直されています。最新の数値は厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1280」および居住地の市区町村公式案内で確認してください。
段階区分と対象者要件(所得・預貯金)
補足給付を受けるには、世帯の住民税非課税要件と本人の預貯金等の資産要件を同時に満たす必要があります。配偶者が別世帯(世帯分離)の場合も、配偶者の住民税課税状況と資産は合算してチェックされます。
- 第1段階 | 生活保護受給者、または世帯全員と配偶者が住民税非課税で本人が老齢福祉年金受給者。預貯金等は単身1,000万円以下、夫婦合算2,000万円以下
- 第2段階 | 世帯全員と配偶者が住民税非課税で、本人の合計所得金額+年金収入(非課税年金含む)が80万円以下。預貯金等は単身650万円以下、夫婦合算1,650万円以下
- 第3段階① | 世帯全員と配偶者が住民税非課税で、合計所得金額+年金収入が80万円超120万円以下。預貯金等は単身550万円以下、夫婦合算1,550万円以下
- 第3段階② | 世帯全員と配偶者が住民税非課税で、合計所得金額+年金収入が120万円超。預貯金等は単身500万円以下、夫婦合算1,500万円以下
- 第4段階 | 上記いずれにも該当しない(住民税課税世帯、または資産要件を超える)。補足給付の対象外で、食費・居住費は施設が定める基準費用額を全額自己負担
預貯金等には普通預金・定期預金のほか、有価証券、投資信託、金・銀地金、第三者に貸し付けている金銭などが含まれます。生命保険や自宅、自動車などの動産・不動産は資産要件の判定からは除外されますが、日常的な生活用品とは言えない高額資産は確認の対象になる場合があります。
第4段階(軽減なし)との自己負担差と関連制度の位置関係
補足給付の経済的インパクトを把握するには、第4段階(軽減なし)の月額自己負担と比較するのが分かりやすいです。特養ユニット型個室の標準的な利用例で試算すると次のようになります(30日換算、食費+居住費のみ。介護サービスの1割〜3割負担は別途)。
| 段階 | 食費(月) | 居住費(月・ユニット個室) | 食費+居住費 月額合計 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 9,000円 | 24,600円 | 約3.4万円 |
| 第2段階 | 11,700円 | 24,600円 | 約3.6万円 |
| 第3段階① | 19,500円 | 39,300円 | 約5.9万円 |
| 第3段階② | 40,800円 | 39,300円 | 約8.0万円 |
| 第4段階(軽減なし) | 約4.4万円(基準費用額1,445円/日) | 約7.0万円(基準費用額2,066円/日) | 約11.4万円 |
第4段階と第1段階で月額に約8万円の差が生まれる計算になり、年単位では100万円規模の差になります。施設入所を検討する際、補足給付の対象になるかどうかは家計シミュレーションの最重要要素のひとつです。
近接する自己負担軽減制度との違い
- 高額介護サービス費|サービス利用にかかる1〜3割負担分が一定額を超えたとき、超過分が払い戻される制度。補足給付(食費・居住費)とは対象費用が完全に別で、両方を併用できます
- 高額医療・高額介護合算制度|医療保険と介護保険の自己負担を1年間で合算し、限度額を超えた分を払い戻す制度。これも食費・居住費は対象外
- 社会福祉法人等による利用者負担軽減制度|社会福祉法人が運営する施設・事業所で、市町村民税非課税かつ生計が困難と認められる利用者に、自己負担分(介護・食費・居住費)を概ね4分の1軽減する任意制度
補足給付は法定の保険給付なので、要件を満たせば全国一律で利用できる点が任意の負担軽減制度との大きな違いです。
申請から認定証交付までの流れ
補足給付は申請主義のため、自動では適用されません。市区町村介護保険課に「介護保険負担限度額認定申請書」を提出し、所得・資産要件を確認したうえで「介護保険負担限度額認定証」が交付されます。
- 申請書類の入手|居住地の市区町村介護保険課窓口、または公式サイトから「介護保険負担限度額認定申請書」と「同意書」をダウンロード
- 必要書類の準備|本人と配偶者の預貯金通帳の写し(直近2か月程度)、有価証券・投資信託の残高がわかる書類、マイナンバー確認書類、本人確認書類。配偶者が別世帯の場合は配偶者の課税情報も提出
- 市区町村への提出|窓口・郵送・電子申請(自治体による)。施設入所予定者は本人・家族・施設のケアマネジャーが代理で提出することも可能
- 市区町村による審査|課税情報・預貯金額の確認、必要に応じて金融機関への預貯金照会。所要期間は概ね2週間〜1か月
- 認定証の交付|該当段階を記載した認定証が郵送される。有効期限は原則として申請月の1日から翌年7月31日まで
- 施設への提示|認定証を施設に提示することで、その月から食費・居住費が負担限度額に切り替わる。提示が遅れた月は基準費用額で請求されるため、認定証受領後はすぐ提示する
- 更新申請|有効期限の前(毎年6月頃)に更新案内が届くので、再度申請書を提出する。所得・資産状況に変動がなくても更新手続きは必要
申請日が月の途中であっても、その月の1日に遡って認定されます。入所と申請のタイミングがずれた場合でも、入所月の補足給付は受けられます。逆に、施設利用が始まる前に申請しても問題ありません。
補足給付を受けるうえでの実務的な注意点
- 世帯分離だけでは補足給付の対象にならない|以前は配偶者を別世帯にすれば住民税非課税扱いになるケースがありましたが、2015年の制度改正以降は配偶者の課税状況・所得・資産が必ず合算されます。「世帯分離すれば補足給付が受けられる」という古い情報には注意が必要です
- 預貯金通帳のコピーは「提出時点の最新ページ」まで|申請日から2か月以内の記帳がない通帳は記帳のうえコピーを提出するよう求められることが多いです。家族口座への移動が直前にあると詳しく確認されるので、書類は正直に提出します
- 不正受給は3倍の加算金|虚偽申請による不正受給が発覚した場合、給付額の返還に加えて最大2倍の加算金(合計3倍)が請求されます。介護保険法第22条に基づくペナルティで、市区町村が金融機関に直接照会できる権限を持っているため、預貯金の隠匿はほぼ確実に把握されます
- 第4段階でも特例減額措置がある|世帯収入が高くても、世帯員に高齢の入所者が複数いて在宅家族の生活費が著しく圧迫される場合などに、市区町村独自の特例減額措置で食費・居住費の負担を第3段階相当に軽減できることがあります。詳細は市区町村介護保険課に相談してください
- 施設の現場では認定証の有効期限切れに注意|介護現場では、入所者の認定証コピーをファイルし、毎年7月の更新時期に未更新者を抽出する仕組みがあるとトラブルが減ります。ケアマネジャー・相談員は更新時期前に家族へ案内を送ると安心です
よくある質問
Q. 配偶者と世帯分離していれば補足給付の対象になりますか?
A. なりません。2015年8月以降、配偶者が同一世帯か別世帯かにかかわらず、配偶者の住民税課税状況と預貯金額は本人と合算して判定されます。配偶者のいずれかが住民税課税の場合、原則として補足給付の対象外です。
Q. 認定証はいつから有効になりますか?
A. 申請日が属する月の1日から有効です。月の途中に申請しても、その月の食費・居住費は当初から負担限度額が適用されます。施設に対しては認定証を受領後すみやかに提示してください。
Q. グループホームや有料老人ホームの食費・居住費も対象になりますか?
A. 対象外です。補足給付は介護保険3施設(特養・老健・介護医療院)と地域密着型特養、ショートステイのみが対象です。グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、デイサービスの食費等は補足給付では軽減できません。
Q. 預貯金が要件を超えてしまった年は補足給付を受けられませんか?
A. 受けられません。要件を超えた段階で施設の基準費用額が全額自己負担になります。ただし、預貯金が要件を下回るタイミングで再申請すれば翌月以降は再開できます。家族間の資金移動による意図的な調整は不正受給とみなされる場合があるため、自然な変動の範囲で判断する必要があります。
Q. 補足給付と高額介護サービス費は併用できますか?
A. 併用できます。補足給付は食費・居住費の軽減、高額介護サービス費は1〜3割の介護サービス利用料が一定額を超えた場合の払戻しで、対象費用が完全に異なります。両方の要件を満たせば二重に軽減を受けられます。
参考資料
- 厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1280」(令和6年6月21日) | 居住費負担限度額・基準費用額の改定通知
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」サービスにかかる利用料 | 補足給付の制度概要と対象施設
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」 | 補足給付を含む介護給付の全体像
- 介護保険法第51条の3(特定入所者介護サービス費の支給) | 法的根拠条文(e-Gov法令検索で参照可能)
- 居住地の市区町村介護保険課公式サイト | 申請書様式・添付書類リスト・問い合わせ先(自治体ごとに異なるため必ず居住地の案内を確認)
まとめ
補足給付(特定入所者介護サービス費)は、特養・老健・介護医療院・ショートステイの食費と居住費について、住民税非課税世帯を対象に所得段階ごとの負担限度額を設ける制度です。要件は「世帯と配偶者の住民税非課税」と「預貯金等の資産」の2軸で判定され、第4段階との月額差は最大8万円規模に達します。
現場では、入所相談・施設契約のタイミングで家族に申請を案内し、認定証を施設にすみやかに提示してもらうのが基本です。利用者・家族は自治体窓口で申請書をもらい、預貯金通帳のコピーを揃えて提出すれば、月の途中であっても申請月の1日に遡って軽減が適用されます。年1回の更新を忘れずに、毎年7月の更新案内を起点に手続きを進めましょう。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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