
POLST(生命維持治療に関する医師による指示書)とは
POLST(Physician Orders for Life-Sustaining Treatment)は、生命を脅かす疾患に直面した人の心肺蘇生・人工呼吸・経管栄養などの希望を医師の指示書として残す文書です。本人が作る事前指示やACPとの違い、介護現場での扱いを定義特化で解説します。
POLSTとは(直接回答)
POLST(ポルスト、Physician Orders for Life-Sustaining Treatment)とは、生命を脅かす疾患に直面している人について、心肺蘇生(CPR)・人工呼吸・人工的な水分栄養補給などをどこまで行うかを、医師が「指示書」の形で記録する文書です。本人や家族が望みを書き残す事前指示(リビングウィル)とは異なり、話し合った内容を医師の医療指示として残す点が特徴です。日本では日本臨床倫理学会が「日本版POLST(DNAR指示を含む)」の作成指針を公表しています。
目次
POLSTの概要と日本版POLSTの位置づけ
POLSTの定義と日本での位置づけ
POLST(Physician Orders for Life-Sustaining Treatment)は、直訳すると「生命維持治療に関する医師による指示書」です。もともとは1990年代に米国で生まれた仕組みで、生命を脅かす重い病気にかかっている人や、心身が著しく弱った状態(フレイル)にある人を対象に、終末期に受ける医療処置の範囲をあらかじめ医師の指示として明確にしておくものです。米国では携帯できる医療指示書として運用され、本人が療養する場所(自宅・施設・病院)が変わっても引き継がれます。
日本では、日本臨床倫理学会が2015年に「日本版POLST(DNAR指示を含む)作成指針」を公表しました。正式には「『生命を脅かす疾患』に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」と呼ばれます。背景には、心肺停止時に心肺蘇生を行わないことを示すDNARとは|蘇生処置非実施の意味とDNR・ACP・リビングウィルとの違いという指示が、現場で意味の取り違えを生み、心肺蘇生以外の通常の治療まで控えられてしまう例があったという問題意識があります。
そこで日本版POLSTは、心肺蘇生(CPR)の希望だけでなく、心肺停止に至っていない段階でどこまで治療するか、人工的な水分栄養補給・抗生物質・人工透析などをどうするかも具体的に書き分ける書式を採用しました。あくまで本人や家族との十分な話し合いを前提に、最終的に主治医が作成・署名する「医師の指示」である点が、本人自身が意思を書き残す事前指示とは異なります。
日本版POLST書式に含まれる項目
日本版POLSTの書式に含まれる主な項目
日本臨床倫理学会の日本版POLST(DNAR指示を含む)の書式は、次のような構成になっています。心肺停止のときだけでなく、その前の段階の治療方針まで段階的に記録できる点が特徴です。
- 心肺停止(CPA)のとき:心肺蘇生術(CPR)を実施するか、実施しない(DNAR)かを選びます。
- 心肺停止ではないが生命を脅かす状態のとき:苦痛緩和を最優先とする処置、点滴などの非侵襲的な処置、人工呼吸などを含む積極的な処置(Full Treatment)のいずれを希望するかを選びます。
- その他の医療処置:人工的な水分・栄養補給(点滴や経管栄養)、抗生物質や血液製剤、人工透析などをどうするかを個別に記録します。
- 本人による事前指示の有無:本人が作成したリビングウィルや、代理で判断する人の指名があるかを記載します。
- 作成日と見直し日:本人の状態や意思は変化しうるため、定期的に内容を見直すことが求められます。
POLSTと事前指示・ACP・DNARの違い
終末期の意思に関する言葉は混同されやすいため、整理しておきます。
- POLST:本人や家族との話し合いをもとに、医師が作成・署名する「医療の指示書」。誰が処置を行うかにかかわらず、医師の指示として効力を持たせることを意図します。生命を脅かす疾患に直面した人など、対象が限られます。
- 事前指示(リビングウィル):本人が、判断できなくなったときに備えて、自分が受けたい・受けたくない医療を書き残す「本人の意思表明」。健康な人を含め誰でも作成できます。代わりに判断する人を指名する代理人指示も含みます。
- ACP(人生会議):本人・家族・医療ケアチームが、価値観や望みを繰り返し話し合う「プロセス」そのもの。POLSTや事前指示は、その話し合いの結果を文書として残したものと位置づけられます。
- DNAR:心肺停止のときに心肺蘇生を行わないという、範囲を限定した医師の指示。日本版POLSTは、このDNAR指示を含みつつ、それ以外の治療方針まで書き分ける枠組みです。
ごく単純化すると、ACPが「話し合い」、事前指示が「本人が書き残す意思」、POLSTとDNARが「医師が出す指示」という関係です。POLSTは事前指示の代わりになるものではなく、事前指示を踏まえたうえで医師が作成することが望ましいとされています。関連して事前指示とは|リビングウィルと代理人指示・ACP(人生会議)との違いを介護目線で解説、ACP(人生会議)とは|厚労省ガイドラインと5ステップの進め方を家族・介護職向けに解説もあわせて参照してください。
POLSTの介護現場での扱いと注意点
介護現場でのPOLSTの扱いと注意点
介護職にとって、POLSTは「あくまで医師が作成する医療の指示書」であることを押さえておくことが大切です。介護職員が内容を判断したり作成したりするものではなく、利用者の急変時に救急搬送をするかどうかなど、医療職が判断するための材料として位置づけられます。
救急の現場では、本人の人生観や価値観を反映した方針を、初めて対応する救急隊員や医師がその場で確認するのは難しいため、文書として残しておく意義があるとされています。一方で、本人の意思は時間とともに変化しうるため、いったん作成したPOLSTも状態や気持ちの変化に応じて見直すことが前提です。
また、日本ではPOLSTの運用基盤がまだ十分に整っていないという指摘もあります。日本集中治療医学会の倫理委員会は2016年の見解で、急性期医療の現場では合意形成が不十分なまま日本版POLSTを導入することに慎重であるべきで、まずDNAR指示の正しい理解と運用が先決だと述べています。このため、介護現場では制度として一律に使われているわけではなく、地域や施設、主治医の方針によって扱いが異なります。利用者や家族からPOLSTについて尋ねられた場合は、断定的に説明せず、主治医や看護師、ケアマネジャーなど医療職につなぐことが基本です。多職種の連携については介護現場のチーム医療実践ガイド|医師・看護師・リハ職・薬剤師との情報共有と多職種連携の動かし方も参考になります。
POLSTのよくある質問
POLSTに関するよくある質問
- POLSTは誰が作成するのですか。
- 本人や家族との十分な話し合いを前提に、最終的に主治医(医師)が作成し署名します。介護職員や家族だけで作成する書類ではありません。
- POLSTと事前指示(リビングウィル)は同じものですか。
- 異なります。事前指示は本人が自分の希望を書き残す意思表明で、POLSTはその希望を踏まえて医師が出す医療の指示書です。POLSTは事前指示の代わりにはならず、両方をあわせて整えることが望ましいとされています。
- 日本ではPOLSTに法的な効力がありますか。
- 日本では、米国のように法律で位置づけられた制度ではなく、学会の作成指針に基づいて運用されています。終末期医療全般は、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿って、本人の意思を基本に医療・ケアチームで判断する枠組みになっています。
- POLSTがあれば救急車を呼ばなくてよいのですか。
- 救急対応の判断は医療職が行うものであり、文書があるからといって介護職員が自己判断で救急要請をやめてよいわけではありません。急変時の対応方針は、あらかじめ主治医や看護師、家族と確認しておくことが重要です。
- 一度作ったPOLSTは変更できますか。
- 変更できます。本人の意思や状態は変化しうるため、定期的に見直すことが前提とされており、書式にも見直し日を記録する欄があります。
POLSTの参考資料・出典
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
POLSTのまとめ
まとめ
POLSTは、生命を脅かす疾患に直面した人の終末期の医療処置を、本人や家族との話し合いをもとに医師が指示書として残す文書です。本人が望みを書き残す事前指示やACPとは役割が異なり、心肺蘇生から人工的な水分栄養補給まで具体的に書き分けられる点が特徴です。日本では学会の作成指針に基づく運用にとどまり、扱いは地域や施設によって異なります。介護現場では作成や判断を担うのは医療職であることを理解し、利用者や家族の疑問は主治医や看護師、ケアマネジャーにつなぐことが基本です。
この用語に関連する記事

病院のICT導入に最大8000万円補助、業務効率化が努力義務に|医療従事者の負担軽減へ厚労省が新事業
厚労省が病院のICT導入を最大8000万円補助する新事業を令和8年度に実施。健康保険法等改正案では医療機関の業務効率化が努力義務に。看護師ら医療従事者の負担軽減・働き方改革に何をもたらすか、対象や時期を一次資料で整理します。

在宅酸素療法・COPDの利用者を施設で支える|介護職の観察・呼吸介助・火気管理と看護連携
在宅酸素療法(HOT)やCOPDのある利用者を介護施設で支える介護職向け実務ガイド。SpO2の見方と医行為の境界、増悪サインの観察と記録、呼吸を楽にする体位・介助、火気と感染の管理、息切れに合わせた活動調整、看護師への報告と多職種連携を一次ソースで解説。

インスリン療法の利用者の介護|介護職ができること・できないこと
インスリン療法を受ける高齢者の介護で、介護職ができること・できないこと(厚労省令和4年通知の医行為線引き)を解説。低血糖・高血糖の観察と補食対応、シックデイ、看護師への報告・連携まで現場目線でまとめます。

看護師の不足感、病院・介護施設の77.3%に|SMS調査「働き方改革は約5割が未着手」
株式会社エス・エム・エスが2026年5月に公表した調査で、病院や介護施設など事業者の77.3%が看護師の不足感を回答。働き方改革・定着の取り組みは約5割が未着手。介護現場の医療連携・夜間対応への影響と業務設計の打ち手を読み解きます。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。