読み書き計算の学習療法は認知症の人に効くか|研究エビデンスを介護現場目線で読み解く
介護職向け

読み書き計算の学習療法は認知症の人に効くか|研究エビデンスを介護現場目線で読み解く

簡単な読み書き・計算を対面で続ける「学習療法」(川島隆太ら提唱)は認知症の人の認知機能や意欲を改善するのか。RCT・介入研究の一次ソースで効果と限界を確認し、認知刺激療法(CST)との違い、現場での活かし方を介護職目線で読み解く。

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結論|学習療法は認知症の人に効くか

「読み書き計算の学習療法をやれば認知症が良くなる」とよく語られますが、研究で確かめられている結論は、もっと慎重で幅のあるものです。学習療法とは、簡単な文章の音読と足し算・引き算などのやさしい計算を、支援するスタッフと一対一で言葉を交わしながら、毎回できたことを認めつつ短時間くり返す非薬物的なかかわりです(川島隆太さんらが提唱し、公文の教材を使う「学習療法」「SAIDO Learning」として広まりました)。

認知症の人を対象にした比較研究では、学習療法を受けた人のほうが、考える力の一部(とくに前頭前野が関わる注意や段取りの力)や、笑顔・意欲・自分からの働きかけといった生活の様子が良くなった、という報告が複数あります。ただしその多くは参加人数が少なく、比べる相手のグループが「同じだけスタッフとかかわる時間」を持っていないという弱点を抱えています。つまり「読み書き計算そのものの力」なのか、「毎日ていねいに向き合ってもらえること(人とのかかわり)」の力なのかを、まだきれいに分けきれていません。

現時点で正確に言えるのは、学習療法は安全に行える前向きなかかわりで、意欲や表情、前頭葉が関わる力に「小さな良い変化」が期待できること、しかし認知症そのものを治したり進行を確実に止めたりするものではないことです。この記事では、効果が示された指標と限界、「人とのかかわり」の効果との切り分け、認知刺激療法(CST)との違い、そして介護現場での活かし方を、一次ソースにあたって読み解きます。

目次

導入|『脳トレで認知症が治る』の期待と現実

介護の現場では、簡単な計算ドリルや音読を毎日続ける取り組みを見かけることがあります。「認知症の人が、続けているうちに笑顔が増えた」「自分からトイレに行くようになった」といった話も、あちこちで語られます。こうした取り組みのもとになっているのが、脳科学者の川島隆太さんらが提唱した「学習療法」です。テレビゲームの脳トレでも知られる考え方で、むずかしい問題より、やさしい音読や計算のほうが脳の前の部分(前頭前野)がよく働く、という発見が土台になっています。

ただ、「効いた」という現場の実感と、「研究できちんと確かめられたこと」は、必ずしも同じではありません。良くなったのは読み書き計算そのものの力なのか、それとも毎日ていねいに向き合ってくれるスタッフとの時間の力なのか。効果はどの指標に、どのくらいの大きさで出ているのか。認知症を治したり進行を止めたりできるのか。ここを正しく分けて理解しておくことが、現場で過大にも過小にも受け取らず、目の前の人に役立てるための出発点になります。

この記事は、学習療法をおすすめしたり否定したりするためのものではありません。研究の原典(もとの論文)にあたって「どこまで示され、どこからは分からないのか」を確かめ、介護職が日々のケアにどう落とし込めるかを一緒に考えるためのものです。

学習療法とは、どんな研究から生まれ、どう行うのか

学習療法は、東北大学の川島隆太さんらの研究グループと公文教育研究会が共同で開発した、認知症の人へのかかわり方(非薬物療法)です。2004年ごろから日本の介護施設で使われはじめ、海外では「SAIDO Learning」という名前で、米国のナーシングホームなどにも広がっています。

土台になった脳科学の発見

川島さんらは、脳の血流を画像で見る装置(fMRIや近赤外分光法)を使い、人が音読しているときや簡単な計算をしているときに、額の内側にある「前頭前野(ぜんとうぜんや)」がよく働くことを示しました。前頭前野は、注意を向ける、順序立てて考える、気持ちや行動をコントロールするといった、生活の段取りに関わる場所です。意外なことに、むずかしい問題を解くときより、すらすら解ける簡単な音読や計算のほうが、この部分が広く活発になると報告されました。ここから「やさしい読み書き計算を、速く・くり返し行う」ことを軸にした学習療法が生まれました。

実際の進め方

やり方はシンプルです。ひらがな交じりの短い文章の音読と、一桁どうしの足し算・引き算といったやさしい計算を、教材を使って行います。1回はおおむね20〜30分、週に5回ほど。ポイントは、むずかしさを競うのではなく「すらすらできる」ところで続けることと、支援するスタッフ(SAIDO Learningでは「サポーター」と呼びます)が一対一〜少人数で寄り添い、できたことをその都度みとめ、言葉を交わすことです。教える場ではなく、成功体験を積み重ねて意欲や自信を引き出す時間、という位置づけです。

この「人とのていねいなかかわり」が組み込まれている点は、後で述べる効果の解釈でとても重要になります。読み書き計算という課題と、スタッフとの温かいやりとりが、いつもセットになっているからです。

研究でわかったこと|認知症の人・健常な高齢者、それぞれの結果

学習療法の効果を調べた研究は、大きく「認知症の人を対象にしたもの」と「元気な高齢者を対象にしたもの」に分かれます。数字の意味を日常の言葉にほどきながら、代表的なものを見ていきます。ここで出てくる検査名は、MMSE(認知症の程度を測る30点満点の検査。点が高いほど良い)、FAB(前頭前野の働きを測る18点満点の検査。点が高いほど良い)です。

1|認知症の人を対象にした最初の比較研究(2005年)

川島さんらが2005年に老年医学の専門誌(Journal of Gerontology)で報告した研究です。アルツハイマー型認知症と診断された高齢者を、学習療法を行うグループ16人と、行わないグループ16人(年齢とMMSEの点をそろえて選んだ人たち)に分け、6か月後を比べました。平均年齢は85歳前後です。

結果は、次のようになりました。数字は「開始時→6か月後」です。

指標学習療法グループ(16人)行わないグループ(16人)
MMSE(認知症の程度・30点満点)19.9 → 約20(ほぼ保たれた)19.6 → 17.8(約1.8点下がった)
FAB(前頭前野の働き・18点満点)7.0 → 8.5(上がった)6.8 → 6.2(下がった)

日常の言葉にすると、行わないグループは半年で認知機能がじわりと下がったのに対し、学習療法グループは下がらずに保たれ、前頭前野の働きはむしろ少し上がったということです。認知症は基本的に少しずつ進む病気なので、「下がらずに保たれた」こと自体が良い変化と受け止められています。ただしこの研究は、くじ引きでグループを分ける方式(ランダム化)ではなく、年齢とMMSEをそろえて選んだ比較で、人数も各16人と少なめです。

2|米国のナーシングホームでの比較研究(SAIDO Learning、2015年)

同じ考え方を米国のナーシングホームで試したのが、2015年に米国の介護医療の専門誌(Journal of the American Medical Directors Association)に載った研究です。読み書き計算を「サポーター」と一緒に週5回・1回30分、6か月続けました。介入グループ23人(うちアルツハイマー型13人)と、行わないグループ24人(うち同6人)を比べています。

アルツハイマー型の人にしぼると、学習療法グループはMMSEが行わないグループより統計的に意味のある形で良くなり、FAB(前頭前野の働き)は良くなる傾向が見られ、気分の落ち込みを測る指標(MDS)も学習療法グループだけで改善しました。研究者自身は、副次的な発見として「スタッフが入居者一人ひとりの進み具合やケアに、より前向きに関わるようになった」ことも挙げています。ただしこの研究も、施設ごとにグループを割り当てた比較(ランダム化ではない)で、人数は多くありません。

3|元気な高齢者を対象にしたRCT(2016年)

認知症ではない元気な高齢者64人を、くじ引きで「学習療法を行うグループ32人」と「順番待ちのグループ32人」に分けて6か月比べた、質の高い試験(ランダム化比較試験=RCT)もあります。読み書き計算をした側で、次の力が、しない側より良くなりました(かっこ内は「効果の大きさの目安」η²と、偶然では説明しにくい差かどうかを示すp値)。

  • 誘惑をこらえて正確に反応する力(抑制):η²=0.11、p=0.013
  • 話を聞いて覚えておく力(言語性の記憶):η²=0.12、p=0.015
  • 集中して注意を向ける力:η²=0.14、p=0.010
  • 手早く情報を処理する力(処理速度):η²=0.13、p=0.015

効果の大きさの目安(η²)は、一般に0.01前後=小さい、0.06前後=中くらい、0.14以上=大きい、とされます。上の値は「小さいと中くらいの間から、中くらいの上のほう」あたりで、手ごたえはあるが劇的ではない大きさです。一方で、考えを切り替える力(柔軟性)や、頭の中で情報を保持して操作する力(作業記憶)、読む速さそのものには、はっきりした改善は見られませんでした。全部の力が伸びるわけではない、という点は正確に押さえておきたいところです。

4|手術を受ける高齢者向けの小さなRCT(2018年)

手術後は一時的に頭が働きにくくなること(術後せん妄など)が知られています。それを見すえて、手術を受ける高齢者に読み書き計算(SCRA)を行った小さな試験(合計12人)では、前頭前野の働き(FAB)や気分、生活の質を測る指標で改善が報告されました。ただし参加者が計12人と非常に少なく、これだけで結論づけることはできません。「有望だが、さらに大きな研究が必要」という段階です。

数字をどう読むか|『人とのかかわり』との切り分けと4つの限界

ここまでの結果を、現場で過大にも過小にも受け取らないための注意点を整理します。学習療法の研究には、共通する弱点があります。

1. 「読み書き計算の力」か「人とのかかわりの力」か、分けきれていない

これが最大のポイントです。多くの研究で、比べる相手のグループ(対照群)は「ふだん通りのケア」を受けただけで、学習療法グループが受けたのと同じだけの、一対一のていねいなかかわりの時間は与えられていません。学習療法は、読み書き計算という課題と、スタッフが寄り添い・認め・言葉を交わすかかわりが、いつもセットです。だとすると、良い変化を生んだのは計算や音読そのものなのか、それとも「毎日ていねいに向き合ってもらえること」なのか、この2つを研究はまだきれいに分けられていません。認知症ケアでは、人と関わり役割や成功体験を持つこと自体に良い効果があると考えられているため、この切り分けは本質的です。

2. 研究の規模が小さく、ランダム化されていないものが多い

認知症の人を対象にした研究は、各グループ十数人〜二十数人と少人数です。人数が少ないと、たまたまの偏りが結果に影響しやすくなります。また、いちばん公平とされる「くじ引きで割り付ける方式(ランダム化)」を採っていない研究も多く、グループ間のもともとの差が結果に混じっている可能性を、完全には否定できません。認知トレーニング全般を見わたした総説でも、この分野は研究の質にばらつきがあり、少数例が多いと指摘されています。

3. 効いた指標と、そうでない指標がある

元気な高齢者のRCTで良くなったのは、抑制・注意・処理速度・言語性の記憶など、前頭前野が関わる一部の力でした。一方で、考えの切り替えや作業記憶、読む速さそのものは伸びていません。「頭の力が全体的に底上げされる」わけではなく、伸びる力とそうでない力があると理解するのが正確です。また、検査の点が上がることと、日常生活が実際に楽になることは、必ずしもイコールではありません。

4. 認知症を「治す」「進行を止める」ものではない

報告されているのは「下がらずに保たれた」「一部の力が少し上がった」「表情や意欲が良くなった」といった、小さな・前向きな変化です。認知症そのものを治したり、進行を確実に止めたりする効果は示されていません。「学習療法をやれば認知症が良くなる/治る」という言い切りは、研究の結論を超えています。ここは、ご本人やご家族に説明するときにも、正確に伝えたいところです。

それでも「無意味」ではない、という受け止め方

限界を並べると否定的に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。仮に効果の一部が「人とのかかわり」由来だとしても、安全に行え、意欲や表情・気分に良い変化が期待でき、スタッフの関わりの質まで高まるのであれば、認知症ケアの選択肢として十分に価値があります。大切なのは「読み書き計算そのものが特効薬」と誤解しないことと、その人が楽しめているか・尊厳が守られているかを最優先にすることです。

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認知刺激療法(CST)との違い|似ているが証拠の重さが異なる

認知症の非薬物的なかかわりには、学習療法とよく似て見えるものに「認知刺激療法(CST:Cognitive Stimulation Therapy)」があります。どちらも「頭を心地よく使う」点は共通ですが、中身も、証拠の積み上がり方も違います。混同されやすいので、整理しておきます。

学習療法(読み書き計算)

  • 内容:やさしい音読と計算を、支援スタッフと一対一〜少人数でくり返す。前頭前野の働きを保つことを狙う。
  • 回数の目安:週5回ほど・1回20〜30分と、比較的高い頻度。
  • 証拠の状況:認知症の人での研究は少人数・非ランダム化が中心。健常高齢者ではRCTで一部の力の改善が示されている。「有望だが、大規模で質の高い証拠はこれから」という段階。

認知刺激療法(CST)

  • 内容:少人数のグループで、クイズ・歌・身近な話題のおしゃべりなど、毎回テーマを変えた活動を行う。読み書き計算に限らず、幅広く頭を使い、人と交わることを重視する。
  • 回数の目安:1回約45〜50分・週2回・7週間(計14回)が標準。
  • 証拠の状況:英国の大規模RCTや、世界中の研究をまとめたコクランレビュー(36研究・約2,700名)で、認知機能と生活の質に「小さいが確からしい」改善が示され、英国の診療ガイドライン(NICE)でも推奨されている。学習療法より証拠が厚い。

どう使い分けるか

大づかみに言えば、CSTは「幅広い活動+交流」を手順化して証拠を積んだプログラム、学習療法は「読み書き計算」を軸に高頻度でくり返すかかわりです。証拠の重さではCSTが先行していますが、学習療法は個別に取り組みやすく、成功体験を積みやすい良さがあります。どちらが上・下ではなく、その人が楽しめるか、続けられるか、尊厳が守られるかで選ぶのが現実的です。CSTについては当サイトの別記事で詳しく扱っています。

介護現場でどう活かすか|科学的介護・LIFEの視点から

研究の限界をふまえたうえで、学習療法の考え方を現場で役立てるヒントを、介護職の目線でまとめます。ポイントは「読み書き計算そのもの」に賭けすぎず、成功体験と人とのかかわりを設計することです。

1. 「できる」レベルで続ける

研究の土台は「むずかしい問題より、すらすらできる簡単な課題のほうが前頭前野がよく働く」という発見でした。現場でも、難易度を上げて達成度を競うのではなく、その人がすらすらできる、少し簡単なくらいの課題を選ぶのが基本です。間違い探しではなく、成功体験の積み重ねにします。

2. 「かかわり」を効果の本体と考える

効果の一部が人とのかかわり由来である可能性を、むしろ前向きに使います。教材を挟みながら、目を見て、名前を呼び、できたことをその場で言葉にして認める。この時間そのものが、意欲や表情、気分に効く「本体」かもしれません。作業を消化することより、やりとりの質を大切にします。

3. アセスメントとセットにする

導入する前に、その人が読み書き計算に苦痛や恥ずかしさを感じないか、視力や聞こえ、利き手や麻痺の状態は大丈夫かを確認します。学歴や過去の職業によって、計算や音読への感じ方は大きく違います。「みんな一律に計算ドリル」ではなく、その人に合う題材(好きな詩の音読、買い物の計算など)に置き換える柔軟さが、尊厳を守る鍵です。

4. 変化を記録し、多職種で共有する(LIFEの発想)

国が進める「科学的介護情報システム(LIFE)」は、ケアの内容と状態の変化を記録し、チームで振り返って改善していく仕組みです。学習療法を取り入れるなら、表情・発語・意欲・自発的な行動といった変化を、主観だけでなく記録として残し、看護・リハ・相談員と共有すると、続けるか見直すかの判断材料になります。「良くなった気がする」で終わらせず、根拠をもって続けるかどうかを決める姿勢が、科学的介護の実践です。

5. 「治療」ではなく「暮らしの質」を目的にする

認知症を治す・止めるための手段としてではなく、その人が達成感を味わい、人と交わり、穏やかに過ごせる時間を増やす手段として位置づけます。目的をここに置くと、検査の点数に一喜一憂せず、無理なく続けられます。

現場で活かす5つの工夫

  1. 「できた」で終える:最後は必ずすらすらできる課題にして、達成感で終わるようにする。難易度を上げすぎない。
  2. 教材にこだわらない:計算ドリルが合わない人には、好きな歌詞や俳句の音読、日付や買い物の計算など、その人の生活に近い題材に置き換える。
  3. 短く・毎日・同じ時間に:1回20〜30分でよい。長さより、決まった時間に穏やかに続けることを優先する。
  4. 表情と発語を記録する:点数だけでなく、笑顔・自発的な言葉・意欲の変化をメモに残し、チームで共有する。続けるか見直すかの根拠になる。
  5. 強制しない:嫌がる日は無理に行わない。「勉強させられている」と感じさせた時点で、意欲を引き出すという目的から外れる。

よくある質問(FAQ)

Q. 学習療法をすれば認知症は治りますか、進行を止められますか。

「治る」「確実に止まる」という意味では期待できません。研究で示されているのは、認知機能の一部が「下がらずに保たれた」「少し上がった」、表情や意欲が良くなった、という小さな前向きな変化です。治療というより、安全に行える前向きなかかわりの選択肢と理解するのが正確です。

Q. 効いたのは計算や音読そのものの力ですか。

そこはまだ研究で分けきれていません。学習療法は「読み書き計算」と「スタッフのていねいなかかわり」がいつもセットで、比べる相手のグループが同じだけのかかわりを受けていないことが多いためです。効果の一部は「人との時間」由来かもしれません。ただし、だとしても意欲や気分に良い変化が期待できるなら、価値はあります。

Q. 認知刺激療法(CST)とどちらが良いですか。

優劣というより性質の違いです。CSTは幅広い活動と交流を手順化し、大規模な研究やガイドラインで裏づけが厚いプログラム。学習療法は読み書き計算を高頻度でくり返し、個別に成功体験を積みやすいかかわりです。その人が楽しめて続けられるほうを選ぶのが現実的です。

Q. どんな人に向いていますか。

読み書き計算に苦痛や恥ずかしさを感じず、成功体験を楽しめる人に向きます。逆に、強い苦手意識がある人や、間違いを気にして落ち込む人には、無理に勧めないほうがよいでしょう。題材をその人の好みに合わせる工夫が大切です。

Q. 介護職として、まず何を大切にすればよいですか。

課題を消化することより、目を見て名前を呼び、できたことを認めるやりとりの質を大切にしてください。そして表情や意欲の変化を記録に残し、チームで共有すること。これが、研究の限界をふまえた誠実な取り入れ方です。

参考文献・出典

まとめ|『小さく効く、安全なかかわり』として正しく使う

読み書き計算の学習療法は、認知症の人に「効く」のか。研究の原典にあたって分かるのは、次のことです。認知症の人を対象にした比較研究では、学習療法を受けた人のほうが認知機能が保たれ、前頭前野の働きや気分、意欲・表情に小さな良い変化が見られました。元気な高齢者のRCTでも、注意・処理速度・言語性の記憶など一部の力の改善が示されています。

一方で、その多くは少人数・非ランダム化で、比べる相手が同じだけの人とのかかわりを持っていないという弱点を抱え、「読み書き計算そのものの力」なのか「毎日ていねいに向き合ってもらえる力」なのかを分けきれていません。伸びる力とそうでない力があり、認知症を治したり進行を止めたりするものでもありません。証拠の厚さでは、幅広い活動と交流を手順化した認知刺激療法(CST)が先行しています。

それでも、学習療法は安全に行え、成功体験と人とのかかわりを通じて、意欲や表情・気分に前向きな変化が期待できる選択肢です。介護職にとっての要点は、読み書き計算そのものに過度な期待をかけないこと、効果の本体かもしれない「かかわりの質」を大切にすること、その人に合う題材を選び尊厳を守ること、そして変化を記録して多職種で共有し、続けるか見直すかを根拠をもって判断することです。「治す」ためではなく「その人が穏やかに、達成感をもって過ごせる時間を増やす」ために使う。それが、研究の限界をふまえた誠実な活かし方です。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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