過疎地の介護維持へ新スキーム|2026年4月法案決定 「特定地域」で人員基準緩和・訪問介護に定額報酬導入
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過疎地の介護維持へ新スキーム|2026年4月法案決定 「特定地域」で人員基準緩和・訪問介護に定額報酬導入

政府は2026年4月3日、介護保険法等改正案を閣議決定。中山間・人口減少地域を対象に「特定地域サービス」を新設し、人員基準の緩和と訪問介護の定額報酬選択制を2027年度から導入する。制度の全体像と現場への影響を整理した。

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政府は2026年4月3日、介護保険法等の改正案を閣議決定し、中山間・人口減少地域を対象に「特定地域サービス」を新設する方針を固めた。都道府県が市町村の意向を踏まえて「特定地域」を指定し、事業所・施設の人員配置基準や常勤・専従要件、夜勤要件を緩和できる仕組み。あわせて訪問介護には現行の出来高払いに加えて月単位の定額報酬(包括評価)を選択できる枠組みも導入する。施行は2027年度からで、今国会での早期成立を目指す。

目次

介護人材需給データから見る人員配置の論点

厚生労働省の第9期介護保険事業計画に基づく推計では、介護職員は2022年度の約215万人から、2026年度に約240万人、2040年度に約272万人が必要とされています。人員配置や基準緩和の議論は、2040年度に向けて必要な介護職員数が増える中で、サービス提供体制をどう維持するかという課題と直結しています。

年度介護職員数・必要数2022年度との差見方
2022年度約215万人基準足下の介護職員数
2026年度約240万人+約25万人第9期計画期間の終期に必要な規模
2040年度約272万人+約57万人高齢化が進む2040年度に必要な規模

2040年度までに必要とされる上積みは約57万人です。これは、介護現場の努力だけで吸収するには大きい規模で、処遇改善、採用、定着支援、業務効率化を組み合わせて進める必要があります。配置基準を見るときは、単に人員を薄くする話ではなく、業務分担、ICT、地域連携、職員の安全を同時に設計できているかが焦点になります。

出典: 厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(2024年7月12日公表)。2022年度の介護職員数は厚生労働省「令和4年介護サービス施設・事業所調査」、2026年度・2040年度は市町村の第9期介護保険事業計画に基づく都道府県推計の集計です。

過疎地域や中山間地での介護サービス維持は、もはや「将来の課題」ではなく「いま目の前にある危機」となっている。読売新聞と民間調査会社タムラプランニング&オペレーティングの集計によれば、2025年7月末時点で訪問介護事業所が1か所もない自治体は全国82町村に達し、コロナ禍前の2019年7月末(56町村)からおよそ1.5倍に膨らんだ。東京商工リサーチがまとめた2025年の訪問介護事業者の倒産件数は91件で、2000年の介護保険制度スタート以降で3年連続の過去最多を更新している。

こうした状況を受け、政府は2026年4月3日、介護保険法を含む「社会福祉法等の一部を改正する法律案」を閣議決定した。柱の一つが、人口減少が進む地域に限って人員配置基準を緩和し、訪問介護には月単位の定額報酬を選べるようにする「特定地域サービス」の新設である。本記事では、厚生労働省と社会保障審議会介護保険部会の資料をもとに、新スキームの全体像を整理し、2027年度の介護報酬改定議論や、過疎地で働く介護職のキャリア選択への影響を読み解いていく。

新スキーム「特定地域サービス」の全体像

「特例介護サービス」に新たな類型を追加

今回の改正案の中核は、現行の「特例介護サービス」に新たな類型として「特定地域サービス」(仮称)を設ける点にある。特例介護サービスとは、全国一律の人員・設備・運営基準をそのまま適用すると事業の継続が難しい地域向けに、市町村や都道府県の条例で基準を緩和しながら保険給付の対象とする仕組みで、これまでは「基準該当サービス」と「離島等相当サービス」の2類型が用意されてきた。

厚生労働省が社会保障審議会介護保険部会に示した資料によれば、新類型は「基準該当」と「離島等相当」の中間に位置づけられ、管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件などを地域の実情に応じて柔軟に設定できるようにする。対象となるサービスは訪問介護・通所介護・短期入所生活介護などの居宅サービスに加え、施設サービスや居宅介護支援も含まれる。これまで「離島等相当サービス」の実施保険者は17都道県・27保険者(全保険者の1.7%)にとどまってきたが、新類型により中山間・人口減少地域でも柔軟な運用が可能になる。

都道府県が市町村の意向を踏まえて地域指定

「特定地域」に指定する地域は、国が一定の基準を示したうえで、市町村の意向を確認しながら都道府県が決定する。介護保険部会の資料では、指定の基礎とする区域として「特別地域加算の対象地域」(離島振興対策実施地域、奄美群島、振興山村、小笠原諸島、沖縄の離島、人口密度が希薄で交通が不便な地域等)が例示され、そこに人口減少や地域事情を加味して範囲を広げる方向性が示されている。

さらに、同一市町村内でもエリアによって人口減少の進行は異なるため、市町村内の一部エリアのみを「特定地域」として指定することも想定されている。指定は第10期介護保険事業計画(2027〜2029年度)の策定プロセスに合わせて進められ、介護給付費分科会で具体的な基準や報酬体系が詰められる見込みだ。

特定地域でできる3つの柔軟化

厚労省資料によると、「特定地域」に指定された区域では次の3つのオプションを組み合わせて活用できるようになる。第1に、事業所・施設の管理者や専門職の人員配置基準、常勤・専従要件、夜勤要件の緩和。第2に、訪問介護における出来高報酬と月単位の定額報酬(包括的な評価)の選択制導入。第3に、介護保険の財源を活用して市町村が在宅サービスを事業として実施する「特定地域居宅サービス等事業」の運用である。

これらは一体的にパッケージで提供されるのではなく、地域の実情に応じて「どの柔軟化を、どのサービスに適用するか」を自治体が選択する建て付けとなる。施行は2027年度(令和9年4月)からで、第10期介護保険事業計画の開始時期と揃えられている。

「特定地域」指定の基準と影響が想定される地域

特別地域加算の対象地域+人口減少基準がベース

介護保険部会の議論では、「特定地域」の指定は既存の「特別地域加算」対象地域を基礎に据える方向で整理されている。特別地域加算は、離島振興法で指定された離島振興対策実施地域や、奄美群島、振興山村、小笠原諸島、沖縄の離島に加え、豪雪地帯、辺地、過疎地域のうち「人口密度が希薄」「交通が不便」などの理由でサービス確保が著しく困難と認められる地域を、厚生労働大臣が告示で指定している枠組みである。訪問介護費・訪問看護費など多くの居宅サービスで報酬の15%加算が算定される地域と、ほぼ重なる。

厚労省は、これに加えて「高齢者人口の減少」などの要素を反映できるよう、国として一定の基準を示す方針を介護保険部会で提示している。厳密な基準は2027年度介護報酬改定に向けた介護給付費分科会で議論が進むが、地域指定を「人口減少地域」にまで広げる布石となる点は押さえておきたい。

北海道・高知・奈良など「空白自治体」が集中する地域

読売新聞とタムラプランニング&オペレーティングの全国調査によれば、訪問介護事業所がゼロの自治体は北海道14町村、福島県13町村、東京都6村(うち5村は離島)、高知県5町村などに集中している。事業所が0〜2か所しかない自治体は全国で571市町村に達し、高知県では全市町村の3分の2にあたる22市町村が該当するという。奈良県14町村、鳥取県13町村、和歌山県11町村でも空白自治体の存在感が大きい。

これらの地域では、居住自治体に事業所がなく、近隣市町村の事業所やデイサービスで在宅生活を支えている実態があり、国が示す「特定地域」の対象地域とほぼ重なる可能性が高い。今後、都道府県が各市町村の実情を踏まえて指定を進めることになる。

市町村内の「一部エリア」指定という柔軟な仕組み

もう一つ注目すべき設計が、「市町村内の一部エリアだけを特定地域に指定できる」点である。中核市のように市内に都市部と山間地域が混在するケースでは、市全体を指定対象にするのではなく、中山間地区の集落だけを「特定地域」として切り出すことが可能になる。特別地域加算がもともと市町村単位だけでなく「集落単位」の指定を可能としてきた運用を踏襲する形だ。

この仕組みにより、人口減少地域を抱える一般市の自治体でも、全域一律の基準緩和ではなく「必要なエリア」に絞った適用が可能となる。実質的に、都市部と地方を抱える多くの市町村にとって、新スキームは無関係ではなくなる可能性がある。

訪問介護に「定額報酬」導入の仕組み

現行の出来高制の問題点

訪問介護の報酬は現在、サービスの提供回数・時間に応じて単位が決まる「出来高制」が基本となっている。厚労省が社会保障審議会介護保険部会に示した資料では、現行制度のメリットとして「利用回数や時間に応じた報酬のため事業者にとって納得感が得られやすい」「利用回数・時間の少ない利用者は負担が軽く、利用開始のインセンティブが働きやすい」が挙げられている。

一方、同じ資料はデメリットとして「利用者数・利用状況に応じて毎月の収入が変動し、地域特性や事業所規模によっては年間を通じた安定経営が困難」「移動時間が長く1日の訪問回数が限られる地域では、突然のキャンセル等による機会損失の影響が大きい」「利用回数・時間の少ない利用者の受入れに対する収益面でのインセンティブが働きにくい」と指摘する。とりわけ中山間地域では、利用者宅間の移動に時間を取られ、冬期の利用者減少や突発的なキャンセルで月間の売上が乱高下しやすい。

月単位の定額報酬(包括評価)とは

新スキームで導入される「定額報酬」は、月単位で事業者の収入が確定する包括的な評価の仕組みである。介護保険部会資料のイメージでは、要介護度や事業者の体制を踏まえた多段階設定とし、各種加算も大くくりで包括化される想定が示されている。標準的な提供回数を超える分などは別途算定する余地を残す形だ。

これにより、事業者は利用者数に応じて収入の見込みが立ちやすくなり、移動時間などを織り込んだ報酬設定が可能になる。利用回数や時間の少ない利用者を受け入れても収益が確保できるため、過疎地で「断らざるを得なかった」ケースを抑制する効果が期待される。厚労省は「安定的かつ予見性のある経営が可能となることで、常勤化が促進されるなど継続的かつ安定的な人材確保につながる」としている。

定額制と出来高制の「選択制」で段階導入

重要なのは、今回の改正案が「定額制への一律切り替え」ではなく、事業者が定額制と出来高制を選べる「選択制」である点だ。日本経済新聞は2025年11月の報道で、厚労省が2027年度にも過疎地の訪問介護事業者に月単位の定額報酬を導入し、希望する自治体で選択可能とする方針を示したと伝えている。

制度の詳細は2026年度末までに介護給付費分科会で議論され、2027年度からの第10期介護保険事業計画の期間中に運用が始まる予定だ。全国一律の報酬体系から、地域の実情に応じた柔軟な報酬設計へと舵を切る転換点といえる。

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2027年同時改定と介護人材政策への波及(独自見解)

「全国一律」から「地域最適」への制度転換

今回の改正案は、単独で理解すると「過疎地向けの例外措置」に見える。しかし、2027年度には診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定が控えていることを踏まえると、一連の改革の流れの中に位置づけ直す必要がある。厚労省は社会保障審議会介護保険部会で、全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の3類型に分けて介護サービス基盤の整備方針を描き直す考え方を示しており、今回の「特定地域サービス」はその第一歩と位置づけられる。

これまでの介護保険制度は、全国一律の人員配置基準と一律の単価表を前提にしてきた。今回の改正は「全国一律」という大原則を部分的に崩し、地域の人口構造に応じて「配置基準」「報酬体系」「事業スキーム」の3点で異なる運用を認める、制度設計の転換点といえる。第10期事業計画から始まる議論は、2040年の高齢者人口ピークを見据えた「地域最適化フェーズ」の本格スタートを意味する。

包括報酬・事業型サービスは都市部にも波及する可能性

注目すべきは、今回の改正で導入される「包括報酬」と「市町村事業によるサービス提供」の仕組みが、中山間・人口減少地域に限って試行されるにせよ、将来的に他類型の地域へ拡張され得る点である。厚労省資料の「中山間・人口減少地域における対応」の項では、「既存制度との関係やそのあり方に留意しつつ」検討するとされつつ、「ICT技術等を用いた24時間対応可能な効率的かつ包括的なサービス」が大都市部向けの論点としても並列で示されている。

特に訪問介護の倒産が3年連続で過去最多を更新し、2025年の倒産91件のうち82.4%が「売上不振」、13件が「人手不足」を直接理由とする中、報酬の予見性を高める仕組みは中山間地域だけの課題ではない。今回の「特定地域限定の定額報酬」が一定の成果を上げれば、2030年度改定以降に一般地域への拡大が議論される可能性がある。事業者にとっては、過疎地での先行事例が「次の標準」を形づくるテストケースとなる。

人員配置基準の緩和が「質の低下」にならない設計が鍵

一方で、介護保険部会でも懸念として挙がっているのが「人員配置要件の緩和に伴うサービスの質の低下」「職員の業務負担増」である。すでに基準該当サービス(訪問介護の常勤換算2.5以上→職員3人以上で要件なし、など)や離島等相当サービスでは、配置基準を大幅に緩和した運用が行われてきたが、緩和対象地域で働く職員の負担がどう変化したかの検証は限定的だ。

厚労省は「ICT機器の活用」「同一法人の併設事業所間などサービス・職種間での連携体制の確保」「市町村の適切な関与・確認」「配置職員の専門性への配慮」を前提とする設計を示しているが、実運用でこれが機能するかは、市町村ごとの体制整備に委ねられる部分が大きい。職員一人ひとりにとっては、緩和された基準の下でどのような業務分担と労働条件が実現するかが、新スキームの成否を左右する。

過疎地で働く介護職のキャリア選択への影響(独自見解)

「特定地域」での雇用条件はどう変わるか

新スキームが過疎地で働く介護職にもたらす影響は、現場の働き方と経営の両面で複層的である。まず雇用面では、管理者や専門職の「常勤・専従要件」が緩和されることで、1人の職員が複数事業所を兼務する形や、非常勤での管理業務が拡大する可能性がある。サービス提供責任者(サ責)の配置が難しく新規受入を止めざるを得ない事業所にとっては、要件緩和が受入再開の契機となる一方、既存職員の責任範囲は広がる場合がある。

夜勤要件の緩和は、グループホームや地域密着型特別養護老人ホームなど入所系サービスで大きな意味を持つ。夜勤者の確保が難しい過疎地では、これまで人員不足による定員削減や閉所を選ばざるを得なかった施設が、ICTを活用した見守り体制と組み合わせて事業を維持できる道が開ける。ただし、夜勤負担の一人あたり増加と、それに見合う処遇改善が並行して進むかは、事業所ごとの判断に委ねられる。

定額報酬下での訪問介護ヘルパーの働き方

訪問介護員(ホームヘルパー)の働き方への影響は、定額報酬の設計次第で大きく変わる。出来高制の下では「1日何件回れたか」が直接的に売上に響くため、移動時間の長い過疎地ではヘルパー1人あたりの訪問件数が稼げず、結果として給与水準が抑えられる構造があった。定額報酬が導入されれば、事業所収入が利用者数ベースで安定するため、理論上は「移動時間も含めた勤務時間」を前提とした常勤雇用や固定給へのシフトが進みやすくなる。

厚労省資料も「安定的かつ予見性のある経営が可能となることで、常勤化が促進される」との期待を明示している。ヘルパー平均年齢が50歳を超え、60歳以上が多数を占める訪問介護業界にとって、これは若年層・中堅層の新規参入を促す重要な条件整備となる。一方で、利用件数に応じた報酬ロジックが薄まることで、訪問頻度を減らす「モラルハザード」への監視体制が市町村側にどこまで整うかは、質の担保上の論点となる。

キャリア選択の視点:「地域限定型キャリア」という選択肢

中長期の視点で見ると、今回の改正は介護職にとって「地域限定型のキャリアパス」を現実的な選択肢に引き上げる可能性がある。これまで、過疎地の介護事業所で働くことは「倒産リスクが高く、キャリア形成が難しい」というイメージが根強かった。訪問介護の倒産が3年連続で過去最多を更新する状況はこの見方を裏付けるものだった。

しかし、特定地域サービス・定額報酬・市町村事業という3つの仕組みが組み合わさることで、過疎地の事業所に「経営の予見性」と「市町村による事業継続バックアップ」の両方が付与される。U・Iターンで地方での介護職を選びたい人にとっては、2027年度以降の制度環境は改善方向に動く。自分の住む地域が「特定地域」に指定されるか、どのような柔軟化メニューが選択されるかは、転職や勤務先選びの判断材料として重要度を増していく。

参考文献・出典

参考資料

まとめ

2026年4月3日に閣議決定された介護保険法等改正案は、中山間・人口減少地域を対象に「特定地域サービス」を新設し、人員配置基準の緩和と訪問介護の定額報酬選択制を2027年度から導入するものだ。既存の「基準該当サービス」「離島等相当サービス」に加えて第3の類型を設けることで、「全国一律」だった介護サービス基盤整備の原則を、地域の人口構造に応じた「地域最適型」へと組み替える設計である。「特定地域」は特別地域加算の対象地域を基礎に、人口減少など地域事情を勘案して都道府県が指定し、市町村内の一部エリアを切り出すことも可能となる。

過疎地で働く介護職にとっては、事業継続の予見性が高まり、訪問介護員の常勤化が進みやすくなるなどプラスの変化が期待できる一方、配置基準緩和に伴うサービス質と職員負担の管理が制度設計の焦点となる。2027年度改定議論を控え、今後は介護給付費分科会での具体的な基準や報酬体系の議論が本格化する見込みだ。U・Iターン含む地方での介護職選択を考える人にとっては、自分の住む地域が「特定地域」に指定されるか、どの柔軟化メニューが採用されるかが新たな判断材料になる。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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