
養護者(家族)による高齢者虐待が過去最多4.1万件|介護疲れが最多要因、抱え込まない相談先【2026年】
厚労省の令和6年度調査で、家族など養護者による高齢者虐待の相談・通報が41,814件と12年連続で過去最多に。虐待判断17,133件、続柄は息子38.9%、発生要因は介護疲れ57.2%。在宅介護の家族が抱え込まないための相談先とレスパイト活用を解説します。
この記事のポイント
厚生労働省が2025年12月25日に公表した令和6年度(2024年度)調査によると、家族など養護者による高齢者虐待の相談・通報件数は41,814件で、12年連続の過去最多を更新しました。市町村が虐待と判断した件数は17,133件(前年度比0.2%増)でほぼ横ばいですが、相談・通報の入り口は広がり続けています。虐待者の続柄は息子(38.9%)が最も多く、発生要因では「介護疲れ・介護ストレス」が57.2%と上位を占めました。これは加害者を責めるだけでは解けない、在宅介護の孤立と密室化が背景にある問題です。家族・地域・専門職のいずれにとっても、「抱え込む前に地域包括支援センターへ相談する」という一次予防の動線づくりが鍵になります。
目次
解説動画
自宅で起きる高齢者虐待という現実
高齢者虐待というと、ニュースで報じられる介護施設の事件を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし件数で見れば、虐待の大半は「自宅」で、しかも「家族」によって起きています。令和6年度の厚生労働省調査では、家族・親族・同居人など養護者による虐待の相談・通報が4万件を超え、施設従事者によるもの(3,633件)の10倍以上にのぼりました。
背景にあるのは、介護の長期化と家庭内での孤立です。認知症の進行、終わりの見えない介護、相談できる相手の不在——こうした条件が重なったとき、「まじめに介護している家族」ほど追い詰められ、虐待という形で限界が表面化することがあります。実際、調査で挙がった発生要因の上位には「介護疲れ・介護ストレス」が並びます。
この問題は、決して特殊な家庭だけの話ではありません。要介護高齢者の多くは住み慣れた自宅で家族の手によって支えられており、その膨大な在宅介護の現場のどこでも、条件が重なれば起こりうるものです。だからこそ「悪い家族の例外的な事件」として切り離すのではなく、在宅介護そのものに内在するリスクとして、誰もが知っておく必要があります。
この記事では、令和6年度調査のうち養護者(家庭・家族)による虐待に絞って、件数・種別・続柄・発生要因といった最新データを整理します。そのうえで、なぜ家庭内での虐待が起きやすいのかという構造を考え、家族が抱え込まないための相談先とレスパイト(介護者の休息)の使い方、そして地域・専門職にできる早期発見の役割を具体的に解説します。誰かを責めるためではなく、防ぐための視点でお読みください。
令和6年度調査の主要データ:相談・通報は12年連続で過去最多
相談・通報は41,814件、虐待判断は17,133件
令和6年度(2024年4月~2025年3月)に全国の市町村が受理した、養護者による高齢者虐待の相談・通報件数は41,814件でした。前年度の40,386件から1,428件(3.5%)増え、12年連続で過去最多を更新しています。一方、市町村が実際に「虐待にあたる」と判断した件数は17,133件で、前年度の17,100件から33件(0.2%)の増加にとどまり、ほぼ横ばいでした。
この「相談・通報は増え続けているのに、虐待判断件数は横ばい」という形は重要なポイントです。相談・通報に占める虐待判断の割合はむしろ減少傾向にあり、虐待そのものが急増しているというより、社会の側で「気づいて知らせる」入り口が広がっていると読むことができます。早期に把握できれば、深刻化する前に支援につなげる余地も大きくなります。
施設従事者による虐待の10倍以上という規模
同じ調査では、介護施設の職員など養介護施設従事者等による虐待の相談・通報も3,633件と過去最多を更新し、社会的な注目を集めています。しかし件数の規模で見れば、養護者(家族など)による相談・通報41,814件は、その10倍以上にのぼります。報道で目立つのは施設の事件ですが、高齢者虐待の大半は依然として家庭で起きているのが実態です。施設には虐待防止委員会の設置や研修の義務づけ、報酬上の減算といった制度的な歯止めが整えられてきた一方、家庭には同じような仕組みを及ぼしにくく、対策は「外から支援につなぐ」ことに依存せざるをえません。だからこそ、家庭内の虐待をどう早く見つけ、家族をどう支えるかという視点が欠かせないのです。
通報の最多ルートは「警察」
相談・通報者の内訳を見ると、最も多いのは「警察」で35.6%、次いで「介護支援専門員(ケアマネジャー)」が24.4%、「家族・親族」は7.1%でした。施設従事者による虐待では施設職員や管理者が通報の中心であるのに対し、家庭内のケースでは外部の目が入りにくいぶん、警察や担当ケアマネジャーが発見の起点になっていることがわかります。
厚生労働省も、近年は警察からの通報が介護・医療関係者からの通報を上回って最多になっている点を傾向分析で指摘し、警察から通報を受けた場合の市町村の対応のあり方について都道府県へ通知を出しています。家庭という閉じた空間で起きる虐待を、いかに外から見つけて支援につなげるかが制度運用上の課題になっているのです。
「相談・通報は増、判断は横ばい」が示すもの
養護者による虐待の相談・通報件数は、調査が始まった平成18年度の数千件規模から右肩上がりで増え続け、令和6年度には41,814件に達しました。一方、虐待判断件数は近年17,000件前後で横ばいに転じています。この差は、社会の関心の高まりや通報経路の整備によって「念のための相談」を含めて幅広く声が上がるようになった結果と考えられ、虐待そのものが等比級数的に悪化していると単純に読むべきではありません。むしろ、潜在化していた家庭内のSOSが表面に出てきている過程と捉え、その入り口をさらに広げて深刻化を防ぐことが政策の焦点になっています。
虐待による死亡事例は26件・26人
養護者(介護をしている親族を含む)による虐待で、被害者が65歳以上かつ死亡に至った事例は、令和6年度中に26件・26人が把握されました。内訳は「養護者のネグレクトによる致死」が8件、「養護者による殺人」が7件などです。件数の多寡だけでなく、最悪の場合は生命に関わる結果を招くという事実は、この問題が「家庭内のこと」では済まされないことを示しています。
虐待の種別・続柄・被害者像:身体的虐待が6割、加害者は息子が最多
虐待の種別は身体的虐待が64.1%で最多
養護者による虐待を受けた高齢者の総数は17,472人でした(虐待の種別は複数回答)。種別ごとの割合は次のとおりです。
| 虐待の種別 | 割合 | 人数 |
|---|---|---|
| 身体的虐待 | 64.1% | 11,203人 |
| 心理的虐待 | 37.2% | 6,496人 |
| 介護等放棄(ネグレクト) | 19.7% | 3,441人 |
| 経済的虐待 | 16.4% | 2,857人 |
| 性的虐待 | 0.4% | — |
身体的虐待が6割を超えて突出している点は、施設従事者による虐待(身体的虐待51.1%)と比べても高い割合です。介護のもつれや感情のコントロールが効かなくなった場面が、直接的な暴力につながりやすいことがうかがえます。なお虐待の深刻度では「1(軽度)」が40.2%、「2(中度)」が37.0%で、軽度・中度の段階での把握が約8割を占めました。早期に気づけば防げる段階のものが多いということでもあります。
虐待者は息子が38.9%で最も多い
被害を受けた高齢者から見た虐待者(加害者)の続柄は、次の順でした。
| 続柄 | 割合 |
|---|---|
| 息子 | 38.9% |
| 夫 | 23.0% |
| 娘 | 19.3% |
| 妻 | 7.1% |
| 孫 | 2.6% |
息子が約4割で最も多いのが、この調査が長年示してきた特徴です。虐待者の年齢は「50~59歳」が27.3%と最も多く、働き盛り・あるいは仕事と介護の両立に悩む世代が中心であることが読み取れます。一方で夫・妻を合わせた配偶者間も3割を占め、いわゆる「老老介護」の現場で起きる虐待も無視できません。
加害者の年齢は50代が中心、息子・配偶者に偏る
虐待者の年齢を見ると「50~59歳」が27.3%で最も多く、次いで60代が16.9%、70代が15.7%、80代が14.8%と続きます。働き盛りの息子世代と、自らも高齢である配偶者世代の二つの山があるのが特徴です。前者は仕事と介護の板挟みで時間と心の余裕を失いやすく、後者は自身の体力・認知機能の低下を抱えながら介護を担う「老老介護」「認認介護」のリスクと重なります。続柄で息子が約4割を占める背景には、就労や経済的な事情で親元に同居しながら介護を一手に引き受け、相談相手も介護の経験もないまま孤立していく構図があると指摘されています。
被害者の76%が女性、74%が認知症
被害を受けた高齢者17,472人のうち、76.0%が女性で、年齢では80代が中心でした。要介護認定を受けている人が73.5%を占め、そのうち認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上(日常生活に支障をきたす症状がある状態)の人が74.3%にのぼります。つまり、被害者の多くは「認知症があり介護を必要とする高齢の女性」で、介護負担が大きい関係性ほど虐待のリスクが高まりやすい構図が見えてきます。
なぜ家庭で虐待が起きるのか:介護疲れ・孤立・密室化という背景
「介護疲れ」が要因の上位を占める
養護者による虐待の発生要因(複数回答)として、調査では次の項目が上位に挙がりました。被害者側の状態として「認知症の症状」が58.1%で最も多く、加害者側の要因としては「介護疲れ・介護ストレス」が57.2%、「理解力の不足や低下」が49.6%、「知識や情報の不足」が49.1%と続きます。「介護力の低下や不足」も47.9%にのぼりました。
ここから見えてくるのは、虐待が「特別に冷たい人」によって起きているのではなく、認知症の進行に対応しきれず、休めず、相談相手も情報もないまま追い詰められた末に起きているという現実です。要因の多くは、本人の性格ではなく「介護を取り巻く環境」に属するものです。だからこそ、環境を変えれば防げる余地が大きいといえます。
在宅介護の「密室化」が虐待を見えにくくする
家庭での介護は、施設と違って第三者の目が入りません。デイサービスや訪問介護を利用していない、あるいは介護者が「他人に迷惑をかけたくない」と支援を断ってしまうと、介護は文字どおり密室の中で進みます。前述のとおり、虐待の通報ルートで「家族・親族」はわずか7.1%にとどまり、警察やケアマネジャーといった外部の関与で初めて発覚するケースが大半です。これは裏を返せば、サービスにつながっていない家庭ほど発見が遅れ、深刻化しやすいことを意味します。
とりわけ、介護のために仕事を辞めて在宅に専念した介護者や、配偶者と二人暮らしの老老介護世帯は、社会との接点が細りやすい層です。「まじめに一人で背負う」ことが、結果として孤立と限界を招く——この逆説こそ、家庭内虐待の核心にある構造だと筆者は考えます。
抱え込まないための相談先とレスパイトの活用
虐待を防ぐうえで最も現実的な一次予防は、介護者が「限界に達する前に外部とつながる」ことです。具体的な行動として、次の3つを挙げておきます。
1. 地域包括支援センターに相談する。市区町村ごとに設置された高齢者支援の総合窓口で、介護保険の申請からケアマネジャーの紹介、家族の悩みの相談まで無料で対応します。「虐待しそうで怖い」という相談も立派な相談理由です。実際、調査でも分離に至らなかった事例の59.6%で「養護者への助言・指導」が行われており、行政は加害者を罰するのではなく家族全体を支える方向で動いています。
2. レスパイトサービスで介護者が休む。ショートステイ(短期入所)やデイサービスは、高齢者本人のためだけでなく、介護者が眠り・休み・自分の時間を取り戻すための仕組みでもあります。「介護疲れ」が要因の過半を占める以上、定期的に介護から離れる時間を制度として確保することは、虐待予防そのものです。利用をためらう必要はありません。
3. 介護サービスにつながり、第三者の目を入れる。デイサービスや訪問介護・訪問看護を定期的に利用することは、本人のケアの質を高めるだけでなく、専門職という「外の目」を家庭に入れることでもあります。前述のとおり、家庭内虐待は密室化したときに深刻化しやすく、発覚も遅れがちです。サービスを利用していれば、介護者の疲弊や本人の異変に第三者が早く気づき、ケアプランの見直しや支援の追加につなげられます。「自分たちだけで頑張る」状態から一歩外に開くことが、結果的に虐待の予防になります。
4. 介護の限界サインを家族で共有する。夜眠れない、感情が抑えられない、本人につらく当たってしまった——こうしたサインは恥ではなく、支援を増やすべき合図です。ケアプランの見直しや施設入居の検討を含め、早めに選択肢を広げておくことが、最悪の事態を避けることにつながります。
家族・地域・専門職ができる防止策と、支える制度のかたち
地域・専門職が担う「早期発見」の役割
家庭内虐待の発見が外部に依存している以上、地域と専門職の関わりが防止の生命線になります。調査でも、市町村の体制整備の取り組み状況と、人口あたりの相談・通報・虐待判断件数には一定の相関があることが確認されています。見守りネットワークや窓口の周知が進んでいる自治体ほど、虐待を早く把握できているということです。実際、令和6年度には1,530の市町村が「養護者による高齢者虐待の対応窓口を住民に周知している」と回答しており、入り口を広げる取り組みが全国で進んでいます。
ケアマネジャー・訪問介護員・訪問看護師など、定期的に家庭に入る専門職は、最前線の「気づきの目」です。高齢者の体の不自然なあざ、急なサービス利用の中断、介護者の表情の硬さや疲弊——こうした小さな変化に気づき、地域包括支援センターにつなぐことが、深刻化の前にブレーキをかけます。事実、市町村は相談・通報を受けてから事実確認の開始までを中央値0日(即日)、虐待判断までを中央値4日というスピードで動いており、早く知らせるほど早く支援が届く仕組みになっています。民生委員や近隣住民による日常の見守りも、孤立した世帯を社会に接続する重要な役割を果たします。
気づいたら「通報」ではなく「相談」でよい
「通報」という言葉に身構えて、家族や近隣の異変に気づいても声を上げられない人は少なくありません。しかし高齢者虐待防止法では、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人に市町村への通報を求めており、確証がなくても「疑い」の段階で連絡してよいとされています。通報者の情報は守られ、結果として虐待でなかったとしても責任を問われることはありません。家族自身が「このままでは手を上げてしまう」と感じたときの相談も、立派な早期支援のきっかけです。心配を抱えたまま様子を見るより、まず地域包括支援センターに一本電話を入れることが、高齢者と介護者の双方を守ります。
制度は「家族を罰する」から「家族を支える」へ
高齢者虐待防止法は、虐待を発見した人に市町村への通報を求める一方で、その目的を「高齢者の保護」と「養護者の支援」の両輪に置いています。これは、虐待を起こした家族を一方的に処罰するのではなく、介護を続けられるよう家族全体を支えることで再発を防ぐという発想です。令和6年度の対応状況を見ても、被害者と養護者を分離した事例は19.0%にとどまり、分離しなかった事例では「養護者への助言・指導」が59.6%、「ケアプランの見直し」が27.6%で行われていました。判断・支援が必要な認知機能の課題には、成年後見制度の活用(令和6年度内に利用開始済または手続き中が約1,500人)も組み合わされています。厚生労働省も令和7年3月に対応マニュアルを改訂し、警察との連携や養護者支援の進め方を強化しました。
介護の担い手不足が深刻化し、在宅介護に頼る場面はこれからも増えていきます。だからこそ、介護者を孤立させない地域づくりと、ためらわずに使えるレスパイトの整備は、高齢者虐待の予防策であると同時に、介護を続ける家族を守る政策でもあります。「家庭の問題」を社会全体で支える仕組みに変えていけるかどうかが、今後の件数の行方を左右するでしょう。
参考資料
- [1]令和6年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果- 厚生労働省
2025年12月25日公表・2026年2月20日一部訂正。養護者・養介護施設従事者等による高齢者虐待の最新統計の公表ページ
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
- [6]
まとめ
令和6年度の厚生労働省調査では、家族など養護者による高齢者虐待の相談・通報が41,814件と12年連続で過去最多を更新しました。虐待判断件数(17,133件)は横ばいで、相談・通報の入り口が広がっている一方、その大半は警察やケアマネジャーといった外部の関与で発覚しています。続柄は息子が38.9%、発生要因では「介護疲れ・介護ストレス」が57.2%を占め、被害者の約7割が認知症のある要介護高齢者でした。家庭内の介護が孤立し密室化したとき、まじめな家族ほど追い詰められやすいという構造が、数字の背後にあります。
だからこそ、虐待を防ぐ最初の一歩は「抱え込む前に相談する」ことです。介護に行き詰まりを感じたら、まずはお住まいの市区町村の地域包括支援センターに連絡してください。担当のケアマネジャーがいる場合はその人に、まだ介護保険を申請していない場合は市区町村の高齢者福祉担当課でも構いません。相談すれば、介護保険サービスやショートステイ(レスパイト)の利用、ケアプランの見直し、必要に応じた成年後見制度の活用など、家族を支える選択肢を一緒に考えてくれます。費用はかからず、「虐待してしまいそうで怖い」という相談も歓迎されます。確証がなくても、家族や近隣の異変に気づいた段階で連絡してよく、通報者の情報は守られます。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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