ペットを飼うと高齢者は健康になるか|ペット飼育と孤独・認知機能・身体活動の研究エビデンスを介護職目線で読み解く
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ペットを飼うと高齢者は健康になるか|ペット飼育と孤独・認知機能・身体活動の研究エビデンスを介護職目線で読み解く

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この記事のポイント

「犬や猫を飼っている高齢者は、元気で長生きする」。テレビや雑誌でよく見かける話です。でも、研究で確かめられた結論をひとことで言うと、「効果がはっきり出る場面と、出ない場面がある。ペットを飼えば誰でも健康になる、とは言えない」です。

はっきりした手応えがあるのは、おもに3つです。1つ目は身体活動。犬を飼って散歩する人は、運動量の目安(週150分)に届く割合がはっきり高くなります。2つ目は一人暮らしの高齢者。大勢を8年間追いかけたイギリスの調査では、ペットを飼っている人のうち「一人暮らしの人だけ」、ことばに関する記憶力の衰えがゆるやかでした。同居家族がいる人では差が出ませんでした。3つ目は認知症。日本の1万人規模の調査で、犬を飼う高齢者は4年間で介護が必要になる認知症になりにくい傾向(とくに散歩の習慣がある人)が見られました。ただし猫ではこの差は出ていません。

いっぽうで、気分の落ち込み(抑うつ)については、14万人分のデータを束ねた研究で「ペットを飼っている人とそうでない人に差はなかった」という結果が出ています。研究によって結果がバラバラで、「ペットで気分が良くなる」とは言い切れません。さらに大事なのは、これらの多くが「ある時点でペットを飼っている人と飼っていない人を比べただけ」の調査だということ。元気だからペットを飼える(=世話ができる)という逆向きの関係も十分にあり得ます。この記事では、介護職が現場で「ペットを飼う利用者をどう支えるか」を考えるために、効果の確からしさと限界を一次情報からていねいに読み解きます。

目次

担当している在宅の利用者が、犬や猫と暮らしている。デイサービスの送迎で訪ねると、玄関でしっぽを振って出迎えてくれる。そんな場面は、介護の現場で珍しくありません。家族から「うちの母は犬がいるから元気でいられている」と言われることもあれば、逆に「ペットの世話が負担で、母自身の生活が回っていない」と相談されることもあります。

「ペットは高齢者の健康にいい」という話は、世の中に広く出回っています。けれど、それは本当にデータで裏づけられているのでしょうか。もし本当なら、どのくらいの効果なのか。誰にでも当てはまるのか。介護職として利用者やご家族に向き合うとき、雰囲気や思い込みではなく、研究でわかっていることと、まだわかっていないことを区別しておきたいところです。

この記事では、高齢者がペットを飼うこと(=実際に自宅で犬や猫と暮らすこと)と、孤独感・気分の落ち込み・運動量・もの忘れ・認知症・寿命との関係を調べた研究を、できるだけ大もとの論文や研究機関の発表にあたって整理します。あわせて、研究が「飼育の効果」とは言い切れない理由(元気な人ほどペットを飼える、という逆向きの関係)や、世話の負担・ペットとの別れ(ペットロス)・飼えなくなる問題といった負の側面にも正面から触れます。読み終えるころには、「ペットを飼う利用者をどう支えるか」を考える土台ができているはずです。

なお、この記事が扱うのは「利用者が自分のペットと暮らすこと」です。施設に訓練された動物を連れてくる動物介在活動・アニマルセラピー(その効果や安全管理は別の記事で扱っています)とは分けて読んでください。同じ「動物と高齢者」でも、研究の対象も、現場での意味合いも違います。

そもそも何が調べられてきたのか|『飼育』と『セラピー』は別ものという出発点

「動物と高齢者の健康」を調べた研究は、大きく2つの流れに分かれます。1つは、施設や病院に訓練された犬・猫・ロボットなどを連れてきて、決まった時間に触れ合ってもらう動物介在活動・動物介在療法(アニマルセラピー)。もう1つが、この記事のテーマであるペット飼育、つまり高齢者が自分の家で日常的に動物と暮らすことです。報道ではこの2つがしばしば混ざって語られますが、研究の世界では別々に検討されてきました。実際、複数の系統的レビュー(たくさんの研究を集めて整理した報告)は、効果の証拠が比較的しっかりしているのはむしろアニマルセラピーのほうで、飼育そのものの効果を調べた研究はまだ数が限られ、結果もばらつくと述べています。

ではなぜ、ペット飼育が高齢者の健康に関わると考えられてきたのでしょうか。研究者がよく挙げるのは次のような道すじです。第一に身体活動。とくに犬は散歩が必要なので、飼い主は外に出て歩く機会が増えます。第二に社会的なつながり。散歩中に近所の人と立ち話をしたり、動物の話題で会話が生まれたりして、孤立しにくくなる可能性があります。第三にこころの支え。世話をする役割や、なでたり一緒にいたりすることが、不安や落ち込みをやわらげるかもしれない、という考え方です。これらが積み重なって、気分・もの忘れ・体の健康によい影響を与えるのではないか、という仮説のもとに研究が進められてきました。

ただし「考えられる道すじがある」ことと、「実際に効果が確かめられた」ことは別です。次の章からは、孤独・抑うつ・身体活動・認知機能・死亡という5つのアウトカム(調べた健康の結果)ごとに、大もとの研究が実際にどんな数字を出したのかを見ていきます。先に申し上げておくと、5つすべてで「ペットは効く」とそろってはいません。むしろ「ここは手応えがあるが、ここははっきりしない」という濃淡があり、その濃淡こそが現場で役に立つ情報です。

主要な研究と報告された数値|アウトカムごとに見る『効く・効かない』

ここからは、大もとの論文・研究機関の発表で確認できた数値を、専門用語をできるだけ日常のことばに置きかえて紹介します。表のなかの「オッズ比」「ハザード比」といった比の数字は、たとえば0.60なら「リスクが約4割低い」、1.04なら「ほぼ差がない」という読み方になります。

研究・発表年対象・デザイン調べたこと主な結果(日常語の訳)
Li ら 2023
(JAMA Network Open)
イギリス・50歳以上 7,945名/平均66.3歳
大勢を約8年追いかけた調査(縦断研究)
ペット飼育と、ことばの記憶力・流ちょうさの衰え全体ではペット飼育者の衰えがわずかに緩やか。さらに分けて見ると、「一人暮らしの人」だけ効果がはっきり(ことばの記憶の低下が緩やか、年あたりの差 β=0.021)。同居家族がいる人では差なし
Taniguchi ら 2023
(Preventive Medicine Reports)
日本・東京都/65〜84歳 11,194名
約4年追いかけた調査
犬・猫の飼育と、介護が必要になる認知症の発症犬を飼う人は発症リスクが約4割低い(オッズ比0.60、95%信頼区間0.37〜0.98)。散歩など運動習慣があるとさらに低い(0.37)。猫では差なし(0.98)
Moshfeghinia ら 2025
(Annals of General Psychiatry)
=まとめ研究(メタ解析)
20研究・のべ142,251名を統合ペット飼育と、気分の落ち込み(抑うつ)ペット飼育者と非飼育者で差なし(オッズ比1.04、95%信頼区間0.995〜1.07)。犬だけで見ても差なし(0.93)。研究ごとのばらつきが非常に大きい(I²=約48〜95%)
Christian ら 2013
(Journal of Physical Activity and Health)
=まとめ研究(メタ解析)
9研究・犬の飼い主 6,980名(18〜81歳)犬の散歩と、推奨される運動量(週150分相当)の達成犬を散歩させる人は、させない人より運動量の目安に届く割合が約2.7倍(オッズ比2.74)。犬の飼い主の約3人に2人が実際に散歩していた
Westgarth ら 2019
(BMC Public Health)
イギリス・地域住民の犬の飼い主/非飼い主犬の飼育と、週150分の運動達成犬を飼う人は運動の目安に届く割合が高い(達成率87.3% 対 62.7%)
Pikhartova ら 2014
(Aging & Mental Health)
アメリカ・60歳以上のかかりつけ受診者ペット飼育と、孤独感ペット飼育者は孤独を感じにくい傾向(オッズ比0.64=約36%低い)。とくに一人暮らしでペットなしの人が最も孤独を感じやすかった
Parslow ら 2005
(Gerontology)
オーストラリア・60〜64歳 2,551名ペット飼育と、心身の健康ペット飼育者のほうが心身の健康がむしろ悪く、痛み止めの使用も多かった。「飼えば健康」と単純に言えない反証例
Moshfeghinia ほか 2025 が引用
(JMIR Form Res 2026 など個別研究)
ブラジル・地域在住高齢者 215名(横断研究)ペット飼育と、抑うつ・不安・認知抑うつはペット飼育者がやや低い(差は小さい)。不安・幸福感・認知機能・認知の蓄え(認知予備能)は差なし

表を縦に眺めると、傾向が見えてきます。身体活動(犬の散歩)は、複数の研究で一貫して「飼い主のほうが運動量の目安に届きやすい」と出ており、ここがいちばん手応えのある領域です。認知機能・認知症は、日本・イギリスの大規模研究で前向きな結果が出ていますが、効果がはっきりするのは「一人暮らしの人」「犬・散歩あり」といった条件つきで、猫や同居者ありでは差が消えます。いっぽう抑うつ(気分の落ち込み)は、14万人分を束ねたまとめ研究で「差なし」。研究ごとの結果のばらつきが極端に大きく、「ペットで気分が良くなる」とはまとめられないのが現状です。孤独は「やわらぐ」という報告がありますが、これも一人暮らしかどうかで効き方が変わります。そして死亡リスクについては、犬の飼育と心臓病・死亡の低下を示す研究もある一方、効果を否定する研究もあり、結論は割れています(本記事の数値は確認できた範囲に限定し、断定は避けます)。

数値の正しい読み方|『ペットで健康になる』と早合点しないための5つの注意点

表の数字は前向きなものも目立ちますが、そのまま「だからペットを飼えば健康になる」と読むのは危険です。研究を正確に受け取るために、押さえておきたい点を5つにまとめます。

  1. ほとんどが「観察しただけ」の研究で、原因と結果を決められない。 表の研究の多くは、ある時点でペットを飼っている人と飼っていない人を比べたり、その後を追いかけたりしたものです。くじ引きで「飼う人・飼わない人」に分けて比べた試験(ランダム化比較試験=効果を最も確かめやすい方法)はほとんどありません。観察だけでは「ペットのおかげで健康」なのか「もともと健康な人がペットを飼える」のかを区別できません。Li らも Taniguchi らも、論文のなかで「因果関係は証明できない」とはっきり断っています。
  2. 逆向きの関係(逆因果)を疑う必要がある。 体が元気で、認知機能も保たれている人ほど、犬の散歩や世話をこなせます。つまり「健康だからペットを飼えている」可能性です。実際、オーストラリアの2,551名の研究(Parslow ら)では、ペット飼育者のほうが心身の健康がむしろ悪いという、真逆の結果も出ています。前向きな研究結果だけを並べると、この反証が見えなくなります。
  3. 「リスクが4割低い」は相対的な差。元の数が小さければ、実際の差はわずか。 「犬の飼い主は認知症リスクが約4割低い(オッズ比0.60)」という数字は、あくまで2つのグループを比べたときの相対的な差です。実際に何人ぶん減るのかは、もともとの発症率によります。割合の数字だけが独り歩きすると、効果を過大に感じてしまいます。
  4. 結果は一貫していない。とくに「気分」では差が出ていない。 14万人分を束ねたまとめ研究で、ペット飼育と抑うつに統計的な差はありませんでした(オッズ比1.04)。しかも研究ごとの結果のばらつき(専門的には異質性=I²)が非常に大きく、「ある研究では効く、別の研究では効かない」が混在しています。これは「全体としては、はっきりした効果は確認できない」ことを意味します。
  5. 効くとしても「犬・散歩・一人暮らし」など条件つきのことが多い。 日本の研究で認知症リスクが下がったのは犬であって猫ではなく、しかも運動習慣のある人で効果が強まりました。イギリスの研究で記憶の衰えが緩やかだったのは一人暮らしの人だけ。つまり、効いているのは「ペットそのもの」より、ペットがもたらす散歩(運動)や、ひとりではない感覚(孤立の緩和)かもしれない、と研究者は考えています。だとすれば、ペットがなくても運動や社会参加で同じ効果が得られる可能性もあります。

まとめると、研究が示しているのは「ペットが、運動や人とのつながりを引き出すきっかけになりうる」ということまでです。「ペットを飼えば健康になる」という保証ではありません。この区別が、利用者やご家族に説明するときの土台になります。

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研究の知見を介護現場でどう活かすか|アセスメント・在宅支援・科学的介護(LIFE)

ここまでの研究をふまえると、介護職が現場でできることが見えてきます。ポイントは「ペットを勧める/勧めない」という単純な話ではなく、ペットがもたらす運動・つながり・役割を、その人の生活全体のなかで支えることです。

1. アセスメントで「ペットの存在」を生活情報として拾う

在宅の利用者がペットを飼っているなら、それは無視できない生活情報です。研究が示すように、犬の散歩は運動量を確保する数少ない習慣になりえます。アセスメントのとき、「散歩は誰がしているか」「散歩が利用者の外出・人との接点になっているか」を確認しておくと、その人の身体活動や社会参加の実態がつかめます。逆に、世話が負担になって生活が圧迫されていないかも、同じ場面で見極められます。

2. 一人暮らしの利用者では、ペットを「孤立対策の手がかり」として捉える

研究で効果がはっきりしたのは、多くが「一人暮らしの高齢者」でした。これは裏を返せば、一人暮らしで、ペットもいない利用者がもっとも孤立リスクが高い層だということです(孤独の研究でも同じ傾向)。ペットの有無を、孤立アセスメントのひとつの目安にできます。ペットがいる人にはその関わりを支え、いない人には通いの場や訪問など、別のつながりを意識的に補う。研究は「ペットを飼わせよう」ではなく「孤立をどう減らすか」という問いに翻訳して使うのが現場的です。

3. 科学的介護(LIFE)やケアプランの文脈に置く

厚生労働省が進める科学的介護情報システム(LIFE)は、ケアの内容と利用者の状態をデータで結びつけ、効果を見ながらケアを改善していく仕組みです。ペット飼育そのものはLIFEの評価項目ではありませんが、ペットを通じた身体活動・外出・社会参加は、機能訓練や自立支援の観点で記録・評価できる要素です。「犬の散歩を続けられるよう、転倒予防のリハビリと住環境整備を組む」といった形で、研究の知見をケアプランの具体策に落とせます。ここでも軸になるのは、ペットではなく「ペットが生み出す活動」です。

4. 多職種で「飼い続けられるか」を一緒に考える

ペットは支えになる一方、入院や施設入居で「飼えなくなる」問題を抱えます。利用者の心身が弱ってきたとき、ペットの世話を誰が担うのか、もしものときの預け先はあるのか。これはケアマネジャー・家族・地域の支援者を巻き込んで、早めに話し合っておきたいテーマです。介護職はいちばん近くで利用者とペットの関係を見ているからこそ、変化の兆しに気づき、多職種連携のきっかけをつくれます。

研究が現場に教えてくれるのは、「ペットそのものが薬になる」ではなく、「ペットを入り口に、運動・つながり・役割・尊厳をどう支えるか」という視点です。エビデンスを正しく読めば、利用者一人ひとりに合わせた、過大評価でも軽視でもない支援ができます。

負の側面を直視する|世話の負担・ペットロス・飼えなくなる問題

「ペットは高齢者にいい」という話には光の面ばかりが語られがちですが、現場で本当に大切なのは影の面に目を向けることです。研究も、ペット飼育が常にプラスとは限らないことを示しています(オーストラリアの研究では飼育者のほうが心身の健康が悪かった)。介護職が見落としてはいけない負の側面を整理します。

世話の負担が、利用者自身の生活を圧迫することがある

えさやり・散歩・トイレの世話・通院は、体力や認知機能が落ちてくるほど重くのしかかります。ペットの世話を優先するあまり、自分の食事や受診、服薬がおろそかになる利用者もいます。「ペットがいるから元気」という外からの印象の裏で、生活が回らなくなっているケースは珍しくありません。世話の様子は、利用者の心身の状態を映す鏡にもなります。

ペットとの別れ(ペットロス)は深い喪失体験になりうる

長く一緒に暮らしたペットを失うことは、家族を亡くすのに近い悲しみをもたらすことがあります。とくに一人暮らしで、ペットが日々の張り合いだった人ほど、その喪失は大きくなります。元気がなくなる、食欲が落ちる、外出しなくなる、といった変化の背景にペットロスがあることも。安易に「新しい子を飼えば」と促すのではなく、悲しみに寄り添う姿勢が求められます。

入院・施設入居で「飼えなくなる」現実

利用者の状態が変わり、入院や施設入居が必要になったとき、ペットの行き先が大きな壁になります。「ペットを置いていけないから入院しない」と、必要な医療やケアを拒む人もいます。多くの施設はペットの同伴を認めておらず、引き取り手も簡単には見つかりません。この問題は、利用者本人の健康と、ペットの世話という相反する事情のあいだで、家族や支援者が苦しむ場面を生みます。早い段階から、もしものときの預け先や引き取り先を一緒に考えておくことが、利用者にとってもペットにとっても救いになります。

これらの負の側面を知っておくことは、ペットを否定することではありません。むしろ、利用者とペットの関係を長く穏やかに支えるために必要な視点です。プラスの可能性とリスクの両方を見たうえで、その人に合った支援を組み立てる。それが、研究を現場で誠実に活かすということです。

現場ですぐ使える、ペットを飼う利用者を支える観察のヒント

  • 散歩を「運動・社会参加」の指標として見る。 犬の散歩を自分でできているか、距離や頻度が減っていないかは、身体機能や意欲の変化のサインになります。
  • ペットの世話の様子から、利用者の状態を読む。 えさやりや掃除が滞っている、ペットがやせている・汚れているといった変化は、利用者自身の認知・身体機能の低下を映していることがあります。
  • 「ペットがいるから元気」を額面どおり受け取らない。 世話の負担で生活が圧迫されていないか、食事・服薬・受診が回っているかを別途確認します。
  • 一人暮らしでペットもいない人ほど、孤立に注意。 研究でも最も孤独を感じやすい層。通いの場や訪問など、別のつながりを意識的に補います。
  • 「もしものとき」のペットの預け先を早めに話題にする。 入院・入居で飼えなくなる事態に備え、家族・ケアマネと事前に相談しておくと、いざというとき利用者がケアを拒まずにすみます。
  • ペットロスの可能性を頭に置く。 ペットを亡くした後の食欲低下・閉じこもり・気分の落ち込みは、安易に励まさず、悲しみに寄り添う姿勢で見守ります。
  • 「ペットを飼えば健康に」と断定して勧めない。 研究は条件つきの可能性を示すにとどまります。飼うかどうかは、世話ができる体制があるかを含めて慎重に。

よくある質問(FAQ)

ペットを飼えば高齢者は本当に健康になりますか?

「誰でも健康になる」とは研究からは言えません。犬の散歩による運動量の増加など、手応えのある領域はありますが、気分の落ち込み(抑うつ)については14万人分を束ねたまとめ研究で差がありませんでした。効果が出る場面は「犬・散歩あり・一人暮らし」など条件つきのことが多く、しかも多くが観察研究のため、「健康だからペットを飼える」という逆向きの関係も否定できません。

犬と猫で違いはありますか?

研究上は違いが見られています。日本の1万人規模の研究で、介護が必要になる認知症のリスクが下がったのは犬であって、猫では差がありませんでした。研究者は、犬は散歩という運動や外での人との接点を生むためではないかと考えています。ただしこれは「猫に意味がない」という意味ではなく、効果の出かたが違うということです。

一人暮らしの利用者にはペットを勧めたほうがよいですか?

研究で効果がはっきりしたのは一人暮らしの層でしたが、それは「勧めるべき」を意味しません。世話ができる体力・認知機能があるか、入院時の預け先があるかなど、飼い続けられる体制が前提です。介護職としては、ペットを勧めるより、孤立を減らす一つの手がかりとして捉え、ペットがいない人には別のつながりを補う発想が現実的です。

施設では動物を飼ったほうがよいのでしょうか?

この記事が扱ったのは「利用者が自分の家でペットと暮らすこと」の研究で、施設に動物を導入する話とは別です。施設での取り組みは、訓練された動物を計画的に触れ合わせる動物介在活動(アニマルセラピー)として、衛生・安全管理を含めて別途検討する必要があります。飼育の研究結果をそのまま施設運営に当てはめることはできません。

ペットを亡くした利用者にはどう接すればよいですか?

ペットロスは家族を失うのに近い喪失になりえます。「新しい子を飼えば」と促すより、まずは悲しみを否定せず受けとめることが大切です。食欲低下・閉じこもり・気分の落ち込みが続く場合は、うつや体調不良のサインの可能性もあるため、多職種で見守り、必要に応じて医療につなげます。

参考文献・一次情報

まとめ|『ペットで健康』を過大にも過小にもせず、利用者の暮らしを支える

ペットを飼うことと高齢者の健康の関係は、「飼えば健康になる」という単純な物語ではありませんでした。研究を一次情報から読み解くと、濃淡がはっきり見えてきます。手応えがあるのは犬の散歩による身体活動の増加、そして一人暮らしの高齢者での認知機能・認知症リスクへの前向きな結果。いっぽうで気分の落ち込み(抑うつ)は14万人分のまとめ研究でも差が出ず、効果は一貫していません。多くが観察研究であり、「健康だからペットを飼える」という逆向きの関係も常につきまといます。

だからこそ、介護職にとって大切なのは「ペットを勧めるかどうか」ではありません。ペットがもたらす運動・つながり・役割をその人の生活のなかで支えること、そして世話の負担・ペットロス・飼えなくなる問題という影の面に早く気づくことです。一人暮らしでペットもいない人ほど孤立しやすいという知見は、ペットの有無を孤立アセスメントの手がかりに変えてくれます。研究は「動物が薬になる」ではなく、「その人の暮らしをどう支えるか」という問いに翻訳して使うものです。

エビデンスを正しく読む力は、利用者やご家族の素朴な期待にも、過剰な不安にも、根拠をもって応えられる介護職の専門性そのものです。最新の研究を現場の判断に橋渡しできること。それは、これからの介護のキャリアにおいて、確かな強みになっていきます。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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