老健入所者の院外処方例外、JAK阻害薬など追加|6月1日から拡大の中身と現場対応
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老健入所者の院外処方例外、JAK阻害薬など追加|6月1日から拡大の中身と現場対応

厚労省は介護老人保健施設入所者の院外処方の例外薬剤を6月1日から拡大。JAK阻害薬や生物学的製剤が追加。包括払い制度下で高額薬剤利用者の入所障壁を緩和する仕組みを解説。

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厚生労働省は2026年3月27日付の介護保険最新情報Vol.1486で、介護老人保健施設(老健)入所者の院外処方が認められる例外薬剤の範囲を拡大することを通知しました。6月1日から、関節リウマチやアトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎などに用いるJAK阻害薬や生物学的製剤が新たに例外薬剤に加わります。老健は薬剤費が施設に包括される制度のため、高額薬剤を必要とする利用者の入所が事実上難しくなっていた課題の是正措置として位置づけられています。現場の看護師・薬剤師・施設管理者は、6月以降の運用変更に備えた医療連携の見直しが必要です。

目次

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介護老人保健施設(老健)は、在宅復帰を目指す中間施設として医学的管理下のリハビリ・看護・介護を提供する場ですが、薬剤費は施設に包括される制度設計のため、高額薬剤を必要とする利用者の入所が制度上難しくなる課題が長年指摘されてきました。施設は介護報酬という固定収入の中で薬剤費を賄う必要があり、月薬剤費が施設収入を圧迫する場合は経営上の判断が求められる構造になっています。

特に、関節リウマチや乾癬、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などの自己免疫疾患の治療に使われるJAK阻害薬(バリシチニブ、トファシチニブ等)や生物学的製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ等)は、月薬剤費が10万円以上となることも珍しくなく、これらを処方されている方は「老健に入れない」状況が現実問題として発生していました。家族の介護負担軽減や在宅復帰準備のために老健入所を望む利用者・家族にとって、深刻な制度のひずみとなっていました。

厚生労働省は2026年3月27日付で介護保険最新情報Vol.1486を発出し、6月1日からこれらの高額薬剤を院外処方の例外薬剤に加える方針を示しました。これにより、薬剤費は医療保険から支給される形となり、老健の包括払いに含まれないため、入所が可能になります。本記事では、改正の中身・対象薬剤・現場運用への影響・先行する制度的議論・2027年度改定への展望を整理します。

改正の中身:例外薬剤に何が追加されるか

2026年6月1日から、老健入所者の院外処方が認められる例外薬剤の範囲に次のカテゴリが追加されます。

1. JAK阻害薬

関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患・炎症性疾患に用いられる経口薬。バリシチニブ(オルミエント)、トファシチニブ(ゼルヤンツ)、ウパダシチニブ(リンヴォック)など複数の有効成分が該当します。月薬剤費は5〜15万円程度。

2. 生物学的製剤

抗体医薬品で、関節リウマチや乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、強直性脊椎炎などに用いられます。インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ)、エタネルセプト(エンブレル)など。月薬剤費は10〜50万円規模で、長期投与が必要なケースが多いです。

従来の例外薬剤

これまでも、新型コロナウイルス感染症の治療薬や、末期悪性腫瘍患者の鎮痛薬の一部などは例外として院外処方が認められていました。今回はその範囲が大幅に拡大される形です。

適用施設

介護老人保健施設、介護医療院、地域密着型介護老人福祉施設、短期入所療養介護(老健での実施分)が対象。短期入所生活介護(特養ショートステイ)は対象外です。

老健の包括払い制度と高額薬剤の課題(背景)

今回の改正の背景を理解するため、老健の包括払い制度を整理しておきます。

老健の薬剤費は基本的に施設負担

老健は介護報酬の中に薬剤費が含まれる「包括払い」が原則です。つまり、入所者の薬剤費が高くても、施設は基本的に介護報酬の中から賄う必要があり、月薬剤費が施設の入所収入を上回ると赤字になる構造です。恵寿総合病院による研究(2021年)では、対象老健での1人あたり平均薬剤費は171円/日(月約5,000円)でしたが、最大855円/日(月約2.5万円)の入所者も存在し、収入を圧迫する要因となっていました。

高額薬剤の利用者は事実上の入所拒否

JAK阻害薬や生物学的製剤を継続使用している方は、月薬剤費だけで老健の入所収入を超える場合が多く、施設側が「薬剤を中止して入所」「他施設を紹介」という対応を取らざるを得ないケースが報告されていました。社会保障審議会介護給付費分科会でも「高額薬剤を理由とした入所困難の改善」が長年の論点として取り上げられていました。

難病・自己免疫疾患は若年〜中年層にも多い

関節リウマチや潰瘍性大腸炎などは65歳以上の高齢者にも一定数存在し、退院後の在宅復帰支援を担う老健の社会的役割を考えると、高額薬剤を理由に入所できない現状は是正の必要性が高い問題でした。

現場運用への影響と必要な準備(独自見解)

今回の例外拡大は老健現場に具体的な業務変化をもたらします。施設管理者・看護師・薬剤師の3つの観点で整理します。

施設管理者:入所判定基準の見直しチャンス

これまで「JAK阻害薬を継続使用しているから入所困難」と判断していた方を、6月以降は受け入れ可能になります。連携医療機関・病院との退院支援連携で、対象薬剤を使用中の方の入所相談が増加することが見込まれます。入所判定会議の評価項目から「高額薬剤の使用」を外し、医療継続性とリハビリ目標を主軸に判定する運用に切り替える絶好の機会です。

看護師:医療継続のための連携プロトコル

院外処方薬の入手・服薬管理は、入所中も継続する形になります。協力医療機関や入所前のかかりつけ医からの処方箋発行をどう連携するか、薬局との配送スケジュール、副作用モニタリングの記録様式など、施設看護師の業務フローを6月までに整備する必要があります。特にJAK阻害薬は感染症リスクが高い薬剤のため、入所中の感染兆候モニタリングを強化する判断が求められます。

施設薬剤師・連携薬局:処方箋管理の二重化

施設内処方(包括払い)と例外薬剤の院外処方(医療保険)が並存することになり、薬剤管理が二重化します。お薬手帳の運用、薬歴管理ソフトの設定、入所者ごとの薬剤費請求の振り分けなど、薬事実務の細かい調整が必要です。施設として薬剤師を雇用していない老健も多いため、協力薬局や訪問薬剤師との連携体制の見直しもポイントになります。

2027年度改定への展望と業界の反応

今回の例外拡大は、老健の入所可能範囲を実質的に広げる施策として、業界団体・医療関係者から歓迎されています。一方、今回の措置だけでは課題解決として不十分という指摘もあります。

業界団体の声

全国老人保健施設協会(全老健)は、高額薬剤による入所障壁の問題を長年指摘してきました。今回の例外拡大を「第一歩」として評価しつつ、抗悪性腫瘍剤の経口薬や難病治療薬など、まだ対応されていない高額薬剤カテゴリの拡大を要望しています。

2027年度改定での議論ポイント

2027年度の介護報酬改定議論では、老健の包括払い制度そのものの見直しが論点に上がる可能性があります。「すべての薬剤を施設包括にする現行制度」を維持するか、「高額薬剤は医療保険で対応する仕組み」を恒常化するか、業界の運営持続性と医療制度の整合性のバランスを取る議論が予想されます。

入所希望者・家族への影響

JAK阻害薬や生物学的製剤を使用中の方の家族にとって、今回の改正は朗報です。「老健に入れない」と諦めていた在宅介護の家族が、リハビリ目的での短期入所や在宅復帰準備のための入所を検討できる選択肢が広がります。家族からの相談を受けるケアマネジャーは、6月以降の老健入所相談を増やす視点を持っておくと、利用者の選択肢を広げる支援につながります。

ケアマネ・家族向け:相談時のチェックポイント

本改正は、ケアマネジャーや家族が老健入所を検討する際の情報整理に大きく影響します。

ケアマネジャー向け:4月以降の情報収集

担当利用者で「老健入所したいが薬が高額で断られた経緯がある」「JAK阻害薬や生物学的製剤を継続使用中」というケースを把握しておきます。6月以降は対象薬剤の使用者でも入所相談が可能になるため、改めて老健への打診を検討する価値があります。地域包括支援センター経由で複数の老健に同時打診できる仕組みも活用しましょう。

家族向け:医療連携の流れを理解

本人がJAK阻害薬等を使用中の場合、老健入所後も「これまでの主治医(処方医)」「協力医療機関の医師」「老健の医師」の3者で医療連携が必要になります。家族としては、入所前に主治医と老健側に「薬剤の継続方針」を確認しておくと安心です。お薬手帳の最新版を必ず老健の入所手続き時に提示しましょう。

主治医・かかりつけ医との連携

院外処方を継続するには、入所前のかかりつけ医からの処方箋発行が継続されることが必要です。施設が遠方になる場合、月1回の通院ができない懸念もあります。訪問診療への切り替えや、地域の連携医療機関への引き継ぎを、入所前に主治医と相談しておくとスムーズです。

参考資料

まとめ

老健の院外処方例外薬剤の拡大は、高額薬剤を理由に在宅復帰支援を受けられなかった患者の選択肢を広げる重要な制度改正です。JAK阻害薬や生物学的製剤を使用中の方の入所相談が6月以降に増加することが予想されるため、施設管理者・看護師・薬剤師・ケアマネジャーは6月の運用開始までに準備を進める必要があります。

制度改正の本質は「老健が在宅復帰の中間施設として機能するために、医療継続性の壁を取り払う」点にあります。施設の入所判定基準を見直し、医療連携のプロトコルを整備し、入所者・家族への情報発信を強化することで、本制度改正の社会的意義を実感できる現場運用を作っていきましょう。

2027年度改定では、さらなる例外薬剤の追加や老健の包括払い制度全体の見直しが議論されると予想されます。抗悪性腫瘍剤の経口薬や難病治療薬など、まだ対応されていない高額薬剤カテゴリの拡大要望も業界団体から上がっています。今回の改正を機に、施設の医療対応力を底上げする取り組みが、長期的には施設の競争力強化と入所者・家族からの信頼獲得につながるでしょう。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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