
ジョブシェアリングとは
ジョブシェアリングは1つのポジションを複数人で分担する欧州発の働き方。介護現場では夜勤分担・ケアマネ業務共有・管理者複数体制等で活用され、潜在介護福祉士の復職や育児介護中の継続勤務に効果がある。
この記事のポイント
ジョブシェアリングは、1つの常勤ポジションを複数人で分担する欧州発祥の働き方。日本の介護現場では、常勤夜勤を2人で分担、ケアマネ業務を午前午後で共有、施設管理者を2名体制などに応用される。時短勤務やパートと異なり『1つの役割を複数で完結する』点が特徴で、潜在介護福祉士の復職や育児・介護中の継続勤務、職員のバーンアウト予防に効果が期待される。
目次
ジョブシェアリングの基本概念
ジョブシェアリングは1970年代に米国・欧州で生まれた働き方で、英国・オランダ・ドイツなどで広く普及している。1つのフルタイムポジションを2人以上が分担する形式で、それぞれが担当時間・担当業務を取り決め、引継ぎを密に行うことで業務継続性を保つ。
個人の労働時間を短縮する『時短勤務』や、業務範囲を限定する『パート勤務』とは異なり、ジョブシェアリングは『1つの役割を複数人で完結させる』点が特徴。同じポジションの責任・権限・業務範囲を分担者で共有するため、引継ぎ品質と相互信頼が成立の鍵となる。日本では2018年頃から働き方改革の文脈で注目され、介護業界でも一部の先進法人が試行を始めている。
時短勤務・パートとの違い
| 項目 | 時短勤務 | パート | ジョブシェアリング |
|---|---|---|---|
| 本質 | 個人の労働時間短縮 | 業務範囲限定の雇用 | 1ポジションを複数人で分担 |
| 責任範囲 | 本人のみ | 本人のみ・限定 | 分担者で共有 |
| 引継ぎ | 不要 | 不要 | 密に必要 |
| 給与 | 労働時間に比例 | 時給ベース | 分担割合で按分 |
| キャリア | 本人のキャリア継続 | 限定的 | 分担者ともに継続 |
介護現場での導入手順
- 対象ポジション選定:常勤夜勤・ケアマネ・施設管理者・認知症ケアリーダーなど、分担可能で引継ぎ密度を取れるポジション
- 分担者ペア・トリオ設定:相性・スキル補完・勤務時間希望のマッチング。可能なら本人同士の意向確認
- 分担ルール明文化:勤務割り(週日数・曜日・時間)、業務範囲、責任の所在、引継ぎ方法(書面・申し送り・チャット)、緊急時連絡網
- 給与・賞与・退職金の按分ルール:分担比率に応じた配分を就業規則に明記
- 3か月試行・振り返り:引継ぎ漏れ・業務継続性・本人満足度・利用者影響を確認、必要なら調整
- 本格運用:定期的な3者面談(分担者2人+上司)でフィードバック継続
導入のメリットと課題
メリット:①潜在介護福祉士・潜在ケアマネの復職機会拡大、②育児・介護中の職員の継続勤務、③職員のバーンアウト予防(負担分散)、④長期休暇取得のしやすさ、⑤ベテランと若手の組み合わせで技能伝承
課題:①引継ぎ密度を確保する負担(書面化・申し送り時間)、②責任の所在の曖昧さ、③利用者・家族側の混乱(担当が変わる感覚)、④介護報酬・指定基準上の常勤換算の扱い、⑤分担者間の相性問題
厚労省『指定基準』上は常勤換算で人員配置が計算されるため、ジョブシェアリングは複数名で常勤1名分を埋める形となる。法人の労務管理・給与計算が複雑化する点も導入前に整理が必要。
よくある質問
Q1. ジョブシェアリングとワークシェアリングの違いは?
A. ワークシェアリングは仕事を社会全体で分け合う雇用政策(失業対策)、ジョブシェアリングは個別ポジションを複数人で分担する働き方。スケールが異なる。
Q2. 介護報酬上の常勤換算はどうなる?
A. 各分担者の労働時間を合算し常勤換算する。2人で50%ずつ分担なら常勤1名分としてカウント可能。
Q3. 利用者・家族から不満は出ない?
A. 担当者交代時の引継ぎ品質が高ければ満足度低下は限定的。事前説明と『1ポジション2名体制』のメリット伝達が大切。
Q4. 介護以外の業界での先進事例は?
A. 英国NHSの看護師ペア勤務、ドイツの教員2名担当制、日本の三井住友海上等の事務職ペアが知られる。
Q5. 国の支援策はある?
A. 厚労省の『多様な働き方推進』施策の一環で、両立支援等助成金などが活用可能。
参考資料
- [1]働き方改革- 厚生労働省
- [2]両立支援等助成金- 厚生労働省
- [3]介護人材確保対策- 厚生労働省
- [4]令和5年度介護労働実態調査- 介護労働安定センター
まとめ
ジョブシェアリングは介護現場の慢性的な人材不足を背景に、潜在介護福祉士の復職・育児介護中の継続勤務・職員のバーンアウト予防の3つを同時実現する可能性を持つ働き方。導入には引継ぎ品質・責任所在・給与按分ルールの明文化が必要だが、欧州での実績を踏まえれば日本介護業界での普及余地は大きい。多様な働き方の選択肢として、各法人が試行する価値がある。
海外でのジョブシェアリング実例
欧州・英連邦諸国でのジョブシェアリング実例。
- 英国NHS(国民保健サービス):看護師・GP(家庭医)の正式制度として20年以上運用。週20時間×2名で1ポジションが標準
- ドイツ:教員・公務員のジョブシェアリング法制化。育児中の女性教員の継続勤務を支える
- オランダ:パートタイム文化の発展形として一般化。1990年代から法的保護
- 北欧諸国:高齢者ケア・育児休業からの復職支援に活用
- 日本(先進事例):三井住友海上の事務職ペア勤務、一部の大手医療法人で看護師ジョブシェアリング試行
海外では制度・給与体系・社会保障の整備が日本より進んでおり、ジョブシェアリングが特別ではなく『選べる働き方の一つ』として位置付けられている。
介護現場での導入成功の3条件
介護現場でジョブシェアリングを成功させる3条件。
条件1:分担者ペアの相性。性格・働き方・価値観が補完的なペアを組む。事前のすり合わせ面談を経て決定。
条件2:引継ぎツール整備。①日々の引継ぎノート、②週次オンライン定例(15分)、③共有チャットツール、④利用者ケース個別カルテ。スマホやタブレットを活用して密度を保つ。
条件3:報酬・評価ルール明確化。①給与按分(労働時間比例または成果按分)、②賞与・退職金の按分、③評価面談は2名同時で実施、④昇格は2名同時か個別かを明文化。曖昧さが信頼関係を崩す。
これら3条件を満たした上で3か月試行→6か月本格運用の段階的導入が成功率を上げる。
日本介護業界での適用拡大の可能性
- 介護福祉士の女性比率約74%:育児・介護中の女性介護士のキャリア継続支援に効果的
- 潜在介護福祉士の活用:登録者約190万人のうち約半数が現場を離れている。スポットワーク・パートと並ぶ復職モデルとして機能
- ケアマネの主任研修対応:2027年4月の主任ケアマネ要件義務化対応で、ペア体制が選択肢に
- 夜勤負担分散:常勤夜勤の心理的・身体的負担をペア分担で軽減、離職率低下
- 多職種人材プールの形成:介護福祉士+看護師、ケアマネ+社会福祉士など、複合スキルのペアが地域支援の質を高める
ジョブシェアリング導入の6か月プログラム
介護現場でジョブシェアリングを段階的に導入する6か月プログラム。
- 1か月目:意識合わせ。経営層・人事・現場リーダーで導入目的・対象ポジションを協議。先進事例の情報収集(英国NHS等)
- 2か月目:制度設計。給与按分ルール・引継ぎ方法・責任所在・評価方法を就業規則に反映。社労士確認
- 3か月目:分担者ペア選定。希望者募集・面談・マッチング。事前のすり合わせ研修
- 4か月目:試行開始。1ペア限定で3か月試行。週次フィードバック
- 5か月目:中間振り返り。引継ぎ漏れ・利用者影響・本人満足度を確認。必要なら制度調整
- 6か月目:本格展開。試行結果を踏まえ、複数ペアへ拡大。年次レビュー体制構築
ジョブシェアリングで活躍する5つの介護職タイプ
ジョブシェアリングは万人向きではないが、以下のタイプの介護職には特に適合する。
- 育児中・介護中の介護福祉士:フルタイム継続が困難だが専門性を活かしたい。子の学校行事・親の通院に合わせた柔軟勤務
- 潜在介護福祉士:登録者約190万人のうち約半数が現場を離れている層。スポットワーク→ジョブシェアリング→フルタイム復職の段階モデル
- 定年後再雇用の介護福祉士:60代後半〜70代でフルタイムは厳しいが、経験を活かしたい層。新人指導との組み合わせも
- 副業希望の介護福祉士:他職種・他法人での副業と組み合わせた半日勤務
- 研究・教育分野併行者:介護福祉士養成校教員・研究職と現場業務の両立
法人側がジョブシェアリング導入で得る5つのメリット
- 採用力の向上:『多様な働き方を選べる法人』として求人市場で差別化。育児中・介護中の優秀な介護福祉士を獲得
- 離職率の低下:ライフイベントで離職する人材を、ジョブシェアリングで継続雇用。長期的人材投資のROIが向上
- 業務継続性の確保:1人欠勤・退職時のリスク分散。常勤1名体制と比べてサービス中断リスクが大幅低下
- 多様な視点でのケア質向上:2名でケアを担うことで、利用者観察の盲点が減少。ケア質が安定
- 処遇改善加算の職場環境要件の充足:『両立支援の取組』として加算区分アップの根拠になる
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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