
認知症地域支援推進員とは
認知症地域支援推進員は、市町村に配置され医療・介護連携や認知症カフェ運営を担うコーディネーター。役割・任用要件・初期集中支援チームとの違い・相談ルートを解説。
この記事のポイント
認知症地域支援推進員とは、認知症施策推進大綱に基づき市町村に配置される地域の認知症施策を束ねるコーディネーターです。地域包括支援センターや認知症疾患医療センターを拠点に、医療・介護の連携支援、認知症カフェや本人ミーティングの運営、認知症の人と家族からの相談対応を担います。2018年度からすべての市区町村への配置が完了しました。
目次
認知症地域支援推進員とは|法的位置づけと配置の全体像
認知症地域支援推進員は、厚生労働省「認知症施策推進大綱」(2019年策定。前身は2015年の新オレンジプラン)に基づいて市町村が配置する専門職です。介護保険法上の地域支援事業(包括的支援事業)の一環として位置づけられており、市町村が直営または地域包括支援センター・認知症疾患医療センター等への委託で配置します。
配置先は次の3パターンが基本形です。
- 地域包括支援センター: 最も多い配置先。総合相談・包括的支援機能と一体化して地域の認知症ケアを動かす
- 市町村本庁(高齢福祉課・介護保険課など): 全市的な認知症施策の企画・調整を行う
- 認知症疾患医療センター: 鑑別診断と並走し、医療と介護をつなぐハブとして機能
2018年度から全国の市区町村への配置が完了し、2024年時点で約1,800市区町村でおよそ4,000人規模の推進員が活動しています(厚生労働省・市町村における認知症施策の実施状況調査)。「医師・看護師・社会福祉士などの専門資格 + 認知症ケア実務経験」をもつ職員が、専任または地域包括支援センター職員との兼務で配置されるのが一般的です。
制度上の位置づけは「個別ケースを直接担当するケアマネジャー」ではなく、地域全体の認知症施策を回すコーディネーターです。後述する認知症初期集中支援チームと並走しながら、地域住民・家族・専門職をつなぐ役割を担います。
3つの中核業務|医療介護連携・事業企画・相談支援
認知症地域支援推進員の業務は、厚生労働省ガイドラインで次の3カテゴリに整理されています。
1. 医療・介護等の支援ネットワーク構築
- 認知症ケアパスの作成・更新(症状進行に応じた地域内サービスの一覧と動線をマップ化)
- かかりつけ医・認知症サポート医・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所等との連携会議の運営
- 多職種連携シート・情報共有ツールの整備と研修
2. 関係機関と連携した事業の企画・調整
- 認知症カフェ(オレンジカフェ)の開設支援と運営サポート(公民館・地域の喫茶店等を活用)
- 本人ミーティング(認知症の本人が集い、自分の暮らしや希望を語る場)の開催運営
- 認知症サポーター養成講座、チームオレンジの立ち上げ支援、認知症VR体験会の企画
- 認知症の人にやさしい商店街・図書館・金融機関などとの連携プロジェクト
3. 相談支援・支援体制構築
- 本人・家族からの個別相談(電話・来所・訪問)に応じ、必要なサービス・専門医への橋渡し
- BPSDや徘徊など対応に困った家族へ、初期集中支援チーム・認知症疾患医療センターへの橋渡し
- 本人と家族の一体的支援事業(公共スペースで両者がともに活動する場の創出)の企画運営
- 若年性認知症支援コーディネーターやピアサポーターとの連携
認知症初期集中支援チームとの違い|コーディネーター vs 早期介入チーム
認知症地域支援推進員と混同されやすいのが認知症初期集中支援チームです。両者は同じ地域包括支援センターに併設されることも多く役割が重なる部分もありますが、対象範囲と関わり方が明確に異なります。
| 項目 | 認知症地域支援推進員 | 認知症初期集中支援チーム |
|---|---|---|
| 主な役割 | 地域全体のコーディネーター | 個別ケースへの早期介入チーム |
| 対象 | 地域住民・家族・専門職全体 | 認知症が疑われる本人と家族(個別ケース) |
| 関わり方 | 連携支援・企画・相談(恒常的) | 家庭訪問・アセスメント・支援(おおむね6か月で集中介入) |
| 構成 | 原則1〜数名の専門職(個人配置) | 医師(認知症サポート医)+医療・介護の専門職複数(チーム編成) |
| 主な活動内容 | 認知症ケアパス、認知症カフェ、本人ミーティング、相談対応 | 初回訪問、初期アセスメント、家族支援、サービス導入後の引き継ぎ |
| 関係する場面 | 地域全体の啓発・連携の仕組みづくり | 「医療・介護を拒否」「受診につながらない」など困難ケース |
役割分担のイメージは「推進員が地域の交通整理役、初期集中支援チームが必要に応じて出動するレスキュー隊」です。推進員が日常の相談対応のなかで「明らかに早期介入が必要」と判断したケースをチームにつなぐ、という連携が制度設計の前提になっています。
任用要件と国のフォロー研修|なるためのルート
認知症地域支援推進員には、専門資格 + 認知症ケア実務経験 + 国指定の研修受講の3つが揃う必要があります。
1. 任用される専門資格
厚生労働省ガイドラインでは、以下のいずれかを保有していることが条件です。
- 保健師・看護師
- 社会福祉士・精神保健福祉士
- 介護福祉士
- 作業療法士・理学療法士
- 歯科衛生士・薬剤師
- 医師(認知症サポート医を含む)
地域包括支援センターの3職種(保健師・社会福祉士・主任ケアマネ)が兼務で配置されるケースも多く、特に主任ケアマネジャーが推進員を担う事例が増えています。
2. 認知症ケアの実務経験
「認知症の医療や介護に関する専門的知識および経験を有すること」が要件です。具体的な年数規定はありませんが、目安として認知症対応型サービス・グループホーム・認知症疾患医療センター・地域包括支援センターでの実務経験3〜5年以上が望ましいとされています。
3. 認知症地域支援推進員研修(国のフォロー研修)
配置後は、国立長寿医療研究センターまたは認知症介護研究・研修センターが実施する「認知症地域支援推進員研修」を受講します。研修は次の3階層です。
- 基礎研修: 推進員着任時に受講。認知症施策の体系・地域支援の基本
- 実践研修: 着任1〜2年目。認知症ケアパスの作成、本人・家族支援の演習
- フォローアップ研修: 都道府県単位で年1〜2回。事例検討・他地域の実践共有
研修受講料は基本的に無料(国費補助)で、市町村負担で派遣されます。eラーニング併用型に移行している研修もあり、現場を離れずに学べる体制が整いつつあります。
本人・家族からの相談ルート|推進員までのアクセス
認知症地域支援推進員は地域住民にとってまだ知名度が低く、「どこに連絡すれば話せるのか」が分かりにくいのが課題です。実際の相談ルートは次の流れになっています。
- 市町村の高齢福祉課・介護保険課に電話 → 担当の推進員配置先(地域包括支援センター名)を案内してもらう
- 地域包括支援センターに直接来所・電話 → 推進員(または兼務職員)が一次対応
- かかりつけ医・認知症サポート医経由 → 受診時に医師が地域包括支援センター・推進員へつなぐ
- 認知症カフェに参加 → 推進員と顔の見える関係を作り、後日相談に発展
- 市町村の認知症ケアパス(パンフレット) → 自治体ウェブサイトに配布されており、相談窓口一覧が掲載
近年は地域包括支援センターの代表番号に「認知症のことで相談したい」と伝えるのが最短です。推進員が直接対応できない場合も、初期集中支援チーム・若年性認知症支援コーディネーター・認知症疾患医療センター等への適切な橋渡しがされます。
家族が「介護サービスをまだ使う段階ではないが、認知症かもしれない」と感じた段階で動けるのが、地域包括支援センターを経由した推進員ルートの強みです。要介護認定が出ていなくても相談できます。
現場の介護職・看護職への活用ポイント
介護施設・訪問介護・グループホームで働く現場職員にとっても、認知症地域支援推進員は使いこなしたい連携先です。次の場面で推進員に相談する価値があります。
- 地域に戻る入居者の在宅移行: 退所後のサービス調整・家族支援の組み立てに推進員が伴走
- BPSD・徘徊で困っている利用者の家族: 推進員から認知症初期集中支援チーム・認知症疾患医療センターへの紹介ルートが速い
- 認知症カフェ・本人ミーティングへの送り出し: 入居者・利用者の社会参加先を推進員と一緒に検討できる
- 地域連携研修への参加: 推進員が主催する多職種連携研修は、現場職員の認知症ケアスキル向上の場として活用できる
- 認知症サポーター養成講座の受講: 施設研修としての導入を推進員に依頼可能
キャリア面では、地域包括支援センターでの主任ケアマネジャー職や、社会福祉士・精神保健福祉士として推進員に転身するルートもあります。「現場の認知症ケア → 地域全体のコーディネーター」というキャリアアップの道筋として注目されています。
よくある質問
Q. 認知症地域支援推進員は無料で相談できますか?
はい、相談料は無料です。市町村が地域支援事業として配置しているため、住民・家族・専門職のいずれも費用負担なく相談できます。要介護認定の有無も問いません。
Q. 認知症地域支援推進員になるには何年の経験が必要ですか?
明確な年数規定はありませんが、認知症対応型サービスや地域包括支援センターでの実務経験3〜5年以上が目安です。資格は保健師・看護師・社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士などのいずれかが必要です。
Q. 認知症地域支援推進員と認知症ケア専門士の違いは?
認知症ケア専門士は日本認知症ケア学会が認定する民間資格で、ケアの実践スキルを示すものです。一方、認知症地域支援推進員は厚生労働省の制度に基づく市町村配置の公的役職で、地域全体のコーディネーター業務を担います。専門士資格を持つ人が推進員として配置される事例もあります。
Q. 認知症初期集中支援チームと推進員、どちらに先に相談すべき?
多くのケースではまず推進員(または地域包括支援センター)に相談するのが分かりやすいルートです。受診拒否や独居など困難ケースに該当すると判断されれば、推進員から初期集中支援チームへつないでもらえます。
Q. 推進員はケアプランを作ってくれますか?
いいえ、ケアプランの作成は居宅介護支援事業所のケアマネジャーの仕事です。推進員はケアマネジャーやサービス事業所への橋渡しと、地域全体の連携体制づくりが中心業務です。
参考資料・出典
- 厚生労働省「認知症地域支援推進員(資料)」
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(2019年策定)
- 厚生労働省「認知症初期集中支援チームについて」
- 国立長寿医療研究センター「認知症地域支援推進員研修」
- 認知症介護研究・研修東京センター「認知症地域支援推進員活動の手引き」
まとめ
認知症地域支援推進員は、市町村単位で認知症ケアの仕組みを束ねる地域のコーディネーターです。個別ケースに集中介入する初期集中支援チームと役割分担しながら、認知症ケアパス・認知症カフェ・本人ミーティング・相談支援を通じて、本人と家族が住み慣れた地域で暮らし続ける環境を整えています。
「認知症かもしれない」と感じた家族は、まず市町村の地域包括支援センターに連絡を。介護現場の職員にとっても、利用者の在宅移行・地域連携・スキル研修の頼れる相談窓口です。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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