
『2040年問題は全国一律ではない』野口介護保険部会長|地域差を踏まえた制度設計を要請
社会保障審議会介護保険部会の野口晴子部会長が国会で意見陳述。介護需要が既に減少する町村部と3大都市圏でピークがずれる地域差を指摘し、横並びの制度設計脱却と地域別サービス基盤整備を促した。
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この記事のポイント
社会保障審議会介護保険部会の野口晴子部会長(早稲田大学政治経済学術院教授)は、衆議院厚生労働委員会の参考人質疑で『いわゆる2040年問題は全国一律ではない』と意見陳述し、地域差を踏まえた制度設計の必要性を強調した。介護需要が既に減少局面に入った町村部と、2035年以降にピーク期を迎える3大都市圏で状況が大きく異なる実情を説明し、横並びの介護政策からの脱却を促した。介護職にとっては『勤務地・所属事業所の地域フェーズ』がキャリア選択の重要変数になる時代に入る。
目次
解説動画
2040年に65歳以上人口がピークを迎え、介護需要・医療需要が最大化するとされる『2040年問題』。これまで全国一律の政策課題として議論されてきたが、実態は地域によって大きく異なる。社会保障審議会介護保険部会の野口晴子部会長が衆院厚労委の意見陳述で『2040年問題は全国一律ではない』と明言し、地域別の制度設計に舵を切る必要性を訴えた。中山間・人口減少地域では既に介護需要が縮小し始め、3大都市圏ではピークが2035〜2040年以降。同じ国の中で『縮小局面』と『拡大局面』が並走する現実を踏まえた制度議論が、令和8年度介護報酬改定の主要論点となる。
野口部会長の意見陳述内容
『2040年問題は全国一律ではない』
野口晴子・社会保障審議会介護保険部会長は、介護保険法等改正案の衆議院厚生労働委員会参考人質疑で意見陳述に立った。冒頭、いわゆる2040年問題について『全国一律ではない』と指摘。介護需要が既に減少局面に入った町村部が少なからずある半面、3大都市圏ではそれが2035年以降に順次ピーク期を迎えていくなど、状況が地域間で大きく異なる実情を説明した。
『横並びの制度設計からの脱却を』
従来の画一的なアプローチは限界に達しているとし、自らの地域が今どのフェーズにあるか(介護需要が減少期にあるか、増加期にあるか)を的確に把握することが第一歩になると呼びかけた。政府が今国会へ提出した介護保険法改正案に盛り込まれた『中山間・人口減少地域の事業所柔軟運用』の方向性を支持しつつ、『今後は全国一律ではなく、地域ごとの人口構造やサービス需要の変化を踏まえた対応がこれまで以上に必要になる』と強調した。
『事業所間連携・バックオフィス共同化』を提案
深刻な人材不足などで事業所単独での安定的な運営は一段と厳しくなると予測。『地域によっては事業所間の連携・協働、バックオフィスの共同化などを進めながら、ある程度規模の経済を生かしていくということも重要』と説いた。法人格を超えた連携・共同運営という、これまでの介護業界では限定的だった経営モデルへの転換を示唆する発言だ。
地域別の介護需要フェーズ
町村部:すでに介護需要は減少局面
厚労省の人口推計と介護需要シミュレーションによれば、過疎化が進む町村部の中には既に65歳以上人口がピークを迎え、要介護認定者数も減少局面に入った自治体が存在する。これらの地域では『事業所の経営困難』『介護職の有効求人倍率低下』『撤退や統合が進む』というフェーズに入っており、政策課題は『撤退抑止と地域内連携』にシフトしている。
地方中核都市:2030〜2035年がピーク
県庁所在地クラスの地方中核都市では、65歳以上人口・要介護認定者数とも2030〜2035年に概ねピークを迎える。介護需要は拡大しながら、まもなく縮小転換に至る『折り返し期』にある。事業所の新規開設より、既存事業所の効率化・統合・連携で需要対応する局面だ。
3大都市圏:2035年以降にピーク期
東京・大阪・名古屋を中心とした3大都市圏は、65歳以上人口・要介護認定者数のピークが2035〜2040年以降。今後10〜15年、介護需要は拡大基調が続く。事業所新設・人材確保が政策課題の中心で、外国人介護人材(特定技能・育成就労)の受け入れ拡大、介護テクノロジー導入による生産性向上が議論されている。
介護職のキャリア選択への含意
勤務地のフェーズを意識した転職判断
地域別フェーズの違いは、介護職のキャリア選択に直接影響する。①町村部(縮小局面)では事業所撤退・統合リスクがあるため、長期雇用が不確実。給与水準も上がりにくい。②地方中核都市(折り返し期)では既存事業所の効率化が進み、中堅以上のキャリアが有利。③3大都市圏(拡大期)では新設事業所が増え、未経験者・若手の採用機会が豊富。給与・処遇改善加算の水準も比較的高い。転職を考える介護職は、自身のキャリア段階と勤務地フェーズの組み合わせを意識する必要がある。
事業所連携・バックオフィス共同化の進展
野口部会長が提案した『事業所間の連携・協働、バックオフィス共同化』は、特に町村部・地方中核都市で進む見通し。経理・人事・労務・研修・採用などのバックオフィス機能を複数事業所で共有する『シェアード・サービス』モデルが、社会福祉法人連携法人制度なども追い風となって広がる可能性がある。介護事務職・管理職にとっては、複数事業所を統括する新たな職務が生まれる契機となる。
令和8年度介護報酬改定との連動
2026年5月22日に衆院厚労委で可決された介護保険法改正案には『中山間・人口減少地域の事業所柔軟運用』(特定地域サービス)が盛り込まれた。令和8年度介護報酬改定では、地域フェーズ別の単価設定や包括報酬の本格導入が議論される。介護職・事業所管理者にとっては、自地域がどのフェーズにあるかが、報酬体系・働き方を決める変数になる。
今後の制度議論で注目すべきポイント
地域別データの見える化
地域フェーズ別の制度設計を実現するには、まず各自治体・地域単位の介護需要見通し・事業所経営状況・人材需給がデータとして見える化される必要がある。厚労省は介護サービス情報公表システムや介護給付費等実態統計で地域別データを公表しているが、より詳細・最新版の公開とアクセシビリティ向上が論点となる。
過疎地特定地域サービスの実装
改正介護保険法の『特定地域サービス』が令和8年4月施行予定。包括報酬の単価設定、人員配置基準の柔軟化幅、対象地域の指定要件などが2026年秋以降の政省令・通知で具体化される見通し。中山間地域の事業所管理者は、自地域が指定対象になるか、どのような運営柔軟化が認められるかを継続的に確認する必要がある。
3大都市圏の人材確保政策
3大都市圏の介護需要ピークに備えた人材確保政策は、外国人介護人材(特定技能・育成就労)の受け入れ拡大、介護テクノロジー導入支援(経産省・厚労省の補助金)、介護福祉士養成施設への支援強化、潜在介護福祉士の復職支援など多岐にわたる。介護事業所はこれら制度の併用で、人材・テクノロジー両面からの対策を組み立てる必要がある。
参考文献・出典
参考資料
- 介護ニュースJoint「2040年問題『全国一律ではない』 野口介護保険部会長、地域ごとのサービス基盤整備を促す」(2026年5月)
https://www.joint-kaigo.com/articles/46131 - 厚生労働省「社会保障審議会 介護保険部会」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126729.html - 厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の改革」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/2040vision/index.html - 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」
https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/t-page.asp - 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/
まとめ
野口晴子・社会保障審議会介護保険部会長による『2040年問題は全国一律ではない』との意見陳述は、介護政策が地域別フェーズに応じて細分化する時代の到来を予告するものだ。町村部の縮小局面、地方中核都市の折り返し期、3大都市圏の拡大期では、必要な制度・事業所のあり方・人材ニーズがすべて異なる。介護職は自身の勤務地のフェーズを意識したキャリア選択を、事業所管理者は地域内連携・バックオフィス共同化を視野に入れた経営判断を求められる。令和8年度介護報酬改定議論で、地域フェーズ別の報酬設計がどこまで具体化するかが注目点となる。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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