
訪問介護、併設型など事業形態ごとに経営状況を把握へ|厚労相「適切な単価設定を検討」
上野賢一郎厚生労働相が2026年6月10日の参議院本会議で、訪問介護の経営状況を集合住宅併設型など事業形態ごとに把握し「適切な単価設定を検討する」と答弁。収支差率9.6%の内訳と現場の賃金への波及を解説します。
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結論
上野賢一郎厚生労働相は2026年6月10日の参議院本会議で、訪問介護の経営状況を集合住宅に併設されているか否かといった事業形態ごとにきめ細かく把握し、来年度の介護報酬改定に向けて「適切な単価設定を検討する」と答弁しました。厚生労働省の概況調査で訪問介護全体の収支差率は2024年度に9.6%と全サービス平均を上回りますが、この数字は集合住宅併設型と利用者宅を個別に訪ねる単独型が同じ箱に入った平均値です。事業形態別の実態が見えれば、2024年度に基本報酬を引き下げられた単独型・地方の事業所の評価が見直される可能性があり、そこで働く介護職の賃金や人員配置にも波及する論点になります。
目次
訪問介護は、ホームヘルパー不足と物価高騰のなかで最も厳しい経営環境に置かれているサービスのひとつとされてきました。2024年度(令和6年度)の介護報酬改定では訪問介護の基本報酬が引き下げられ、地方や小規模の事業所を中心に休廃業が相次いだことが現場で問題視されています。
そうしたなか、2026年6月10日の参議院本会議で、来年度(令和9年度)の介護報酬改定に向けた重要な方向性が示されました。上野賢一郎厚生労働相が、訪問介護の経営状況を「集合住宅に併設されているか否か」といった事業形態ごとに細かく把握し、「適切な単価設定を検討する」と明言したのです。
この答弁は、単なる調査手法の話にとどまりません。訪問介護の収支差率はサービス全体の平均で見ると比較的高く、それが過去の基本報酬引き下げの根拠のひとつとされてきました。しかし、その平均値の中身は事業形態によって大きく異なります。この記事では、厚労相の答弁の正確な内容、厚生労働省の経営概況調査が示す収支差率の実態、過去の基本報酬引き下げとの関係、そして単価設定の見直しが訪問介護で働く介護職の待遇にどう波及するのかを、一次資料をもとに整理します。
厚労相が国会で示した「事業形態ごとの把握」
参議院本会議での答弁の正確な内容
2026年6月10日、参議院本会議では介護保険法や社会福祉法などの改正案をめぐる審議が始まりました。この日の本会議では、ホームヘルパー不足や物価高騰などで厳しい経営環境にある訪問介護について、来年度の介護報酬改定で講じるべき施策が論点のひとつとなりました。
上野賢一郎厚生労働相は、国民民主党の田村まみ議員の質問に対して、「事業所の立地や規模、集合住宅に併設されているか否かといった事業形態などを、今年度に実施する経営実態調査できめ細かく把握する」と説明しました。そのうえで「適切な単価設定を検討する」と明言し、訪問介護のビジネスモデルの違いも考慮して議論を深める意向を示しています。
ここで言う「今年度に実施する経営実態調査」とは、2026年5月に実施された「令和8年度介護事業経営実態調査」を指します。この調査結果は、2027年度(令和9年度)の介護報酬改定に向けた基礎資料として活用される予定です。つまり厚労相は、来年度の本格改定の前提となるデータを事業形態別に細かく集め、そのうえで訪問介護の単価のあり方を見直す、という道筋を国会の場で示したことになります。
なぜ「事業形態ごと」の把握が論点になるのか
訪問介護と一口に言っても、その経営の形は一様ではありません。大きく分けると、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や住宅型有料老人ホームなどの集合住宅に併設し、同じ建物や近接する建物の入居者へ集中的に訪問する「併設型」と、地域に点在する利用者宅を一軒ずつ車などで訪ねる「単独型(一般住宅向け)」があります。
この二つは、同じ訪問介護でも経営効率がまったく異なります。併設型は移動時間がほとんどかからず、1人のヘルパーが短時間で多くの利用者に対応できるため効率的です。一方、単独型は利用者宅の間を移動する時間とコストが大きく、急なキャンセルがあると収入に直結します。とりわけ中山間地域や人口減少地域では、移動距離が長く、安定した経営が難しいケースが少なくありません。
これまでの介護報酬の議論では、訪問介護全体の平均的な収益力をもとに基本報酬の水準が判断されてきました。しかし、効率的な併設型と、地域を一軒ずつ支える単独型を同じ平均で扱うと、地域を支える事業所ほど経営が苦しくなる構造が見えにくくなります。厚労相が「事業形態ごとに把握する」と述べた背景には、こうした平均値だけでは捉えきれない実態を、政策判断に反映させようという狙いがあります。
中山間・人口減少地域への言及
上野厚労相はあわせて、今回の介護保険法などの改正案に盛り込まれた具体策にも触れ、中山間・人口減少地域を対象にサービスの運営基準を緩和する新たな仕組みに言及しました。その導入にあたっては「サービスの質の確保が重要」と強調し、利用者の安心・安全を損なわないよう具体的な制度設計を進める方針を示しています。
運営基準の緩和と単価設定の見直しは、いずれも「現状の介護報酬の仕組みでは事業が成り立たない地域がある」という共通の問題意識から出ています。サービスが消えてしまう地域、いわゆる「サービスゼロ地域」を回避するために、報酬の入口(基準)と中身(単価)の両面から手を入れようとしている、と読み解くことができます。
収支差率9.6%が示す訪問介護経営の実態
厚労省データで見る訪問介護の収支差率
厚生労働省が2025年11月から12月にかけて社会保障審議会の関連委員会に示した「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)」によると、訪問介護の収支差率(税引前、物価高騰対策関連補助金を含まない)は、2023年度(令和5年度)決算で11.1%、2024年度(令和6年度)決算で9.6%でした。前年度から1.5ポイント低下したものの、依然として高い水準にあります。
収支差率とは、介護サービスの収入額から支出額を引いた額を、収入額で割った割合です。一般企業の営業利益率に近い指標で、事業がどれだけ利益を残せているかを示します。この同じ調査で、全サービス平均の収支差率は加重平均で見ると数%台にとどまっており、訪問介護の9.6%はそれを大きく上回っています。
他のサービスと比べても、訪問介護の収益性の高さは目立ちます。同じ調査の2024年度決算では、通所介護が6.2%、訪問看護が10.3%、介護老人福祉施設(特養)が1.4%でした。集合住宅向けに効率的な運営をしやすい夜間対応型訪問介護は12.8%、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は13.4%と、訪問系のなかでも在宅へ集中的に入る形態ほど高い傾向が読み取れます。
「9.6%」という平均値が隠しているもの
ここで重要なのは、訪問介護の9.6%という数字が、効率の高い併設型と、移動コストの大きい単独型を合算した平均値だという点です。集合住宅併設型のように移動時間がほぼゼロで稼働率を高く保てる事業所は、収支差率が平均を大きく上回ると考えられます。逆に、地域に点在する利用者宅を一軒ずつ訪ねる単独型や、移動距離の長い中山間地域の事業所は、平均を下回り、赤字すれすれで踏みとどまっているところも少なくありません。
つまり、訪問介護全体が「9.6%もうかっている」のではなく、収益力の高い一部の事業形態が全体の平均を押し上げている可能性が高いのです。厚労相が事業形態別の把握にこだわるのは、この平均値の「内訳」を見える化しなければ、本当に支援が必要な事業所を取りこぼしてしまうからにほかなりません。
同じ訪問系のなかでも、集合住宅向けに集中的にサービスを提供しやすい夜間対応型訪問介護が12.8%、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が13.4%と高水準であることは、この見立てを裏づけます。これらは利用者が一定の範囲に集まっているほど効率が上がる仕組みで、移動コストの小ささが収益性に直結します。逆に言えば、利用者が地域に点在し、一軒ごとに車で向かう従来型の訪問介護は、同じ報酬単価でもコスト構造がまったく異なります。平均の9.6%という一枚の数字の裏側には、この大きな振れ幅が隠れているのです。
経営実態調査に追加された集合住宅関連の質問
こうした問題意識は、調査の設計にもすでに反映されています。訪問介護の経営実態調査では、集合住宅への訪問が全体に占める割合、主な移動手段、平均的な移動時間といった質問項目が追加されています。これは、集合住宅に併設して効率的に運営している事業所と、点在する高齢者宅を個別に訪ねる事業所とを区別して把握するためのものです。
背景には、高齢者向け住まいと訪問介護の結びつきの強さがあります。厚生労働省の資料では、集合住宅併設の場合、同一の開設主体が訪問介護事業所を運営しているケースが7割を超えるとされています。住まいと介護サービスが一体で運営される形が広がるなかで、その経営実態を分けて見ない限り、訪問介護の単価を正しく設定することは難しい、という認識が制度側にも共有されつつあります。
2024年度の基本報酬引き下げと今回の見直しの関係
2024年度の基本報酬引き下げとの関係
今回の「事業形態ごとの把握」は、2024年度(令和6年度)改定で起きたことへの反省と軌道修正という側面を持っています。2024年度改定では、訪問介護の基本報酬が引き下げられました。その根拠のひとつが、まさに「訪問介護全体の収支差率が他サービスより高い」という平均値でした。
しかし、平均が高いからといって、すべての事業所がもうかっていたわけではありません。引き下げの影響を最も強く受けたのは、もともと利益率の低かった単独型や、移動コストの大きい地方の小規模事業所です。基本報酬の引き下げ後、訪問介護では倒産や休廃業が増えたことが現場から繰り返し指摘されてきました。地域の在宅生活を支える事業所が先に倒れ、効率の高い併設型が残るという、政策の意図とは逆の選別が進みかねない状況が生まれたのです。
こうした経緯を踏まえると、今回の答弁は「平均値だけを見て一律に引き下げた」前回の手法を見直し、事業形態の違いを織り込んだ「メリハリのある単価設定」へ舵を切ろうとする動きと位置づけられます。実際、2024年度改定では集合住宅などに居住する利用者(同一建物減算)への訪問について報酬の適正化が進められており、効率的な併設型と地域密着の単独型を分けて評価する流れはすでに始まっています。今年度の経営実態調査は、その流れを来年度改定で本格化させるためのデータ基盤になります。
「同一建物減算」と単価見直しの方向性
訪問介護の報酬には、すでに「同一建物等に居住する利用者へのサービス提供」に対する減算の仕組みがあります。これは、集合住宅やサ高住、住宅型有料老人ホームなどで、併設・隣接する事業所が同じ建物の入居者へ集中的にサービスを提供する形態について、移動コストがかからない分の報酬を調整するものです。
今回示された「適切な単価設定の検討」は、この同一建物減算をさらに精緻にし、事業形態ごとの実態に合わせて報酬を組み替えていく方向と整合的です。効率の高い併設型には実態に応じた水準を、移動コストや人材確保の負担が大きい単独型・中山間地域の事業所には事業継続が可能な水準を、というメリハリです。来年度改定では、集合住宅型・同一建物型サービスについて適正化(引き締め)が続く一方、地域を支える形態は維持・下支えする、という二方向の調整が議論の中心になると見られます。
審議会が掲げる「事業継続が可能な報酬体系」
この方向性は、すでに介護報酬改定の議論を進める社会保障審議会介護給付費分科会でも横断的なテーマとして共有されています。来年度改定に向けた検討では、賃上げに向けた環境整備や事務負担の軽減と並んで、地域ごとのサービス確保が重要な論点に据えられています。とりわけ中山間・人口減少地域については、移動時間にかかるコストや人材確保に必要な賃金水準を踏まえ、事業継続が可能となる報酬体系のあり方を検討することが求められています。
つまり、訪問介護の単価をめぐる議論は「全体としていくら払うか」から「どの形態の事業所が、どの地域で、どんなコスト構造で運営しているか」という、より細かい解像度へと移りつつあります。事業形態別の経営実態を把握するという今回の方針は、その解像度を上げるための土台づくりであり、来年度改定がどのサービスにどう配分されるかを左右する前段の作業だと言えます。集合住宅併設型に偏りがちだった訪問介護の評価軸が、地域を支える単独型をどこまで救えるかが、改定の最大の焦点になっていきます。
現場の介護職の待遇への波及と備え
訪問介護で働く介護職の待遇にどう波及するか
事業形態別の単価設定の見直しは、制度の話で終わりません。訪問介護員(ホームヘルパー)一人ひとりの賃金や働き方に直接つながります。介護事業所の収入の大部分は介護報酬であり、報酬の単価が事業所の支払える人件費の上限を事実上決めているからです。
もし来年度改定で、地域を支える単独型・中山間地域の事業所の単価が実態に合わせて見直されれば、これまで基本報酬の引き下げで賃上げ余力を奪われていた事業所に、処遇改善の原資が戻る可能性があります。逆に、効率の高い併設型に対して適正化(引き締め)が強まれば、その形態に勤める職員の待遇は据え置きや見直しを迫られる場面も出てくるかもしれません。働く事業所がどちらの形態かによって、報酬改定の追い風と向かい風が分かれていく、という点を意識しておく必要があります。
訪問介護は、収入に占める人件費の割合が他のサービスより高い「労働集約型」の典型です。設備や建物への投資が小さい分、報酬の単価がそのまま職員に配分できる原資の大きさを決めます。だからこそ、平均値ではなく事業形態別の実態に合わせて単価が設定されれば、これまで「全体は黒字だから」と一括りにされて賃上げの余地を削られてきた地域密着の事業所でも、職員に還元できる幅が広がります。報酬の単価設定が現場の手取りに直結しやすいのは、訪問介護という働き方の構造的な特徴なのです。
また、訪問介護では2027年度に向けて、訪問1回ごとの出来高ではなく月単位の定額報酬を導入する議論も並行して進んでいます。事業形態別の単価設定と定額報酬の議論が重なれば、訪問介護員の収入の決まり方、シフトの組み方、移動時間の扱いが大きく変わる可能性があります。自分の事業所がどんな形態で、どの報酬体系の影響を受けるのかを把握しておくことが、これからのキャリアを考えるうえで重要になります。
処遇改善加算の拡大という追い風
待遇面では、報酬の単価設定とは別に、賃上げを直接後押しする動きも進んでいます。2026年6月には臨時の介護報酬改定が行われ、介護職員等処遇改善加算が見直されました。訪問介護員も対象で、この加算は事業所が受け取った分を職員の賃金改善に充てることが原則とされています。
もっとも、処遇改善加算の加算率が毎年のように引き上げられているのは、介護職の賃金を他産業の平均に近づけるための措置であり、「他産業より高くする」ための上乗せではない点には注意が必要です。基本報酬という土台が事業形態に合った水準に整えられて初めて、処遇改善加算による賃上げが安定して現場に届きます。だからこそ、今回の事業形態別の単価設定の検討は、加算の話と切り離せない、賃金の土台づくりの議論なのです。
働く側が今からできる備え
制度改定の方向が見えてきた今、訪問介護で働く人ができる備えもあります。ひとつは、自分の事業所が併設型か単独型か、同一建物減算の対象が多いかどうかといった「経営の形」を把握しておくことです。報酬改定で追い風を受けやすい形態か、引き締めの対象になりやすい形態かによって、今後の賃金や採用方針の変化を予測しやすくなります。
もうひとつは、身体介護や認知症ケア、喀痰吸引など、より専門性の高い支援に対応できる力を高めておくことです。生活援助の一部を地域支援事業へ移す議論が続くなか、専門性で評価される領域を広げておくことは、どの事業形態に身を置いても通用する強みになります。制度がどう転んでも価値が残るスキルを磨いておくことが、最も確実なキャリアの保険になります。
参考文献・出典
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まとめ
2026年6月10日の参議院本会議で、上野賢一郎厚生労働相は訪問介護の経営状況を集合住宅併設型など事業形態ごとに把握し、「適切な単価設定を検討する」と答弁しました。訪問介護全体の収支差率は2024年度で9.6%と全サービス平均を上回りますが、これは効率の高い併設型と移動コストの大きい単独型を合わせた平均値であり、その内訳を見える化することが今回の眼目です。2026年5月に実施された令和8年度介護事業経営実態調査のデータが、来年度(令和9年度)改定の前提になります。集合住宅への訪問割合や移動時間といった新たな調査項目が、事業形態ごとの収益構造を初めて数字で映し出すことになります。
この動きは、平均値だけを根拠に基本報酬を引き下げた2024年度改定の手法を見直し、事業形態の違いを織り込んだメリハリのある単価設定へ向かう転換点と言えます。地域を支える単独型・中山間地域の事業所が下支えされれば、そこで働く介護職の賃上げ余力が回復する可能性があり、逆に効率の高い併設型には適正化が及ぶ可能性もあります。自分の働く事業所がどちらの形態かを知り、専門性を高めておくことが、改定の波を乗り切る備えになります。
あなたの働く訪問介護事業所は併設型と単独型のどちらでしょうか。報酬改定の追い風と向かい風がどう分かれるかを見据えて、これからの働き方を考えてみませんか。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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