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📑目次

  1. 01なぜ経口摂取が終わっても口腔ケアを続けるのか
  2. 02力を抜いた手技への切り替え方
  3. 03意識レベルが下がった状態での注意点
  4. 04看取り期の体制に関わる介護サービスの供給データ
  5. 05家族が立ち会う場面での配慮
  6. 06多職種(看護師・歯科)との連携
  7. 07看取り期の口腔ケアに使う主な物品
  8. 08現場で意識したい3つのポイント
  9. 09よくある質問(FAQ)
  10. 10参考文献・出典
  11. 11まとめ
介護の働き方診断
看取り期・終末期の口腔ケア|食べられなくなった後も続ける理由と優しい手技
介護職向け

看取り期・終末期の口腔ケア|食べられなくなった後も続ける理由と優しい手技

経口摂取が終了した看取り期・終末期の口腔ケアは、乾燥・口臭・出血を防ぎ最期まで快適に過ごすためのコンフォートケアです。手技の切り替え方、家族への配慮、多職種連携のポイントを解説します。

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この記事のポイント

看取り期・終末期の口腔ケアは、経口摂取が終了した後も続ける必要があります。目的は虫歯予防ではなく、口腔内の乾燥・出血・口臭を防ぎ、最期まで快適に過ごしてもらう「コンフォートケア」への転換です。歯ブラシの力を抜き、保湿を最優先にした手技に切り替えることが基本となります。

📑目次▾
  1. 01なぜ経口摂取が終わっても口腔ケアを続けるのか
  2. 02力を抜いた手技への切り替え方
  3. 03意識レベルが下がった状態での注意点
  4. 04家族が立ち会う場面での配慮
  5. 05多職種(看護師・歯科)との連携
  6. 06看取り期の口腔ケアに使う主な物品
  7. 07現場で意識したい3つのポイント
  8. 08よくある質問(FAQ)
  9. 09参考文献・出典
  10. 10看取り期の体制に関わる介護サービスの供給データ
  11. 11まとめ

「もう食べていないのだから、口の中のケアはしなくていい」。看取り期・終末期の利用者を担当する介護職から、こうした声を聞くことがあります。しかし経口摂取が終了した後こそ、口腔ケアの目的は大きく変わり、続ける意味が増します。唾液の分泌が減り、口呼吸が増え、口腔内は急速に乾燥に傾きます。乾燥した粘膜は傷つきやすく、痂皮(かひ、乾いた分泌物のかたまり)がこびりつき、放置すると口臭や出血、カンジダ症(真菌感染)の原因になります。

この記事では、経口摂取が終わった後の口腔ケアがなぜ必要なのか、その意味づけから、意識レベルが低下した状態での安全な手技、家族が立ち会う場面での配慮、看護師・歯科との連携の実務までを、公的資料と一次研究データをもとに解説します。看取りケア全般や口腔ケアの基本手順はすでに別記事で扱っているため、ここでは「経口摂取終了後、看取り期・終末期に入った人への口腔ケア」に絞って掘り下げます。

なぜ経口摂取が終わっても口腔ケアを続けるのか

厚生労働省の資料「終末期における歯科医療」(第2回終末期懇談会資料、2008年)は、終末期における歯科的対応の目的として、(1)口腔に起因する疼痛の緩和、(2)摂食機能の維持と栄養状態の改善、(3)肺炎防止、(4)顔貌・コミュニケーションの維持の4点を挙げています。経口摂取が終わった段階では(2)の意味は薄れますが、(1)(3)(4)の重要性はむしろ増します。

目的1: 口腔内の不快感・疼痛の緩和

唾液には自浄作用と粘膜保護の働きがありますが、終末期は分泌量が大きく低下します。乾燥した粘膜はひび割れや潰瘍を起こしやすく、痂皮の付着は本人にとって不快感や痛みの原因になります。同資料の意思決定チェック項目でも「口腔乾燥・口内炎が高度にみられると、口腔の運動が妨げられ、発音や摂食が困難になる。保湿を含めた口腔ケアは、会話を通じたコミュニケーションの維持と食べる機能の維持に有効」と整理されており、保湿を中心とした口腔ケアは経口摂取の有無にかかわらず快適性に直結します。口腔内が乾燥すると喉の渇きの受容体が刺激され続け、大きな不快感につながることも指摘されています。水分を摂れない状態であっても、口腔内を湿らせること自体が渇きの緩和になるという点は、介護職・家族の双方に伝える価値のある知識です。

目的2: 誤嚥性肺炎の予防

経口摂取をしていなくても、唾液や分泌物を誤嚥するリスクはなくなりません。むしろ嚥下反射が弱まる終末期は、唾液の誤嚥による肺炎リスクが高まる局面でもあります。米山武義・吉田光由らが全国11施設の高齢者施設入所者336名を対象に行った2年間の介入臨床疫学研究(口腔ケア群と対照群の比較)では、施設介護者または看護師による毎食後の歯磨きと1%ポビドンヨードによる含嗽、週1回の歯科医師・歯科衛生士による専門的口腔清掃を行った介入群で、発熱・肺炎発症・肺炎による死亡者数が有意に減少したことが報告されています(日歯医学会誌、2001年)。この研究は経口摂取の有無を問わず、口腔内の細菌量を減らすケアそのものに予防効果があることを示しています。口腔内の細菌が唾液とともに気道に流れ込むことで発症する誤嚥性肺炎は、経管栄養や中心静脈栄養に切り替わった後も起こり得るため、「食べていないから肺炎の心配はない」という認識は誤りです。

目的3: 尊厳の維持とコミュニケーション

意識レベルが下がっても、聴覚や皮膚感覚は比較的保たれやすいといわれます。口の中が清潔で潤っていることは、本人の快適性だけでなく、声をかけながらケアを行う介護職や、そばで見守る家族にとっても大切な意味を持ちます。義歯を適切に使用している場合、装着を続けることで顔貌が維持され、本人らしい表情で最期の時間を過ごせることも、厚労省資料は指摘しています。歯や口元は表情筋の動きや輪郭に大きく関わるため、義歯の有無や口腔内の状態は、家族が本人の顔を見て感じる印象にも影響します。

つまり看取り期・終末期の口腔ケアは「治療」や「栄養のため」ではなく、快適性を保つための「コンフォートケア」へと目的が切り替わります。この意味づけを介護チーム全体で共有できているかどうかが、ケアの質を左右します。「もう意味がない」ではなく「意味が変わった」と捉え直すことが、この局面のケアの出発点になります。

力を抜いた手技への切り替え方

看取り期・終末期の口腔ケアは、それ以前の口腔ケアと目的だけでなく手技そのものが変わります。歯垢をしっかり落とす「清掃」から、粘膜を傷つけずに潤いを保つ「保護」へと力点を移す必要があります。ここでの手技の切り替えを怠ると、良かれと思って行ったケアが逆に痛みや出血の原因になってしまうこともあるため、意識して見直すことが大切です。

使用する道具を替える

硬い毛の歯ブラシや大きめのヘッドは、脆弱になった粘膜を傷つけるリスクが高くなります。乳幼児用のような小さいヘッドの軟らかいナイロン毛ブラシ、またはスポンジブラシ・口腔ケア用モアブラシへの切り替えが基本です。動物毛のブラシは毛の間に細菌が繁殖しやすく、免疫力が低下した終末期の利用者には向かないため避けます。歯間に食渣が残りやすい場合は、無理のない範囲で歯間ブラシを使用します。歯磨き粉を使う場合も、刺激の強い発泡剤や香料を含むものは避け、マイルドで無発泡・低刺激のものに切り替えるか、使用自体を控える判断も必要です。

保湿を最優先にする

ブラッシングの前後で口腔内を保湿することが、清掃そのものより優先度が高くなる局面があります。口腔保湿ジェルやスプレーを使い、乾燥や痂皮が強い場合は保湿剤をしみこませてからガーゼやスポンジブラシで少しずつふやかして除去します。無理にこすり取ろうとすると出血や粘膜損傷につながるため、一度にすべて取ろうとせず、複数回に分けて少しずつ行うのが基本です。緑茶や白ごま油で湿らせたガーゼで口腔内を拭う方法も、乾燥対策として現場で使われています。保湿は1回のケアだけで終わらせず、10〜20分おきに唇や口腔内を湿らせる継続的なケアとして位置づけると、乾燥による不快感を大きく減らせます。

力の入れ方を変える

健常時の歯磨きのような力でブラシを動かすと、粘膜や歯茎から出血させてしまうことがあります。ブラシは軽く添えるように動かし、力を入れず「なでる」感覚で行います。出血しやすい部位(歯茎の縁、頬の内側の粘膜)には特に注意し、出血が続く場合はガーゼで圧迫し、看護師に報告します。舌苔(ぜったい、舌の表面につく白い汚れ)を無理にこすり落とそうとすると舌の粘膜を傷つけることがあるため、1度に数回程度ブラシを動かし、少しずつ取っていく方法が推奨されています。

頻度と1回の時間を調整する

体力が落ちている利用者にとって、長時間のケアはそれ自体が負担になります。1回のケアを短時間で区切り、様子を見ながら1日に複数回に分けて行う方が、本人の負担を減らせます。表情や体の緊張、手を払いのけるような動作があれば、ケアを中断するサインとして受け止めます。ケアの途中で疲れた様子が見られたら、無理に最後まで終わらせようとせず、保湿だけを行って切り上げる判断も必要です。

義歯の扱い

義歯を使用していた利用者では、外したままにするか装着したままにするかを、看護師・家族と相談して決めます。顔貌の維持という観点では装着を続けるメリットがありますが、意識レベルが下がり誤嚥リスクが高い場面では、就寝中や意識がはっきりしない時間帯は外すなど、状態に応じた判断が必要です。義歯を外した後も、義歯自体の清掃と保管(乾燥させず専用の保存液や水に浸けておく)を怠らないことが、口腔内トラブルの予防につながります。

意識レベルが下がった状態での注意点

看取り期・終末期は、傾眠傾向が強まり、1日の大半を眠って過ごすようになる時期です。声をかけても反応が弱くなり、最終的には終日ほとんど反応がなくなっていきます。この段階の口腔ケアには、意識がはっきりしている時期とは異なる注意点があります。

誤嚥・むせのリスク管理

意識レベルが下がると、嚥下反射や咳反射(むせて異物を排出する力)も弱くなります。口腔ケアで使った水分や唾液、分泌物を誤嚥させないための工夫が必須です。

  • 水を使う洗浄は避け、ガーゼやスポンジブラシに保湿剤を含ませて拭き取る方法にする(うがいができない前提でケアを組み立てる)
  • ケア中はベッドをできる範囲で挙上するか、顔を横に向けた側臥位にして、分泌物が喉の奥に流れ込まないようにする
  • スポンジブラシは絞ってから使い、水分を含ませすぎない
  • 口腔内にたまった分泌物は、無理に吸引せず、スポンジブラシでそっとぬぐう。頻回な吸引はかえって本人の負担になることがあるため、必要性を看護師と相談する

死前喘鳴(しぜんぜんめい)への対応

亡くなる数時間から1日ほど前になると、喉の奥でゴロゴロという音がする「死前喘鳴」が現れることがあります。これは唾液をうまく飲み込めなくなるために起こる自然な変化で、本人が苦しんでいるとは限らないとされています。家族が不安に感じやすい症状のため、体の向きを工夫して分泌物の影響を和らげつつ、口腔内にたまったものをスポンジブラシでそっとぬぐう対応が現場では行われています。「苦しそうに見えるが必ずしも苦痛とは限らない」という情報を、あらかじめ家族に伝えておくことも、看取り期の家族対応の一部です。

反応がなくても声をかけながら行う

意識レベルが下がっていても、聴覚は比較的最後まで保たれるといわれています。ケアを始める前後には「お口をきれいにしますね」「さっぱりしましたね」など、これから行うことと終わったことを声に出して伝えます。これは本人への配慮であると同時に、そばにいる家族に「乱暴に扱われていない」という安心感を伝える役割も持ちます。

異常時は速やかに看護師へ報告する

止まらない出血、口腔内の急激な変化、呼吸状態の変化を伴う場合は、その場の判断で対応を続けず、速やかに看護師に報告し指示を仰ぎます。看取り期は状態の変化が早いため、「いつもと違う」と感じた時点で共有することが、本人の安全と家族の安心の両方につながります。日々のわずかな変化に気づけるのは、日常的にケアを担う介護職ならではの強みでもあります。

家族が立ち会う場面での配慮

看取り期には、家族がベッドサイドに付き添う時間が増えます。口腔ケアを家族の前で行う場面、あるいは家族自身がケアに参加したいと申し出る場面も出てきます。

「なぜ今もケアをするのか」を言葉で伝える

家族の中には「もう食べていないのに、なぜ口の中をケアするのか」と疑問を持つ人もいます。ここで「決まりだから」と説明を省略すると、家族には機械的なケアに映ってしまうことがあります。「乾燥で本人がつらくないように」「口の中をきれいにして、少しでも楽に過ごしてもらうために」など、快適性を保つためのケアであることを、その都度短く伝えることが信頼につながります。佐賀県が公開する看取りケアの手引きでも、経口摂取が止まった後の口腔内保湿・清潔保持について、氷片や本人の好む飲み物で唇を湿らせるといった、家族と一緒に行える工夫が紹介されています。

家族にできることを具体的に提案する

「何かしてあげたい」という家族の気持ちに応える形で、唇を保湿剤で湿らせる、好きな香りのする物を近づける、手を握りながら声をかけるなど、専門的な手技を要さない範囲でできることを具体的に提案すると、家族が役割を持って付き添う助けになります。無理に勧めず、家族の意向を確認しながら進めます。

ケアの様子を見られることを前提に振る舞う

家族が同席している状態でのケアは、家族にとって「最期にどう扱われているか」を目にする時間でもあります。動作を急がず、声をかけながら、丁寧に行っていることが伝わるようにします。処置的な速さよりも、本人と家族双方への配慮が伝わる進め方を意識します。

ケア後の声かけも忘れない

ケアが終わった後、「きれいになりましたね」「楽になったと思います」など、結果を家族と共有する一言を添えることで、家族はケアの意味を実感しやすくなります。これは看取り期の家族対応における基本的なコミュニケーションの延長線上にあり、口腔ケアの場面でも同様に大切です。

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看取り期口腔ケアコンフォートケア看取り肺炎受容誤嚥性肺炎嚥下

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多職種(看護師・歯科)との連携

看取り期・終末期の口腔ケアは、介護職だけで完結させるものではありません。厚労省資料が示す「終末期における歯科医療・ケアの意思決定に関わるチェック項目」では、口腔内清掃状態、口腔乾燥・口内炎・口臭の問題、粘膜の裂傷や潰瘍の有無、義歯の使用状況を医療職が確認し、本人・家族への質問や要望を確認する体制が想定されています。介護職が担う役割は、こうした変化に日々のケアの中で最初に気づく「観察」の部分です。

看護師と共有すべき情報

  • 口腔内の乾燥の程度、痂皮の付着状況
  • 出血の有無、部位、量
  • 口臭の変化
  • 粘膜の傷・潰瘍・カンジダ症を疑う白斑の有無
  • 義歯の適合状態(緩み、痛みを訴える様子の有無)
  • ケア時の反応(表情、拒否のしぐさ、痛みのサイン)

これらは看護記録やケア記録に定型化して残すと、変化の推移を多職種で追いやすくなります。ある施設の多職種連携の実践例では、口腔ケアの施行率や口腔乾燥・出血・舌苔の有無を看護師がカルテに詳細に記録することで、すぐに対応できる体制につながったと報告されています。

訪問歯科・歯科衛生士との連携

要介護高齢者の口腔ケアでは、施設介護者・看護師による日常的な口腔清掃に加え、歯科医師・歯科衛生士による週1回程度の専門的口腔清掃を組み合わせることで、誤嚥性肺炎の予防効果が高まることが介入研究で示されています。看取り期に入っても、痛みの緩和や義歯調整など歯科が対応できる範囲は残っており、訪問歯科の継続的な関わりを打ち切らずに相談できる体制があるかどうかを、ケアマネジャーや看護師と確認しておくことが望ましいといえます。

ケアカンファレンスでの共有

看取り期に入る前後のカンファレンスでは、身体状況の変化だけでなく、口腔内の状態や口腔ケアの方針も議題に含めます。「これまで通りの清掃を続けるのか」「保湿中心の緩和的なケアに切り替えるのか」といった方針転換のタイミングを、医師・看護師・介護職・歯科(関わっている場合)で共有しておくと、担当者ごとにケア内容がばらつくことを防げます。

看取り期の口腔ケアに使う主な物品

  • 軟らかいナイロン毛の歯ブラシ(小さめヘッド):粘膜を傷つけにくい。動物毛のブラシは細菌繁殖のリスクがあるため避ける
  • スポンジブラシ・口腔ケア用モアブラシ:粘膜や舌の清拭、痂皮のふやかし取りに使う
  • 口腔保湿ジェル・保湿スプレー:乾燥した粘膜の保護と不快感の軽減に。ブラッシング前後の保湿に使う
  • ガーゼ:指に巻いて口腔内を拭う、出血時に圧迫止血する際にも使う
  • ペンライト・懐中電灯:口腔内の視認性を確保し、出血や潰瘍の早期発見につなげる
  • 吸引器(必要時):分泌物が多い場合に備えるが、頻回な使用は本人の負担になるため必要性を都度判断する

使用する物品は施設や訪問看護の方針によって異なるため、看護師と確認しながら揃えます。刺激の強い洗口液や発泡性の強い歯磨き粉は、誤嚥のリスクや粘膜への刺激を避けるため、看取り期には使用を控えるのが一般的です。

現場で意識したい3つのポイント

1. 「ケアをやめる」ではなく「ケアの目的を変える」と考える

経口摂取が終わったタイミングで口腔ケアの頻度や内容を見直すことはあっても、ケア自体をやめる判断にはつながりません。目的が「清掃」から「快適性の維持」に変わるだけで、必要性は続きます。この考え方をチーム内で言語化しておくと、担当者による対応のばらつきを防げます。

2. その日の体調でケア内容を調整する

看取り期は状態の変動が大きく、前日にできていたケアが翌日にはできない、ということが起こります。決まった手順をそのままなぞるのではなく、その日の呼吸状態、反応の有無、口腔内の様子を見て、拭き取りだけにとどめる、保湿だけにする、といった柔軟な判断が必要です。無理にいつも通りの手順を完遂しようとしないことも、本人への配慮の一つです。

3. 迷ったら一人で抱え込まず相談する

「これは続けていいのか」「この出血は様子を見ていいのか」といった判断に迷う場面は少なくありません。看取り期は状態変化が早いため、迷った時点で看護師やケアマネジャーに相談する姿勢が、本人の安全とチームの安心感の両方を支えます。判断を一人で抱え込まないことは、担当する介護職自身の心理的な負担を減らすことにもつながります。

よくある質問(FAQ)

Q. 意識がないように見えても、声をかける意味はありますか?

聴覚は比較的最後まで保たれるといわれており、反応がなくても「お口をきれいにしますね」など、これから行うことを伝えながらケアを行うことが勧められています。本人への配慮であると同時に、そばにいる家族への安心感にもつながります。

Q. 出血しやすいのですが、ケアを続けてよいですか?

出血の原因や程度によります。軽い出血であれば、力を抜いた手技への切り替えと保湿の徹底で改善することがありますが、出血が続く、量が多い場合は自己判断で継続せず、看護師に報告し指示を仰ぎます。ブラッシングを一時的に拭き取り中心のケアに切り替えることも選択肢です。

Q. 家族から「かわいそうだからケアはしないで」と言われたら?

家族の気持ちをまず受け止めた上で、口腔ケアが「治療」ではなく「乾燥や不快感を防ぐためのケア」であることを、専門用語を避けて説明します。それでも家族の意向が強い場合は、看護師やケアマネジャーと共有し、本人にとって苦痛の少ない範囲でのケア内容(保湿のみなど)に調整できないか、チームで検討します。

Q. 死前喘鳴があるとき、口腔ケアはしてもよいですか?

死前喘鳴は唾液をうまく飲み込めないために起こる自然な変化とされています。無理な吸引よりも、体位の工夫とスポンジブラシによる分泌物の優しい拭き取りが現場では行われています。対応に迷う場合は看護師と相談しながら進めます。

Q. 義歯は外したほうがいいですか、つけたままがいいですか?

顔貌の維持という観点では装着を続けるメリットがありますが、意識レベルが下がり誤嚥のリスクが高まっている場合は、就寝中や反応が乏しい時間帯は外すなど、状態に応じて看護師・家族と相談しながら判断します。

参考文献・出典

  • [1]
    終末期における歯科医療(第2回終末期懇談会 資料2-4)- 厚生労働省・日本歯科医師会

    終末期の歯科的対応の目的、意思決定チェック項目、誤嚥性肺炎予防に関する介入研究データ(米山武義・吉田光由ら, 2001年)を掲載

  • [2]
    人生の最終段階における医療・ケア(意見交換会資料)- 厚生労働省

    人生の最終段階における口腔健康管理の重要性、意思決定支援に関する議論を掲載

  • [3]
    介護施設での看取り(看取りケアの手引き)- 佐賀県

    終末期の身体変化、経口摂取終了後の口腔内保湿・清潔保持の具体的な工夫を掲載

  • [4]
    口腔ケアの介助のポイント|今日から始める口腔ケア- 日本訪問歯科協会

    介助が必要な高齢者への口腔ケアの手技・注意点を解説

関連する公的データ(本文の補足)

看取り期の体制に関わる介護サービスの供給データ

在宅での看取りは、訪問診療・訪問看護に加えて、日々の身体ケアを担う訪問介護の訪問回数を最期に向けて増やしていける体制が前提になります。施設での看取りを選ぶ場合は、看取り対応する施設の供給が判断材料になります。本サイトが集計した厚生労働省由来のデータでは、訪問介護の事業所は全国に35,172件、75歳以上人口1万人あたりでは16.9件です。

サービス種別全国事業所数75歳以上1万人あたり最も供給が厚い県最も薄い県
訪問介護35,172件16.9件大阪府(34.8件)新潟県(8.8件)
特別養護老人ホーム8,442件4.1件島根県(6.8件)愛知県(2.7件)

訪問介護の供給密度は、最も厚い大阪府(75歳以上1万人あたり34.8件)と最も薄い新潟県(同8.8件)で約3.9倍の開きがあります。看取り期は訪問回数が急に増えるため、平時から関係のある事業所の供給余力が問われます。供給が薄い地域で在宅看取りを希望する場合は、早い段階から夜間・緊急時の体制を具体的に詰めておく必要があります。

口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に直結します。通いのサービスでの口腔機能向上プログラムと、訪問歯科による定期チェックを組み合わせるのが効果的です。ケアマネと訪問診療医には「夜間・深夜の訪問体制」と「最期の数週間の訪問回数の増やし方」を、施設検討の場合は「看取り介護加算の算定実績」を確認しましょう。

出典: 厚生労働省 介護サービス情報公表システム掲載データに基づく本サイト集計(事業所数)、総務省統計局 人口推計(2024年10月1日現在)。事業所数は公開データの登録状況により変動します。

まとめ

看取り期・終末期の口腔ケアは、経口摂取が終わった後こそ目的を切り替えて続ける必要があります。清掃中心のケアから、乾燥・痛み・出血を防ぐコンフォートケアへ。歯ブラシの力を抜き、保湿を最優先にし、誤嚥・むせのリスクに配慮しながら、意識レベルが下がった状態でも本人に声をかけ続けること。そして、家族が立ち会う場面では「なぜ今もケアを続けるのか」を丁寧に言葉にし、看護師・歯科と観察情報を共有すること。これらの積み重ねが、本人が最期まで少しでも快適に過ごすための支えになります。

手技も判断も、健常時の口腔ケアの延長線上でそのまま行えるものではありません。「これまで通りのやり方が正しいのか」と迷ったときこそ、目的が清掃から快適性の維持へ切り替わっていることを思い出し、チームで確認しながら進めてください。

この記事で扱ったのは看取り期・終末期という局面に絞った口腔ケアです。看取りケア全般の流れや心構えについては別記事、口腔ケアの基本的な手順や拒否対応については別記事で詳しく解説しています。あわせて確認し、状況に応じたケアの引き出しを増やしてください。

医療・健康情報に関する免責事項

本記事は、介護現場で働く方および介護職への転職を検討される方に向けた一般的な情報提供を目的としており、 個別の症状に対する医学的な診断・治療を行うものではありません。

ご本人・ご家族の症状やケア方法について判断が必要な場合は、必ず医師・看護師・薬剤師・言語聴覚士・理学療法士・作業療法士等の有資格者にご相談ください。 介護保険サービスの利用判断についてはケアマネジャー、行政手続きについては各市区町村の窓口にお問い合わせください。

掲載情報は公開時点の各種公的資料・業界資料に基づき作成していますが、最新の制度・診療ガイドライン等と異なる場合があります。

公開日: 2026年7月1日最終更新: 2026年7月1日

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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介護現場のTips

  • 終末期に食べられなくなったら、栄養より口腔・唇の保湿を優先する

    終末期に入り食事量が落ちてきた利用者に、無理に食べさせようとするのは逆効果になりやすい。飲み込む力が弱ると誤嚥や窒息のリスクが上がるためだ。「食べさせること」から「口の中を快適に保つこと」へ、ケアの目標を切り替えたい。

    実務では、次の順で優先度を組み替えると迷いにくい。

    • 唇・口腔の保湿を最優先にする。口呼吸で唇が乾いて切れやすいので、白湯やジェルでこまめに湿らせる。
    • 少量のお楽しみ程度にとどめる。本人が欲しがるものを、むせない量で。栄養量の確保を目標にしない。
    • 吸引や口腔ケアは、覚醒のよいタイミングを選ぶ。

    あわせて意識しておきたいのが、聴覚は最期まで残るとされる点だ。反応が乏しくなっても、ケアの前に「お口をきれいにしますね」と一声かけ、家族にも「声は届いていますよ」と伝えると、家族が最後まで関わる支えになる。口腔と声かけは、食べられなくなってからこそ効くケアだと押さえておきたい。

看取り期・終末期の口腔ケア|食べられなくなった後も続ける理由と優しい手技
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