
肺炎(高齢者)とは
高齢者の肺炎は市中肺炎(CAP)・医療介護関連肺炎(NHCAP)・院内肺炎(HAP)に分類され、誤嚥性肺炎を含む。2026年定期接種化のPCV20など最新ワクチンと施設での予防策を体系整理。
この記事のポイント
高齢者の肺炎は、肺胞や気管支に細菌・ウイルスが感染して炎症を起こす疾患で、日本人の死因上位を占めます。発症場所により市中肺炎(CAP)、医療・介護関連肺炎(NHCAP)、院内肺炎(HAP)に分類され、誤嚥性肺炎は多くがNHCAPに含まれます。65歳以上は肺炎球菌ワクチンの定期接種対象で、2026年4月からはPCV20(プレベナー20)に切り替わります。
目次
肺炎の3分類と高齢者での位置づけ
肺炎は2024年改訂の日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン」で、発症場所と耐性菌リスクに基づき3区分に分類されます。介護施設で働く看護職・介護職にとって、利用者の肺炎がどのカテゴリかを理解することは、原因菌・抗菌薬選択・搬送判断の基礎になります。
- 市中肺炎(CAP: Community-Acquired Pneumonia):医療・介護への接触のない一般地域住民で発症する肺炎。原因菌は肺炎球菌・マイコプラズマ・インフルエンザ菌などが中心で、耐性菌リスクは低い。
- 医療・介護関連肺炎(NHCAP: Nursing and Healthcare-Associated Pneumonia):①長期療養施設・介護施設入所者、②90日以内の入院歴、③要介護高齢者・身体障害者、④外来で継続的な血管内治療(透析・抗菌薬・化学療法・免疫抑制剤)を受けている、のいずれかを満たす患者の肺炎。誤嚥性肺炎が多くを占め、耐性菌・MRSA・緑膿菌のリスクがCAPより高い。
- 院内肺炎(HAP: Hospital-Acquired Pneumonia):入院48時間以降に発症した肺炎。挿管・人工呼吸器関連肺炎(VAP)を含む。耐性菌リスクが最も高く、抗菌薬選択も慎重になる。
2024年版ガイドラインで再びNHCAPとHAPが分けられたのは、両者で耐性菌リスク要因が異なるためです。介護施設での肺炎は多くがNHCAPとして扱われ、誤嚥性肺炎・インフルエンザ後二次性肺炎・RSウイルス感染後肺炎などを含みます。
高齢者の肺炎は典型的な発熱・咳・痰の3徴がそろわないことが多く、「食欲低下」「ぼんやりしている」「いつもと違う」という非典型症状で発見されることが現場の実感です。バイタルサインの細かい変化を見逃さない観察力が命を守ります。
肺炎球菌ワクチンの選択肢(2025〜2026年最新)
日本感染症学会「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」(第7版・2025年9月)と、定期接種制度の2026年4月変更を踏まえた最新の選択肢です。
| ワクチン | カバー血清型 | 定期接種の位置づけ | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| PPSV23(ニューモバックス) | 23価多糖体 | 2026年3月まで定期接種、それ以降は任意 | 従来主役。免疫記憶は弱く、効果持続は約5年。再接種は原則選択肢から外れた。 |
| PCV15(バクニュバンス) | 15価結合型 | 任意接種 | 免疫記憶を誘導。PCV15→1年後PPSV23の連続接種スキームが選択肢。 |
| PCV20(プレベナー20) | 20価結合型 | 2026年4月から定期接種 | 1回接種で長期効果。65歳時の標準ワクチンとなる。 |
| PCV21(キャップバックス) | 21価結合型 | 任意接種(2025年10月発売) | 成人で増えている血清型をカバーし、65歳以上のカバー率72.3%(PCV20は42.8%)。 |
2026年4月以降の介護施設での実務ポイントは次の3つです。
- 新規65歳の利用者はPCV20を1回定期接種で完了(自己負担数千円〜0円、自治体差あり)
- 過去にPPSV23を接種した利用者はPCV20またはPCV21の追加接種を主治医と相談。再PPSV23は原則選択肢から外れた。
- 慢性疾患(COPD・心不全・糖尿病・腎不全)持ちの利用者は年齢にかかわらず接種推奨
インフルエンザワクチンとの同時接種が可能で、二次性細菌性肺炎の予防に大きな効果があります。
現場で気づく肺炎のサイン
介護現場で「いつもと違う」と感じたら、肺炎を疑って観察を強化するきっかけにしてください。
- 食欲低下・水分摂取量の減少:「いつも完食する人が半分残した」「お茶を飲まない」は肺炎の初期サインのことがあります。連続2日以上続けば要注意。
- SpO2の低下:パルスオキシメーターで普段95〜98%の人が93%以下に下がったら緊急サイン。室内気で測定し、安静時5分後の値を記録。
- 呼吸数の増加:高齢者は呼吸数22回/分以上で「速い呼吸」と判断。重症肺炎の早期指標。
- 意識レベルの変化:「ぼーっとしている」「会話のキレが悪い」「眠そう」は低酸素・敗血症のサイン。普段との比較が決め手。
- 微熱・体温の揺らぎ:高齢者は38℃以上の高熱が出にくく、37℃台の微熱や、平熱低下(35℃台)でも肺炎が進行していることがあります。
- 痰の性状変化:透明だった痰が黄色〜緑色になった、量が増えた、血が混じる時は明らかな炎症サイン。
- 頻脈・血圧低下:脈拍100回以上、収縮期血圧100mmHg以下は敗血症性ショックの危険域。即搬送判断。
「qSOFAスコア(呼吸数22回以上・収縮期血圧100以下・意識変化)」のうち2項目以上が該当すれば、敗血症の可能性を考え救急要請を検討します。日本呼吸器学会の「A-DROP」「I-ROAD」スコアも、施設での重症度判定の参考になります。
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肺炎が疑われたときの対応フロー
厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き」と日本呼吸器学会ガイドラインを踏まえた、施設での標準的な対応です。
- バイタル測定と観察強化:体温・血圧・脈拍・呼吸数・SpO2を測定。普段の数値との比較で「いつもと違う」を客観化する。
- 嘱託医・往診医への連絡:SpO2 93%未満、呼吸数22回/分以上、意識変化、収縮期血圧100mmHg以下のいずれかで早期連絡。
- 胸部X線・血液検査の手配:嘱託医が施設内で対応するか、外来受診で確定診断。CRP・白血球・血液ガスで重症度を評価。
- 抗菌薬投与:NHCAPでは耐性菌リスクを考慮しβラクタム系(セフトリアキソンなど)+ マクロライドの組み合わせやレスピラトリーキノロン(レボフロキサシン等)が選択肢。経口・注射の判断は重症度による。
- 水分・栄養・体位の管理:脱水の補正(点滴)、嚥下機能の評価、ファウラー位(30〜45度頭部挙上)の徹底で誤嚥を防ぐ。
- 搬送判断:A-DROPスコア3点以上、qSOFA 2項目以上該当、SpO2低下が酸素投与で改善しない場合は入院搬送を検討。家族・本人の意向(ACP)も確認。
- 感染対策:MRSA・緑膿菌など耐性菌のリスクがある場合は接触予防策を強化。同室者への感染予防のため、必要に応じて個室移動。
- 記録と振り返り:発症経過・治療・転帰を記録し、感染管理委員会で再発防止策を検討。施設のBCPに反映。
平時からできる肺炎予防
- 口腔ケアの徹底:口腔内細菌が誤嚥や血行性感染で肺炎の原因になります。毎食後の口腔ケアと週1回以上の歯科衛生士関与が、肺炎発症率を下げる効果が示されています。
- ワクチン接種率の向上:肺炎球菌ワクチン+インフルエンザワクチン+新型コロナワクチンの3点セットで、施設での重症肺炎発生率を大幅に下げられます。利用者・職員の接種記録を一元管理。
- 食事姿勢と嚥下評価:30度以上の頭部挙上、軽い顎引き姿勢、一口量の調整、水分のとろみ。看護職とST(言語聴覚士)の連携で誤嚥性肺炎を予防。
- 呼吸リハ・痰の喀出支援:体位ドレナージ、ハッフィング指導、必要時の吸引。寝たきり利用者では1日数回の体位変換と背部叩打。
- 禁煙環境の確保:喫煙はCOPDや肺炎の最大リスク。施設内禁煙に加えて職員自身の喫煙率を下げる取り組みも。
- 栄養管理:低栄養(アルブミン3.0g/dL未満)は肺炎発症・重症化の独立リスク。管理栄養士と連携した栄養介入を継続。
「肺炎は予防できる感染症」という認識を施設全体で共有し、口腔ケア・ワクチン・嚥下対応の3本柱を組織的に運用するのが、看護師・介護職・管理栄養士・ST・歯科衛生士の多職種チームの仕事です。
よくある質問
Q1. 誤嚥性肺炎と一般の肺炎の違いは?
原因が異なります。誤嚥性肺炎は口腔・咽頭の細菌や食物を誤嚥して起こる肺炎で、嚥下機能低下が背景。一般の市中肺炎は外から吸い込んだ肺炎球菌・マイコプラズマなどが原因。介護施設では誤嚥性肺炎が多くを占めますが、ウイルス感染後の二次性肺炎や、体外からの肺炎球菌感染も無視できません。詳細は誤嚥性肺炎の用語集ページを参照。
Q2. PPSV23を5年前に打ちました。次は何を打てばいいですか?
2025年9月の日本感染症学会の方針で、PPSV23の再接種は原則選択肢から外れました。PCV20またはPCV21の追加接種を主治医と相談してください。免疫記憶を誘導する結合型ワクチン(PCV20/21)への切り替えが推奨されます。
Q3. 肺炎で入院すると認知機能が下がるのは本当ですか?
本当です。重症肺炎での入院は「せん妄」を高頻度で引き起こし、認知機能の長期的低下や寝たきり化の引き金になります。施設では肺炎の早期発見・予防を徹底することが、認知機能維持にも直結します。
Q4. 抗菌薬を飲むと耐性菌が出ますか?
不必要な抗菌薬使用や中途半端な投与は耐性菌(MRSA・ESBL産生菌等)を生みます。介護施設では「風邪に抗菌薬は不要」「処方されたら最後まで飲む」を徹底し、AMR(薬剤耐性)対策に協力しましょう。
Q5. 在宅で看取りを希望する場合、肺炎は治療しないこともありますか?
ACP(人生会議)で本人・家族の意向を確認し、積極的治療ではなく症状緩和を優先する選択も尊重されます。リビングウィルや事前指示書を踏まえた多職種カンファレンスで方針を決定するのが望ましい流れです。
参考資料
- 日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2024」
- 日本感染症学会「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」(2025年9月30日)
- 厚生労働省「高齢者の肺炎球菌ワクチン定期接種」
- 厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第2版」
- 日本老年医学会「NHCAPガイドラインと抗菌薬使用の考え方」
関連する詳しい解説
- 📖 親トピック: 介護現場で働く看護師のリアル|特定行為・医療安全・オンライン診療まで
- 🔗 関連用語: 誤嚥性肺炎とは — NHCAPの中核を占める病態
- 🔗 関連用語: インフルエンザ(高齢者)とは — 二次性細菌性肺炎の主因
- 🔗 関連用語: COPDとは — 肺炎合併で重症化する代表疾患
- 🔗 関連用語: バイタルサインとは — A-DROP・qSOFAの基本観察
- 🔗 関連用語: 口腔ケアとは — 肺炎発症率を下げる予防法
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まとめ
高齢者の肺炎は、市中肺炎・医療介護関連肺炎(NHCAP)・院内肺炎の3区分で原因菌・治療が異なります。介護施設で多いのはNHCAPで、誤嚥性肺炎を含みます。SpO2低下・呼吸数増加・意識変化の3点を毎日の観察で押さえ、2026年4月から定期接種化されるPCV20やインフルエンザワクチンを併用することで、施設での重症化・搬送・死亡を大きく減らせます。口腔ケア・嚥下評価・栄養管理を多職種で回す、組織的な予防体制が問われています。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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