
入院関連機能低下(hospital-associated disability)とは|高齢者が入院で動けなくなる現象の研究エビデンスを介護職目線で読み解く
高齢者が入院をきっかけに病気とは別の理由でADLが低下する「入院関連機能低下(HAD)」を、発生頻度・安静の害・早期離床の効果・せん妄との関連の研究データから解説。退院後の在宅復帰・生活機能回復支援に介護職がどう活かすかまで、限界も含めて読み解きます。
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結論:入院関連機能低下とは何か
入院関連機能低下(にゅういんかんれんきのうていか/hospital-associated disability=HAD)とは、高齢者が入院をきっかけに、もとの病気そのものとは別の理由で、入院前にはできていた日常の動作(着替え・トイレ・入浴・移動・食事など)ができなくなってしまう現象のことです。
原因は「病気が重かったから」だけではありません。ベッドで安静に寝て過ごす時間が長くなること、点滴やカテーテルで動きを縛られること、慣れない環境で混乱すること、食べられず栄養が落ちること。こうした入院という体験そのものに伴う要因が、筋力や体力を急速に奪っていきます。
研究では、急性期の病院に入院した高齢者のおよそ3〜4割が、退院までに何らかの動作の自立度を落とすと報告されています。しかも、入院前のレベルまで戻れない人が一定数いることもわかっています。一方で、入院中から体を動かす働きかけ(早期離床・運動)をすると、この低下をある程度防いだり取り戻したりできることも示されています。
つまりHADは「年だから仕方ない」ものではなく、関わり方しだいで結果が変わりうる、介護職が深く関われる領域だということです。この記事では、その根拠となる研究データを正確に、限界も含めて読み解きます。
目次
はじめに:入院から帰ってきた利用者が別人のようになっていた経験
「入院前は自分でトイレに行けていたのに、退院して戻ってきたら歩けなくなっていた」「肺炎は治ったはずなのに、すっかり元気がなくなって寝てばかりになった」。施設でも在宅でも、入院をはさんで利用者の生活機能がガクッと落ちる場面に、多くの介護職が立ち会ってきたはずです。
これは個々の利用者のたまたまの不運ではなく、世界中の研究者が数十年かけて記録してきた、再現性のある現象です。海外では hospital-associated disability(入院関連機能低下、HAD)、あるいは hospital-acquired disability と呼ばれ、「病気の治療のために入院したのに、入院そのものが新しい障害を生む」という、医療と介護の境目で起きる問題として注目されてきました。
大事なのは、これが避けられない老化ではなく、予防や回復の余地があるとわかってきていることです。そして介護職は、退院後の生活を立て直す場面、入院前の生活の様子を病院に伝える場面、施設で「動ける体」を保つ場面など、この問題のあらゆる局面に関わっています。
この記事では、HADがどれくらいの頻度で起き、なぜ起き、何をすると変わるのかを、できるだけ原典の研究データに沿って整理します。数字の意味と「ここまでは言えるが、ここからは言えない」という限界も、ていねいに添えていきます。
入院関連機能低下(HAD)という考え方の背景
入院関連機能低下とは、入院前にできていた基本的な日常生活動作(ADL=Activities of Daily Living。入浴・着替え・トイレ・移動・食事といった、生活の土台になる動作)の自立度が、入院を経て下がってしまう状態を指します。多くの研究では、入院の2週間前の状態を「もともとのレベル(ベースライン)」とし、それと退院時を比べて、できなくなった動作があればHADありと判定します。
この考え方が広まった背景には、「治療は成功したのに患者は弱って帰る」という現場の長年の違和感があります。古くから「入院の害(hazards of hospitalization)」という言葉で、ベッド上安静・環境変化・多剤投与・低栄養などが高齢者の体を蝕むことが指摘されてきました。HADは、その害が最終的に「生活動作の喪失」という形で表面化したものだと整理できます。
重要なのは、HADが病気の重さだけでは説明しきれない点です。同じ病気・同じ重症度でも、入院中の過ごし方(どれだけ寝たきりで過ごしたか、いつ起き上がったか)によって退院時の動ける/動けないが変わります。だからこそ「入院に関連した(associated)」という名前がついています。これは介護・リハの関わりが結果を左右しうる、ということでもあります。
なお、似た言葉に「廃用症候群」があります。廃用症候群は安静・不活動によって全身の機能が衰える現象全般を指す広い概念で、HADはそのうち「入院をきっかけに、ADLの喪失として現れたもの」に焦点を当てた、より具体的で測定可能な指標だと考えると整理しやすいでしょう。
研究データ:どれくらいの頻度で、どこまで起きるのか
HADがどのくらい一般的かを、原典の研究にあたって整理します。比べやすいように、研究の専門用語はかみくだいて添えます。
1. 発生頻度:入院した高齢者の3〜4割
複数の研究を統合した解析(メタ解析=たくさんの研究の結果をまとめて計算し直したもの)が2つあります。
- Loyd ら(2019年・JAMDA):15研究・約7,375人(平均年齢はおおむね74〜84歳)をまとめた結果、退院時にHADがみられた人の割合は約30%(おおよそ24〜36%の幅に収まる)でした。入院2週間前を基準にして退院時と比べた厳しめの集計では約33%でした。
- Giacomino ら(2023年・PeerJ):別の手法でまとめた解析では、HADの発生は約37%(おおよそ30〜43%の幅)と、やや高めに出ています。
研究によって幅はありますが、急性期に入院した高齢者の、ざっくり3人に1人前後がADLの自立度を落とす、というのが共通したメッセージです。「3〜4割」という現場感覚が、数字でも裏づけられています。
2. 年齢が上がるほど起きやすく、戻りにくい
米国の大規模な前向き調査(おおぜいを時間を追って観察した研究)として、Covinsky ら(2003年・JAGS)が、70歳以上で内科の病気で入院した2,293人(平均80歳)を調べています。退院時にADLが入院前より低下していた人の割合は、年齢が上がるほど明確に増えました。
| 年齢層 | 入院前→退院時にADLが低下した割合 |
|---|---|
| 70〜74歳 | 23% |
| 75〜79歳 | 28% |
| 80〜84歳 | 38% |
| 85〜89歳 | 50% |
| 90歳以上 | 63% |
さらにこの研究は、低下の「中身」も分けています。全体の35%が低下しましたが、その内訳には「入院前にすでに落ちて、入院中も戻らなかった人(23%)」と「入院中に新たに落ちた人(12%)」がいました。90歳以上は、入院前に落ちた機能が戻りにくく、入院中に新しく機能を失いやすい傾向がはっきり示されています(最も若い層と比べ、回復しにくさや新規低下のなりやすさが2〜3倍前後)。「退院=回復」ではないことを、数字が示しています。
3. 入院中、高齢者はほとんど寝て過ごしている
なぜこれほど起きるのか。背景の一つが、入院中の極端な不活動です。Brown ら(2009年・JAGS)は、歩いて入院できた高齢者でも、入院中は1日のおよそ8割以上をベッドで横になって過ごし、歩く時間は1日あたり43分にも満たなかったと報告しています。体力や筋力の衰え(デコンディショニング)は入院2日目には始まりうるとされ、安静そのものが体を弱らせていきます。同じ研究の流れでは、入院中によく動けていた人に比べ、動けていない人で施設入所や死亡のリスクが高い関連も示されています(ただしこれは観察研究であり、もともと重症な人ほど動けない、という逆向きの影響も混じる点に注意が必要です)。
研究データ:動かすと変わる/せん妄・低栄養との関連
4. 入院中から運動すると、機能低下を防ぎ、むしろ改善した(RCT)
HADが「避けられない老化」ではないことを最も強く示すのが、Martínez-Velilla ら(2019年・JAMA Internal Medicine)のランダム化比較試験(くじ引きで2グループに分け、片方にだけ介入して効果を比べる、効果を最も確かめやすい方法)です。平均87.3歳という非常に高齢の入院患者370人を、ふだんの入院ケアだけのグループと、入院中に体を動かすプログラム(おおむね5日間・1日数回の運動)を加えたグループに分けました。
- 歩行や立ち座りなどの身体機能の点数(SPPB。点が高いほど良い・12点満点)は、運動グループのほうが2.2点高い結果でした(この差はおおよそ1.7〜2.6点の幅に収まり、偶然では説明しにくい差)。
- ADLの自立度の点数(バーセル指数。点が高いほど自立・100点満点)も、運動グループのほうが6.9点高い結果でした。
- 注目すべきは対照グループの動きです。ふだんのケアだけのグループはバーセル指数が入院前より平均5.0点低下した一方、運動グループは1.9点改善しました。「何もしなければ下がる」のが、「動かせば下げ止まり、むしろ上がる」に変わったのです。
ただし限界もあります。これは一つの研究チーム・特定の病棟での結果で、すべての高齢患者・すべての病院に同じ効果が出るとは限りません。重症で運動できない人は対象から外れている可能性もあります。それでも「動かす介入で機能の予後が変わりうる」という方向性は、現場の関わりを後押しする重要なエビデンスです。
5. せん妄がHADの「橋渡し」になっている
入院中に起きる急な混乱・注意のもうろう(せん妄)も、HADと深く関わります。入院した高齢者の1〜4割が入院中にせん妄を起こすとされ、せん妄は入院期間の延長や予後の悪化と結びつくことが多くの研究で示されています。
米国の大規模研究(Freeman ら・2023年・JAMDA/約3.3万人・5万件超の入院)では、HADを起こした人の21.6%がHADありと判定され、HADを起こした人はせん妄の割合が高い(HADあり24.3% 対 HADなし14.3%)こと、そして統計的に分析すると「認知症がHADを招く影響の約47%は、間にせん妄が挟まることで説明できた」と報告されています。言いかえると、せん妄を防げればHADを減らせる可能性があるということです。これは因果を確定したものではありませんが、せん妄予防(見当識の支援・睡眠リズム・脱水/便秘の管理・なじみの環境づくり)が機能を守る入り口になりうることを示しています。
6. 低栄養という土台
入院中の食欲低下・絶食・嚥下の問題による低栄養も、筋肉の合成を妨げ、機能低下を加速させます。安静で筋肉が落ちるところに、たんぱく質などの材料不足が重なると、サルコペニア(加齢や不活動・低栄養による筋肉量と筋力の低下)が一気に進みます。低栄養は単独でも入院高齢者の予後悪化と結びつくため、HADを「動かない×食べられない」の掛け算で捉えると、介護現場での着眼点が見えてきます。
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数字の正しい読み方と研究の限界
HADの研究は再現性が高い一方で、数字をそのまま断定的に受け取るのは禁物です。介護現場で語るときに踏み外さないための注意点を整理します。
- 「3〜4割」は幅のある推定値:研究によって30%・33%・37%と差があり、対象(年齢・国・病棟)や測り方(どの動作を、いつと比べるか)で変わります。「だいたい3人に1人前後」という大づかみで捉え、特定の1つの数字を絶対視しないことが大切です。
- 「病気のせい」と「入院のせい」は完全には分けられない:HADの集計には、病気そのものによる障害も混じります。研究者自身も「病気由来の低下と入院由来の低下を厳密に分離するのは難しい」と限界として認めています。HADの数字は「入院をはさんだ低下の総量」であって、すべてが安静や環境のせいだと断定はできません。
- 「動かないと施設入所・死亡が増える」は関連であって因果の証明ではない:観察研究では、もともと重症で動けない人ほど予後が悪い、という逆向きの説明(交絡)が混じります。「歩かせれば必ず長生きする」と読み替えないようにします。一方で、くじ引きで分けたRCT(Martínez-Velilla ら)が運動の効果を示している点は、関連より一歩進んだ根拠です。
- RCTの好成績も万能ではない:あの2.2点・6.9点という改善は、特定の病棟・特定のプログラム・運動できる状態の患者での結果です。重症者・終末期の人にそのまま当てはめたり、「運動すれば誰でも回復する」と一般化したりはできません。
- 海外データを日本へそのまま当てはめない:紹介した研究の多くは米国・欧州のものです。入院期間の長さ、リハの提供体制、退院後の受け皿(在宅・施設)の仕組みは日本と異なります。日本では診療報酬で早期離床・早期リハビリテーションが評価される仕組みが整えられてきていますが、頻度や効果量の数字をそのまま輸入するのではなく、「方向性(早く・安全に動かすほうが機能を守りやすい)」を学ぶ姿勢が適切です。
- 「予防できる」≠「確実に防げる」:早期離床や運動は機能低下を「減らしうる・取り戻しうる」ものであって、すべての人で防げる魔法ではありません。安全に動かせるかは医療職の判断が前提です。
介護現場でどう活かすか:退院後・施設・申し送りの3場面
HADの研究は、介護職にとって「病院で起きること」で終わりません。むしろ介護がいちばん力を発揮できるのは、入院の前後をつなぐ場面です。研究が示す「動かない・食べない・混乱する」がHADを生むという構図を、現場の動きに翻訳します。
場面1:退院後の在宅復帰・生活機能の回復支援
研究が示す通り、退院した時点が機能の底とは限らず、入院前のレベルに戻れていない人がいます。だからこそ退院後の数週間が「取り戻し」の勝負どころです。ベッドから離れて過ごす時間(座位・立位・歩行)を少しずつ増やす、トイレや食事をできる範囲で本人にやってもらう(先回りして全部介助しない)、生活の中に動作を組み込む。こうした生活リハの積み重ねが、研究で示された「動かせば下げ止まる」を在宅・通所で再現する関わりになります。本人が「もう歳だから」とあきらめている場合こそ、回復の余地があるという研究の知見が、声かけの根拠になります。
場面2:施設での生活機能の維持・低下の早期発見
施設利用者が体調を崩して入院し、戻ってきたときは、退院時の状態を「新しいベースライン」と決めつけず、入院前の記録と比べることが重要です。トイレ・移乗・食事の自立度がどう変わったかを具体的に見比べ、落ちた動作があれば回復プランの対象にします。また、施設内で発熱・脱水・骨折などから安静が続くと、施設内でもHADと同じことが起きます。「安静の指示=終日臥床」ではないか、起こせる範囲で起こしているかを、チームで点検する視点が役立ちます。
場面3:入院前の生活機能情報を病院へ確実に引き継ぐ
HADは「入院前にどれだけできていたか」を基準に判定されます。ところが病院は、入院前の本人の生活の様子を知りません。ここに介護職の固有の価値があります。「入院2週間前は手すりがあれば自分でトイレに行けていた」「箸で自力摂取できていた」「日中はリビングで過ごしていた」といった入院前のADL・生活リズムを具体的に申し送ることは、病院側が「どこまで戻すべきか」というゴールを持ち、早期離床・早期リハの目標を立てる土台になります。退院前カンファレンス(退院前の多職種会議)は、その情報を双方向に確認する絶好の場です。
科学的介護(LIFE)・多職種連携との接続
こうした関わりは、ADLの変化をデータで記録し評価につなげる科学的介護情報システム(LIFE)の発想とも相性が良いものです。入院前・退院時・回復後のADLを同じものさしで記録し、リハ職・看護・栄養とアセスメントを共有すれば、「この利用者は入院でどこを失い、どこまで取り戻せたか」を見える化できます。HADの知識は、介護職がリハ職や看護師と対等にアセスメントを語るための共通言語になります。
この知見を現場で扱うときの利点と注意点
HADという視点を持つ利点
- 「年だから」で片づけなくなる:低下を老化と決めつけず、改善の余地を探す関わりに変わる。研究という裏づけが、本人・家族への説明にも説得力を持たせる。
- 関わるタイミングが早くなる:入院前情報の引き継ぎ、退院直後の生活リハなど、「機能が固まる前」に手を打つ発想が持てる。
- 多職種の共通言語になる:医師・看護・リハと、機能低下を同じ枠組みで話せるようになり、介護職の専門性が伝わりやすくなる。
扱うときの注意点
- 過度な期待や押しつけにしない:「動かせば必ず治る」ではない。重症・終末期・本人の意思もあり、安全に動かせるかは医療職の判断が前提。本人の苦痛や希望を置き去りにした「離床第一」は本末転倒になる。
- 転倒リスクとのバランス:早く動かすことは転倒の危険と隣り合わせ。研究も安全管理を前提にしている。介護職だけで判断せず、リハ・看護と離床の可否やレベルを共有する。
- 数字をひとり歩きさせない:「入院すると3〜4割が動けなくなる」を不安をあおる形で家族に伝えない。あくまで「だからこそ前後の関わりが大事」という前向きな文脈で使う。
入院前後で介護職が見ておきたいチェックポイント
- 入院前のADLを言葉で残す:「トイレ・移乗・食事・入浴・着替え」を、どこまで自力でできていたか具体的にメモしておく。これが退院後の回復目標の基準になる。
- 入院前の生活リズムも伝える:日中起きて過ごしていたか、どれくらい歩いていたか。動作だけでなく「活動量」の情報が早期離床の目標づくりに役立つ。
- 退院時は入院前と比べる:退院直後を新しい基準にせず、入院前と何が変わったかを並べて確認する。落ちた動作が回復プランの対象。
- 退院後の数週間を意識する:機能の取り戻しが効きやすい時期。先回り介助を控え、できる動作は本人にやってもらう。
- 施設内の安静にも同じ目を向ける:発熱・骨折・脱水での安静が「終日臥床」になっていないか。起こせる範囲で起こす。
- 食事と動きをセットで見る:食べられているか(栄養)と動けているか(活動)は両輪。どちらかが崩れたら早めに多職種で共有する。
よくある質問
Q. 入院関連機能低下(HAD)は誰にでも起きますか。
全員に起きるわけではありません。研究では、急性期に入院した高齢者のおよそ3〜4割にみられ、年齢が高いほど起きやすく戻りにくい傾向があります(70代前半で2割台、90歳以上で6割超という報告もあります)。逆にいえば、起きない人も多く、関わり方で結果が変わりうる現象です。
Q. 入院中に動かすと、本当に機能低下を防げるのですか。
くじ引きで2グループに分けて比べたRCTでは、入院中に運動を加えたグループは、ふだんのケアだけのグループより身体機能・ADLの自立度が良く、対照グループが低下する一方で運動グループはむしろ改善しました。ただしこれは特定の病棟・運動できる状態の患者での結果で、すべての人に同じ効果が出るとは限りません。安全に動かせるかは医療職の判断が前提です。
Q. 「廃用症候群」とは何が違うのですか。
廃用症候群は安静・不活動で全身が衰える現象の総称で、HADはそのうち「入院をきっかけにADLの喪失として現れたもの」に焦点を当て、入院前と退院時を比べて測定できるようにした指標、と整理すると分かりやすいです。重なり合う概念です。
Q. せん妄を防ぐとHADも減るのですか。
大規模研究では、認知症がHADを招く影響のかなりの部分にせん妄が間に挟まっていることが示され、「せん妄を減らせばHADを減らせる可能性」が指摘されています。ただしこれは因果を確定したものではなく、せん妄予防(見当識の支援・睡眠・脱水や便秘の管理・なじみの環境)は有望な入り口、という段階です。
Q. 退院して動けなくなった利用者は、もう元には戻らないのですか。
戻る人もいれば、戻りにくい人もいる、というのが正直なところです。研究では入院前のレベルに戻れない層が一定数いる一方、退院後の数週間は回復が効きやすい時期でもあります。あきらめず、安全な範囲で生活の中に動作を取り戻していく関わりに意味があります。
参考文献・出典
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まとめ:HADは介護職が結果を変えられる領域
入院関連機能低下(HAD)は、「治療のための入院が、新しい障害を生む」という、医療と介護の境目で長く記録されてきた現象です。複数の研究を統合すると、急性期に入院した高齢者のおよそ3〜4割がADLの自立度を落とし、年齢が高いほど起きやすく戻りにくいことがわかっています。その背景には、入院中の極端な不活動(1日の8割超を臥床)、せん妄、低栄養といった、病気そのものとは別の要因があります。
同時に、希望のある知見もそろっています。入院中から安全に体を動かす介入は、機能低下を下げ止め、むしろ改善させうることがRCTで示されました。せん妄を防げばHADを減らせる可能性も示唆されています。つまりHADは「年だから仕方ない」ものではなく、関わり方しだいで結果が変わりうる領域です。
そして介護職は、入院前のADLを病院に正確に引き継ぐ場面、退院後に生活機能を取り戻す場面、施設で動ける体を保つ場面という、HADのあらゆる局面に関わっています。研究の数字を「不安をあおる材料」ではなく「前後の関わりに意味があることの裏づけ」として使えるかどうか。そこに、科学的なエビデンスを現場で活かす介護職の専門性が表れます。数字の限界(病気由来の低下との切り分けの難しさ、海外データの当てはめの注意、関連と因果の区別)を踏まえたうえで、目の前の利用者に何ができるかを多職種で考えていく。それがHADという知見の、いちばん実りある使い方です。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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