日本の労働力不足、2035年に384万人へ拡大|医療・福祉は1日226万時間不足で全産業3位に
介護職向け

日本の労働力不足、2035年に384万人へ拡大|医療・福祉は1日226万時間不足で全産業3位に

パーソル総合研究所と中央大学の共同推計「労働市場の未来推計2035」によると、2035年の労働力不足は1日1,775万時間(384万人相当)に拡大し、医療・福祉は226万時間不足で全産業3位となる見通しだ。

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パーソル総合研究所と中央大学の共同研究「労働市場の未来推計2035」(2024年10月17日発表)によると、2035年の日本の労働力不足は1日あたり1,775万時間、働き手換算で384万人に達し、2023年(960万時間)の1.85倍に深刻化する見通しだ。産業別では医療・福祉が1日226万時間不足で、サービス業(532万時間)、卸売・小売業(354万時間)に次ぐ全産業3位となる。介護職にとっては、これから10年、需給の逼迫がさらに強まる中でどう自分のキャリアを位置づけるかが問われる推計といえる。

目次

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「人手が足りない」という言葉を、私たちはもう何年も聞き続けている。だが、その不足がこの先さらに悪化するとしたら、規模はどれほどになるのか。

パーソル総合研究所と中央大学は2024年10月17日、共同研究「労働市場の未来推計2035」の結果を発表した。2018年に発表した「労働市場の未来推計2030」(644万人不足の推計)から約6年、女性・シニア・外国人の労働参加拡大やコロナ後の働き方の変化を踏まえて推計モデルを更新したものだ。結論は明快で、2035年の労働力不足は2023年の約2倍にまで深刻化するという。

この記事では、推計の中身を一次資料に沿って整理したうえで、医療・福祉分野、とりわけ介護職にとってこの数字が何を意味するのかを考える。全産業を横断する労働力不足の全体像を把握しておくことは、介護という個別の業界だけを見ていては気づきにくい構造的な変化を理解するうえでも役立つはずだ。

推計の枠組みと2035年の結論

「人手」ではなく「時間」で測る、新しい推計の枠組み

今回の推計が過去のものと大きく異なるのは、労働力を「人手」ではなく「時間」で捉え直した点にある。パーソル総合研究所の研究員・中俣良太氏は、同社の発表資料の中で次のように説明している。同じスキルを持つ就業者でも「1日8時間・週5日勤務」と「1日5時間・週4日勤務」とでは提供できる労働力が異なる。人数だけで数えると、この違いが見えなくなってしまう。

そこで今回の推計では、労働力を「就業者数×労働時間」という労働投入量で捉え、対象も日本人だけでなく外国人労働者を含めた。前回の「未来推計2030」(2018年発表)が日本人限定の推計で、644万人の人手不足という結果だったのに対し、今回はより実態に近い需給ギャップを描こうとしている。将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所)や実質GDP見通し(内閣府「中長期の経済財政に関する試算」)などの公的統計を前提条件に据え、賃金の需給調整機能を組み込んだモデルで、全国の不足量を産業別・職業別・都道府県別に案分している。

推計の前提となる人口動態も押さえておきたい。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によれば、2023年時点で1億2,435万人だった日本の総人口は、2035年には1億1,664万人まで減少する見通しだ。生産年齢人口(15〜64歳)の減少が着実に進む中での労働力不足推計であり、人口減少そのものを止める前提には立っていない点も重要だ。

2035年、労働力不足は1日1,775万時間(384万人相当)へ

推計の結論はこうだ。2035年の労働力不足は1日あたり1,775万時間、働き手に換算すると384万人相当に達する。比較対象となる2023年の労働力不足は1日960万時間で、2035年時点ではその1.85倍に深刻化するという結果になった。

興味深いのは、労働力不足が深刻化する一方で、就業者数そのものは増える見通しになっている点だ。2023年に6,747万人だった就業者数は、2030年に6,959万人、2035年には7,122万人まで増加すると推計されている。理由は60歳以上のシニア層、女性、外国人労働者の労働参加拡大にある。外国人就業者は2023年の205万人から2030年に305万人、2035年には377万人へと増加する見通しで、女性の労働力率も60代を中心に20ポイント以上上昇するとされている。長年指摘されてきた女性の「M字カーブ」(20代後半から30代にかけて労働力率が落ち込む現象)も、この推計ではほぼ解消される形になっている。

ただし、増えるのは「頭数」であって「時間」ではない。シニア・女性・外国人は総じて短時間勤務の割合が高い就業者層であり、就業者1人あたりの年間労働時間は2023年の1,850時間から2030年に1,776時間、2035年には1,687時間へと約9%減少する。働く人は増えても、1人あたりが提供できる労働力は縮んでいく。これが「就業者数は増えるのに労働力不足は深刻化する」という一見矛盾した結果の背景にある。名目賃金(時給)は2030年に1,981円、2035年に2,023円と上昇する見込みだが、物価上昇のペースを勘案した実質賃金は2030年の1,725円から2035年には1,693円へとむしろ低下すると推計されている点も、働き手側の実感に関わる重要な数字だ。

産業別内訳と専門家の指摘

産業別ワーストはサービス業、医療・福祉は3番目に深刻

今回の推計で特に注目したいのが、産業別の内訳だ。パーソル総合研究所の発表資料によると、2035年に最も労働力不足が深刻になるのは宿泊業・飲食業を中心とする「サービス業」で、1日あたり532万時間の不足となる。次いで「卸売・小売業」が354万時間、そして「医療・福祉」が226万時間の不足で全産業中3番目に深刻な結果となった。

日本経済新聞の報道では、この産業別内訳を就業者数(人数換算)でも示している。それによると、サービス業は就業者換算で115万人、卸売・小売業は77万人、医療・福祉は49万人の不足になるという。時間ベースと人数ベースでは推計の軸が異なるため単純比較はできないが、いずれの軸で見ても医療・福祉が上位3業種に入り続けている点は共通している。

職業別で見ると、最も不足するのは「事務従事者」で365万時間、次いで「専門的・技術的職業従事者」が302万時間、「サービス職業従事者」が266万時間、「販売従事者」が245万時間の不足という結果も示されている。介護職員の多くが該当する「サービス職業従事者」もこの上位に含まれており、産業軸・職業軸のどちらから見ても医療・介護分野の人手不足は他人事ではない水準にあることがわかる。有効求人倍率が比較的低く「採用しやすい」と見られがちな事務職ですら需要が供給を上回る見通しであることは、今回の推計が示す「安心できる業界はない」という状況を象徴している。

都道府県別では、秋田県を筆頭に山形県・青森県など東北地方で労働力不足率が高くなる見通しが示されている。パーソル総研の中俣氏は、東北地方について「人口動態を見ても、人口減少や高齢化が加速する地域。その影響は大きい」と分析している。地方の介護現場ほど、この10年で需給ギャップの影響を強く受ける可能性が高い。従来は東京など都市部の人手不足が強調されがちだったが、今回の推計は地方における人材確保の困難さをより明確に映し出す結果になっている。

中央大学・阿部正浩教授「企業経営に影響し、倒産も増える」

この推計に共同研究者として参画した中央大学経済学部の阿部正浩教授(労働経済学、厚生労働省「労働政策審議会」委員も務める)は、日本経済新聞の取材に対し「労働力不足は企業経営に影響し、倒産も増えるほか、日本経済の潜在成長率が落ちる」と指摘している。帝国データバンクの集計では、2024年4〜9月期の「人手不足倒産」は163件と上半期として過去最多を更新しており、足元の統計もこの見通しを裏付ける形になっている。

パーソル総研の中俣良太研究員も、解決の方向性について「シニア就業者や副業希望の就業者など多様な『ショートワーカー』の活躍機会の創出と、人的資本投資や新たなテクノロジーを活用した生産性向上の取り組みが必要」と述べている。労働力不足は一企業・一業界の努力だけでなく、社会全体の働き方の再設計を迫る規模の課題として位置づけられている。同研究では解決の打ち手として、シニア就業者の活用で1日593万時間、パートタイマーの就業調整緩和(いわゆる「年収の壁」の解消)で357万〜518万時間、副業・複業ワーカーの活用で290万時間の労働力創出が可能になるという試算も示されており、いずれも介護現場での短時間勤務・掛け持ち勤務の広がりと無関係ではない。

介護職にとっての独自視点

「介護は人手不足産業」という認識の更新が必要

これまで介護業界では、厚生労働省の推計をもとに「2026年度に約25万人、2040年度に約57万人の介護職員が不足する」という数字が語られてきた。この数字は第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数推計であり、今回のパーソル総研・中央大学の推計とは調査主体も調査年も算出方法も異なるデータだ。全産業・全国横断での労働力不足を「時間」という単位で捉え直した点に、この推計ならではの価値がある。医療・福祉が226万時間不足で全産業3位という位置づけは、介護の人手不足が「介護業界だけの特殊な事情」ではなく、日本全体の労働市場の構造変化の一部であることを裏付けている。

言い換えれば、介護職員の採用競争の相手は、もはや同業他社だけではない。サービス業や卸売・小売業も同じように深刻な人手不足に直面する以上、介護施設は他業種とも人材の奪い合いをすることになる。賃金や労働条件、働き方の柔軟性で見劣りする職場は、これまで以上に人材確保が難しくなるだろう。実際、パーソル総研の推計では就業者1人あたりの年間労働時間が全体として縮んでいく中で、事業所側が「短い時間でどれだけ効率よく働いてもらえるか」を競う局面に入っていくことが示唆されている。

読者である介護職にとっての意味

この推計が介護職の読者にとって持つ意味は、単に「これからも人手不足が続く」という悲観材料ではない。労働力不足が深刻化するほど、働き手側の交渉力は相対的に強まる。パーソル総研が提案する「ショートワーカーの活躍機会創出」は、短時間勤務や副業を希望する就業者の受け皿を広げる方向性であり、介護現場でも夜勤専従、時短勤務、複数施設での掛け持ちといった柔軟な働き方の選択肢が今後さらに広がっていく可能性がある。60代以降も働き続けたいシニア就業者、家庭の事情でフルタイムが難しいパートタイム就業者、収入を補いたい副業希望者。こうした「もっと働きたいのに働けずにいる」層の受け皿を用意できる事業所ほど、今後の人材確保で優位に立てる可能性が高い。

また、阿部教授が指摘する「企業経営への影響、倒産の増加」というリスクは、経営体力の弱い事業所ほど直撃する。転職や転居を考える介護職にとっては、賃上げ余力や人材への投資姿勢を持つ事業所を見極める視点が、これまで以上に重要になってくるだろう。処遇改善加算の算定状況や、教育投資・ICT導入への姿勢は、その事業所が今後10年の人手不足にどう向き合っているかを映す指標になりうる。求人票の待遇欄だけでなく、加算の取得状況や職員の定着率、夜勤体制の柔軟さといった情報を、転職先選びの判断材料として意識しておきたい。中長期でキャリアを考えるなら、目先の時給差だけでなく、事業所がこの構造変化にどう向き合っているかまで見て選びたい。

今後の制度議論・地域への波及

次回改定・制度議論への波及

介護報酬改定や処遇改善加算をめぐる議論は、これまで主に厚労省の介護保険事業計画に基づく需給推計(2026年度25万人・2040年度57万人不足など)を根拠に進められてきた。今回のパーソル総研・中央大学の推計は所管が異なる民間シンクタンクと大学の共同研究だが、全産業横断で人材獲得競争が激化するという結果は、次期介護報酬改定における処遇改善加算のさらなる拡充や、他業種と比較した賃金水準の議論に材料を提供するものになりうる。医療・福祉が「サービス業」「卸売・小売業」に次ぐ深刻度である以上、賃上げ原資の確保は今後も政策論点であり続けるだろう。

特に、今回の推計が示す「就業者は増えるが労働時間は減る」という構造は、介護報酬の算定基準そのものにも影響しうる論点だ。常勤換算での人員配置基準を前提にした現行制度は、短時間勤務者の比率が高まる労働市場の変化とどう整合させるかが、中長期的な検討課題になっていく可能性がある。実際、短時間勤務やスポットワークの担い手が増えるほど、施設側は「何人採用したか」ではなく「何時間分の労働力を確保できたか」で人員体制を組み立て直す必要に迫られるだろう。

地域包括ケアと人材確保政策への影響

都道府県別で東北地方の労働力不足率が高いとされた点も見逃せない。地域包括ケアシステムは在宅医療・介護の連携を前提に設計されているが、地方ほど担い手そのものが減っていくとすれば、サービス提供体制の維持自体が課題になる。外国人材の受け入れ拡大や、ICT・介護ロボットを活用した生産性向上は、都市部よりもむしろ人口減少が加速する地方でこそ優先度が上がっていく可能性がある。

今回の推計はあくまで現状の制度・働き方が大きく変わらないことを前提にした試算であり、生成AIなど特定の技術革新のインパクトは加味されていない。逆に言えば、テクノロジー活用や働き方改革が想定以上に進めば、この数字は緩和される余地もある。パーソル総研の試算では、Off-JT(職場外訓練)への教育投資を2022年の1人あたり1.5万円から2035年に2〜2.5万円へ増やした場合、1日あたり835万〜1,438万時間の労働力増加効果が期待できるとされている。介護現場においても、研修投資やICT導入をどれだけ早く進められるかが、今後10年の需給ギャップの大きさを左右することになる。

読者である介護職の立場からは、今後の求人・転職市場の変化としてこの推計を読み解くこともできる。労働力不足が全産業で深刻化するということは、働き手の希望条件(勤務時間、勤務地、雇用形態)を事業所側が受け入れざるを得なくなる場面が増えるということでもある。今のうちから自分の希望する働き方を明確にし、それを許容できる事業所を探しておくことが、これからの10年を有利に過ごすための備えになるだろう。

参考文献・出典

まとめ

パーソル総合研究所と中央大学が2024年10月17日に発表した「労働市場の未来推計2035」は、2035年の日本の労働力不足が1日1,775万時間(384万人相当)に達し、2023年の1.85倍に深刻化するという見通しを示した。産業別では医療・福祉が226万時間不足でサービス業・卸売小売業に次ぐ全産業3位となり、介護の人手不足が業界固有の課題ではなく日本全体の労働市場の構造変化の一部であることが改めて裏付けられた。

就業者数自体はシニア・女性・外国人の労働参加拡大によって増える見通しだが、1人あたりの労働時間は短くなっていく。「頭数は増えるが、供給できる時間は足りない」という構造は、介護現場の人員配置や採用戦略にも直結する変化だ。中央大学の阿部正浩教授は「労働力不足は企業経営に影響し、倒産も増えるほか、日本経済の潜在成長率が落ちる」と指摘している。

介護職にとっては、この10年でどの事業所が処遇改善や生産性投資に本気で取り組んでいるかを見極める視点が、これまで以上に重要になってくるだろう。人手不足が深刻化するということは、裏を返せば働き手側の選択肢や交渉力が広がる局面でもある。今後の制度議論や現場の変化、そして自分自身の働き方の希望を、あらためて棚卸ししておく機会にしたい。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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