
いわき市、介護就職に最大20万円の応援金|奨学金返還も5年間支援へ
福島県いわき市が2026年4月、介護職への就職者に最大20万円を支給する『いわき介護お仕事デビュー応援金』を創設。奨学金返還支援も最大5年間実施し、正規職員としての定着を後押しする。
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この記事のポイント
福島県いわき市は2026年4月1日以降、市内の介護保険施設等に正規職員として新たに就職した人を対象に、就業支援金(有資格者20万円・無資格者10万円)と奨学金返還支援金(年間上限20万円・最大5年間)を支給する「いわき介護お仕事デビュー応援金」の運用を始めた。新卒者だけでなく他業種からの転職者や離職後3年以上経過した再就業者も対象に含めており、支援額は近隣自治体の同種制度と比べても手厚い水準にある。読者の介護職にとっては、いわき市への転職・Uターンを検討する際の実利的な後押し材料になるとともに、他の自治体が追随するかどうかを占う先行事例としても注目される。
目次
解説動画|いわき市の介護お仕事デビュー応援金
介護職の有効求人倍率は全国平均で3〜4倍台という高水準が続き、厚生労働省の推計では2026年度に約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要になるとされる。担い手不足は都市部だけの問題ではない。人口減少と高齢化が同時に進む地方都市では、若手人材の流出と高齢者人口の増加が重なり、地域の介護サービス体制そのものが揺らぎかねない状況にある。訪問介護員に限れば有効求人倍率が10倍を超える調査結果もあり、特に在宅系サービスの担い手確保は全国共通の懸案となっている。
こうした中、福島県いわき市が2026年4月から始めたのが「いわき介護お仕事デビュー応援金」だ。市内の介護保険施設等に新たに正規職員として就職した人に対し、最大20万円の就業支援金と、資格保有者には最大5年間・年間上限20万円の奨学金返還支援金を組み合わせて支給する。単発の一時金にとどまらず、複数年にわたる継続支援を制度化した点が特徴で、新卒者だけでなく他業種からの転職者や離職後の再就業者まで幅広く対象に含めている。
この記事では、いわき市の新制度の内容を一次情報にもとづいて整理したうえで、近隣自治体の同種制度と比較しながら、地域単位の人材確保策がどこまで実効性を持ちうるかを読み解く。国の処遇改善加算が拡充される一方で、自治体独自の施策がどのような役割を果たしうるのか、読者である介護職の視点から考えてみたい。
いわき介護お仕事デビュー応援金の中身
就業支援金は資格の有無で20万円と10万円に分かれる
いわき市が公表した制度概要によると、就業支援金は「介護福祉士」「社会福祉士」「実務者研修修了者」「介護支援専門員(ケアマネジャー)」のいずれかの資格を保有する有資格者が20万円、資格を持たない無資格者は10万円となっている。支給対象は令和8年(2026年)4月1日以降に、市内の介護保険法上の施設・事業所へ新たに正規職員として就業した人だ。介護職員として実際に勤務することが条件で、就業開始日から180日以内に申請する必要がある。
対象者の範囲は5つの類型に整理されている。その年3月に学校を卒業した新卒者、社会人経験がないか非正規雇用の経験のみだった新規就業者、介護業界以外の職種から転職してきた人、いわき市外の自治体から市内の事業所に就業した人、そして介護職を離職後3年以上が経過してから再び介護職に就いた人である。新卒の一括採用だけでなく、キャリアの途中で介護業界に参入する人や、他地域からの転入者も明確に制度の射程に含めている点が読み取れる。
奨学金返還支援金は最大5年間、年間20万円を上限に支給
就業支援金に加えて用意されているのが、奨学金返還支援金だ。対象は就業支援金(有資格者)の交付を受けた人のうち、現在奨学金を返還中、またはその年度中に返還を開始する予定がある人に限られる。交付額は年間上限20万円で、最大5年間支給される。単純計算では最大100万円に達する規模で、資格を取得するために専門学校や大学に進学し、卒業後に奨学金を返還している若手職員にとっては、毎月の家計にかかる負担を継続的に軽減できる仕組みになる。日本学生支援機構の奨学金を利用して介護福祉士養成校などに通った人にとって、卒業後数年間は返済負担が家計を圧迫しやすい時期であり、その時期にピンポイントで支援が届く制度設計になっている。
ただし、この支援金は制度上「定着」を前提とした設計になっている。いわき市が公表している交付要綱によれば、就業した日から3年(奨学金返還支援金の支給を受けた場合は5年)に満たない期間で離職した場合、応援金は返還を求められる。単なる一時的な採用インセンティブではなく、正規職員としての長期定着を条件づけた制度である点は、申請を検討する側があらかじめ理解しておく必要がある。
申請窓口と手続きの流れ
制度の所管はいわき市保健福祉部高齢福祉課介護サービス整備係で、電子申請(Logoフォーム)のほか、郵送や窓口への持参による紙申請にも対応している。問い合わせ先の電話番号は0246-22-7467である。就業開始から180日という申請期限が設けられているため、対象に該当する可能性がある人は、転職・就職のタイミングで早めに制度の存在を確認しておくことが望ましい。
データで見る背景と近隣自治体との比較
いわき市の高齢者保健福祉計画が示す人材確保の危機感
いわき市は「第10次いわき市高齢者保健福祉計画」(令和6〜8年度)の中で、後期高齢者の増加に伴う要介護認定率の高止まりと、認知症高齢者の増加が見込まれることを明記している。同計画は団塊ジュニア世代が65歳以上となる令和22年(2040年)には生産年齢人口がさらに減少し、社会保障を支える担い手不足が一段と深刻化すると予測したうえで、「地域包括ケアシステムを支える介護人材確保及び介護現場の生産性向上」を施策の柱の一つに掲げている。今回の応援金創設は、この計画に基づく具体的な人材確保策の一環と位置づけられる。
全国推計でも介護職員は2026年度に240万人規模が必要
厚生労働省が社会保障審議会介護給付費分科会向けに示した推計によると、第9期介護保険事業計画期間に基づく介護職員の必要数は2026年度に約240万人(2022年度実績の約215万人から約25万人増)、2040年度には約272万人(同約57万人増)に達する見通しだ。介護分野の有効求人倍率は全国平均で3倍台後半から4倍台という高水準が続き、都道府県別に見ても地域差が大きい。人口減少地域では、労働力の絶対数そのものが先細るため、報酬面での処遇改善だけでなく、着任時点での経済的な後押しを組み合わせた誘導策が模索されている。
近隣自治体との比較で見える支援水準の位置づけ
同じ福島県内では、会津若松市が令和7年度から「介護人材就職支援金」を実施している。対象は市内の介護事業所に新たに就職した人で、支給額は一律10万円(1回限り)、先着30名という定員制だ。これに対し、いわき市の新制度は有資格者であれば就業支援金だけで20万円、これに奨学金返還支援金(最大5年間・年間上限20万円)を合わせると支給規模は大きく上回る。定員の明記もなく、対象者の類型も5つに分けて幅広く設定している。同じ福島県内の自治体間でも支援水準に差があり、いわき市が相対的に手厚い制度設計を選んだことがうかがえる。同じ県内でも人口規模や産業構造、財政力の違いによって、実施できる人材確保策の水準に差が出やすい構造があることも、今回の比較から見えてくる。
国の処遇改善と自治体独自策、読者への示唆
国の処遇改善加算とは別レイヤーで動く自治体独自策
2026年6月には国の介護職員等処遇改善加算が拡充され、介護従事者全体を対象に月額最大1万9000円程度の賃上げが見込まれている。だが、これは全国一律の制度であり、事業所の収支構造や地域の賃金水準の違いを直接埋めるものではない。いわき市のような市区町村独自の就職支援金・奨学金返還支援は、国の処遇改善とは別のレイヤーで、「その地域を選んでもらう」ための個別インセンティブとして機能する。特に奨学金返還支援は、賃金そのものを底上げする加算とは異なり、資格取得のために学費を負担した若手層に的を絞って可処分所得を増やす設計になっている点が特徴的だ。国の加算が事業所の給与水準を底上げする「面」の施策だとすれば、自治体独自の就職支援金は特定の対象者に的を絞った「点」の施策として、両者は補完関係にあるといえる。
読者のキャリア選択への示唆
介護職として転職やUターンを検討している読者にとって、こうした自治体独自の就職支援金は、給与水準や職場環境と並ぶ検討材料になり得る。特に奨学金を返還中の有資格者であれば、最大5年間・年間20万円という継続的な支援は、転職先の自治体を比較する際の実質的な可処分所得の差として無視できない規模になる。ただし、いずれの制度も一定期間の定着を条件に返還義務を課している。数年単位の勤務継続を前提とした制度である以上、転職先を選ぶ際には支援金の額だけでなく、その事業所・地域で長く働き続けられる見込みがあるかどうかも合わせて見極める必要がある。
他自治体への波及の可能性
会津若松市の一律10万円・定員制の制度と比べて、いわき市が資格別の段階設定や奨学金返還支援を組み合わせた背景には、単発の採用インセンティブだけでは定着につながりにくいという認識があるとみられる。今後、同様の人材不足に直面する他の地方都市が、いわき市の制度設計を参考に、就職一時金にとどまらない複数年型の支援策へと制度を見直す動きが広がる可能性もある。地域間の支援水準の差が、介護人材の地域偏在をさらに助長する側面がある一方で、条件不利地域における人材確保の有効な選択肢として制度間の比較・検証が今後の論点になるだろう。
制度活用の注意点と持続可能性
他業種からの転職者を明確に対象化した意義
いわき市の応援金の対象者類型で見逃せないのが、「介護業界以外で正規職員として勤務していた他業種からの転職者」を明確に含めている点だ。介護人材確保の議論では、養成校卒業者の新卒採用や、離職した介護福祉士の再就業促進に焦点が当たりやすい。しかし人口減少が進む地域では、若年層の絶対数そのものが限られるため、異業種からの転職者をどれだけ取り込めるかが人材確保の実質的なカギを握る。無資格者にも10万円の就業支援金を用意している設計は、未経験からのキャリアチェンジを後押しする意図が読み取れる。介護未経験の転職者にとっては、初任者研修などの資格取得と並行して就業を始めるケースも多く、支援金が当面の生活資金の助けになる可能性もある。
「180日以内の申請」「3〜5年の定着要件」という実務上の注意点
制度を利用する側にとって実務上重要なのは、申請期限と返還義務の2点だ。就業支援金は就業開始日から180日以内という申請期限があり、転職直後の慌ただしい時期に手続きを失念すると受給機会を逃す可能性がある。また、就業支援金は3年未満、奨学金返還支援金を含む場合は5年未満での離職に対して返還義務が課される設計になっている。これは他の自治体の同種制度にも共通する仕組みだが、いわき市の場合は奨学金返還支援金の受給期間が最長5年に及ぶため、返還義務が生じる期間も相応に長くなる点は事前に理解しておく必要がある。転職を検討する介護職員は、制度の金額面だけでなく、こうした条件を含めて事業所選び・地域選びを行うことが望ましい。産休・育休などのやむを得ない事情による中断時の扱いについても、申請前に市の窓口へ確認しておくと安心だ。
財源と持続可能性という論点
いわき市の令和8年度当初予算は前年度比11.3%増の3633億円規模で、介護保険特別会計も居宅介護サービス給付費の増加を背景に前年度比2.3%増となっている。高齢化の進展に伴い介護保険給付費が増加する一方で、人材確保のための単独事業に自治体がどこまで予算を割けるかは、今後の財政状況にも左右される。単年度の目玉施策で終わらせず、複数年にわたって安定的に運用できるかどうかが、この種の自治体独自策が本当に定着効果を発揮できるかを左右する分水嶺になるだろう。
対象サービスの範囲と県事業との関係
介護保険法上の対象施設・事業所の範囲
いわき市の要綱では、支給対象となるのは介護保険法に規定される施設・事業所に勤務する介護職員とされている。具体的には、特別養護老人ホームや介護老人保健施設といった入所系の施設のほか、訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)など、地域密着型サービスを含む幅広いサービス類型が対象に含まれる。単一の施設種別に限定せず、市内の介護保険サービス全体を対象に含めることで、事業所側の採用競争力を底上げする狙いがあるとみられる。
他の自治体の類似施策との組み合わせも視野に
福島県は「福島県訪問介護等サービス提供体制確保支援事業」を実施しており、訪問介護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護など、人材不足が特に深刻な訪問系サービスの人材確保体制構築を支援している。いわき市の応援金は市単独の事業だが、対象者によっては県の支援策と組み合わせて活用できる可能性もある。制度の重複や適用関係は個別の確認が必要になるが、自治体単位・都道府県単位で重層的に人材確保策が講じられている点は、転職を検討する側にとって把握しておく価値がある。市の窓口に相談する際には、県事業との併用可否も合わせて確認しておくとよいだろう。
広がる自治体独自策と情報が届く仕組みの課題
自治体独自の介護人材確保策はいつ頃から広がったか
市区町村単位での介護職員向け就職支援金や家賃補助、奨学金返還支援といった独自施策は、ここ数年で全国的に増加してきた。背景にあるのは、国の介護報酬改定や処遇改善加算だけでは、地域ごとの人材偏在や生活コストの差を十分に埋めきれないという現場感覚だ。神奈川県川崎市の家賃支援事業や、鹿児島県の賃上げ・職場環境改善支援事業のように都道府県単位の上乗せ策もあれば、いわき市や会津若松市のように市区町村が独自財源で就職一時金を用意するケースもある。制度の担い手が国・都道府県・市区町村と複層化する中で、実際にどの地域でどの制度が使えるかは、転職活動を進める介護職員自身が能動的に調べる必要がある局面になりつつある。
制度の周知不足という課題
この種の自治体独自策に共通する課題は、対象者に制度の存在自体が届きにくいことだ。就職・転職のタイミングで市区町村の福祉担当課のホームページを能動的に確認する求職者は必ずしも多くない。事業所側が採用面接の段階で案内する、あるいは求人サイトや転職エージェントが自治体の支援制度を合わせて紹介するといった、情報を届ける経路の整備も、制度そのものの拡充と同じくらい重要な論点になる。いわき市の場合、電子申請だけでなく紙申請にも対応しており、幅広い年代の求職者が利用しやすいよう配慮した設計になっている点は評価できる。制度を知っているかどうかで得られる支援額に差が出てしまう現状は、行政側の情報発信のあり方として今後も改善の余地があるだろう。
いわき市の地域特性と震災後の人材事情
いわき市の人口動態が制度創設を後押しした
いわき市は福島県内で最大の人口を抱える市であると同時に、東日本大震災以降、浜通り地域の復興拠点としての役割も担ってきた。震災に伴う避難指示区域からの人口移動や、若年層の県外流出が重なり、他の地方都市と同様に生産年齢人口の減少が続いている。市が策定した第10次高齢者保健福祉計画では、日常生活圏域ごとの高齢化の進み方にも差があることが指摘されており、地域包括ケアシステムを機能させるためには、圏域ごとにきめ細かい人材配置が必要になる。就職支援金と奨学金返還支援金を組み合わせた今回の制度は、こうした人口動態と地域特性を踏まえたうえで、限られた財源をどう配分すれば人材確保に最も効果的かという市の判断の結果とみることができる。
被災地特有の財政・人材事情との関係
いわき市を含む福島県浜通り地域では、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示区域等における介護保険制度の特別措置や、被災地における介護サービス提供体制確保のための国の財政支援が継続されている。復興庁所管の予算措置も含め、震災からの復興と高齢化対応が同時並行で進む地域特有の事情がある。今回の応援金は市の一般財源による独自事業だが、震災後の人材流出という固有の課題を抱える地域だからこそ、より積極的な人材確保策が必要とされている側面も見逃せない。復興の進捗と高齢化対応という2つの課題を同時に抱える地域だけに、人材確保策の成否は今後の地域包括ケア全体の持続可能性にも直結する。
参考文献・出典
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まとめ
いわき市が2026年4月に始めた「いわき介護お仕事デビュー応援金」は、正規職員としての就業支援金(有資格者20万円・無資格者10万円)と、資格保有者を対象にした最大5年間の奨学金返還支援金(年間上限20万円)を組み合わせた制度だ。新卒者だけでなく他業種からの転職者や離職後の再就業者まで対象を広げ、近隣の会津若松市(一律10万円・定員制)と比べても支援水準は手厚い。一方で、就業支援金は3年未満、奨学金返還支援金を含む場合は5年未満での離職に返還義務が課されており、単なる採用インセンティブではなく長期定着を条件づけた制度設計になっている。
介護人材の不足は全国的な課題だが、その解決策は国の処遇改善加算だけに閉じたものではない。市区町村単位でどれだけ独自の後押しを用意できるかが、地域の介護サービス提供体制を維持できるかどうかを左右する時代に入りつつある。震災後の人口流出という固有の課題を抱えるいわき市が、就職一時金と複数年の奨学金返還支援を組み合わせた背景には、単発の施策では定着につながらないという危機感がある。転職・Uターンを検討する介護職員にとって、こうした自治体独自の支援制度の有無と内容は、働く地域を選ぶ際の重要な判断材料の一つになるだろう。今後は、いわき市の取り組みが実際にどれだけの就職・定着につながったのか、運用実績の検証と公表も期待される。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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