
家庭でできる褥瘡(床ずれ)の予防と対応|体位変換・栄養・スキンケアの実践ガイド
家庭で寝たきりの家族を介護する方向けに、褥瘡(床ずれ)の予防と早期対応を日本褥瘡学会ガイドラインに沿って解説。30度側臥位による体位変換、低栄養対策、スキンケア、エアマットレスの介護保険レンタル、医療職に相談すべきタイミングまで5,800字で実践的にまとめます。
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この記事のポイント
褥瘡(床ずれ)は、持続的な圧迫・ずれ・摩擦・湿潤の4要因で皮膚と皮下組織が壊死する創傷です。家庭での予防は「体位変換(2時間以内・30度側臥位)」「低栄養の改善」「スキンケア(保湿と排泄物対策)」「体圧分散マットレスの活用」の4本柱が基本。エアマットレスは要介護2以上で原則介護保険レンタルが可能です。発赤が24時間以上消えない、水疱・皮膚剥離・浸出液がある場合は、自己判断せず訪問看護師や皮膚科医にすぐ相談してください。
目次
「親の腰の皮膚が赤くなっている。これって床ずれ?」「2時間ごとの体位変換は本当に必要?夜は眠れない…」——在宅介護で寝たきりの家族をケアする方の多くが、褥瘡(じょくそう・床ずれ)に不安を抱えています。
褥瘡は一度進行してしまうと治癒に数か月以上かかる深刻な創傷ですが、初期段階で気づき適切に対応すれば、家庭でも十分に予防・改善が可能です。本記事では、日本褥瘡学会・日本皮膚科学会の最新ガイドラインに沿って、家庭でできる褥瘡予防の具体的な方法と、医療職にすぐ相談すべき危険サインを整理します。介護家族の睡眠と腰を守る現実的な負担軽減策まで含めて、5,800字でまとめました。
褥瘡(床ずれ)とは何か|できる4つの要因
褥瘡とは、日本褥瘡学会の定義によれば「身体に加わった外力により骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流が低下、または停止し、組織が阻血性障害に陥り発生する創傷」のことです。一般的には「床ずれ」とも呼ばれます。
褥瘡ができる4つの要因
褥瘡は単純に「長く寝ているから」できるわけではありません。次の4つの要因が複合的に作用して発生します。
- 持続的な圧迫:体重で皮膚と骨の間の毛細血管がつぶされ、酸素・栄養が届かなくなる。圧迫が一定時間続くと組織が壊死し始めます。
- ずれ:ベッドの背上げ時などに皮膚と内部組織が逆方向に引っ張られ、深部の血管が断裂・損傷します。皮膚表面に異常がなくても、内部で組織が破壊される「深部損傷褥瘡(DTI)」につながる危険な要因です。
- 摩擦:体位変換時にシーツや寝衣で皮膚が擦れることで、表皮が剥がれやすくなります。
- 湿潤:尿や便、汗による皮膚のふやけ。湿った皮膚はバリア機能が低下し、わずかな摩擦でも傷つきやすくなります。
つまり褥瘡予防は、「圧迫を取り除く」「ずれを起こさない介助をする」「摩擦を減らす介助技術を使う」「皮膚を清潔・乾燥に保つ」の4方向からアプローチする必要があるということです。
家庭で起きやすい理由
在宅介護では、施設のように24時間体制でスタッフが交代しないため、夜間の体位変換や排泄ケアが遅れがちです。また介護家族は介護技術の教育を受けていないため、ずれを起こしやすい介助動作(背中の下に手を入れて引きずる等)をしてしまうことも少なくありません。家庭での褥瘡予防には、「完璧を目指さず、続けられる方法を医療職と一緒に設計する」視点が欠かせません。
褥瘡ができやすい部位|骨が出ているところを重点観察
褥瘡は、皮下脂肪が薄く骨が皮膚のすぐ下に出ている部位に集中して発生します。仰向け・横向き・座位それぞれで好発部位が異なるため、ご家族の主な体位に応じて重点的に観察してください。
仰向け(仰臥位)でできやすい部位
- 仙骨部(おしりの上、しっぽの骨のあたり):在宅褥瘡の最も多い発生部位。寝たきりの方の褥瘡の約半数がここに出ます。
- かかと(踵骨部):仙骨部に次いで多い部位。仰向けで放置するとかかとに体重がかかり続け、皮膚が黒く変色することも。
- 後頭部:意識障害や首が動かない方は要注意。
- 肩甲骨部:背中の上のほうの骨が出た部分。
- 肘(肘頭部):身体を起こす介助時にこすれやすい。
横向き(側臥位)でできやすい部位
- 大転子部(股関節の外側):90度の真横向きで体重がかかると一気に皮膚が傷みます。後述の「30度側臥位」が推奨される理由です。
- 耳介・くるぶし(外果・内果):意外と見落とされやすい部位。横向きで枕からはみ出した耳や、足首の骨が下のシーツで圧迫されます。
- 膝の内側・外側:両膝が重なると内側、横向きの下になる側は外側に発生。
座位(車椅子)でできやすい部位
- 坐骨部(おしりの座面に当たる骨):長時間座る方の最大の発生部位。1〜2時間ごとに体を動かすことが必要です。
- 尾骨部:後ろにずり落ちた姿勢で発生しやすい。
- 背部(背もたれに当たる肩甲骨周辺)
毎日の清拭・おむつ交換のタイミングで、これらの部位を必ず目で見て、手で触って確認する習慣をつけましょう。皮膚の色だけでなく、熱感(周囲より温かい・冷たい)、硬さ(しこりがある)、痛みの訴えにも注意してください。
褥瘡リスクをチェックする|OHスケール・ブレーデンスケールの考え方
褥瘡予防は「リスクがある人」と「ほとんどリスクがない人」で対策の強度が変わります。医療現場では複数のスケールでリスクを数値化していますが、家族の方も基本的な評価項目を知っておくと、訪問看護師との会話がスムーズになります。
OHスケール(在宅で使いやすい4項目評価)
大浦・堀田スケールの略で、日本で開発された日本人の体型に合った評価ツールです。次の4項目をチェックします。
- 自力体位変換:できる/どちらでもない/できない
- 病的骨突出:仙骨部の骨の出っ張り具合(なし/軽度/中程度/高度)
- 浮腫(むくみ):なし/あり
- 関節拘縮:なし/あり
合計点が高いほどリスク大。「自力で寝返りができない+骨が出ている+むくみがある+膝や股関節が固まっている」高齢者は、エアマットレスや細やかな体位変換が必須となります。
ブレーデンスケール(国際的に最も使われる評価)
知覚の認知・湿潤・活動性・可動性・栄養・摩擦とずれの6項目で評価します。合計23点満点で、17点以下で褥瘡発生リスクあり、14点以下で高リスク、9点以下は最高リスクと判定されます。
家族が日常で確認すべきこと
専門スケールを使わなくても、次に1つでも当てはまる方は予防対策を強化してください。
- 自分で寝返りができない、または極端に少ない
- 食事量が普段の半分以下に減った(低栄養)
- おむつを使用していて尿便失禁がある
- 痩せていて骨が皮膚から浮き出て見える
- 糖尿病・末梢動脈疾患・ステロイド長期使用がある
- 意識障害や認知症で痛みを訴えにくい
予防の柱①|体位変換の正しいやり方と現実的な間隔
褥瘡予防の中核は、同じ部位への圧迫時間を制限することです。日本褥瘡学会のガイドラインでは「体位変換は基本的に2時間を超えない範囲」とされていますが、これは1960年代の研究に基づく古い目安であり、体圧分散マットレスを使う場合は4時間まで延長可能とする新しい推奨も出ています。家庭で「2時間ごとに必ず」を守るのは現実的ではないため、福祉用具と組み合わせて柔軟に運用することが大切です。
30度側臥位がなぜ推奨されるのか
真横(90度側臥位)の体位は、大転子部(股関節の外側の骨)に体重が集中して褥瘡をつくります。一方、30度側臥位は背中とお尻の柔らかい筋肉(殿筋)で体重を受けるため、骨への圧迫が格段に軽くなります。
30度側臥位の作り方:
- 仰向けの状態から、肩と腰の下にバスタオルまたは三角クッションを差し込む
- 反対側の背中側を約30度持ち上げる(体全体が斜めに傾いた状態)
- 下になる脚を軽く曲げ、上の脚を前に出して大きめのクッションで支える
- 背中側にもクッションを当てて姿勢を安定させる
「スモールチェンジ」という考え方
2時間ごとの完全な体位変換が難しい夜間は、「スモールチェンジ」(小さな体位変換)で代用できます。これは、お尻や肩の下に手を入れて数センチだけ体をずらす、足首の位置を少し変える、といった15〜30度の小さな角度変更を1時間ごとに行う方法です。完全な体位変換に比べて介護負担が圧倒的に軽く、訪問看護師の指導下で導入する家庭が増えています。
背上げ時は必ず「背抜き・足抜き」
電動ベッドで背中を起こす介助では、皮膚と内部組織にずれが発生します。背上げ後は必ず「背抜き」を行いましょう。やり方は、患者さんを少し前傾させて背中とシーツの間に手やビニール袋を差し込み、皮膚にかかったテンションを開放するだけです。同様に膝の下にも手を入れて足抜きを行います。
背上げ角度は30度まで
背上げ角度が大きいほどお尻と背中のずれが強くなります。食事や経管栄養のとき以外は背上げ30度以下に。45度以上の上半身挙上は短時間に限ってください。
かかと(踵)は「浮かせる」
仰向け時は、ふくらはぎの下に細長いクッションを差し込み、かかとを完全に浮かせるのが原則です。市販のヒールプロテクター(かかと専用クッション)もあります。かかとは血流が少なく一度褥瘡ができると治りにくいため、最初から圧迫させない予防が肝心です。
予防の柱②|栄養(タンパク質・亜鉛・ビタミンC)
「褥瘡=皮膚の問題」と思いがちですが、近年の研究では褥瘡発生の最大の要因は低栄養であることがわかっています。皮膚と筋肉はタンパク質でできているため、栄養が不足すると皮下脂肪と筋肉が痩せ細り、骨が突出して圧迫を受けやすくなる→さらに低栄養で組織の修復力も落ちる、という悪循環に陥ります。
褥瘡予防に必要な栄養素
日本褥瘡学会と複数の臨床研究で、特に重要とされる栄養素は次の3つです。
- タンパク質(1日 体重1kgあたり1.0〜1.5g):皮膚・筋肉・免疫の材料。体重50kgの方なら1日50〜75g。卵1個6g、鮭1切れ18g、鶏むね肉100gで22g程度が目安。
- 亜鉛(成人男性11mg/女性8mg/日):傷の修復に不可欠。不足すると味覚障害が起き食欲低下にもつながる。牡蠣、牛肉、レバー、ナッツ類に多く含まれる。
- ビタミンC(100mg/日):コラーゲン合成に必要。野菜・果物から摂取。褥瘡治癒期はさらに増量が必要とされる。
- アルギニン:アミノ酸の一種で、創傷治癒を促進。褥瘡治療用の栄養補助食品に強化配合されている。
食事量が落ちたときの対応
高齢者は喫食率(食事を全部食べた割合)が60%を切ると低栄養リスクが急上昇します。食事量が落ちてきたら、次の工夫を試してください。
- 1回量を減らして食事回数を増やす(1日5〜6回の少量頻回食)
- 主食にあんかけ・卵とじなど柔らかくエネルギー密度の高い献立に変える
- 食事に濃厚流動食やプロテインゼリーを追加(薬局で入手可能。1本200kcal・タンパク質10g前後)
- 褥瘡治療用の栄養補助食品(アルギニン・亜鉛強化)を活用
- 訪問栄養指導(管理栄養士による)の利用を検討
水分不足にも注意
脱水は皮膚の弾力低下と床ずれリスクを高めます。1日1,000〜1,500mlを目安に水分摂取を促してください。誤嚥が心配な方はとろみ剤を活用しましょう。
予防の柱③|スキンケア(清潔・保湿・排泄物対策)
高齢者の皮膚は薄く乾燥しやすく、わずかな刺激でも傷つきます。日々のスキンケアで皮膚のバリア機能を保つことが、褥瘡予防の3本目の柱です。
洗浄は「やさしく」が大原則
清拭や入浴時、皮膚をゴシゴシ擦るのは厳禁です。日本褥瘡学会の推奨は次の通り。
- 低刺激性の弱酸性石鹸をよく泡立てて、泡で押し洗いする
- すすぎは十分に行い、石鹸成分を残さない
- 水分を拭くときも擦らず、柔らかいタオルで押さえ拭き
- ドライヤーで乾燥させない(皮脂を奪う)
保湿でバリア機能を守る
入浴・清拭の後は必ず保湿剤を塗布します。ヒルドイドソフト軟膏(医療用)やワセリン、市販の高保湿クリームでOK。塗るときも擦らず、手のひらで優しく押し広げるように。1日2〜3回が目安です。
排泄物対策が褥瘡予防の最大ポイント
尿や便が皮膚に付着し続けると、化学的刺激と湿潤で皮膚バリアが急速に壊れます。これを「失禁関連皮膚炎(IAD)」と呼び、ここから褥瘡につながるケースが非常に多いのです。
- 排便・排尿があったらできるだけ早くおむつ交換
- おしりは石鹸を使った洗浄、もしくは温水で洗い流す(拭くだけは不十分)
- 洗浄後、肛門・外陰部・周囲皮膚に撥水性皮膚保護クリーム(リモイス バリア、3Mキャビロンなど)を塗布。便や尿を皮膚から弾く膜をつくります
- 下痢が続くときは医師・訪問看護師に相談(食事内容や薬の見直し)
- おむつのサイズと吸収量を見直す(漏れも逆戻りも皮膚に悪い)
シーツ・寝衣のしわをなくす
シーツのしわや、寝衣のごわごわした縫い目は、わずかでも長時間圧迫すれば褥瘡の原因になります。体位変換のたびにシーツを引き伸ばし、寝衣も背中の下に皺ができていないか手で確認しましょう。
予防の柱④|寝具・福祉用具と介護保険レンタル
体位変換だけでがんばろうとすると、家族の睡眠と腰がもちません。福祉用具を上手に組み合わせれば、予防効果が大幅に上がり介護負担も激減します。多くは介護保険でレンタル可能です。
介護保険でレンタルできる主な褥瘡予防用具
| 用具 | 対象 | 月額自己負担(1割) |
|---|---|---|
| 床ずれ防止用具(エアマットレス等) | 原則 要介護2以上 | 500〜1,500円 |
| 体位変換器(クッション類) | 原則 要介護2以上 | 200〜500円 |
| 特殊寝台(介護用電動ベッド) | 原則 要介護2以上 | 800〜1,500円 |
| 特殊寝台付属品(マットレス・サイドレール) | 原則 要介護2以上 | 100〜500円 |
要支援1〜2・要介護1の方も、医師の意見書があれば例外給付でレンタルできる場合があります。ケアマネジャー(または地域包括支援センター)に相談してください。
エアマットレスの種類と選び方
- 圧切替型エアマットレス:内部の空気袋が交互に膨張・収縮し、自動的に体圧を分散。自力で寝返りができない方に最適
- 静止型(ウレタンフォーム・ゲル):構造がシンプルで価格も安い。自力でわずかでも体位変換できる方向き
- 二層式エアマットレス:上層が柔らかく下層が体重を支える構造。骨の突出が強い高齢者に推奨
選定は理学療法士や福祉用具専門相談員と一緒に行うのが安全です。試用期間(無料で1〜2週間試す制度)を活用しましょう。
家庭での組み合わせ例
褥瘡予防は単品ではなく「組み合わせ」で効果が出ます。標準的な構成例:
- 介護用電動ベッド+圧切替型エアマットレス(体圧分散の基盤)
- 体位変換クッション3〜4個(30度側臥位の保持・背抜き用)
- ヒールプロテクター(かかと専用クッション)
- スライディングシート(移乗・体位変換時の摩擦軽減、家族の腰痛予防にも)
- 撥水性皮膚保護クリーム+保湿剤(毎日のスキンケア)
褥瘡の段階を知る|初期サインと進行度(DESIGN-R分類のエッセンス)
褥瘡の重症度は深さで分類されます。家族の方が医療現場の用語を理解しておくと、訪問看護師や医師との情報共有が格段にスムーズになります。
NPUAP/EPUAP分類(国際的なステージ分類)
- ステージ1:消えない発赤。皮膚は破れていないが、指で押しても赤みが消えない状態。家族が最も早く気づける段階。ここでケアを強化すれば多くは治癒します。
- ステージ2:表皮・真皮までの損傷。水疱、皮膚剥離、浅い潰瘍。痛みを伴います。
- ステージ3:皮下組織にまで及ぶ深い潰瘍。脂肪層が見えることも。
- ステージ4:筋肉・腱・骨にまで達する重度の褥瘡。治癒に数か月以上、場合によっては手術が必要。
- 判定不能:壊死組織で覆われ深さが判定できない状態。
- 深部損傷褥瘡(DTI)疑い:皮膚表面は紫色や赤茶色の変色だが、深部の組織がすでに広範囲に壊死している危険な状態。一見軽そうでも油断は禁物。
DESIGN-R®2020(日本褥瘡学会の評価ツール)
日本では、深さ(Depth)・滲出液(Exudate)・サイズ(Size)・炎症/感染(Inflammation/Infection)・肉芽(Granulation)・壊死組織(Necrotic tissue)・ポケット(Pocket)の7項目で褥瘡を評価するDESIGN-R®2020が標準的に使われています。各項目で小文字は軽度、大文字は重度を表します(例:d2=真皮までの損傷、D3=皮下組織までの損傷)。
訪問看護記録で「DESIGN-R合計18点」「d2-e3s6i1G4N3p0」などと書かれていたら、点数が大きいほど重症と理解してください。家族として記録の推移を見守ることで、ケアが効いているか客観的に判断できます。
家庭で「これは初期サインかも」と気づくチェックポイント
- 骨の出ている部位の皮膚が赤くなっている(指で押して白くならない・離して30秒以上赤みが残る)
- 周囲より皮膚が温かい、または冷たい
- 触ると硬くなっている、しこりのような感触
- 痛みを訴える(認知症の方は表情のこわばりや拒否で表現することも)
- 皮膚の色が紫・赤茶色・黒に変色(DTIの可能性、要受診)
医療職に相談すべきタイミング|家庭で対応せず受診すべきサイン
褥瘡は早期に医療職が介入するほど治癒が早くなります。「もう少し様子を見よう」が一番危険な判断です。次のサインがあれば、自己判断せずすぐに訪問看護師・主治医・皮膚科医に連絡してください。
すぐ相談すべき7つのサイン
- 発赤が24時間以上消えない:体位変換しても赤みが残る場合は、すでに皮膚の深部にダメージが及んでいる可能性
- 水疱(みずぶくれ)がある:ステージ2の褥瘡。自己判断で潰さない
- 皮膚が剥がれている、ジュクジュクしている:感染リスクが高い
- 皮膚の色が紫・赤茶色・黒に変色:深部損傷褥瘡(DTI)の疑い。皮膚表面は浅く見えても、深部で広範な壊死が進んでいる
- 悪臭がする、黄色や緑色の浸出液:感染の徴候。放置すると敗血症など全身性感染症に発展することも
- 発熱・元気がない・食欲がない:褥瘡感染による全身症状の可能性
- 痛みが強い・触ると激痛:感染や深部組織損傷のサイン
家庭の褥瘡ケアを支える医療・介護サービス
- 訪問看護:医師の指示のもと、看護師が自宅でDESIGN-R評価、創処置、ドレッシング材交換、家族指導まで実施。介護保険か医療保険で利用可能
- 訪問診療・往診:通院困難な場合は医師が自宅に来て診察。皮膚科や形成外科の連携医がいる訪問診療所もあり
- 皮膚科・形成外科外来:外来通院が可能なら、皮膚科専門医を受診。デブリードマン(壊死組織除去)が必要な場合は形成外科へ
- 褥瘡対策チーム(病院):入院中の方なら病院の褥瘡対策チーム(医師・看護師・栄養士・薬剤師)が対応
連絡時に伝えるべき情報
電話やオンラインで相談する際は、次の情報を準備しておくとスムーズです。
- 褥瘡の部位(仙骨部、かかと、など)
- 気づいた時期と現在までの経過
- 大きさ(500円玉大、など)と色・深さ
- 滲出液の有無、悪臭の有無、痛みの有無
- 体位変換の頻度、使用中のマットレス、食事量
- 可能ならスマートフォンで写真を撮影(明るい場所で、定規や物差しを横に置くと大きさが伝わる)
家庭でやってはいけない5つの褥瘡ケア|善意の自己流が悪化を招く
家族の方が「良かれと思って」やっているケアの中に、実は褥瘡を悪化させる方法が含まれていることがあります。日本褥瘡学会・日本皮膚科学会のガイドラインで明確に「やってはいけない」とされている5つの行為をまとめました。
1. 円座(ドーナツ型クッション)の使用
「お尻の褥瘡を浮かせるため」と円座を当てるのは逆効果です。円座は穴の周囲(リング状)に体重が集中し、その下の血流をかえって悪化させます。日本褥瘡学会のガイドラインでも「禁忌」と明記されています。代わりに体圧分散マットレスや三角クッションを使ってください。
2. 発赤部位のマッサージ
「血行を良くしよう」と赤くなった皮膚をマッサージするのも厳禁です。すでにダメージを受けた組織への摩擦は損傷を深め、ステージ2以上に進行させます。発赤を見つけたら触らず、圧迫を取り除く(体位変換)のが正解。
3. 消毒液(イソジン、エタノール、オキシドール)の使用
傷口を消毒すると正常な細胞も死滅させ、治癒を遅らせます。日本褥瘡学会の最新ガイドラインでは「褥瘡には基本的に消毒は不要」とされ、創部はぬるま湯か生理食塩水で洗浄するのが原則です。市販の消毒液を勝手に塗らないでください。
4. 自己判断での軟膏・テープ使用
市販のキズパワーパッドやテープ類は、褥瘡の状態に合わせた選択が必要です。浸出液が多い創に密閉性のフィルムを貼ると感染を悪化させますし、感染創に保湿系を使うと膿が広がります。必ず訪問看護師か医師の指示のもとでドレッシング材を選びましょう。
5. かかとを浮かさず「踵専用パッド」を踵に直接当てる
「かかと用クッション」と書かれた商品でも、かかと自体に当てると圧迫を集中させてしまうものがあります。原則はふくらはぎの下にクッションを差し込み、かかとを完全に空中に浮かせること。ヒールプロテクターを使う場合も、圧迫ではなく「保護」のために装着し、定期的に外して皮膚を観察してください。
+α:背中を擦るアルコールマッサージ
昔の介護では「赤くなったところにアルコールを擦り込んで予防する」が常識でしたが、現在は皮膚バリアを破壊する有害行為とされています。古い介護書の記述は信用せず、最新のガイドラインに基づいたケアをしてください。
介護家族自身を守る|腰痛予防と睡眠確保の現実解
褥瘡予防の話は「介護される側」を中心に語られがちですが、介護家族の体と睡眠が壊れたら、ケアは持続できません。実際、夜間体位変換による睡眠不足が原因で介護うつや在宅介護断念に至るケースが少なくありません。最後に、介護家族自身を守るための現実的な工夫をまとめます。
腰痛予防|介助動作の基本
- ベッドの高さは「腰より少し低い」に:電動ベッドなら介助時に上げ、終わったら下げる。前かがみが腰を壊す
- 足を肩幅に開き、膝を曲げて重心を低くする:腰だけで持ち上げない
- 体を密着させて重心を近づける:抱え上げ介助で背中を曲げない
- スライディングシート・スライディングボードを必ず使う:体位変換や移乗の摩擦を減らし、家族の負担も激減
- 1人で無理に持ち上げない:移乗が不安なら介護リフト(介護保険対象)を検討
夜間の睡眠を守る工夫
2時間ごとの体位変換を毎晩家族1人で行うのは不可能です。次の選択肢を組み合わせて、夜間に少なくとも4〜5時間の連続睡眠を確保してください。
- 圧切替型エアマットレスの導入:機械が自動的に体圧を分散するため、夜間の体位変換間隔を4時間に延長できる場合あり(主治医・訪問看護師と相談)
- 夜間のスモールチェンジ:完全な体位変換ではなく数センチずらすだけにする
- 就寝前の最終体位変換を遅めに、起床後の最初を早めに:夜間の介護回数を物理的に減らす
- 夜間対応訪問介護(夜間対応型訪問介護)の利用:要介護1以上で利用可能。深夜・早朝に訪問してもらえる
- ショートステイの定期利用:月に数日でも家族が完全に休める時間を確保
- 家族での交代制:きょうだいや配偶者でシフトを組む
レスパイトケアの罪悪感を捨てる
「親を施設に短期間預けるのは申し訳ない」と感じる家族は多いですが、介護うつや家族崩壊で在宅介護を続けられなくなるほうがはるかに深刻です。家族が休むことは、介護を続けるための投資と考えてください。地域包括支援センターやケアマネジャーに「私が倒れそうです」と率直に相談すれば、必ず手段が見つかります。
家庭での褥瘡予防に関するよくある質問
Q. 2時間ごとに体位変換しないと必ず褥瘡になりますか?
A. 必ずなるわけではありません。「2時間以内」は研究に基づく目安で、体圧分散マットレス(特にエアマットレス)を使う場合は4時間まで延長可能とする推奨もあります。ご家族の自力体位変換能力、骨突出の程度、栄養状態、使用中のマットレスによって最適な間隔は変わるため、訪問看護師に個別の体位変換スケジュールを作ってもらうのが理想です。
Q. 赤くなった皮膚はどうケアすれば良いですか?
A. まず触らず、その部位を圧迫しない体位に変えます。マッサージや消毒は厳禁。発赤が30分〜1時間で消えれば一時的な圧迫の影響、24時間以上消えなければステージ1の褥瘡として訪問看護師に連絡してください。同時に体位変換を強化し、保湿剤の塗布を続けます。
Q. エアマットレスは要介護1だとレンタルできませんか?
A. 原則は要介護2以上ですが、例外給付の制度があります。「日常的に寝返りができない」「日常生活範囲における移動の支援が必要」など医学的に床ずれリスクが高いと医師が判断すれば、要支援1〜2・要介護1でも介護保険でレンタル可能です。ケアマネジャーまたは地域包括支援センターに相談してください。
Q. 褥瘡の写真を見ると怖くなりました。家庭で見るのは抵抗があります
A. ネット上の褥瘡画像はステージ3〜4の重症例が多く、家庭で発生する初期段階(ステージ1の発赤)とは全く違います。家庭で見るべきは「皮膚の赤み」であり、進行した褥瘡を直視する必要はありません。怖がるより、毎日の観察を習慣化することが何より大切です。
Q. 褥瘡ができてしまったら自宅で治せますか?
A. ステージ1〜2程度なら、適切な処置と圧迫除去で家庭でも治癒可能です。ただし必ず訪問看護師か医師の指導下で行ってください。ステージ3以上、感染兆候、深部損傷褥瘡疑いがあれば、皮膚科・形成外科への受診や入院加療が必要なケースもあります。自己流の処置で時間を失うほど治癒は遅れます。
Q. 食事をあまり食べてくれません。栄養補助食品は本当に効果がありますか?
A. 低栄養は褥瘡発生・治癒遅延の最大要因の一つです。アルギニン・亜鉛・ビタミンCを強化した褥瘡治療用の栄養補助食品(メイバランス アルジネードシリーズ、アバンドなど)は、臨床研究で創傷治癒の促進効果が報告されています。ただし基本は食事からの摂取で、補助食品は不足を補う位置づけ。管理栄養士の訪問栄養指導を活用してください。
参考文献・出典
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
- [6]
- [7]
まとめ|家族にも続けられる褥瘡予防を
家庭での褥瘡予防は、4つの柱を「完璧」ではなく「持続可能」に組み合わせることが鍵です。
- 体位変換:エアマットレス併用で2〜4時間ごと。30度側臥位とスモールチェンジを活用
- 栄養:タンパク質・亜鉛・ビタミンC・水分。少量頻回食と栄養補助食品で底上げ
- スキンケア:こすらず洗い、必ず保湿、排泄物は素早く除去して撥水クリームでバリア
- 福祉用具:介護保険レンタルで圧切替型エアマット+体位変換クッション+スライディングシートを組み合わせ
そして最も大切なのは、家族だけで抱え込まないことです。発赤が消えない、水疱がある、皮膚が変色した——こうしたサインを見つけたら、迷わず訪問看護師や主治医に連絡してください。家族にできるのは「毎日の観察」と「圧迫を取り除くこと」、そして「専門家に早く繋ぐこと」までで十分です。
円座・マッサージ・消毒液・アルコール拭き取りといった古い知識は今はNGとされています。最新ガイドラインに基づいた正しい予防を、ご自身の睡眠と腰を守りながら続けていきましょう。介護家族が倒れないことこそが、最大の褥瘡予防です。
監修者
介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム
医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)
訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。
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