介護現場の5S活動|整理・整頓・清掃・清潔・しつけで事故と無駄を減らす進め方
介護職向け

介護現場の5S活動|整理・整頓・清掃・清潔・しつけで事故と無駄を減らす進め方

介護現場の5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を解説。探し物・転倒・感染・誤薬を減らす5要素の具体例、赤札作戦や定位置管理の進め方、定着のコツ、生産性向上加算との関係まで現場目線でまとめます。

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介護現場の5S活動とは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字「S」を取った職場改善の取り組みで、もとは製造業で生まれた手法です。物を探す時間や通路の転倒リスク、感染・誤薬につながるムダをなくし、空いた時間を利用者と向き合うケアに振り向けることが狙いです。厚生労働省の「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」でも、5Sは業務改善7つの視点の筆頭(職場環境の整備)に位置づけられています。

目次

「綿手袋がどこにあるか分からず探し回った」「廊下に置かれたワゴンに利用者がつまずきそうになった」「倉庫が物であふれ、奥のストックが期限切れになっていた」。こうした場面に心当たりがある介護職は少なくないはずです。人手が足りず一つひとつの業務に追われるほど、職場は乱れ、その乱れがさらに時間と安全を奪うという悪循環に陥ります。

この悪循環を断ち切る具体的な方法として、いま医療・介護の現場で広く取り入れられているのが5S活動です。単なる「片付け」や「掃除当番」とは違い、誰が見ても同じ状態を保てる仕組みをつくり、それを習慣として根づかせるところまでを含みます。本記事では、5Sの5つの要素を介護現場の物品・記録・動線・倉庫に当てはめながら、明日から動かせる進め方と、定着させるためのコツを整理します。あわせて、5Sが令和6年度から始まった生産性向上推進体制加算や事故予防とどうつながるのかも、現場目線で読み解きます。

5Sとは|整理・整頓・清掃・清潔・しつけの5要素

5Sとは、職場環境を整えるための5つの行動「整理(Seiri)・整頓(Seiton)・清掃(Seiso)・清潔(Seiketsu)・しつけ(Shitsuke)」の総称です。いずれもローマ字にすると頭文字が「S」になることから5Sと呼ばれます。もともとは製造業の現場改善として広まり、現在は病院や介護施設など、安全と効率が同時に求められる職場で標準的な手法になっています。

5つの要素の意味

要素読み意味
整理せいり要るものと要らないものを分け、要らないものを処分する
整頓せいとん要るものを、誰でもすぐ取り出せる場所に決めて置く
清掃せいそういつもきれいな状態にし、点検も兼ねて異常に気づく
清潔せいけつ整理・整頓・清掃(3S)の状態をルール化して維持する
しつけしつけ決めたことを決めたとおりに守り、習慣として定着させる

大切なのは、5Sが「整理・整頓・清掃」という3つの実作業(3S)と、それを「清潔(=維持)」「しつけ(=習慣化)」で支える二層構造になっている点です。3Sをいくらやっても、清潔としつけで仕組みにしなければ、数週間で元の乱れた状態に戻ります。逆にいえば、5Sが続かない職場の多くは、行動そのものではなく「維持する仕組み」が抜けています。

「片付け」や「掃除当番」との違い

5Sを単なる片付けと同じものだと捉えると、活動はほぼ確実に形骸化します。両者の違いは次のとおりです。

  • 目的が違う:片付けの目的は「きれいにすること」。5Sの目的は「安全・効率・快適を実現すること」で、見た目のきれいさは結果にすぎません。
  • 基準が違う:掃除当番は「人によってきれいの程度がバラバラ」。5Sは「誰がやっても同じ状態になる基準」を文章や写真で決めます。
  • 続き方が違う:片付けは気づいた人がやって終わり。5Sはルールと点検の仕組みで、担当者が代わっても続きます。

厚生労働省も、業務改善の出発点として5Sと3M(ムリ・ムダ・ムラ)を意識することを推奨しており、「『昔からこうしている』『○○さんが言っていた』は要注意」と、慣習を疑う視点を持つよう促しています。5Sは掃除のスキルではなく、職場の当たり前を点検し直す「見方」だと考えるとよいでしょう。

介護現場に5S活動が必要な4つの理由

製造業発祥の手法が、なぜ介護の現場でこれほど重視されるのでしょうか。それは、介護現場の乱れが「時間のロス」だけでなく「人の命にかかわる事故」に直結するからです。介護現場に5Sが必要な理由を、4つの具体的なリスクから見ていきます。

理由1:物を探す時間が、利用者と向き合う時間を奪う

介護は記録・備品管理・清掃など間接業務が多く、必要な物品や書類がすぐ見つからないと、その分だけ直接ケアの時間が削られます。厚生労働省も生産性向上の例として「整理整頓により物を探す時間を短縮し、利用者とのコミュニケーションを充実させること」を挙げています。1回あたりは数十秒でも、1日に何度も繰り返せば膨大なムダになり、残業や心の余裕のなさにつながります。

理由2:通路の物が転倒事故を招く

廊下や居室にワゴン・車いす・段ボールが直置きされた状態は、利用者にとっても職員にとっても転倒の原因です。高齢者の転倒は骨折から寝たきりに直結しやすく、避難経路がふさがっていれば災害時の安全も損なわれます。「通路・居室の直置きゼロ」を保つこと自体が、立派な事故予防策になります。

理由3:清掃・清潔の乱れが感染を広げる

介護施設は感染症に弱い高齢者が集団で生活する場です。「いつ・誰が・どのように掃除するか」が曖昧だと、清掃の抜け漏れや手順の省略が起こり、食中毒や感染症のリスクが高まります。誰が掃除をしても同じきれいさを保てるよう手順を標準化すること(=清潔)が、衛生環境を守る土台になります。

理由4:物の置き場の乱れが誤薬・取り違えを生む

薬や物品が決まった場所に保管されていないことは、誤薬や取り違えの大きな要因です。交代制・チーム制で動く介護現場では、整理整頓されていないと申し送りメモが他の書類に埋もれて気づかれない、といったことも起こります。看護・介護の現場で5Sが医療安全の基本として定着しているのは、薬品や用具の置き方を決めること自体が、ヒューマンエラーを減らす仕組みになるからです。

つまり5Sは「きれいな職場をつくる活動」ではなく、探す・つまずく・うつる・間違えるという4つのムダとリスクを、環境の側から減らす活動です。職員の注意力に頼るのではなく、間違えにくい環境をつくることが本質です。

5Sの5要素を介護現場に当てはめる|物品・記録・動線・倉庫の具体例

5Sを介護現場に落とし込むときのコツは、抽象的な言葉のまま考えないことです。ここでは5つの要素を、現場で必ず登場する物品・記録(書類)・動線・倉庫(ストック)の4場面に当てはめて、具体例を示します。

整理:要る・要らないを分けて捨てる

整理は「捨てる」ことから始まります。物が多すぎること自体が、探しにくさと事故の温床になるためです。

  • 物品:壊れた車いす・歩行器、欠品して使えない福祉用具を保管庫から処分する。「いつか直すかも」で残った物が場所を圧迫していないか見直す。
  • 記録:保存年限を過ぎた書類、重複してファイリングされた帳票を廃棄・電子化する。
  • 動線:通路に常時置かれているワゴンや段ボールを「本当にそこに要るか」で判断し、不要なら撤去する。
  • 倉庫:期限切れの医療材料・消耗品、来年使うか分からないレクリエーション用品を「来年使わないものは処分」の基準で仕分ける。

判断に迷うものには赤札作戦が有効です。「要るか要らないか分からないもの」に赤い札を貼り、処置期限を書いておきます。期限が来たら使ったかどうかで捨てる・残すを判断するため、感覚ではなく事実で整理が進みます。

整頓:誰でもすぐ取り出せるように置く

整頓のものさしは「きれいかどうか」ではなく「効率的かどうか」です。見た目を整えるのではなく、業務がスムーズに回る配置をつくります。整頓は定位置・適正量・表示の3つで進めます。

  • 物品:体温計やナースコール予備機を「定位置・定数」で管理し、戻す場所が一目で分かるよう写真付きの表示を棚に貼る。
  • 記録:申し送りメモやよく使う帳票の置き場所を1か所に統一し、職員が代わっても探さずに済むようにする。
  • 動線:ベッド下や物品の定位置を床の区画線(テープ)で示し、置き場所がずれていないか一目で分かるようにする。
  • 倉庫:紙オムツ・リハビリパンツを種類ごとにラベルを貼って決まった棚に収納し(定置・定品)、常に一定量(例:5個)を保つルールにする(定量)。

清掃:きれいにしながら異常に気づく

清掃には「掃除」と「点検」の両面があります。決められた頻度で清掃していると、変化や異常に早く気づけるのが利点です。たとえば床を拭く際にネジが落ちているのを見つけたら、車いすを点検して不具合に気づける、というように事故予防の入り口になります。

  • 物品:車いす・歩行器を定期的に拭き掃除するルールを設け、ついでにブレーキやタイヤの不具合をチェックする。
  • 動線:転倒防止のため動線上を常にきれいにし、水滴で滑らないようにする。シフトごとに清掃担当を決めて共用部を巡回する。
  • 排泄ケア:排泄介助後にトイレの床や手すりをすぐ拭き上げる仕組みをつくる。

清潔:3Sの状態をルール化して維持する

清潔とは、整理・整頓・清掃(3S)が標準化(ルール化)され、維持されている状態を指します。きれいさの基準は人それぞれなので、基準を具体的に決めることがポイントです。たとえば「机をきれいにして帰る」では曖昧ですが、「退勤時に机の上は物がない状態にする」と決めれば、ほぼズレがなくなります。3Sが実行できているかをチェックリストで確認し、衛生管理を徹底します。

ここで大切な考え方が、ルールを守れなかったときは「守らなかった人」ではなく「ルールの方に問題がある」と捉えることです。人は慣れると手順を省きがちなので、責めるのではなく「忘れない仕組み」「守れる仕組み」に作り直す姿勢が、清潔を保つ鍵になります。

しつけ:決めたことを習慣にする

しつけは、決められたことを決められたとおりに守る習慣を身につけることです。最終的には、意識しなくても自然に5Sが回る状態(無意識でできる状態)を目指します。

  • 分からないことがあったとき、OJTの仕組みの中で先輩に尋ねる、手順書に立ち返る癖をつける。
  • 朝礼で「今日の5S目標」を共有し、退勤前に物を定位置に戻すことを当たり前にする。
  • 定期的に全員で整理整頓の状態を確認する日を設ける。

なお5Sは整理→整頓→清掃→清潔→しつけの順番を飛ばさないことが重要です。整理が不十分なまま整頓に入ると、不要物が紛れたまま配置を考えることになり、本当に使いやすい状態から遠ざかってしまいます。

介護現場の5S活動の進め方|5ステップ

5Sは「気合いを入れて一斉に片付ける」では続きません。製造業や建設現場で確立された進め方を介護現場向けに整理すると、次の5ステップになります。順を追って小さく始めるのが成功の近道です。

ステップ1:目的を共有し、推進体制をつくる

最初にやるべきは、片付け作業ではなく「なぜ5Sをやるのか」の共有です。「きれいにしろ」という指示だけでは続きません。事故防止・探し物削減・働きやすさといった具体的なメリットを、施設長やリーダーから全職員に伝え、自分たちの職場をよくする活動だと意識をそろえます。そのうえで5S活動の委員(推進担当)を選び、改善ボード(掲示板)を設置して、目的・方針・進捗を共有する場をつくります。トップが本気で取り組む姿勢を示すことが、何より重要です。

ステップ2:現状を写真で「見える化」する

改善前の状態を写真で記録します。写真はビフォー・アフターの比較に使えるうえ、職員が自分たちの職場を客観的に見直すきっかけになります。あわせて、どこに物が散乱しているか、どの業務で時間がかかっているか、情報共有が滞っている点はどこかを洗い出してリスト化します。チェックリストで整理・整頓・清掃の状況を段階評価し、スコア化すると進捗が管理しやすくなります。

ステップ3:整理から着手する(不要物の排除)

まず「整理」だけに集中します。物品・記録・備品を「必要・不要・判断保留」の3つに分け、不要なものを撤去します。判断保留には赤札を貼り、期限後に使ったかどうかで判断します。不要物を減らすだけで作業スペースが広がり、通路の確保も格段に楽になります。あれもこれもと手を広げず、整理を終えてから次に進むのがコツです。

ステップ4:定位置・表示で整頓する

整理で残ったものに置き場所を決めます。「定位置・適正量・表示」を徹底し、床に区画線を引く、棚に写真付きラベルを貼る、品名と定数を表示するなど、誰が見ても戻す場所が分かる状態にします。最初から完璧を目指さず、よく使う物品や事故につながりやすい場所から優先的に整えていきます。

ステップ5:清掃ルールを決め、維持・定着させる(清潔・しつけ)

清掃の担当・頻度・手順を明文化し、写真や図を使ってマニュアル化します。新人でも迷わず実践できるようにすることが属人化を防ぎます。そのうえで、チェックシートで実施状況を可視化し、定期的に振り返って改善する(PDCAを回す)ことで、形だけの活動になるのを防ぎます。ここまで仕組み化して初めて、5Sは担当者が代わっても回り続けます。

進め方の全体像をまとめると次のとおりです。

ステップやること対応する5S
1目的共有・推進体制づくり・改善ボード設置全体
2定点撮影で現状を見える化・課題リスト化全体
3赤札作戦で不要物を排除整理
4定位置・表示・区画線で配置を固定整頓
5清掃ルール明文化・チェックシートで維持清掃・清潔・しつけ

5S活動を定着させる5つのコツ

5S活動が失敗する最大の原因は「最初だけ頑張って、しばらくすると元に戻る」ことです。やり始めることより、続けることのほうが難しいといえます。現場で確認されている定着のコツを5つにまとめます。

コツ1:写真でビフォー・アフターを掲示する

改善ボードに改善前・後の写真を貼り、今月の重点課題や担当者名を掲示します。写真による比較は、職員が自分たちの改善を実感できるもっとも効果的なフィードバックです。目に見える成果があると、活動が「自分ごと」になります。

コツ2:小さな成功を評価する場をつくる

5Sは目に見えにくい労力の積み重ねです。「今週の5S改善事例」を朝礼で紹介したり、良い整頓の写真を掲示したりして、取り組みを認める場をつくります。改善提案をした職員を称える文化が生まれると、5Sは指示されなくても自走し始めます。

コツ3:担当エリアと責任者を決める

「みんなでやろう」は誰もやらない状態を生みがちです。担当エリア制を導入し、プロジェクトリーダーを立てて責任を明確にします。リーダーが毎週の進捗確認・課題把握・必要な物品の準備を取りまとめることで、活動の停滞を防げます。

コツ4:誰が見ても分かるルールにする

物品の配置や清掃手順を文章だけでなく写真や図で示し、新人職員でも迷わず実践できるようにします。マニュアル化することで属人化を防ぎ、施設全体で統一した取り組みが可能になります。「きれいにして帰る」のような曖昧な表現を避け、「机の上は物がない状態にする」のように基準を具体化するのがポイントです。

コツ5:ルールが守られないときはルールを疑う

ルールを決めても、忘れたり守れなかったりする状況は必ず出てきます。そのとき大切なのは、人を責めるのではなく「そのルール自体に無理がなかったか」を見直すことです。守りにくいルールは、守れる仕組み(置き場所をもっと手元に近づける、表示を増やすなど)に作り直します。形骸化を防ぐには、ルールを固定せず改善し続ける姿勢が欠かせません。

なお、人手不足のなかで新しい活動を始めることは負担に感じられがちです。だからこそ、いきなり施設全体ではなく、まずは一つの倉庫や一つの棚から始め、小さな改善を積み重ねることが現実的です。必要に応じて外部の研修や伴走支援を活用しながら、自施設の状況に合わせて無理なく進めましょう。

5S活動と生産性向上推進体制加算・制度の関係を読み解く

5Sを「現場の片付け」で終わらせず制度とお金の文脈で捉えると、活動の意味がぐっと大きくなります。ここでは公的資料をもとに、5Sが生産性向上の取り組みや加算とどうつながるかを読み解きます。

5Sは厚労省ガイドライン「7つの視点」の筆頭

厚生労働省の「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」は、業務改善を次の7つの視点(打ち手)で進めることを示しています。

  1. 職場環境の整備
  2. 業務の明確化と役割分担
  3. 手順書の作成
  4. 記録・報告様式の工夫
  5. 情報共有の工夫
  6. OJTの仕組みづくり
  7. 理念・行動指針の徹底

この筆頭に置かれた「職場環境の整備」の中身こそが5S活動です。ガイドラインは、現場の課題を引き出すために職員全体が5Sと3M(ムリ・ムダ・ムラ)の意識を持つことを業務改善の第一歩と位置づけています。つまり5Sは、数ある改善策の一つではなく、ほかの6つの打ち手を動かすための土台なのです。

令和6年度に新設された「生産性向上推進体制加算」との関係

令和6年度の介護報酬改定では、生産性向上推進体制加算が新設されました。単位数と主な要件は次のとおりです(短期入所系・居住系・多機能系・施設系サービスが対象)。

区分単位数主な要件(抜粋)
加算(Ⅰ)100単位/月(Ⅱ)の要件を満たし、データで業務改善の成果が確認されたこと。見守り機器等のテクノロジーを複数導入。職員間の適切な役割分担。年1回の効果データ提供。
加算(Ⅱ)10単位/月安全と質の確保・職員の負担軽減を検討する委員会を開催し、生産性向上ガイドラインに基づく改善活動を継続。見守り機器等を1つ以上導入。年1回の効果データ提供。

注目すべきは、加算(Ⅱ)の要件に「生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動を継続的に行っていること」が明記されている点です。前述のとおりガイドラインの筆頭は5S。さらに改定では、安全・質・負担軽減を検討する委員会の設置が義務づけられ(3年間の経過措置)、委員会は3か月に1回以上開催することとされています。つまり、5Sを土台にした業務改善を仕組みとして回せる施設ほど、加算の要件を満たしやすい構造になっています。

独自分析:算定率から読む「5Sが追い風になる理由」

令和7年5月審査分の算定状況を見ると、全サービスで加算(Ⅰ)は2.48%、加算(Ⅱ)は21.81%にとどまっています(厚生労働省資料)。テクノロジー導入とデータ提供という高いハードルがある加算(Ⅰ)はまだごく一部で、多くの施設が見守り機器1つ以上で取得できる加算(Ⅱ)の段階にあると読めます。

この数字を現場の働き手の視点で捉え直すと、ポイントが3つ見えてきます。第一に、加算取得の前提となる委員会・業務改善の土台づくりはこれから本格化する段階であり、5Sを回せる現場経験は今後ますます評価されること。第二に、加算(Ⅱ)から(Ⅰ)への移行には「業務改善の成果データ」が必要で、写真や時間の記録で改善を見える化する5Sのやり方がそのまま成果の裏づけになること。第三に、生産性向上に積極的な職場は「残業が少なく働きやすい」と求職者にアピールでき、人材定着や採用で有利になること。5Sに強い職場を選ぶ・つくることは、加算という収入面だけでなく、自分自身の働きやすさにも直結するのです。

5Sは床を磨く活動である以上に、施設の収益構造と職員の働き方を左右する経営の起点でもある。この視点を持っておくと、現場での一つひとつの整理整頓に納得感が生まれます。

5Sは事故予防(リスクマネジメント)の土台になる

5Sのもう一つの大きな意味は、事故予防(リスクマネジメント)の土台になることです。医療の分野では、5Sは医療安全の基本として定着しています。決められたことを決められたとおりに実行する習慣が身につくことで、職員のヒューマンエラーが減り、利用者の事故防止につながるからです。

5Sはヒヤリハットを「起きにくい環境」に変える

事故予防の基本は、ヒヤリハットの段階で要因に気づき、対策を立てることです。ハインリッヒの法則(1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットがある)が示すとおり、小さな気づきの積み重ねが重大事故を防ぎます。ここで5Sが効くのは、危険予知や報告といった「人の注意力」に頼る対策に加えて、そもそも危険が生まれにくい環境を整えるという別ルートを用意できる点です。

  • 通路の直置きゼロ → つまずき・転倒のヒヤリハットそのものを減らす
  • 薬・物品の定位置と表示 → 取り違え・誤薬の発生条件を断つ
  • 清掃を通じた点検 → 床のネジや用具の不具合など、事故の芽を早期発見する
  • 申し送りメモの置き場統一 → 情報の埋もれによる伝達ミスを防ぐ

危険予知や報告の仕組みと組み合わせる

5Sは単独でも有効ですが、ヒヤリハット報告や危険予知トレーニング(KYT)、インシデントレポートと組み合わせることで効果が高まります。報告で見つかった「不明確な手順・ルール」を整理・標準化し(整理・整頓・清潔)、それを習慣として守る(しつけ)。この一連の流れを繰り返すことで、職場の安全性は少しずつ着実に高まっていきます。5Sは派手な対策ではありませんが、事故予防のすべての取り組みが乗る「地面」をならす活動だといえます。

介護現場の5Sチェックシート|点検項目の例

5Sを続けるには、「やったつもり」を防ぐためのチェックシートが欠かせません。ルールを決めるだけでなく「実施されているか」を可視化することで、職員ごとの認識のズレを防ぎ、組織として統一した基準で運用できます。介護現場で使いやすい点検項目の例を、5S別に挙げます。

区分確認項目の例
整理使わない物品・壊れた備品が作業エリアに残っていないか/期限切れの消耗品・医療材料がないか
整頓物品が定位置に戻されているか/棚の表示(写真・ラベル)が見やすく保たれているか/在庫が定数になっているか
清掃床に不要物・水滴がなく滑らない状態か/清掃が決められた頻度で実施されているか/車いす等の用具が清潔か
清潔3Sの標準写真と現状が一致しているか/清掃チェックリストに記入・署名がされているか
しつけ全員がルールを理解し、自発的に守れているか/退勤時の定位置戻しが習慣化しているか
共通避難経路・通路幅が確保されているか/申し送り・記録の保管ルールが守られているか

厚生労働省のガイドラインに付属する自己点検の項目にも「事業所内が常に整理整頓しているか」「事業所内で物品管理を徹底しているか」が含まれており、整理整頓と物品管理は施設運営の基本指標として位置づけられています。チェックシートは形式的な作業で終わらせず、結果を振り返り、守れていない項目はルールの側を見直すことで、点検が改善のサイクルにつながります。

よくある質問(FAQ)

Q. 5Sと「片付け」「掃除当番」は何が違いますか。

目的と続き方が違います。片付けや掃除当番の目的は「きれいにすること」で、人によって基準がバラバラになりがちです。5Sは「安全・効率・快適」を目的に、誰がやっても同じ状態になる基準を決め、点検の仕組みで担当者が代わっても続くようにします。見た目のきれいさは5Sの目的ではなく結果にすぎません。

Q. どこから始めればよいですか。

いきなり施設全体ではなく、一つの倉庫や棚など範囲を絞って始めるのが現実的です。順番は整理(不要物の排除)から。整理を飛ばして整頓に進むと、不要物が混ざったまま配置を考えることになり、かえって使いにくくなります。まず赤札作戦で要る・要らないを仕分けることから着手しましょう。

Q. 忙しくて5Sの時間が取れません。

5Sは「探す・つまずく・間違える」ムダを減らして時間を生み出す活動なので、長期的にはむしろ余裕を生みます。とはいえ最初は負担に感じやすいため、1日5分の定位置戻しや、退勤前の机リセットなど、小さく習慣に組み込むのがコツです。まとまった時間の確保が難しければ、外部研修や伴走支援の活用も選択肢になります。

Q. ルールを決めても職員が守ってくれません。

守られないときは、人ではなくルールの側を疑ってみてください。置き場所が遠い、表示が分かりにくいなど、守りにくい理由があることが多いものです。「忘れない仕組み・守れる仕組み」に作り直すこと、写真や図で誰でも分かるようにすること、できている人を朝礼で認めることが定着につながります。

Q. 5Sは加算につながりますか。

直接「5Sをやれば加算」という制度ではありませんが、令和6年度新設の生産性向上推進体制加算は、生産性向上ガイドラインに基づく業務改善の継続を要件としており、そのガイドラインの筆頭が5Sです。委員会を設け、5Sを土台に業務改善を仕組みとして回せる施設ほど、加算の要件を満たしやすくなります。

参考文献・出典

まとめ

介護現場の5S活動は、整理・整頓・清掃・清潔・しつけという5つの行動を通じて、探す・つまずく・うつる・間違えるという4つのムダとリスクを環境の側から減らす取り組みです。単なる片付けと違い、誰がやっても同じ状態を保てる仕組みをつくり、習慣として根づかせるところまでがセットになっています。

進め方のポイントを振り返ると、(1)目的を共有して推進体制をつくり、(2)写真で現状を見える化し、(3)整理から着手して不要物を捨て、(4)定位置と表示で配置を固定し、(5)清掃ルールとチェックシートで維持・定着させる、という順番でした。続けるコツは、写真でビフォー・アフターを掲示する、小さな成功を認める、担当と責任者を決める、誰でも分かるルールにする、守られないときはルールを疑う、の5つです。

そして5Sは、厚生労働省の生産性向上ガイドラインの筆頭であり、令和6年度新設の生産性向上推進体制加算や事故予防の土台でもあります。床を磨く活動である以上に、施設の安全・収益・働きやすさを左右する起点だと捉えると、日々の整理整頓に納得感が生まれるはずです。まずは一つの棚、一つの倉庫から。小さな改善の積み重ねが、働きやすい職場への確かな一歩になります。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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