
介護予防支援の指定、居宅の16.3%のみ|三菱総研調査で判明、71.1%が「報酬が低い」
厚労省委託の三菱総合研究所調査で、2024年度改定で直接指定が可能になった介護予防支援を、居宅介護支援事業所の16.3%しか受けていないことが判明。指定後の課題は「報酬が低い」71.1%。制度設計と2027年改定への示唆を解説。
結論:指定16.3%にとどまる
厚生労働省から委託を受けた三菱総合研究所の最新調査で、市町村から介護予防支援の指定を受けている居宅介護支援事業所は16.3%にとどまることが判明した。2024年度改定で居宅が直接指定を受けられる仕組みが導入されたものの、受けていない事業所は80.0%に達する。既に指定を受けた事業所の課題として「報酬が低い」が71.1%で最多を占め、介護予防支援の担い手拡大が構造的な報酬設計の壁に阻まれている実態が浮かび上がった。
目次
はじめに:制度転換から1年の実態
2024年度(令和6年度)介護報酬改定で、介護予防支援をめぐる制度が大きく転換した。従来は地域包括支援センターだけが市町村から指定を受けてケアプランを作成し、居宅介護支援事業所は包括からの委託を受ける立場に限られていた。改定後は、居宅介護支援事業所が市町村から直接指定を受けて要支援者のケアマネジメントを担える仕組みが新設された。
背景には、高齢化の進展と要支援認定者の増加で地域包括支援センターの業務が逼迫している現状がある。国は居宅の既存リソースを活用することで、要支援者のケアマネジメント体制を持続可能なものにしようとしている。
しかし、制度施行から約1年を経た2025年秋の時点で、指定を受けた居宅介護支援事業所は16.3%にとどまる——これが、厚生労働省から委託を受けた三菱総合研究所の最新調査で明らかになった事実だ。しかも既に指定を受けている事業所の7割超が「報酬が低い」と回答しており、制度の受け皿拡大が容易でない実態が浮き彫りになっている。本稿では調査結果の骨子、制度設計の課題、そして2027年度同時改定議論への示唆を整理する。
調査結果の概要|「指定16.3%・未指定80.0%」の衝撃
今回の調査は、厚生労働省から委託を受けた三菱総合研究所が2025年10月から11月にかけて実施した。全国3,000の居宅介護支援事業所が対象で、977事業所から有効回答を得た(回収率32.9%)。2024年度改定の影響を定量的に把握し、2027年度同時改定に向けた論点整理につなげるのが狙いだ。
直接指定を受けているのは16.3%のみ
まず核心の数字を確認する。居宅介護支援事業所が市町村から介護予防支援の指定を受けている割合は16.3%。対して「指定を受けていない(予定もない)」と回答した事業所は80.0%に達した。2024年4月の制度開始から1年半が経過したにもかかわらず、直接指定を受ける居宅はなお少数派にとどまっている。
設置主体別に見ると、社会福祉協議会や医療法人で指定割合が相対的に高い傾向が示されている。地域包括支援センターとの物理的・組織的な近接性や、公的性格の強い法人ほど指定を取得しやすい構図がうかがえる。
指定を受けない最大の理由は「包括からの委託で対応する方針」
指定を受けていない事業所にその理由を複数回答で尋ねた結果、「地域包括支援センターからの委託で対応する方針のため」が52.3%で最多となった。これに次いで、「要介護者の受け入れで一杯のため」が32.6%、「包括からの紹介の要支援者がほとんどのため」が24.7%と続く。
つまり、直接指定に踏み切らない背景には「従来通り委託で問題ない」という運用継続型の判断と、「そもそも要介護者で手一杯」という業務量の制約が重なっている。新たな指定取得に向けた事務負担を払ってまで、現行の業務フローを変更する誘因が弱いことを示している。
指定後の最大の課題は「報酬が低い」71.1%
一方、既に指定を受けている事業所に指定後の課題を尋ねた設問では、「報酬が低い」が71.1%で断トツの1位となった。「担当件数が増え、負担が大きい」との回答も34.0%に上る。
指定を受けた理由としては「地域包括支援センターからの要望」「介護予防支援業務を円滑に行うため」がいずれも40.9%で並び、地域の要請や業務連携の円滑化が直接指定の主な動機となっている。ただ、指定を取得した事業所の中でも報酬面の不満が根強く、制度が「やればやるほど採算が合わない」構造になっている可能性を調査結果は示唆している。
2024年度改定の制度変更と今回調査の意義
「居宅直接指定」が新設された背景
2024年4月に施行された令和6年度介護報酬改定および介護保険法改正では、介護予防支援(要支援1・2の方へのケアマネジメント)の実施主体が拡大された。従来、介護予防支援は地域包括支援センターが市町村から指定を受けて実施し、居宅介護支援事業所は包括からの委託を受ける形でしか関与できなかった。改定後は、市町村が居宅介護支援事業所を「指定介護予防支援事業者」として直接指定できるようになった。
制度変更の狙いは、地域包括支援センターの業務逼迫の緩和だ。高齢化の進展で総合相談件数が急増し、要支援者の増加とあいまって、包括が直接プラン作成を担う余力は乏しくなっていた。居宅の既存ケアマネジメント資源を活用して、要支援者のケアプラン体制を持続可能なものへ再設計することが、厚生労働省の問題意識だった。
運営基準の緩和と報酬単価の設計
直接指定を取得した居宅介護支援事業所には、モニタリング時にテレビ電話等を活用できる(利用者の同意と状態の安定が前提)、市町村への実施状況の報告義務が課されるといった運営基準が整備された。報酬面では、居宅が直接指定を受けて介護予防支援を実施する場合の単価が、地域包括支援センターが実施する場合の単価よりやや高めに設定され、さらに居宅介護支援費における要支援者の取扱件数換算が「2分の1」から「3分の1」へ緩和されるなど、参入インセンティブが用意された。
ただし、従来通りの包括からの委託契約もそのまま継続可能とされた。つまり居宅側には「直接指定を取る」「従来通り委託で受ける」「そもそも要支援者は扱わない」という3つの選択肢が並ぶ構図となった。
今回調査が押さえる論点
今回の三菱総研調査は、この制度選択の結果を全国規模で初めて定量的に示したものだ。16.3%という指定取得率は、制度設計時に想定された「居宅の積極的な参入」というシナリオと比較すると、明らかに伸び悩んでいる。厚生労働省としては、2027年度の介護報酬・診療報酬・障害福祉サービス報酬の「トリプル改定」に向け、この調査結果を踏まえた制度調整が論点となる。
「報酬の低さ」71.1%の構造的要因を読み解く
指定を受けた事業所の71.1%が課題に挙げた「報酬が低い」という声は、単なる金額不満にとどまらない。介護予防支援という業務の構造的な採算性の問題を示している。以下、3つの視点から分析する。
1. 単価の絶対水準が居宅介護支援と乖離している
要介護者向けの居宅介護支援費が2024年度改定で要介護1・2で1,086単位、要介護3〜5で1,411単位に引き上げられたのに対し、介護予防支援(居宅直接指定の場合)の単価は400単位台にとどまる。件数を3分の1換算する緩和措置はあるものの、1件あたりの絶対水準が低いことには変わりがない。
要支援者であっても、モニタリング、サービス担当者会議、プラン作成、市町村への報告といった業務プロセスは要介護者と基本的に共通する。業務量に比して報酬が低いという構造は、今回の改定でも十分に是正されなかったと現場は受け止めている可能性が高い。
2. 要支援者の事例は「小さな案件」に見えにくい複雑性を抱える
要支援者だからといってプラン作成が容易とは限らない。介護予防・日常生活支援総合事業との連動、自治体ごとに異なる総合事業の枠組み、地域包括支援センターとの連携、セルフマネジメントの促進など、要支援者固有の検討事項は多岐にわたる。
特に初回プラン作成時のアセスメントは、要介護者と同等かそれ以上の時間を要することも珍しくない。単価が低く件数換算でも緩和されるとはいえ、1件あたりの業務量と報酬の不整合が、現場で「割に合わない」という感覚を生んでいると考えられる。
3. 間接コストの薄さが採算を圧迫
居宅介護支援事業所は他の介護サービスと比べて固定費が少なく、売上のほぼ全てが人件費と事務コストで構成される。つまり1件あたりの報酬が低いと、その事業所全体の採算性に直結する。介護予防支援が全体業務の中で一定割合を占めるようになると、居宅介護支援部門の利益率そのものを押し下げかねない。
特定事業所加算を算定できない事業所が過半数に及ぶ現状を踏まえれば、介護予防支援に踏み出すかどうかは、経営者にとって「社会的意義」と「採算確保」を天秤にかける判断となる。80.0%が「指定を受けない」と回答した背景には、この経営判断のシビアさがある。
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2027年同時改定・地域包括ケアへの示唆
今回の調査結果は、単独の制度評価で終わらず、2027年度のトリプル改定(介護報酬・診療報酬・障害福祉サービス報酬の同時改定)に向けた論点を大きく揺さぶる材料となる。
介護予防支援単価の再設定が不可避に
指定事業所の71.1%が「報酬が低い」と回答した事実は、制度設計の前提が実態とずれていたことを示している。2027年度改定に向けた介護給付費分科会の議論では、介護予防支援単価の引き上げ、もしくは要支援者の取扱件数換算の更なる緩和(例えば「4分の1」換算)などが論点化される可能性が高い。
ただし、介護保険財政の制約の中で単純な単価引き上げには限界がある。特定事業所加算の適用範囲を要支援者ケアマネジメントにも実効的に広げる、主任ケアマネが配置された事業所への加算を厚くする、といった加算設計の見直しが現実的な落としどころとなるだろう。
地域包括支援センターの機能再定義
指定を受けない理由として「包括からの委託で対応する方針のため」が52.3%で最多だった事実は、従来の委託スキームが依然として地域で機能している証左でもある。一方で、包括自身の業務逼迫は解消されておらず、委託で対応する方針のままでは地域包括支援センターの負荷は続く。
2027年度改定では、地域包括支援センターを「個別ケース対応型」から「地域マネジメント型」へシフトさせる方向性が強まると予想される。総合相談支援の委託範囲拡大、第二層生活支援コーディネーターとの役割整理、認知症初期集中支援チームとの連携強化など、包括の役割再定義が進む。居宅介護支援事業所の直接指定拡大は、その一部として位置づけ直される可能性が高い。
自治体ごとの運用格差が露呈するリスク
介護予防支援の指定手続きは市町村事務であり、申請フロー・必要書類・研修要件は自治体ごとに異なる。今回の調査で「指定を受けていない」が80.0%に達した背景には、自治体側の受入体制の整備状況にばらつきがあることも一因と考えられる。
2027年度改定を待たずとも、自治体間の手続き標準化、地域包括支援センター運営協議会を通じた情報共有、指定取得に関する費用負担の明確化など、運用面の改善余地は大きい。厚生労働省が今回の調査結果をどう政策化するかが、次の1〜2年の注目点となる。
ケアマネのキャリア判断への影響
制度論の先に、実際に現場で働くケアマネジャー個人のキャリアにとって、今回の調査結果は何を意味するのか。ここでは3つの視点から考察する。
1. 「介護予防支援対応」は今後の差別化要素になる
80.0%の居宅が指定を受けていない現状は、逆に言えば「指定を取得している事業所で経験を積んだケアマネ」は希少価値が高まるということだ。2027年度以降、介護予防支援の単価が引き上げられ、居宅の直接指定が更に推進される方向に舵が切られれば、要支援者のケアマネジメント経験は評価対象となっていく。
特に地域包括支援センターからの委託受託や、主任ケアマネとして包括へ転身するキャリアを視野に入れるのであれば、介護予防支援の実務経験は明確なアセットになる。
2. 事業所選びで「受け身か攻めか」を見極める
今回の調査では、指定を受ける動機として「地域包括支援センターからの要望」「業務の円滑化」が同率40.9%で並んだ。つまり、指定を取得している事業所には「地域との関係性を重視し、要請に応える経営姿勢」か「業務オペレーションを戦略的に再設計する意思」のいずれかが備わっている可能性が高い。
転職や異動を検討するケアマネにとって、応募先の事業所が介護予防支援の指定を受けているかどうかは、単なる業務範囲の違いを超えて、経営姿勢そのものを映す指標となる。面談時には、指定取得の有無だけでなく、その背景にある意思決定プロセスを尋ねてみる価値がある。
3. 「報酬が低い業務」を抱える事業所の経営体力を見極める
指定事業所の71.1%が「報酬が低い」と回答している以上、介護予防支援に積極参入しつつも採算確保に苦心している事業所が多数存在することは確かだ。経営体力の乏しい事業所が採算の合わない業務を拡大すれば、そのしわ寄せは現場のケアマネに及ぶ。
応募先や所属先の事業所を見極める際には、介護予防支援の指定状況だけでなく、特定事業所加算の算定状況、処遇改善加算の実施状況、ICT投資の有無など、複合的な指標で経営体力を評価することが重要となる。数字の羅列ではなく、ケアマネが持続的にキャリアを積める環境かどうかを見抜く視点が求められる。
まとめ
厚生労働省委託による三菱総合研究所の最新調査で、居宅介護支援事業所が市町村から介護予防支援の指定を受けている割合は16.3%にとどまり、80.0%が「指定を受けていない(予定もない)」と回答していることが判明した。2024年度改定で新設された「居宅直接指定」の仕組みが、施行から約1年半を経ても想定通りに浸透していない実態が浮かび上がっている。
指定に踏み出せない最大の理由は「地域包括支援センターからの委託で対応する方針」(52.3%)、「要介護者の受け入れで一杯」(32.6%)。既に指定を受けた事業所でも「報酬が低い」が71.1%で最多を占め、介護予防支援という業務が構造的な採算性の壁に直面している実情が示された。2027年度トリプル改定に向けて、介護予防支援単価の再設定、特定事業所加算の適用拡大、地域包括支援センターの機能再定義といった論点が一気に浮上することになる。ケアマネジャー個人にとっても、勤務先事業所が指定を取得しているかどうかは、経営姿勢や今後の地域での立ち位置を映す重要な指標だ。
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