
米ファンド、在宅介護大手ツクイ系を2000億円で買収|アドベント日本再進出の初弾案件
米プライベート・エクイティのアドベント・インターナショナルが2026年6月25日、ツクイ・SOYOKAZE傘下のジャパン・ウェルビーイングをMBKパートナーズから買収すると発表。負債込み2000億円規模の在宅介護M&Aが介護職の働き方に与える影響を読み解く。
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米プライベート・エクイティのアドベント・インターナショナルは2026年6月25日、在宅介護大手ジャパン・ウェルビーイング(ツクイ・SOYOKAZEを傘下に持つホールディングス)をMBKパートナーズから買収する契約を締結したと発表した。負債を含めた買収総額は2000億円規模とみられ、アドベントにとって日本再進出後初の投資案件となる。MBKパートナーズは2021年にツクイをTOBで非公開化して以来、5年間でオペレーション改善とICT導入を進めてきており、今回の売却は海外PEファンドによる介護業界再編の新たな局面を示す。読者の介護職にとっては、資本力のある海外ファンド傘下でのICT投資加速や事業所大規模化が、日々の業務負担や処遇改善のスピードにどう波及するかを見極める材料になる。国内の介護市場が海外投資家からも成長産業として注目され始めている点も、業界で働く一人ひとりが押さえておきたい変化だ。
目次
解説動画|米ファンドがツクイ系を2000億円で買収
介護業界に、これまでとは規模の異なるM&Aの波が押し寄せている。2026年6月25日、米大手プライベート・エクイティ(PE)のアドベント・インターナショナルが、在宅介護サービス大手ジャパン・ウェルビーイング株式会社の全株式をMBKパートナーズから取得すると発表した。負債を含めた買収総額は2000億円規模とされ、介護単体の事業会社としては近年でも際立って大きい取引となる。
ジャパン・ウェルビーイングは、1969年創業でデイサービス最大手の一角を占める株式会社ツクイと、ショートステイに強みを持つ株式会社SOYOKAZEを傘下に持つホールディングスだ。両社を合わせるとデイサービス・ショートステイ・訪問介護・有料老人ホーム・訪問看護まで在宅介護のフルラインを提供しており、国内最大級の在宅介護ネットワークとされる。介護保険制度が始まって以来、業界の主役は国内の事業者・ファンドが中心だったが、今回のように世界的な規模を持つ米系PEファンドが直接乗り出してきたことは、日本の介護市場が国際的な投資対象として認識されつつあることを示す出来事でもある。
この記事では、一次資料をもとに今回の取引の内容と背景を整理したうえで、介護業界に広がる人材不足・処遇改善という構造課題との関係、そして海外資本の参入が現場で働く介護職のキャリアや職場環境にどう波及しうるかを、独自の視点で読み解いていく。
米PEファンドが在宅介護大手を2000億円規模で買収
取引の概要:MBKパートナーズがアドベントへ株式譲渡
今回の取引は、MBKパートナーズがジャパン・ウェルビーイングの発行済株式の全てをアドベント・インターナショナルに譲渡する株式譲渡契約という形で行われた。MBKパートナーズは同日付のプレスリリースで「介護業界について、日本が超高齢化社会を迎える中で社会的意義の極めて高い成長市場と捉え、介護の未来を見据えた大きな変革を起こし、より充実した高齢化社会の実現を目指し、成長支援を行ってまいりました」と取引の背景を説明している。
アドベント側も同日、東京で声明を発表し、ジャパン・ウェルビーイングを「日本最大級の統合型在宅介護サービス事業者の一つ」と位置づけたうえで、「アドベントの運営面での専門知識、ヘルスケア領域での経験、グローバルなリソースをJWBのチームに提供し、次の成長段階を支えていく」とコメントした。取引金額そのものは両社とも非公表としているが、日本経済新聞は負債を含めた買収総額が2000億円規模になる見通しだと報じている。これは近年の介護単体事業を対象としたM&Aの中でも際立って大きい規模で、ロイター通信も速報でこの取引を「アジア拠点の買収ファンドMBKパートナーズが、高齢者介護サービス事業者ジャパン・ウェルビーイングを米PEファンドのアドベント・インターナショナルへ売却することで合意した」と伝えている。
ジャパン・ウェルビーイングの成り立ち:ツクイとSOYOKAZEの統合体
ジャパン・ウェルビーイングは2024年、ツクイとユニマットグループ系の介護事業を統合する形で設立されたホールディングスだ。中核会社のツクイは1969年設立、1983年に介護事業へ進出し、2012年に東証一部(当時)へ上場した業界大手だった。MBKパートナーズは2021年2月、ツクイホールディングスに対しTOB(株式公開買い付け)を実施し、1株924円(前営業日終値640円に44.38%のプレミアムを加えた価格)、買付代金最大約490億円で完全子会社化。同社は非公開化され、東証の上場を廃止している。
MBKパートナーズはその後、ツクイとSOYOKAZEの包括的業務提携を進め、両社の持株会社としてジャパン・ウェルビーイングを設立。「介護サービスのノウハウとリソースを相互に補完し、組み合わせることにより、業務の効率化や稼働率の向上を図りつつ、お客様の多彩なニーズにワンストップで対応する幅広いサービスを提供」する体制を構築してきた。ツクイとSOYOKAZEを合わせると、デイサービス・ショートステイ・訪問介護・有料老人ホーム・訪問看護まで在宅介護のフルラインを網羅しており、単一の在宅介護事業者としては国内最大級の規模を持つとされる。今回の売却は、この5年間の再編・企業価値向上の取り組みが一区切りついたタイミングでの取引となる。
アドベント・インターナショナルとは:日本再進出後初の投資案件
買い手となるアドベント・インターナショナルは、グローバルに事業を展開する大手プライベート・エクイティ・ファームで、医薬品・ヘルスケアテクノロジー・介護サービス領域での投資実績を持つ。今回の取引はアドベントが日本市場に再進出した後、最初の投資案件だと報じられている。売り手のMBKパートナーズは330億米ドル規模の運用資産を持つアジア最大級の独立系PEファームで、東京オフィスに33名、日韓中の地域全体で110名超のプロフェッショナルを擁する。過去20年で日本国内22件の投資実績があり、コメダホールディングスやユニバーサル・スタジオ・ジャパン運営会社、ゴディバジャパン、TASAKI、アコーディア・ゴルフなど幅広い業種への投資を手がけてきた実績豊富なファンドだ。
人材不足と倒産増加、その裏で進む資本の集中
介護人材は2026年度に約240万人が必要、供給は追いつかない
今回のM&Aの背景には、介護業界が直面する構造的な人材不足がある。厚生労働省が社会保障審議会福祉部会に提出した資料「介護人材確保の現状について」によると、第9期介護保険事業計画に基づき都道府県が推計した介護職員の必要数は、2026年度に約240万人(2022年度の約215万人比で約25万人増、年間6.3万人ペースの純増が必要)、2040年度には約272万人(同約57万人増、年間3.2万人ペース)に達する見通しだ。国はこの需給ギャップに対応するため、介護職員の処遇改善・多様な人材の確保育成・離職防止定着促進・生産性向上・外国人材の受入環境整備を「総合的な介護人材確保対策」の柱として掲げている。
需給の逼迫は求人倍率にも表れている。厚生労働省「一般職業紹介状況」(令和7年12月分)によれば、介護サービス職業従事者の有効求人倍率は4.10倍。全職業平均の1.19倍(季節調整値)と比べ、求職者1人に対して4件以上の求人がある計算で、慢性的な人手不足が続いている。とりわけ訪問介護員の有効求人倍率は社会保障審議会介護給付費分科会の資料(2024年9月公表)で14.14倍(2023年度)に達しており、施設系サービスに比べても在宅サービスの人材確保がより厳しい状況にあることがうかがえる。ジャパン・ウェルビーイングが手がけるデイサービス・訪問介護・訪問看護は、いずれもこの需給ギャップが特に深刻な領域に位置しており、資本力を投じた採用力・定着施策の強化が事業運営上の重要課題であり続けてきたことがうかがえる。
倒産は過去最多、一方で大型M&Aは加速
人材不足に加え、経営環境の悪化も業界再編を後押ししている。東京商工リサーチの集計では、2024年の介護事業者の倒産は172件と過去最多を更新し、なかでも訪問介護事業者の倒産が目立った。2024年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬がマイナス改定となったことが背景にあり、価格を自由に転嫁できない公定価格ビジネスの構造的な弱さを浮き彫りにした。倒産事業者の約9割が資本金1000万円未満の零細事業者だったとされ、小規模事業所ほど物価高・人件費上昇の影響を吸収しにくい実態が読み取れる。
一方で、体力のある大手・資本力のあるファンドによるM&Aは近年加速している。日本生命保険による介護最大手ニチイホールディングスの買収(2024年)、SOMPOケアによる同業取得、大和証券グループ系のグッドタイムリビングによる舞浜倶楽部の子会社化など、異業種大手・金融資本による介護参入が相次いでいる。国内のM&A件数自体も2024年に4700件と過去最多を記録しており(レコフデータ)、後継者不在や人手不足を背景とした事業承継型M&Aが業界を問わず活発化している。今回のアドベントによるジャパン・ウェルビーイング買収は、その中でも海外PEファンドが主導する取引として際立った規模となる。淘汰される小規模事業者と、資本を呼び込んで規模を拡大する大手・準大手事業者の二極化が、今後さらに鮮明になっていく可能性が高い。
大規模化の号砲。介護職のキャリアにも波及するM&Aの現実
「大規模化・協働化」という国の方針と符合する動き
今回のM&Aは、政府が掲げる介護事業所の「大規模化・協働化」という方針と軌を一にする動きとして読み解ける。零細・中小規模の事業所が多い介護業界では、単独で人材採用・ICT投資・研修体制を整えることが年々難しくなっており、国も経営基盤の強化を目的とした事業所の統合・再編を後押ししてきた。今回のように資本力のあるPEファンドが持株会社ごと介護事業を引き継ぐケースは、この流れの延長線上にある「究極的な大規模化」の一形態と言える。
介護報酬は3年ごとに改定される公定価格であり、事業者が自由に値上げできない構造上の制約がある。人件費や光熱費が上昇しても収入を柔軟に増やせないビジネスモデルの中で生き残るには、複数事業所での共同購買・バックオフィス集約・ICT導入によるコスト効率化が欠かせない。資本力のあるファンド傘下に入ることは、こうした構造的な収益圧迫への対抗策として、今後も一部の大手・中堅事業者に広がっていく可能性がある。地域の中小事業者にとっても、単独での生き残りが難しくなる中で、近隣法人との協働や大手グループへの参画を選択肢として検討する動きが今後さらに強まるだろう。人材確保、研修、ICT導入、事務処理、BCP(事業継続計画)、共同購買といった経営の基礎体力に関わる部分を、一つひとつの法人が単独で整備し続けることの負担は年々重くなっている。
介護職のキャリアにとっての意味:処遇改善のスピードと働き方の変化
読者である介護職にとって、この種のM&Aは遠い資本市場の出来事ではなく、日々の職場環境に直結しうる変化だ。MBKパートナーズはツクイ買収後の5年間で「オペレーション改善やICTツール導入による効率化」を進めてきたと自ら説明しており、見守りセンサーや介護記録ソフトの導入によって夜間巡視や記録業務の負担が軽減された事業所も少なくない。資本力のある新たな株主のもとで、こうしたICT投資がさらに加速する可能性がある一方、統合・再編の過程では人事制度や評価体系の見直し、拠点の統廃合が伴うこともあり、現場にとっては良い変化ばかりとは限らない。
厚生労働省が2024年9月時点で示した介護職員の平均給与は月33万8200円で、全産業平均と比べてなお月額約8万円低い水準にある。M&Aによる経営基盤の強化が、この処遇格差の縮小にどこまでつながるかは今後の運用次第だ。転職や職場選びを考える介護職にとっては、買収・統合のニュースが出た事業所については「規模拡大でICT投資や研修体制が手厚くなるか」「統合に伴う配置転換や評価制度の変更がどう行われるか」を、求人票の待遇欄だけでなく採用面談で具体的に確認する視点が重要になる。特に大規模グループでは、事業所間の異動によって通所介護・訪問介護・有料老人ホームなど複数サービス形態を経験できるキャリアパスが用意されているケースもあり、単独事業所では得にくい経験を積める機会にもなり得る。
海外資本の参入は続くか、次期報酬改定への視線
海外資本の介護参入は続くのか
アドベント・インターナショナルは声明で、医薬品・ヘルスケアテクノロジー・介護サービス領域における投資実績を強調している。今回の日本再進出第1弾として介護を選んだ背景には、世界でも類を見ない速度で高齢化が進む日本市場を「成長産業」と見る海外投資家の視点がある。国内のM&A件数は2024年に4700件と過去最多を記録しており(レコフデータ)、後継者不在や人手不足を背景とした事業承継型M&Aの活発化が、海外ファンドにとっても参入しやすい環境をつくっている面がある。
今後、同様に海外資本が中堅・大手の介護事業者を対象とした投資を検討する可能性は否定できない。ただし、介護保険制度という公的枠組みの中で運営される事業である以上、収益最大化と利用者・職員へのサービス・処遇の質は本来トレードオフの関係にはならないはずだ。買収後の運営方針が、現場の負担軽減や賃金改善にどうつながるかは、業界全体が注視すべき論点になる。海外ファンドは一般に、投資先を数年単位で企業価値向上させたのち再上場や再売却(イグジット)を目指す傾向があり、ジャパン・ウェルビーイングが今後どのような経営方針のもとで運営されるかは、業界内外から注目が集まるだろう。また、公的保険制度に依存する事業の性質上、投資家が期待する収益成長のペースと、現場が求める人員配置や処遇改善のペースとの間で摩擦が生じないよう、経営陣がどうバランスを取るかも問われることになる。
次期介護報酬改定(2027年度)との関係
骨太方針2026では、2027年度の介護報酬改定に向けて「物価の変動に適切に対応するとともに、他職種と遜色のない処遇改善の実現を図る」との方針が明記される見通しだと日本経済新聞が報じている。同方針は、原則1割となっている介護サービス利用者の自己負担を2割に拡大する対象者の範囲についても「26年度中に結論を得る」との方向性を改めて示すとされ、給付と負担の両面で制度見直しの議論が続く見通しだ。
介護報酬という公定価格の枠組みが変わらない以上、事業者の収益力向上には規模の経済とICT活用による効率化が引き続き重要な選択肢となる。今回のようなM&Aによる大規模化の動きは、次期改定に向けた業界の対応力を左右する要素の一つとして、今後の議論にも影響していくとみられる。介護職としては、勤務先の資本構成や経営方針の変化が、加算取得や処遇改善の実行力にどう結びつくかを、日頃から意識しておく価値がある。特に、経営基盤の強化が現場に還元されているかどうかは、賃金明細や研修機会の変化といった具体的な形で確認していく姿勢が求められるだろう。大規模グループへの再編が進むほど、個々の事業所の経営判断だけでなく、グループ全体の人事・処遇方針が現場に与える影響も大きくなっていくため、転職・キャリア選択の際には運営母体の資本構成そのものを情報収集の対象に加える価値がある。
参考文献・出典
- [1]MBKパートナーズ、ジャパン・ウェルビーイング株式会社の株式譲渡にかかる株式譲渡契約を締結- MBKパートナーズ株式会社(PR TIMES)
売り手MBKパートナーズによる2026年6月25日付の公式発表。株式譲渡契約の締結、両社の投資実績、アドベントの評価コメントを掲載した一次資料。
- [2]Advent announces first Japan investment with acquisition of Japan Wellbeing Corp- Advent International(公式サイト)
買い手アドベント・インターナショナルによる公式プレスリリース。日本拠点開設後初の投資案件である旨と、JWBの成長支援方針を一次情報として確認できる。
- [3]ジャパン・ウェルビーイング株式会社の資本変更に関するお知らせ- 株式会社ツクイ(PR TIMES)
対象会社側(ツクイ・SOYOKAZE・JWB連名)による発表。JWB傘下の子会社数(16社)、ツクイ・SOYOKAZEの拠点数など事業規模の一次データを掲載。
- [4]
- [5]ツクイ・SOYOKAZE 米系ファンドのアドベントが取得- 週刊 高齢者住宅新聞 Online
介護・高齢者住宅業界の専門紙による報道。買収完了予定時期(2026年第3四半期)、アドベントの日本拠点開設時期(2026年1月)、JWBの拠点数・利用者数、MBKパートナーズが手がけた他の介護M&A(HITOWA、ソラスト)を報じている。
まとめ
アドベント・インターナショナルによるジャパン・ウェルビーイング買収は、単なる一企業の資本異動にとどまらず、介護業界の構造的な人材不足・経営環境の厳しさと、それに対応する形での大規模化・海外資本参入という大きな流れを象徴する出来事だ。MBKパートナーズが2021年のツクイ買収から5年かけて進めてきたオペレーション改善・ICT導入の実績は、新たな株主のもとでさらに加速する可能性がある一方、統合・再編に伴う組織変化が現場にどう影響するかは今後の運用次第だ。
介護報酬という公定価格の制約の中で、資本力のある事業者への集約が進む流れは今後も続くとみられる。2024年に介護事業者の倒産が過去最多の172件に達した一方で、日本生命によるニチイホールディングス買収や今回のアドベントの参入のように、大型資本による介護業界への投資も同時に進んでいる。この「淘汰と集約」が同時並行で進む局面は、しばらく続くと見ておいた方がよいだろう。
読者である介護職にとっては、勤務先や転職先の資本構成・経営方針の変化にアンテナを張り、ICT投資や処遇改善がどう実行されているかを見極める視点が、これからのキャリア選択においてますます重要になってくるだろう。事業所の規模や資本背景だけで良し悪しを判断するのではなく、実際にどのような投資が現場に還元されているかを、求人票や採用面談を通じて確認していく姿勢が求められる。大きな資本が入った事業所ほど、その変化のスピードも大きくなりやすい。良い変化を自らのキャリアに取り込む視点を、これからの職場選びの軸の一つに加えておきたい。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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