家族でできる移乗介助の安全な方法|ベッド⇄車椅子・トイレ・浴室と腰痛予防
ご家族・ご利用者向け

家族でできる移乗介助の安全な方法|ベッド⇄車椅子・トイレ・浴室と腰痛予防

在宅で家族が移乗介助を行う方法を、ベッド⇄車椅子・トイレ・浴室まで網羅。ボディメカニクス7原則、ノーリフティングケア(厚労省指針)、スライディングボード・移乗リフトの活用法も解説。介助者の腰痛と高齢者の転倒・骨折を防ぐ実践ガイドです。

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移乗介助とは、ベッドから車椅子・トイレ・浴室など、ある場所から別の場所へ移ることをサポートする介助です。家族介護では「持ち上げて運ぶ」のではなく、本人の残った力を引き出しながらボディメカニクス(てこの原理・重心移動)を活用し、必要に応じてスライディングボードや移乗リフト(介護保険レンタル可)を使うのが基本。厚生労働省も「全介助の方には人力での抱え上げを行わない」とするノーリフティングケアを推奨しており、介助者の腰痛と高齢者の転倒骨折を同時に防げます。

目次

「父をベッドから車椅子に移すたびに腰が痛い」「母をトイレに連れて行くのが怖い」——在宅介護で最も多い悩みの一つが、この移乗介助です。介護労働安定センターの調査では、介護職員の腰痛有訴率は60〜82%にのぼり、家族介護者も例外ではありません。一方、力任せに引き上げる介助は、本人の肩関節脱臼や転倒骨折を招くリスクもあります。

本記事では、在宅で家族が安全に移乗介助を行うための準備・基本姿勢・ボディメカニクス7原則を整理したうえで、ベッド⇄車椅子・トイレ・浴室といった具体的な場面別の手順、片麻痺や認知症のある方への配慮、スライディングボード・移乗リフトといった福祉用具の活用法、転倒時の対応までを通して解説します。「持ち上げない・抱え上げない・引きずらない」というノーリフティングケアの考え方をベースに、家族と本人の双方を守る方法を一緒に確認していきましょう。

移乗介助とは|なぜ「持ち上げない介助」が安全なのか

移乗介助とは、ベッド・車椅子・トイレ・浴室など、ある場所から別の場所へ高齢者が移動するのを家族や介護者が支援する行為を指します。在宅介護では1日に何度も発生し、家族介護者の身体的負担が最も大きい場面の一つです。

家族介護でよく起きる2つのリスク

移乗介助では、介助者・本人の双方にリスクが発生します。

  • 介助者側のリスク:腰部への過剰な負荷による急性腰痛・椎間板ヘルニア、慢性腰痛による介護うつ
  • 本人側のリスク:脇の下や腕を強く引っ張ることによる肩関節脱臼、勢いよく座らせることによる尾骨打撲、バランスを崩しての転倒骨折

厚生労働省「業務上の疾病発生状況調査」によると、保健衛生業(介護・看護)の腰痛発生率(死傷年千人率)は0.25で、全業種平均0.1の2.5倍と突出して高くなっています。家族介護でも同様の負荷が、しかも休みなくかかり続けます。

ノーリフティングケアという考え方

厚生労働省は2013年に「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、「移乗介助、入浴介助及び排泄介助における対象者の抱上げに際し、全介助の必要な対象者には、リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせない」と明示しました。これがノーリフティングケアの根拠であり、「抱え上げない・持ち上げない・引きずらない・ねじらない・運ばない」の5原則で表現されます。

従来の家族介護では「気合いで持ち上げる」「腰痛ベルトでしのぐ」のが一般的でしたが、これらは腰痛が起こる前提の対処にすぎません。本質的な解決は、本人の残存能力を引き出し、足りない部分を福祉用具で補うことにあります。

「自立支援」としての移乗介助

過剰な介助は、本人の筋力低下(廃用症候群)を進めてしまいます。立てる方には「手すりにつかまる」「足を踏ん張る」など、できる動きは本人にやってもらうことが、フレイル予防の観点からも重要です。介助者は「補助する人」であって「運ぶ人」ではない——この発想の転換が、安全な移乗介助の出発点です。

介助前の準備|環境・声かけ・服装で安全度が決まる

移乗介助の安全性の大半は、実は事前の準備で決まります。動作に入る前のチェックを習慣化しましょう。

1. 環境の整備

  • 床面:水濡れ・カーペットのめくれ・コード類を除去。スリッパは滑るので靴下+滑り止めマットが安全
  • 動線確保:車椅子の通り道に家具や段差がないか。最低80cmの幅が必要
  • 照明:薄暗いと足元が見えず転倒の原因に。日中もカーテンを開け明るく
  • ベッド周辺:ベッド柵・点滴台・サイドテーブル等を一時的に動かして作業スペース確保

2. ベッドの高さ調整(最重要)

介護用ベッドは必ず介助者の身長に合わせて高さを上げること。目安は介助者の大腿中央〜腰骨の高さ。低いままだと前かがみ姿勢になり、腰への負荷が一気に増します。厚労省のノーリフトケア事例集でも「ベッドの高さ調整で前かがみ姿勢が軽減した」と多数報告されています。

逆に、ベッドから車椅子へ移る際は、ベッド側を車椅子座面より約2〜5cm高く設定すると、わずかな高低差で重力を味方にできます。

3. 本人の服装・足元

  • 履物:かかとが固定される靴、または滑り止め付きルームシューズ。素足・スリッパは禁忌
  • 衣服:すそが床につく長いパジャマ・はだけやすい前開きは避ける
  • パンツのウエスト:きつすぎるゴムは血流を妨げ、緩すぎると介助時にずり落ちる

4. 介助者の服装・装備

  • 動きやすい服:伸縮性のあるパンツ。スカート・タイトな衣服はNG
  • :滑りにくいスニーカー。家の中なら底がしっかりした室内シューズ
  • 装飾品を外す:腕時計・指輪・ネックレスは本人の皮膚を傷つける恐れ
  • 爪を切る:本人の皮膚は薄く、爪先で簡単に内出血する

5. 声かけと同意の確認

「これから車椅子に移りますね」「立ち上がりますよ、いち、にの、さん」と、動作の前に必ず予告する。本人が予測できないまま急に動かされると、恐怖から身体に力が入り、かえって介助しにくくなります。認知症の方には特に、目線を合わせてゆっくり伝えることが重要です。

6. 体調確認

  • 顔色・血圧(高齢者は急な立ち上がりで起立性低血圧を起こしやすい)
  • 痛みの有無(特に腰・膝・肩)
  • めまい・吐き気の有無
  • 排泄の必要性(移乗中に失禁すると再度の移乗が必要に)

朝の起床直後や食後30分以内は血圧が変動しやすいため、できれば避けるか、ベッドで5分ほど座位を取ってから移乗を始めましょう。

ボディメカニクス7原則|小さな力で安全に動かす身体の使い方

ボディメカニクスとは、骨格・関節・筋肉の力学的な働きを活用した介助技術です。これを身につけると、介助者の体格や性別を問わず、小さな力で安全に移乗ができるようになります。介護福祉現場では7〜8原則として体系化されており、家族介護でも応用できます。

原則1:支持基底面を広くする

支持基底面とは「自分の足で囲まれた床の面積」のこと。足を肩幅以上に広げ、片足を前に出して前後・左右ともに広く取ると、姿勢が安定して力が伝わりやすくなります。両足を揃えた立ち姿勢は最も不安定です。

原則2:重心を低くする

膝を曲げて腰を落とし、自分の重心を本人と同じ高さまで下げます。立ったまま腰だけ曲げると腰椎に負荷が集中しますが、膝を曲げれば大腿四頭筋(太もも)という大きな筋肉で支えられ、腰への負荷は半減します。

原則3:重心を近づける(密着)

本人の身体に自分の身体を密着させ、両者の重心の距離を縮めます。「お辞儀するように」本人を抱え込み、胸と胸、骨盤と骨盤が近づく姿勢を取ると、必要な力が大幅に減ります。

原則4:大きな筋群を使う

腕や手先の小さな筋肉ではなく、太もも・お尻・背中といった大きな筋肉を使います。「腕で引き上げる」のではなく、「自分が後ろに体重移動することで本人を起こす」のがコツです。

原則5:てこの原理を使う

本人の関節(膝・肘・骨盤)を支点として、小さな動きで大きく動かす。立ち上がりでは、本人を前傾させて頭の位置を膝より前に出すと、お尻が浮く力が自然に発生します。

原則6:水平移動・回転を使う(持ち上げない)

「上に持ち上げる」のは最も負荷が大きい動作です。可能な限り水平にスライドさせる、または回転(ピボット)させることで重力に逆らわず動かせます。スライディングシートやターンテーブルはこの原理の福祉用具です。

原則7:身体をねじらない

腰だけをひねって動かすのは椎間板に最悪の負荷をかけます。動かす方向に足先から向けること。介助の前に「動かす先に足を向ける」を意識するだけで、腰痛リスクは大幅に下がります。

7原則の覚え方

広く・低く・近く・大きく・てこで・滑らせ・ねじらない」と語呂で覚えておくと現場で思い出しやすくなります。動作前に深呼吸し、この7つを一瞬チェックする習慣をつけましょう。

ベッド⇄車椅子の移乗手順(自立度別)

もっとも頻度が高いベッド⇄車椅子の移乗を、本人の自立度別に解説します。自分の家族がどのレベルかを判断してから手順を選んでください。

自立度の見極め

  • 軽度(見守り〜部分介助):手すりにつかまれば立てる。歩行補助具で短距離歩行可
  • 中度(部分介助):立位はとれるが不安定。座位は保持できる
  • 重度(全介助):立位がとれない。座位も支えが必要

軽度の方の手順(手すり・介助バー活用)

  1. ベッドの高さを本人の足が床にしっかり着く位置に調整
  2. ベッド柵・介助バーにつかまってもらい、ゆっくりベッド端に座る(端座位)
  3. 車椅子を本人の健側(健康な側)に約30度の角度でつける。ブレーキ・フットサポート上げ忘れに注意
  4. 「手すりにつかまって、いち、にの、さんで立ちますよ」と声かけ
  5. 介助者は患側に立ち、軽く骨盤を支える程度。立ち上がりは本人主導
  6. 立位で一度バランスを確認してから、足先を車椅子側に踏み替えて回転
  7. 車椅子の肘掛けに手を移して、ゆっくり腰を下ろす

中度の方の手順(密着+ピボット)

  1. ベッドを車椅子座面より約2〜5cm高く設定
  2. 本人を端座位にし、両足を肩幅に広げて床にしっかり着ける
  3. 車椅子を30度の角度で本人の健側に接近させ、ブレーキをかける
  4. 介助者は本人の前に立ち、両膝で本人の両膝を挟むように位置取り(膝崩れ防止)
  5. 本人の両手を介助者の腰または背中に回してもらう(首にかけさせるのは介助者の頸椎を痛めるのでNG)
  6. 介助者は両手で本人の骨盤〜肩甲骨を支え、自分の身体に密着
  7. 「いち、にの、さん」で本人を前傾させながら、自分は後ろに体重移動 → お尻が浮く
  8. 立ち上がったら足先を一緒に車椅子側へ踏み替え、ピボット(回転)
  9. 車椅子の手すりに本人の手を誘導し、ゆっくり着座

重度の方の手順(スライディングボード/リフト推奨)

立位がとれない方の人力での抱え上げは、厚労省指針でも原則禁止とされています。家族介護でも以下のいずれかを必ず検討してください。

  • スライディングボード:座ったまま滑らせて移乗。介護保険レンタル対象
  • 移乗リフト(床走行式・据置式):吊り具で持ち上げる。要介護2以上でレンタル可
  • スタンディングリフト:少しでも立てる方向け。膝を支えて立位補助

使い方は福祉用具専門相談員またはケアマネジャーに相談し、必ずレンタル時のデモを受けてください。

トイレ・浴室への移乗|在宅で最も事故が多い場面の対策

在宅介護でとくに転倒事故が多いのが、トイレ浴室への移乗です。狭い空間・濡れた床・衣服の脱着が重なるため、ベッド⇄車椅子よりも難度が高くなります。

トイレへの移乗(車椅子→便座)

  1. 車椅子を便座に対して30〜45度の角度でつける(真横だと回転が大きくなりすぎる)。便座は健側に来るようにする
  2. 車椅子のブレーキをかけ、フットサポートを上げる
  3. 本人の足を床にしっかり着け、浅く座り直す(座面の前半分にお尻が来る位置)
  4. 「立ちますよ」と声かけ、立ち上がり介助(ボディメカニクス活用)
  5. 立位で下着・ズボンを膝下まで下ろす。本人ができる範囲はしてもらう
  6. 身体を回転させ便座の真上に。ゆっくり腰を下ろす
  7. 必ずL字型手すりを便座横に設置(介護保険の住宅改修費20万円まで利用可)

トイレ移乗のリスクポイント:下着を下ろす際に介助者が前かがみになり腰を痛める/立位中に本人がふらつき転倒/用便後に立ち上がる時の起立性低血圧。動作は焦らず、便座にしばらく座ってから立つよう促しましょう。

浴室への移乗(脱衣所→浴室→浴槽)

浴室移乗は3段階に分けて考えます。

段階1:脱衣所→浴室(シャワーチェアまで)

  • 脱衣所と浴室の段差は段差解消スロープでフラット化
  • 車椅子は脱衣所までで、浴室にはシャワーキャリー(防水車椅子)に乗せ換えると安全
  • 裸足ではなく、滑り止め付きの介護用シューズを脱衣所まで使用

段階2:シャワーチェアでの洗体

  • 背もたれ・肘掛け付きのシャワーチェアを選ぶ
  • 浴室の床には滑り止めマットを全面に敷く
  • シャワーは熱湯確認を必ず介助者の手で(高齢者は温度感覚が鈍くなっており熱傷リスク)

段階3:浴槽への入浴介助(最難関)

浴槽への移乗が在宅入浴介助で最もリスクが高い場面です。

  • バスボード:浴槽の縁に板を渡し、座ったまま回転して入浴。介護保険の特定福祉用具購入(年10万円まで)の対象
  • 入浴用リフト:油圧・電動で湯船まで降下。重度の方はリフト一択
  • 浴槽内椅子:浴槽底に置く椅子で、低い姿勢からの立ち上がりを補助

介助者が浴槽の外から本人を抱え上げる動作は、絶対に避けてください。バランスを崩した瞬間に共倒れし、本人は溺水・骨折、介助者は腰椎損傷のリスクがあります。重度の方の入浴は訪問入浴サービス(介護保険適用)の活用も強く推奨されます。

移乗を助ける福祉用具|介護保険レンタル・購入の早見表

家族介護で活用したい福祉用具を、介護保険のレンタル対象購入対象に整理します。利用には要介護認定とケアマネジャー作成のケアプランが必要です。

レンタル対象(貸与種目)

用具対象費用目安用途
移乗用リフト(床走行式)原則 要介護2以上月額2,000〜4,000円(1割負担)立位がとれない方の全介助
スタンディングリフト原則 要介護2以上月額1,500〜3,000円(1割負担)少し立てる方の立位補助
特殊寝台(介護用ベッド)原則 要介護2以上月額800〜1,500円(1割負担)高さ調整・背上げ機能
介助バー(ベッドサイド)要支援1〜月額200〜500円(1割負担)立ち上がり・体位変換補助
車椅子・付属品原則 要介護2以上月額500〜1,200円(1割負担)移動・移乗の起点

要介護1以下でも、医師が「必要」と認めれば例外給付でレンタル可能なケースがあります。ケアマネに相談してください。

購入対象(特定福祉用具)

衛生上レンタルになじまない用具は購入対象。年間10万円まで9割(または8〜7割)が介護保険から払い戻されます。

用具費用目安用途
スライディングボード1.5〜4万円座位での水平移乗
スライディングシート5,000〜1.5万円ベッド上の体位変換・水平移動
移乗ベルト(介助ベルト)3,000〜8,000円骨盤を持ちやすくする補助
ターンテーブル1〜3万円立位での回転補助
バスボード1〜2万円浴槽縁への着座・回転
シャワーチェア5,000〜2万円洗体時の座位保持
ポータブルトイレ1〜5万円夜間のトイレ移乗回避

住宅改修(20万円まで)

  • 手すり設置(廊下・トイレ・浴室・玄関)
  • 段差解消(スロープ・敷居撤去)
  • 滑り防止床材への変更
  • 洋式便器への取り替え
  • 引き戸への扉交換

これらも要介護認定があれば、生涯20万円までは9割(または8〜7割)が払い戻し対象です。

選び方の鉄則

カタログ写真だけで決めず、必ず福祉用具専門相談員に自宅で実物デモをしてもらってください。本人の体格・住環境(廊下幅、ベッドの位置、浴室の広さ)によって最適な機種が変わります。多くのレンタル事業所は無料デモに対応しています。

片麻痺・認知症のある方への配慮|状態別の介助ポイント

移乗介助は、本人の身体・認知の状態によって工夫が必要です。代表的な3パターンを解説します。

片麻痺(脳卒中後)の方

片麻痺がある方の移乗では「健側(健康な側)を活かす」のが原則です。脳卒中ガイドラインでもリハビリの基本として示されています。

  • 車椅子の位置:必ず健側につける。麻痺側に車椅子をつけると、本人は身体を麻痺側にひねって動かす必要があり、転倒リスクが上がる
  • 立ち上がり:健側の手で手すり・介助バーをつかむ。健側の足に体重を乗せて立つ
  • 介助者の位置:本人の患側(麻痺側)に立ち、患側の崩れを支える
  • 歩行時の杖:健側で持つ。「杖→患側→健側」の順で踏み出す3動作歩行が基本
  • 注意:麻痺側の腕を引っ張ると、肩関節亜脱臼(肩がはずれる)を起こしやすい。絶対に腕を持って引き上げない

認知症のある方

認知症の方は介助の意図が理解できず、突然抵抗したり力が入ったりします。技術以前に関係性とコミュニケーションが鍵です。

  • 正面から声かけ:横や後ろから急に触れない。視界に入ってから「○○さん、車椅子に移りますね」
  • 短く具体的に:「立ってください」より「手すりをつかんで、ゆっくり立ちましょう」
  • 選択肢を提示:「今すぐ?それともあと5分?」と本人に決めてもらう(拒否反応を減らす)
  • 急がない:本人の理解スピードに合わせる。焦って力で動かすと恐怖体験となり、次回の拒否を生む
  • 環境ヒント:トイレが目的なら扉を開けておく、車椅子に毛布などの好きなものを置くと安心感が出る

パーキンソン病の方

パーキンソン病では「すくみ足(足が床に張り付いて動かない)」「突進歩行(前のめりに加速)」が出やすく、移乗の立ち上がり直後にとくに転倒しやすくなります。

  • 立ち上がる前に「いち、にの、さん」とリズムをつけると動き出しやすい(外的リズム療法)
  • 床に横線テープを貼ると視覚刺激で歩き出せることがある
  • 立位後は数秒その場で姿勢を整えてから歩き出す(突進防止)
  • 薬の効果時間(オン・オフ)に合わせて移乗を計画。薬が切れる時間帯の介助は要注意

関節リウマチ・骨粗鬆症の方

  • 強く握る・引っ張る動作は禁忌。骨折・脱臼リスクが極めて高い
  • 移乗ベルトを使い、骨ではなく骨盤帯を面で支える
  • 朝のこわばりがある場合は、起床後30分ほど待ってから移乗を開始

転倒・共倒れが起きたときの対応|慌てて起こさない

どれだけ注意していても、移乗中の転倒・滑落はゼロにできません。家族が知っておくべきは「転倒した瞬間に正しく対応できるか」です。

原則:その場で無理に起こさない

転倒直後に「すぐ立たせよう」と引き起こすのは、最も危険な対応です。骨折があった場合、ずれて神経・血管を傷つける恐れがあります。まず本人をその場に寝かせたまま、状態を確認してください。

確認手順(DR-ABC)

  1. Danger(危険):周囲に危険物・水・コードがないか
  2. Response(反応):「聞こえますか?」と声かけ、肩を軽くたたく
  3. Airway(気道):呼吸を確認。意識がなければ気道確保
  4. Breathing(呼吸):胸の上下、口元に手をかざす
  5. Circulation(循環):手足の冷感・顔色・出血

119番をすぐ呼ぶべきサイン

  • 意識がない/呼びかけに反応が薄い
  • 呼吸が浅い・苦しそう
  • 頭を強く打った(とくに血液サラサラ薬を服用中の方)
  • 大量の出血
  • 足の長さが左右で違って見える(大腿骨頸部骨折の疑い)
  • 痛みで手足が動かせない
  • 「いつもと様子が違う」と直感的に感じる

骨折が疑わしいとき

高齢者の転倒で多いのが大腿骨頸部骨折です。特徴は、転倒側の脚が外旋して短く見えること、立てない・歩けないこと。動かさず救急車を呼んでください。骨折があるのに自力で立とうとすると、ずれて手術が大きくなります。

意識があり外傷が軽微なとき(家族で対応可)

  1. 本人を横向きにして、痛みのない側を下にする
  2. 近くの椅子・ソファに片膝をついてもらい、ゆっくり立ち上がる
  3. 無理ならその場で5分休み、再度試す。ダメなら家族以外(隣人・地域包括)の応援を呼ぶ
  4. 立てたら、24時間は様子観察。翌日も痛み・腫れがあれば受診

頭部打撲後の48時間ルール

頭を打った直後は元気でも、慢性硬膜下血腫は数週間〜数ヶ月後に症状が出ることがあります。打撲した日から3ヶ月程度は、頭痛・吐き気・歩行のふらつき・物忘れの悪化に注意。気になる症状があれば脳神経外科へ。

共倒れを防ぐ「諦める勇気」

「自分が支えなきゃ」と無理に踏ん張ると、共倒れして本人と介助者の両方が大きく負傷します。倒れそうになったら、本人をできるだけゆっくり床へ滑り下ろすのが最善。介助者が立ったまま支え続けることは不可能です。「抱え続けず、安全に床に下ろす」を覚えておきましょう。

家族介護者の腰痛対策|PT・OT・福祉用具専門相談員を味方につける

厚生労働省の指針が明示するとおり、家族介護で「気合いと根性で抱え上げる」は最終的に介助者を潰します。専門職を活用して、組織的に身体を守りましょう。

専門職の役割を知る

専門職得意領域家族介護での活用法
理学療法士(PT)身体機能・動作分析本人の残存能力を引き出す介助方法を指導。退院前のリハビリ計画も
作業療法士(OT)日常生活動作(ADL)移乗を含む生活動作の自立度を上げるトレーニング
福祉用具専門相談員用具選定・住環境本人の状態と自宅環境に合う用具をデモ・提案
ケアマネジャーサービス調整訪問リハ・福祉用具レンタル・住宅改修の手配
地域包括支援センター総合相談介護保険申請前・介護初期の相談窓口

訪問リハビリで「介助方法」を習う

介護保険の訪問リハビリテーションは、本人だけでなく家族への介助指導も役割の一つです。PT/OTが自宅に来て、ベッド・浴室の実際の環境で介助方法を教えてくれます。週1回40〜60分、1割負担で約300〜600円が目安。ケアマネ経由で導入できます。

地域包括支援センターと介護者の会

  • 地域包括支援センター:65歳以上の高齢者と家族の総合相談窓口。各市町村に必ず設置されている
  • 介護者の会・家族会:同じ立場の家族と情報交換できる。多くは地域包括が紹介
  • レスパイト(ショートステイ):介護者の休息のための短期入所。介護保険適用

家族介護者の腰痛セルフケア

  • 動作前のストレッチ:腰・股関節・もも裏を30秒ずつ伸ばす
  • 動作後のリセット:ぶら下がり健康器、または椅子に手をついて背中を反らす
  • 1日5分の体幹トレーニング:プランク30秒×2セットで腰を守る筋肉を維持
  • 腰痛ベルト:「予防」より「すでに痛い時のサポート」として限定使用
  • 急性腰痛時:無理せず家族・ヘルパー・ショートステイで介助を交代

介助者の心の負担を見逃さない

移乗を含む身体介助の負担は、慢性化すると介護うつに直結します。「最近イライラする」「眠れない」「腰だけでなく頭痛も増えた」と感じたら、地域包括支援センターか主治医に相談してください。家族介護者が倒れることは、本人にとっても最大のリスクです。

移乗介助のよくある質問

Q1. 介護用ベッドが家にありません。普通のベッドでも移乗できますか?

可能ですが、高さ調整ができないぶん腰への負担が大きくなります。要介護2以上であれば介護用ベッドは月額800〜1,500円(1割負担)でレンタル可能です。要介護1以下でも、医師が必要と判断すれば例外給付の対象になることがあります。まずはケアマネジャーまたは地域包括支援センターに相談してください。

Q2. 移乗リフトは大げさで使いにくそうです。本当に必要ですか?

立位がとれない方には強く推奨します。厚労省指針も人力での抱え上げを原則禁止としています。導入をためらう家族介護者は多いですが、実際に使った方の多くが「腰の負担が劇的に減った」「本人も恐怖感が減って表情がよくなった」と評価しています。福祉用具専門相談員が無料でデモをしてくれるので、1度試してから判断してください。

Q3. 妻一人で夫(体重70kg)を移乗するのは無理でしょうか?

体格差が大きい場合の人力介助は、ボディメカニクスを完璧に使っても限界があります。スライディングボード+手すり、またはリフトの導入をぜひ検討してください。「自分一人で何とかしなきゃ」と抱え込む必要はありません。訪問介護(ヘルパー)の身体介護を週数回入れるのも選択肢です。

Q4. 移乗中に本人が「痛い!」と叫びました。続けていい?

すぐに動作を中止してください。脇の下や腕を持つと肩関節を痛めることがあります。痛みの場所・強さを確認し、しばらく座位で休ませてから、持ち方や角度を変えて再試行。痛みが引かない、青あざが広がる、動かせないなどの場合は受診してください。

Q5. 認知症の母が移乗を嫌がります。無理にやるべき?

力ずくで動かすのは絶対に避けてください。恐怖体験となり、次回以降の拒否が強まります。「今すぐ?少し後?」と選択肢を提示する、好きな話題で気をそらす、別の家族が声をかけるなどで状況が変わることがあります。それでも難しければ、訪問介護やデイサービスで第三者の介助を試すと、家族には拒否しても他人には応じるケースもあります。

Q6. 移乗ベルトは普通のベルトで代用できますか?

絶対に代用しないでください。介護用移乗ベルトはクッション材や持ち手が安全設計されており、骨盤に均等に力が伝わります。普通のベルトでは皮膚を傷つけたり、内臓を圧迫したりするリスクがあります。3,000円台から購入できるので、専用品を使ってください。

Q7. 訪問介護のヘルパーに移乗の仕方を教えてもらえますか?

ヘルパーは身体介護のプロですが、家族指導が業務の中心ではありません。「家族向けの介助指導」を求めるなら訪問リハビリのPT/OTが適任です。ケアマネに「家族が移乗の仕方を学びたい」と伝えれば、訪問リハをケアプランに組み込んでもらえます。

Q8. 夜間のトイレ移乗が一番つらいです。どうすれば?

夜間のトイレ移乗は、家族介護者の睡眠を奪う最大要因です。対策は3つ。1つ目はポータブルトイレをベッド脇に設置(介護保険購入対象)。2つ目は夜間用パッド+朝の交換に切り替え。3つ目はショートステイで定期的に介助者が休息を取る。すべて並行して使うのが現実的です。

参考文献・出典

まとめ|抱え上げない介助で家族と本人の双方を守る

移乗介助は、在宅介護で最も頻度が高く、最も負担が大きい場面の一つです。本記事で押さえた要点を整理します。

本記事の重要ポイント

  • 「持ち上げない」が安全の基本:厚労省指針も、全介助者の人力抱え上げを原則禁止としている
  • 準備が安全の8割:環境整備・ベッド高さ調整・声かけ・服装で事故の大半は防げる
  • ボディメカニクス7原則:「広く・低く・近く・大きく・てこで・滑らせ・ねじらない」
  • 自立度別に手順を選ぶ:軽度は本人主導、中度は密着+ピボット、重度は福祉用具一択
  • トイレ・浴室は段階的に:浴槽移乗はバスボードか入浴用リフト。家族が抱え上げない
  • 福祉用具は介護保険で安く使える:リフトは月数千円、スライディングボードは購入で9割払い戻し
  • 転倒時は無理に起こさない:DR-ABCで確認、骨折疑いは119番
  • 専門職を味方に:PT/OTの訪問リハで介助方法を学ぶ、福祉用具専門相談員のデモを受ける

最初の一歩

まだ介護保険を申請していない方は、お住まいの市区町村の地域包括支援センターへ。すでに要介護認定がある方は、担当のケアマネジャーに「移乗で腰が痛い/怖い」と率直に伝えてください。訪問リハビリ・福祉用具レンタル・住宅改修と、使える制度はたくさんあります。

家族介護は「自分が頑張ればいい」ではなく、「制度・福祉用具・専門職と一緒に支える」もの。あなたの腰と、ご家族の安全を、両方守る選択をしてください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

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