
日本介護経営学会がAI分科会を設立|介護現場の生成AI活用を本格議論へ
2026年4月、日本介護経営学会がAI分科会を設立し設立記念講演会を開催。厚労省審議官・大阪大学教授・SOMPOケア・ウェルモなど産官学トップランナーが介護現場の生成AI活用を議論。2040年問題に向けたAI活用の最新動向と転職者が知るべきポイントを解説。
日本介護経営学会がAI分科会を設立|介護現場の生成AI活用を本格議論へ
2026年4月9日、NPO法人日本介護経営学会(会長:田中滋)は「AI分科会」の設立を正式に発表しました。設立記念講演会は2026年4月25日(土)に東京・飯田橋の大塚商会本社ホールで開催され、厚生労働省 大臣官房審議官の林俊宏氏による特別講演、大阪大学の栄藤稔教授による基調講演など、産官学のトップランナーが一堂に会します。
AI分科会は(1)ガイドライン策定、(2)実証研究、(3)政策提言の3つを柱に活動し、「人の意思決定を主体とし、AIを支援ツールとして位置づける」という基本原則を掲げています。2040年に約57万人の介護職員不足が見込まれる中、生成AIの活用は介護業界の最重要テーマとなっており、本分科会の設立は業界全体のAI活用を加速させる転換点として注目されています。
この記事では、AI分科会設立の背景と講演会の内容、介護現場で進むAI活用の最新事例、そして介護業界への転職を考える方が押さえるべきポイントを詳しく解説します。
日本介護経営学会「AI分科会」設立の概要
AI分科会とは何か
日本介護経営学会は、NPO法人として介護経営に関する研究・政策提言を行ってきた学術団体です。会長は介護政策の第一人者として知られる田中滋氏が務め、厚生労働省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会をはじめとする政策立案にも深く関わっています。
今回設立されたAI分科会は、城西国際大学大学院教授の宇田淳氏が分科会長を務め、以下の3つの柱を活動の中心に据えています。
- ガイドライン策定:介護現場でのAI活用に関する実践的なガイドラインを策定し、事業者が安心してAIを導入できる基盤を整備する
- 実証研究:AIの導入効果を科学的に検証し、エビデンスに基づいた活用方法を確立する
- 政策提言:研究成果をもとに、介護保険制度におけるAI活用の制度整備に向けた提言を行う
分科会の基本原則は「人の意思決定を主体とし、AIを支援ツールとして位置づける」というものです。これは、AIが介護職員の判断を代替するのではなく、あくまで支援ツールとして機能すべきだという考え方であり、現場の介護職員にとっても重要なメッセージとなっています。
事務局は株式会社やさしい手内に設置されており、介護経営者・研究者・政策立案者・テクノロジー企業が連携する産学官プラットフォームとして機能することが期待されています。
出典:@Press「第1回 AI分科会設立記念講演会」開催のお知らせ
なぜ今、AI分科会が必要なのか
AI分科会の設立背景には、介護業界が直面する深刻な構造的課題があります。
厚生労働省が2024年7月に公表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、2022年度時点の介護職員数は約215万人ですが、2026年度には約240万人(+約25万人)、2040年度には約272万人(+約57万人)が必要と推計されています。現状のペースでは2040年に約57万人もの介護職員が不足する計算です。
出典:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
この深刻な人材不足に対応するため、政府は介護テクノロジーの導入を強力に推進しています。2025年度には、地域医療介護総合確保基金の「介護テクノロジー導入支援事業」(予算約97億円)と補正予算の「介護テクノロジー導入・協働化等事業」(予算約200億円)が並行して実施されており、合計で約297億円規模の予算が投じられています。
さらに、厚生労働省は「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会のとりまとめにおいて、ケアプランやサービス担当者会議の議事録の原案作成に生成AIを活用することで業務の効率化につながると明記しています。また、「省力化投資促進プラン」(令和7年6月)では、2040年に向けて介護分野全体で20%の業務効率化を目標とし、2029年度までにテクノロジー導入率90%を目指すKPIが設定されています。
こうした国の政策方針を踏まえ、介護経営の現場において「AIとどう向き合うか」を産学官連携で議論する場として、AI分科会の設立が求められたのです。
第1回AI分科会設立記念講演会の詳細
開催概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント名 | 日本介護経営学会 AI分科会設立記念講演会 |
| テーマ | 「AIを活用した新しい介護サービスによるイノベーション」 |
| 日時 | 2026年4月25日(土)13:00〜16:30(受付開始12:30) |
| 会場 | 株式会社大塚商会 本社ホール(東京都千代田区飯田橋2-18-4)※オンライン同時開催 |
| 定員 | 150名(対面)+ オンライン参加(人数制限なし) |
| 参加費 | 学会員:2,000円/一般:3,000円/研究交流会:5,500円 |
| 主催 | 特定非営利活動法人 日本介護経営学会 AI分科会 |
| 申込方法 | 学会公式サイトまたはPeatix |
| 問い合わせ | 日本介護経営学会 事務局(株式会社やさしい手内)info@bmltc.jp |
会場とオンラインのハイブリッド開催により、東京以外の地方在住者も全国から参加できる点は大きな特徴です。シンポジウム後には研究交流会(17:00〜、参加費5,500円)も開催され、登壇者と直接対話できる機会が設けられています。
出典:共同通信PRワイヤー「第1回 AI分科会設立記念講演会」開催のお知らせ
プログラム内容と登壇者
講演会のプログラムは、基調講演・特別講演・シンポジウムの三部構成となっています。
開会(13:00〜13:05)
田中滋会長による開会挨拶、宇田淳AI分科会長によるAI分科会設立趣旨説明が行われます。
基調講演(13:05〜13:40):「AIとデジタル技術が拓く超高齢社会の未来」
栄藤稔氏(大阪大学 先導的学際研究機構 教授/一般社団法人情報社会デザイン協会 代表理事)が登壇。NTT研究所・NTTドコモ・大阪大学を経て現職を務める栄藤氏は、AI・通信技術の研究開発から事業化・投資・人材育成・倫理・ガバナンスまでを横断する第一人者です。スマートシニアライフ研究センターを主宰し、超高齢社会に向けたAI・ロボット活用の社会実装を牽引しています。技術開発から社会設計まで全体を俯瞰できる数少ない論客として、国内外の政策立案にも関与しています。
基調講演では、技術・事業化・ガバナンスの全体設計図と、中小介護法人が「今週から始められる一歩」の両方が示される予定です。
特別講演(13:40〜14:20):「2040年に向けた介護保険制度改革とテクノロジー活用」
林俊宏氏(厚生労働省 大臣官房審議官・老健局・障害保健福祉部担当)が登壇。介護保険政策の最前線に立つ厚労省幹部から、2040年問題を見据えた介護保険制度改革の方向性や、中山間地域における介護サービス維持に向けた規制緩和とテクノロジー活用の政策方針が直接語られます。介護経営者にとって、国の方針を直接聞ける貴重な機会です。
シンポジウム(14:30〜16:20):「介護現場におけるAI実装の現在と未来」
司会・モデレーターは香取幹氏(学会理事・事務局長/株式会社やさしい手 代表取締役社長)が務め、以下の4名がパネリストとして登壇します。
- 栄藤稔氏(大阪大学教授):アカデミアの視点からAI技術の可能性と限界を解説
- 伊藤宏比古氏(NEC 研究&事業開発戦略統括部 産学官連携コーディネーター):デジタルエシックスとAIリテラシーの普及を担当し、「AIは間違える・偏る・説明できない」という技術的本質の理解を起点にした実践的知見を提供
- 鹿野佑介氏(株式会社ウェルモ 代表取締役会長兼社長):AIを活用したケアマネジメント支援プラットフォームを提供するケアテック企業の創業者として、AI導入の具体的な入口・費用感・期間・成果を実例とともに解説
- 土田善丈氏(SOMPOケア株式会社 取締役兼CDO兼CIO):国内最大級の介護事業者SOMPOケアにて「egaku(えがく)」「教えて!KAiGO」等の生成AI活用サービスの開発・展開を主導。「AI共創元年」の現場から2030・2040年の介護産業像を描く
このシンポジウムの最大の特徴は、大学・テクノロジー企業・ケアテックスタートアップ・大手介護事業者という4つの立場から、AI実装の課題と可能性が多角的に議論される点です。AI導入の理想論だけでなく、現場で実際にぶつかる壁や具体的な解決策が共有されることが期待されます。
出典:介護ニュースJoint「AIをどう活用するか 介護経営学会が分科会設立 記念講演会を4月に開催 産官学の識者が集結」
介護現場で進むAI活用の最新事例
AI分科会が設立された背景を理解するために、現在の介護業界でどのようなAI活用が進んでいるのかを整理します。介護現場でのAI活用は、大きく4つの領域に分類できます。
介護記録の自動化・効率化
介護記録のAI化は、最も導入が進んでいる領域です。厚生労働省の調査では、66.2%の施設がICTによる記録システムを導入済みとされています。
具体的には以下のような技術が実用化されています。
- 音声入力AI:ケア中にスマートフォンに話しかけるだけで記録が完了し、記録時間を最大50%削減
- OCR+AI文書生成:手書きメモをスキャンしてデジタル化し、AIが月次報告書を自動作成。実際の導入事例では月100時間の業務削減が報告されている
- AI要約:日々の記録データから利用者の状態変化を自動分析・要約
生成AIの登場により、記録業務の効率化はさらに加速しています。ChatGPT等の大規模言語モデルを活用した製品は、簡単なキーワードや短い文章を入力するだけで詳細な記録を自動生成でき、ケアプラン2表の文例作成やサービス担当者会議の議事録原案作成にも活用が広がっています。
AIケアプラン作成支援
ケアプラン作成は従来、ケアマネージャーの経験と判断に大きく依存する業務でしたが、AIによる支援が急速に広がっています。
- CDI「SOIN(そわん)」:愛媛県伊予市・西条市との実証実験で約4.5万件のケアプランデータをAIに学習させ、利用者の状態に応じた最適なケアプランを自動提案。要介護改善率が3.4ポイント向上し、8割のケアマネジャーが「ケアプランの支援内容やサービス量が適切である」と評価
- SOMPOケア「egaku(えがく)」:介護記録をデジタルデータとして蓄積・可視化し、AIが3カ月後の健康状態を予測する機能を搭載。健康悪化の原因をAIが割り出し、効果的な予防策まで提案する「予測する介護」を実現
- ウェルモ「ミルモAI」:帳票生成AIとチャット型AIを組み合わせたプラットフォームで、通所介護計画書・訪問介護計画書・ケアプラン点検など多様な書類作成をAIが支援。全国の中小・中堅介護事業者のデジタル化を推進
SOMPOケアの土田善丈CDOは今回の講演会にもパネリストとして登壇予定であり、「egaku」の実践から得られた知見が共有されることが注目されています。
見守り・安全管理AI
夜間の見守り業務は、介護スタッフの負担が特に大きい領域です。AIセンサーやカメラの導入により、大幅な効率化が進んでいます。
- AIシルエット見守りシステム(パナソニック「LIFELENS」):深度カメラとAI姿勢推定技術を活用。「まず訪室」から「見て訪室」への業務転換を実現し、夜間巡視時間を91%削減する成果が報告されている
- AI睡眠解析:マットレスセンサーで睡眠の質を分析し、体調変化を早期に検知
- 転倒予測AI:歩行パターンの変化をAIが検知し、転倒リスクが高まった利用者を事前にアラート。事故件数25%削減が報告されている
コミュニケーション・認知症ケアAI
直接的な介護業務の代替ではないものの、利用者のQOL(生活の質)向上に寄与するAI活用も注目されています。SOMPOケアでは家族型ロボット「LOVOT」の試験導入を開始し、認知症の方がLOVOTと触れ合うことで表情が穏やかになり発語が増えたという報告があります。
また、パナソニックは2025年12月にAIチャットを活用した介護予防介入の実証実験で改善傾向を確認したと発表。高齢者がスマートフォンやタブレットを通じてAIチャットボットと対話し、運動指導や健康管理のアドバイスを受けるという、介護の「予防」段階からAIを活用する先進的なアプローチです。
こうした多様なAI活用が進む中、AI分科会は業界横断的なガイドラインを策定し、各事業者がバラバラに手探りで進めている状況を体系化する役割を担うことになります。
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2040年問題とAI活用が介護業界にもたらす変化
「2040年問題」とは何か
2040年問題とは、団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)が65歳以上となる2040年前後に、高齢者人口がピークに達する一方で生産年齢人口が急減し、社会保障制度の維持が極めて困難になるという構造的課題です。
厚生労働省の「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」の資料によると、2040年には75歳以上の高齢者が全人口の約20%に達すると推計されています。介護業界では、先述の通り約272万人の介護職員が必要とされますが、現状から約57万人の追加確保が必要です。
しかも、この追加確保は年間6.3万人ペースでの増員が必要であり、介護事業所の64.7%が「従業員が不足している」と回答している現状(介護労働安定センター調査)を考えると、人材確保だけでは到底間に合わない状況です。
国の政策方針:テクノロジー活用で20%の業務効率化
こうした危機的状況に対し、国は複数の政策を打ち出しています。
2025年7月にとりまとめられた「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会とりまとめでは、テクノロジーの活用やいわゆる介護助手等への業務のタスクシフト・タスクシェアにより、以下の方向性が示されました。
- 業務の改善や効率化等を進めること
- 職員の業務負担を軽減し、利用者と職員が接する時間を増やすこと
- 職員の残業削減や休暇の確実な取得、教育・研修機会の付与など職員への投資を充実すること
特に注目すべきは、「省力化投資促進プラン」(令和7年6月)において2040年に向けて介護分野全体で20%以上の業務効率化を図る必要があるとされ、2029年度までのテクノロジー導入率の目標が90%と設定されている点です。
また、見守りセンサー・インカム・介護記録ソフトの3つについては、業務時間削減効果が確認されているため集中的に支援するとされています。特に小規模事業者も含めて汎用性の高い介護記録ソフト等の普及を重点化して促進していく方針です。
補助金・支援制度の充実
AI・テクノロジー導入に対する支援制度も大幅に拡充されています。
- 介護テクノロジー導入支援事業(地域医療介護総合確保基金):予算約97億円。都道府県が介護ロボットやICT機器・ソフトウェアの導入費用を補助
- 介護テクノロジー導入・協働化等事業(2024年度補正予算):予算約200億円。補助率75〜80%と手厚く、機器の更新にも対応
- デジタル化・AI導入補助金2026:2026年度から「IT導入補助金」が名称変更され、AI機能を持つツールが明確に対象として位置づけられた
これらの支援制度は規模の大小を問わず介護事業者が対象であり、中小規模の施設でも補助金を活用したAI導入が現実的に可能になっています。AI分科会の設立は、こうした国の政策を背景に、現場レベルでの実践知を蓄積・共有する場としても機能します。
介護業界への転職者が押さえるべき5つのポイント
AI分科会の設立は、介護業界全体がテクノロジーとの共生に舵を切ったことを示す象徴的な出来事です。介護業界への転職を検討している方は、以下の5つのポイントを押さえておくことをおすすめします。
1. AIは「敵」ではなく「優秀な部下」
介護ニュースJointの記事でも「AIは介護現場の救世主になり得る」と表現されているように、AIは面倒な書類作成やデータ分析、計算などを得意とする「優秀な部下」です。記録業務に追われる時間が減り、利用者と向き合う時間が増えるという変化は、介護の仕事の本質的な魅力を高めます。
AI分科会が掲げる「人の意思決定を主体とし、AIを支援ツールとして位置づける」という原則は、AIが介護職員の仕事を奪うのではなく、介護職員がより質の高いケアに集中できる環境を作るものだということを意味しています。転職を考える際に「AIで仕事がなくなるのでは」と不安に感じる必要はありません。
2. AIリテラシーが新たなキャリアの武器になる
今回の講演会にパネリストとして参加するNECの伊藤宏比古氏は、「AIは間違える・偏る・説明できない」という技術的本質の理解を起点にした現場のAIリテラシー向上を提唱しています。
今後、AIを「使いこなせる介護職員」の市場価値は確実に高まります。例えば、介護記録の音声入力AIの操作に長けている、AIケアプラン支援ツールを活用して効率的にプランを作成できる、見守りAIのデータを読み解いて利用者の状態変化を早期に察知できる――こうしたスキルは、転職市場において大きなアドバンテージとなるでしょう。
3. AI導入が進んでいる事業所を選ぶメリット
転職先を選ぶ際に、AI・ICTの導入状況を確認することは重要な判断材料です。テクノロジー導入が進んでいる事業所では、以下のようなメリットが期待できます。
- 記録業務の時間が短縮され、残業が少ない傾向
- 夜間見守りAIにより夜勤の身体的負担が軽減
- データに基づいたケアが実践でき、専門性を高められる
- 経営の効率化により処遇改善に予算を回しやすい
一方で、テクノロジーを導入していない理由として「導入費用が高額」「職員が使いこなせるか不安」という声が多い(厚労省調査)ことからも分かるように、導入には事業所ごとの温度差があります。面接時にICT環境について確認することをおすすめします。
4. 成長分野としての介護×AIの将来性
AI活用高齢者介護ソリューションの世界市場は、2025年の14億ドルから2030年には22億ドルへ成長すると予測されています(年平均成長率約9.7%)。国内の介護ICT市場も2024年度には545億円規模に達しており、今後も拡大が見込まれます。
AI分科会の設立は、この成長市場に日本の介護業界が本格的に参入するための基盤づくりです。介護現場でのAI活用経験は、介護事業者だけでなくヘルステック企業やコンサルティングファームなど、将来的に多様なキャリアパスを開く可能性を秘めています。
5. 介護の「2040年問題」は転職のチャンス
2040年に向けて約57万人の介護職員が不足するという推計は、裏を返せば介護業界が今後も安定した雇用を提供し続けることを意味します。さらに、国が2029年度までにテクノロジー導入率90%を目標としていることから、AI・テクノロジーを活用した「新しい介護」の現場はますます増えていきます。
処遇改善も着実に進んでおり、令和6年度の補正予算では介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策として1,103億円が計上されています。AIによる業務効率化と処遇改善の両輪が回り始めた今は、介護業界への転職を検討するのに良いタイミングと言えるでしょう。
AI分科会の今後の活動と介護業界への影響
3つの柱で進む活動計画
AI分科会は設立後、以下の3つの柱に沿って活動を本格化させます。
第1の柱:ガイドライン策定
現在、介護現場でのAI活用には統一的なガイドラインが存在せず、各事業所が手探りで取り組んでいるのが現状です。職場内のガイドラインを整備できず、個々の職員が各種ツールを試行錯誤で使用しているケースも見られます。AI分科会は、介護経営者・研究者・政策立案者・テクノロジー企業が連携し、現場で実際に使える実践的なガイドラインの策定を目指します。
特に重要なのは、AIの利用におけるデジタルエシックス(倫理)の観点です。NECの伊藤宏比古氏が専門とするこの領域は、AIが介護現場で利用者の個人情報を扱う際のルール整備や、AIの判断に基づくケアの責任の所在など、現場が最も不安に感じている課題に直接応えるものです。
第2の柱:実証研究
AI分科会は、介護現場でのAI活用効果を科学的に検証する実証研究を推進します。すでに個別の事例としてはAIケアプランによる要介護改善率の向上や、見守りAIによる夜間巡視時間の削減など成果が報告されていますが、これらを体系的に検証し、業界全体で共有できるエビデンスとして蓄積することが求められています。
第3の柱:政策提言
厚生労働省の審議官が設立記念講演会に特別講演として参加していることからも分かるように、AI分科会は政策立案プロセスに直接アクセスできる立場にあります。現場の実証データに基づいた政策提言は、今後の介護保険制度改革においてAI活用を促進する制度設計に影響を与える可能性があります。
業界全体への波及効果
AI分科会の設立がもたらす最大のインパクトは、介護業界における「AI活用の標準化」です。
これまで、AI導入は大手事業者が先行し、中小事業者は資金力や人材面から取り残されがちでした。しかし、AI分科会が産学官連携プラットフォームとして機能することで、大手事業者の知見やノウハウが中小事業者にも共有される仕組みが構築されます。
今回の講演会でも、国内最大級の介護事業者であるSOMPOケアの土田善丈CDOと、中小・中堅介護事業者へのデジタル化支援を推進するウェルモの鹿野佑介社長が同じパネルに登壇する構成となっており、大手と中小の橋渡しが意識されています。
2026年度の介護テクノロジー導入に関する補助金は合計約297億円規模に達しており、補助率も75〜80%と手厚い状況です。AI分科会のガイドラインや実証研究の成果が、こうした補助金申請の根拠資料としても活用される可能性があり、中小事業者のAI導入を後押しする効果が期待されます。
まとめ:AI分科会設立が示す介護業界の新しい方向性
日本介護経営学会によるAI分科会の設立は、介護業界がAI・テクノロジーとの共生を本格的に進める転換点です。ここまでの内容を整理します。
- AI分科会は2026年4月に設立され、ガイドライン策定・実証研究・政策提言の3本柱で活動
- 設立記念講演会は4月25日開催。厚労省審議官・大阪大学教授・NEC・ウェルモ・SOMPOケアという産官学オールスターが登壇
- 2040年に約57万人の介護職員不足が見込まれ、テクノロジー活用は不可避の状況
- 国は2029年度までにテクノロジー導入率90%、2040年に20%の業務効率化を目標に設定
- 介護記録の自動化、AIケアプラン支援、見守りAIなど、具体的な成果が続々と報告されている
- 転職者にとって、AIリテラシーは新たなキャリアの武器になる時代が到来
AI分科会の基本原則である「人の意思決定を主体とし、AIを支援ツールとして位置づける」という考え方は、介護業界におけるAI活用の哲学を端的に表しています。テクノロジーが進化しても、介護の核心にあるのは「人が人をケアする」という行為であり、AIはそれをより良いものにするための道具です。
介護業界への転職を考えている方は、このAI分科会の動向を注視しつつ、AI活用が進む職場環境で自身のキャリアを築くことを検討してみてはいかがでしょうか。
出典・参考リンク
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