高齢者の貧血と低栄養|原因の見極めと食事・受診のサイン
ご家族・ご利用者向け

高齢者の貧血と低栄養|原因の見極めと食事・受診のサイン

高齢の親の貧血と低栄養の原因(鉄欠乏・B12葉酸・慢性疾患)を家族目線で整理。Hb・アルブミン・MNA-SFの読み方、食事の工夫、訪問栄養食事指導や受診の判断基準まで、日本老年医学会・厚労省など公的資料に基づき解説します。

ポイント

この記事のポイント

高齢者の貧血は65歳以上で10〜20%、入院・要介護高齢者では30〜50%に及ぶ頻度の高い病態で、原因の約3分の1は鉄・ビタミンB12・葉酸欠乏などの栄養性、約5分の1は慢性炎症性疾患、残り3分の1は原因不明(老人性貧血)です。低栄養(体重減少6か月で2〜3kg以上、BMI18.5未満、血清アルブミン3.8g/dL以下)と貧血は悪循環を起こしやすく、ヘモグロビン11g/dL未満や黒色便・急な体重減少があれば早めにかかりつけ医・血液内科・管理栄養士に相談しましょう。

目次

「親の顔色がなんとなく青白い」「最近、階段で息が切れるようになった」「ごはんの量が以前の半分になった」——そんな変化に気付いたとき、それは貧血や低栄養が静かに進んでいるサインかもしれません。高齢者の貧血と低栄養は、フレイル(虚弱)や転倒・骨折、認知機能の低下、入院リスクの増加と密接に関係していることが、国立長寿医療研究センターや日本老年医学会の資料で繰り返し指摘されています。

とくに高齢者の貧血は、若い世代の「鉄分が足りない貧血」とは原因が大きく異なり、消化管出血や慢性腎臓病、悪性腫瘍といった病気が隠れていることもあります。さらに、食事量の低下から栄養素不足、貧血、食欲不振、さらなる体重減少という負のスパイラルに入りやすく、家族が「ただの加齢」と見逃してしまうと取り返しがつかないこともあります。

本記事では、利用者ご本人とご家族に向けて、高齢者の貧血と低栄養の関係、家庭でできる気付きのサイン、原因の見極め、食事の具体的な工夫、介護保険で使える栄養支援サービス、受診を急ぐべき症状までを、厚生労働省・日本老年医学会・日本血液学会・健康長寿ネット・日本静脈経腸栄養学会などの公的資料に基づいて整理しました。診断や治療方針の判断は必ず主治医・血液内科・管理栄養士などの専門職に相談してください。

高齢者の貧血と低栄養——基礎知識と相互関係

高齢者の貧血と低栄養は、それぞれが独立した問題ではなく、互いに原因と結果として絡み合っています。まずは家族が「貧血とは何か」「低栄養とは何か」を正確に理解しておきましょう。

高齢者の貧血——加齢で頻度が再上昇する病態

貧血とは、血液中のヘモグロビン(Hb)濃度が低下し、全身の組織へ十分な酸素を運べなくなった状態を指します。WHOの基準では成人男性13g/dL未満、成人女性12g/dL未満ですが、国立長寿医療研究センターによれば、加齢でHbが自然に低下するため、日本では高齢者については男女ともに11g/dL未満を貧血の実用的な目安としています。

厚生労働省の調査ベースの推計では、70歳以上で男性14.6%、女性19.5%程度に貧血が認められ、50〜60代より再び増加するU字型の有病率を示します。さらに要介護高齢者や入院患者では30〜50%にのぼり、決して珍しい病態ではありません。

低栄養——「やせていく」だけではない栄養障害

低栄養(PEM:Protein-Energy Malnutrition)とは、エネルギーやたんぱく質を中心とした栄養素が体の必要量に満たない状態です。健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)の整理では、65歳以上の低栄養傾向は男性12.4%・女性20.7%、85歳以上では男性17.2%・女性27.9%にのぼり、要介護高齢者では20〜40%、入院者では30〜50%と高頻度です。

低栄養は単に「やせること」ではなく、たとえ体重があっても筋肉量や血清たんぱくが低下していれば該当します。BMI18.5kg/m²未満、6か月で2〜3kg以上または1〜6か月で3%以上の体重減少、血清アルブミン3.8g/dL以下、総コレステロール150mg/dL未満などが低栄養を疑う代表的な指標です。

貧血と低栄養がつくる「負のスパイラル」

高齢者では、貧血と低栄養が次のような悪循環を起こします。食事量の低下(噛みにくい・嚥下しにくい・買い物に行けない)→鉄・B12・葉酸・たんぱく質の不足→貧血と筋肉量の低下→易疲労感・息切れ・食欲低下→さらに食事量が減る——という構造です。途中のどこか一か所で介入すれば連鎖を断てるため、家族の早期の気付きが極めて重要になります。

貧血の3大原因——栄養・慢性疾患・原因不明の内訳

「高齢者の貧血=鉄分不足」と決めつけるのは危険です。米国の地域在住高齢者を対象とした調査(国立長寿医療研究センターのレターより)では、貧血の原因内訳は次のようになっています。家族が「うちは肉も食べているから大丈夫」と思っていても、別の原因が潜んでいる可能性があります。

高齢者貧血の原因内訳——栄養不足は約3分の1

  • 栄養不良に伴うもの(約34%):鉄欠乏16.6%、葉酸欠乏6.4%、ビタミンB12欠乏5.9%、複合欠乏など
  • 慢性炎症性疾患による貧血(約20%):感染症・関節リウマチ・悪性腫瘍・心不全など
  • 腎性貧血(約8%):慢性腎臓病(CKD)でエリスロポエチン産生低下
  • 原因不明(老人性貧血、約34%):加齢に伴う造血能低下、軽度の慢性炎症の関与
  • 複合型(約4%):複数原因の併存

つまり、貧血の約3人に1人は鉄やビタミンだけの問題ではなく、慢性疾患や原因不明の領域に踏み込みます。とくに新たに鉄欠乏性貧血が見つかった高齢者では、消化器悪性腫瘍(胃がん・大腸がん)が背景にあるケースが少なくないため、内視鏡などの精査が推奨されます。

3大原因をもう少し詳しく

①鉄欠乏性貧血:MCV(平均赤血球容積)が低下する小球性低色素性貧血。原因は食事性の不足だけでなく、消化管からの慢性出血(NSAIDsによる胃・十二指腸潰瘍、大腸ポリープ、痔、胃がん・大腸がんなど)が中心です。胃酸分泌の低下(萎縮性胃炎、胃酸抑制薬の長期使用)も吸収を悪化させます。

②慢性疾患に伴う貧血(ACD/AI):炎症性サイトカインが上昇し、肝臓でつくられるヘプシジンが鉄を細胞内に閉じ込めることで起こります。血清フェリチンは正常〜高値で、鉄剤を飲んでも改善しません。基礎疾患の治療が最優先です。

③ビタミンB12・葉酸欠乏(巨赤芽球性貧血):MCVが大きい大球性貧血で、神経症状(手足のしびれ、ふらつき、もの忘れ)を伴うことがあります。胃切除歴・萎縮性胃炎・胃酸抑制薬(PPI/H2ブロッカー)長期使用・偏った食事・アルコール多飲がリスクです。日本人ではB12欠乏は意外と多く、見逃すと不可逆的な神経障害につながります。

家族が気付くべき貧血・低栄養のサイン

高齢者の貧血と低栄養は、本人が自覚しにくいまま進行します。家族が「最近ちょっと変だな」と感じたら、以下のサインを意識的にチェックしてみてください。複数該当すれば、かかりつけ医への相談をためらわないことが大切です。

貧血を疑う家族のチェックリスト

  • 顔色や唇、瞼の裏(眼瞼結膜)が以前より青白い
  • 少し動いただけで息が切れる、階段で立ち止まるようになった
  • 動悸を訴える、脈が速い気がする
  • 立ちくらみ・めまい・ふらつきが増えた
  • 「疲れた」「しんどい」と頻繁に口にするようになった
  • 食欲が落ちた、食べ物の好みが急に変わった
  • 舌がツルツルになった・赤い(舌炎)、口角が切れる
  • 爪が薄く割れやすい、スプーン状にへこむ(さじ状爪)
  • 手足のしびれ、もの忘れの進行(B12欠乏のサイン)
  • 便が黒い(タール便)、血便がある

高齢者では症状が乏しく、ADL低下や認知機能の低下、転倒という形で初めて貧血が表面化することもあります。「年のせい」と片付けず、健診や定期受診のたびに血液検査の結果を確認しておきましょう。

低栄養を疑う家族のチェックリスト

  • ベルトの穴が一段ゆるくなった、衣服がだぶつく
  • 6か月で2〜3kg以上、または1〜6か月で3%以上の意図しない体重減少
  • BMIが18.5kg/m²未満(例:身長155cmなら体重44.5kg未満)
  • 頬がこけて見える、二の腕がやせ細った
  • 握力が弱くなった(ペットボトルの蓋が開けにくい)
  • 皮膚が乾燥してカサカサ、傷の治りが遅い
  • むくみが出やすくなった(低アルブミン血症の可能性)
  • 1日2食以下、または1食あたりの量が以前の半分以下
  • 主菜(肉・魚・卵・大豆)を週に何回も食べていない
  • 食事中にむせる、飲み込みにくそうにしている

無症候でも進む——「黙って進む」のが高齢者の特徴

高齢者の貧血と低栄養が怖いのは、本人にはっきりした自覚症状が乏しく、家族も「歳のせい」「もともと小食」と納得してしまいやすい点です。日本老年医学会の健康長寿診療ハンドブックでも、要介護高齢者の低栄養は本人の訴えではなく、体重・身体計測・血液検査の組み合わせで「拾い上げる」必要があると強調されています。

栄養評価と血液検査の読み方——Hb・アルブミン・MNA-SF

医療機関や訪問看護・訪問栄養食事指導で使われる栄養スクリーニング・血液検査の代表的な指標を、家族目線で「何を意味するのか」「いくつなら受診の目安か」を整理しておきます。これらは診断ではなく、専門職と話す共通言語として知っておくと役立ちます。

家庭でできる第一段階:体重・BMI・体重減少率

最もシンプルで、家族でも継続できる指標です。週1回、同じ時間帯(起床後・排尿後)に体重を測り、ノートやアプリに記録しましょう。BMI=体重kg÷(身長m×身長m)で計算し、18.5未満は要注意、20未満は予備軍として意識します。健康長寿ネットによれば、6か月で2〜3kg以上、または1〜6か月で3%以上の意図しない体重減少は低栄養を強く疑うサインです。

血液検査でみる栄養指標

  • 血清アルブミン(Alb):3.8g/dL以下で低栄養を疑い、3.5g/dL未満では介入が必要、3.0g/dL未満は重度。半減期が約3週間と長く、慢性的な栄養状態を反映します。
  • 血清トランスサイレチン(プレアルブミン):日本老年医学会のハンドブックでは10mg/dL未満も低栄養の指標。半減期が短く(約2日)、短期間の栄養変化を捉えやすい。
  • 総コレステロール:150mg/dL未満は低栄養の補助指標。
  • GNRI(高齢者栄養リスク指数):「1.489×血清アルブミン(g/dL)+41.7×(実測体重÷標準体重)」で計算。98以下は栄養リスクあり、82未満は重度リスク。在宅・施設で広く使われます。

血液検査でみる貧血指標

  • ヘモグロビン(Hb):男女とも11g/dL未満で高齢者貧血。9g/dL未満は中等度〜重度、輸血を検討するレベル。
  • MCV(平均赤血球容積):80未満は小球性(鉄欠乏の可能性)、100超は大球性(B12・葉酸欠乏の可能性)、80〜100は正球性(慢性疾患性・腎性・原因不明など)。原因を絞り込む最初の手がかり。
  • 血清フェリチン:12ng/mL未満で鉄欠乏が確実。ただし炎症で偽高値になるため、CRPとセットで評価。
  • ビタミンB12・葉酸:MCV高値時に必須。B12が200pg/mL未満、葉酸4ng/mL未満は欠乏を疑う。
  • 腎機能(Cr・eGFR):腎性貧血の鑑別に。eGFR60未満で腎性貧血の関与を考える。

MNA-SF——本人と家族でも答えられる栄養スクリーニング

MNA-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)は、6つの質問で低栄養リスクを評価する国際的なツールです。①食事量の減少、②体重減少、③移動能力、④精神的ストレス・急性疾患、⑤神経・精神的問題、⑥BMI(またはふくらはぎ周囲長)を点数化し、合計14点中8〜11点で低栄養のおそれ、7点以下で低栄養と判定します。地域包括支援センター・訪問看護師・かかりつけ医に「MNA-SFを評価してほしい」と伝えれば実施してもらえます。

放置のリスクと早期介入の効果——家族が知っておきたい損益

「貧血と低栄養を放置すると何が悪いのか」を、利益・損失の両面から整理しておきます。家族が本人や他の家族メンバーを説得して受診や食事改善につなげる際の材料として使ってください。

放置した場合に起こりやすいこと

  • 転倒・骨折・寝たきりの引き金:貧血と低栄養はサルコペニア・フレイルを進め、ふらつき・筋力低下から転倒、大腿骨頸部骨折、寝たきりへ短期間で連鎖します。
  • 認知機能の低下と抑うつ:脳への酸素・ビタミンB12不足は注意力・記憶力の低下を招き、認知症と紛らわしい症状を引き起こすことがあります。
  • 感染症・褥瘡・創傷治癒の遅延:たんぱく質と亜鉛が不足すると免疫力が落ち、肺炎・尿路感染を繰り返したり、床ずれが治りにくくなります。
  • 入院期間の長期化と再入院:低栄養患者の入院期間は栄養良好者より長く、退院後30日以内の再入院率も高いことが報告されています。
  • 悪性腫瘍など重大疾患の見逃し:高齢者の新規鉄欠乏性貧血の背景には消化器がんが隠れていることがあり、早期発見の機会を逃します。

早期に介入できれば取り戻せること

  • 鉄欠乏・B12欠乏・葉酸欠乏は補充療法で数週間〜数か月で改善が見込め、活力や顔色が戻る。
  • 食事内容の見直しと運動・社会参加の組み合わせで、フレイルから健常へ「戻る」ことが可能。
  • 慢性腎臓病に伴う腎性貧血はESA製剤(赤血球造血刺激因子製剤)やHIF-PH阻害薬で改善し、QOLが大きく向上する。
  • 家族が早めに気付くことで、本人のADL・認知機能・介護負担すべてが軽くなる。

家族が誤解しがちな「やってはいけないこと」

  • 市販の鉄サプリを自己判断で長期服用させる(鉄過剰症・他疾患のマスクのリスク)
  • 「もう年だから少食でいい」と食事量を諦める
  • 「赤い肉は体に悪い」と決めつけて極端な野菜中心食にする
  • 胃薬(PPI/H2ブロッカー)を漫然と長期服用する(B12・鉄の吸収を阻害)
  • 体重を測らない・記録しない(変化に気付けない最大の原因)

家庭でできる食事の工夫8つ——鉄・B12・たんぱく質の摂り方

家庭で実践できる食事の工夫を、栄養素別・調理場面別にまとめます。「全部を完璧に」ではなく、できるところから一つずつ始めることが続けるコツです。日本人の食事摂取基準(2025年版)や日本静脈経腸栄養学会の指針も参考にしています。

①鉄分を効率よく摂る

動物性食品に含まれるヘム鉄(赤身肉・レバー・カツオ・マグロ・あさり)は植物性の非ヘム鉄より吸収率が5〜6倍高く、高齢者に適しています。週に2〜3回は赤身の肉や魚を取り入れましょう。植物性の鉄(ひじき・小松菜・ほうれん草・大豆製品)を摂る場合は、ビタミンCを含む食品(ブロッコリー、いちご、キウイ、レモン、ピーマン)を同時に食べると吸収率が高まります。

逆に、緑茶・コーヒー・紅茶のタンニンや、玄米・全粒粉のフィチン酸は鉄の吸収を妨げます。食事中ではなく、食後30分以上空けて飲むようにすると影響を抑えられます。

②ビタミンB12・葉酸を補う

B12は動物性食品にしか含まれません(あさり、しじみ、サバ、サンマ、レバー、卵、乳製品)。菜食傾向が強い高齢者ほど不足しやすいので注意。葉酸は緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリー、アスパラガス)、納豆、レバー、いちごに豊富です。加熱で壊れやすいので、生野菜や短時間加熱を意識します。

③たんぱく質を1日1.0〜1.2g/kg

体重50kgなら1日50〜60gが目安。手のひら一枚分の肉・魚を朝・昼・夕の3食に分けて配置すると、1食あたり約20gをクリアできます。卵1個=6g、納豆1パック=8g、絹豆腐100g=5g、ヨーグルト100g=4gを目安に組み合わせを工夫しましょう。腎機能が低下している場合は主治医の指示に従い、たんぱく制限を考慮します。

④エネルギーを充足させる

たんぱく質だけ増やしてもエネルギーが不足するとアミノ酸が燃料に回り、筋肉合成に使われません。米飯・パン・麺・芋類などの炭水化物と、調理油・MCTオイル・バター・マヨネーズなどの脂質も大切です。「揚げ物は重い」と避けがちですが、少量のソテーやムニエルでエネルギーを底上げできます。

⑤1日5〜6回の小分け食

1食量が減った高齢者は、間食を栄養補給の機会と位置づけます。ヨーグルト+きなこ、バナナ+ピーナッツバター、チーズ+クラッカー、栄養補助ゼリーなど、少量で高エネルギー・高たんぱくの組み合わせを冷蔵庫に常備しましょう。

⑥嚥下が心配なときの工夫

むせ込みが増えた場合は、とろみ調整食品(トロミアップ、つるりんこ等)でお茶・汁物に粘度を付け、誤嚥を防ぎます。肉は薄切り・ひき肉・蒸し料理に、野菜は隠し包丁や圧力鍋で軟らかく。咀嚼困難があれば、市販の介護食区分(ユニバーサルデザインフード:UDF)を活用すると、家族の調理負担も減ります。

⑦経口栄養補助食品(ONS)を上手に使う

食事だけで必要量を確保できないときは、医療用の栄養補助食品(メイバランス、エンシュアH、ラコール、エネーボなど)が頼りになります。1本200kcal前後でたんぱく質7〜10g、各種ビタミン・ミネラル・鉄分を含み、コンビニや薬局でも入手可能なタイプもあります。「食事の代わり」ではなく「食事の上乗せ」として活用するのがコツです。

⑧鉄剤・サプリの注意点

処方される鉄剤(フェロミア、フェロ・グラデュメット等)は通常、食後に服用します。胃部不快感・便秘・黒色便は副作用としてよくみられ、便が黒くなるのは薬の作用なので心配ありません。ただし、消化管出血による黒色便と区別がつきにくい場合は主治医に相談を。鉄剤は数週間で網赤血球が増え、1〜2か月でHbが改善します。改善後も貯蔵鉄を満たすため3〜6か月の継続が一般的です。

家族を助ける制度・サービス——訪問栄養指導・配食・地域包括

食事や受診の工夫は、家族だけで抱え込まずに介護保険・医療保険のサービスを活用すると、本人にも家族にも大きな助けになります。家族にしかできない「日常の観察」と、専門職にしかできない「評価と治療」を組み合わせるのがポイントです。

訪問栄養食事指導——管理栄養士が自宅に来てくれる

かかりつけ医の指示で、管理栄養士が月1〜2回自宅を訪問し、食事内容のアセスメント、調理指導、買い物・献立のアドバイス、家族への教育を行うサービスです。在宅患者訪問栄養食事指導料(医療保険)や居宅療養管理指導(介護保険)として利用できます。低栄養や嚥下障害、糖尿病・腎臓病・心不全などの疾患があり医師が必要と判断すれば対象になります。「うちの親、食が細くて心配です」とかかりつけ医に伝えれば手配してもらえます。

訪問看護——栄養状態・服薬・採血まで一括で診てくれる

訪問看護では、体重・血圧・栄養状態のチェック、貧血症状の観察、鉄剤や胃薬の服薬管理、必要に応じて医師の指示による採血まで対応可能です。介護保険または医療保険でケアプランに組み込めます。家族が遠方に住んでいる場合や、独居の親の見守りに特に有効です。

配食サービス——栄養計算された食事を毎日届ける

自治体の高齢者配食サービス、民間(ワタミ、ニチレイ、ウェルネスダイニング、まごころ弁当など)の宅配弁当は、管理栄養士監修で1食あたりたんぱく質15〜20g・エネルギー400〜500kcalが確保されたメニューが豊富です。減塩・たんぱく調整・やわらか食・きざみ食など医療食メニューも揃います。週2〜3回でも導入すると、家族の負担と栄養リスクの両方が下がります。

地域包括支援センター・ケアマネジャー——窓口を一本化

「どこに相談すればいいかわからない」ときは、地域包括支援センターへ。介護認定の申請、ケアマネジャーの紹介、上記サービスの組み合わせを無料で相談できます。要支援・要介護認定を受けていれば、ケアマネジャーがケアプランに栄養支援を組み込みます。

歯科・口腔ケア——食べる入口を整える

義歯が合わない、歯がぐらつく、口が乾く——これらは食事量低下の隠れた大きな原因です。訪問歯科診療や歯科衛生士による口腔ケアを利用すれば、自宅でも義歯調整・口腔機能訓練が受けられます。誤嚥性肺炎の予防にもつながります。

家族にしかできない「観察と記録」

  • 週1回、体重を同じ条件で測定して記録する
  • 食事写真をスマホで残し、量と内容を可視化する
  • 朝の顔色・舌・眼瞼結膜をさりげなくチェックする
  • 便の色(黒色便・血便)を一緒に確認する習慣をつける
  • 1人で食べさせず、できる限り食卓を共にする(孤食は食事量を減らす)
  • 買い物・調理が負担なら、配食サービスや訪問介護を組み合わせる

家族が「食卓を一緒に囲む」ことは、想像以上に食事量と栄養状態に影響します。健康長寿ネットでも「楽しい食事、美味しい食事」が低栄養予防の重要な要素として挙げられています。

よくある質問——貧血・低栄養Q&A

Q1. ヘモグロビンがいくつなら受診すべきですか?

A. 高齢者は男女とも11g/dL未満で貧血と判断され、受診の目安です。9g/dL未満は中等度〜重度で早めの受診を、7g/dL未満は輸血を検討する水準です。ただし数値だけでなく、新たな貧血の出現、急激な低下、症状(息切れ・動悸・ふらつき)があれば、数値が11g/dL以上でも医師に相談してください。判断は必ず主治医・血液内科に委ねましょう。

Q2. 黒い便が出たら危険ですか?

A. はい、消化管出血のサインの可能性があります。タール状の真っ黒な便(メレナ)は上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血、鮮血が混じる便は下部消化管(大腸・直腸・肛門)からの出血を示唆します。鉄剤を飲んでいる場合も便が黒くなりますが、見分けがつかないので必ずかかりつけ医に相談してください。胃がん・大腸がんの早期発見にもつながります。

Q3. レバーが苦手な場合、何で鉄分を摂ればよいですか?

A. 赤身の牛肉・豚もも肉・カツオ・マグロ・あさり・しじみ・煮干しなどがおすすめです。植物性ではひじき・小松菜・ほうれん草・大豆・納豆・きな粉・プルーンなど。ビタミンCを含む野菜・果物と一緒に食べると吸収が高まります。それでも不足する場合は、医師の指示でフェロミアなどの鉄剤やヘム鉄サプリ(医療機関で相談)を検討します。

Q4. 食欲がなくて少ししか食べられません。どうすれば?

A. 「1食を多く」ではなく「1日5〜6回の小分け食」に切り替えます。間食を栄養補給と捉え、ヨーグルト+きなこ、バナナ+ピーナッツバター、栄養補助ゼリーや経口栄養補助食品(メイバランス、エンシュア等)を活用してください。それでも改善しない、体重が落ち続けるなら、訪問栄養食事指導や老年内科の受診を検討します。

Q5. 鉄剤を飲んでも気分が悪くなります。やめてもよいですか?

A. 自己判断で中止しないでください。鉄剤の悪心・便秘・胃部不快感は10〜20%にみられる一般的な副作用です。空腹時を避けて食後すぐに服用する、徐放性製剤に変更する、用量を下げる、注射製剤に切り替えるなど、対処法があります。必ず処方医に相談してから調整しましょう。

Q6. 親が要介護認定を受けていないのですが、訪問栄養指導は受けられますか?

A. はい、可能です。医療保険の「在宅患者訪問栄養食事指導料」は、医師が必要と判断すれば介護認定の有無にかかわらず利用できます(特別食を要する患者または低栄養の高齢者などが対象)。まずはかかりつけ医に「訪問の管理栄養士に来てもらいたい」と伝えてください。介護保険の「居宅療養管理指導」は要支援・要介護認定が前提です。

Q7. アルブミン値が3.5g/dLでした。低栄養ですか?

A. 低栄養が疑われる範囲です。アルブミンは3.8g/dL以下で低栄養を疑い、3.5g/dL未満では介入が必要、3.0g/dL未満は重度の低栄養と判断されます。ただしアルブミンは肝疾患・腎疾患・炎症・脱水でも変動するため、単独で判定せず、体重変化・BMI・食事摂取量と合わせて総合的に評価します。主治医や管理栄養士に相談してください。

Q8. 認知症のある親で、食べることを忘れます。どうすれば?

A. 食事時間に声かけし、家族や訪問介護員と一緒に食卓を囲む、食事をテーブルに常に見える形で置く、においや見た目で食欲を刺激する(カレー、揚げ物、彩りのある盛り付け)などが効果的です。それでも食事量が確保できない場合は、配食サービスや経口栄養補助食品を組み合わせ、訪問看護で体重・栄養状態のモニタリングを依頼しましょう。認知症ケアと栄養ケアは一体で考える必要があります。

参考文献・出典

まとめ——家族の早期気付きが鍵

高齢者の貧血と低栄養は、本人にも家族にも自覚されにくいまま静かに進み、フレイル・転倒・骨折・認知機能低下・入院といった重大な事態の引き金になります。一方で、早期に気付いて適切に介入すれば、健常な状態に戻せる可能性が十分にある「可逆的な病態」でもあります。

家族が今日からできることは、次の3つに集約されます。第一に、週1回の体重測定と食事内容の記録を始めること。第二に、顔色・眼瞼結膜・舌・便の色を日々さりげなく観察すること。第三に、ヘモグロビン11g/dL未満・体重減少3%以上・黒色便・急な食欲低下・手足のしびれなどがあれば、迷わずかかりつけ医や血液内科・管理栄養士に相談することです。

そして家族だけで抱え込まず、訪問栄養食事指導、訪問看護、配食サービス、地域包括支援センターといった社会資源を組み合わせて使うことが、結果として本人のQOLも家族の介護負担も両方を軽くします。本記事の情報は判断材料の一つに過ぎません。診断や治療方針は必ず主治医・血液内科・管理栄養士など専門職に相談し、その指示に従ってください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

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