SOMPOケア、AI記録ツール「noman」を全国約1,100拠点に導入|記録業務の負荷軽減で「ケアに向き合う時間」を創出
介護職向け

SOMPOケア、AI記録ツール「noman」を全国約1,100拠点に導入|記録業務の負荷軽減で「ケアに向き合う時間」を創出

SOMPOケアが介護特化型AI記録作成ツール「noman」を全国約1,100拠点・約3,500名に全社導入した。担当者会議やモニタリング面談などの議事録作成をAIで自動化し、1事業所あたり月約10時間の削減効果。介護DXの最新事例と現場職員への示唆を解説する。

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SOMPOケアは2026年3月、介護特化型AI記録作成ツール「noman(ノーマン)」を全国約1,100拠点・約3,500名を対象に全社導入した。提供元は株式会社scoville(東京都渋谷区)。担当者会議・モニタリング面談・カンファレンス・各種委員会・職員面談などの記録や議事録の作成を、音声からAIが自動で下書きする。介護事業者による記録AIの全社導入としては国内最大級とされ、SOMPOケアの試算では議事録作成の削減効果は1事業所あたり月およそ10時間。読者の介護職にとっては、記録業務に奪われていた時間を利用者ケアに振り向ける「働き方の変化」が、現実の選択肢として大手から広がり始めたことを意味する。あわせて、記録の正確性を担保する事実確認と、音声に含まれる個人情報の管理という留意点も押さえておきたい。

目次

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介護の仕事は、利用者へのケアそのものだけで完結しない。担当者会議の議事録、モニタリング面談の記録、カンファレンスや各種委員会の議事、職員面談のメモ。日々のケアの合間に積み上がる文書作成が、現場の時間を静かに削っていく。「本来のケアに充てたい時間が、記録業務に圧迫されている」という声は、多くの介護職が共有する実感だろう。

2026年3月、業界大手のSOMPOケアが、この記録業務の負担にAIで正面から向き合う取り組みを全社規模で完了させた。介護特化型のAI記録作成ツール「noman(ノーマン)」を、全国約1,100拠点・約3,500名を対象に導入したのだ。提供元の株式会社scovilleが2026年6月に発表し、SOMPOケアの鷲見隆充代表取締役社長も同社の「AI共創」戦略の柱として位置づけている。

本記事では、この導入の事実関係を一次情報にもとづいて整理したうえで、記録AIが介護現場にもたらす効果と数字、大規模導入でつまずきやすい「定着」の壁、そして2027年度の介護報酬改定でも論点となる生産性向上・介護テクノロジーの流れのなかで、現場で働く一人ひとりにとってこの動きが何を意味するのかを掘り下げる。AI記録の利点だけでなく、事実確認や個人情報の扱いといった留意点にも触れる。

ニュースとして押さえておきたいのは、これが制度上の義務や補助金ありきの取り組みではなく、大手法人が自らの経営判断として選んだ介護DXだという点だ。国が旗を振るから導入するのではなく、現場の負担と人材不足という切実な課題に対して、事業者が主体的にテクノロジーを選び取った。その姿勢の違いは、導入の本気度や定着への投資の厚みに表れている。

約1,100拠点への全社導入|何が起きたのか

約1,100拠点・約3,500名への全社導入を2026年3月に完了

提供元の株式会社scoville(本社:東京都渋谷区、代表取締役:出谷昌裕)が2026年6月に公表した内容によると、SOMPOケアは介護特化型AI記録作成ツール「noman」を、全国約1,100拠点・利用対象者約3,500名を対象に全社導入し、2026年3月に全社展開を完了した。scovilleは、介護事業者による介護特化型AI記録作成ツールの全社導入としては国内最大級の規模だとしている。

導入先のサービス種別は幅広い。居宅介護支援、訪問看護、訪問介護、通所介護等、そして介護付きホームやサービス付き高齢者向け住宅などの施設系まで、SOMPOケアが手がける主要なサービスがおおむね対象に含まれる。業種横断でひとつの記録ツールを全社標準として展開した点に、この取り組みの規模感が表れている。

会議・面談の音声をAIが文字起こしし、記録の下書きを自動生成

nomanが担うのは、介護現場で日常的に発生する議事録・記録の作成だ。具体的な対象業務として、担当者会議、モニタリング面談、カンファレンス、各種委員会、職員面談などの記録・議事録作成が挙げられている。会議や面談の音声をAIが文字に起こして要約し、業務ごとのテンプレートに沿って記録の下書きを自動で生成する仕組みである。

介護の記録には、サービス担当者会議の要点やモニタリング記録のように、行政の監査や法人独自の基準に対応した所定のフォーマットが求められるものが多い。nomanは介護現場で使われる専門用語や略語を識別して文字起こしする設計とされ、指定されたフォーマットに沿って要約・記録を生成する。会議の直後に記録を回覧できるようになる点も、現場運用上の利点として説明されている。

導入の目的は「ケアに向き合う時間」の創出

scovilleは導入の背景として、介護業界で2040年に約57万人の人材不足が見込まれるなか、限られた人員で質の高いケアを提供し続けるための業務効率化が喫緊の課題になっていることを挙げる。そのなかでも記録業務の負荷は大きく、介護職は日々のケアに加えて担当者会議やモニタリング面談、カンファレンスなどの議事録・記録の作成に多くの時間を費やしてきた。

nomanの導入は、こうした記録業務の負荷を軽減し、介護職が利用者に向き合う時間を創出することを目的に据えている。単なる作業のスピードアップではなく、生まれた時間をケアの質へ振り向けるという文脈で語られている点は、後述する経営トップの発言とも一貫している。

SOMPOケアはSOMPOホールディングス傘下の介護事業会社で、介護付きホームや在宅サービスを全国展開する国内最大級の介護事業者のひとつだ。その規模の法人が、実証や一部拠点での試行にとどめず、全社の標準ツールとして記録AIを一斉展開した意味は大きい。パイロット導入で「効果がありそうだ」と示すことと、全国の現場でひとつのツールを定着させることの間には、運用・教育・サポートの面で大きな隔たりがあるからだ。今回の発表は、その隔たりを越える段階に大手が踏み込んだことを示している。

提供元のscovilleによれば、nomanはリリースからおよそ10か月で導入事業所数が5,000を超え、株式会社だけでなく社会福祉法人にも広がってきた実績を持つ。居宅介護支援、訪問系、通所系、特定施設やグループホームなどの入所系まで、サービス種別を問わず利用されている点は、今回のSOMPOケアの業種横断的な全社展開とも符合する。介護記録という共通課題に対し、ツール側も現場の多様な帳票に対応する方向で進化してきた経緯がうかがえる。

数字で見る効果|月10時間削減とAI共創の広がり

議事録作成の削減効果は1事業所あたり月およそ10時間

導入の効果は、SOMPOケアの鷲見隆充代表取締役社長がインタビューで具体的な数字とともに明らかにしている。AIによる議事録作成が業務を短くする効果は、1事業所あたりおよそ月10時間。書類作成の負担を大幅に軽減し、介護職が利用者に寄り添う時間を創出する狙いだ。約1,100の事業所全体で見れば、単純計算でも月あたり相当な時間が記録業務から解放される計算になる。

提供元のscovilleも、複数の検証結果から議事録や記録作成にかかる時間を従来の3分の1程度まで短縮できるとしている。PCが苦手な職員でも扱える画面設計を重視しており、ITに不慣れな現場職員の残業時間が大きく減ったという利用者の声も紹介されている。記録の質がスキルに左右されにくくなる点も、標準化のメリットとして挙げられる。

AI議事録だけではない、SOMPOケアの「AI共創」の広がり

SOMPOケアはAI議事録ツールにとどまらず、複数のAI活用を並行して進めている。ケアプランの原案を自動作成するAIツールの実証もそのひとつだ。初回のケアプラン作成なら1回あたり3時間ほど効率化できると見込んでおり、今年度中に介護付きホームや居宅介護支援などでの本格導入に踏み切る計画だとしている。

さらに2026年7月からは、介護付きホームなどに設置するAIカメラの実証も始める。転倒防止など利用者や家族の安心・安全につなげるほか、万が一の際に職員を守る仕組みとしても想定されている。事故の状況確認や記録・報告書の作成を効率化することで、1施設あたり月7時間ほど業務を圧縮できると見込む。記録AI・ケアプランAI・見守りAIを組み合わせ、現場の負担を多面的に減らそうとする構図だ。

生産性向上が生んだ原資は処遇改善へ還元

こうしたテクノロジー活用や業務の標準化による成果として、SOMPOケアはすでに全国の介護付きホーム148施設で「3対0.9」の人員配置基準の届け出を済ませたという。生産性向上による経済効果は今年度で約15億円。取り組みを本格化する前の2022年度からみるとおよそ40億円にのぼり、これを処遇改善の原資として職員に還元しているとしている。

効率化で浮いた原資を賃金や処遇に回すという循環は、介護テクノロジー導入を「人減らし」ではなく「働き手に報いる仕組み」として説明する試みでもある。鷲見社長は「AIをはじめとするテクノロジーの活用は、単なる業務の効率化やコスト削減のためではない。人手不足に打ち克ち、その先で道徳的な人間尊重の介護を実現したい」と強調している。

これらの数字を並べると、SOMPOケアが描く絵姿が見えてくる。議事録で月10時間、AIケアプランで初回3時間、AIカメラで施設あたり月7時間。個々の効率化は一見バラバラだが、いずれも「職員が本来のケアや対人業務に使える時間を取り戻す」という一点に収束している。テクノロジーを単発の便利ツールとしてではなく、現場の時間の使い方そのものを設計し直す手段として束ねている点が、この取り組みの特徴だといえる。

なお、鷲見社長は自社の成果を囲い込む姿勢は取らないとし、「自社だけが生き残っても日本の介護は良くならない。私たちのモデルを他社にも広く提供・共有し、業界全体が持続可能となる環境を創り上げていきたい」と語っている。大手が培った定着ノウハウが他法人にも開かれていけば、記録AIの普及は一社の効率化にとどまらず、業界全体の底上げにつながりうる。

大規模導入の難所は「定着」|三つの支援策に学ぶ

大規模導入の本当の難所は「入れたが使われない」定着の壁

この事例で見逃せないのは、SOMPOケアとscovilleが「導入」と「定着」を明確に切り分けている点だ。全国1,000拠点を超える大規模展開では、「導入したが現場で使われない」という壁に直面しやすい。その背景には介護現場ならではの事情がある。介護の記録は業種ごとに帳票の項目・並び・書き方が異なり、ツールの出力と自社の書式が一致しなければ、転記のたびに「この項目はどこに入れるか」「この見出しはうちと違う」という手間が生じてしまう。

加えて、デジタル端末への不慣れ、全事業所の職員に教える時間の不足、社内問い合わせに対応しきれない体制の問題も重なる。これらを放置すれば初期の離脱が起き、結局は「使われないツール」で終わる。SOMPOケアはこの構造を正面から認識し、導入完了後に定着支援を本格展開した。

三つの定着支援|テンプレート設計・訪問支援・専用窓口

具体的な定着支援は三つの柱で構成される。第一に業種別テンプレート設計。実際に使用している帳票の項目・並び・書式に合わせて記録テンプレートをカスタマイズし、各業種の担当者と分科会を立ち上げて、nomanの出力を現場の帳票に合わせる調整を行った。出力がそのまま既存書式と一致すれば、「見ながらそのまま写す」だけで転記が完了し、現場の手間が最小化される。

第二に現場訪問支援。希望する事業所にnomanのスタッフが直接訪問し、業務に合った活用方法を説明する。「まだうまく使えていない」事業所にも「もっと活用したい」事業所にも、状況に応じた支援を提供する。第三に専用サポート窓口。現場からの疑問にリアルタイムで対応する窓口を設け、メールだけでなくその場で解決できる体制を整えた。SOMPOケアの執行役員未来の介護推進部長・小泉雅宏氏は、業種ごとに業務の流れや帳票が異なるため一律のツール提供では定着しないという課題があったと述べ、テンプレート調整や訪問支援によって現場が安心して使い始められる体制を一緒につくっていると説明している。

読者へのヒント|「導入したのに定着しない」を避ける観点

ここに、規模を問わず応用できる示唆がある。ケアマネジャーや管理者の立場でICT・AIツールの導入を検討する読者にとって、鍵になるのは「ツールの性能」よりも「自法人の帳票にどこまで合わせられるか」「現場が詰まったときに誰がすぐ助けてくれるか」だ。実際、ケアマネジャー協会の調査でも、ICTは「導入支援から活用支援へ」と課題の重心が移り、「入れたが使いこなせていない」現場の存在が指摘されている。大手の事例は、この定着の壁を越えるための設計図として読むことができる。

言い換えれば、記録AIの成否を分けるのはAIの賢さだけではない。現場の帳票にどこまで寄り添えるか、つまずいた職員をどれだけ早く支えられるか、という「人と運用の設計」が同じくらい重要になる。SOMPOケアが分科会という形で現場の帳票担当者を巻き込み、出力を既存書式に合わせ込んだプロセスは、技術導入を現場任せにしなかった証しでもある。導入を検討する立場の読者は、ベンダーの機能一覧よりも、こうした定着の伴走体制があるかを見極めたい。

政策文脈と現場への示唆|2027改定・AI記録の留意点

2027年度改定でも「生産性向上・介護テクノロジー」は中心論点

SOMPOケアの動きは、一企業の経営判断にとどまらず、国全体の政策の流れと重なっている。介護分野では生産性向上と介護テクノロジーの活用が制度上の重要テーマとして位置づけられ、2024年度改定では生産性向上推進体制加算が新設された。財務省は訪問介護・通所介護の賃上げ要件に介護テクノロジー導入を求める議論も持ち出しており、2027年度の介護報酬改定に向けても、テクノロジー活用は避けて通れない論点であり続ける見通しだ。

この文脈では、記録AIのような技術は「導入すれば便利」という段階から、「導入していることが評価・要件につながりうる」段階へと重心が移りつつある。SOMPOケアが148施設で「3対0.9」の人員配置の届け出を済ませ、生み出した原資を処遇改善に還元しているという構図は、まさに生産性向上と処遇改善を接続する政策の狙いを、大手が先行して具現化した形といえる。

現場職員への示唆|AI記録の利点と、外せない留意点

働く一人ひとりにとって、記録AIの普及は歓迎すべき変化を含む。残業の削減、記録の質の平準化、そして何より利用者と向き合う時間の回復は、介護という仕事の本来の魅力に立ち返る余地を広げる。PCが苦手でも扱えるという設計は、ITスキルの差が評価や負担の差に直結してきた現場にとって、公平さの面でも意味がある。

一方で、AIが生成した記録をそのまま正式な文書とすることには慎重さが求められる。AIの文字起こしや要約は万能ではなく、固有名詞や数値、ニュアンスの取り違えが起こりうる。最終的な記録の正確性を担保するのは、あくまで人による事実確認だ。また、会議や面談の音声には利用者や家族の機微な個人情報が含まれる。どの範囲をAIに処理させ、データをどう管理するかという個人情報保護の観点は、ツール選定と運用ルールの両面で欠かせない。AIは「下書きを速く作る道具」であり、「責任を肩代わりする存在」ではない。この線引きを現場が共有できているかどうかが、記録AIを安全に活かせるかの分かれ目になる。

キャリアの視点|「テクノロジーで働き方が変わる職場」を選ぶ目

転職や職場選びを考える読者にとって、この事例はひとつの物差しになる。同じ介護の仕事でも、記録や事務にどれだけの時間を奪われるかは職場によって大きく異なる。AIやICTを積極的に取り入れ、生まれた余力を処遇改善やケアの質に還元している法人は、働き手にとって持続可能性の高い選択肢だ。求人票や面接の場で、記録業務の負担軽減にどう取り組んでいるか、テクノロジー導入をどう位置づけているかを確認することは、これからの職場選びで有効な視点になる。自分の時間とスキルをどこで活かすかを見極めるうえで、「テクノロジーで働き方が変わる職場」を見抜く目は、介護職のキャリアを守る力になる。

もうひとつ意識したいのは、記録AIが普及しても、介護職に求められる力の本質は変わらないという点だ。何を記録すべきか、その情報がケアの質にどう結びつくかを判断するのは人であり、AIが生成した下書きの妥当性を見極める目もまた人が持つべき専門性だ。むしろ、機械的な文字起こしから解放されることで、記録の「中身」を考える余地が広がるとも言える。テクノロジーは介護職の役割を奪うのではなく、専門職としての判断に集中できる環境を整える方向へ働きうる。

まとめ

SOMPOケアが2026年3月に完了した「noman」の全社導入は、介護特化型AI記録作成ツールとして国内最大級の規模であり、介護DXが実証段階から大規模実装段階へ移りつつあることを示す象徴的な事例だ。議事録作成で1事業所あたり月およそ10時間という削減効果、業種別テンプレート設計・現場訪問支援・専用窓口という定着への丁寧な設計、そして生み出した原資を処遇改善へ還元する循環は、テクノロジー活用を「働き手に報いる仕組み」として描き出している。

この動きは、生産性向上と介護テクノロジーが中心論点であり続ける2027年度改定に向けた地ならしでもある。現場で働く一人ひとりにとって、記録AIは残業を減らし利用者と向き合う時間を取り戻す味方になりうる。ただしその力を安全に活かすには、AIの出力を人が事実確認する姿勢と、音声に含まれる個人情報を守る運用が欠かせない。あなたの職場では、記録業務の負担はどこまで軽くなっているだろうか。テクノロジーで働き方が変わっていく時代に、自分の時間とスキルをどこで活かすかを、あらためて考えてみてほしい。

大手の一歩は、いずれ業界の標準になっていく可能性を秘めている。記録に追われる働き方が当たり前ではなくなる未来は、思っているより近いのかもしれない。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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