
徘徊行動とは
徘徊行動は認知症のBPSDのひとつで、本人なりの目的を伴った歩行行動です。原因・声かけ・GPS等の安全対策、近年「ひとり歩き」と呼び替える動きまで解説します。
この記事のポイント
徘徊行動(はいかいこうどう)とは、認知症のある方が一見目的なく歩き続けているように見える行動のことで、認知症のBPSD(行動・心理症状)のひとつです。実際には本人にとって「家に帰りたい」「トイレを探している」といった明確な目的があるケースが大半で、近年は本人を尊重する観点から「ひとり歩き」「歩き続けるBPSD」と呼び替える動きが広がっています。
目次
徘徊行動の定義と背景
徘徊行動は、認知症のある方が居住空間や施設の内外を歩き回る行動を指します。日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」や厚生労働省の認知症施策資料ではBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の代表的症状として位置付けられ、家族・介護者の負担と離設・行方不明リスクの観点から重要な課題とされています。
ただし「徘徊」という言葉は「目的なくうろつく」というニュアンスを持ち、本人を蔑むようにも捉えられるため、近年は「ひとり歩き」「歩き続ける行動」と表現する自治体・事業者が増えています。本人の主観としては「夕方になったから子どもを迎えに行かなければ」「トイレに行きたい」「自分の家に戻りたい」など、その人の生活歴や認知の状態に根差した目的を持っていることが多いのです。
徘徊行動は見当識障害や記憶障害といった中核症状に、不安・寂しさ・身体的不快感が重なって生じます。徘徊そのものは病ではなく、本人なりの「ニーズの表現」と捉える視点が、対応の出発点となります。
徘徊行動の主な原因と本人の目的
身体的な要因
- トイレに行きたい・尿意便意の表現が難しい
- 痛み・かゆみ・空腹・口渇
- 薬剤(向精神薬・睡眠薬等)の副作用
- 下肢の不快感・むずむず脚症候群
心理的な要因
- 不安・寂しさ・落ち着けない感覚(焦燥)
- 大切な人や場所を求めている(家族・職場・自宅)
- 過去の習慣(仕事の帰宅時間、子育て中の夕食準備)の再現
- 環境の変化への不適応(入所直後・施設内移動直後)
環境的な要因
- 騒音・照度不足・空調不快
- 居室や共用部の見通しが悪く目的物(トイレ・自分の部屋)が見つけにくい
- 日中の活動量不足による昼夜逆転
- 馴染みのスタッフや家族と離れた直後
本人の目的が把握できれば、徘徊は減らせます。「なぜ歩いているのか」を本人の生活歴・現在のニーズから読み解くアセスメントが、ケアの起点です。
現場での対応・離設防止のポイント
1. 否定せず一緒に歩く
「家に帰りたい」と訴える本人に「ここがあなたの家ですよ」と訂正しても本人の不安は消えません。「一緒に行きましょう」と歩調を合わせ、途中でお茶や休息を提案して気持ちを切り替える対応が有効です。バリデーション療法の考え方が役立ちます。
2. 環境を整える
- トイレに大きく分かりやすいサイン表示
- 居室前に本人の写真と名前を掲示
- 夕方以降の照度確保(夕暮れ症候群対策)
- センサーマット・ドア通過センサーで早期察知
- 離設リスクのある出入口に誘目刺激(鉢植え・絵)を置き気を逸らす
3. 日中の活動量を確保
適度な運動・散歩・園芸・回想法などで昼間の活動量を上げると、夜間徘徊が減ることが多くの実践報告で示されています。回想法や音楽療法も併用するとよいでしょう。
4. GPS・見守り技術の活用
- 靴に内蔵するGPS端末(自治体によっては助成あり)
- 居室・玄関の見守りセンサー、AIカメラ
- 近隣・地域包括・警察との SOS ネットワーク登録
- 身分証カード・連絡先入りのIDタグ
5. 身体拘束は最終手段
徘徊を防ぐためにベッド柵で囲んだり車椅子に固定したりするのは身体拘束に該当し、原則禁止です。やむを得ない場合は3要件(切迫性・非代替性・一時性)を満たし、家族同意・記録・カンファレンスを必須とします。
よくある質問
Q1. 徘徊行動はどのくらいの頻度で発生しますか?
厚生労働省の認知症施策関連調査によれば、認知症の症状を有する高齢者の1〜2割程度が徘徊行動を経験するとされ、警察庁の統計では認知症が原因で行方不明として届け出られる方は年間約1.9万人にのぼります。決して例外的な症状ではありません。
Q2. 「徘徊」と呼ばないほうがよいのはなぜですか?
本人にとっては明確な目的を持つ歩行であり、目的のない遊行を意味する「徘徊」という言葉は本人の主体性を否定するためです。多くの自治体・事業者が「ひとり歩き」「歩き続ける行動」へ言い換えを進めています。
Q3. 玄関に鍵をかけて出られなくしてもよい?
個人宅では家族判断で行う場合がありますが、施設では身体拘束に該当する可能性があるため不可です。徘徊感知センサー、人による見守り、誘目刺激での迂回などの代替策を取ります。
Q4. 行方不明になってしまった場合の対応は?
速やかに警察へ「行方不明者届」を提出し、自治体のSOSネットワーク・近隣へ協力依頼します。あらかじめGPS、ID入りバッジ、最近の写真の準備、衣服の特徴記録などの平時備えが重要です。
Q5. 介護職員に求められる資格は?
まとめ
徘徊行動(ひとり歩き)は、本人なりの目的とニーズを伴うBPSDです。鍵や拘束で抑え込むのではなく、目的の読み解き・環境調整・GPS等の見守り技術を組み合わせ、本人の安心と安全を両立するケアが現場の標準になりつつあります。家族・地域・警察との連携体制も平時から整えておきましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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