
介護職員向けカウンセリング体制を作る|EAP・産業医・社内相談員の使い分けと中小施設の実装
介護施設で職員のメンタル不調・離職を防ぐカウンセリング体制の作り方を、EAP導入の費用相場、産業医契約、社内相談員制度、共感疲労・モラル・インジャリー対応、中小施設での簡易実装、処遇改善加算との関連まで実務目線で解説する2026年版。
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この記事のポイント
介護施設の職員カウンセリング体制は、(1)外部EAPの相談窓口契約(従業員1人月額100〜800円)、(2)産業医(50人以上は選任義務)またはストレスチェック実施者の確保、(3)社内相談員(メンタルヘルス推進担当者)の指名、の3層を組み合わせて作るのが基本です。看取り・暴言暴力など介護特有のストレッサーには共感疲労やモラル・インジャリーの観点を加え、処遇改善加算「職場環境等要件」とも紐づけて設計します。50人未満の中小施設は外部相談窓口の単独契約でも始められます。
目次
介護現場の離職原因の上位には常に「人間関係」「心身の不調」が挙がります。介護労働安定センターの調査でも、前職を辞めた理由として「職場の人間関係」が約25%で1位、次いで「心身の不調」が続く構造が長年変わっていません。職員一人ひとりのセルフケアだけでは限界があり、施設側が「不調を早期にキャッチして外につなぐ仕組み」を持つかどうかが、定着率を左右します。
本記事では、特養・グループホーム・訪問介護など中小事業者の現場で実際に組めるカウンセリング体制の作り方を、EAP(従業員支援プログラム)・産業医・社内相談員の3つの選択肢と、そこに看取り・暴言暴力・モラル・インジャリーといった介護特有の論点を重ねて整理します。50人未満の小規模施設からでも始められる簡易実装パターンも紹介します。
介護施設のカウンセリング体制とは|4つのケアと3つの相談チャネル
厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、職場のメンタルヘルス対策を「4つのケア」として整理しています。これは個人で完結するものではなく、施設という組織がそれぞれの役割を担う前提で設計されています。
4つのケアの整理
- セルフケア:職員自身が自分のストレスに気付き、対処する。ストレスチェック・セルフケア研修などを通じて支援する
- ラインによるケア:管理者(フロアリーダー・主任・施設長)が部下の不調に気付き、相談に応じ、職場環境を改善する
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア:産業医・保健師・衛生管理者・社内のメンタルヘルス推進担当者などが行う支援
- 事業場外資源によるケア:外部EAP事業者、地域産業保健センター、医療機関、こころの耳など、施設の外にあるリソースの活用
カウンセリング体制を支える3つの相談チャネル
この4つのケアを介護施設で実装するとき、職員が「実際にどこに相談できるか」という相談チャネルは、おおむね以下の3つに集約されます。
- 外部EAP・外部相談窓口(事業場外資源):契約した外部の臨床心理士・公認心理師に電話・オンラインで相談する
- 産業医・産業保健スタッフ(事業場内産業保健):施設に契約・常駐する産業医、保健師、ストレスチェック実施者による面談
- 社内相談員・メンタルヘルス推進担当者(ライン外の社内窓口):上司ではない社内の指名担当者が一次受付を行う仕組み
カウンセリング体制を「作る」とは、この3チャネルのうちどれを何で組み合わせ、職員に対してどの窓口に何を相談してよいかを明示し、不調者をスムーズに必要なケアへつなぐ仕組みを整えることを指します。
EAP・産業医・社内相談員の役割比較と費用相場
3つの選択肢の特徴、対応範囲、費用感、向く施設規模を整理します。1つだけで完結させるのではなく、強みが異なる選択肢を重ねるのが基本設計です。
| 項目 | 外部EAP | 産業医 | 社内相談員 |
|---|---|---|---|
| 主な担い手 | 外部の臨床心理士・公認心理師 | 嘱託または専属の医師 | 社内指名の職員(資格は問わない) |
| 対応内容 | カウンセリング、家族問題・私生活含む幅広い相談 | 医学的判断、就業制限、復職判定、休職指示 | 一次受付、外部窓口への橋渡し、雑談ベースの愚痴受容 |
| 守秘性 | 外部のため高い | 医師の守秘義務あり | 同じ職場のため低くなりがち |
| 費用相場 | 従業員1人月額100〜800円(人数課金制) | 嘱託で月3〜10万円程度(規模・訪問頻度で変動) | 担当者の人件費+研修費(数万円〜) |
| 義務 | 任意 | 常時50人以上で選任義務 | 任意(ストレスチェック制度では推進担当者を置くことが望ましいとされる) |
| 向く規模 | 全規模(小規模で特に費用対効果が高い) | 50人以上の事業場で必須 | 全規模、特に複数拠点を持つ施設 |
| 苦手な領域 | 就業判断や休職指示はできない | 常駐ではないため日常相談には不向き | 専門性が低く重い相談は外部に回す前提 |
常時50人未満の施設での扱い
労働者数50人未満の事業場は産業医選任義務とストレスチェック実施義務(2026年5月時点では努力義務)の対象外ですが、地域産業保健センターが無料で長時間労働者・高ストレス者面談、メンタルヘルス相談、健康相談を提供しているため、これを実質的な「産業医チャネル」として利用できます。
介護施設のカウンセリング体制を作る5ステップ
体制構築は「外部窓口を契約して終わり」ではなく、職員が実際に使えるところまで運用設計が要ります。以下の5ステップで進めます。
ステップ1:現状把握とストレッサーの棚卸し
まずは現場で何が職員を消耗させているかを洗い出します。ストレスチェックの集団分析結果、離職者の退職理由、ヒヤリハット、苦情・ハラスメント相談履歴を見て、「介護特有のストレッサー」がどう現れているかを確認します。例えば、看取り後の燃え尽き、認知症利用者からの暴言暴力、家族からの過剰要求、夜勤帯の判断疲労、看取りや虐待懸念ケースで「正しいケアができていない」と感じるモラル・インジャリーなどです。
ステップ2:必要な相談チャネルの組み合わせを決める
規模と予算から、3チャネルの組み合わせを決めます。50人以上は産業医選任が必須なので、これを軸に外部EAPと社内相談員をどう足すかを設計します。50人未満なら外部EAP(または無料の地域産業保健センター+無料外部相談窓口)+社内相談員という最小構成から始めます。
ステップ3:社内相談員・メンタルヘルス推進担当者の指名
社内相談員は資格不要ですが、「直属の上司ではない」「人事評価権を持たない」「兼任なら業務時間として明示する」の3点を満たすことが望ましいです。理想は施設長直下のスタッフや、複数施設を持つ法人なら本部スタッフの配置。指名後はメンタルヘルス推進担当者向け研修(こころの耳、産業保健総合支援センターなどが無料・低価格で提供)を必ず受講させます。
ステップ4:周知と利用ルールの明文化
体制を作っても職員が知らなければ使われません。以下を必ず文書化し、初任者研修・年1回の全体研修・休憩室の掲示で周知します。
- 各窓口の連絡先(電話・メール・LINE等)と受付時間
- 相談内容が上司や人事評価に伝わらないこと(守秘性の範囲)
- 勤務時間内に利用可能なこと、必要な場合の業務調整方法
- 家族・同居人も利用できる場合はその旨
ステップ5:利用状況のモニタリングと年1回の見直し
外部EAPからは月次・四半期で件数や相談カテゴリの匿名集計レポートが提供されます。利用率(年間で従業員数の5〜15%が目安)、リピート率、相談内容の傾向を見ながら、研修テーマやライン管理職への教育内容を更新します。利用率が極端に低い場合は周知不足・心理的安全性不足・窓口の使い勝手のいずれかに原因があるため、原因を切り分けて改善します。
施設規模別の実装パターン
施設規模・運営形態によって、現実的に組める体制は変わります。下記は規模別のおすすめパターンです。
常時10〜29人(小規模施設・1拠点グループホーム等)
- 外部相談窓口:こころの耳(厚生労働省・無料)+市区町村のメンタルヘルス相談窓口の周知
- 産業医的機能:地域産業保健センターの無料面談を活用
- 社内相談員:施設長または主任が「相談一次受付窓口」を兼務(直属上司を避けるため別フロアの先輩などにも振り分け可能とする)
- 追加投資:ほぼゼロ円から開始可能。慣れてきたら従量制EAPに移行
常時30〜49人(中規模特養・複数拠点デイ等)
- 外部EAP:従量制の格安EAP(月1〜3万円)を契約し、職員+家族が電話相談可能に
- 産業医的機能:地域産業保健センター+年数回スポット契約の産業医
- 社内相談員:本部スタッフまたはケアマネ等の現場リーダーを「メンタルヘルス推進担当者」として正式指名し、研修受講
- 追加投資:年30〜60万円規模
常時50人以上(大規模特養・複数事業所運営法人)
- 外部EAP:大手EAP事業者と従業員課金制で契約(電話・対面・オンライン・家族利用込み)
- 産業医:嘱託産業医を選任(法定義務)。月1回以上の職場巡視と衛生委員会開催
- ストレスチェック:年1回実施(法定義務)。集団分析を職場改善に必ず反映
- 社内相談員:複数名指名、本部メンタルヘルス推進室の設置
- 追加投資:年100万円以上を目安
訪問介護・在宅サービス事業所
常時雇用人数が労基法上の50人を下回るケースが多いものの、職員は単独訪問が常態のため、不調を上司が気付きにくいという特性があります。「直行直帰でも使える電話・オンラインの外部EAP」を最優先で確保し、サービス提供責任者が定例ミーティングで意識的にメンタル面の声かけを行う運用を組み込みます。
介護特有のストレッサーと体制側の備え方
介護現場でカウンセリング体制を設計するうえで、一般企業向けのEAP導入論だけでは拾いきれない論点があります。以下は実装時に必ず織り込むべき視点です。
1. 共感疲労(compassion fatigue)への備え
共感疲労は、援助職が利用者の苦痛に共感し続けることで、自分自身に二次的な情緒的消耗が蓄積する現象です。看取り期ケア、ターミナル、虐待疑いケース、家族の悲嘆対応など、感情労働強度の高い場面で起きやすく、燃え尽き(バーンアウト)の前段階として位置付けられます。「ケース後デブリーフィング(短時間の振り返り会)」や、看取り後1〜2週間の声かけを定例化し、共感疲労を「弱さ」ではなく職業上の必然として扱う言語化が大切です。
2. モラル・インジャリー(道徳的傷つき)への備え
モラル・インジャリーは、人員不足や時間制約のなかで「自分が信じる正しいケア」ができないと感じ続けることで生じる心の傷です。「ゆっくり関わりたいのに流れ作業になっている」「身体拘束をせざるを得なかった」などの場面で発生します。これは個人のメンタル不調というより「構造的な問題」であり、カウンセリングだけでは解消せず、人員配置・業務分担・倫理委員会など職場側の改善とセットで扱う必要があります。
3. ハラスメント(カスタマーハラスメント含む)との接続
2026年10月からカスタマーハラスメント対策が法的に義務化される流れのなか、利用者・家族からの暴言・セクハラ・過剰要求への対応は、メンタルヘルス対策と切り離せません。「カスハラ対応マニュアル」「ハラスメント相談窓口」「カウンセリング窓口」を別々に作らず、一本化された相談導線として設計します。
4. 夜勤帯の判断疲労と単独ケア
夜勤帯は職員が1〜2名で多数の利用者を担当し、判断ミスへの恐怖が慢性ストレスとなります。24時間電話相談を備える外部EAP契約、夜勤明けに利用できる相談チャネル、夜勤明け面談ルールなど、勤務時間帯に応じた利用設計が重要です。
5. 認知症ケアにおけるBPSD対応の感情コスト
暴言・暴力・介護拒否などBPSDへの対応は、職員側の感情コストが大きい一方、「業務だから当然」と扱われがちです。インシデント発生後の振り返り、必要に応じてカウンセリング窓口へのつなぎを、看護師長・主任クラスがルーティンとして行うラインケアを徹底します。
処遇改善加算「職場環境等要件」との連動
カウンセリング体制の整備は、介護報酬の処遇改善加算とも紐づきます。処遇改善加算の上位区分(旧I・II相当)の算定要件として、「職場環境等の改善」に関する複数項目の実施が求められており、メンタルヘルス対策・相談体制整備はこれに該当します。
該当しうる職場環境等要件の例
- 健康診断・ストレスチェックなど健康管理面の支援
- メンタルヘルス対策の実施
- ハラスメント対策の実施
- 休暇制度・両立支援制度の整備
- 職員相談窓口の設置
カウンセリング体制を整えること自体が、処遇改善加算の算定根拠を強化することにつながります。実務上は「メンタルヘルス対策実施記録」「相談窓口設置の周知資料」「ストレスチェック実施記録」を法人内で保管し、実地指導・運営指導時に提示できるようにしておきます。
運用上のチェックポイント
- 年1回以上のメンタルヘルス研修記録(実施日・参加者・内容)
- 相談窓口の周知物(掲示・配布資料・職員ハンドブック該当ページ)
- ストレスチェック実施結果と集団分析、職場改善への反映記録
- 外部EAPなど外部委託契約書および利用実績の匿名サマリー
処遇改善加算の取得・維持を目的に体制を整える形でも、結果として職員のメンタル不調・離職を減らす実利が伴うため、加算ロジックと連動させて投資判断する施設が増えています。
よくある質問(FAQ)
Q. 50人未満なので産業医もストレスチェックも義務外ですが、何から始めるべきですか?
A. まず無料リソース(こころの耳、地域産業保健センター)の連絡先を全職員に配布し、社内相談員を1名指名するところから始めます。これだけで「相談先がない」状態は脱せます。そのうえで余裕が出てきたら、月数万円規模の従量制EAPを契約し、家族・私生活相談まで対応できる窓口を持ちます。
Q. 外部EAPと産業医、どちらを優先すべきですか?
A. 50人以上なら産業医は法定義務なので最優先です。50人未満なら、職員が日常的に使いやすい外部EAP(カウンセリング窓口)を先に整え、必要時の医学的判断は地域産業保健センターや嘱託医のスポット契約で補う構成が現実的です。
Q. 社内相談員に必要な資格はありますか?
A. 法令上の資格要件はありません。ただし「メンタルヘルス推進担当者」として位置付ける場合は、産業保健総合支援センターや日本産業衛生学会などが提供する研修を受けさせるのが標準です。傾聴・守秘・外部窓口への橋渡しが主な役割で、自分でカウンセリングを行うことは想定されていません。
Q. 相談しても上司にバレるのではないかという不安が職員から出ます。
A. 外部EAPは事業者と職員の間で守秘義務契約が結ばれ、施設側には個別内容は開示されません(匿名の集計データのみ)。産業医も医師法の守秘義務があり、本人の同意なく就業上の措置内容以外を施設に伝えることはできません。これらを職員ハンドブックに明文化し、年1回の研修で繰り返し説明することが、利用率向上の最大のレバーです。
Q. カウンセリング体制を整えれば離職は減りますか?
A. カウンセリング単体では限定的です。離職の主因が職場の人間関係・労働負荷・賃金にある場合は、体制整備と並行して、業務分担見直し、1on1ミーティングの導入、職場改善活動が必要です。カウンセリングは「不調を早期にキャッチし、悪化前に対処する仕組み」と位置付け、職場環境改善との両輪で進めるのが原則です。
参考文献・出典
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まとめ|小さく始めて運用で育てる
介護職員向けカウンセリング体制は、最初から大手EAPと専属産業医を揃える必要はありません。50人未満の中小施設なら、こころの耳と地域産業保健センターの無料リソース+社内相談員1名指名から始め、利用状況を見ながら従量制EAPへ段階的に拡張するのが現実的です。50人以上の事業場は産業医選任とストレスチェックが法定義務になるため、これを軸にEAP・社内推進担当者を組み合わせていきます。
体制設計のうえで欠かせない論点が、看取り後の共感疲労、人員不足下のモラル・インジャリー、利用者・家族からのハラスメントなど介護現場特有のストレッサーです。これらは個人のセルフケアでは解消しきれない構造的な問題であり、職場改善・倫理委員会・1on1ミーティングなど、カウンセリング以外の仕組みとセットで扱うことで初めて効果が出ます。
そして整えた体制は処遇改善加算の職場環境等要件とも紐づくため、職員定着と加算取得・維持の両面で投資回収が期待できます。「不調を早期にキャッチし、悪化前に外につなぐ」というシンプルな目標で、施設の規模と予算に合わせた最小実装から始めましょう。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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