高齢の親が物をためこむ・捨てられない|ためこみ症の原因と家族の片付け・声かけの工夫
ご家族・ご利用者向け

高齢の親が物をためこむ・捨てられない|ためこみ症の原因と家族の片付け・声かけの工夫

高齢の親が物を捨てられず家がいっぱいに。ためこみ症の特徴と高齢者で増える背景、認知症やうつとの関係、無理に捨てると逆効果な理由、本人を傷つけない声かけと片付けの進め方、安全リスク、地域包括や専門職への相談先を家族目線で解説します。

お近くの介護施設を探す

地域ごとの施設数や施設タイプを確認しながら、候補を絞り込めます。

施設を探す
ポイント

この記事のポイント

高齢の親が物を捨てられず家がいっぱいになる背景には、加齢に伴う喪失や不安、もったいないという価値観に加えて、「ためこみ症」という精神疾患や、認知症・うつが関わっていることがあります。物への執着が強い人にとって、勝手に捨てられることは大きな苦痛になり、無理に処分すると激しく抵抗したり、親子関係が壊れたりして逆効果です。まずは安全と衛生にかかわる場所から、本人の同意を得て少しずつ一緒に片づけ、行きづまったら地域包括支援センターや医療機関に相談するのが現実的な進め方です。

目次

久しぶりに実家に帰ったら、新聞や雑誌、空き箱、買い置きの日用品が部屋を埋め尽くしていた。何度「捨てよう」と言っても親は首を縦に振らず、こっそり処分すると烈火のごとく怒る。そんな状況に戸惑い、疲れ果てているご家族は少なくありません。

高齢の親が物をためこむ・捨てられない背景には、単なる「片づけ下手」や「頑固」では片づけられない事情が隠れていることがあります。加齢に伴う心身の変化、人や役割を失った喪失感、将来への不安、物のない時代を生きてきた世代特有の価値観。さらに「ためこみ症」という精神疾患や、認知症・うつ病が関わっているケースもあります。

大切なのは、親を責めたり力ずくで片づけたりすることではなく、なぜ捨てられないのかを理解したうえで、安全と本人の気持ちの両方を守りながら関わっていくことです。この記事では、ためこみ症とは何かという基礎から、高齢者で増える背景、認知症やうつとの関係、無理に捨てるとなぜ逆効果なのか、本人を傷つけない声かけと片づけの進め方、安全や衛生上のリスク、そして地域包括支援センターや医療機関など家族が頼れる相談先までを、ご家族の目線で具体的に整理します。なお医療にかかわる内容は診断ではなく一般的な情報です。気になる状態があるときの受診や相談の目安としてお読みください。

ためこみ症(ホーディング)とは

「ためこみ症(ホーディング、hoarding disorder)」とは、実際の価値とは関係なく、物を捨てたり手放したりすることが続けて難しくなり、その結果として生活する空間が物であふれ、本来の使い方ができなくなる状態を指します。アメリカ精神医学会の診断基準であるDSMでは、2013年の改訂(DSM-5)で初めて独立した精神疾患として位置づけられました。世界保健機関の国際分類であるICD-11でも、ためこみ症が新たに設けられています。つまり、単なる性格やだらしなさの問題ではなく、医学的にひとつの「病気」として認められた状態だということです。

ためこみ症の3つの特徴

医療機関の解説では、ためこみ症の中心的な特徴は次の3つにまとめられています。

  • 物を大量に集める:新聞、雑誌、衣類、紙袋、空き容器、買い置きの日用品など、人によって対象はさまざまです。買い物がやめられない、無料の物や落ちている物を拾ってきてしまう、というかたちで集まっていくこともあります。
  • 集めた物を整理できない:何が必要で何が不要かの判断がつかず、仕分けや片づけが進みません。意志が弱いのではなく、決めること自体に強いストレスを感じてしまいます。
  • 物への執着が強く、捨てられない:「まだ使える」「もったいない」「思い出がある」と感じ、捨てようとすると強い不安や苦痛、ときに怒りを覚えます。

「片づけられない人」やコレクターとの違い

忙しくて一時的に部屋が散らかる、引っ越しや相続で物が増える、といった状態は、ためこみ症とは区別されます。ためこみ症では、捨てられない状態が長く続き、地下室や物置ではなく台所や寝室といった「生活そのものに使う空間」が物で占領され、調理や睡眠など日常の行動が妨げられているのが特徴です。

趣味のコレクター(本やフィギュアなどを集める人)とも異なります。コレクションは整理され、体系立っていて、生活空間を著しく散らかしたり、安全を損なったりはしません。一方ためこみ症では、集めた物が無秩序に積み上がり、火災や転倒の危険につながることもあります。

本人が「困っている」と感じにくい

ためこみ症のもうひとつの特徴は、本人に「これは問題だ」という自覚(病識)が乏しいことが多い点です。家族は物の山に困り果てていても、本人にとっては「自分にとって大切な物に囲まれた、ふつうの生活」と感じられていることが珍しくありません。だからこそ、家族が「汚い」「捨てて」と正論をぶつけても、なかなか響かず、かえって反発を招きやすいのです。この感覚のズレを理解しておくことが、後で述べる声かけの第一歩になります。

なぜ高齢者でためこみが増えるのか

「昔はきれい好きだったのに、年をとってから物をためこむようになった」。そう感じるご家族は多いものです。ためこみ症そのものは10代から20代の若いうちに軽く始まり、長い年月をかけてゆっくり悪化していくことが多いと報告されています。一方で、家の中が手に負えない状態として表面化するのは中高年以降で、高齢になるほど目立ちやすくなります。実際、海外の地域調査をもとにした医療機関の解説では、ためこみ症の有病率は人口の2〜6%程度と見積もられ、55〜94歳の人は33〜44歳の人に比べておよそ3倍も高いとされています。なぜ高齢者でためこみが目立つのか、その背景を整理します。

喪失の体験が重なる

高齢期は、配偶者や友人との死別、退職による役割の喪失、体力や健康の衰えなど、「失う」体験が重なる時期です。心理学の研究では、ためこみ症の人は物に対して、親友や自分の一部を失うような強い感情を抱くことが指摘されています。人とのつながりや役割を失うなかで、物が心の支えや安心の対象になり、手放すことがいっそう難しくなることがあります。

将来への不安

「いつか必要になるかもしれない」「もう手に入らないかもしれない」という不安は、年齢を重ねるほど強くなりがちです。収入が年金中心になり、買い直すことへの抵抗が増えると、「念のため取っておく」「念のため買い足す」という行動につながります。これがためこみを後押しします。

「もったいない世代」の価値観

いまの高齢者の多くは、戦中戦後の物資が乏しい時代を経験してきた世代です。「物を粗末にしてはいけない」「まだ使える物を捨てるのは罪」という価値観が体にしみ込んでいることは珍しくありません。これは本来は美徳であり、ためこみ症とイコールではありません。ただし、この価値観が強いほど、客観的には不要な物でも手放しにくくなり、片づけが進みにくくなる一因になります。

心身の機能の低下

加齢により足腰が弱る、疲れやすくなる、目が見えにくくなると、片づけそのものが大きな負担になります。ゴミの分別や運び出しがおっくうになり、気づけば物がたまっていくという現実的な事情も無視できません。記憶力や段取りを立てる力(実行機能)が落ちると、「どこに何があるか分からないから、目の前に置いておく」という行動にもつながります。

一人暮らしと孤立

同居家族がいない一人暮らしでは、片づけを促す人も手伝う人もおらず、状態が進みやすいことが知られています。医療機関の解説でも、ためこみ症は単身生活やパートナーの不在でより悪化しやすいとされています。近隣との関わりが薄く、相談相手がいない孤立した状況は、ためこみを見えにくくし、対応を遅らせる要因にもなります。こうした背景は単独ではなく、いくつも重なって生じているのが実際のところです。

認知症やうつ病との関係

高齢の親のためこみで特に注意したいのが、認知症やうつ病など、ほかの病気が背景にある場合です。これらが関わっているかどうかで、対応や相談先が変わってきます。ここでの説明は一般的な情報であり、診断ではありません。判断に迷うときは自己判断せず、医療機関に相談してください。

認知症との関係

認知症になると、記憶力や物事を順序立てて行う力が低下します。その結果、物を置いた場所を覚えられない、ゴミを分別して捨てる手順が分からない、必要・不要の判断ができないといったことが起こり、片づけられず物がたまっていくことがあります。「以前はきれい好きだったのに、ここ1〜2年で急に部屋が散らかるようになった」「冷蔵庫に同じ食材や期限切れの物がいくつもある」「通帳や鍵をしょっちゅう探している」といった、それまでと違う変化が同時に見られる場合は、認知症が背景にある可能性を考える必要があります。

ここで重要なのは、DSMの診断基準では、認知症による認知機能の低下でうまく説明できるためこみは、ためこみ症とは別に扱われるという点です。つまり、認知症に伴って物がたまっている状態と、認知症とは独立して若い頃から続いてきたためこみ症とは、医学的には区別されます。どちらなのかを見分けるのは専門職の役割であり、家族が無理に判断する必要はありません。気づいた変化を記録しておき、相談の場で伝えることが役立ちます。

うつ病との関係

高齢期のうつ病(老年期うつ)では、気力や意欲が大きく低下し、それまで普通にできていた家事や片づけが手につかなくなることがあります。部屋が荒れていく背景に、気分の落ち込みや無気力が隠れていることは少なくありません。DSMの基準でも、うつ病による気力の低下で説明できるためこみは、ためこみ症とは区別して考えられます。眠れない、食欲がない、何事にも興味を持てない、口数が減ったといったサインが片づけられなさと一緒に見られるときは、こころの不調を疑い、医療につなぐことを検討してください。

そのほか関わりうる状態

ためこみ症は、強迫症やADHD(注意欠如多動症)、不安症、アルコールなどの依存と一緒に見られることがあると報告されています。また、脳血管疾患や前頭側頭型認知症など、脳の状態が関係していることもあります。背景にこうした病気がある場合、物だけを片づけても根本は変わらず、再び物がたまってしまいがちです。だからこそ、「物をどうにかする」ことと並行して、「本人の心身に何が起きているか」を専門職とともに確かめていくことが、遠回りのようで近道になります。

高齢者のためこみを2つのタイプで考える(独自整理)

「ためこみ症」と「認知症によるためこみ」を別々に説明されると、自分の親はどちらなのかと混乱してしまうかもしれません。ここでは、高齢者の「ゴミ屋敷」状態を研究した社会福祉の知見を手がかりに、家族が状況を整理するための2つのタイプという見方を紹介します。これは医学的な診断ではなく、対応を考えるための実務的な整理として読んでください。

高齢者の不適切な居住環境を調べた研究では、ためこみが目立つ高齢者は、大きく2つのタイプに分けて考えられると報告されています。当サイトでは、この知見を家族が使いやすいように次のように読み替えます。

タイプA:背景に別の病気があるためこみ

認知症や統合失調症など、ほかの病気の症状として物がたまっているタイプです。研究で紹介された事例では、独居で生活機能が大きく落ち、食事や排泄もままならない状態で発見され、訪問支援をきっかけに受診し、アルツハイマー型認知症などの診断を受けて、成年後見制度や介護保険サービスの利用につながったケースが報告されています。このタイプでは、物の片づけそのものよりも、まず医療と生活支援につなぐことが出発点になります。家族が気づくサインは、「短期間での急な変化」「片づけ以外の生活全般の乱れ(失禁、食事がとれていない、身なりの乱れ)」「会話のかみ合わなさ」などです。

タイプB:自立度は保たれているが過剰にためこむ

身の回りのことはある程度自分でできているのに、物への執着が強く、捨てることに強い抵抗を示すタイプです。「捨てるのを先延ばしにしたい」「買い物がやめられない」「拾うのがやめられない」といった行動が見られ、ためこみ症の中心的な特徴に近い状態です。このタイプでは、本人の意思や気持ちに丁寧に寄り添いながら、時間をかけて少しずつ手放す練習を重ねていく関わりが中心になります。強引な処分は最も反発を招きやすく、信頼関係を壊しかねません。

家族がこの見方をどう使うか

大切なのは、家族が自分でA・Bを断定することではありません。この2つの見方の価値は、「急な生活の乱れを伴うなら医療・生活支援を急ぐ(A寄り)」「生活は回っているが物への執着が強いなら、関係を保ちながら長期戦で臨む(B寄り)」という、初動の方針を立てやすくする点にあります。実際には両者が重なることも多く、最終的な見極めは専門職に委ねるのが安全です。家族の役割は、どちらのサインが強いかを観察してメモし、相談の場で正確に伝えることだと考えると、肩の力が抜けるはずです。

無理に捨てるとなぜ逆効果なのか

家族としては「一気に片づけてしまえば本人も楽になるはず」と考えがちです。実際、本人が留守の間や入院中に業者を入れて一掃する、という選択を取りたくなる場面もあるでしょう。しかし、本人の同意のないまま強引に捨てることは、多くの場合うまくいかず、かえって状況を悪化させます。その理由を整理します。

本人にとっては「大切な物を奪われる」体験

ためこみ症の人にとって、集めた物は単なる不用品ではなく、安心や思い出、自分の一部と結びついています。物への愛着は、専門家の解説でも「自分の一部を失うような感覚」と表現されるほど強いものです。家族には価値のないガラクタに見えても、本人にとっては手放すことが大きな苦痛になります。だからこそ、勝手に捨てられると、人格が変わったように激しく怒ったり、深く傷ついたりすることがあるのです。

信頼関係が壊れ、対応がさらに難しくなる

一度「勝手に捨てられた」という体験をすると、本人は家族を「物を奪う敵」とみなし、心を閉ざしてしまうことがあります。そうなると、その後の片づけや受診の話し合いがいっそう難しくなります。短期的に部屋がきれいになっても、関係が壊れてしまえば、長い目で見て本人を支えることができなくなります。

根本が変わらず、また元に戻る

ためこみ症や、その背景にある不安・病気が解決していなければ、物を一度片づけても、再び同じように物がたまっていくことが少なくありません。専門職の解説でも、背景の病気を治療しないまま強制的に処分しても、ためこみが繰り返されかねないと指摘されています。一時的な片づけは対症療法にすぎず、本人の心や生活の支援とセットでなければ続かないのです。

では、何もできないのか

強引な処分が逆効果だからといって、家族が手をこまねくしかないわけではありません。次の章で述べるように、本人の気持ちを尊重しながら、安全に直結する場所から、本人の同意を得て少しずつ進めるという方法があります。また、火災や転倒、害虫の発生など、命や健康に差し迫った危険がある場合は、家族だけで抱え込まず、後述する地域包括支援センターや行政、医療につなぐことが必要です。緊急性の高い危険を放置することと、本人の同意を得て進めることは、両立させる必要があります。

本人を傷つけない声かけと片づけの進め方

ここからは、本人を傷つけずに片づけを進めるための、具体的な声かけと手順を整理します。完璧を目指さず、関係を保ちながら少しずつ進めることが、結果的にいちばんの近道になります。

言ってはいけない言葉と、その言い換え

まず避けたいのは、本人を否定したり、命令したりする言葉です。次のような言い換えを意識してみてください。

  • 「汚い」「ゴミだらけ」。これは本人の生活そのものを否定する言葉に聞こえます。代わりに「足元が心配だから、ここだけ通り道を作らない?」と、安全を理由に伝えます。
  • 「早く捨てて」「いい加減にして」。命令や叱責は反発を招きます。代わりに「これ、どんな思い出があるの?」と、物にまつわる気持ちを聞く姿勢から入ります。
  • 「なんでこんなにためるの」。原因を責める問いは追い詰めます。代わりに「一緒に、使いやすい部屋にしていこう」と、味方であることを伝えます。

共通するのは、「捨てる」ことより「安全で快適になる」というメリットを前面に出すこと、そして物への思いを否定しないことです。

「捨てる」ではなく「分ける・移す」から始める

いきなり「捨てる」と迫ると、本人は身構えてしまいます。最初の一歩は、捨てることではなく「分ける」「移す」ことです。たとえば、「今すぐ要る物」「迷う物」「明らかにゴミ(傷んだ食品など)」にゆるく分け、傷んだ食品など本人も納得しやすい物から手放していきます。迷う物は無理に決めず、いったん箱にまとめて保留にします。後日もう一度見ると、「やっぱり要らない」と本人が思えることもあります。

範囲を小さく、時間を短く

「家じゅうを片づけよう」ではなく、「今日はこの棚の一段だけ」「30分だけ」と、達成しやすい小さな目標にします。範囲と時間を区切ると、本人の負担が減り、成功体験を積み重ねられます。安全に直結する場所、たとえば火を使う台所のコンロまわり、通り道、玄関、寝床の周辺から優先するのがおすすめです。

本人に決めてもらう

家族が選別して「これは要らないよね」と確認するのではなく、本人に「これは残す? どうする?」と決定権を渡します。決めるのが本人だと、納得感が生まれ、後のトラブルが減ります。時間はかかりますが、自分で手放せたという経験が、次の片づけにつながります。

手放した後の代替策を用意する

思い出の品を手放すときは、「写真に撮って残す」「一部だけ取っておく」といった代替策を添えると、本人の抵抗が和らぎます。完全に消えてしまうのではなく、形を変えて残せると感じられることが大切です。

一緒に作業し、できたことを認める

片づけは、本人を一人にせず、できるだけ一緒に行います。作業の時間が会話の時間になり、関係づくりにもなります。少しでも片づいたら「すっきりしたね」「歩きやすくなったね」と具体的に認めましょう。焦らず、再びたまっても責めず、長い目で付き合う構えが、何よりの支えになります。

安全・衛生上のリスクと見落としやすいサイン

ためこみは、見た目や人間関係の問題にとどまらず、命や健康にかかわる現実的なリスクを伴います。これらの危険が高まっている場合は、本人のペースを尊重しつつも、対応を急ぐ判断が必要です。家族が見落としやすいポイントを整理します。

転倒・骨折のリスク

床や通り道に物が積み上がっていると、つまずいて転倒する危険が高まります。高齢者の転倒は骨折を招きやすく、骨折をきっかけに寝たきりや要介護状態に進むことも少なくありません。とくに夜間にトイレへ向かう動線、玄関、階段の周辺は、最優先で安全を確保したい場所です。

火災のリスク

新聞紙や衣類など燃えやすい物が大量にあると、火がついたときに一気に燃え広がります。コンロのまわりに物が積まれている、ストーブの近くに燃えやすい物がある、たこ足配線にほこりがたまっている、といった状態は火災の引き金になります。物で出入り口がふさがれていると、いざというときの避難も難しくなります。医療機関の解説でも、ためこみは火災の危険を生み出すリスクとして挙げられています。

衛生・健康のリスク

食べ残しや生ゴミ、ペットボトルなどがたまると、悪臭やカビ、ダニ、ゴキブリ、ネズミの発生につながります。これらはぜんそくやアレルギー、感染症の原因になり、本人だけでなく近隣にも影響します。物が多くて掃除ができず、不衛生な環境が固定化してしまうことも問題です。

セルフ・ネグレクトのサイン

食事がとれていない、入浴していない、失禁したままになっている、必要な受診をしていない。こうした「自分の世話ができていない」状態は、セルフ・ネグレクト(自己放任)と呼ばれ、ためこみと重なって現れることがあります。これは本人の生命にかかわる危険なサインであり、家族だけで様子を見るのではなく、速やかに地域包括支援センターや行政に相談すべき状況です。

近隣トラブル・社会的なリスク

悪臭や害虫、敷地外への物のあふれ出しは、近隣との深刻なトラブルに発展します。自治体によっては、いわゆるゴミ屋敷に関する条例にもとづいて指導・勧告が行われることもあります。賃貸住宅では、契約違反として退去を求められる可能性もあります。問題が大きくなる前に、早めに相談先につなぐことが、本人を守ることにもなります。

家族が頼れる相談先(地域包括・医療・行政)

高齢の親のためこみは、家族だけで解決しようとすると行きづまりがちです。ためこみ症や認知症が背景にある場合はとくに、医療・福祉・行政の力を借りることが欠かせません。家族が頼れる相談先を、目的別に整理します。どこに相談すればよいか迷ったら、まずは地域包括支援センターから始めるのが分かりやすい入り口です。

まずの窓口:地域包括支援センター

地域包括支援センターは、市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、全国に5,000か所以上あります。介護や生活の困りごとから、権利を守る支援、地域の支援体制づくりまでを担っており、ためこみで困っているときの「最初の相談先」として最適です。保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が在籍し、状況に応じて介護保険の利用、医療機関、行政の関係部署などへつないでくれます。親の住む地域のセンターは、市区町村の窓口やホームページで確認できます。本人が拒否的でも、家族からの相談を受け付けてくれます。

医療が必要なとき:精神科・心療内科、かかりつけ医

ためこみ症が疑われる場合や、認知症・うつ病など背景の病気が考えられる場合は、医療につなぐことが必要です。何科にかかればよいか迷うときは、まずかかりつけ医や地域包括支援センターに相談し、精神科・心療内科や、もの忘れ外来などを紹介してもらうとよいでしょう。本人が受診を嫌がることも多いため、無理に連れて行こうとせず、まずは家族だけで専門職に相談し、本人を医療につなぐ進め方を一緒に考えてもらうのが現実的です。気になる変化はメモしておき、受診や相談の際に伝えると役立ちます。

介護が関わるとき:介護保険・ケアマネジャー

本人に介護の必要がある場合は、介護保険を申請し、要介護認定を受けることで、ヘルパーやデイサービスなどの支援を利用できます。研究で紹介された事例でも、ためこみの背景に認知症があった高齢者が、介護保険サービスの導入をきっかけに、生活が立て直されたケースが報告されています。ケアマネジャーが付くと、片づけだけでなく、生活全体を継続的に支える体制をつくれます。

財産管理が心配なとき:成年後見制度

認知症などで判断する力が落ち、財産の管理や契約が難しくなっている場合は、成年後見制度を利用して本人の権利を守る方法があります。前述の事例でも、認知症の診断とあわせて成年後見制度の利用につながったケースが報告されています。制度の利用についても、地域包括支援センターが相談に乗ってくれます。

緊急時・近隣トラブル:自治体の福祉・環境部署

火災や衛生の危険が差し迫っている、近隣トラブルが深刻、本人の生命にかかわるおそれがある、といった場合は、市区町村の福祉部署や、いわゆるゴミ屋敷対策の担当部署にも相談できます。福祉の支援者が本人に寄り添う一方、環境・行政の側が衛生や安全の観点から関わるというように、役割を分けて支えていく支援のかたちもあります。家族だけで抱え込まず、複数の窓口を組み合わせて使うことが、本人と家族の双方を守ります。

よくある質問

Q. 親が留守の間に、業者を呼んで一気に片づけてもいいですか?

本人の同意がないまま一掃するのは、原則おすすめできません。ためこみ症の人にとって物は安心や自分の一部と結びついており、勝手に捨てられると激しく傷つき、家族を信頼できなくなることがあります。関係が壊れると、その後の片づけや受診の話し合いがいっそう難しくなります。ただし、火災や衛生の危険が差し迫っている場合は別で、家族だけで判断せず、地域包括支援センターや行政に相談しながら進めてください。

Q. 病院に連れて行きたいのですが、何科を受診すればいいですか?

ためこみ症や、背景にある認知症・うつ病が考えられる場合は、精神科・心療内科や、もの忘れ外来が候補になります。ただし、何科がよいか迷うときや、本人が受診を嫌がるときは、まずかかりつけ医や地域包括支援センターに相談し、つなぎ方を一緒に考えてもらうのが現実的です。本人を無理に連れて行こうとすると、かえって拒否が強まることがあります。

Q. 本人が「これはゴミじゃない、大事な物だ」と言い張って手がつけられません。

本人にとっては本当に大切な物だと感じられているため、「ゴミだ」と否定しても通じにくく、反発を招きます。否定せずに「どんな思い出があるの?」と気持ちを聞き、傷んだ食品など本人も納得しやすい物から少しずつ手放すこと、迷う物は保留にすることから始めてみてください。決定権は本人に渡すのがコツです。

Q. ためこみ症は治りますか?

ためこみ症は自然に治ることは少なく、慢性的に経過しやすい状態だと報告されています。一方で、認知行動療法などの治療によって改善が期待できる場合もあります。治療は本人の意欲が鍵になるため、無理に変えようとするより、まず専門職とつながり、本人のペースに合わせて関わっていくことが大切です。背景に認知症やうつなど別の病気がある場合は、その治療が状況の改善につながることもあります。

Q. 親を支えている自分が、疲れ果ててしまいました。

ためこみへの対応は長期戦になりやすく、家族が疲弊するのは当然のことです。「自分が何とかしなければ」と一人で抱え込むほど、消耗してしまいます。地域包括支援センターや専門職に相談し、支援の輪を広げてください。家族自身が休む時間を確保することも、本人を長く支えるために欠かせません。あなた一人の責任ではないことを、どうか忘れないでください。

参考文献・出典

まとめ

高齢の親が物をためこむ・捨てられない背景には、加齢に伴う喪失や不安、もったいないという価値観、心身の機能の低下に加えて、ためこみ症という精神疾患や、認知症・うつ病が関わっていることがあります。物を捨てられないのは、本人のだらしなさや頑固さのせいではなく、捨てることに強い苦痛を感じる事情があるのだと理解することが、最初の一歩です。

本人の同意なく強引に片づけることは、本人を深く傷つけ、信頼関係を壊し、根本の解決にもならないため逆効果になりがちです。代わりに、安全に直結する場所から、本人の気持ちを否定せず、範囲と時間を小さく区切って、本人に決めてもらいながら少しずつ進めること。手放した後の代替策を用意し、できたことを認めること。これらが、関係を保ちながら片づけを進めるための現実的な方法です。

同時に、転倒や火災、衛生や近隣トラブルといった命や健康にかかわる危険があるときは、家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターを入り口に、医療機関や介護保険、成年後見制度、行政の関係部署など、複数の専門職の力を借りてください。ためこみへの対応は長期戦です。親を支える家族自身が休み、相談できる相手を持つことも、同じくらい大切です。なお、この記事の医療に関する内容は一般的な情報であり、診断ではありません。気になる状態があるときは、早めに専門職へ相談することをおすすめします。

監修者

介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム

医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)

看護師介護福祉士ケアマネジャー

訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

続けて読む

このテーマを深掘り

関連トピック

介護の現場・介護職の視点

同じテーマを介護の現場で働く方の視点から書いた記事。専門家の見方も知っておきたい時に。