親の通院同行の基本|受診前の準備・診察室での聞き方・送迎手段の選び方
ご家族・ご利用者向け

親の通院同行の基本|受診前の準備・診察室での聞き方・送迎手段の選び方

高齢の親の通院に同行する家族向けに、受診前に揃える持ち物リスト、医師に必ず聞く5項目、診察室でのマナー、介護タクシー/福祉有償運送/通院等乗降介助(99単位)の使い分けを解説。育児・介護休業法の介護休暇(年5日・時間単位取得可)の活用や、本人に判断能力がない場合の家族による医療同意(代諾)も整理しました。

ポイント

この記事のポイント

親の通院同行は、医師の説明を家族と本人で正確に共有し、薬剤管理や転倒・症状悪化など家族視点の生活情報を医師に伝えるために重要です。受診前は保険証・診察券・お薬手帳・体調メモ・質問リストを準備し、診察室では本人主体で進めつつ家族は補足説明とメモ・録音許可を取りましょう。仕事と両立する場合は育児・介護休業法の介護休暇(年5日、対象家族2人以上は10日、1日または時間単位で取得可)が使えます。送迎が困難な時は介護保険の通院等乗降介助(99単位/片道)、自費の介護タクシー、NPO等の福祉有償運送を状況に応じて使い分けます。

目次

「先週から父が病院に通うようになり、はじめて付き添うことになった」「母の物忘れが気になるけれど診察についていくべきか迷う」——親が高齢になると、家族が通院に同行する場面が増えてきます。本人だけで受診すると医師の説明を聞き逃したり、薬の飲み合わせや家族から見た生活の変化が医師に伝わらず、適切な治療につながらないことがあります。

この記事は、認知症の有無にかかわらず「はじめて親の通院に同行する家族」を対象に、受診前の準備から診察室での聞き方、送迎手段、仕事との両立まで通院同行の基本を整理します。認知症の親に特有の不穏・徘徊・服薬拒否への対応は「認知症の親の通院付き添い」で詳しく扱っているため、本記事では健常〜軽度認知機能低下の高齢者への一般的な通院同行を中心に解説します。

厚生労働省「育児・介護休業法」「訪問介護における院内介助の取扱い」など公的資料に基づき、自己判断で誤った対応をしないための実践的なポイントをまとめました。

なぜ高齢の親の通院同行が重要なのか

「自分のことは自分でやらせたい」「過保護にしたくない」という思いから、高齢の親の通院に同行することをためらう家族は少なくありません。一方で、高齢になればなるほど通院同行の医療上のメリットは大きくなります。家族が同行することで防げるリスクと、得られる情報整理を理解しておきましょう。

① 医師の説明を正確に持ち帰れる

高齢になると、医師の説明を一度で理解・記憶することが難しくなります。特に新しい診断や治療方針の変更があった日は情報量が多く、本人だけでは「先生はなんと言っていた?」が答えられないことがあります。家族が同席して聞き、必要に応じてメモを取ることで、自宅でも治療内容を共有できます。

② 服薬管理を医師と家族で連動できる

高齢者は複数の慢性疾患を抱え、複数の診療科にかかることが一般的です。厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」では、薬剤数が多くなることで生じる薬物有害事象や服薬アドヒアランス不良などの問題をポリファーマシーと呼び、お薬手帳を一冊にまとめて受診時に必ず持参することの重要性を示しています。家族が同行して服薬状況を医師に伝えれば、重複処方や飲み合わせの問題を早期に発見できます。

③ 家族視点の生活情報を伝えられる

診察室で本人が「いつもと変わりません」と答えても、家族から見ると「最近物忘れが増えた」「夜中に何度もトイレに起きる」「ふらつきが目立つ」など気になる変化があるものです。これらは医師の問診だけでは引き出せない情報で、家族の同行が貴重な診断材料になります。

④ 緊急時の決定をその場で行える

検査結果によっては「次の検査をいつにするか」「入院するかどうか」など、その場で家族の同意や調整が必要になる場面があります。本人が一人で判断に困ったり、後日家族に連絡して判断を仰ぐ手間を省けます。

⑤ 介護保険・福祉サービスとの橋渡しになる

主治医から「介護保険を申請してはどうか」「訪問看護を利用しましょう」と提案された時、家族が同席していれば手続きの調整がスムーズになります。地域包括支援センターやケアマネジャーとの連携も、医師の判断を直接聞いた家族が動くことで遅れがなくなります。

通院同行のタイミング|毎回ではなく要所で同行する

すべての通院に家族が付き添う必要はありません。本人の自立を尊重しつつ、「同行すべき場面」を見極めて要所で同行するのが現実的です。以下のタイミングは家族の同行を強く検討すべき場面です。

① 初診・新しい医療機関にかかる時

初診では問診票の記入、既往歴の聞き取り、検査の段取りなど情報量が多くなります。本人が既往歴や常用薬を正確に伝えられない場合、家族の同席が診断精度を高めます。

② 診断告知の場面

がん、認知症、心不全など重い疾患の診断告知が予想される時は必ず同行しましょう。告知のショックで本人が説明を受け止めきれなかった場合、家族が補完して説明を持ち帰れます。

③ 治療方針が変わる時・薬が増える/減る時

新しい薬が処方される、手術の選択肢が提示される、入院を勧められるなど治療方針の変更時は、副作用や費用、生活への影響を含めて家族で確認します。

④ 検査結果の説明日

血液検査、画像検査、内視鏡検査などの結果説明日は、数値の解釈や次のステップが議論される重要な場面です。

⑤ 症状の急変・転倒の後

「最近フラフラする」「夜中に意識がもうろうとした」など心配な変化があった後の受診は、本人が症状を伝えきれないことが多いので家族から伝えます。

⑥ 定期検診の年に1〜2回

大きな変化がない定期通院でも、年に1〜2回は同行して主治医と顔合わせをしておくと、緊急時に相談しやすくなります。

⑦ 介護保険主治医意見書の依頼時

介護保険の申請には主治医意見書が必要です。意見書の精度を上げるため、家族から日常生活の様子を直接医師に伝える機会として同行を活用します。

受診前の準備|持ち物リストと症状メモの作り方

受診当日に「あれを忘れた」「思い出せない」となると、せっかくの診察時間が無駄になります。前日までに以下を揃え、当日の朝にもう一度チェックしましょう。

持ち物チェックリスト(必須)

  • 健康保険証・後期高齢者医療被保険者証(毎月初回は必須提示)
  • 診察券(複数医療機関の場合はすべて)
  • お薬手帳(複数科にかかっていても1冊にまとめる。市販薬・サプリメントも記載)
  • マイナンバーカードまたは資格確認書(マイナ保険証利用時)
  • 体調メモ・質問リスト(後述)
  • 現金・財布(自己負担分+念のため多めに)
  • 限度額適用認定証(高額療養費を見越して)
  • 介護保険被保険者証(要介護認定者は念のため)

持ち物チェックリスト(あると安心)

  • 眼鏡・補聴器・入れ歯(普段使うもの)
  • 杖・歩行器(移動補助具)
  • 替えの大人用紙パンツ・パッド(待ち時間が長い場合)
  • 飲み物・小さなおやつ・タオル
  • 羽織もの・ひざ掛け(院内は冷えやすい)
  • 本人と家族の連絡先メモ
  • マスク・ハンカチ・ティッシュ

症状メモの作り方(受診の3〜7日前から記録)

主治医に短時間で正確に状況を伝えるには、症状を時系列で整理したメモが有効です。

  • いつから:「3週間前から」「今月3日朝から」など日付を具体的に
  • どんな症状か:痛み・しびれ・めまい・息切れなどを部位とともに
  • 頻度・タイミング:「毎日」「週2〜3回」「夜中だけ」など
  • 強さの変化:「先週よりひどい」「日中は楽だが夜悪化」
  • 関連する出来事:転倒・風邪・新しい薬の開始など
  • 気になる体調以外の変化:食欲低下・体重減少・睡眠の質・排泄回数

質問リストの作り方(最大5つに絞る)

診察時間は限られているため、聞きたいことを優先度順に5つ以内でメモします。「家族として一番心配なのは○○です」と最初に伝えると、医師の説明の的を絞れます。

主治医に伝えるべき家族視点の情報

本人だけでは伝わりにくい「家族から見た日常生活の変化」を整理しておくと、診療の質が格段に上がります。以下のカテゴリ別にメモしておきましょう。

① 認知機能の変化

  • 同じ話を繰り返す回数が増えた
  • 家族の名前や日付を間違える
  • 慣れた道で迷う
  • 料理や金銭管理に時間がかかる
  • 表情が乏しくなった・興味を失った

② 身体機能・転倒回数

  • 過去3か月の転倒・転びそうになった回数
  • 歩行スピードの変化(信号が渡りきれないなど)
  • 立ち上がりやふらつきの程度
  • 階段昇降の様子

③ 食事・水分・体重

  • 食欲の有無、好きな物しか食べない
  • 1日の水分摂取量の目安
  • むせる・飲み込みにくい様子
  • 過去6か月の体重変化(±2kg以上は要報告)

④ 排泄

  • 排尿回数・夜間頻尿
  • 失禁の有無・頻度
  • 便秘・下痢の有無
  • 便秘薬の使用状況

⑤ 睡眠

  • 就寝・起床時間
  • 夜中の覚醒回数
  • 昼寝の長さ
  • 不眠で困っているか

⑥ 服薬遵守(アドヒアランス)

  • 処方された薬を指示通りに飲めているか
  • 飲み忘れ・自己中断の有無
  • 市販薬・サプリ・健康食品の併用
  • 飲み残しがどれくらい溜まっているか

⑦ 気分・社会的交流

  • 外出頻度・人と話す機会
  • 趣味活動の継続状況
  • イライラ・落ち込み・不安の様子

これらを箇条書きで紙にまとめて受付で渡せるようにしておくと、診察開始がスムーズです。

診察室でのマナー|本人主体・家族は補足が原則

家族が同席する診察室では、本人不在で家族と医師が話を進めてしまいがちです。これは本人の自尊心を損ない、医師にとっても誤った情報につながる恐れがあります。原則は「本人主体、家族は補足」です。

診察開始時の伝え方

診察室に入ったら、最初に医師に「本日は娘(息子)の○○です。同席させていただきます」と一言挨拶します。本人との関係性を医師に伝えると、その後の説明配分がしやすくなります。

本人を主役にする座り方

本人を医師の正面に座らせ、家族は本人の斜め後ろや横に座ります。家族が医師の正面に座って話の主導権を握らないようにします。

本人が答える時間を待つ

医師の質問にすぐ家族が答えてしまうと、本人の認知機能や意欲を医師が正しく評価できません。本人に5〜10秒答える時間を与え、必要な時だけ補足します。「父からも一言ありますか?」と医師から振ってもらえると本人も話しやすくなります。

補足する時のフレーズ

  • 「先ほどの〇〇については、家から見ると□□のように見えています」
  • 「本人は気にしていないようですが、私から見ると最近△△が増えています」
  • 「もう少し具体的に補足してもよろしいですか?」

メモ・録音の許可

医師の説明をメモに残すのは一般的に問題ありませんが、録音は必ず事前に許可を取りましょう。「説明を家族と共有したいので録音させていただけますか」と聞けば、多くの医師は了承してくれます。診察室では原則録音禁止としている医療機関もあるため、断られた場合はメモに切り替えます。

本人に聞かれたくない話の伝え方

がんの告知や予後の質問など、本人の前で聞きにくい話がある場合は、診察前に受付や看護師を通じて「別室で家族のみで話を聞かせてほしい」と申し出るか、診察終了後に医師の時間をもらいます。

医師に必ず聞く5項目|診察を無駄にしない質問フレーム

診察時間が限られる中で「聞き漏らした…」を防ぐため、以下の5項目はチェックリストとして使えます。診察終了前に「最後にこの5点だけ確認させてください」と申し出ましょう。

① 病名・状態(診断は何か)

「現時点で考えられる病名と、病気の進行段階を教えてください」「他に考えられる原因はありますか」と聞きます。検査で確定診断がついていない場合は「現時点でどこまでわかっていて、何が未確定か」を整理してもらいます。

② 治療方針と選択肢

「治療の選択肢はいくつありますか」「それぞれのメリット・デメリットは何ですか」「治療しない選択肢もありますか」と聞きます。高齢者の場合、積極治療を選ばない選択肢(経過観察・緩和的治療)も選択肢の一つとして示してもらいます。

③ 薬の名前・効能・副作用

新しい薬が処方された時は必ず「この薬は何の薬で、どんな副作用に注意すべきですか」と聞きます。特に「ふらつき」「眠気」「便秘」「食欲低下」など高齢者で問題になりやすい副作用は事前に把握しておきましょう。お薬手帳に書き留めてもらうのも有効です。

④ 受診頻度と次回予約

「次の受診はいつにすればよいですか」「症状が悪化したら早めに受診したほうがよいですか」と聞きます。安定している場合は「3か月に1回」「半年に1回」と間隔を確認しておきます。

⑤ 緊急時の連絡方法

「急変した時はこちらに電話してよいですか」「夜間や休日に症状が悪化した場合はどうすればよいですか」を聞きます。多くの医療機関は時間外の問い合わせ窓口を持っているので、連絡先を聞いてお薬手帳の表紙にメモしておくと安心です。

セカンドオピニオンを聞きたい時の伝え方

主治医に遠慮してセカンドオピニオン(別の医師の意見)を申し出にくいと感じる家族は少なくありませんが、医療法上正当な権利です。「他の医師の意見も聞いてみたいので、紹介状(診療情報提供書)をお願いできますか」と率直に伝えます。診療情報提供書の発行は健康保険適用で1通あたり250点(自己負担3割で約750円)です。主治医を変える必要はなく、別の医師の意見を聞いて元の主治医に戻ることができます。

送迎手段の選び方|5つの選択肢を比較

親が一人で病院に行けなくなった時、家族が車で送迎するだけが選択肢ではありません。状況に応じて以下の5つを使い分けます。

選択肢の早見表

選択肢料金目安介護保険乗降介助こんな時に
家族の車送迎ガソリン代×家族が実施家族が同行可能な時
公共交通機関+徒歩運賃のみ×なし本人が自立歩行可・近距離
一般タクシー通常料金×原則なし急ぎ・短距離・自立
福祉タクシー(自費)通常タクシー+車両加算×運転手による※車椅子のまま乗車したい
介護タクシー(保険適用)運賃+通院等乗降介助99単位/片道(1割なら99円程度)○※あり(初任者研修修了者)要介護1以上で乗降に介助必要
福祉有償運送(NPO等)一般タクシーの約半額×事業者により営利目的でなく安価に

※介護タクシーの介助部分は介護保険、運賃部分は自費(保険対象外)。福祉タクシーは資格要件がなく介助できない場合あり。

① 家族の車送迎

もっとも自然な選択肢ですが、家族の負担は最大です。「車の乗降を本人ができるか」「待ち時間に家族が病院内で本人を見守れるか」「自宅から病院の経路に安全に送り届けられるか」を確認します。

② 公共交通機関+徒歩

本人が自立歩行できて、駅やバス停までの距離が短ければ最も経済的です。ただし、夏場の脱水・冬場のヒートショックリスク、待合スペースのないバス停での長時間待ちなどに注意します。

③ 一般タクシー

通常のタクシーでも玄関先まで来てもらえれば家族の付き添いがいらないケースもあります。「介護タクシー」と「福祉タクシー」「一般タクシー」は別物なので、予約時に「乗降介助が必要か」「車椅子のまま乗れる車両か」を必ず確認します。

④ 介護保険の通院等乗降介助(99単位/片道)

厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」に基づき、訪問介護事業所のヘルパー(介護職員初任者研修以上)が自らの運転する車両で送迎し、乗降介助と通院前後の屋内移動・受診手続きを行うサービスです。2024年度介護報酬では片道99単位(1単位約10円なので約990円。1割負担なら約99円)。要介護1以上で、ケアプランに位置づけられた場合に利用できます。運賃部分は介護保険対象外で別途自費が発生します。

院内介助の取り扱い

厚生労働省事務連絡「訪問介護における院内介助の取扱いについて」(平成22年4月28日)では、院内介助は原則病院スタッフが行うべきですが、①適切なケアマネジメント、②院内スタッフによる対応が難しい、③利用者が介助を必要とする状態の3要件を満たせば介護保険で算定できるとされています。認知症で見守りが必要・院内移動に介助が必要・排泄介助が必要な場合などが該当します。利用可否は保険者(市区町村)によって判断が異なるため、ケアマネジャーに相談してください。

⑤ 福祉有償運送(NPO等)

道路運送法に基づき、営利を目的としないNPO法人や社会福祉法人が登録を受けて行う送迎サービスです。一般タクシーのおおむね半額程度で利用でき、要介護認定者・身体障害者・要支援者などが対象。地域差が大きいので、市区町村の高齢福祉課や社会福祉協議会で実施団体を確認します。

通院が困難になった時の選択肢|訪問診療・オンライン診療

「歩行が難しくなった」「外出のたびに転倒しそうで怖い」「タクシーに乗ること自体がストレス」となってきたら、無理に外来通院を続けるよりも在宅で医療を受ける選択肢を検討します。

訪問診療(在宅医療)への切り替え

訪問診療は、医師が定期的(月1〜2回程度)に自宅を訪問して診察するサービスです。「通院困難」と医師が判断した患者が対象で、慢性疾患の管理・薬の処方・看取りまで幅広く対応します。健康保険が適用され、自己負担額は外来通院と大きく変わりません。

切り替えのきっかけとしては「外来待合室で長時間座っていられない」「車椅子・ストレッチャー利用」「認知症が進行して院内で落ち着いていられない」「在宅酸素や経管栄養など医療機器を装着している」などがあります。現在の主治医に「訪問診療への切り替えを検討したい」と相談するか、地域包括支援センターに紹介を依頼します。

オンライン診療の活用

2022年4月の診療報酬改定でオンライン診療の恒久化が決まり、慢性疾患の安定した管理であればスマートフォン・タブレットで診察を受けられるようになりました。初診からのオンライン診療も条件付きで可能です。家族が画面操作をサポートすれば、認知機能に問題がない高齢者でも利用可能です。処方薬は薬局で受け取るか配送してもらえます。

訪問看護を組み合わせる

訪問診療と訪問看護を組み合わせると、医師の診察の合間に看護師が週1〜複数回訪問してくれます。バイタルチェック、点滴・吸引、服薬指導、家族への介護指導など医療ニーズを継続的にフォローできます。介護保険または医療保険のどちらかで利用できます(要件により異なる)。

複数科受診の管理|重複処方を避けるコツ

整形外科で痛み止め、内科で胃薬、眼科で目薬、皮膚科でかゆみ止め——複数の医療機関に通っていると、家族でも全体像を把握しきれなくなります。重複処方や飲み合わせの問題を防ぐコツは次の3点です。

  • お薬手帳は必ず1冊にまとめる。複数手帳があると医師・薬剤師が全体を把握できません
  • かかりつけ薬局を1つに決める。複数医療機関の処方を同じ薬局でチェックしてもらえます
  • かかりつけ医を1人決める。総合的に診てくれる主治医がいれば、専門科への紹介も適切に行われます

仕事と通院同行の両立|介護休暇を活用する

親の通院に毎回有給休暇を使っていると、すぐに有給が尽きてしまいます。育児・介護休業法に基づく「介護休暇」は通院付き添いに使える法定の権利で、有給休暇とは別枠で取得できます。

介護休暇とは

厚生労働省「育児・介護休業法」に基づき、要介護状態にある対象家族の介護や世話を行う労働者は、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで介護休暇を取得できます。1日単位または時間単位での取得が可能で、通院の付き添いやケアマネジャーとの打ち合わせなど、スポット的な介護ニーズに対応するための制度です。

対象家族の範囲

配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫が対象です。同居・扶養している必要はなく、別居している実親の通院付き添いにも使えます。

「要介護状態」の定義

育児・介護休業法上の「要介護状態」とは、負傷・疾病・身体上または精神上の障害により2週間以上の常時介護を必要とする状態を指します。介護保険の要介護認定を受けていなくても該当する場合があるため、職場の人事担当者に相談しましょう。

申請方法

口頭での申請も可能ですが、書面(介護休暇申出書)で申請するのが一般的です。当日の電話連絡でも認められる場合があります。事業主は、対象労働者からの申出を拒むことができません(労使協定により、入社6か月未満などの例外あり)。

介護休業との違い

「介護休暇」(年5日のスポット休暇)に対し、「介護休業」は通算93日まで分割3回まで取得可能な長期休業です。手術後の在宅復帰期や認知症進行で本格的な介護体制を組む期間に活用します。介護休業中は雇用保険から「介護休業給付金」(休業前賃金の67%)が支給されます。

制度を使うための職場準備

「上司に切り出しにくい」「制度を使うと評価が下がりそう」と感じる人は多いですが、改正育児・介護休業法(2025年4月施行)により、企業には40歳到達時等の節目で介護関連制度の情報提供を行うことが義務化されています。人事部門や産業医に相談すると、職場と本人の橋渡しをしてもらえる場合があります。

本人の医療同意が難しくなった時|家族の代諾とACP

認知症の進行や急変で、本人が医療行為の説明を理解できなくなった時、誰がどう判断すればよいのか——。これは家族にとって最も悩ましい場面の一つです。日本の医療現場では「家族の代諾」が現実的に行われていますが、法的整理を理解しておくと無用な対立を避けられます。

医療同意の原則は「本人の意思」

医療行為に対する同意は、原則として本人がインフォームド・コンセント(説明と同意)に基づいて行うものです。本人に判断能力(意思決定能力)がある限り、家族が代わって同意することはできません。家族の意見と本人の意思が異なる場合、医師は原則として本人の意思を尊重します。

本人に判断能力がない場合の家族の役割

本人に判断能力がない場合でも、日本の現行法では家族の代諾権が明文化されていません。実務上は「本人の推定意思(本人がもし判断できたら何を望んだか)」を家族が医師に伝え、医療チームと家族で合意形成する「共同意思決定」が行われています。厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」もこの考え方を示しています。

成年後見制度では医療同意できない

誤解されやすい点ですが、成年後見人には医療同意権はありません。後見人は財産管理や介護契約は代行できますが、手術や延命治療への同意は家族や医療チームと協議して決めることになります。

ACP(人生会議)で備える

本人の判断能力が保たれているうちに「もしもの時にどうしてほしいか」を家族と話し合い、文書化しておくのがACP(アドバンス・ケア・プランニング、愛称「人生会議」)です。延命治療の希望、最期を迎えたい場所、宗教的配慮、知っておいてほしい価値観などを話し合います。完璧な書類を作る必要はなく、家族で考えを共有しておくこと自体が大切です。

事前指示書・リビングウィルの活用

「心肺停止時の蘇生処置を希望しない」「胃ろう・人工呼吸器を希望しない」などの希望を書面に残すのが事前指示書(リビングウィル)です。法的拘束力はありませんが、医療現場で本人の意思を推定する重要な根拠になります。日本尊厳死協会などが書式を提供しています。

「DNAR」と救急要請の判断

「心肺停止になっても蘇生処置を行わない」という意思表示をDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)と呼びます。在宅で看取りを希望していても、救急車を呼ぶと原則として救命処置が行われます。在宅医療や訪問看護を導入し、緊急時の連絡先と方針を事前に決めておくことが大切です。

よくある質問

Q. 親の通院に毎回付き添うべきですか?

毎回である必要はありません。初診・診断告知・薬の変更・検査結果説明・症状急変後・年1〜2回の定期検診など、要所を見極めて同行するのが現実的です。同行しない時は、本人にお薬手帳と症状メモを持たせ、診察後に必ず内容を共有してもらいましょう。

Q. 親が「ついてこなくていい」と言う場合はどうすればよいですか?

本人の自尊心を尊重しつつ、「先生に直接ご挨拶しておきたい」「家から見た様子を伝えたい」と理由を添えて同行を申し出ます。本人が強く拒否する場合は、診察後に医師に電話で状況を聞かせてもらうか、次回主治医意見書の依頼時に同行するなど、段階的に同席する機会を作ります。

Q. 通院介助は介護保険で全額カバーされますか?

いいえ、運賃部分(タクシー料金)は介護保険対象外です。通院等乗降介助(片道99単位、約990円のうち1割負担なら約99円)は乗降介助と通院前後の屋内移動・受診手続きにかかる部分のみが対象で、運賃は別途自費負担となります。院内介助についても原則は病院スタッフ対応で、要件を満たした場合のみ算定可能です。

Q. 兄弟姉妹で通院同行を分担する時の注意点は?

「お薬手帳」「症状メモ」「医師の説明メモ」を共通のクラウドメモ(LINEノート・Googleドライブ等)で共有することが必須です。同じ質問を医師に繰り返したり、情報の食い違いで治療方針が混乱するのを防げます。月1回の家族会議で受診状況を擦り合わせるのも有効です。

Q. オンライン診療は高齢の親でも使えますか?

家族がスマートフォン・タブレットの操作をサポートできれば利用可能です。慢性疾患の安定した管理(高血圧・糖尿病・脂質異常症など)に向いています。ただし、急性症状や新規症状の評価には対面診療のほうが安全です。初回はかかりつけ医に「オンライン診療に切り替えられるか」を相談してください。

Q. 介護タクシーと福祉タクシーの違いがわかりません

介護タクシーは介護職員初任者研修以上の資格を持つ運転手が乗降介助を行う事業形態で、介護保険適用の通院等乗降介助として算定できる場合があります。福祉タクシーは車椅子のまま乗れる車両(リフト・スロープ付き)を持つタクシーの総称で、運転手の資格要件はなく介助は原則行いません。要介護者で乗降介助が必要なら介護タクシー、車椅子のまま乗れれば良いなら福祉タクシーが適しています。

Q. 親が「他の医師にも診てほしい」と言ったらどうすればよいですか?

セカンドオピニオンは患者の正当な権利です。主治医に「他の医師の意見も聞いてみたいので、紹介状をお願いできますか」と率直に伝えれば、診療情報提供書を発行してもらえます(健康保険適用、自己負担3割で約750円)。主治医を変える必要はなく、別の医師の意見を聞いて元の主治医に戻れます。

Q. 通院に毎回有給休暇を使うのが大変です

育児・介護休業法の介護休暇を活用してください。年5日(対象家族2人以上は年10日)まで、1日または時間単位で取得可能です。有給休暇とは別枠で、当日電話連絡でも認められる場合があります。「要介護状態」(2週間以上の常時介護を必要とする状態)であれば介護保険の認定がなくても対象になり得ます。

参考文献・出典

まとめ|「全部抱える」のではなく「要所で支える」通院同行へ

親の通院同行は、家族にとって時間・体力・精神面で負担の大きい役割です。すべてを一人で抱え込むのではなく、本記事で紹介した制度・サービスを組み合わせて持続可能な形に整えることが何より大切です。

今日から始められる3ステップ

  1. お薬手帳を1冊にまとめる:複数医療機関の処方をひとめで把握できる状態にする
  2. 家族で受診情報の共有方法を決める:クラウドメモ・LINEノート等で症状メモと医師の説明を残す
  3. 仕事と両立する制度を確認:勤務先の人事担当に介護休暇・介護休業の取得方法を聞いておく

困った時の相談先

  • 地域包括支援センター:通院困難・送迎手段・訪問診療の相談
  • ケアマネジャー:通院等乗降介助の利用調整、院内介助の必要性検討
  • かかりつけ医・かかりつけ薬局:服薬管理・複数科受診の調整
  • 市区町村の高齢福祉課:福祉有償運送実施団体の情報
  • 勤務先の人事部門:介護休暇・介護休業の取得手続き

通院同行は単に「病院に連れて行く」作業ではなく、医師・家族・本人をつなぐ重要な役割です。要所で同行し、要所で公的サービスに頼る——このバランスを取りながら、無理なく続けられる支え方を見つけていきましょう。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

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