視覚障害のある高齢者の介護|見え方の理解・声かけ・手引き・環境整備の実践ガイド
介護職向け

視覚障害のある高齢者の介護|見え方の理解・声かけ・手引き・環境整備の実践ガイド

視覚障害のある高齢者の介護を介護職向けに解説。緑内障・加齢黄斑変性・白内障・糖尿病網膜症で異なる見え方の理解、声かけ・手引き歩行・クロックポジション・環境整備・転倒予防の具体的手順を、公的データと現場目線でまとめました。

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この記事のポイント

視覚障害のある高齢者の介護では、「見え方は人それぞれ違う」という理解が出発点です。原因となる緑内障・加齢黄斑変性・白内障・糖尿病網膜症によって、視野が欠ける・中心が見えない・全体がかすむなど見えにくさのタイプが異なります。介護職の役割は治療ではなく、残った見え方を活かす環境づくりと安全な生活支援です。具体的には、①名乗ってから正面・斜め前で声をかける、②ひじを持ってもらう手引き歩行、③食事は時計の文字盤に見立てるクロックポジション、④物の定位置化と段差・コードの除去による転倒予防、の4点が基本になります。

目次

「最近、配膳しても料理に手をつけてくれない」「廊下でつまずくことが増えた」——こうした変化の背景に、加齢に伴う視覚障害が隠れていることは珍しくありません。日本では視覚障害の有病者は2007年時点で約164万人と推計され、高齢化に伴い2030年には約200万人に達すると予測されています(厚生労働科学研究)。介護現場で出会う高齢者の多くが、程度の差こそあれ「見えにくさ」を抱えているということです。

しかし、視覚障害といっても全く見えない「盲(もう)」だけではありません。手帳を持つ視覚障害者のうち、見えにくさを抱える「弱視(ロービジョン)」が約6割を占めるとされ、見え方は一人ひとり大きく異なります。だからこそ、原因疾患ごとの見え方の特徴を理解し、その人に合った声かけ・誘導・環境整備を行うことが、介護職に求められる専門性です。

この記事では、介護職が現場で実践できる視覚障害高齢者へのケアを、見え方の理解から手引き歩行、クロックポジション、転倒予防まで、公的資料と現場目線で体系的に解説します。診断・治療は眼科医の領域ですが、「見えにくくても安心して暮らせる生活」をつくるのは、日々そばにいる介護職の関わり方にかかっています。

高齢者の視覚障害とは|「盲」と「弱視」、見え方は人それぞれ

視覚障害とは、視力や視野などの視機能が十分でないために、眼が見えない、あるいは見えにくい状態を指します。大きく分けると、視力をほとんど活用できない「盲(もう)」と、視力を活用できる「弱視(ロービジョン)」の2つがあります。WHO(世界保健機関)の定義では、両眼の矯正視力が0〜0.05未満を「盲」、0.05〜0.3未満を「弱視」としています。

介護の現場で特に重要なのは、視覚障害=全盲ではないという事実です。厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」をもとにした国土交通省の報告書によると、視覚障害で身体障害者手帳を持つ約31万2,000人のうち、弱視とされる2〜6級が約19万3,000人で、少なくとも約6割が弱視者にあたります。「少しは見えている」高齢者の方が多数派なのです。

「見えにくさ」には複数のタイプがある

弱視の見え方は千差万別で、同じ人でも天候・時間帯・部屋の明るさ・本人の疲労によって見えやすさが変わります。代表的な見えにくさのタイプには、次のようなものがあります。

  • 視野が狭い(視野狭窄):見える範囲が筒をのぞくように狭くなる。足元や横から来るものに気づきにくい。
  • 視野の一部が欠ける:見ようとする部分が見えなかったり、視野の中にぼやけた部分があったりする。
  • 中心が見えない(中心暗点):見ようとした真ん中が見えず、周辺は見える。文字や顔の認識が難しい。
  • 全体がかすむ・ぼやける:霧の中にいるように全体がはっきりしない。
  • まぶしさに弱い(羞明・グレア):光をまぶしく感じ、明るい場所や逆光で極端に見えにくくなる。
  • 暗いところが苦手(夜盲):暗い場所や夕方に急に見えにくくなる。

このタイプの違いは、後述する原因疾患によってある程度決まります。たとえば「視野が狭い」のは緑内障、「中心が見えない」のは加齢黄斑変性、「まぶしくてかすむ」のは白内障に多い見え方です。介護職が見え方のタイプを理解しておくと、「なぜこの人は正面のものに気づかないのか」「なぜ明るい食堂で表情が硬いのか」が読み解けるようになります。

加齢に伴う4大眼疾患と「見え方」「介護での注意点」

高齢者の視覚障害の原因は、加齢とともに進む慢性的な眼の病気が中心です。日本における視覚障害の原因疾患は、第1位が緑内障、第2位が網膜色素変性、第3位が糖尿病網膜症(2019年度全国調査・岡山大学)で、緑内障・糖尿病網膜症・変性近視・加齢黄斑変性・白内障の上位5疾患で全体の約75%を占めるとされています(厚生労働科学研究)。ここでは介護現場で出会うことの多い4つの疾患について、見え方の特徴と介護での注意点を整理します。

① 緑内障(りょくないしょう)|視野が欠ける・狭くなる

視覚障害原因の第1位で、ロービジョン・失明全体の4分の1以上を占めます。日本緑内障学会の多治見スタディでは、40歳以上の約5%(20人に1人)が緑内障と推定され、そのうち約9割が未治療だったと報告されています。眼圧などにより視神経が障害され、視野が欠けたり狭くなったりするのが特徴です。初期は自覚症状が乏しく、末期まで中心の視力は保たれることが多いため、本人も「見えている」つもりでいることがあります。

介護での注意点:欠けた視野の側にある物や人に気づきにくいため、横から急に近づくと驚かせてしまいます。正面または見えている側から声をかけ、足元・横の障害物に特に配慮します。

② 加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)|中心が見えない

網膜の中心部「黄斑」が変性し、見ようとした真ん中が暗くなったり歪んだりする病気です。先進国の高齢者では失明の主要原因の一つで、近年は日本でも生活習慣の変化により増加しています。周辺視野は残るため歩行はできても、顔の判別や文字を読むことが難しくなるのが特徴です。

介護での注意点:「正面の人が誰か分からない」状態になりやすいため、必ず名乗ってから話しかけます。配膳や書類は、本人が見やすい角度(少し横にずらす、近づける)を一緒に探します。

③ 白内障(はくないしょう)|全体がかすむ・まぶしい

水晶体が濁ることで全体がかすみ、強いまぶしさ(羞明)やコントラスト低下を生じます。特に逆光条件では視力が著しく低下します。手術で改善する代表的な疾患で、日本では年間約80万件の白内障手術が行われていますが、手術前や他疾患を併発しているケースでは見えにくさが続きます。

介護での注意点:窓を背にした逆光の位置で話さない、まぶしすぎない照明にする、白い皿に白いご飯のような低コントラストの配膳を避ける、といった工夫が有効です。

④ 糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)|視力低下・急な変化

糖尿病の合併症で網膜の血管が傷み、視力低下やコントラスト感度の低下が起こります。進行すると硝子体出血や網膜剥離で急激に見えなくなることもあります。糖尿病のある高齢者は介護現場でも多く、血糖管理と眼科受診の継続が欠かせません。

介護での注意点:「昨日まで見えていたのに今日は見えにくそう」といった急な変化は見過ごさず、看護師・家族へ申し送りし、眼科受診につなげます。低血糖時のふらつきと見えにくさが重なると転倒リスクが高まる点にも注意します。

声かけ・コミュニケーションの基本|「誰が・どこで・何を」を言葉に

視覚障害のある高齢者は、音声から多くの情報を得ています。逆に言えば、介護職が無言で動くと「いつの間にかいなくなった」「物が消えた」と不安にさせてしまいます。声かけの基本は、見える人なら目で分かる情報を、ていねいに言葉に置き換えることです。

① 近づく前に、斜め前から名乗って声をかける

いきなり手をとって誘導したり、背後から触れたりすると、不安や恐怖を与えます。まずは相手の正面または斜め前から、「○○さん、介護職の△△です」と名前を呼んでから自分の名前・立場を名乗ります。顔が見えない相手にとって、声だけで誰かを判断するのは難しいため、毎回名乗る習慣が安心につながります。緊急時以外に無言で体や白杖をつかむのは避けましょう。

② 指示語を使わず、具体的に伝える

「あちら」「それ」「こっち」といった指示語では何を指しているのか伝わりません。「右」「左」「前」「後ろ」「10歩くらい先」「20センチ左」のように、方向と距離を具体的に伝えます。ただし左右は向きによって逆になるため、「相手から見て」を基準にし、「駅(窓)を背にして右」のように基準点を添えると正確です。なお、視覚障害高齢者に関わる介護職への調査では、「指示代名詞を使わない」配慮を実践できている人は26%にとどまるとの報告があり、意識的に身につけたいポイントです。

③ 「概略から詳細へ」の順で説明する

初めての場所や状況では、まず全体像を伝え、必要に応じて細部を補います。「ここは食堂です。8人がけのテーブルが4つあります」とおおまかに伝えてから、「あなたの席は入口から3番目の窓側です」と絞り込むイメージです。細かすぎる説明は何が重要な情報か分からなくなるため、本人の反応を見ながら調整します。

④ 場所を離れるとき・物を動かすときは必ず一声

そばにいると思って話しかけていたら返事がなかった、という事態を防ぐため、席を外すときは「少し離れます」、戻ったら「戻りました」と伝えます。また、物を黙って動かすと元の位置が分からなくなり、「無いと思って歩いたらぶつかった」という事故にもつながります。物を移動するときは必ず声をかけ、本人に触って確認してもらいます。

⑤ 手を添えて触ってもらう(同意を得てから)

言葉だけで伝わりにくいときは、椅子の背もたれ・テーブルの縁・スイッチの位置などに手を添えて触ってもらうと確実です。触覚を活用するときも、驚かせないよう声をかけてから、本人の同意を得て行います。世話のやきすぎはかえって自尊心を傷つけるため、本人ができることは見守り、必要なことだけ手を貸す姿勢が大切です。

手引き(誘導)歩行の手順|安全に移動を支える基本

視覚障害のある方を安全に誘導することを「手引き(ガイド)」といいます。手をつないで引っ張るのではなく、本人が介護職のひじを持ち、半歩後ろをついてくるのが基本姿勢です。手引きの主体はあくまで本人であることを忘れず、行き先・ルート・歩く速さは本人に確認します。

基本姿勢のつくり方

  1. アプローチ:「○○へ手引きします」と伝え、介護職の手の甲を相手の手の甲に軽く当てて合図します。これで相手は腕の位置が分かります。
  2. つかんでもらう:相手に介護職のひじのやや上を軽く握ってもらいます。相手の腕はひじが直角になるよう曲げます。背の高さが大きく違う場合は、肩に手を置いてもらう方が楽なこともあります。
  3. 歩き出す:「進みます」と声をかけ、介護職は相手の半歩前を歩きます。常に「2人分の幅」と相手の背丈を意識し、障害物にぶつからないルートを選びます。
  4. 速さは相手に合わせる:つかまれた腕から相手は速さを感じ取れます。ゆっくり、一定のリズムで歩きます。

場面別のポイント

  • 段差・階段:手前で必ずいったん止まり、「上り(下り)階段です」と伝えます。介護職が一段先に進み、相手のリズムに合わせて昇降します。終わったら止まって「階段が終わりました」と伝えます。「あと3段で終わります」のように残りを伝えると安心です。斜めに上り下りすると踏み外しの危険があるため、階段に対して直角に近づきます。
  • 狭い場所:「ここから狭くなります」と伝え、つかまれている腕を背中側に回します。相手は介護職の真後ろに入り、縦一列で通過します。通り過ぎたら声をかけて基本姿勢に戻ります。
  • 椅子への着席:椅子があることと種類(一人がけ・長椅子など)を伝え、座面と背もたれに手で触れてもらってから座ってもらいます。テーブルがある場合は、テーブルとの位置関係も触って確認します。
  • ドア:引き戸か開き戸か、取っ手の位置と開く方向を具体的に伝えます。

なお、白杖は視覚障害のある方にとって体の一部です。白杖や腕、衣服を引っ張ったり後ろから押したりしてはいけません。施設外への通院同行などで本格的な移動支援が必要な場合は、視覚障害者の外出を支援する「同行援護」という障害福祉サービスや歩行訓練士の専門領域になります。介護職が日常的に行う施設内の手引きと、専門的な移動支援は線引きを意識しておきましょう。

食事の支援とクロックポジション|「見えなくても自分で食べられる」を支える

視覚障害があっても、配置を言葉で伝えれば自分で食事を楽しめる方は多くいます。「介助される食事」ではなく「自分で食べられる食事」を支えることが、自尊心と食欲の維持につながります。その代表的な方法がクロックポジションです。

クロックポジションとは

テーブルやお皿を時計の文字盤に見立て、食器や料理の位置を時刻で伝える方法です。本人から見て手前が6時、正面奥が12時、右が3時、左が9時になります。向き合って説明すると左右が逆になり間違いやすいので注意します。

たとえば配膳時には、「12時に焼き魚、5時にお味噌汁、8時にご飯、3時に小鉢があります」のように伝えます。お皿の中の盛り付けも、「このお皿の9時に煮物、3時に付け合わせ」と時計に見立てて説明できます。和食のように器が分かれている場合は、端の器から直接手で触れてもらいながら説明すると確実です。

食事支援のポイント

  • 熱いもの・汁物は必ず伝える:やけど防止のため、「5時のお椀は熱い味噌汁です」と位置と温度を伝え、触って確認してもらいます。
  • 配膳を変えるときは一声:下げる・足す・位置を変える際は必ず伝えます。黙って動かすと「お椀が消えた」と混乱します。
  • コントラストを意識する:白い皿に白いご飯、透明な水など、色の差が少ない組み合わせは見えにくくなります。色の濃い器や、ふちに色のついた食器を使うと、弱視の方は食器の位置を認識しやすくなります。
  • 説明しすぎず、さりげなく見守る:食事中ずっと実況中継のように説明すると落ち着いて食べられません。最初に配置を伝えたら、あとはさりげなく見守ります。

食事は誤嚥のリスクも伴う場面です。見えにくさで食べる速さやペースが乱れていないか、姿勢が崩れていないかも合わせて観察します。

見え方のタイプ別・声かけと配置の使い分け

同じ「見えにくい」でも、視野が狭い人と中心が見えない人とでは、効果的な関わり方が異なります。原因疾患から推測される見え方のタイプに応じて、声かけや物の配置を変えると、本人の「見える力」を最大限に活かせます。下の表は、見え方のタイプ別に現場で意識したいポイントを整理したものです。

見え方のタイプ(主な疾患)気づきにくいこと介護での工夫
視野が狭い・欠ける
(緑内障)
欠けた視野側の人・物、足元、横からの接近見えている側/正面から声かけ。通路の障害物を徹底除去。料理や物は視野の中心に寄せて置く
中心が見えない
(加齢黄斑変性)
正面の顔・文字、見ようとした対象そのもの必ず名乗る。文字は大きく・高コントラストに。本人が見やすい角度(少し横)を一緒に探す
全体がかすむ・まぶしい
(白内障)
低コントラストの物、逆光時の対象、まぶしい場所での全て逆光位置で話さない。まぶしすぎない照明。色の濃淡で区別。遮光眼鏡の活用
視力低下・急な変化
(糖尿病網膜症)
細かい文字、急に見えにくくなった日の段差見え方の変化を申し送り・受診へ。低血糖時のふらつきと重なる転倒に注意
暗いところが苦手
(夜盲・網膜色素変性 など)
夕方・夜間・暗い廊下、明暗の変化夜間の足元灯。明るい場所から暗い場所への移動はゆっくり、暗順応を待つ

もちろん、実際の見え方は本人にしか分かりません。「どこにあると見やすいですか」「どの位置から話すと分かりやすいですか」と本人に確認しながら調整するのが大原則です。表はあくまで観察と仮説の手がかりとして使ってください。

環境整備と転倒予防|「変えない・片づける・分かる印」の3原則

視覚障害のある高齢者にとって、住み慣れた環境は「記憶した地図」です。物の位置を覚えて移動しているため、環境がわずかに変わるだけで転倒や衝突につながります。視覚障害は転倒の大きなリスク要因であり、環境整備は介護職ができる最も効果的な事故予防策です。次の3原則を軸に整えます。

原則1:物の置き場所を「変えない」

  • 家具・日用品・福祉用具の定位置を決め、使ったら必ず元に戻す。チーム全員で共有する。
  • 収納や家具の位置を変えたときは、必ず本人に伝え、触って新しい位置を確認してもらう。
  • 居室のドアやトイレのドアは「全開」か「全閉」に。半開きが最も危険(顔や肩をぶつける)。

原則2:通路の障害物を「片づける」

  • 床の上の新聞・雑誌・荷物・コード類を撤去する。配線は壁沿いにまとめる。
  • 段差を解消し、難しい場合は手すりを設置する。
  • 濡れた床はすぐ拭く。マットのめくれ・ずれを直す。
  • 観音開きの戸棚、扇形に開く器具など、出っ張る物の使用を控える。

原則3:残った視力で「分かる印」をつける

  • コントラストを高める:段差の縁、手すり、スイッチ、トイレの便座など、危険箇所や重要箇所に周囲と色の差がはっきりつくテープや色を使う。白い壁に白い手すりは見えない。
  • 照明を整える:明るさのムラ(影)を障害物と誤認することがあるため、廊下は均一に明るくする。まぶしさに弱い方には直接光が目に入らない配置にする。夜間は足元灯を活用する。
  • 触って分かる印:よく使う物には凸型テープや輪ゴムで印をつける。衣類の前後にリボンや糸印をつけると着替えやすい。

転倒予防で特に意識したい場面

移動の中でも、明るい場所から暗い場所への移動(暗順応が追いつかない)、夕方〜夜間、トイレへの動線、初めての場所は特に転倒リスクが高まります。これらの場面では声かけと見守りを手厚くし、必要に応じて手引きします。「いつもできているから」と油断せず、体調や見え方が悪い日には介助レベルを一段上げる判断も大切です。

現場で見落とされがちな視点|「気づき」と「多職種連携」が専門性を分ける

視覚障害のある高齢者のケアで、介護職にしかできない最も重要な役割は、実は手引きやクロックポジションといった「技術」よりも、日々の変化に気づき、適切な専門職につなぐことかもしれません。ここでは、現場で見落とされがちな2つの視点を補足します。

「見えにくさ」は隠れていることが多い

緑内障や加齢黄斑変性は、初期には自覚症状が乏しく、本人も家族も気づかないまま進行することがあります。多治見スタディで緑内障患者の約9割が未治療だったように、「診断されていない見えにくさ」を抱えた高齢者は相当数いると考えられます。介護現場では、「配膳に手をつけない」「人にぶつかる」「テレビに極端に近づく」「段差でつまずく」といった生活の中の小さなサインが、見えにくさを発見する最初のきっかけになります。こうした気づきを記録・申し送りし、眼科受診や家族への共有につなげることは、介護職だからこそできる貢献です。

ロービジョンケアは「眼科だけ」では完結しない

国立障害者リハビリテーションセンターのロービジョンケアマニュアルでも指摘されているとおり、視覚障害のある方の生活支援は眼科医だけでは完結しません。眼科医・看護師・視能訓練士・歩行訓練士・作業療法士・福祉施設職員・自治体の福祉窓口など、多職種の連携が必要です。介護職は、本人の生活に最も密着している立場として、「食事のときにこんな工夫をすると食べやすそうだった」「夕方になると不安が強くなる」といった生活場面の情報をチームに提供する重要なハブになります。

当サイトの視点:技術より先に「人として接する」

視覚障害のある方は「目が見えない可哀想な人」ではなく、見えにくさという一つの特性を持って暮らしている生活者です。世話のやきすぎは自尊心を傷つけます。技術を正しく使うことと同じくらい、本人の意向を確認し、できることは見守り、必要なことだけ手を貸すという姿勢が、信頼関係と生活の質を左右します。声かけ・手引き・配置の技術は、その姿勢を形にする手段だと捉えると、現場での関わり方がぶれにくくなります。

よくある質問(FAQ)

Q. 視覚障害のある利用者に、まずどう声をかければよいですか?

正面または斜め前から、「○○さん、介護職の△△です」と名前を呼んでから自分の名前・立場を名乗ります。背後からいきなり触れたり手を引いたりするのは避けます。顔が見えない相手にとって毎回名乗ることが安心につながります。

Q. 手引きのとき、相手の手を引っ張ってもいいですか?

引っ張ってはいけません。基本は本人に介護職のひじのやや上を握ってもらい、半歩前を歩く形です。白杖や腕、衣服を引っ張ったり後ろから押したりするのも避けます。行き先・速さは本人に確認します。

Q. クロックポジションは全盲の人にしか使えませんか?

いいえ。見えにくさのある弱視の方にも有効です。位置を時刻で具体的に伝えることで、残った視力と合わせて食器の位置を把握しやすくなります。色の濃い器を使うなど、コントラストの工夫と組み合わせると効果的です。

Q. 「最近見えにくそう」と感じたら、介護職はどうすべきですか?

見え方の変化は記録し、看護師・サービス提供責任者・家族へ申し送りして、眼科受診につなげます。診断や治療は眼科医の領域ですが、生活の中の変化に気づいて報告するのは介護職の重要な役割です。特に急な変化(糖尿病網膜症の出血など)は早めの対応が大切です。

Q. まぶしがる利用者には部屋を暗くすればよいですか?

一概に暗くするのは逆効果のこともあります。白内障などでまぶしさに弱い方は、直接光が目に入らないよう照明の位置を工夫したり遮光眼鏡を使ったりします。一方で全体が暗いと別の見えにくさや転倒リスクが増えます。明るさのムラを減らし、本人にとって見やすい明るさを一緒に探すのが基本です。

Q. 視覚障害のケアに役立つ資格はありますか?

外出を支援する「同行援護従業者」の研修や、認知症介護基礎研修などが関連します。視覚障害に特化した専門領域は歩行訓練士・視能訓練士が担いますが、介護職としては介護福祉士などの基礎資格に加え、見え方の理解と声かけ・手引きの基本を身につけることが、まず現場で活きる専門性になります。

参考文献・出典

まとめ|「見え方を理解する」ことから、安心の生活支援が始まる

視覚障害のある高齢者の介護は、特別な技術の前に「見え方は一人ひとり違う」という理解から始まります。緑内障なら視野の欠け、加齢黄斑変性なら中心の見えにくさ、白内障ならまぶしさとかすみ、糖尿病網膜症なら視力低下と急な変化——原因疾患ごとに見えにくさのタイプは異なり、それに応じて声かけや配置を変えることが、本人の「見える力」を活かすことにつながります。

そのうえで、介護職が日々実践したい基本は次の4点です。

  • 声かけ:名乗ってから正面・斜め前で。指示語を避け、方向と距離を具体的に。物を動かす・離れるときは必ず一声。
  • 手引き歩行:ひじを持ってもらい半歩前を歩く。段差・狭所・着席は手順どおり、本人のペースで。
  • 食事:クロックポジションで配置を伝え、「自分で食べられる」を支える。熱い物は位置と温度を伝える。
  • 環境整備・転倒予防:物を「変えない・片づける・分かる印」。視覚障害は転倒の大きなリスク要因であることを忘れない。

そして何より、診断されていない見えにくさのサインに気づき、看護師や家族、眼科・専門職へつなぐことは、生活に最も密着した介護職だからこそできる役割です。技術を正しく使いながらも、本人の意向を尊重し「できることは見守る」姿勢を大切にすれば、視覚障害があっても安心して暮らせる生活を支えることができます。こうした疾患・障害への理解は、介護職としての専門性とキャリアを確実に広げてくれるはずです。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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